デートの楽しみ 後編

デートの楽しみ 後編

デートの楽しみ 後編です。前編でいろいろあった亮太が春樹に問い詰められます。




「それで、あのとき、どこでどうしてたっていうのかな?」
 にこりと笑っている笑顔はいつもと変わらないが、春樹が怒っているのが判る。だから、たまらなく怖い。
 亮太にとって、春樹を怒らせることは、何よりもの恐怖だった。
 それ故にふさふさのじゅうたんが敷き詰められた上に土下座をしながら俯いて、ただ震えることしかできない。
 何かを言わなくちゃいけないとは判っている。言い訳でもなんでも。だが、どんな言葉を言っても、それがさらに春樹を怒らせる。
 春樹を放っておいて、この身を男たちにいいようにされたことなんか。
 だって、亮太は春樹のもので、他人がどうこうしていいものではない。今体内にある玩具を売っているお店で、使い方を教えられるために店長に触られても怒るのだ。
 罰だと見世物に出されたときだって、その後に、触られて喘いだと責め立てられた。
 だが言わなければ、もっと怒られる。
 でも……言えない。
 あれから30分以上経ってからようやく解放されて、なんとかあの場所に戻ってみれば、春樹が険しい顔をして待っていた。亮太自身、なんとか服は身につけていたけれど、髪は乱れ、拭うしかできなかった体液はまだこびり付き、泣き腫らした目は真っ赤になっていて、春樹もすぐに何が起きたか判ったみたいだ。
 顔をしかめて、立ちすくむ亮太を上から下まで観察して。
 漂う精液の臭いは隠しようもなく、春樹の第一声は「この臭いは何?」だったのだ。
 けれど、その場で問い正されても亮太は何も言えなかった。
 結局痺れを切らした春樹に引きずるように一番近いホテルの部屋へと連れ込まれた。
 パーク隣接のホテルの中でももっとも高級なホテルはいつでも満室のはずだが、高藤春樹の名であればすぐに部屋が用意された。
 しかも、手配されたのは最上階のスイートでものすごく広い。見事な夜景が売りだと判る豪勢な部屋だった。もともとこのようなところとは無縁の世界で育った亮太は、時折垣間見る春樹の住む世界にいつも圧倒され、自分がみずぼらしくしか思えない。まして、こんな汚れた自分はもっとふさわしくない。
 ますます小さくなった亮太は、春樹の蔑む視線に怯えきっていた。
「そう、俺に何も言えないと。ふーん、そうか」
 不意に聞こえた声音が平たんなものになり、春樹はびくり全身を震わせた。
 春樹を怒らせた。いや、もうとっくに春樹は亮太に怒っていて、それでも優しくしようとしてくれていた。なのに、亮太が何も言わないから、それも……。
「亮太は俺の言うことが聞けないんだ。そうだね、待っていてって言うのも聞いてくれていなかったし。俺のことなんかどうでもいいんだよな。だったら、いいよ、好きにしてくれて」
 ひどく冷たい視線は、肌を切り刻むようなほどに鋭く、震えが来るほどに冷たく、そして恐ろしい。
「は、春樹……」
「いいよ、ひとりでどこにでも行けば? 行きたいとこ行って、その淫乱な身体を慰めてくれる人を見つければ良いんだ」
 その言葉は、驚くほどに亮太の心へと鋭いくさびが叩きこまれ、血の気が音を立てて引いた。
「ひ、ひとり……」
「うん、俺の家から出ていっていいよ。亮太のために買ってあげたもの、全部上げるから好きなようにして、ね。うん、帰ったらすぐに用意しようか。ほら、全部身につけて、ね。あれ、結構高いのもあるし、使用済みだけど実演見せたら買ってくれる人がいるかも」
 にこっと、そんな擬音が似合う笑みを見せているのに、突きつけられる言葉に、悲鳴が出そうになった。
「でもさっさと誰か見つけないとね。ほら、亮太独りじゃ何もできないだろ? ほんと甘えん坊のマゾなんて、俺以外の奴にはうっとしいだろうなあ。それに、四六時中発情してるから、働き口なんて無いし……、ああ、でも父さんの知り合いのヤクザがやってる倶楽部だったらOKかな? あそこは、淫乱な雌奴隷が足りなくて困ってるって言ってたから」
