【因果は巡る】

【因果は巡る】

【因果は巡る】
ギャンブラーな男の借金返済方法、と その子の話 近親相姦テイスト混み

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 それを見た瞬間、全身から血が抜け落ちていくのではないかと思うほど、音を立てて血の気が失せた。一緒に力も抜けて、俺を支える男たちの腕に無様に身体を預けてしまう。
「い、いやだっ……やめ、やめてくれ……、なんでもする、なんでも、俺が持ってるものはなんでもやるから、頼むっ!」
 その凶悪な代物から目を背け、屈強な男に向き直って情けなくも縋り付いた。だが、男は俺が逃げないと判ったから、その手を離してしまう。
 力の入らない身体はずるずると滑り落ち、へたっと力なく冷たい床に膝をつき、指がブラックスーツを着込んだ男の太い腿の布をひっかいた。
「た、頼む……あんなのは無理だっ」
 俺が縋る男が見向きもしてくれないから、背後にいた別の男たち、とりわけこいつらの主人格へと視線を向けた。
 40代の俺より一回りは上の白髪混じりの……よく言って恰幅の良い男。
 それが嗤う。
 ぶよぶよと首が見えなくなるほどに幾重にも垂れた顎が動いた。
「おまえの持っているものなど、たかが知れている。おまえの借金には雀の涙だろうが」
「だ、だが……」
 けんもほろろに却下されて、けれど、横目でうかがったその凶悪なものに震えて。
 必死になって言葉を継いだ。
「すぐに返すっ、俺は、俺が本気でやれば一発でっ」
 元々凄腕のディーラーとして、百発百中とまではいかないが、ルーレットを使わせたら右に出る者がいないとまで言われた俺だ。
 こいつが経営する闇カジノでなら、俺のような腕が必要なはずで。
「腕を過信し酒に溺れて大失態、店の損失を返そうとして火に油を注ぎ、解雇。さらにそのときに作った借金のために賭博に手を染め、そこでも増やした借金を、さらにギャンブルで返そうと? しかもヒモになってた女、男どもにさんざん甘い言葉でまたがって腰を振ってたくせに浮気三昧。浮気相手からも言葉巧みに金を取って、方々から返せと追い立てられている始末」
 全てがばれているのだと、知っているのだと言い放つ男に、それでも俺は。
「そ、れはっ、俺は——うっ!」
「……ふざけるなっ」
 その声音は静かだった。だが、辺りの空気がビリビリと震えるような緊張感と圧迫感があった。
「減らすどころか増やす一方の淫売ギャンブラーの言葉を信じるものなどいない。せいぜいが客受けするその小綺麗な顔をゆがませ、変態どもに媚びを売ってお情けの小銭をもらうのがせいぜいだろうが」
「うっ……」
 男が近づき火のついた葉巻の先端を俺の目の前に持ってくる。ちりちりと真紅に輝くその高温に俺が慌てて後ずさろうとした。だが、さっきまでびくと動いてくりなかった男が俺の頭をがしっと押さえ、日に近づける。
「や、やめっ、あっ……」
 鼻の頭に熱を感じた。
 葉巻の煙が目に染みるほどなのに、動かせない。
 近づく火種に、顔は熱く汗が噴き出し、全身を襲う悪寒に冷たい汗が流れた。
 じわっと股間が濡れていく。
 この闇カジノに入るためにかろうじて残っていた一張羅を引っ張り出したものだが、それが無様な染みを広げた。
「……せいぜいが、そうやってヒイヒイわめいているのが関の山のゴミよ、てめぇは」
 火種が離れると同時に、手も離れ、俺はその場にへなへなとへたり込んだ。
 のろのろと鼻先に手をやれば、火傷とまではいかないが、それでも高温にさらされて少しヒリつく。
 しかも、股間から漏れ出た液体は、高価な絨毯まで染みを作ってしまっていた。
「また借金を増やしやがって……、おい、こいつをさっさと連れていって……そうだな、馬とのファックショーにでも使やあ、クリーニング代ぐらいはなるかもな」
「かしこまりました」
「い、いやっ、待って、待ってくれっ、馬、馬なんてっ、冗談だろっ、なあ……」
 馬のファックショーなんて……あ、あの、馬の……まさか?
