【最初の外出】(最初のSold Out続編)

【最初の外出】(最初のSold Out続編)


– 9 –

Side Master

 時間が来ても石段の所に現れないシュンに、訝しさが募り眉間のシワが深くなる。
 余裕を見て時間より少し前に一度近くまで来ていたのだが、50メートルほど手前で日本人らしき女が道行く人にインタビューをしているのを見つけて、捕まるのが煩わしくてその場から離れていた。そのせいで少し遅れたのだが、時間を過ぎているというのにシュンが現れる気配は無かった。
 辺りを見渡し、エントランスの中のチケット売り場まで覗いてみたが、姿はどこにもなく、出てくる気配も無い。
「逃げたか?」
 呟く言葉は平坦で、実際それほど感情は含まれていなかった。
 逃げても仕方が無いという思いはあったし、逃げても良いと思ってもいた。だからといって逃がすつもりなども毛頭なく、捕まえる手段などいくらでもあってどうとでもなるからだ。それに、追いかけっこも愉しい遊びになりそうで、秘かに楽しむ気は満々だったのだけれど。
 実際逃げられたと思うと、愉しい気分はそこにはなかった。
 けれど、さほど怒りも無い。
 ただ淡々と、どうしたものかと扉の横で外の緑を眺めながら腕を組んで考え込む。
 すでに夕方近いけれどまだ外は十分に明るくて、道路向こうのセントラルパークの緑も鮮やかに映えていた。けれど、その色も己の目には何の刺激も無くて。 
 ただ、シュンのことばかりを考える。
 もっとも逃げるにしてもすぐにアメリカから出ることはできないだろうし、急いで探し回るほどでもない。
 カードを使えば即座に自身に連絡が入るようになっているので、すぐに居場所は知れるだろう。
 だったら一度ホテルに戻ろうか、と算段していたのだが。
「やだぁっ、お洋服が白くなゃってるうっ。もう嫌っ。急に立ち上がるんだもんっ」
 甲高い声に、さっきの女が戻ってきているのに気が付いて、明らかな不快感に眉間のシワが深くなった。甲高い、甘ったれたしゃべり方が嫌いなのだ。もとより自分の性的嗜好が男に向かっているせいもあって、女など男を飾るものか子を産む道具としか考えていないせいもあるのは自覚している。そのせいか、静かで楚々とした女以外は、受け付けない。
 だからか冷めた視線でそのけばけばしい姿を見やる。
 その横にあるカメラはテレビ局らしく、スタッフがやたら下手に出ているのも不愉快だった。
 もっともちらりと見やっただけで、意識を向けるのも愚かしいと思ってもいて、すぐに意識の外に弾き出したけれど。
 もう少し待ってみるか、それともホテルに戻って調べてみるかと、この後のことを考えて。
「でもぉ、あの子ってさ、ちょーかっこよかったよねぇ。日本人だったしぃ」
 その言葉に、その場を去ろうとした足がぴくりと止まった。
「もお、ミナのちょー好みでさぁ。でも逃げることないのにねぇ。やっぱミナが話しかけちゃったから恥ずかしくなったのかもっ、ねっ、ねっ、なんか真っ赤になっちゃって可愛かったよねっ」
 それは、一種の勘みたいなものなのか。
 メディアの人間など自ら近づかないようにしているのに、気が付けば話しかけていた。
「その子、どっちに行きましたか? 私の知り合いなのですが」
 頭上高くからのいきなりの声がけに、不審げに睨み付けてきた女がへにゃりとその表情を緩めた。
 己の相貌がなかなかの物だと自覚しているからこそ、女受けする笑顔を見せてやればてきめんだ。緩めすぎて崩れてしまった笑顔で、しなりとシナを作ってきた。
「え、えっとぉ……あっちの公園の方だけどぉ。あ、あの、あたしぃ、ミナぁって言ってぇ……」
 続く言葉は聞いていなかった。
 ただ指差した先がセントラルパークの方だと即座に見て取ってしまえばそれで良かったのだ。
 踵を返し、軽快な足取りで階段を下りて、行き交う車の切れ目を狙う。