「や、嫌ぁ……行く、とこ……ない……、春樹のとこだけ、俺がいれるの……」
 追い出される。
 春樹と亮太の部屋から追い出されて……どこへ行くというのか。
 自分一人で生活できないことは、春樹に言われるまでもなく良く判っている。
 春樹と出会ってから、ずっと春樹の手の中にいて、何もしてこなかったのだから。今、手放されたら、頼る者がいない亮太は生きる術がない。
 それこそ……。
「それに、亮太は男の人を誘うの上手いからね。いつでも、ちょっと目を離したらすぐに相手見つけて、ふらふらーっと。俺のところから出ていっても、すぐに世話をしてくれる男なんか見つかるんじゃないかな」
「ち、違う、そんな、そんなことないから、だから、捨てないで……、ごめんなさい」
 謝る亮太に春樹はけんもほろろに言い返す。
「だって、俺のことなんかいなくて良いんだろう、亮太は」
「違う、ごめんなさい、ごめんなさいっ」
「いっつもだよね、ちょっと歩いたら男の人がまとわりついて、うれしそうにしてさ」
「ちがっ」
「今日もっ」
 否定しようとした言葉は、春樹の強い言葉で遮られた。
「せっかくのデートなのに、一人でいなくなっちゃって。俺一人であそこでじっと待っていたんだよ?」
「あ……」
 そうだ、亮太が戻るまでずっと。忙しい春樹がせっかく作ってくれたデートの時間だったのに、一人で待たせてしまった。
「だからもう、亮太は俺なんかより、他の男といるほうが好きなのかなって思うだろ? だったら、一人でいた方が、いろんな男とやり放題じゃん」
 それは違うと思いっきり頭を横に振っていた。
「お、俺は、春樹と一緒にいるのが好き、一人は嫌、他の男も……ごめんなさい……、言うこと聞けなくてごめんなさい……」
 目の前に来た春樹の靴の先に指を触れさせ、深く深く頭を下げる。
「いっつも亮太はそうやって謝るけど、信じらんないんだよね。そうやって謝っても、結局は同じことの繰り返し。好きなように俺を振り回して、楽しんでるんだよね」
 鬱陶しそうに足を振り払われて、吐き捨てるように言われた言葉にも胸が痛い。春樹を傷つけたと思うと、こんなにも、息をするのも辛い。
「違う……、本当に……本当に、ごめんなさい……ごめんなさい……」
「だったら、なんであの場所から離れたかちゃんと言えるよな」
「う、うん……言える……」
「じゃ、最初からちゃんと教えて」
「うん……」
 どさりとソファに腰を下ろす音が聞こえて、亮太はじゅうたんの上についていた手で拳を握った。
 ほんの少しの安堵と、それ以上の緊張が襲ってくる。
 あんなことを言ってしまったら……春樹はきっと怒るだろう。
 怒って……、こんな汚い亮太なんて、本当にいらない、って言うかもしれない。しれないけど、でも。
「早く。ねえ、俺、もう眠いから。明日早いんだよ」
 ふわあっと大きなあくびをされて、そういえばと、春樹は明日朝早くから用事があるんだったと思い出す。
「ごめんっ、あのっ……」
「いいから、早く」
「う、うん……その、は、春樹が電話をするのに離れた直後に……」
 亮太は、あのときのことを説明し始めた。


「それって結局亮太が誘ったんだよな」
 男たちに連れ込まれたのだと説明をしていて、不意に春樹が言葉を挟んできた。
「それは……」
 確かに、男たちもそう言っていた、けど。
「春樹がいやらしい臭いをプンプンさせて、卑猥な言葉で男たちを誘ったってことだよな」
「でも、それは……」
 言ってしまえばそうかもしれない。
 だけど……。
「確かに、あのときの亮太はあんなところで発情してたもんね。俺もちょっと心配だったんだけど、まさかあんなところで男たちを誘うなんて……。ほんと、亮太は見境がないよな」
「あ……」
 違う、と言いたいのに。決して誘ったつもりはなくて。でも、見上げた先で春樹の冷たい視線を向けられて、硬直する。