 想像したくもない、だが、知らないわけではない馬の性器が頭に浮かぶ。
 む、無理、無理だ。
 さっき見せられた彫像のペニスのほうがまだマシだ。
 あれにまたがって腰を振るぐらいのほうがよっぽどいい。
 ぶんぶんと頭を横に振る。音がなるぐらい、耳に髪が当たる音すらした。
「てめぇの借金を返してもらうんだ、そんぐらいで音を上げちゃ困るな」
「だ、だったら、あれにまたがって……腰、振りゃ、良いだろ?」
 指し示す巨大なヘラクレス像に、男も視線をやって。
「もちろん、それもやってもらうさ」
「……それ、も……」
「年増とはいえ、てめぇぐれえ小綺麗だったら、あんあんわめくだけでも小金は稼げるだろうからな。なんせ俺のカジノに来る客は、反吐がでるぐらいなファックショーが好きな奴が多く、アクターがすぐ壊れちまって居着かなくて困ってたんだ。雇ってやるから、しっかり稼げよ。借金分な」
 男がひらひらと俺の前で何枚もの紙を振る。
 そこには俺のサインが入っていて、いずれも借金の契約書だった。
「ここにあるのが最低分だってこたぁ、自分でも判ってるだろう?」
「……ぁ、ぁ……」
 瞠目し、開いた瞳からボロボロと涙が溢れて流れた。
 両脇から腕を掴まれずるずると引っ張られる。
 呆然と見つめる先で、男が傍らの部下に何かをささやいていた。
 いや、ちらりと俺を見やった男はそこで声を大きくして。
「どうせ返済にはまったく足りねえからな、あれの血縁でもなんでもいい、稼げそうな奴を連れてこい。どうせ女遊びをしまくってるから、いろんなところで子を作ってるだろうからな」
 そんなもの……知らない。
 そういや、何人か、身ごもったとかなんとか。
 金を出せとかいうのが鬱陶しくて逃げたこともあったっけ。
 だが、俺みてぇなやつの子なんか、みんなおろしてるだろう。だいたいそんな失敗は、オレでも相手が誰か記憶のない若いころのことなのに、そんなん見つかるわけねえだろうが。
 それに、店を辞めてから昔の仲間たちにも会っていない。さすがにそんな連中までこいつらも手は出さないだろう。
「三人ばっか仕入れられれば元が取れるか」
 そんなんあり得ねえよ。
 ああ……でも、いたらいいな。
 実は子供がいて、そいつらが俺の借金を返してくれるんだったら、いいなあ。



 目の前のモニターで、男が一人巨大なヘラクレス像に尻穴を抉られて、アンアン喘いでいた。
 モニターはいくつもあって、銜えているところも男の顔もはっきりと判る。
 その大理石のペニスは機械仕掛けでピストンしていて、しかも身震いするぐらいにでかく、長い。あんなものがよく人の尻穴に入るものだと、その痛みを想像して恐怖に身を震わせた。
 けれど、そんなことを考えたのは一瞬で、オレは後ろ手に縛られ転がされているという不自由な格好で、ぶよぶよに太ったおっさんを睨み付けた。
 友達と街で飲んだ帰り、アパートの鍵を開けようとしたとたんにスタンガンみたいなもんで昏倒してしまって。気がついたらこの姿勢で、モニターはあれで、スピーカーから嬌声とも悲鳴ともつかない声が響いていたというわけで。
「どうだい、父親主演のファックショーは」
「知らねえって言ってんだろうがっ、オレには父親なんていねぇっ」
 物心ついたときには父親の姿はなく、シングルマザーの母親は放任主義ではあったが金だけはくれた。
「ちゃんと調べたさ、DNAもね。あそこにいる、尻に何を突っ込まれても悦ぶ淫売は、ちゃんと君の父親だね。当然君にも淫売の血が流れているというわけだ」
「冗談じゃねぇっ、たとえあんなんが父親だったとしても、なんでオレまで淫売なんだよっ」
 ほんとは少し判っていた。今は醜く快楽に歪んでいるが、その横顔からしわとか取ったらオレにくりそつだったから。
 だからと言って、聞き捨てならない物言いだけは許さない。
