【アベーレの裏切り】後編 Animal House-ライオン編スピンオフ

【アベーレの裏切り】後編 Animal House-ライオン編スピンオフ

【アベーレの裏切り】後編 Animal House-ライオン編スピンオフ

 結局達かせられるまでには到らなかったアベーレは、ぜいぜいとようやく取り戻した呼吸の中で絨毯に手をついて肩を揺らしていた。
 しなやかな背が大きく波打っている。
 だがそんな休憩すら許さないとばかりにアベーレは髪を掴まれ、引きずり起こされた。
「い、痛いっ……」
「まったくここまで俺の手を焼かせるとはねえ」
「う、わっ」
 放り投げられるようのしてベッドの上へと投げ出させる。
 厚いマットレスの上でバウンドした身体が転がっても落ちることのないほどに大きなサイズのベッドに、ブルーノが乗り上げてきた。
「達かせられなかったということは、突っ込まれて良いということだな」
「ひっ!」
 視界から外れない巨大な陰茎が突きつけられた。
 どう足掻いてもアベーレの二倍はあるサイズが入るはずもない現実に、首を横に振る。
 だがブルーノはそんなアベーレに笑うだけだった。
 再び掴まれた頭がベッドに押しつけられる。自然に上がった尻を掴まれ、逃げるより先に、乾いた指が狭間から中へと食い込んだ。
「ひぃぃっ!」
 引き攣れた痛みは、まだ強くない。それでもそんな些細な痛みでも先を想像させた。
 身体は鍛えて痛みには強くなったつもりだが、そんなところの痛みは想定外だ。まして中が裂けたらどうなるのか。
 知識が豊かで頭の回転が速いと評判のアベーレは想像力も豊かだ。その知識と想像力があり得る未来を脳裏に浮かばせる。
「どうした? ん、言ってみろ」
「は、はいら……ないっ、大きすぎっ」
 逃げようとする身体を押さえつけられたまま、のしかかってきた身体の甘い言葉に縋っていた。明らかに怯えた声音を情けないとも思えない。
「ふむ、確かにな、俺のこれは処女にはきついからな。ならばその姿勢で動くな。動かないなら、褒美に弛緩剤入りの潤滑剤を使ってやろう」
 その言葉が神の恵みにすら聞こえた。
 それほどまでに凶器とも言える陰茎で貫かれる恐怖は強かったのだ。
「お、願い、しますっ」
 敬語になったことを自覚すらしていなかった。
「ならば尻を高く掲げて、自分で足首を持ってろ」
 言われた姿勢では顔を寝具に沈めさせ、股間を開いて全てを晒すものだ。言われるままにその格好をしてからどんな痴態を晒しているか気が付いたが、何もされずに突っ込まれることを思えば、ただ堪えるしかなかった。
 ブルーノが何を考えているか判らないが、それでも使われない選択をすることはできなかったのだ。
「これだ、しっかり開いていろ」
 足を叩かれて、自ら股を割り開く。
 ブルーノが持っているのは半透明のプラスチックボトルで先端にノズルがついていた。その先端がアナルに触れたとたん、違和感に身体が震える。
「んっ」
 数滴、冷たい感触が広がったと思うと、何かが中に入っていく。
 細い先端は滑りもあってするすると中へと入ってきて、ついで液体が流れ込んできた。
 少し冷たい感触に中から冷やされて全身が総毛立つ。震えて暖を取る生理現象に晒されながら、漏れそうになる声を必死で堪えた。
 ノズルが抜ける感触がしたときも零れそうになった声を堪える。
 冷たかったはずの液体はすぐに暖かさを感じるほどになっていき、ちくちくとした刺激が生まれてきた。
「な、んか……」
 小さな刺激はすぐに痒みを生まれさせる。
 敏感な肌が異物に負けたかと思ったが、じわじわと広がる痒みは肌だけでなく内部にも広がっていく。
「あ、な、んだ、これ……んっ」
 じっとしていたいのにじっとしていられない。
 痒みを抑えようと尻に力を入れると、泡立つ音を立てながら溢れた液体が太ももまで伝い降りた。
 するとすぐにそこも痒みが増してくる。
「あ、あっ……」
「どうした? いい声で啼くようになって、こんな潤滑剤に感じたのか?」
 明らかな嘲笑がその声には含まれていた。
