【癒しの人生】 シオン編

【癒しの人生】 シオン編




 熱い身体は解放されることなく、それでもわずかに落ち着いたところで寝台から外された。
「本当は最後まで楽しみたかったけど、兄上様が早くって言うからさ」
「おまえは遊びすきだ」
「はーい」
 誰かと会話していた是蒼様が、抱え上げられた私に向かって手を振った。
「また遊ぼうねえ」
 ひらひらと揺れる手は見えていたが、それに反応することもできない。
 私を抱えているのは是蒼様よりも大きく太い腕を持つ鬼躯人。熱い身体に触れる腕は冷たく、鬼躯国人の体温はみんなこのように低いのだろうかと蕩けた頭が考える。そういえば火の精霊を素にする我らの体温はほかの国の者より高いのだと聞いたことがあったか。
 そんなことをぼおっと思い出していたのだが。
「んっ……あっ」
 揺れるたびに腹の中の熱塊を揺らされるようで、喉から吐き出すように声が漏れる。
「動くな」
 どこかで聞いたような体温と同じく冷たい声音が届いて、一度閉じたまぶたをうっすらと開けた。見えたのは揺れる天井と衣服に包まれていてもわかるほどの厚い胸板。顎を覆う髭に短い髪。
「……お、うた……いし……様?」
 まさかと思ったが、かろうじて問いかけた言葉で限界だった。それ以上声を出すのもつらく、数度喘いで荒れる息を整えるだけで精いっぱい。
 だが私の様子を窺うように藍色の瞳が向けられて、その相貌から確かに謁見の間で見た王太子だと知れる。
「是羅(ぜら)と呼べ。弟達は兄上様と呼ぶが、そなたは是羅で良い」
「ぜ……ら、様?」
 言われるままに言葉を紡いだのは無意識だ。それに対する反応はなく、是羅様は私を軽々と運んでいく。
 だがよりによって王太子に抱きかかえられているという恐れ多さに加えて、本能的に感じた恐怖はやはり身の内から消えていない。だからと言って下ろしてはくれない相手に、私は身を縮めておとなしくしているしかなかった。
 そんな私から見えるのは長い廊下の明るく装飾された天井だったが、長い道のりのうちに幾つかの扉を超えていくごとに色が変わった。最終的に入ったそこは漆黒に星空が浮かぶ天井を持つ宮。
「ここがそなたが住まう奥宮となる。我らであれば自由に出入り可能だが、シオンは養子という特別な身分の故、許可の無い出入りは禁じる」
 その程度は覚悟してきた身として言われるまでもなかった。だが今の私のこの状態はなんなのだろうか? 深く考えるべきだと思うのに、思考が少しもまとまらない。
 そのまま奥へと入った是羅様の前で扉が開き、広々とした室内へと入っていく。
 相変わらず得も言われぬ熱に浮かされる私だったが、不意に柔らかなところに下ろされて少しだけ覚醒した。喉から微かな呻き声が漏れ、開いた視界にきらびやかな模様が入った天井が見えた。掌が触れたのは柔らかい布地で、下ろされたのは寝台だった。
 そんな私に覆い被さるように是羅様が入ってくる。
「シオン、本日はそなたにいろいろと教えるために特別に政務は休みにした。だが時間が無いので、要領よく進めさせてもらう」
「ん……、はい」
 その言葉に、さすがに王太子たる是羅様にお手数を煩わせるわけにはいかないと身体を起こそうとしたのだが、疼くような刺激が下腹部を襲う。起こしかけた身体はすぐに前のめりになって力が入らない。
「申し訳、ございません……」
「かまわぬ、是蒼は腕のたつ術士ではあるが、遊び心がありすぎて困る。動けないのもしようがない」
 こればかりは仕方が無いとばかりに嘆息を吐かれた是羅様は、私の身体に気を遣ってくださっているらしい。冷たい表情で怖いお方かと思ったが、本当は優しいのかも、と思って思わず微笑んだ。
「ありがとうございます。覚えなければならないことがあれば、誠心誠意学ばせていただきます」
 謁見の間での会話は、衝撃的すぎてうろ覚えのところはあるが、それでも私が特別扱いされたのだということはわかっていた。ここが奥宮というところならば、私は本来なら立ち入ることも許されぬ場所にいるのだから。