「今日のデートの間だって、ずっと勃起して、はあはあ喘いで。そういえば、ジェットコースターでぶんぶん振り回されていたときも、悲鳴っていうよりかは喘ぎ声の方が大きかったもんね。下りるときに、後ろのお客さんが変な目で見てたっけ」
「そ、それは……でも……」
 加速がかかるたびに上から固定するタイプのバーが乳首を押しつけ、腰回りのベルトが張型を抑えるベルトを締め付けて、ひどく感じてしまったことは間違いなかった。
 客の視線というのも、そのとき春樹に言われて振り返ったときに、確かに見られていた。あの男たちの目は、確かにいやらしく歪も、春樹を舐めるように見ていた。
「ライドでも、お化け屋敷でも、ね」
 映像が再生されている間、ライドが小刻みに動くのが堪えられなかった。
 粘着質な触手を模したものが首筋や尻をなで上げる刺激に、膝から力が抜けかけた。
 そのたびに変な声を出しかけて、必死に飲み込んではいたものの、聞こえたものはいるだろう。
「あ、ああ、ごめんなさい……ごめんなさい……」
 誘うつもりなんてなかったが、こんなに淫乱な身体はいつだって男を誘うのかもしれない。
 せめて身につけている淫具を外してもらえれば、と思わないでもない。だけど。
「しょうがないよね。春樹は、いっつもマンコに何か入れていないと満足できないし、一晩で何回達っても足りないってぐらいに欲求不満なんだもんな。だから、デートだけど、そうやって玩具を入れてていいよとは言ってるんだけど。なのに、別の男どもを誘うなんて、俺に失礼じゃないか」
 こつこつと額を指先で叩き、しょうがないとばかりにため息を吐かれる。
 その言葉に、胸の奥が軋むように痛む。
「ごめん……ごめんなさい……。そんなつもりはなかったんだ。ただ、逃れられなくて……」
「そんなの思いっきり叫んで、暴れて逃げたら良かったじゃん。でる、どうせ触られるだけで腰砕けになって、連れて行かれたんだろう?」
「あ……うん」
 それは事実なので思わず頷いた。
「ほら、やっぱり、亮太が誘ったんだよ」
「え……」
「朝まであれだけ……亮太が欲しがるだけしてあげたのに……ほんと、貪欲なんだよな。あれじゃあ、足りなかったってことか」
「そんなことは……」
「何言ってんのさ、そんなザーメン臭い身体になるまで遊んできてさ。ほら、さっさとその汚い服を脱ぎなよ。ここまで臭ってくる」
 顔をしかめて指摘されて、亮太は慌てて立ちあがった。
 軽く身体は拭いたけれど、それもハンカチ1枚しかなかったし、濡らしたわけではないから、薄く伸びたままで取れた感はなかった。
「ごめんっ」
 動けば自分でも臭うと顔をしかめる。
 とたんに、張型が体内を刺激して、びくりと震えたけれど、その衝動を抑え込んで、全ての服を脱ぎ去った。
 もとより下着はなく、脱いでしまえばその身体に残るのは、淫具を固定するベルトにペニスを戒める枷、そして乳首を飾るピアスだけだ。
「ああ、ほんと汚いな。というか、ザーメンぶっかけられて喜んだのかな、我慢汁が出てるし」
「こ、これ……」
「違うって言うの?」
「……いえ……」
 春樹の視線が絡みつく、それだけでじわりと下腹部に熱い疼きがわだかまる。けれど、ひくりと震えるそれは、突き出す角度までは上がらない。そのせいで鈍い痛みが、ほんの少し快感を妨げた。
 それでも衝動で尻タブに力を入れてしまい、今度は中から甘酸っぱい刺激に喉がなった。
「ああもう、ほんと、淫乱なんだから」
 春樹が亮太の身体に触れてくる。それだけで、身震いするほどに感じてしまう。朝まで、いや、さっきもさんざん嬲られた身体は、いまだに男を欲しているのだと、亮太自身でも自覚はしていた。
「だけど、俺は忙しいからなあ。だから……」
 不意に、春樹が立ちあがった。スタスタと軽快な足取りで亮太のところまで来ると、「おいで」と腕を掴み歩かせる。
「んんっ」
 急な動きに突き上げられた前立腺が、弾けるような快感を全身に伝える。
 もつれ転びそうなになった身体は、乱暴に引きずられてそのままさっきまで春樹が座っていたソファへと倒された。