「あ、あのっ、ちょっと待ってぇ!!」
 その叫び声がこの辺りで二度目だったせいか、辺りに失笑が広がったのも気にすることはなく、車が途切れたタイミングで道路を走り抜ける。
 それはシュンが走り抜けたのと同じルートで、そして入っていった遊歩道もまた同じ場所だった。


 シュンの姿はすぐに見つけることができた。
 博物館から道路を挟んだ向かい側のセントラルパークの遊歩道で、それほど奥に行く前にその姿が目に入ったのだ。
 金属製のベンチが並んでいるエリアの一番奥で、ぼんやりと空を眺めているその姿は、まるで迷い子のように所在なげだ。
 その姿を目に止めて、何という理由もなく足を止めて傍らの幹に身体を預ける。
 様子がよく窺える場所とはいえ、向こうはこちらに視線をやることもなく、存在にはまったく気づいていないようだった。
 シュンが座っているベンチはちょうど木漏れ日が柔らかな髪の上で煌めくところで、そよぐ風が額に垂れた前髪を揺らしていて、その気に入りの横顔をより良く見せてくれた。
 陽光の下も似合うな、と、今まで機会の無かったことを残念に思いながら見入ってしまう。
 ベンチに浅く腰掛け足を投げ出して休んでいるシュンが何を考えているのかまでは判らない、けれど。
 不意に、だらりと垂れていた右手が持ち上がり、左手を捉えるのを見て取って、知らず目を細めてしまった。
 あれは……と、遠くても判る仕草は、ここ最近よく目にしていたからだ。
 成田に向かうリムジンで、飛行機で、ホテルの部屋やレストランでも。
 その右手の指が辿るのは左の薬指で、いつもその根元あたりにそっと触れ、ゆっくりとその周囲を辿る。そこにあるのは己が気に入った証だと最初の頃に与えたリングだ。
 新しい奴隷が必要でいつものサイトで探していたとき、顔や年格好が好みなシュンを見つけて試してみれば、すぐに身体までも気に入って購入した。同時にそのまま持ち帰り、己のルールを徹底的にその身に躾けた後に与えたものだ。
 性欲解消の奴隷として購入はしたが、気に入った物に証を与えることが好きだからで、他にもいろいろと与えたけれど、過去の奴隷でリングを与えたのはあれだけだ。
 日本にいる間はペニスのピアスに着けていたそれを、アメリカに発つ前に指に嵌めさせたら、存外その方が気に入った。
 シュンは自分がそんな仕草をしているのに気が付いていないようで、それをするのはあんなふうにぼんやりとしている時だけだ。
 まるで大事な物のように、包み込む仕草をすることもある。
 そんな仕草をされると、不思議なことにこの身の中に潜んでいるはずの尽きることの無いはずの猛々しい欲望が静かになっていく。
 最初の性欲を覚えたときから常にあった凶暴な衝動が、借りてきた猫のごとく大人しくなるのだ。
 今もそんな仕草をされて、時間が来ているというのに、言いつけを破った怒りよりもその姿をじっと眺めてしまう方を選んでいた。
 そういえば、さっきの女が言っていた「逃げ出した」とはどういう意味だろう。
 今ここにいるということは、あれはおとなしく博物館の中にいて、時間がきて外にでたところで女と遭遇したのだろうけれど。
 時間など忘れたように座り込んでいるシュンは、きっと本当に時間のことを忘れているのだろうけれど。
 さて、どうしたものか、と時計で時間を確認したその時。
 何かに気が付いたように、シュンの身体が跳ね起きた。
 その視線は自身の腕時計に向かっていて、驚愕も露わに掌で口を覆っている。
 立ち上がると同時にその足はすでに遊歩道を博物館へと向かっていて、すぐに駆けるものになった。
「シュンっ」
 呼びかけなかったら気づかずに通り過ぎるほどの勢いで、必死の形相は前しか見ていなかい。
「え……」