「そうかな? だったら試してみるかい」
 嫌な笑い方をする男だった。
 俺を拉致した連中からして、こいつもろくな奴ではないだろう。ぶよぶよの愚鈍な生き物のように見えるのに、その眼光の鋭さは肉食獣のそれだ。
 決して近づいてはならないと言われた夜の世界の生き物。
 男が視線で合図するだけで、別の奴が動く。
「止めろっ! 触んじゃねえ、ちっ!」
 音を立ててコットンのシャツが引き裂かれた。せっかく手に入れたビンテージのジーンズもただの布きれになり、下着は二つになった。
 そいつらは手際よくオレを丸裸にすると、足を大きく割り広げた。
「い、いてぇっ、男のんなとこ見て、何がおもしれぇんだっ、この変態やろうがっ!」
「その変態やろうがこの世には多いのさ。商売になるほどねえ」
「触んなっつってるだーがっ、うっあっ!」
 容赦なく急所を握られて悲鳴が零れる。情けなく縮こまったチンポに走る痛みはほかを傷つけられるのとは違って恐怖も教えて、動けない。
「なかなかいいサイズをしている。太さも長さも……ふむ、そういえば東洋系だったか、君の母親は。いいね、この硬さもエラの張り具合も」
 裏に表にこねくり回し、変態野郎に見せつけて、落とされる批評に全身が怒りで熱くなった。けれど、押さえつけられた身体は逃げることもできず、ただ悔しさに涙が出る。
「うんうん、突っ込むには申し分ないな、女も男も悦ぶ代物だ」
 褒められても嫌な気分しかわいてこない。
 だが、そんなことで弱音を吐いている場合ではなかった。
「ひぃっ、いぃっ、あっ……」
 冷たいどろりとしたものが尻を垂れた。と思う間もなく、つぷりと異物がオレの中に入ってくる。入ってすぐに何かを探るように折り曲がるそれが指だと、太い指だと気付く。思わず走らせた視線の先で、男の一人がオレの尻穴に指を突っ込んでグルグルと回していた。
「どうだ?」
「このきつさ、処女ですね。男慣れはしてないですから」
「うっ、うるせぇぇっっ」
 何が処女だっ、男なんか相手にすっかよっ、これでも、女の子に不自由したことなんかねえんだっ、て言いたいのに。
 さらに指が追加されたのか、穴が広げられる感触に息を飲む。
 まだ痛みはない。だが、圧迫感が増している。それから逃れようと這い上がるが、押し戻されたうえに腹の上にごつい尻が乗せられた。
 そのせいで何をされているか、全く見えなくなる。しかも、両方の太ももを掴まれて、限界まで広げられた。
「いい締め付けだ……ん、ここですね」
 何かを探るように動いていた体内のそれがぐいっと内壁を押した感じがした。
「ひっ! な、何したっ! あ、ぁんっ」
 口が勝手に変な声を出しやがった。
 下腹をビリビリとした痺れが走り、よどんだ熱が一点に集中する。
「そ、そこっ、あうっ、やぁぁっ!」
 自分の意思とは無関係に、指がそこを押すたびに快感が全身を駆け巡る。
「ずいぶんと感度が良さそうだ」
「ええ、きゅうきゅうと締め付けて、ほら、三本目っすよ」
 言われても、じっとしていられないほどの快感に、激しい射精衝動に襲われていた。熱く、重苦しい熱が集まり、肉欲に溺れた身体が解放を求めてさらなる刺激を欲していた。
「やめっ、きつぃっ、……くそっ、……なんでっ、こんなぁっ」
 自分が自分じゃない。
 広げられるたびに痛みが増すのに、快感も増す。
 なんでケツがこんなにいいんだよっ。
「いいですね。これなら細身の奴ならスムーズに入りそうですよ、ああ、感じるたんびにぐねぐねと中が締め付けてくる」
「細身ねぇ」
 変態野郎の声が遠く聞こえる。
 生理的な涙を蓄えた視界は、どこかぼやけてはっきり見えない。
 だから判らなかった。
「彼がいいだろうね、処女開通相手は。細身どころが結構太いが、この子と違って柔らかいからいいんじゃないか」
 野郎が何を指したのか判らなかった。



