七夕の短冊

七夕の短冊

男娼 お仕置き、躾け、連続調教、狂気、淫乱化、救い無し
逃げようとして捕まった男娼の話

整えられた日本庭園に面した縁側の柱に、一本の笹が括り付けられていた。
青く瑞々しい葉は剣先のごとく鋭くピンと伸びている。その笹の枝に、3枚の短冊が風に吹かれて揺れていた。
厳かな庭園にそぐわぬ赤、金、銀の短冊には、何かの文字が垣間見える。
ひらりひらりと舞うそれに静謐な月光が降り注ぎ、天高くある天の川を遮る雲はない。
雨が多いと言われる七夕伝説の夜ではあったけれど、今宵は織り姫と彦星も楽しい逢瀬を重ねることができるだろう晴天だった。
そんな初夏の夜に心地よい風が通り過ぎる。
ひらり。
風が裏返しになっていた金の短冊をひっくり返した。
波打つ墨は達筆で、けれどかろうじて読めた短い言葉は明確にその意味を読む者に教えてくれる。
『たくさん……』
もっとも今宵はそれに目を向ける者などそこにはおらず、人々は静かに縁側で己の番が来るのを待つだけだ。
そして、その願いを書いた当の本人もそれどころではなく、叶えられた望まぬ願いにただただ歓喜の声を上げ続けていた。
「い、あぁ──ぁぁ、ふ、ふとっ……ああ、苦しぃぃっ、あんあぁ、うくん……んふっ」
艶めかしい熱のこもった息遣いが真っ白な障子を振るわせて、美しい庭園に妖しい色香を加えていき、聞く者に狂おしいような欲情を湧き起こさせる。
縁側で待つ男達は、いまは2人。
一般的に見ても体格の良い、肉体仕事を主にしているであろう筋肉質を縮込ませて、淫らな声が響く障子に向かって座っている。
10分前とつい先ほど来たばかりだが、それでもこんな熱っぽくあからさまな嬌声を聞かせ続けられては堪らない。
今や彼らの瞳は狂おしい熱に孕んで赤みがかっており、その息は荒く、スラックスに包まれた股間は硬く盛り上がっていた。
「ん、んっ、あ、ぁぁぁ、そこぉぉっ、あひぃぃっ、イイ、イイッ、奥ぅぅっ、ぁぁ」
淫らな嬌声に被さって、規則的に濡れた音も響いている。
荒い男の息遣いがそれに上乗せされ、ぱんぱんと乾いた音も同時に重なった。
男たちが凝視する障子は薄く、けれど中に灯りがないのだろう、何も透けては見えない。見えないからこそ、想像逞しく男たちを煽り、彼らの欲情を掻き立てるのだ。
「あ、んっ、んぁぁ、んあぁぁっ! 熱っ、ああっ!!」
ひとしきり早くなった音と嬌声に、男たちがごくりと喉を鳴らした。
姿勢良く座っているはずの腰が焦れったく蠢いて、期待するかのごとく震えている。
「いあぁっ!! あっ、あぁぁっ!!」
ああ、何をしているのか?
クライマックスだと判る勢いは、けれどその激しい歓喜の声に、一体何をされているのか?
視認できないからこそ、想像が逞しく湧き起こる。
「んぁぁぁぁぁぁっ!!」
高く長く響く悲鳴にも似た嬌声が障子を振るわせ、衣擦れが響き、何かが落ちる音もした。
ああ、達ったのだ、と誰もが気付き、ちらりと互いに視線を交わし、口元が緩む。
内の一人が己の腕時計に目をやって、さらにその口元を綻ばせた。