「こ、この、痒み、は……ただの潤滑剤、じゃない……?」
 尻を押され、前へとつんのめった身体を持ち上げて、振り返れば満面の笑顔とかち合った。
「潤滑剤さ、処女を蕩けさせて俺のものを入れやすくするための特別製のね」
「とく、べつせー……って」
 カミロ・ファミリーは薬物を扱う部門もあったはずだ。レオーネが憎むほどに嫌う薬物を蔓延させているのは有名で。
「まさ、かっ、麻薬がっ」
「ふん、あんな粗雑なものは入ってないな。これはその小さい穴でなんでも飲み込むようにするためのものしか入ってない、ほら」
「あ、あぁっ」
 指が二本同時につぷりと狭い隘路に入り込んできた。さっきは痛みがあったのに、今は違和感はあれど痛みはない。あっという間に奥まで入ったそれがばらばらに動き広げていく。
「んくっ、んっう」
「筋肉弛緩剤に近い成分が入っている。ただし医療用とは違う、ファミリーが独自で開発したものだがね」
「な、それって!」
「今のところ常習性は発見されてないが効き目は抜群だ。ほら、もう三本目の指が入った」
 腰を掴まれ上げさせられてピストンのように指を抜き差しされていた。
 ブルーノの言葉に返したいことはいっぱいあったが、絶え間なく襲う刺激に変な声が出そうでただ堪えるしかない。
「んくっ……くっ」
 痒みは依然として強く、薄れることはない。指を入れられているところはいいが、それ以外の肌についた部分も痒い。痒いから腰が動いた。
 無意識のうちに指を締め付けて、その刺激を味わおうとする。
「あ、う……ぁぁ」
「ふふ、やはり俺が見たとおりずいぶんと淫乱だ。これならもう大丈夫だろう」
 だが刺激に溺れていても、その言葉にさすがに頭が警告を発した。
「ま、待てっ、まだっ!」
「ほら、上を向いて足を持て」
 仰向けさせられ、命令しながらも自分で足を肩に担ぎ、太い先端を尻の狭間に押しつけてきた。それから逃れようと身を捩ったのだが。
「いいことを教えてやろう。この潤滑剤のある成分が粘膜や皮膚につくと痒みを発生させることがある。その痒みはその成分を洗い流すまでは消えないどころかどんどん強くなる。つまり洗浄するまでこの痒みは消えないということだ」
 その言葉に、目の前にのしかかる男に瞠目した。
「ずっと……んんっ、あくっ、くそっ……マジか」
 呆然と呟くのは、痒みが確かに強くなっているからだ。もうじっとしているのもつらいほどに、肌についたそれは掻き毟りたいほどに。
「ただし、カウパー腺液と反応してその効果は無効化させる。精液でもいい……どうだ、欲しいか」
 その瞬間何も考えずに頷いていた。それほどまでに痒みが強くなっていたからだが、その直後。
「ぎぁぁぁぁっ!!!」
 ミシミシと身体が中から引き裂かれているような激しい痛みに絶叫が迸る。
 自身の唾液で濡れたブルーノの陰茎が身体を引き裂く衝撃に、アベーレは寝具の上でのたうち回ることもできずに、断末魔のよう悲鳴を上げて痙攣を繰り返していた。
 自分で持てと言われていた膝裏からすでに手は離れ、だがブルーノの両肩で支えられた足は高く天に掲げられていた。
 少しでも衝動から逃れようとブルーノに伸ばした手は、押しのける力もなく縋り付くようにその腕に指先がひっかかっているだけだ。
「欲しいと言ったのに、礼の言葉もなしか。やれやれ、躾がいのある……」
「あ、あっ、抜け、抜いてっ……あぁぁっ!」
 ある程度は前戯を施され、弛緩剤入りの潤滑剤もたっぷりと使われたとはいえ、初めての穴にあの陰茎は巨大すぎた。
 薄く伸びきった穴の周囲にはひび割れのような傷が広がり、鮮血を迸らせている。
「処女穴を征服するのは愉しいが、このきつさは少し面倒だな。ほら、ゆるめろ」
「い、ぃぁっぁぁっ! ああっ!! 動く、なあっ、いやあっ」
 幾ら痛みには強くても、身体を引き裂かれる痛みを堪えられるものではない。
 スラックスの前を緩めただけのブルーノの身体がぐぐっと押しつけられ、割り開かれ股関節が悲鳴を上げる。
 激痛に意識が薄くなる。ぐるりと白目を剥いて、世界が暗転していく。