 ぴっちりとした分厚く目隠しはオレの全ての視界を遮り、明暗すら判らない。
 棒状のものを噛ませられた口は、うなるぐらいしかできなくて、拒絶の言葉は許されない。
 ただ音は聞こえる。
 カジノ特有の機械が出す音が、ディーラーや客が上げる声が、鮮やかにその情景を脳裏に浮かばせた。
 その中にオレはいる。
 真っ裸でオレはいる。
 だが、恥ずかしいとかそんなことを考えられたのは、しばらくの間だけだった。
 すぐに全身至るところが性感帯かのように敏感になり、触れて欲しくて、けれど触れられるのは嫌で、訳の判らない感情とこみ上げる激情に意識がもうろうとなっていた。
 熱くて荒い吐息をハアハア言いながら口枷の隙間から漏らし、わだかまる熱に全身を汗で濡らして。
 背中に当たる柔らかなそれは、汗を吸い込まないようで肌に張り付いて気持ち悪い。大きく割り開かされた足は、両の足首それぞれを高い位置で固定されて、閉じることは叶わないし、両腕は頭の上で括られていた。
 腹の中でよどむ熱が苦しくて身じろぎするたびに金属質の音がするからつないでいるのは金属製の鎖だろう。
 そんなことは判るのに、外で何がどうなっているのか、ここに括られてからどのぐらい時間が経ったのか判らない。
 あの変態野郎が前準備だとオレに浣腸なんざを施しやがったその後に、中にたっぷりと注がれた何か。
 時間が経つにつれて、中がじんじんと熱くなり、疼く。
 中で虫が這い回っているような微妙なくすぐったさがこみ上げて、時間が経つにつれて肌の下でざわめいている。
 痛みとは違うそれが、オレの下腹を熱くして、チンポがいますぐにでも射精をしたいとばかりにわめきたて、腰がガクガクと揺らいだ。
 熱くて、苦しくて、じっとしていられない。
 肌も敏感になっているのか、にちゃっと肌にひっつく感触すらも、オレは熱い吐息を吐いた。
 そんなオレに。
 何かが触れた。
 ぴとりと、冷たいものが汗まみれの足に触れ、少し気持ちいいと息を吐く。
 それに続いて何かがオレの股間に近づく気配。そして、荒い息づかい。
 うるさかった外の音が、少し静かになったような気がして、その分、その息づかいが大きく聞こえる。
「……ぁ……」
 誰かがオレの足を掴んだ。
 括られた状態の足を腹のほうに押しつけようとして、そのせいで腰が浮く。
「……っ」
 今度は会陰にひどく滑ついて熱いものが触れて、ずるりと滑った。まるで戯れているように、上下する。
「んっ、ぁぁ」
 何だろう、気持ちいい。
 そこを押されるたびに、中の器官が妙なる快感を呼び起こし、全身がガクガクと震えた。仰け反った背に、冷たい空気が通り過ぎる。
 もう一方の足にも触れた冷たい何かが、ぐっと肌に食い込む。痛みすら走るほどに強く……掴まれたのだと知るより先に、腰が上がり、滑る熱がずるりと下がった。
「ひっあっ!」
 ずるんと尻の狭間のくぼみにその先端が触れた。まるでボールが道の穴にすっぽりと収まったように、しっかりと閉じた穴が圧力で押し広げられる感触に、熱で呆けた頭もその正体に思い至った。
「ひっ、い、あぁっ」
 悲鳴がほとばしる。
 それに煽られたかのように柔らかい先端がぐいぐいと押し込められていく。
 頭の中を、あの変態野郎の声がこだましていた。
『最高のショーになるよ』
 どんなショーなのか一言も言わなかったけれど、判らないほどウブじゃない。
 逃れようと背でずり上がろうとしたが、掴まれた太ももに食い込む指は強く、身体を浮かしたせいで少なくなった背の摩擦のために、返って引っ張られる始末。
 そうこうしているうちにぐぐぐっと入ってくる。
 締め付けても、中と外の滑りに負けて止まらない。
「うーっ、ぐっ、ぅぅっ」
 嫌だっ、嫌だっ、嫌だっ、なんでオレがっ、小汚えチンポなんか突っ込まれなきゃなんねえんだよっ! オレが何したって言うんだっ!!
