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Side Master
「鷲くん、調子が悪いのかね?」
ごく内輪が集まる立食のパーティで主催者である初老の男性が、不意に若くして足尾家の当主を継いだ男が連れてきた青年に声をかけた。
先ほどから赤く、うつろな表情でフラフラしている彼は、どこか熱に浮かされているようで。
「すまない、ちょっと中座させてもらうよ。連れが具合が悪いようだ」
主催者に声をかけ、足尾隆昌は主催者の屋敷内にある客室に移動する。
「シュン、たった二時間も我慢できないのか」
ことさらに言い放ちながらそのふらつく身体をベッドに押し倒し、その股間を撫で上げれば、浅ましい嬌声が部屋中に響いた。
厚い布のような感触に固いそこは、けれど明らかな膨らみをその掌に感じた。
「い、いあっ、さ、触っなっ、っひぁ、あぁぁ」
軽く押さえるだけで激しく身悶えて、男の身体を押しのけようとするけれど、その手には力が入っていない。
「我慢しろよ。服を汚したら、裸で連れまわすぞ」
「は、はいっ、あっぅっ」
よがる様が愉しくてクスクスと嗤いながらも、その手は止まらない。
スラックスの下は勃起が目立たぬようにしているけれど下着は無く、固い板状の部分を叩けば、もろにその振動が伝わってしまう。それにいつものように射精制限用の枷も無い。
なのに身体の奥に埋め込まれたバイブレーシュンは絶え間なく響き、乳首のピアスにぶら下がった分銅の飾りは動く度に揺れて、敏感な性感帯に痛いほどの刺激を与えているはずなのだ。
そんなシュンを追い詰める言葉は、決して戯れなどでは無いことをシュンはよく知っている。
裸にするというのなら、ほんとうに裸にする。ましてこの屋敷に来ている連中は、男の性癖と同様の趣味を持っている輩達だ。
隠す必要など無く、それどころか奴隷の痴態を悦んで迎えてくれるだろう。
ぐいっと押さえれば、ひときわ高い声を出し、涙の浮いた潤んだ瞳にさらに熱を蓄える。
一年も遊び続けたせいかもうすっかり淫乱な質になり果てて、我慢を強いてもたいてい粗相をしてしまうほどになってしまったけれど。
それ以外ではほんとうに見せびらかしたいほどに素晴らしい奴隷なのだ、シュンは。
「浅ましい奴だ。そんなにも裸になって、男を誘いたいか、シュン」
正式な場では鷲と名乗っていても、呼ぶ名は昔のままだ。
何度か鷲と呼ぶようにしたけれど、結局こちらの方がすっきりと馴染んだからだけど。
「そろそろ戻らないとな、待たせては失礼だ」
いつまでも離れているわけにはいかないと、ポケットの中のコントローラーを指先で動かした。
途端に、内部からの振動音が大きく聞こえ、シュンの目がぐわっとばかりに見開かれた。
「だ、だめぇぇっっっ!」
悲鳴にも近い嬌声とともに、その身体が跳ね、背筋が大きく反った。
「あ、あ、あ……」
目玉が飛び出るかというほどに見開いた瞳は何も映さず、悲鳴は途切れ、中空で身動き一つせずに硬直して。
じわり。
その擬音に相応しく滲み出る染みは、けっこう大きい。
「許可していないのにな」
笑みを孕んだ男の手が、そのシャツに触れる。力任せに引き裂く感触もずいぶんと慣れたものだが、それでも愉しくて、ついつい破ってしまう。
「今日の宴の主人は今度の仕事の繋ぎにたいそう役に立つ方だからな。帰るまでもう少し時間がある。それまでお前の自慢の口で、せいぜい満足させてやれ」
「あ、ああ……」
悲しげに唇を噛みしめるシュンは、主人以外へ裸体を晒すことも、まして口淫することもひどく嫌がる。
それでも、主人が命令したら拒絶はしない。もっともできないようにしたのは男だが、嫌がり受諾して。そんな後はひどく淫らに男を求めてくるから、止められない。
仕置きだ、罰だと言いながらも、それはちょうど良いスパイスでもあるのだ。
ゼイゼイと荒い息を吐いているシュンを引き起こし、最後の布きれを剥ぎ取って。
現れたのは腰紐から股間に伸びる厚い板だけだ。後ろ側まで伸びて内部のバイブレーターが抜けないようになっているそれは、専用の貞操帯の役目もあった。その両脇から、だらりと精液が流れ出している。
「来い」
未だ衝動にふらつく身体を引き立てて、さっき通った通路を戻っていく。
「うまくいったら……帰ってからたっぷりほうびをやろう」
ふと振り返りかけられた言葉に、シュンはぱちくりと目を瞬かせ、そしてゆっくりと微笑んだ。
「はい、ご主人様」
男の命令に返されたシュンの声は甘い。アメリカから帰ってきて以降、趣向を変えた躾を繰り返した後、足尾鷲という名で外に出し始めた頃から、こんなふうに返すようになっていた。