 だが白い肌をさらに白くして白目を剥いた状態のアベーレの頬を、ブルーノは強く叩いた。二度三度、意識が戻るまで繰り返す。瞬く間に赤く腫れた頬に、意識を戻した瞳から幾筋かの涙が流れ落ちる。
「俺に犯されているときに気を飛ばすなどという怠惰な態度は許さない。おまえはこれからずっと全身全霊を持って俺に奉仕することだけを考えるのだ」
「……あ――ひ、あっ、きつ、ああっ、ひぃぃぁぁっっ!!」
 容赦ない抽挿は止まらない。
 痛みに呻けば身体に力が入り、より強く身体の中の異物の存在に苛まれる。緩めれば勢いよく最奥を制覇された。
 突き上げられる腹はいつまでも重く、痛みは強く、血の臭いがまとわりついていた。股間の滑りはさらに増して、シーツが赤く染まっている。
 そんな中、上からのしかかる重みは増し、荒々しい手が太ももを掴んだ。
 野生の獣のごとき捕食者の瞳が、アベーレを見下ろしていた。
 その瞳に囚われていることへの恐怖が全身を走る。
「ぐ、うっ……くっ」
 それでも悲鳴だけは噛み締めたが、ただ手が闇雲に蠢くだけ。
「イイだろう、俺のものは。ここまでおまえの身体を埋め尽くすものはほかにはないぞ。そのうち、これ無しではいられなくしてやろうよ」
「ぐあっ、う、動く……なっあぁ、ぁっ!」
 快感などどこにもない。貫かれた屈辱も遠く、ただ犯される衝撃のみが全てを支配している。動かれるたびに走る激痛にまともに考えることもできない。
 ブルーノがいったい何を言っているのか、それからも理解ができなかった。
「だが想像通りの反応だ。やはり俺が見込んだどおりだな。おまえは俺の奴隷としてふさわしい」
 ブルーノ自身も痛みが走るのか顔をしかめている。だがそれでもその言葉に込められた恍惚感は相当だ。
 だがアベーレにとってはただ今のこの激痛しかない行為が早く終わることだけを祈っていた。それだけを考えていたアベーレの脳裏に、今はもう組織のことも大親友であるレオーネのことも、そして母や弟妹のことも何もかもなかった。
 ただ終わって欲しくて、解放されるときを待つだけだったのだが。
 激しさを増した抽挿がブルーノの高みへの到達を示していた。荒い吐息もそのままに激しい腰使いで翻弄されアベーレ自身も何を叫んでいるのか判らない。
「だめえ、ああ、おくぅ、くるし、あああっ、いいっ!!」
「ふふ、そろそろだ、そろそろおまえの欲しがっているものをやろう、たっぷりと喰らえ」
「んんっ、ううっ」
 身体の中を多量の熱で満たされたような気がした。
 奥の奥で注がれた液体は、そんな神経などないはずなのに確かにアベーレは感じていた。
それは同時に、最初に貫かれたよりももっと精神の奥深くまで亀裂を作る痛みであった。
 女のように扱われ、人としての尊厳を剥奪された屈辱もあった。
 だが確かに何よりもアベーレを苦しめたのは、出された瞬間に味わった自分自身の深い安堵だった。出してくれたのだと喜んだのを自覚してしまったのだ。
 それは苦痛から解放される喜びだったのもあるし、痒みを中和できるとおもったのもあったのだが、それでもアベールはそんなことを思った自分が許せなかった。
 そのせいで涙が溢れて止まらない。
 あれだけ身体を苛んでいた痛みも麻痺したようになって、痒みも薄れていた。
 だがアベーレの涙を見たブルーノが再び動き出したのだ。
「え、ああっ!」
「この程度出したぐらいで終わると思ったのか? 俺の性欲解消に付き合うのにこの程度で終わるわけがないだろうが」
 絶望的な宣言は、再び揺すられ始めたアベーレの頭に届く余裕すらなく。
 先ほどより余裕のできたブルーノは、今度はアベーレを翻弄させるように性感帯を暴きながらその身体を巧みに犯していった。
 意識を失えばたたき起こされ、強い痛みに正気に戻される。
 痛みだけばなく快感を与えられ、自ら放出したのも一度や二度ではない。
 喉は掠れて声が出なくなり、指一本上げる力が無くなっても、ブルーノはアベーレの身体を使っていた。
 あぐらをかいたブルーノの上で力の入らないアベーレの身体が揺れていた。