 だからか、転げそうになるほどに驚いて、たたらを踏んでかろうじて止まったシュンが振り返ったとたんに目を瞠り、言葉にならない悲鳴を上げかけた。
「どこに行く」
 短い距離の全力疾走に息が上がり、けれど呼吸を整えることもできないほどに驚きは激しかったようだ。その姿が妙におかしくて、けれどわざとらしく冷ややかに問いかければ、一瞬で血の気を引かせたままに、言葉にならない詫びを何度も口にする。
「……、さい……。ごめ……なさい」
 荒い吐息に混じるそれは、その身に根付かせた恐怖のせいで、優しくしてやっても簡単に消える物ではなくそのつもりもない。
「俺はエントランスで待ってろって言ったはずだが」
 近づきその肩を引き寄せて耳元で囁けば、その硬直具合はさらに強くなり、もう言葉は出てこなかった。
 その様に背筋を明らかな疼きが這い上がり、股間が節操無しに反応しそうになる。
 もっとも、こんなところで盛って警察沙汰になるほどの愚かさはなく、たっぷり楽しむためなら、我慢するのも愉しいと押さえつけた。
 怯える身体を床に押しつけて無理矢理犯すのも愉しいが、詫びの代わりに自らまたがらせて、さんざん腰を振らせて一人よがらせるのも悪くない。
「行くぞ」
 冷淡な声音に俯き怯える可愛い贄は、本当に美味そうで今にも食らいたくて堪らない。
 可愛い仕草で衝動を消してくれては、怯えながらも全てに従い、こうやってこの身の獣を悦ばせる。
 こちらが振り回しているようで、その実シュン自身が振り回しているのだとは気づいていないようだが、悔しいというより愉しいのだから仕方が無い。
「腹ごしらえするつもりだったが」
 呟く言葉に、跳ねるように見上げてきた瞳に宿る恐怖と熱のまだらな色を覗き込み、笑いかけた。
「お前のおかげで愉しいよ、ほんとうに」
 ぺろりと舌舐めずりをするだけで面白いように震える身体だが、それでも逃げるそぶりは見せやしない。
 そうだ、こいつは逃げない。
 どんなに逃げたくても、逃げ出さない。
 この精神に、洗脳のごとく植え付けた恐怖は、シュンが意識しなくてもその身を縛り付けているのだ。
 逃げれば今より酷い目に遭う。
 誰かに男の行為をバラせば、奴隷扱いであることをしゃべれば、家族に会えば。
 主人に逆らう行為はすべて、死より恐ろしい目となってその身に降りかかるのだから。
 人としての尊厳は全て奪われ、今よりもっと過酷な環境で畜生のように飼われて。その身体を捧げるのは性欲解消のためだけでない。非道な主人達の様々な欲望の捌け口にされて生き続けるのだと、シュンはもう知っているのだ。
 その欲は、監禁陵辱や人体改造ならまだ可愛くて、暴力的な拷問から人体の破壊、殺人、死姦まで様々なのだ。
 人間のありとあらゆる負の欲望の捌け口とされたらどうなるか、さんざん想像させられているシュンは、だから逃げれない。逃げられない。
 バレる恐怖は、挙げ句の果てに他の人の目さえをも恐れてさせてしまっているのだ。
「ああ、そうか……」
 不意に言葉が口を吐いて出た。
 その無意識の言葉に怯えるシュンを前へと促して、けれどくすりと隠しきれない笑みを零した。
 だから、シュンは逃げたのだ。あの女から──いや、正確にはテレビカメラから。
 カメラを通して見ている数多の人の視線から、逃げたのだ。
 自分がここにいることを、過去を知っている誰かに知られれば、それはバレたということだと、その身に付いた奴隷としての意識が警告して。
 気づかれた人に探されて、こんな目にあってしまっている事を知られてしまう恐怖もあるのだろう。そして、それが主人たる己にバレたらどうなるか。
 愚かだが決してバカではないシュンの頭は、そんなことを考えたに違いないのだ。
 それも無意識のうちに。
 そうだ、この子は逃げない。
 たとえ自由にしても、逃げない。
 ああ……。
 そこまで考えて堪らずに心の中で感嘆した。
 これは良い。これは素晴らしい。
