【Animal House ライオン編】 後編

【Animal House ライオン編】 後編

 アニマルハウスと呼ばれるここは、客の相手をするアニマルと呼ばれるコンパニオン達にとって地獄にも等しい。
 全てが管理されている狭い世界で、人としての全ての尊厳を剥ぎ取られてしまうのだから。
 衣服を許されず、名付けられた動物の姿に近くなるように身体改造までされて。日がな一日客の歪んだ欲望の解消に使われ続ける日々が待っている。
 そんな彼らの寿命は野生動物のごとき短く、生きてここから出る時には客に買われるしかないと言われていた。もちろん、その先はさらなる地獄でしか無い。
 アニマル達の元々の素性は誰も知らず、どうしてここに連れてこられたのか、どうしてこんな目に遭うのかなどここでは些末なことで、誰も気にしない。
 自由に話すことすら許されない状態では全く判らないけれど、レオーネ自身の状況からしてまずは強制的なものなのだろう。
 毎日、皆どれだけ暇なのかと思うほどに入れ替わり立ち替わり訪れる客達の素性はさまざまだ。
 それがアニマルでしかないレオーネに明確に伝わることはないけれど、それでもその会話の端々で窺うことは容易だった。中には映画やニュースなどで見たことのあるような有名人も存在した。
 そんな客達は、選ばれたアニマル達が出迎える玄関ホールを抜けると、まずはこの大広間に案内される。レオーネの寝床となる檻が一角に備えられたそこは、100人ほどの宴が出来るほどの広さのウェイティング・ホールだった。バンケットホールのようにも見えるが、テーブルはいくつかしか無い。
 その代わりにゆったりとくつろげるソファや長いすがあちらこちらに置かれていた。
 角にはバーカウンターがあって飲み物を際限なく供給しているし、軽食をトレイに乗せたウェイター達が、長いすに腰を下ろした客達の合間を縫うように歩き回っている。
 だがアニマルハウスらしく、ウェィターを務める者達は皆全裸だ。たいていが長い耳飾りを頭に付けて首回りに襟付き蝶ネクタイをしていることだけが、配膳専用であることを示しているけれど、彼らとて客達には一切逆らえない。
 バニー・ウェイター達の中には、長いすに押し倒され、その身体を弄ばれているモノもいて、高級な趣のホールの中、似つかわしくない淫らな喘ぎ声があちらこちらか響いていた。
 そんな声が意識に届く時間帯が、レオーネが目覚める時間だった。
 檻は決められた睡眠時間の時だけ、大きなガラス壁で隔離される。
 音が通りにくくなり、檻側からはかろうじて灯りだけは抑えられていて。睡眠に付くことができるのだ。けれど、ホールから檻の中を見るのは容易くて、レオーネはいつでも客達の視線に晒されながら眠っていた。
 と言っても、いつもいつも飽くことなく嬲られた後であって、眠りに付いた自覚すら無く、気がつけばいつも次の仕事の時間だったのだ。
 今日もまた時間と共にガラス壁がスライドし、檻の柵だけが隔てる場所に、悲鳴のような甲高い嬌声が届いた。それが目覚ましとなり、レオーネの意識が覚醒する。
 身体を捻れば、関節がぎしりと音を立てて軋んだ。
 ぼやけた視界は、未だ眠りから完全に覚めておらず、残る疲労感が脳に鈍い痛みをもたらしていた。
 檻の中はレオーネが身体を曲げて横たわるだけしか空間が無い。
 無残な傷を残す腱を完全に切ら取られた足首は伸びたままで、膝当てを兼ねる枷を嵌められた膝は90度付近で這える程度にしか動かない。その身体にかかっていた一枚きりの毛布は、いつものように片隅へと蹴飛ばされていて、朝勃ちだけでない勃起がだらだらと汁を垂らして股間で揺れていた。