 その身体は倒れないように後ろから支えられてはいたが、自ら動くことはない。もう気力も限界のアベーレは意識があることすら奇跡だった。
 ただ揺すられ、足を上げられてさらに深く咥えさせられて、体内から溢れる体液を泡立たせていた。
 ただ道具のように扱われているアベーレは、もう声を上げることなく虚ろな視線を中空へと向けているだけだった。


 いつか組織を、レオーネを完全に裏切ることになる前になんとかして家族を奪い返そうとした。
 だがブルーノの手配は滞りなく、全てが失敗となった。時に画策がバレて手酷い罰を受けることになった。そのたびにアベールの身体は傷つけられ、卑猥な印が増えていく。
 契約の印だと背に刻まれた鮮やかなタトゥは東方の手法を使った特別なモノだ。
 大輪の花が舞い散る中、乳房と陰茎を持った人がブルーノの家紋を四肢を使ってしっかりと抱き締めている。
 その恍惚の表情はアベーレと酷似しており、身体に絡みつく茨は豊かな乳房もペニスも変形するほどに締め付けていた。尻の狭間には一番太い蔓が深く食い込んでいる。
 繊細な描写は絵画のようだと、長い苦痛の果てに完成したそれを眺めながらの陵辱は一昼夜は続いただろうか。
 そんな背をもつアベーレの滑らかなラインの腰から下、引き締まった白い膨らみに左右二つの印が茶褐色に沈着していた。まだ赤みが残っているせいでその痕はあまりにも痛々しい。
 それはなんとかマリエッタに連絡を取ろうと人を使うとしたときのだ。
 昔から使っている信頼できると思っていた情報屋だったが、すでにブルーノの手に落ちていたのだ。雇った二人は拷問の果てにアベーレの前に連れてこられた。
 墜ちた男たちはブルーノが命じるままにその舌で縛り付けられたアベーレの性感帯を刺激し続けた。乳首とアナルに痒み成分の入った潤滑剤を塗り広げられ、徹底的に快感のみを与えられ続ける。
 嬌声を上げ、太い玩具で貫かれて快感に狂う身体を、気が付かぬ間にうつ伏せにされ、その男たちの手によって焼き印を押された。
 快感の中にいた意識が一気に激痛の中ではじけ飛ぶ。
 己をこんな目に遭わせたアベーレを憎む男たちの手は容赦なく、焼き印はくっきりとその身に残された。
 邪淫の証だと二匹の蛇が絡まるそれは、神からも見放された印だと見物客たちが笑っていた。
 腕にも太ももにも、ブルーノが振るったナイフの傷痕が深く残っている。
 顔には一切の傷がなかったが、その分スーツを脱げばその身体は誰にも見せられないほどに傷だらけだ。
 強く打たれた鞭痕はいつまでも残り、乳首もペニスも複数の針で穿たれた。
 ブルーノは残虐性があり、自分の命令に従わないものに与える罰は非常に激しい。
 そのことを知っていたアベーレではあったが、自分の身に与えられたそれらは苛烈というものではなかった。
 もしこれがアベーレだけのことなら自ら死を選んだだろう。死を持って自分も、そして仲間を守ることができただろう。
 だが何よりも大切な母と弟妹がアベーレにはいた。
 アベーレが何かを画策した日、母はひったくりに遭って膝の骨を折る重傷を負った。今は回復したが、年のせいで完全ではなく今も杖をついている。
 焼き印を押されたときには、アンディが階段から落ちて重傷を負った。当たり所が悪ければ死んでいたほどに深い傷だったという医師の診断書に、自分の痛みよりも激しく慟哭した。
 ブルーノの言いつけに逆らい自慰をしなかったというだけで、腕の傷が増え、同時にマリエッタが車に跳ねられそうになったとそのときの映像を見せられた。跳ねそうになった車のドライブレコーダーの記録では、明らかにマリエッタを狙って車が蛇行していた。それを間一髪で助けた護衛に感謝する姿すらそこにはあって。
 何か落ち度があるだけで明らかに家族に報復される。そのせいでアベーレも迂闊なことはできなくなった。
 結局死を選ぶことも家族を取り戻すこともできずに、まだ痛みの残る背と尻の痕に悩まされながらも、夜はブルーノ、昼はレオーネという二重生活は続いたのだが。
 二ヶ月後、ブルーノはアベーレに最悪の命令を伝え、そしてもうアベーレにはそれに抗うことなどできなかった。
