【癒しの休暇】

【癒しの休暇】



           ※※※
 シオンの食事は人形二体に犯されながらだった。
 是羅がフルコースの食事が終えて地下室に移動すれば、シオンは息も絶え絶えの様子で人形に前後を犯されたままだった。
 快楽は強く体内からの刺激だけで何度も空イキを繰り返す。けれど、同時に強く存在を主張する人形の魔羅と口からの解放は赦されず、絶え間ない刺激に気が狂いそうになっていた。
 そんなところに現れた是羅の姿に、シオンの表情が歓喜と期待に満たされる。
「あぁ……ぁ……是羅、様ぁ……、兄上、さまぁぁ」
 手を伸ばすように頭を伸ばし、少しでも是羅に近づこうとするシオンに、是羅が差し出したのは食事だった。
「食事の時間に来ぬ故に、持ってきてやったのだぞ、まずは食べろ」
 その言葉に、シオンの顔が大きく歪む。荒い吐息も孕む熱もそのままに、差し出されたその食事に食欲など湧くはずもない。
 だが、滋養効果の高いスープと強壮剤入り飲み物、そしてパン、是羅の手ずから与えられるそれをシオンが拒むことは赦されなかった。
 仕方なくシオンは喘ぎながらも是羅に差し出されるままに口を開けた。喘ぎ声と共に溢れた飲み物が乳首へと流れ落ちる。浅い皿のスープは、犬のように舌を出して舐めていた。パンは小さく千切られたが、差し出される指と共に口内に入り、舌を嬲られながら飲み込んでいく。
 人形のようにゆっくりと、食事も時間をかけて行われて、最後には自分が何を食べているのかわからぬままにシオンは咀嚼を繰り返す。
 それがようやく終わった時、ろうそくの火が次々と消え始めた。ずいぶんと太いろうそくではあったが、ろうそくである以上尽きるときはある。
 一つずつ消えていく灯火に室内が暗くなっていき、そして最後の灯りが揺らぎ、ふっと消えた。途端、それまで規則正しく動いていた人形二体がかくんとその動きを停止する。
「あっ……」
 快楽と疲労、赦しへの期待と叶えられない絶望に身を焦がしていたシオンは、そのことにすぐに気が付かなかった。
 だが是羅が小さく「止まったか」と呟いたのが聞こえて、閉じていたまぶたを上げて自身が闇の中にいると共に、確かに前後の刺激がなくなっていることにも気が付く。
「お……わった……?」
「これらは灯りがあれば動く。ろうそくの火が消えたからな」
 是羅が指先をすり合わせ、小さな灯火を灯す。
「っ、うっ、ぐっ」
 再び人形が動き出した。指先に灯る小さな灯火だというのに、人形の動きは明るいときと変わらない。
「あ、ぁぁ、兄上様っ、どうか、どうか、火を、火をっ、消して、っさい、お願いぃしまぁす」
 灯火に向かってシオンが顔を向ける。照らされたその顔は涙に濡れ、疲労の色を濃くしていた。
 一度は鎮まった快感が、再びその疲労を覆していく。
「何故私が消さねばならん」
 是羅の言葉にシオンは戸惑い、けれどすぐにその意味を察したように目を見開いた。
 その間に是羅は、シオンの陰茎を嬲る人形を動かして別の場所でスイッチを切り替えて再起動させた。ろうそく以外にその手段があるのだとシオンには気付かせない早業だ。
『こっちのスイッチにするとこいつは灯りを灯す動作を繰り返す。動くのは半刻ごとぐらいかな。灯りが全て消えたら動けないけど、灯りが点いている限り次の灯りを点けるのさ』
 そんな是蒼の言葉を思い出しながら、是羅は指先の灯火を新しく太いろうそくに移して、シオンの股間の下に据え付ける。
「消したければ自分で消すがよい」
 ポタッ、ポタッ。
 人形が前後に動くよりもさらに緩慢に落ちる魔羅からの体液。戒められてわずかにしか出ない体液が、ろうそくの間際に落ちていく。