 調教に使われた薬のせいで、全身の触感が異常に発達していて、毛布の刺激にすら堪えられずに欲情してしまうのだ。しかも、エサにもたっぷりと媚薬が含まれているのを知っていても、残すことは許されず、その身体は、たとえ睡眠中であっても刺激を欲しがるようになっていた。
 それを、ホール側から有名ブランドの服やアクセサリーで着飾った人の姿をした悪魔達が酒をたしなみながら、下卑た笑みを浮かべて眺めているのだ。
 それは好戦的な気性のレオーネの怒りを買うのに十分で、すぐに手を付いて身体を起こし、歯を剥いて唸る。
 けれど。
「ほ、ほ、威嚇しておるが、ほれ、あのようにあっちこっちを勃起させておるわ」
「ええ、だらだらと涎を垂らして、浅ましいことですな。ライオンというから、もっと誇り高いかと思いましたが」
「何、発情した雌であれば、雄を求めてしまうのは仕方が無い。なあ、レオネッサ」
 檻のプレートにも書かれた名前は、意思の強い褐色の瞳の下の右頬にもくっきりと赤いタトゥーで刻まれている。その新たな名となった女性名で呼ばれても、レオーネはただ唸ることしかできない。
 その口の端から、つうっと涎が垂れているのも事実だし、四つん這いになったためにペニスの先からも先走りの粘液が糸を引いているのだ。
 何より、薄く開いた口から覗くはずの犬歯は4本とも無く、代わりにそこの骨に口枷用の取り付け具が埋め込まれていて、今は完全に閉じることができないようになっていた。
 外されるのは日に一度の固形食の時だけで、自分では取り外すことはできない。
 客を傷つけるからとの抜歯は麻酔すらされず、懲罰の意味しか無い見世物だったのは、ここに来てすぐのことだった。
 さらに懲罰だけでない調教の技は、レオーネの身体のあちらこちらに刻まれていた。
 両方の乳首は薬液を注入され小指の先ほどに膨れ上がり、太い金環が貫いている。檻の中にいるせいで届かないと文句を言う客達のために、そこには引っ張るための鎖が付いていて、その先は檻の外まで伸ばされていた。
 しかも、排泄管理のためもあって、尿道には管状の棒が埋め込まれて、常にキャップで螺旋栓がされていた。それも外すには小さなピンで鈎状のロックを外す必要があり、レオーネ自身ではできない。
 さらに自慰禁止のために、ペニス自体は先端部を残して一回り大きな透明アクリルの筒に入っていて、直接触れることはできないようになっていた。その筒は、陰嚢と陰茎の根元を締め付ける枷と繋がり、外すためには指紋認証のロック解除が必要になっている。その指紋は調教師のもので、一週間に一度一回だけ射精が許されるときに外されていた。
 その上、陰毛は無かった。
 陰部にあった毛は全て永久脱毛されたため、二度と生えることは無い。
 さらに、レオーネを貶めるために、調教師はレオーネが受け入れた客ののべ人数をその身体に刻んでいるのだ。
 ちょうど尾てい骨の少し上にタトゥーで刻まれたローマ数字で100を意味する6個の「C」がそれだ。 6個で600を表すそれと、マジックで何度も書き直された痕の残る今は25という数字。
 それで昨日までに625人の相手をしたということになる。
 四つん這いでは自身からは簡単には目に入らないが、その分客達からは良く見える。犯される度に辿りながら揶揄され、何度も何度もその数を教え込まされた。
 100未満の数字はマジックで書き込まれ、増える度に訂正され、消しきれない前の数字と重なって淫猥な紋様のようになっている。
 ──600ものチンポは美味しかったか?