「亮太、そこでオナニーしてて」
「え……」
「ケツマンコにこれを入れて……ほら、このぐらいだったら隙間に入るだろ?」
 差し出されたのは細いスティック状のアナルバイブだった。
 それを手ずから渡されて、思わず見上げた先では春樹が睨んでいる。
「ああ、また勝手に男漁りにいかないように、こうやって」
 一体どこにあったのか、ガチャガチャと音を立てて伸びてきた鎖が身体に巻き付いた。その端にあったのは、ごつい革製の首輪で金属のバックルが首の後ろで音を立てる。
 もう何度も使われたことのあるそれは、ダイヤル式のキーがついていて、番号が判らないと外れない。というよりも、後ろにあるという時点で番号など言わせようがなかった。
「ほら、これは亮太の大好きなお薬入りのローション。これがあれば痛くないだろう?」
 呆然としている間に、スティックを持つ手に、身体にと勢いよくぬめりのあるローションが掛けられる。その甘い匂いと薄く桃色のついて白いそれが、どんな効能があるか。
「こ、れ……」
 過去、何度これに狂わされたことだろう。
 粘膜を敏感にし、感度を何倍にも上げて、全身を性感帯にする薬入りだ。
 ぶるりと身体が震えたのは恐怖と、そしてその身体が覚えている気が狂いそうになるほどの快感の地獄へと期待。
「さあ、たっぷりと喘いでいいよ。ほら、初めて」
 先よりほんの少し機嫌が良くなった春樹の声音に、身体が勝手に動く。
 今は言うとおりにした方が良いと、もう本能が知っていた。
 スティックを握る手が内股を滑り、広げた足の狭間で深く埋め込まれた張型を固定するベルトをずらす。
 いい加減きついはずの張型が穴から少しはみ出て。
「汚い……どこの男のものかもしれないザーメンをそんなに入れちゃって。まさか、突っ込まれたんじゃないだろうな」
「それはないっ、そんなことはっ、隙間から入れられただけでっ」
「でも、入り口までは突っ込まれたんじゃないのか? ほら、また零れ出てる」
 尻タブに伝う感触を指摘されて、それだけは違うと首を振ったけれど。
「さっさとそれを入れて掻きだしたら?」
 心底嫌そうに顔をしかめられて、慌てた。
 先端の小さな玉がぷつりと入るのは簡単だった。けれどすぐに太くなったそれが、伸びた壁をさらに引き延ばしていく。
「ひ、ぃ……ぃ……」
 刺激に背筋が伸びて、這い上がる疼きに身悶える。
 溢れる唾液が口角を伝い、胸まで垂れてピアスを濡らした。首輪から伸びる枷が金属が擦れる音をさせ、じっとしていられないままにソファの背へと身体を押しつけた。
「遊んでないで、しっかり掻きだしなよ」
「は、い……んぐっ」
 言われるがままに細いはずのそれを抜き差しする。いつもならスムーズなそれも、すでに入っている張型のせいで、ひどくきつい。
 全身に広がる快感に手が震え、力が入らない。
 喘ぎ、固く目を瞑れば、意識がそこに集中してしまう。
 濡れ音が鼓膜を犯し思考が蕩け、だけど勃ちあがろうとするペニスの痛みが、快感に溺れるのを防ぐ。
 顰めたままに薄くまぶたを上げれば、春樹がじっと亮太を見ていた。
 すぐ傍で、手を伸ばせば届く距離で。
 抱きしめて欲しかった。いや、そこまででなくても、どこかに触れて欲しかった。
 一人でするのは寂しい。
 薬がむりやりに身体の熱を上げていた。ひどく卑猥な欲情は、もう止まらない。でも、身体はひどく熱いのに、寒い。
 だけど、春樹に手を伸ばせば拒絶されるだろう。怒りをあらわにしている春樹はいつも、亮太が勝手に触れるのを許さない。
「はる……き……」
「何?」
 返す冷たさに、涙が溢れた。触れたいのに触れられない距離が辛い。
「ごめんなさい……」
「何を謝っているの?」
「全部……」
「何? 全部って何のこと?」
「……男を、誘ったこと……、この身体で誘って……、ザーメン……かけられて……、春樹を待たせた……こと」
 たぶん、もっとある。もっともっと、亮太はいつも春樹を怒らせてしまう。