 奴らに掴まってから何度も繰り返し叫んだ言葉は、意味の判らぬ悲鳴となり、オレの耳に届く。
 広がっていく。
 じわじわと入るそれは指より大きく、痛みが増していく。
「ふ——っ! うーっ!」
 ぶんぶんと頭を振った。嫌だと振ったのに、止まらない。
 それどころか。
「へっ!」
 不意に目の前が明るくなった。
 見えた視界の中にオレがいる。大股をおっ広げて、ベッドみたいな台にくくりつけられて足を高くして。股の間にはうつむき加減の人の頭と身体がいて、腰を突き出して。
 ちょうど真上から自分を見下ろしているような。
 赤の他人だと思いたいが、だが、あれはオレだと直感で判った。
 リアルタイムで目の前に映し出されるオレ、その股間に向かって腰を突き出す男。その天井ぐらいからだった画像が徐々に近くなる。
「あ、あっ、あ——っ!」
 それを呆然と見つめるしかないオレの身体がギシギシと軋み、たまらず悲鳴を上げた。
 濡れた茂みとなぜかいきり立っているオレのもの。その後ろに暗い色に沈着した細長い肉がずぷりと潜り込んでいる。
 感触と痛みと、オレの中を突き進む肉。
 それをドアップで見せられ、オレは暴れた。唯一自由になる腰を動かし、胴体をくねらせて逃げようとした。
 だが。
「あひっ!」
 ずんと一気に奥まで押し込められ、尻タブに毛むくじゃらの感触がして、びちゃっと気持ち悪い肌が張り付く。
「あ、あっ……」
 裂けそうな痛みより、圧迫感がすごかった。太さもそうだが、長い。腹の奥まで入りこんだそれに、内臓が突き破られるんじゃないかという恐怖に身がすくみ、身体が冷える。
「ういえ……、あのう、ういえ……(頼む、抜いて、頼む)」
 目隠しの中に水が溜まってきていた。
 もういいじゃないか、入れたんだからいいじゃないか。
 頭を起こし、必死になって見えない相手に懇願していた。
 だが。
「さいこー……」
 耳に届いたそれは、オレの懇願などなかったように嗤っていた。
 楽しげに、嬉しそうに。
「むっちゃしまりがいいぜ、これ……ああ、最高だ」
 うっとりとのたまうその声を、オレは聞いたことがあった。
 ほとんどが悲鳴とか嬌声とか、そんなものだったけれど、でも。
「これでもテクニシャンで人気者だったんだ、あんたも最高の気分にさせやるさ」
 想像を否定したいのに、映像がスパンしてオレを犯す男の顔を映した。
「あんたを犯ってドライでイかせたら、オレの借金を半分にしてくれんだってよお、あんた、なにやったんだあ? まあ、そんなことはどうでもいいけどよお」
 嗤うその顔は、薬物に犯された独特のゆがみがあった。目はどろんとよどみ、口元は崩れて口角から涎が流れている。
「顔が見えねえのが残念だが、なかなかのイケメンだしな。俺の若いころに似ているかあ?」
「い、あっ、やえっ、あっ」
 逃げることもままならない中で、ずんと突き上げられる。
 あり得ないほどに奥に感じる男の先端が直腸の壁を抉っていた。そのとたんに背筋を脳髄まで激しい快感が走り抜けた。
 悲鳴は出ず、息が止まるほどのそれに、全身がピクピクと震えた。
「感じるのかよ、いいねっ、ここで感じる奴はそういねえけど……これは楽しめそうだ」
「ぐあ、ひっ、うっ」
 とたん始まった激しい抽挿に、オレはもうのたうち回るだけだ。
 頭の上で鎖がガシャガシャと音を立て、身体の中を荒れ狂う快感に、しだいに思考が蕩けていく。
 一度も会ったことがなかった父親とはいえ、相手が父親だ、という意識が、拒絶反応を起こして理性を崩壊させていた。
 まして、最初にあった痛みは薄く、ぐっちゅぐっちゅと抜き差しされるだけで快感が神経を痺れさせる。
 受け入れてしまえば、伝わるのは快感ばかりだ。
 さんざんに高められていた身体で、溜まりまくった快感の渦が崩壊するのはは早い。
「あ、あーっ、あーっ」
「へっ、良い声で泣きやがる、ほらっ、イケよっ、イッてしまえっ」
 一気に集まった下腹の熱が膨れ上がり、爆発する。
「ひあぁぁ——っ! いうぅっ、いああっ!」
 ビュビュッと飛ぶ白い塊。
 揺れる身体から出るそれがオレの腹のあちこちに散らばって肌を刺激し、上げた嬌声が鼓膜すら感じさせた。
 それなのに、またチンポに快感が集まる。
 突っ込まれた尻がヨクて、抉られるたびにたまらない衝動が身体の中を駆け巡った。
 感じるはずのないオレはもう完全に肉欲に溺れていた。
 溢れる涙に視界はぼやけ、至近距離の映像すらはっきりと見えない。
