【最初の外出】(最初のSold Out続編)

【最初の外出】(最初のSold Out続編)


– 10 –

Side Other

 ホテルの部屋を発つとき、そこに残った多数の痕跡はホテルのスタッフが全て綺麗にしてしまう。
 もっともそれだけの料金は込みの部屋だ。
 ぐしゃぐしゃに濡れたシーツやベッドマット、枕など寝具類はもちろんのこと。絨毯に染みこんだ多くのさまざまな汁やガラス窓に残ったままの粘液の痕も、全て痕跡なく綺麗にする。
 ドロドロに濡れたバイブ入りのペットボトルは、すっかりその動きを止めたままゴミ袋に入れられ、数え切れないほどに転がっていた電池もそのまま廃棄物として処分された。
もちろん、ゴミ箱に溢れたゴム製品に空のローションボトル、高級な服の切れ端もゴミに出され、電池が切れて転がっていたホテルから支給した極太のバイブは、クリーニングされて備品置き場へ戻された。
 濡れた革紐は、淫らな臭いをさせたままに使い物にならなくなったシーツをまとめるのに使われて、とぐろを巻いて放り出されていた拳のように太い奇妙な形のシャワーヘッドをつけたシャワーホースは、綺麗に消毒されて、通常のシャワーヘッドに戻された。
 そのスタッフ達が口々に噂しあうのは、特別なルームサービスに選ばれたスタッフ達を羨むもので、巡り合わせた奴隷の口淫はたいそううまく最高だったらしい。
 その夜からずっと。
 次の日に主たる客が出掛けたその間も、薄く開いたドアから引っ切りなしに嬌声と許しを請う声が漏れ、外から電話で手配されたスタッフが何回も電池や道具の交換に向かっていた。そんな彼らが言うには、ベッドルームの窓の前で、尿道カテーテルで強制排尿させられながら拘束された奴隷が、数多の淫具で責めさいなまれていたらしい。
 乳首もペニスも、尿道のカテーテルすら震えていて。
 ペニスの根元はホテル謹製の枷で制御され、達けない苦しみはいかほどだろうか、とM気質のスタッフが心底羨ましがっていた。
 その中でも幸運に恵まれたスタッフは、その口で奴隷のペニスをねっとりと味わい、その礼にその口内で達く許可を得たという。
 フロアスタッフも、その夜にレストランの特別室専属のスタッフも、その恩恵に預かったという。どちらでも主人はそっちのけで浅ましいオナニーを繰り返し、その口でスタッフのペニスを慰めたという。非番だった者がどんなに嘆いていたことだろうか。
 ホテルを発つ日も空港に行く直前まで絡み合う音が漏れ、出立の挨拶に出たマネージャーが目にした奴隷は、疲労困憊ながらもあからさまな欲情をだだ漏れさせていて、しばらく目が離せなかったと、あの堅物がそう言うほどだった。