「そうか。それは話が早い」
 是羅様も私の言葉に満足げに頷かれたということは、私の言葉に間違いはなかったということかと、良かったと内心安堵したのだが。
「ではその服を脱げ」
 続いた言葉で、笑みを浮かべたまま私は硬直していた。
「今後そなたの服は我らが準備したものとなる」
「服、あ、そうですね、これは我が国の服ですから……」
 矜持の高い国では他国の衣装は不快なものになるという。鬼躯国ではどうか聞いていなかったが、私は急ぎ胸元から腹までを留めている釦を外そうとした。だが指先が震えてうまく外せない。
「申し訳ございません、少しお待ちください」
 慌てて頭を下げたのだが、その言葉が終わるより先に是羅様の手が私が掴んでいた胸元を掴まれた。
「このほうが早い」
 絹地を引き裂く音と共に、貝殻の釦がはじけ飛ぶのが視界の端に垣間見えた。強い力で裂かれた上衣は呆気なくただの布きれと化し、私の身体から剥ぎ取られていく。
 呆然と見開いた私の瞳は、そんな暴挙を行った是羅様のなんの感情も窺えない顔を見つめていた。
 そこに怒りはなく、言葉通り早い方法を選択しただけなのだろうが。
 寝台の上にはらりと舞い降りた布きれは、すぐ上の姉様が丁寧に刺繍をしてくださったものだった。人質となる者が自国の品を持ってきて良いものといえば身の回りのものだけ。あまり目立つものは忌避されると聞いていたからこそ身に着けていた小さな飾り、晴れ着としてのこの衣装。それが是羅様の手でことごとく破かれ、壊されていく。
「痛いっ」
 耳飾りを強引に外されて鋭い痛みが走ったが、それより石榴石で作られた飾りが指の中で壊される光景に、胸の奥で痛みが走った。
「それ、……あ、……私の……」
 すぐ上の兄がはなむけとして持たせてくれた雛嶺国原産の石榴石でできた飾りだった。だが止める間もない。静止しかけた私に向けられたのは有無を言わせぬほどに強い視線だ。
 途端背筋にぞくりと悪寒が走り、拒絶の言葉は何一つ許されないと悟った。
「今後許可無いものを身に着けることは許されぬ」
「……は、い……」
 強い視線に囚われたまま、私は震えながら頷く。頷くしかない状況に、細かな部品に分かれた飾りを拾うこともできない。
 是羅様はうっとうしそうに寝台の上に転がった部品を払いのけ、私の身体に残っていた布きれを全部剥ぎ取ってしまわれた。それこそ下着一つ残さずに。
 私にできることと言ったら、是羅様の動きの邪魔にならないように身体を捩ることだけだ。
「貧相な身体だ」
 裸に剥かれた私を、上から下までじっくりと眺めた是羅様が言う。
 確かに是羅様からすれば、いや、鬼躯国の民からすれば我ら雛嶺国の民の身体は子どもより貧相だ。力も弱く、病気にも弱い。だから国土の開拓などできるはずもなく、先祖伝来の地で細々と暮らすだけ。他国が同様の生活を送っている頃ならいざ知らず、鬼躯国のように文化や技術が発展した今の時代、取り残されてしまうのは自明の理であった。
 そんな国でも愛すべきところはあるが、今のこの状況ではなんの関係もない。
 そんな貧相な身体を逸らして晒しているということに羞恥心が湧いて、私は思わず寝台の掛布へと手を伸ばそうとしたのだが、その手が押さえられる。
「何をしようとした?」
 叱責にも似た言葉に、弁解しようとした声が震える。
「あ、あの……貧相で……お見苦しいかと……隠そうと」
「ならぬ」
 だがきっぱりと是羅様が言われて、困惑の色を浮かべた私の身体を押し倒された。
「是羅様っ」
「貧相だが、美しい。顔の造作も良いと思ったが、身体の線もなかなか美しいではないか」
 それは賛辞なのだろうか。だが目の前の表情は変わらず、淡々とした口調からはそうとは思えない。なんと返事をしたら良いのかもわからず、私は口を閉ざして俯いた。だがそれも強引に足を開かされるまでのわずかな間だった。