もっとも不特定多数が集まる場所では大きめのサングラスで顔を隠させるし、髪型も変え、キャップを被らせる。
今日のように顔を晒すのは、男が許したときだけだ。
それでもシュンは大人しく従う。人前では控えめで、いつだって自分を隠すようにして、決して自分がなんであるかは明かさない。
それは教え続けた恐怖に、完全な支配を受け入れたせいか。
他者への奉仕よりも主人に従う方が喜ばしいと気づいたからか。
どちらにせよ、そんなシュンをたいそう気に入っているのは確かだ。
気に入っているからこそ、その遊びは幅が広がった。
一人密閉空間に閉じ込めて己だけしか会えなくするのも愉しいけれど。こうやって外で遊ばせると忠誠心が増すようだと気づいてからは、たまに連れ出して遊んでいる。
「失礼しました。良くなったようなのですが、中座した詫びをしたいと連れがもうしておりまして」
ドアを開け、戸惑うシュンを目線で招き入れれば、全裸で貞操帯姿のうえに白濁に股間を汚した姿にどよめきが広がる。
パーティーはまだ始まったばかりで、夜は長い。
男ばかりのパーティーで、さてどれだけその腹に精液を溜めることができるのか。
跪き、主人の股間に顔を埋めるシュンの白い尻タブを眺めながら、今は我慢と、少し前なら考えないようなことを考えつつ、沸き立つ性欲を押さえつける。
いくら他人に口淫させても、あのアナルだけは男のものだ。だからこそ、外に出るときは貞操帯は外せない。身体を触らせても、アナルには指一本いれさせるつもりはなかった。
あの淫乱な身体を知るものが、虎視眈々と奪い取ることを画策しているのを知っているからだ。
これだけ精魂込めて育て上げた奴隷を、他人にやるつもりはまったくなかった。
だが内心ではそうであっても、他者への譲渡は捨てることと同義だからか躾にはたいそう効果的で、しょっちゅうシュンの耳元で囁いてはいる。
怯え、苦しむ様はいつ見ても愉しいからだ。
最近では荒ぶる欲情を結構我慢ができるようになって、それもこれもあの身体をたっぷりと、激しく犯したいと思うからこそだ。我慢してからの方が愉しくて、たっぷりと何度も注いで溢れる様を見るのが面白くて堪らない。
それでも目の前でふるふると尻を震えさせられては堪らない。今すぐにでも突っ込みたいのを押さえ、帰ったらどうやって遊んでやろうかと意識を逸らす。
そういえば、あの店から取り寄せた新しいピアスをつけてやらなければ。
蛇がとぐろを巻いたようなデザインで、亀頭の下のピアス穴に固定して、陰茎にはぐるぐると巻き付き、反対側の頭に当たる玉が鈴口に食い込む代物だ。
陰茎に絡む径は勃起を抑制し、射精を塞ぐし、玉は敏感な鈴口をいつも刺激してくれる。
さらに、乳首のピアスと短いチェーンで繋げば、ほどよく乳首も刺激してくれるらしい。
イベントがある度に何らかの新しいアクセサリーを送るのもけっこう愉しいとシュンと出会って初めて知った。
今では、日ごと違うものをつけられるほどに揃っているほどだけど。
ほんとうに、男と結婚できるなら間違いなくシュンと結婚していただろう。そうすれば、戸籍を弄るなどしなくても、婚姻届け一枚で自分のものだと言えただろうに。
だが、通常なら得られない相手は、足尾の一族だからこそ得られたのだ。
今は親族の一人として一緒に暮らしていて、連れ出しても仕事のために教育中だと言えば事足りる。
遊べば遊ぶほどに愛着が増すシュンは、奴隷としては得がたい存在だとは思う。
ただ最近、ちょっと楽しめないことがあることにも気が付いていた。
飽きたわけではない。
他に目移りしたわけでもない。
ただ、少し。
「美味そうに銜えて……」
無意識で呟いた言葉にこもる負の感情に急ぎ口を閉じたけれど、幸いにして誰にも気づいていない。
自分以外の男に大人しく奉仕する姿に今更苛つくはずもないけれど、それでも出てしまった言葉に首を傾げて。
あんなものを悦んで銜えている罰として、たっぷりと苦しめてやりたくなってきた。
たとえばその腹に蓄えた分だけ尻から媚薬交じりの液体を注いで塞いでやるのも面白いだろうし。いや、膀胱に注いでやっても良いかも知れない。
そんな楽しみを思いつくのは、快楽に狂い身悶えるシュンがを見たいからだと考えて。それこそいつまでも見ていたいくらいに、あの姿は愛らしいところがあるから、だからだ。
だから……。
そんな事を考えてはいるものの、尻を振りながら奉仕している姿に、なぜだか胸の奥にわだかまる固まりがあるのを感じながらも、気のせいだとじっと見つめていた。
【了】