 それが判っているのに、気を付けているつもりなのに、直せない。
「ごめん……俺がちゃんと、できないから」
「だったら、ちゃんとできるまで頑張って。俺がいいって言うまでやめちゃ駄目だよ」
「うん……ん、うん……判った、ちゃんとやるから」
 許しが欲しくてこくこくと頷いたら、春樹もようやく優しい笑みを見せてくれた。それに安堵すると同時に、春樹も頷いて。
「じゃあ俺、明日があるからちょっと先に寝るね」
 そう言って、寝室へと去って行く。
「ま、待って……ぐっ」
 慌てて追いかけようとしたけれど、首輪の鎖に塞き止められた。
「何してんの、ちゃんとやるって言ったよね」
「ひっ」
 振り返り向けられる視線に硬直し、ソファへと身体が戻る。
「もう、寝るの、邪魔するの?」
「あ、……ごめん……」
「ほら、また謝る。ほんと、亮太のごめんは信用ならない」
「ちが……あ、あの、ちゃんとやる。ちゃんとやるから……」
「だったら、ちゃんとやって」
 その言葉に、亮太ができるのは頷き、手を動かすことだけだった。


★ 春樹


 快適な目覚めとともにベッドルームから出た春樹は、手早く身支度を調えると、空調が効いているのにソファに身を預けた汗だくの亮太をじっくりと眺めた。
 戒めにより斜めに起きる程度にしか勃起できないペニスの先端からだらだらと汁が流れ、何度も空達きをしただろう身体は震え続けていた。
 甘ったるい媚薬入りのローションの匂いが部屋中に漂い、その中に独特の淫臭が混じり合う。
 掠れた声音の喘ぎ声は随分前から意味のある言葉はなくて、ただ欲しがる言葉だろうということしか判らない。
「亮太、おはよう」
 機嫌の良さが滲む声音が響いても、反応はない。
 視線を移動させて深々と刺さったスティックを確認し、それに添えられた手がもう力なく動いていないのを見てとってから、春樹は笑みを深めた。
「ほら、ちゃんとしてない」
 小さく呟いて、そっと濡れそぼったペニスに指を這わせば、小さく痙攣はする。先端でぷつりと滴が浮き、枷が食い込んだ痕にまで滴った。
「嘘つき亮太。ほんとにしょうがないんだから」
 でも、春樹自身で罰を与える暇は今はない。今日朝から出かけなければならないのはどうしても動かせないのだ。もっとも、それらも全部判ってやっているのだが。
「でも、それが亮太なんだからしようがないって言えば、しょうがないかな。男好きなのも淫乱なのも最初から判っていたしね。だから、今日一日いい子でお留守番してくれたら、許してあげるよ」
 聞いていないと分かっていて囁いて、春樹にしか外せないペニスの枷を外してやった。とたんに溢れた滴は、白味を帯びていて脈打つようにではあったけれど勢いはない。
「あ、ん……いぃ……」
「ほんと、元気だよね、亮太のここは。戒めてないと垂れ流しだもんね。でもいない間排泄できないと困るから外してあげるけど、特別だよ」
 固定されていた張型もずるりとアナルから抜き出すと、一緒に刺さっていたスティックも抜け落ちた。柔らかなじゅうたんに幾つもできたシミに新たなものが加わる。
 ぱっくりと空いた空間が、呼吸とともにじわりとすぼまりかけた。
「おっと……」
 完全に閉じる前に、ノズルの長いチューブを取り出して、手早く中身を絞り出す。ローションに入れていた媚薬と似ているが、効果のある時間はかなり長い。それをたっぷりと入れた身体は、きっと一日中疼いてたまらないだろう。
「う……ぐ……」
 その刺激にわずかに反応したが、それでもまだ起きるまではできないようだ。
 しっかりと絞り出してから、亮太の手に枷をはめ首輪へとつなげる。どちらの手も胸から下へと下ろせない位置だ。
 その代わりに鎖は外したから、どこにでも行ける。
「じゃ、行ってくるね。出かけてもいいけど、ちゃんと夕方までには帰ってくるんだよ」
 ばいばいと手を振って、廊下へ出ようとしたところで、「あっ」と振り返った。少し戻って、亮太の服を全部抱えて、クリーニングの袋に放り込む。