「あっあっ……」
 狙えばいいとわかっていても、人形の動きにつられて腰は動いた。勃起した陰茎はゆらゆらと揺れて、わずかな体液は糸を引きながら飛んでいく。
「そ、そんな……ああっ……かからない、消えないっ……」
「そなたは鬼躯国の第四王子の自覚が足りぬ、いつまでも人に頼らず、自分の力で解決せよ」
 呆れ果てながらの言葉を残し、是羅は踵を返した。
 ほこりっぽいこの部屋を是羅は好きではなかった。シオンがさっさと沈黙を守っていれば、今ごろは寝室でその身体を堪能してやっていたというのに。
 仕方がないか、人形遊びが気に入ったのなら存分に楽しめば良いのだ。
 もう一体がのろのろと次のろうそくを準備するのを横目で見ながら、是羅はそんな内心などおくびも出さずに、冷たい笑みを見せながら地下室から去っていった。
 
※※※

 一晩人形に嬲られたシオンは、日の出と共に人形から解放され、三時間ばかりの睡眠を気絶するように取っていた。放っておけばいつまでも惰眠をむさぼるシオンに、呆れ果てながら起こしてやれば、腕が痺れてうまく動かないとのこと。
 食事だけはさせねばならないが、シオンへの給仕は是無ならうまくやるだろうが是羅には無理だ。昨日のようにむせるほどの勢いで飲み物を飲ませ、スープと肉詰めは床に置いた皿から咥えさせ、その合間に他の固形物を口に突っ込んだ。
 汚い食事に辟易しながらも、薄汚れた身体は湯船に突っ込み、肌が湿ったところで床に転がし、タオルで拭き取った。
 その頃になると鬼躯国の滋養強壮効果のある食事の効果か、シオンの身体も少しは回復してくる。
 是羅は帰宅の途につくためにシオンを玄関に呼び寄せた。前庭では召使い達が帰宅準備に忙しくしており、玄関内は閑散としていた。
 だがこれから運び出す土産等の品々が山となっており、中には剥き出しのままで山積みされている乾燥した薬草の束もあった。
 少し甘い匂いは、その薬草からしているものか。
 是羅はあまり好まぬ甘い匂いに風下になるように立ちシオンへと視線を移した。
「尻を出せ」
「はい、兄上様」
 一睡もできずに嬲られた体力は回復していたとしても思考能力は落ちきっているのか、その瞳は澱み、返す言葉は緩慢だ。
 言われるがままにシオンは厩の壁に顔を預け、是羅に向かって尻を出す。痺れた腕は朝よりマシだが、身体を支えるまではできなかった。
 すでに股間の輪っかは外してある。
 だが尻を出させてみれば、一晩中人形の淫具を出し入れされた肉壁は赤く腫れ上がり、完全に閉じきらないままだ。広げた足は産まれたばかりの子馬のごとく震え、背は大きく波打っていた。
「なるほど、人形の棒はずいぶんと堪能できたとも見える。相変わらずも底なしの淫乱よ」
「も、申し訳ございません。淫乱な、シオンを……どうか躾けてくださいませ」
 辱めの言葉は是羅の怒りの現れだとシオンはもう知っており、その怒りを解放するための言葉は、考えるより先に口を吐いて出た。その言葉は本心ではあるが、その声音からは心が窺えなかった。無意識下の言葉などおもしろくもない。
 是羅にとって感情のないシオンなど、その辺りの塵芥と同じなのだ。
 そんなシオンに是羅は言う。
「淫乱なそなたが帰路はどうしたいか、言ってみろ」
「え……わ、私は……」
 言えと言われて、それが何を意味するのかわからない。
 だが速く言わないと是羅の怒りが強くなるのは、シオンもわかっている。
「あ、わ、私は、横になって、ただ、ね、寝たい……です。にんぎょ……は嫌……」
 一晩中吊された身体は腕だけでなく痛みが残っている。
 希望と言われて口に出たのがそんな言葉だったのは、昨夜のことがシオンの身体でも相当きつかったからだ。