軽い音を立てて障子が開いたとたん、濃厚な性の臭いが青い笹の匂いに混じっていく。
出てきたのは、外にいた二人と同様の体格の良い男で、満足そうににやけた笑みを見せていた。
「最高だぜ、やっぱ、高級品はよお。いや、マジ、サイコー」
場所に似合わぬ下品な物言いでひとしきり感想を零し、座って待つ二人に「お先に」と声をかける。
そして、笹から一枚短冊を引き千切り、くしゃっと軽く丸めて部屋の中へと放り込んだ。
軽いそれは風に煽られ、奥まで届かずふわりと畳の上に落ちていく。
赤色が一つ、だがその向こうに青色や黄色の短冊が転がっているのも見えた。
半端な丸め方のせいか、畳に落ちたその短冊の文字を読み取るのもたやすくて。
『チンポを縛って、チン先をいっぱい虐めてください』
『ドライオーガズムをいっぱいしたいです』
そんな短冊の文字を、縁側にいた二人が踏みつけながら入ってきた。
座っていても立派だった体格は、立ち上がると圧迫感すらある。そんな彼らが入ってきた和室は、真ん中に布団が一枚敷かれているだけの、家具というものは何も無かった。ただ、その布団の周りに、踏んでいる短冊と同じようなものがいくつも転がっている。くしゃくしゃに丸まっているもの、細かい紙片に破られているもの、ねっとりとした粘液に濡れて文字が滲んでしまっているものもある。そんな短冊が十数枚はあった。
「さて、今度は俺たちが願いを叶えてやるぜ」
男の一人がニヤリと嗤いながら、布団の横にひざまずいた。
「俺は、『乳首をいっぱい虐めて欲しい』というのを叶えてあげるよ」
その手が握るのは、乳首クリップやらバイブレーターの淫具だ。
そして、もう一人は懐から数本の棒を取り出した。
「こっちはこれだ、チンポをたっぷり虐めてやるさ。『垂れっ放しのチンポ穴にお仕置きをしてください』って」
話しかける先で、「ううっ」と小さく呻き、閉じられていた瞳が薄く探るように開く。
布団には一人の青年が全裸で、ありとあらゆる粘液でまみれた身体を横たわらせていた。
そんな彼が、ゆるゆると首を横に振った。
「ふ、たり、やだ……も……、も……、ゆるし、て……」
けほっと小さく咳をした拍子に、口の端を白い粘液が垂れていく。震える指が縋るように男に伸ばされた。
動いたせいか、ぽたりと落ちたのは細い紐だ。ペニスにくっきりと残る痕はそれのものなのだろう。縦横無尽に残るそれは痛々しいほどに色を変えているけれど、何よりペニスの先が真っ赤になるほどに腫れていた。
その腰辺りに転がるのは子供の腕ほどにあるバイブが数本で、どれもが潤滑剤をたっぷりとまとっている。
「も……無理、です、……おねが……」
数度瞬きして、こめかみに涙がこぼれ落ちていた。
もう起き上がる気力もなさそうな彼に、けれど男たちは嗤い零すだけだ。
「良かったなあ、お願いしっかりと叶えてもらってんじゃん」
「運が良いぜ、短冊に書いたお願いを全部叶えてもらえるなんて、すげえぜ。あんたの日頃の行いがよっぽど良いってことだからなあ」
「や、だっ、……っ、ゆ、許し、ぇっ、も、もうっ、ごめん、なさっ、やああっ」
のしかかる男たちに、動かぬ身体で必死になって抗うけれど、逃げることなどできるはずもなく、ただ悲鳴だけが庭園まで響いていた。


泣きじゃくり、繰り返し謝罪をする彼──タカネに、男たちは止まらなかった。
もとより憐憫の情など無い。
今回は、躾とお仕置きも兼ねてたっぷりと犯せと、上からも命令されていた。
高級男娼として使われている者を、荒事や肉体仕事専門である彼ら下っ端が使って良いなどという僥倖は滅多に無い。まして、彼は逃亡を図った罰を受けている最中で、情けなどかける必要もなかった。
力の入らぬ腕を捉え、邪魔だと捕らえ、枷に繋ぐ。
「あ、や……痛……」
一回終わるたびに全ての道具は外されるが、もう何度も枷はされているのだろう。その下にはくっきりとしたアザができあがっていた。
枷には鎖が繋がっていて、その先は畳の縁の間に覗くフックだ。
この部屋は、家具はないけれど、いろいろな隠し道具が設置されていた。天井もスイッチ一つで電動の滑車が降りてくるし、水道からのホースも伸ばすことができる。
畳に見えていても、排泄物や汚れに水を使っても痛まない材質だ。畳の下には吸引式の排水溝すらあるのだから。
何しろここは、お仕置き部屋なのだ。
店で失敗した男娼に罰を与え、躾け直すための部屋で、ここに連れ込まれた男娼は全てが終わるまで出ることはできないのだ。
一見開放的な和室ではあるけれど、その強固な密室性は牢獄と同様のレベルを持っていて、決して逃げることなどできない。
そんな中で罰を受けることになったタカネは、二ヶ月前から強制的に高級男娼とされて、客を取らされていた。
春先に名も知らぬ男たちに拉致され、その原因が昨年末に倒産した父親の会社関係の負債のせいだと知った時には、遠くに運ばれて監禁されていた。
それからしばらくしてから、その身を売られたのだ。
相手は、非合法の商売をしている者。
タカネという名を付けられ、男娼として言われるがままに客を相手にする仕事から、ある日逃げようとして、捕まった。
地に伏せさせられ、乳首を捻られ、血が通わぬほどにペニスを戒められ、鞭打たれるという数多の痛みに、彼は泣きながら屈した。何より、ペニスが腐り落ちると脅されて、その恐怖が一番強かったのだ。
そのあげく、書かされたのは10枚の短冊だ。
もとより書道のたしなみもあると知られていたからだろう、タカネの達筆な字で書かされたのは、卑猥な願い事ばかりだった。
その願い事を、七夕だからと仕置き担当の男たちが叶えていく。
すでに潰され、いじられ続けた乳首は真っ赤に腫れ上がっているし、媚薬を注がれたアナルは、痒みが残っている。口淫を続けた顎は疲れ切っていたし、精液は喉に絡んでいた。
そして、最後の二枚。
金と銀の短冊を担当している男たちは、最後の〆を飾るために二人同時なのだ。
紐が、すでに鬱血しているペニスにきつく巻かれていく。それは陰嚢すら渡って、痛みを覚えるほどにくびれ出されてしまう。
足首の枷は、天井から降りた鎖に繋がれて大きく開かされた。
ぱっくりと開いたアナルは、先ほどまでさんざん極太バイブで嬲られたせいでまだ赤く腫れたままにぷくりと膨れている。しかも、白い泡立つ粘液がたらりたらりと溢れ出ている。
男たちは短冊の通りに弄んだ後、たっぷりとタカネに種付けすることも忘れていなかったからだ。