「ひっ、何を!」
 足をすり寄せ閉じていた足が、痛みを伴って開かれる。膝で曲げられ、押し上げられれば、股間の全てが是羅様に丸見えになった。その力はたいそう強く、非力な私では戻すこともできない。
「ふむ、狭そうだ。だが是蒼の施術であれば問題は無いだろう」
 私の動揺など気が付かれていないのか、それとも完全に無視されているのか。まじまじと見つめられるその視線の強さに、私の顔は羞恥に熱くなり、せめてそんな状況を視界に入れたくないと顔を逸らすことしかできなかい。
「ぜ、是羅様、何を……」
 ここまで来て、是羅様が何を望まれているかわからないほど初ではない。
 わざわざ奥宮に暮らさせる理由、是蒼様の言葉。
 是羅様が部屋着であろう服を手早く脱ぎ捨てられた。ズボンの腰ベルトを外して、ずれたそこから大きく盛り上がった股間が覗く。
「ひ、いぃぃ――」
 喉の奥から掠れた悲鳴が零れた。
 大きかった。巨大と言ってもいいだろう。
 私の拳より太い塊がひどく長い。
 思わず後ずさろうとした身体は、足首を掴まれすぐに引き寄せられた。それでも少し離れた身体が近づいて、大きく割り広げられた股の間に是羅様の身体が入っている。
 ここまで来れば、是羅様が何を望まれているのか、私でもわかる。剥き出しの股間で薄い下生えの中で私のものがくたりと力なく横たわっているが、それより数倍はあるそれがどこを目指しているのか。
 謁見の間で無聊がどうのこうのはこういう意味だったのだ。
「ぜ、是羅様……む、無理です……それは、私には無理……」
 壊れてしまう。私の大腿ほどに太く大きなそれに壊される。
「なんのためにそなたに是蒼の施術を受けさせたと思うのだ」
 ああ、あれはそういう意味だったのか。確かに是蒼様は受け入れさせるためだと言われていた。
 だが、大きい。あれは……大きすぎる……。
 目にしたそれに恐怖は煽られ、いやいやと首を左右に振り続ける。両目から流れた涙がボロボロと顎を伝い、薄い胸へと落ちていった。
 だが是羅様は止まらない。
「ひっ、やっ!」
 身体が曲げられる。手早く出された是羅様の陰茎は、やはり大きくて、人のモノとは思えない。寝台が濡れるのも厭わずに振りかけられた液体が、白い肌をしたたり落ちて、狭いところへ馴染んでいく。
 だが是羅様が私に施したのはそれだけだった。
 そのまま凶悪なそれが近づいていくる。
 まさか……と震えた私が慌てて逃げようとしても、押さえつけられてよけいに腰を上げさせられた。
 私とてたしなみとして男同士の行いの仕方は知っている。女のように濡れて緩まぬ穴を使うのであれば、前戯が必要ぐらいは知っている。
 だが是羅様は、いきなりそれをつきつけてきていて。
「い、いや……無理、無理ぃ、ひ、ぎぃぁぁぁっ!!!」
 激痛が股間から脳髄まで貫いた。
 衝撃に全身が痙攣して、指先まで硬直した。
 叫んだ喉は何度も声を上げ、見開いた瞳から涙がボロボロと流れ落ちた。
「あ、ぁぁ、あぁ――っ!!」
 もうなんの意味もない声しかでなかった。痛みはひっきりなしに襲い、決して止まらない。
「きついな」
 是羅様の声がかろうじて聞こえた。足を掴み、ぐいぐいと腰を押しつけようとしている。
「緩めろ」
 そんな命令が届くが、硬直した身体は自分のものではないようだ。
 ヒイヒイと泣き喚く私の耳に、不意に別の声が入ってきた。
「当たり前だよ、いくら施術してても、最初は解すぐらいはしてやらないと。なあシオン、さすがに痛いよな」
「この方がシオンですか、美しい方ですね。泣き顔も愛らしい」
 聞いたことのある声と知らない声。
 泣き濡れて揺らぐ視界に大柄な二人が映り込む。
「だ……れ?」
「是蒼だよ。でこっちが我が王家三男の是無(ぜむ)」
「鬼躯国直系三男の是無でございます。このたび我が王家の養子になられたとお聞き、ご挨拶に参ったしだいですが……。良かったです、あなたのような方で。我も歓迎いたします」