Side Slave

 そんなふうにホテルで話題になっているとも知らず、シュンは行きと同じプライベートジェットの中で、行きとは違い男にベッドに押しつけられ二日間の快感地獄で溜まりに溜まった精液を噴きだし続けていた。
 尻にずっぽりと埋もれるペニスの勢いは、抉られる度に甲高い悲鳴が止まらないほどに激しい。
 それでなくても人並み以上の精力がある男だったから、あの前半はかなりセーブされていたのは間違いない。その分を解消しようかというほどに、男はシュンを許さなかった。
 太いペットボトルに弛んだ穴は、緩すぎると尻タブを叩かれ、締めるようにと激しく振動するバイブを自ら締め付けさせられて。
 腰紐を巻かれ固定されたバイブで抉られるままに、四つん這いで歩かされて、外の廊下をも歩かされた。
 ホテルという公共の場なのに、男が一切頓着しなくなったのは、あのルームサービスからだ。
 男の言葉が正しかったのか、そんな姿で悶え、ペニスの先を廊下の壁に擦り付けても、誰も静止などしない。あの親切だったフロア担当の男も何も言わないどころか、どこか愉しげに見つめていたのだ。
 親切にしてくれた人が、そんなふうに欲望も露わに見つめてくるのが堪えられず、涙を流して部屋に戻りたいと言ったら、今度は口で彼への奉仕を強要されて。
 男の命令には逆らえず、尻で唸るバイブもそのままに目の前で土下座をして、ペニスが口に欲しいと強請らされた。
 それなのに、あのスタッフはたっぷり10分はごねて、焦らして。
 泣いて縋り付き、「浅ましい奴隷にお慈悲を」とさんざん願わせて、ようやく口で奉仕することを許してくれのだ。さらにファスナーの隙間から取り出しただけのペニスを銜えた途端、バイブの代わりに入ってきた男のペニスにさんざん啼かされながらの口淫は、集中できずにたいそう時間がかかってしまった。
 ポタポタと広い粘液溜まりを作りながらようやく終わったときには、もう身も心もぼろぼろで、引きずられ戻された部屋で、声も無く啜り泣き続けるほどに精神がまいってしまったほどだ。
 それなのに、男の仕置きは止まらなかった。
 レストランでも、今日の出立の時間でも、それこそリムジンの中ででも。
 バイブは乳も尻もいたぶり続け、外されたのは出国手続きの寸前だった。
 その後は、乗り込んでからずっと犯され続けている。
 いい加減ペニスや玩具で際限なく嬲られ続けているから、腫れ上がっているところへの刺激に、常以上に敏感に反応してしまう。
 そこはもう麻痺していてもおかしくないほどなのに、けれど、あのペニスが中を抉っていると考えただけで、もう駄目なのだ。
「あ、ぁっ、も、出な……ぁぁ、あひっ」
 掠れた悲鳴がまた響き、ぷつりと透明に近い粘液が亀頭に滲む。
 あの日、時間を忘れて呆然としてしまったせいで、男の怒りはいつまでも長く続き、だからこそホテルのスタッフにまでシュンを使わせたのだろう。
 アナルだけは貸さなかったけれど、一体何人の男達のものを口で銜え、精液を飲み干したことか。
 逃げようとした、と責め立てられ、違うと言っても聞き入れてもらえなかった。
 そんなつもりは毛頭無かったけれど、それでもまったくそんな気が無かったといえば嘘になって。自身でもよく判らぬままに、男に責められるていると、ほんとうに自分が悪いのだという気になってくる。
 数度睡眠を取ったときだけはひどく優しくこの身体を扱ってくれたけれど、強制的な目覚めとともに、また陵辱が始まった。その落差はよけいに苦しみをシュンに与え、恐怖を植え付けた。
「ご、ごめんなさい……悪い、奴隷、です……ごめんなさい……、も、にげな……」
 何度も何度も。
 一体何度繰り返したか判らないほどに口にした言葉は、言霊となってシュンを縛る。
 逃げては駄目だ。
 逃げる奴隷は悪い。悪い奴隷は徹底的に仕置きを受けて、壊される。
『オマエ、ワルイ。ワルイ、ドレイ、コワス』
 男の留守中に訪れた数人のスタッフは片言の日本語で話しかけながら、シュンのアナルに入った極太のバイブを激しく動かし、喉の奥まで犯し続けた。
 順番だと、次のスタッフが来た時には息も絶え絶えで、このまま窒息してしまうほどに喉を塞がれ続けていたのだ。それこそ死への恐怖というものを目の当たりにしたほどに。
 そのせいか、悪い奴隷は壊されるのだ、と、その言葉が脳裏深くに刻み込まれてしまっていた。
「んあっ、ああっ、はひっ……んあっ、ひあぁぁぁぁぁっ!!」
 愉しげに腰を振る男がぐいっと奥深くを抉り、脳天に走った稲妻にビクビクッと激しく硬直する。
 その瞬間、まぶたの裏に見えた白い煌めきに、視界の全てが覆い尽くされる。
「シュン、お前は俺のものだ」
 どこか遠くで囁かれたそんな言葉に、なぜかひどく安堵して、誘われるように頷いていた。
「日本でも、お前を自由にさせてやろう」
 一体何を言っているのか、今ひとつ判っていなかったけれど。
「いつでも俺の手の届く中にいるならば、お前は自由にしていれば良い。だが……」
 どこか優しい言葉に縋り付くように、シュンは手を伸ばしていた。
 触れた硬い筋肉に、指が縋る。その薬指に、熱く柔らかなものが触れて。
「手から離れた先は、おぞましい地獄しかない……」
 込み上げる恐怖と擽る感触の和やかさに、陰と陽の精神が渦を巻く。穏やかな中の恐怖に、恐怖の中の悦びに、相反する感情が絡まり合い、せめぎ合い、シュンの精神を混乱させ、行き場を失わせるのだ。
 ふと気が付けば目の前には崖があって、細い一本の橋だけが目の前にあった。
 それは、あの男への道だと、不思議と理解できた。
「逃げなければ良いのさ。そうすればお前は俺のものでいられる」
 その時、そんな言葉が聞こえて、つられるように足が動いた。
 ロープのように細い道を、惑うこと無く選んで進む。
「従うか、俺に。決して逃げることなく俺の奴隷であることを誓うか」
 問われた瞬間、歩む足はまっすぐに徐々に早くなって、男の元へと向かっていって。
「シュン」
 やけに近くで呼びかけられて、ふっと戻った意識が捕らえた男の顔を見やって。
 その酷薄な笑みに向かって、シュンは無意識のうちに呟いていた。
「ち、かい、ます……」
 ぼんやりと、自分が何を口走っているかも判らぬままに、なぜだかひどく安心したけれど。