 レオーネの飲む栄養剤を睡眠導入剤にすり替えて、侵入者を手引きする。そんな裏切りをせざるを得なくなったときはさすがに躊躇った。コーヒーを運ぶ手は終始震え、何度も扉の前で躊躇った。
 あのときも何か他に道は無いかと探し求めたが、その全ての道はもとより絶たれていた。
 あの日レオーネにコーヒーを差し出したときから、アベーレは裏切り者となった。
 その罪の刻印は、目に見えぬものであったしてももう一生消えない。
 レオーネは死んではいないとブルーノは言っていたが、生きていたとしてもどんな地獄が待っているか。
 そしてアベーレもそのままファミリーに戻ることなど許されず、ブルーノの屋敷に監禁状態となった。今まで昼間のために加減されていた行為が瞬く間にエスカレートしたのだ。
『もっと悦い身体にしてやろう』
 その言葉とともに開始された専門の調教師による調教は二ヶ月に及んだ。その間にタトゥはより繊細な絵柄を追加され、焼き印の周りにすら卑猥な文字の刻まれた。
 服を身に着けることすら許されない日々。
 這いつくばり、ただ主であるブルーノの赦しのみで生きる日々。
 逆らうことは許されず、罪の意識と家族への思い、そして繰り返される激痛と快楽の日々に精神的に追い詰められたアーベルは、いつしか逆らう気力すら完全に失っていった。
 それどころかブルーノが最初に宣言したとおり、その身体はブルーノのものでしか快さを感じられなくなっていた。あの長さ、あの太さで激しく抉られないと達けなくなったのだ。
 それは調教師の巧みな精神調教の成果であったが、アベーレはもうそんなことも考えられなくなっていた。
 その間にトップとナンバーツーを失ったレオーネのファミリーは、他にも裏切り者がいたのだろう、瞬く間に分裂し崩壊して今や跡形も無い。
 調教が終わるとアベーレはようやく屋敷の外に出ることが許されるようになったが、許されるのはブルーノが傍にいるときだけだ。
 ブルーノが求めれば即その身体を差し出すために。
 そんなアベーレの存在は瞬くまに闇の世界に広がり、ファミリーを裏切り男に嵌まった淫乱とレッテルを貼られて、どこでも蔑まされる存在になっていた。そのせいでますますアベーレはブルーノの陰に隠れ、その所作がますます嘲笑の的になり。
 アベーレの精神はますます暗く墜ちていく。
 そんな中、マリエッタは警備役の男と結婚した。
 だがいつの間にかレオーネが手配した護衛とすり替わっていた男は、よりによってブルーノの三番目の息子だったのだ。
 襲撃されたと家族が思っているあの事件で、銃を突きつけられたマリエッタを身をもって守った男ではあるが、それも全てブルーノの茶番劇。だがその男をマリエッタが好きになってしまい、男のプロポーズを喜んで受けたと聞いたのは結婚式の前日のことだった。
 いきなり礼服に身を包まれ連れてこられた先での結婚式の風景。
 マリエッタの幸せそうなドレス姿に、呆然としながら花嫁の介添人を務めた。
 何もかも呆然としているうちに過ぎ去っていく。
 娘の晴れ姿を見つめる車椅子姿の母はここ一年足らずでずいぶんと老いた。どこか焦点の合わない視線でただ嬉しそうに頷き続けている。
 隣でブルーノが意味ありげな笑みでアベーレを観察しながら花婿の父親として振る舞い、紹介された義弟となる男が同じ笑みでアベーレを見つめる。
 その酷薄な表情に、アベーレはこれもまた仕組まれていたのだと気が付いた。
 精神の中で発する悲鳴は、誰にも聞こえない。
 祝福に舞う花びらの中にいたマリエッタは幸せそうなのだが、空には暗雲が立ちこめている。
 アベーレの頬に祝福でない涙が流れ、それを見咎めたブルーノによりアベーレの身体に新たな刻印が刻まれたのはその夜のこと。


 その次の夜、アベーレは結婚式場に程近いブルーノの別荘でいつものように犯されていた。二つ離れた部屋にはマリエッタが寝ているところで。
 腕に巻かれた包帯は外れ、覗く傷は火傷にただれてはいても雌ブタと読める。
 だがそこにいるのはブルーノだけてはなかった。まだ若い、アベーレの同年代の男のものがその口を犯していた。
