【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー6(完)

【四つの王国と魔王の話】第一章〝北の国〟ー6(完)


「奥で感じるのはダメなのか?」
 思わず問えば、「いいえ」と首を振って返された。
「ただ破瓜のときにここまで感じるとはずいぶんと淫乱だなと」
 巨大な魔羅に奥まで一気に貫かれて、痛みよりも快感を味わい、戒められてなお狭い道から精液を滲ませる者は、それこそ淫魔と呼ばれるものに近いという。
 淫魔は想像上の魔物ではあるが、魔族に憑かれた人をそう呼ぶことがあるのは嶺炎も聞いたことがあった。
「奥というとこの辺りのことか?」
 己のモノの長さを考えながら指先で辿る。
 確かに前からここで感じる者が〝北の国〟でもいたことを思い出す。痛みを訴える者とその先にある快感を知って欲する者と分かれてはいたが。
「そうですね、ここに奥の洞があります」
 シュリオの硬直により強くなった締め付けと内壁の運動はきつすぎる刺激を嶺炎に与えている。だがそれでも好奇心がくすぐられ、情けない暴発をしないようにとユーリアとの会話に意識を向けた。
「男は通常体内に入ってすぐのところに感じるところがあり、そこで快感を得ている者も多いのですが、奥の洞は普通の魔羅でかろうじて届く場所。それまでまっすぐだった道が曲がりくねっているせいで狭まったように感じます、ただそこまで入ると受け入れる側がつらいことも多く忌避する者もいるのですが。しかし奥のほうがより善いという者もおり、これはその質だったようです」
「慣れた男娼などはそこを刺激されないとイケないと、巨根を好む者がいると聞いたことがあります。しかし余裕でそこに届くなど嶺炎殿下であれば、きっとさらに奥まで到達しているのではないでしょうか」
 シュリオの腹を観察するカストが興味深げに呟いた。
「おやカスト殿は娼館の情報にも詳しいようですが、〝東の国〟では男娼もいる娼館は多いのでしょうか?」
「〝東の国〟では娼館は届け出制で娼妓は正式な契約の元に雇用されており、全て国の機関への登録が義務づけられております。彼女らはその身体を商売道具にしているという形であり、店にとっての財産という考え方によるものです。故におおよその把握はできているのですが……。娼妓で男は3割ほどだったかと」
 西では東ではと二人が会話をする中で、嶺炎はなるほどとばかりに奥を突いてみた。とたんにシュリオの身体がまた震え、小刻みな痙攣が全身に広がった。
 喉から引き絞るような悲鳴とも嬌声もつかぬ声が漏れ聞こえる。薄い空色の瞳は焦点があっていない。先ほどまで蒼白だった全身は血色を良くして肌はしっとりと汗ばんできていた。
 きついほどの肉の締め付けに自身の魔羅が馴染んでくると今度はじっとしているのがなかなからつらくなる。
「ところで、もう動きたいのだが……」
「もちろん自由に動いてくださいませ。この淫乱の身体は、どうやら気を遣う必要はないようですから」
「もとより我らの使命はシュリオ殿を淫乱化すること、要は性的に開発することと解釈致します。たとえば娼館では老獪な元娼妓による躾と称した教育がなされますが、それと同じで夕月王の言われる快楽漬けとはそういう意味かと。ならば嶺炎殿下の魔羅で奥の奥まで開発してください」
 二人の言葉の最後まで待ってはいられなかった。
 獣のように喉の奥で唸ったのが返事の代わりだ。
 吸い付く肉壁に誘い込まれるように、一度食い込むほどに奥へと押し込んで、それからゆっくりとずるずると魔羅を引き出す。見下ろせばいつもより色づいた魔羅茎が、ぬらぬらとした粘液にまみれていた。浮き上がった血管がいつもより陰影を濃くしているし、何より大きいような気もする。
 むあっと立ち上る淫臭に、このまますぐに押し込みたい欲求が激しくなる。だが自分の欲望を抑えて、嶺炎は抜け落ちる寸前まで腰を引いた。
 今や鬼頭部だけが入った状態で身体を止めて、大きく息を吸って吐く。眼下では先ほど味わった魔羅への刺激を味わいたいとばかりに、己の魔羅がぴくぴくと震えているのが見えた。
 これがまた味あう締め付けを想像するだけで、肩を竦めたくなるほどの震えが全身を襲った。寒気ではなく快感を期待してだ。
 堪らずに身体を揺らせば、寝具の上でシュリオの身体も揺れた。