 だが、揺すられながらジャンキーと化した男のにやけた顔だけははっきりと見えた。
 そして、カメラがスパンしてオレの顔を映し出す。
 ヒイヒイと喘ぎながらその口元はだらしなく舌を枷に絡め、口の端から涎を垂らして、歓喜の嬌声を上げていた。
 耳から聞こえるとおりに、オレは嗤っていて、嗤いながら犯されていた。



 初めてオレが男に犯されたその日。
 全てが終わって意識すら失っていたオレには、その後どうなったのか判らない。
 ただあの出来事からオレの運命ががらりと変わったのは確かだ。
 今いるのは祖国から遠い外国の地で、求められるのはあの日オレを、父親が持っていた借金以上の金額で買った男にかしずくことだけだった。
 買ったのは精力旺盛な大富豪にも名を連ねるビジネスマン。
 この身体で尽くすことだけを求められ、反論も反抗も一切許されない。時に秘書としてビジネスの間にも傍で仕えさせられ、そちらでの技能も身につけさせられたが、性奴隷としての本分は変わらない。
 男が欲するときにこの身体を差し出し、ストレス解消のためにこの身を犠牲にするのは変わらないのだ。
 男の不興を買えば、手ひどい折檻を与えられ、オレの背に残る鞭の痕も、淫らなタトゥも、性器に施されたピアスもそうやって増えていった。
「マスター……お恵みを……」
 この前、施された精液を零したと二日間水しか与えられていない身体はもう限界で、泣きながら赦しを請う。
 何も言わないマスターに縋り付き、この二日思うさまに与えられた折檻にくたびれた身体を差し出せば、蔑んだ笑みが落ちてきた。
「そんなに腹が減ったなら、いいものをやろう。先ほど届いた新鮮なものだが、おまえの好物だろう」
 そういって、投げ出されたアルミパウチの吸い口のついたパックはまだ冷たい。
「あ、りがとう、ございます、ありがとうございます、マスター」
 だが、オレは泣きながらそれを掻き抱き、何度も頭を下げた。
「飲め」
「はい、ありがとうございます」
 震える手で硬く締められたキャップを外し、吸い口を口に含む。
 パウチをぎゅっと手で押して、押し出されたそれを口に含み。
「んぐっ!」
 鼻を通り過ぎた独特の臭いに、息を飲んだ。思わず吐き出しそうになったそれに、慌てて口を押さえる。
 ぼとりと落としたパウチの容器を、零れる前にすくい上げたのは、この身に染みついた恐怖のせいだ。
「どうした、うまかろう?」
 嗤うマスターにオレは震えながら頷いた。
 頷くしかオレは許されてない。
「こ、れは……」
 だけど、許されていない質問をしてしまうほどに、その臭いは強烈だった。
 いくら自分のものやマスターのものは味わい慣れていたとしても、予想だにしなかったザーメンの味は、含んだそれを飲むのも苦しい。
「ああ、それはおまえの父親のものだ。一ヶ月出してない後に、丸一日快感を与えて最終的に取り出した一番絞りだから濃厚だという話だが、どうだ?」
 その言葉に、ブルブルと震えたのは、こみ上げる怒りのせいだ。
 こんなことになっても、まだ自分を苦しめる。
 父親という、ただ血のつながりがあるだけで何ももらっていない相手に、オレはどこまで苦しめられるのだろうか。
「どうした?」
 問いかけに答えなかったせいか、マスターの声音が明らかに低くなった。
「も、申し訳ありませんっ、おいしいですっ、ありがとうございます、こんなおいしいものをっ」
 これ以上機嫌を損ねないためにも、慌てて床に着くほど頭を下げて、えぐい飲み物へと口をつけた。
 うまそうに音を立ててそれをすすり、それが誰のものか考えないようにして喉へと落とす。
 わずかな量とはいえ、それを空っぽの胃の中に落とすしかオレにはどういようもなかった。



 マスターと共に、再びあのカジノを訪れる機会があったが、父親だという男はいなかった。
 オレを目にしても、あのぶよぶよ変態野郎は何も言わず、上客相手のように振る舞った。
 それを、オレは何の感慨もなく受け入れる。オレには何かを考えることは許されないのだから。
 体内で振動を与える淫具に身を震わせ、熱い吐息を零しながら、ただ男の半歩後ろで控えて、男が遊び終わるのを待つことしか許されていなくて。
 視界に入ったヘラクレス像で喘いでいるどこかで見たような顔の、オレと大して年の変わらぬ栗色の髪の若い男が誰か、なんとなく想像はついたけれど。
 オレはただ自分の中の熱がいつ解放させてもらえるのか、そればかりを考えていた。

 
【了】