すでに8人の精液を施された穴は、度重なる行為に熱を孕み脈打つように疼いていた。
薬による痒みは奥の奥にあって、最初の時より落ち着いていることが幸いだった。入り口近くは痒みよりも腫れた痛みの違和感のほうが強い。
もう、限界だった。
もとより捕まった直後の罰に音を上げていたのに、そんなものよりさらに酷い罰の山に、タカネの精神はすでに崩壊寸前だった。
最初の時から最高レベルの5つ星評価をもらっていた彼は、こんなにひどい扱いをされたことが無かったのだ。
どんな客を相手にするかは評価で決まり、その評価は客達が残すもので決定される。最高レベルの5つ星を持つものだけが、高級男娼のお墨付きをもらえるのだが、タカネはその姿形の中性的な美と具合の良さのおかげでいつも高い評価をもらっていた。そのために高級男娼でいられたのだけど。
だが、どんなレベルでも客に逆らえば仕置きの内容は同様だ。
こんなにも多くの男たちに連続で犯されたことも、道具を使いまくられたこともなかった。
泣いても嫌がっても男たちは止まらずに、まして今度は二人いっぺんなのだ
泣きじゃくって静止しても、高級男娼であるタカネで遊べる僥倖に、彼らの手は止まらない。
すっかり萎えたままに括られたペニスを持ち上げて、男の一人が先端に2mm径の球をつけた棒を鈴口に押しつけてくる。
「そういや、あんたはこの穴は調教済みだっけ?」
ぷつりと先端に入る球に、タカネがふるふると首を横に振る。
最初に調教されたと言っても、男を受け入れるために尻穴を解されて、後のことは客が教えてくれると、全ては客相手の中で覚えされられていた。
その中でもまだ尿道は調教されていなかった。
「む、無理……、やめて……んあっ、ぁぁ」
制止の言葉は無意味だった。
したことがないということが男を煽って、嬉々として球を押し込んでいく。
「いやあ、こんなに真っ赤っかのおっぱい、こんなんで挟んだらすっげえ痛いだろうなあ」
目の前で金属の歯の鋭いクリップがカチカチと音を立てるのに合わせて、タカネの奥歯がカチカチと音を立てる。
指が触れるだけでもじんわりと疼くような痛みがあるところだ。そこに、冷たい金属が触れて、ぶるりと身体が震える。
その間にもペニスに棒が入ってくる。それに気を取られた瞬間。
「ひ、ぎぃぃぃっ!!」
乳首に鋭い歯が食い込んで、全身を貫く激痛に食い縛った歯の隙間から、醜い悲鳴が漏れた。
「い、ぃぃ、ぃぃっ」
ペニスも、きつく縛られて狭くなった尿道にぐりぐりと無理に棒が入っていく。
痛いと叫ぶことこもできない。
硬直した身体が、びくびくと痙攣する。瞠った目の縁から、ぼろぼろと涙が流れ落ちた。
痛みが相乗効果を起こし、頭の中が白く弾ける。
「よぉし、おっぱいはこれでOK。ってことで、俺が先に種付けするぜ」
「おお、しょうがねえな、さっさとやれよ」
頭上で交わされる会話が脳を通り過ぎていく。
痛みから逃れたいと手が動こうとするけれど引っ張られたそれは届かずに、代わりに尻に何かが触れる感触をリアルに感じて。
意識に引きずられるように視線が動いて、股間の向こうに見える巨体に目が入った。
「や……」
止めて、と言いかけた口は、その形のままに息が止まった。
入り込む圧倒的質量に、息が勝手に吐き出される。
前の男が遊んだバイブ並かそれ以上の圧迫感に、強ばった身体が音を立てて鎖を引っ張る。
「せめぇな、ふっといバイブ、たっぷりもらったんじゃねえのかよ」
咎める言葉に、何も返せない。
目の前が白く弾け、瞬いて。
全てが光の渦の中に溶け込んで、何もかもが消えていく。
とろりと蕩けたように瞳の光が薄れていった。
意識が薄く解けていき、代わりに身体の奥深くから圧倒的な質量の快感が込み上げてきた。
太い、苦しい、けれど込み上げる快感に加えて奥を抉られる爽快感。
ずるりと入り込むその巨根に、タカネの喉が震え。
「んぁぁぁぁっ、イイぃっ、そこぉぉっ」
零れたのは紛れもなく嬌声だった。
腫れた前立腺を抉られ、痒いところを抉られ、8人の男たちに教え込まれされた快感が誘発されたのだ。
乳首も痛みの中の疼きを快感に変えていた。
尿道に侵入する棒が、ペニスの中から前立腺を刺激していた。
痛みはある。痛みは確かにそこに残っていて、意識を支配する。
けれど、それ以上の快感があちらこちらからタカネを襲っていた。
射精したくてもできない身体だが、もとより、ドライオーガズムを知っている。
苦しみからも痛みからも、弾けた意識の奥では快感にしかならない。
「ん、あっ、あっ、んあ──っ」
身悶え、足を男たちに絡ませ、縋り付く。
淫らに喘ぎ、体液に濡れた身体を震わせて、白い四肢が毛深い男の身体に絡みついていた。
「狂ったか?」
嗤う男の震える声が、室内に響く。
「淫売のできあがりだ」
高い音を立てて皮膚を打つ、その勢いのままに奥を抉り、戒められた陰茎を弄び、乳首を引き延ばす。
「や、ぁぁぁっ! あはぁぁっ、すごおぃっ、奥ぅ、イイっ、いいよぉ」
嬌声でしかない声音が、静かなはずの屋敷に響き渡り、濡れた淫らな音が覆い被される。
「あはっ、もっとぉ、引っ張って、いじってぇぇっ」
狂気のままに強請り、腰を振りたくる様には先ほどまで泣きじゃくっていた姿はもうない。
空虚な瞳が求めるのは、逞しい男の身体のみで、震える手が縋るように太い陰茎に伸ばされる。
何度も何度も、せがむ言葉は尽きることがなく、淫らな空気がいつまでもその場に漂っていた。