 客相手のフェラチオはいつものことだが、今回の相手が問題だった。
 ブルーノの息子、マリエッタの夫でアベーレの義弟となる男だ。
「うまいですね、あれもこのようにうまくなりますかねえ」
 荒事に慣れたざらついた掌が剥き出しの首筋を辿り、口内を埋め尽くす陰茎で膨らんだ頬を撫でる。父親ほどではないが、それでも巨根と言うべきそのペニスはたいそう雄々しく激しくアベーレの口を犯す。
「何しろ昨夜は、始めての夜ということで特別に優しく丁寧に処女を散らしてやりましたが、何しろ狭い狭い、ヒイヒイと泣きながら必死で我慢してね。こっちのほうが楽だろうと尻を上げさせてバックから入れてやりましたが、破瓜の瞬間には締め付けられすぎて硬いばかり。やはり私は慣れた穴のほうがいいですよ」
 そう報告する先はアベーレを背後から犯す父親だった。
「何、最初だけだ。これも最初は硬くてなかなか扱いづらかったが、今では前戯などしなくても受け入れるほどだ。最近では雌のように濡れて待っておるぞ」
「ふふ、僕も父さんのように、いつでも濡れるようにしっかりと調教しますよ。ああでも、お義兄さんが望むなら、とっても優しく大切にはしますよ。決して無茶はしませんから」
 似たもの親子の会話など聞きたくない。
 なのに意識を逸らそうとするたびに義弟が頬を叩き、ブルーノがアベーレの陰茎に巻かれた金鎖を引っ張った。
 きついほどに巻かれたそれに締め付けられ、暴走しそうなペニスが鋭い痛みが走る。
 喉の奥で唸れば、口内で膨らみきった陰茎がびくびくと震えた。
 慣れたと言っても露わな反応への不快さは御しがたく、息苦しさもあって思わず口から吐き出してしまう。
「おや、兄としては僕がマリエッタに無茶をしてもいいんでしょうかね」
 だがその代償は露骨に課せられる。
「ぁ、あ、もうし、わけありません……激しくするのは、俺……だけに……」
 慌てて目の前の剛直を口に咥え直し、舌を使っての愛撫を再会する。
「女は加減が難しい。これのように乱暴に犯されるのが好きかどうかじっくりと確認する必要がある。まあ慣れるまでは優しくしてやりなさい」
「父さんがそう言うなら。まあ、私もあの娘は可愛いがってやるつもりではありますよ。決して無茶はせず。僕は父さんと違い気が長い。僕好みにするのに時間をかけるのは愉しいと思うぐらいですのでね」
「だがマリエッタが妻として粗相をするようなら、いつでも連絡しなさい。この兄には責任をとってもらわないとな」
「それはいいですね、では昨夜、あれが私のものを咥えてくれなかったお仕置きを。あろうことか私のものに怯えたのですよ。せいぜいが手で触れたぐらい。貞淑な処女とはいえ、夫のものを気味悪がるとは」
「ふふ、では、代わりに兄をその鞭で叩いてやりなさい」
「はい」
 夫である男が面白おかしく事細かに説明するのを聞かされながら、その義弟の股間に顔を埋め、舐めしゃぶり、妹の行為の罰だと鞭で叩かれた。
 鮮やかなタトゥが壊れるほどではないが、それでも赤い線が無数に走る。
 その間もマリエッタがどんなふうに喘ぎ、ペニスを受け入れ、後朝の言葉に到るまで全て聞かされ続けた。
 そのうちに早く達かせろ、と髪を引っ張られ叱咤されても、体内深く埋められたブルーノのベニスが戯れに敏感な性感体を抉るせいで集中できない。
 ヒイヒイ喘ぎながら戒められたペニスは決して解放できず、さらに自身での愛撫も強要されていた。
 そんなさなか、ブルーノがふと思い出したかのように、言葉を零した。
「そういえばおまえの弟のアンディだが。寄宿舎で同室となったドンの孫がたいそう気に入ったらしくてな、別荘に誘ったそうだぞ」
 快楽の中で新たな事実が告げられる。
 ドンの孫……グリュード、確かにアンディと同じ年だ。
 だがグリュードは素行の悪さで有名で、何か事件を起こしてほとぼりが冷めるまでと遠い学校に行かれされたのでは。
 奴隷生活でも衰えない記憶力が、昔の情報を引っ張り出した。
 その事件は確か。
「あ、あ、ぁぁ……まさか……」
 あれは確か同年代の同性への監禁傷害致死罪。