「嫌な臭いがいっぱい付いてるから、クリーニングに出さないとね」
 これも、と、張型やらスティックも取り上げる。
 特殊なクリーニング用の袋にそれらも入れて、ドアの横の棚に置いて。
「じゃ、今度こそ行ってきます」
 返事がないのがちょっと寂しいなと思うけれど、その手に握るスマホに視線をやれば、薬が効き始めてうなされる亮太の姿が映っている。
 かわいい姿はいつ見ても春樹をとても楽しませてくれるのだ。だからこそ、そんな亮太のためにとエレベーターホール近くに待機しているコンシェルジュへしっかりと頼み事をするのは忘れない。
「クリーニングはすぐに回収して。ベッドルームは鍵を掛けているから、掃除はいいよ。今日はリビングルームだけで過ごすと思うしね。後、1時間後に食事と道具のルームサービスね。、それから1時間おきに道具とプレイのメニューを届けて選ばせて使わせて。ああ、鍵はかかってないからノックなんていらない。ああ、あの子は結構優柔不断だからなかなか注文できないかもしれないけど、僕が頼むように言ったって言えば注文できると思うから、頼むね」
「かしこまりました、高藤様」
「あ、でもお触りぐらいはいいけど、あれは俺のものだからね。スタッフ達にはそこのところきちんとね」
「重々承知しております」
 深く頭を下げた彼はやはりこの階を任せられているだけの信頼感があった。
 この階専用の特別な部屋、特別なサービス、特別なメニューは誰にでも開放されているわけではない。
 パークに隣接するこのホテルの特別な部屋は、高藤家の裏の接待にも使われる。
 躾の行き届いたスタッフは、どんな要望にでも確実に答えてくれるし、その技もすばらしい。
 春樹の言葉をすぐさま実行するべくコンシェルジュが動くのを横目で見ながら、開いたエレベーターの中へと進んだ。
「帰ったら何して遊ぼうかなあ……」
 そんな言葉は、誰に聞かれることもなく閉じた扉の向こうで消えていった。


 1時間後、待ち合わせの場所で暇だった春樹は、タブレットにつないだイヤフォンを耳に付け、リアルタイムの映像を楽しんでいた。
 そこには媚薬に侵され、浅ましく喘ぎ、解放されて吐き出し続ける自身の白濁にまみれた身体を訪れたスタッフたちに見られている亮太がいた。
 ルームサービスの朝食メニューを選ばされ、運び込まれたそれを手が不自由であるが故に、手づかみで口まで運ばれて食べるように促される。そのたびに触れた指が口腔内を嬲り、唇を刺激する。喘ぐ口から肌へとこぼれ落ちた食べ物は、別のスタッフの舌が丁寧に舐め取っていた。
 クリーニングに出したせいで衣服はなく疼く裸体を恥ずかしがりながら、それでも春樹からの伝言を伝えれば亮太は彼らに逆らえない。
 そんな食事風景は、できれば直接見たかったけれど、こうやって自身がいない状況が見られるのもひどく楽しい。
 春樹がいたら、目の前でしているのに制止されないことに諦めにも似た表情で甘受するだろう。だがいなければ、どこまでが許されているのか判らずに内心では戦々恐々しているに違いない。
 食べている間も射精をし、ナプキンで拭われる。
 嬌声を挙げ続ける亮太の手元に、続いて出されたメニューは、きっと道具類だろう。選ばないと許してもらえない状況に、亮太は一体どんな道具を選ぶだろうか。もちろん、自分では使えないから彼らに頼むしかないのだ。
 春樹が嫌がっても、スタッフたちはためらわない。それが主客の命令であれば、そちらが最優先なのだから。
 結局自ら選んだ道具を使われて、心地よい声が鼓膜に響く。
 やはりあのホテルのスタッフは素晴らしい。兄たちが遊ぶために作っただけのことはあって、勧められただけのことはあった。パークの方にも出張してくれて、ほんとに頼んだとおりに進めてくれて。
 始めて使用してみたが、なかなか楽しめると今後も使う気が満々であり、春樹自身も今回の休暇はでたっぷりと気分転換ができたことに大満足だった。
 
 
【了】