 吊されて機械的に犯される行為より、まだ是羅達に犯されるほうが良かった。温もりが欲しい、縋り付く相手が欲しい。昨夜は何度そう思ったことだろうか。
 シオンのそんな思いは聡い是羅には通じていた。だがその表情に変化はない。
 ただ是羅にしては長く黙考したのは、何が最適かすぐに思いつかなかったからだ。
 シオンは躾のなっていない愚か者だが、壊したいわけではない。
 シオンの青ざめた顔を見、縛られて青あざになった腕や身体を観察し、口を開けたままの肉穴と戒めの輪のほうにくぼんだままの魔羅へと視線を走らせる。
「眠りたいか、そうか」
 最終的に是羅はそう呟きながら頷き、シオンの腕を掴んんで立たせると、すぐに執事に出立を指示した。


 行きは馬上だったが、帰りは馬車だ。是羅とシオン、二人だけの馬車は元が広いこともあって、それぞれが横になれるほど大きい。行きとは違う道を通るために、帰りは行きより倍の時間がかかるという説明をシオンが聞いたのは馬車の中だ。
 是羅は頷くシオンに横になるように指示をした。
「はい、兄上様」
 盲目的に従うシオンは、訝しげな表情を浮かべながらも、おとなしく前の座席に身体を横たえる。
「あっ……」
 座席に背をつけたその時だった。全身に甘い疼きが走り、だらりと力なく垂れていた魔羅に血が集まっていく。
「ひっ、あぅっ……な、に……」
「どうした、寝ればいいぞ」
 シオンが是羅を見つめてくるが、是羅は何も言わない。
 思わず魔羅を押さえたシオンだが、指先が触れた途端に広がる強い疼きに身悶えた。体内に生まれた熾火は瞬く間に大きく燃え広がり、シオンの身体を熱くする。
「ひ、んっ……ぁぁっ」
「何を浅ましく悶えておるか、寝ないのならせめて静かにしろ」
「あ、は、はぃっ……」
 そう言いながらも顔をしかめ、全身を紅潮させながら熱い吐息をこぼし、込み上げる激情にシオンは呻いた。
 どんなに声を押し殺そうとしても止められない。
「あ……あ、兄上様ぁ……」
 どうしてこんなに熱いのか、身体が疼くのかわからないとシオンが座席から崩れ落ち、是羅の足へと縋り付く。
「あ、熱くて……身体が……、熱い……」
「熱い? ふむ、それは桜花草のせいであろう」
「お、うか、そー?」
 是羅の教えた内容は、けれどシオンには意味がわからないのだろう、呆然と聞き返す。
「桜花草の花粉は媚薬効果がある故に」
 それでもピンとこないのは、摂取した覚えがないからか。
「玄関に積んであった薬草があったであろう。是無が欲しいと言っておったので、近くの村から取り寄せておいたものだ、甘い匂いがしておったが気が付かなかったか」
「……あっ……」
 思いついたように目を見開くシオンだが、確かにその上気した頬といい、潤んだ瞳に、勃起仕切って涎を流す魔羅といい、その姿は媚薬に犯されたそのもの。もっともシオンは、魔羅を受け入れればいつもこんなふうだが。
 是羅の解説に、シオンはまさかと怯えの表情を浮かべる。
「ちなみに、浮遊する花粉を少々吸ったぐらいではそこまで欲情せぬわ。そなたがどうしようもない淫乱だからこそ、そんなに簡単に発情して身悶えるほどになったのであろうが」
 強く出ている症状に呆れ果て、冷たく言い放つ。
「実際に私もあの場にいたが、何の兆候も見られぬぞ」
 そのことに思い至ったのか、シオンが息を飲んだ。
 風下と風上、そのほんのわずかな違いなど愚かなシオンにはわからない。
 一人発情しているという現実にシオンは俯き、身を震わせた。
 本当にモノを知らぬ愚かな義弟は面倒なことよ。
 是羅は苦笑を浮かべ、床で俯くシオンを引き寄せた。