 カミロがもみ消した事件を、何かのネタにできないかと追っていたからこそ手に入れた極秘中の極秘事項だ。
「やはり知っていたか。まったく油断も隙も無いな」
 ブルーノが身体から伝わる動揺に気が付いたのか呟く。
「カミロさまに逆らう愚か者も今は父さんの奴隷、まあ使い道があったので良かったですね。グリュードさまはなかなかに御しがたい性格をお持ちですが、一度お気に入りと決められたものたいそう大切にされると聞きますし。それにあの性格も少しは落ち着かれますしね」
「ああ、あの方は手に入れたそれを決して手放さない。手放すぐらいなら自ら壊すことも厭わぬ。故にあの事件だが。あの辺りはカミロさまによく似ておられる」
 決して安心できない言葉が頭上で交わされる。
 それを制止したい。せめてその心身が健やかでいられるように願いたい。
 だが今のアベーレにはそのための代価はもうなかった。
 彼らが生き残るため、安寧とした生活のために差し出したこの身体で全てなのだ。
 それ以上、アベーレにはもうどうすることもできない。
「ああ……おあがい……」
 それでも。
「なんだ、ふん、言ってみろ」
 尊大に言い放たれた許可に、口から長い陰茎が抜けた。だが背後のブルーノの抽挿は止まらない。
 激しい抽挿に溺れそうになるのを必死で堪えながら、アベーレは這いつくばりながら二人へと願った。
「家族、お……ひぐっ、う、ちゃ助けて、ぇぇ、あああっ、あ、す、健やかに……、ひっぁ、ぁぁ、おねぎゃっ、あぅっ、ああっ」
 脳裏に甦る幸せだったころ。
 いったい何を間違えたのか、曇り硝子に隔たれて見える写真のようにひどく遠くて曖昧な、それでも幸せだったころの風景。
 母さん、マリエッタ、アンディ……レオーネ……。
 手を伸ばしてももう届かない。
「ふん、安心しろ。グリュードさまは俺でも感心するぐらいにサド気質の方だが、まあおまえの弟がそれを気に入っている限りはたいしたことにはなるまいよ」
「確かに、薬漬けになる前に自分の立場をきちんと認識すればいいだけのこと」
 嗤う義弟の言葉に奥歯を噛み締める。
 安心できるものではないが、それでも賢い弟ならばうまく立ち回ってくれるのではないか。
 希望的観測とは判っていても願わずにはいられない。
「さあ、願いは聞いてやろう。だがおまえがするべきことをしてからだ」
 ブルーノの手が背の刺青を叩いた。
 まるで合図でもあったかのように、命令されるままにアベーレはその身を快楽の中へと落とし込んだ。
 今は彼らを満足させることだけを意識する。
 巨大な陰茎に体内を満たされ、喉から迸るのは今や嬌声だ。
 はじめは激痛しかなかった巨大な陰茎は、もはやそれ以外では満足できない。
 この息子の巨根でももう無理だろう。
 足蹴にされ、戯れに弄ばれ、奴隷して痛めつけられ、淫靡に飼い殺されるだけの日々。
 墜ちた身体に精神は追従し完全に支配されて、もう逃げる気力すらない。
『アベーレはブルーノさまを愛しています。ブルーノさまのご命令とあらばどんなことでも従います』
 何度も何度も繰り返した言葉は、ブルーノの視線一つで口からついて出る。
 深く、限界超えて奥まで入り込んだ陰茎に抉られながら、その痛みすら快感として全身が震える。乱暴なぐらいに犯される日々は、決してそこに愛情はない。
 ただ性処理に使われ、多量の精液を体内に注がれる。
 髪を掴まれ顔を上げさせられて浴びせられた精液の臭いも、口の中に注がれた味も、もう飽きるほどに味わった。
 穿たれたピアスにより小さかったはずの乳首は変形し、沈着した色素のせいで熟れた果実のようになっている。シャツが触れるだけで感じる敏感な場所となったせいで服の上からでも弾かれると腰が砕けそうになるほどだ。
 荒い吐息で必死に堪える姿を笑われるのは日常だ。
 ブルーノの手により奴隷となったアベールは、いつでも命じられるままに股を開きブルーノを受け入れた。それが役目だからだ。
 移動中の車の中で精液を飲み干したことなど数えきれない。


 ある日、夜ごとに繰り返される濡れた音が支配する空間で、ブルーノがアベールの乳首にはめていたピアスをと取り外した。
