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Side Master
長い空の旅は、シュンを相手にしていたせいで一瞬にも感じた。
これからは、こうやってフライトするのが良いかも知れぬと、己が満足するまで相手をしたシュンの身体を揺らす。
疲労のために深い眠りについていたシュンは、自分がどこにいるのか判っていないようだ。
自身が休む前にざっと拭いた身体はさらりと手触りが良くて、幼子のようにぼおっと座っているシュンに手早く服を着せながらも、色欲の痕がまざまざと残った身体に欲情しそうになる。
けれど、この程度の我慢ぐらいはできるので、男は力の入らぬ身体を立たせて、ベルトをさせた。
こんなふうに甲斐甲斐しく世話をするなど、前までの奴隷達には無かったことだと、シュンは知らないだろう。自身も、そんな己に呆れているところはある。
だが、連れてきたかったのだ。
仕事で一週間日本を離れなければならないと決まったときから、最初に思い出したのはシュンのことだったくらいに。
海外に行く時はいつも現地の奴隷を用意させる。
あのフリマサイトを運営する組織に依頼すれば、後腐れ無いのをいつも準備してくれた。だが、今回はそんなことなど考えもせずに、代わりに準備させたのがこのプライベート・ジェットだったのだ。
それもこれも、シュンを連れて行きたいばかりに。
シートに崩れ、かくりと首を垂れたシュンの耳朶が露わになる。
そういえば、面倒なことにならないようにと外した他の部位のピアスは荷物の中だ。降りたらさっそく着けさせないと、と考えて、男は不意にくすりと笑みを零した。楽しみを見つけたようなそんな陽気な笑みは、本人とて自覚できていない。
そろそろピアスは新調しても良いかも知れない、と眺めていた視線が、肘掛けに添えられた手に光るリングに移り留まった。また眠りに入ったシュンを眺め、そのリングをそっと撫でてみる。
やはりリングは指にあったほうが良いかも知れない。
裸であればどこにあっても見えるけれど、服を纏うと見えなくなる。
細いとは言っても男の少し節のある指に、あの時選んだリングはことのほか似合っていて、己の自尊心を擽った。
リングはやはりこうやって眺めることができる指が良い。
シュンが自分の物であるという証は、いくらあっても足りなくて、ありとあらゆる物を着けてみたいという、珍しく性欲以外の欲望が育ち始めていた。
VIP待遇で早く入国審査を終えたことを、初めての海外であるシュンは知らない。
疲労に足下のおぼつかないシュンは、けれどそれだけではないようで、男の腕に縋るように触れて、不安げに辺りを見渡していた。
引っ切りなしに流れるアナウンスに耳をそばだてている様子に気が付いて。
「英語は判んのか?」
と声をかけてみれば、どこか頼りない視線が男に向いた。
「……駄目、です……、地名とか簡単な単語は判るけど……、それに、なんか……人がたくさん……」
不安げな原因を暴露し、困惑も露わに俯いた。
確かに報告された過去の大学の英語の成績は今ひとつで、あの会社でも英語は必要無かったから、英会話の勉強などしたこともないだろう。
慣れぬ人混みにも怯えているような、そんなシュンをターミナルで待っていたリムジンに乗せて、隣の席に陣取りニューヨークの街中へと向かう。
最初は物珍しさに窓の外を眺めていたようだが、静かな振動の中で疲労が出てきたのか再び睡魔に墜ちていった。
捕らえたときには警戒心も露わになかなか深い眠りに付かなかったが、休み無く犯し続けているうちに蓄積された疲労に沈み込むように眠りに付くようになったのはすぐだった。
そのせいで、深く、無防備な寝顔はいつものことだが、こんな車の中で眺めることなどついぞ無く、男はその物珍しい風景に口元に笑みを湛えた。
オーダーメイドで設えたスーツの色は、白くなった肌に良く映えた。
窓越しに入る陽光のせいで少し色が抜けたように見える髪は、長めのカットが良く似合う。
薄く開いた唇は赤く色づき、その奥に潜む肉色の舌は、滑らかに動いて男の欲に応えてくれて。
「っ……」
つい脳裏に浮かべてしまった痴態に、男は息を飲んで苦笑した。
すでに繁華街に入っていて、さすがにこんな場所で盛るのが拙いことくらいは判っている。窓の遮蔽を下ろせば見えないとはいえ何が起こるか判らないし、急がなくても今宵の宿ではまた十分に楽しめる。
仕事がらみとはいえ同室のホテルで遊ぶ時間はそこそこあった。いつもと違う場所で己の奴隷と遊ぶのは初めての経験で、男は子供の初めての遠足のようにひどく愉しい気分を味わっていたのも事実だ。それは浮かれていると言って良かっただろう。
だからこそ、我慢することも愉しいとばかりにその口元に笑みを浮かばせ、男はこれからの一週間の予定を反芻し始めた。