「是蒼、様……是無様……、た、すけ……」
 よく似た相貌の二人に手を伸ばす。串刺しの痛みは強く、股間周りはあまりの痛みにうまく動かない。
「まだ半分も入っていないけど、大丈夫。俺の施術を受けているから、兄上様の魔羅をちゃんと奥まで受け入れられるよ」
「しかし苦しそうです。次兄様(つぎにいさま)、なんとかならないのですか?」
「問題ない、奥まで入ればすぐに馴染む」
 是無様の労しげな言葉に思わず縋り付きそうになったのだが、是羅様の言葉に再び絶望へと落とされる。
「ひ、あぁぁぁっ!」
 メリメリと身体が裂けていく感覚は強く、痛みは変わらず脳天を貫いた。ほんの少しの休憩に意識が回復したせいかより強く感覚を味わってしまう。
「い、ぎっ……ぎぃっ……ふかっ、裂ける、いやあっ!」
「大丈夫、ちゃんと飲み込んでいるって」
「最初は硬いから苦しいでしょうが、挿入されればされるだけ馴染みが良くなると聞いておりますよ」
 意識など飛んでいきそうなほどの苦痛と衝撃。なのに、そんな私を引き戻そうとするように、外野の二人の声が届く。
 私を貫く是羅様はただ腰を進めて私の中を蹂躙していくだけ。
「あ、やぁ、許して、もう許してぇぇっ」
 苦しさに泣き喚き、のし掛かる是羅様の身体を押しのけようとするが、びくともしない。持ち上げられた足腰は動かず、太い杭が突き刺さる股間の痛みはさらに強くなる。
 それでも痛い痛いと泣き叫び、是羅様の身体が止まったのはいつだったか覚えていない。
「ひゃうっ!」
 ずんと突き上げられて、股間に触れた剛毛の感触と、頭上で大きく息を吐いた是羅様の表情に、終わったのだと思った。
 腹は重苦しく、大きく割り広げられた股間は閉じることなどできやしない。泣き喚いて赦しを請うのに、誰も何もしてくれない。
 それでも終わったのだと思ったのに。
「ひぐぅっ!」
 ずるっと体内の大きな異物が動いた。ずりずりと尻から引き出されるモノ。
 大きく見開いた視界の中で、三人の大柄な男達が楽しげに表情を歪めていた。
「あぁ……待って、まっ――っ!!」
 制止の声は間に合わず、全てが弾けた。
 爆発した世界の中で、脳天から絞り出すような声が迸る。止まらない衝動は全身に渡り、暴れて狂う。
「うん、空イキしてる。すっごい気持ち良さそうだ」
「白目を剥いてますね、これが絶頂している状態ですか」
「そう。シオンは尻の穴で簡単にイケるようになっているんだ。刺激を受けたら必ずイク」
 是蒼様と是無様が会話しているのはわかるが、言葉が理解できなかった。その間も是羅様の激しい抽挿は止まらず、そのたびに頭の中が白く弾け、何も考えられなくなる。
 何度も何度も、内臓ごと引きずり出されて、押し込められる。
 激痛となぜか快感が交互に襲った。生理現象でしかない身体の反応に狂わされる。
 だけど、なんでだろう、腹が苦しい。熱く澱んだ塊が下腹部の中にあって、出て行かない。
「ひゃ、あっ、……イキ、射精、出したっ!」
 堪えきれない衝動が消えなくて、涙がボロボロと流れた。
「イっているではないか、ずっとヒイヒイ喘いで喜んでおるくせに」
「いやあ、イケない、出したいっ、出したぁいっ!」
 快感は何度も爆発した。身体は痙攣し、硬直してイキまくっているとわかるのに、でもイケてない。解放感はなく、もっともっと欲しがってしまう。
「そういえばそなたは遅漏だと是蒼が言っておったが、それだけイケるなら問題なかろう」
 違う、違う、違う。
 だって苦しい、空イキはどんなにできても、出せなかったら苦しい。
 私のものを擦って、しごいて、お願い、いっぱいしごいて。
「勝手に触れるな、我に命令など許さぬ」
「違う、ああ、許してっ、ごめんなさいっ、ああっ」
 パンパンと激しくぶつかり合う肉の音。濡れた音は壺の中の液体をかき混ぜるより強く、激しい音を立てる。
 白く弾け続ける視界は止まらず、ヒイヒイと泣き喚きながら懇願はいつまでも続いた。