 それは鎖などよりもっと効率的に、シュンを縛る代物だ。
 この子は自由にしても、逃げられない。恐怖から冷めない限りは決して。
 ならば、シュン自身には気づかれないように、けれどもっともっと。精神の奥深くまで、逃げる恐怖と支配される悦びを教えてやろう。
 優しく、けれど激しく。
 タクシーの乗り場までの間、そんなことを考えてひどく愉しげな雰囲気の男の一挙手一投足に怯えるシュンの姿もまた、それはそれ、とても愉しめるものだった。

  
 レストランで食事をする予定だったが、その時間がもったいなかった。
 ホテルへ戻り、ダイニングでシュンに服を脱ぐように命じ、その合間にルームサービスを頼んだ。
 まだ完全に陽が落ちていない外は明るく、窓際に外に向けて立たせたシュンの肌がきれいに映える。
「シュン」
 背後から近づき肩越しに覗き込めば、色の失った顔が俯き、震えていた。
「これを自分で挿れろ」
 回した手でその掌に転がしたのは、シュンが以前に買ってきた280ccくらいのミネラルウォーターのボトルだ。
「ひっ」
 掠れた悲鳴とともに全身が震えている。
 細身とはいえ、一番太い径は70mm近く、長さは10cm以上だ。
「窓にチンポを押しつけて、自慰をしながら挿れるんだ、全部な」
 その前にと、あの店で買ってきた突起付きのリングを亀頭の根元に食い込ませる。すっかり萎びたそれには簡単に取り付けられたが、白人仕様のそれは勃起時には細すぎるくらいで、食い込む痛みに苦しむ姿も楽しめる。
 だが、主たる己の命令に、シュンは嫌だとくびを振って動かない。
「なんだ、まだ足りないって」
 ならばと、乳首のピアスにもバイブ付きのニップルピアスを取り付けて動かした。
「ひぃっ」
 小さなボタン電池で動きそれは、意外にもはっきりとした音を立てるほどに振動が強い。
 膨れた乳首が瞬く間に勃起して、赤く色づいた。
 さらに、と袋を漁っていると。
「い、挿れます……待って……」
 ようやく動き出したシュンが自身のアナルに左手を回し、くちゅりと中指を狭い穴に差し込んだ。
 つぷりと飲み込む肉色の穴は、すぐにそんな細い物では物足りないとばかりに、二本目を銜える。
 けれど、己の命令はそれだけではない。
「窓」
 一言言えば、面白いように跳ねた身体が、腰を振り始めた。
 冷たいガラスにキスするように、まだ柔らかな亀頭が押しつけられ、弧を描くように腰が踊る。
 斜め後ろにチェアを置いて、ブランデーを注いだグラス片手に、その様子をじっくり眺める。
「ん、くっ……」
 最初は青ざめていたと言っていいほどに色を失っていた肌が、あえかな声が零れ始めるととともに、朱に色づき始める。
「あはっ、んあっ……あくっ」
 指が増える。
 慣れた身体はすぐに柔らかく綻び、己より細い指を美味しそうに四本ともに銜え込んだ。そんな恥ずかしい自慰ですら興奮するのか、そのペニスは太く硬く、ガラスに淫らな粘液の痕を残し始めた。
「ああ、ローションは寝室だったな、取ってこい。ああ、指は抜くな」
「は、はい……ぅっ」
 左手の指を四本も突っ込んだままに、仰け反りながらものろのろと歩く。仰け反ったせいで乳首のバイブはさらに踊ったようで、さらに激しい疼きを与えているようだ。さらに不自由な体勢にぐらつくせいか、尽きだしたペニスがぶらぶらと中空で踊っていて、嗤いを誘う。
 あのリングは確かにずいぶんと良い刺激を与えているのか、肉にしっかりと食い込んで色を変えているほどなのに、いつもより張り詰め方が激しいような気がした。
 ぶらぶらと揺れる刺激にすら感じるのか、ガクリと何度も膝が崩れそうになり、ヒイヒイと喘ぎながら寝室から戻ってきたときには、その目はひどく虚ろだった。
「さっさと挿れろ。早くしないと、ルームサービスが届くぞ」
 くすりと指摘してやれば、その虚ろな瞳もりせいを取り戻す。