「もう一度問おう、そなたの望みはなんだ?」
 笑みを浮かべ問う是羅に、返される言葉は聞かなくてもわかった。
 羞恥に身を焦がしながら、それでもどこか虚ろに紡がれた言葉に、是羅は頷く。
 引き寄せた身体は熱く、力なく座席に崩れ落ちた。
 床で膝を突き、座席にうつ伏せに押しつけた身体は、発情した香りが淫靡さを増していく。
 一晩中嬲られた身体は解放を赦されておらぬ故に、魔羅の後ろでぶら下がる二つの玉はひどく重い。
 緩んだ穴に是羅は取り出した魔羅の先端を当てた。緩んだ穴は、もはや前戯など必要なく、いつでも是羅の魔羅を受け入れる。
「声を出すことは赦してやろう。だが勝手に射精することは赦さぬ」
 紡いだ言葉は、シオンが放つ嬌声にかき消えた。
 滑る肉穴は是羅の全てを一気に飲み込み、いつもより熱を孕んだそこはきつく締め付ける。
 そして。
「勝手に射精してはならぬと言ったはずだが」
 是羅の叱咤ではあるが、すでに待望の射精に意識を半ば飛ばしているシオンには聞こえていない。
「ふん、出したいなら全部吐き出せ、ただし掃除はそなたがやれよ」
 そんな言葉すら届かずに、是羅が動くたびにシオンは何度も気をやった。
 どんなに激しく、深く抉られても、全てが快感になる。
 重い睾丸が軽くなり、吐き出す液が一滴も出なくなっても込み上げる絶頂に、シオンは吠えた。強い解放感に身体は歓喜し、出し尽くしてもまた求める。
 忘我の境地になるほどに心は白く犯され、溢れた涙すら身体を刺激した。
 是羅に犯されることがこんなにもいいのだと、記憶の片隅に残る人形の冷たい魔羅と比較して、その熱さに喜んだ。弱い、ゆっくりとした抜き差しより、壊さんとばかりに激しい動きに気が狂いそうになる。
「もっとぉ、もっと、どーか、兄上さまぁっ、愚かで淫乱なシオンを躾けて、犯してええっ」
 それこそ馬車の外まで聞こえる嬌声を放ち、媚薬の効果で際限なく押し寄せる発情はいつも以上にシオンを高め、狂わせ、獣のように是羅に貫かれて喜んだ。
「ならば足を抱えて、入れやすいようにしろ」
「は、い……どうか兄上様、シオンの厭らしい穴をお使いくださいませ。どうか、どうか奥深くまっ、ひぎいぃぃっっ!!」
 浅ましくねだる声はいつまでも響く。
 ただ一人が狂っているように聞こえるほどに、響くのはシオンの声ばかり。
 是羅はそんな中でただ感情の窺えない表情で、その目だけは冷たくシオンが求めるままに犯していた。
「シオン……愚かで淫乱な可愛いシオン、我らが末弟として、いつまでも可愛がってやろう、そなたが可愛くいる限りな」
 是羅の脳裏に雛嶺国の中庭を歩くシオンの姿が浮かんだ。
 あの時、薄絹のような衣をまとうシオンの姿を見たときに感じた猛烈な欲情は、いまだに衰えていない。
 奥深くを穿つ腹に触れて是羅は嗤う。
「いずれ是蒼がそなたを孕ませてみせると言っていたな。実現すればそれもまた一興か」
 喉の奥で嗤いながら、是蒼ならそれも不可能でないだろう。
「そんなことが起きたら是無が狂喜するであろうな、そなたに似た子は可愛いだろうから」
 おしめを持って喜々として追いかけ回す姿が目に映る。
「父王も、そなたの子を次の王位にと言うかもしない」
 政務に関して言えば厳格な王ではあるが、孫の可愛さはまた別物と大臣達も言うほどだ。
「だがどうなるにせよ」
 そう言って是羅は苦笑を深くした。
「まだまだそなたは鬼躯国第四王子としての躾ができておらん」
 苦労は当分続くだろう、と是羅は嘆息し、浅ましくねだるシオンの尻を叩きながら、その身体に覆い被さった。
 

【了】
↓ 次ページに 蛇足なその後のワンシーン