 限界まで広がりきったシュリオの後孔は、ウマナミと言われた嶺炎の巨根を受け入れても傷一つ付いていない。ならばと、嶺炎は再度大きく息を吸って。
「ひぎぃぃぃっ! ぎぁぁぁっ!」
 息を吐ききるのが早かったか、それとも肌と肌が打ち合う音が早かったか。
 シュリオの身体の上にのし掛かり、立てられた膝に手を当てて股間を押し広げながら、片手で腰を掴んで引き寄せる。
 ひとたび動き出せばもう止まらなかった。
 まるで初めて女を知った夜のように、ひっきりなしの快感が嶺炎の身体の中を駆け巡る。燃え上がった欲は理性をも蕩けさせ、肉欲の獣となって身体を突き動かした。
 掌に伝わる痙攣を気にする余裕もない。
 耳に届く嬌声とも悲鳴とも付かぬ声すらも心地よいとすら思えた。
「ひぃぃ、あっ、あっ、あっ――っ!」
 突き上げるたびに掴んだ身体が跳ねる。間にあるシュリオの魔羅の枷がごりごりと腹を擦ったがそんなことは気にならなかった。
 ハッハッと短い呼吸に合わせて抜き差しを行う嶺炎の限界はすぐに訪れた。さっさとシュリオの中に蓄えきった子種を吐き出したかった。
 だができればと、そんなときでも欲が出る。
 組み伏せるというのであれば、男の身体に思いっきりのしかかり、背後から押さえつけて屈服させた姿でしたい、なんてことを考えたそのとき。
「あっ……」
「やあっ、はうっ!」
 シュルルルッと金属の擦れる音が部屋に響いた。
 カストが素っ頓狂な声を上げ、いきなりぐるりと半回転してうつ伏せになったシュリオが寝具を掴みながら嬌声を上げた。まるで力強い目に見えない何かに操られように、不自然な格好でくるりと回転したシュリオは、押しつけられたカエルのように、折り曲げた四肢のままに広がっている。尻が少し高いのは、股関節の限界だからか。
「これは一体」
 ユーリオが啞然とシュリオと寝台とをつないでいる鎖を見つめた。
 半回転したせいでねじれるはずの鎖は不思議なことに絡まることなく四肢から四方へと伸びたままだ。
「今いきなり鎖が外れて左右が入れ代わりました。それに何より勝手に身体が入れ変わったようにも思えます」
「……ああ。確かにうつ伏せにしたいとは思ったが、俺は手を貸していないぞ」
「これは夕月王が作られた魔具。魔具の中でも主の願いを叶える力を持ったものは、国でも一つか二つしか無いと言われています。それほどまでに力の強い魔具だということでしょう」
 適切な長さになるというだけではなかったようで、嶺炎が望んだことで体勢をも変える力を持つというのか。しかも。
「しかしこやつの体内は一体どうなっているのか、まるで手で扱かれたように肉で扱かれてしまっていた」
 あとほんの少し我慢をするのが遅かったら、今ごろあえなく暴発してしまったに違いない。
 意図せぬ射精など男としては矜持を傷つけられるものだと、荒い呼吸を繰り返した嶺炎は息を整えた。
 そのまま少し上がった尻タブを指が食い込むほどに掴み、ずんと奥まで腰を進める。
「はうっ!」
 意識を飛ばしたかと思えたシュリオが震えて、薄く開いたまぶたの合間から空色の瞳が覗く。
 左右から尻を押さえれば、骨と肉を介しているというのに中の締め付けが強くなった。これはこれでイイなと、嶺炎は再びゆっくりと抜き始める。
「嶺炎殿下」
 魔具の力を目の前にして意識が外へと向けられていたようなユーリアだったが、我に返ったように嶺炎の名を呼びながらにっこり微笑んだ。
「この淫乱にしっかりと種付けをしてくださいませ、孕むほどに」
「孕む?」
「ええ、孕むほどに」
 男は孕まぬと言いかけて、これは隠喩かと気づいてただ頷く。
「わかった、孕むほどに注いでやろう」
「その媚薬は精液で効果を減少させますから、嶺炎殿下も一度出せば落ち着かれることでしょう。そうなれば後はご自身のペースで進めることができましょう」
 カストが瓶のラベルを見つめてから、それを嶺炎のほうに掲げた。
「こちらは単なる媚薬ではなく、普通なら裂けるほどの魔羅をなんなく受け入れられるように柔軟さを持たせる効果があるようです。ただ単に効果の強弱だけではなく、色によって作用が違うようなんです。これはなかなかおもろしいですね」
 だんだん二人の性格が当初思ってたよりも違うと気がついたが、これも魔王の望みを叶えるには最善なのかもしれない。
 確かに三人いることでそれぞれが違う役割で苛むことができる。それは一ヶ月という短いのか長いのかわからぬ期間の中で、十二分な助けになるはずだった。