「ルームサービス?」
 譫言のような物言いに、「ああ」と頷いて。
「もしそれまでに挿れてガウンを着ていなかったら、その姿で届けてくれたスタッフの前で腰振りダンスでも踊って、いやらしいすがたを晒した詫びに、全員を口淫で慰めてもらうことにしよう」
「え……、そんなっ」
 一瞬遅れて理解したのか、妙に間の抜けた驚愕に頷きながら笑いかけた。
「ここは例の組織が運営しているホテルだからな。まあ通常は一般の客が大半だが、連絡すれば屈強な男達を寄越してくれるんだ。見ただろう、ばかでかい奴らが外にいたのを。ああいうスタッフもいてな、奴隷の世話用に、見られなかったか、ジロジロと。お前みたいに可愛くて大人しい奴隷は人気があるからな。やつらは主人の勘気を煽って放逐された奴隷の処理係も務めているから、お前が何か失敗しないかいつも見張ってるのさ」
「し、処理って……」
「そうだな。小綺麗だったが我が儘で逃亡の常習犯の奴隷は、最終的に主人をたいそう怒らせて、スタッフに引き渡されたんだか。その時は確か、手足の関節を壊して動けなくしてから、大勢で……ああ、二日くらいぶっ通しだったらしいが、犯し尽くして……。締まりが悪くなったメス穴に太いペットボルトを突っ込んで固定して、ゲテモノ好きな輩が集まるオークションに引きずり出して格安で売り払ったっていうのを聞いたことがあるな。その後、切り取られた手足が玩具として、別のオークションで売り出されたって言ってたから、今頃どうなっているのやら」
 聞いた中で、比較的悲惨だろう末路を簡単に教えやれば、その全身がガクガクと激しく痙攣し、立っていられないとばかりに、ダイニングテーブルに倒れ込む。
 もっとも、このホテルではそう珍しいことではない。
 スタッフのうち年若いきれいどころは、奴隷の代わりになるよう躾けられているのだから。
「そうなりたくなかったら、さっさとしろ」
 愉しいけれど、その分わざと冷たく当たってやれば、焦ったようにその手が動き出した。
 淫乱だから、そんな話の中でもその勃起がまったく萎えていないのに笑えてくる。
 持ってきたローションをドボドボとペットボトルにまぶし、飲み口側をアナルへと入れようとするので。
「逆だ、底から挿れろ」
 そんな命令にも悲痛な顔をしながら、素直に従う。
 少し丸みを帯びた、けれどいきなり太いそれに、慣れているとはいえなかなか入らない。
「んっ、ひぎっ、いっ……」
 テーブルに上半身を預け、付きだした尻の狭間に伸びた手がペットボトルの底を斜めにいれ、捻り込もうとする。けれど、いきなりはそう簡単に入ること無く、広い底を全部納めようと必死になっている様は、ひどく無様だ。
「んぐぅっ……うっ、くっ、ああっ……」
 それでも、時間がかかればスタッフがやってくるとあって、荒い息を吐きながらもその手は止まることなくて。
 それに、ブーンとテーブルを振動させるバイブを押しつけているように見えるのは、気のせいでは無いだろう。
 乳首を通じて快感を味わいながらの表情は涎を垂らして呆けたように口を開き、股間間でペニスもまただらだらと涎を垂らしていた。
「ひぎぃ、痛あっ、あぁ」
 なんとか底が入った時、背を仰け反らせ、悲痛な叫びを上げているが、己の腕を銜えたこともある穴だ。あの程度で切れることはない。
 だが
まだ終わりで無い。
「そろそろか」
 ちらりと時計を見やったことに気づいたのか、ヒイヒイ言いながらもペットボトルを入れていって。短いそれは容易く入っていき、きゅっと細くなったそこでアナルもまた閉じていった。後は飲み口が出ているだけだ。
「ガウンを着ろ」
 衝動でぐらぐらと揺れている身体を引きずり起こし、ガウンを着せかける。
 そのタイミングでベルが鳴ったのは、中の様子を窺っていたからか。