「お、お願い……もっと……」
タカネ一人が畳の上で悶える室内で、泣きの入った懇願が未だ続いていた。
男たちは終わってからも、さらなる媚薬をタカネの身体に注いでいったのだ。
それは、すでに堕ちてしまったタカネの精神をさらに苦しめるだけのもので。
高かった月はすでに低く、遠くの空がしらけ始めている。
静謐なはずの空気が障子越しに室内に伝わり、けれど湯気の立つような淫臭がタカネを中心に渦を巻いていた。
その体液に汚れた身体が身悶え、じりっとにじり寄る身体の下で、黄色い短冊が触れてちぎれていく。
転がる10枚の短冊の、そのどれもが濡れて、墨が滲んでいた。
それでも文字が目に入ったのか、瞳が僅かに動いて。
「た、短冊……お願い……あはっ、叶えたい……ねえ、たん、ざく……飾って、ははっ、笹に……」
握った手の中で金色の短冊がくしゃりと潰れた。
その手が障子に映る笹の影へと伸びる。
笹の葉に短冊を付ければ願いが叶う。
さんざんに笹の葉の願いを叶えられたタカネにとって、それだけが頭の中にこびり付いていて。
「短冊、飾るから、お願い……」
室内から障子を隔てた外へ、何度も何度も、切ないほどの懇願の声が響き渡っていた。

その夜から、タカネは5つ星から星1つの最低レベルとなり、彼の仕事場は場末の店のもっとも深い地下にある一室となって。
そこには干からびた笹の葉が周囲に散った枝だけの竹が飾られていた。
その枝にぶら下がるのは半ば千切れて、色の変わりかけたテープでなんとか補修されているしわくちゃになった10枚の短冊。
滲んだ文字は、それでもかろうじて読み取れて。
やってきたすさんだ雰囲気の男たちが、タカネに問うのだ。
「どの願いを叶えて欲しい?」
それに熱い吐息を零すタカネが答えるのはいつも同じだ。
「全部、全部叶えて」
男たちは嗤って言う。
「喜んで」
短冊に書かれてることなら何でもできる格安男娼。
タカネは、来客者だけで言えばその店一番を誇る人気の男娼となっていた。

【了】