 白くて歪な、尖った三角がバーベル型ピアスの両側についているものが一対。
「この持ち主が帰ってくるようでね」
 その言葉に、快感に狂っていた精神が急速に晴れた。
 目の前に差し出されたそのピアスの飾りは明らかに人の犬歯であると、そしてそれの持ち主が誰だったかアベールは知っていた。そのときには深い後悔の念で、ブルーノに叱られても泣き喚いた。
 だがその代償に、それこそ細い張り型に犯されながら快感を増幅する薬を打たれ、物足りなさにブルーノを求めてまくっても放置され、明らかに精神的が崩壊寸前までいったところで、ブルーノに救われるのを何度も繰り返しされたのだ。
 ただ彼だけが自分を救ってくれると縋り付き、ブルーノが望む全てのことを引き受けた。
 それこそブルーノに促されて自分の口を犯す裏切り者とされた男の臭いペニスを食いちぎることすらしてみせたのだ。
 そうまでしてようやくブルーノに許されたそのときのことは、正気に戻ってからもアベーレに深い傷を作っていた。
 もはや家族のことが無くても、アベーレがブルーノに逆らえない要因の一つでもあった。
 だがそれ以上に深い傷はやはり大切な親友を裏切ったことだ。その、犬歯の持ち主である彼を。
 呆然と背後で犯すブルーノを見上げれば、嘲笑が降ってきた。
「おまえを世話係にしてやろう。ずいぶんと淫乱な雌ライオンとなっていてね、餌やりの世話が大変なのだよ。その世話におまえをと、我らがドンがお望みなのだ」
「せ、わ……、んん、あっ、ああっ」
 問おうとした拍子に、深く抉られ、戻った理性も何もかもが飛んでいく。
「ドンのお言葉だから仕方がないが、おまえは俺のものだ。俺の手綱から放れたれたとしても首輪は決して離れぬ。逃げられると思うな」
「ん、あ、ああぁ、ひゃっ、いっ、ひゃいっっ!!」
 ただ頷く。頷いた次の瞬間にはもう何もかもが白い世界の中に消えていた。
 ブルーノの熱と激しさだけがアベーレが世界に存在するためのよりどころだ。
 それがすでに何かも失ったアベーレのただ一つの現実だった。
 病院に入った母の痴呆は一気に進み、ブルーノの息子によりセックス中毒になったマリエッタは館から出てこない。ブルーノにすら相手を強請りさすが兄妹だと嗤われたほどに。
 カミロの孫に籠の鳥で飼われ続けるアンディはいったいどこにいるのか。時折その姿をカミロの屋敷で見かけるらしいが、グリュードの言うことには逆らわず、グリュードだけを見続けているという。
 理性があるときにはそれが決して幸いなことではないと判ってはいるのに。
 何もかも全てが取り返しのつかないところまで来て始めて知らされる現実。
 そしてレオーネは獣のごとく扱いを受け、その淫乱化した身体は今後兵隊たちの性欲処理の道具となる。その世話を命じられてもアベールは逆らえない。
「俺の言葉だけを聞いていればいい、そうすればおまえの望むようにしてやろう」
 全ての現実はアベーレにとって受け入れがたく、けれどそれらは確かにアベーレがもたらしたものだ。ならばせめて。
「みんなを……助けて……」
「ああ、助けてやろう。おまえが望む限り、おまえが俺を満足させる限り」
「は、ぁい……おか、して……もっと、もっと激しく」
 自然に口をついて出る強請る言葉にブルーノが嗤う。彼の真意を読み取る力はもうアベーレにない。知らず使われ続けた強い媚薬に犯された脳は、参謀役でもあったほどの知恵者から思考能力を奪っていた。
 ただ言われる言葉をストレートに信じ、裏を考えない。
 それは相手がどんなに非道な行為をしてきたか知っていてもさえ、その言葉を受け入れた。
 今もブルーノの言葉を信じ、衰えを知らぬその身体に縋り付いてアベーレは腰を振っていた。
 腕のごとく陰茎を腹の奥の奥まで受け入れて、濡れた音を激しく響かせながら、男が射精できるように導いていく。
 彼を満足させるために、彼が自分を飽きないために、そうすれば皆が助かる、ただそれだけのためにアベーレは己の身体を使い、それが正しいことだと信じていた。


【了】