 ちらりと見やれば隠されている監視カメラが動いているようで、特別なルームサービスの手際の良さにほくそ笑む。
 紐は与えず、そのまま汚した窓のすぐ傍の椅子まで連れて行って。
「少し待ってろ」
 囁き、唸ずくのを確認して、ルームサービスを受けいれに向かった。
 ドアを開ければ、頼んだとおりに四人のスタッフがそれぞれにステンレスのワゴンを押してきている。
『ダイニングのテーブルに並べてくれ』
 頼めば、すぐに入ってくる。
 その様子を、ガウンの胸のところで右手で押さえているシュンが不安げな様子で見ている。
 料理は、シュンが食べやすいようにサンドやチキンなどにはしているけれど。
 特別なルームサービスの目的はこれからだ。
「シュン、座りなさい」
 近づき、椅子を引き出しながら、それとは聞こえぬように厳命する。
「え……」
「シュン?」
 けれど、動かないシュンが、催促すれば泣きそうな顔で見上げてきた。
 その身体から響くバイブの音は、静かなこの部屋ではよく響く。
 薄いガウンはすでにその股間あたりをしっとりと湿らせているのが離れていても判るほどだ。
 だが、躊躇う時間を与える暇はない。
 その肩を抱き、ぐいっと椅子の座面にその身体を押しつける。
「ひぎぃぃっ!!!」
 響く悲鳴にスタッフは一斉に注目し、その中でシュンは一人中空を仰いで、痙攣していた。
 あのサイズは、シュンの善いところを穿つのにちょうど良いのだ。
「ひっ、いっ……ぎぃ、いっ」
 口角からだらだらと涎を垂らし、意味不明な言葉を発して震える身体からガウンの袷が左右にはらりと落ちていく。
 テーブルはその身体を隠すこと無く、天を仰ぐほどに勃起したペニスと、振動に赤く色づいた大きな乳首が丸見えだ。
「ヒューっ」
 鋭い口笛が、高らかに響く。
 スタッフ達が次々に口にしている卑猥なスラングにを愉しみながら、ルームサービスで取り寄せて細縄を手にとって。
『縛れ』
 と、命令すれば、慣れたスタッフ達は素早く動き出した。
『足は膝で曲げて固定。椅子から落ちないように、腕は後ろで』
 M字開脚で尻を前に突き出すようにして固定すれば、アナルのおちょぼ口がひくひくと震えて、ほんのわずかに飲み口が見えることもあったが、完全に埋没していた。
 腹に乗ったペニスは、亀頭下のリングのせいか、射精できていない。もっとも根元では無く先端での封止は痛みを伴ってよけいに苦しいのだ。
『これをアナルに入ってるボトルの口から淹れて、お前はペニスを可愛がってやれ。そこの二人は乳首を、お前は口でファックしろ。お前が口で達ったら場所を交代して、四人全員達ったら終わりだ』
 小さい、ペットボトルの口にも入るサイズの玉状のバイブを数個渡し、シュンには聞き取れぬ英語で命令し、手を振って。
「シュン」
 ことさらに優しく話しかけてやる。
「俺はちょっと用事がある。彼らが相手をしてくれるから、大人しく待ってなさい」
 なんとか衝撃から立ち直りかけていても、まだどこかぼんやりとしているシュンがどこまで理解しているのか。
 それでも気にせずに、隣の部屋へと移動した。
 ドアは開けたままで、パソコンへと向かって。
「や、なんっ、やああっ、むぐっうぅぅっ」
 群がる男達に、固定されたシュンは為す術も無い。
 テーブルに腰掛け男に向かって上体を倒されて、その口に無理矢理長いペニスが潜り込む。左右に回ったスタッフが指と舌で乳首を転がし愛撫して、テーブルの下て股間に陣取った男が、痛々しいほどに勃起したシュンのペニスを銜え込んだ。
 ガツガツと激しい音がするのは、ボトルのプラスチック壁とバイブが転がって当たる音か。
 よく躾けられた彼らの口戯は高級品で、堪らなく善い心地にしてくれるらしく、それは評判通りだったらしい。
「ひ、いぁぁっ、ぐあぁぁ」
 シュンが漏らすくぐもった嬌声も、それを証明するかのごとく甲高く、長く、いつまでも続いていた。