 ──どれが一番だ……なんて覚えても無いんだろう? 突っ込まれればどれでも一緒なんだろうからな。
 繰り返される嘲笑は、無視しようとしても脳裏に刻まれて、最近では揶揄される度に過去の揶揄すら思い起こされてレオーネを虐げるようになっていた。
 それでも、そんな姿でも、ライオンであるレオーネの姿は気高さを持っていた。
 今では、髪も伸び、頬から顎にかけての髭も伸びて、見た目も百獣の王らしくなっている。
「ぐ、ぐぅ……うぅ……」
 まさしく猛獣のごとく威嚇するレオーネだが、その肌には懲罰の痕がいたるところに残っている。
 だがどんな懲罰も、たとえ鞭で皮膚が裂けても、熱い蝋をくまなく垂らされても、宙に吊され苦痛の中で浣腸され排出を制限されていても、決してその矜持を失うことは無かった。特に痛みではレオーネを堕とすことはできなかったのだ。
「ほれほれ、エサが欲しいのかい? 用意してあげようか?」
 嗤う、一見高貴で知的な紳士のような男が、ひどく厭らしい目付きでレオーネを見やる。
 パチリと指を鳴らして呼び寄せた裸体のバニー・ウェイターに何事か囁いて、その尻にチップ代わりの丸い玉を押し込んだ。
 チップは、雄ならば尻に、雌ならば陰部に入れるのが決まりで、その日の仕事が終わる時間まで取り出すことは禁止されていた。
「あっ……か、かしこ、ました……」
 きゅっと尻をすぼめ、落ちないように力を入れた彼が、フラフラと厨房へと向かう。
 それを見送る客達は、彼が特に問題無く奥に入ったのを見て、残念そうに肩を竦めていた。彼らは、彼が何か失態するのを待っているのだ。ミスしたバニー・ウェイターは、このホールで定期的に行われる調教ショーに出さされるのを知っていているからだ。
 けれど、今はレオーネを嬲ることに決めたらしい客が、ニヤニヤとレオーネの膝の鎖を引っ張る。
「ぐ、うあっ! がぁぁっ!」
 うなり、歯を剥いても、客達との間は丈夫な柵が有り、客達は意にも介さない。
 ガチャンと耳障りな音を立てて、左足が引っ張られて、足先が通る間隔が開いた場所から檻の外へと引きずり出され、左の尻タブが柵に押し当てられた。
「ん、くぁ」
 滑らかな肌は金色の産毛が美しく、何本も走る赤い鞭痕が淫らな感覚を呼び覚ます。客が競って尻タブを撫でれば、レオーネの身体がびくびくと震えた。
 理性ある時の痛みは理性を保持し、怒りしか呼び起こさないが、そうでない接触はレオーネの体内に淫らな熱を呼び起こすだけなのだ。
 意図しないその劣情から逃れたいと身体を捻りなんとか離れようするレオーネだったが、近い檻が邪魔していかんともしようが無い。
 右足で蹴飛ばそうとしても、自由のきかない足先ではうまく狙いが付かず、檻の柵で無駄に痛めるだけだ。
 為す術も無いレオーネに、客の手が尻の狭間を嬲り始めた。
「んんっ!」
 びくんと喉を晒し、堪らず固く目を閉じたその顰められた顔の色気に、客がごくりと息を飲む。
 珍しい雌ライオンが入荷したという噂に、一気に客が訪れたのは六ヶ月前だが、それからこのレオネッサという名のライオンの人気は高く、その尻穴は乾く暇など無いほどだと言われていた。
 しかも、このライオンのレンタル料はたいそう安いのだ。
 その上他のアニマル達と違い、客を取らない時間でさえこうやって客達に提供されていた。
 そのせいか、すでに身体の調教自体は終了しているとさえ言われている。
 ほんの僅かな刺激すら発情し、ペニスを欲しがる雌ライオン。
 普段の姿から想像もできない淫猥な身体に引きずられ、精神が壊れるのも時間の問題のように言われていたが、強い理性が精神の崩壊を阻止していただけなのだけど。
 それでも身体の調教が進んだ今は、快感にたいそう引きずられやすくなっていた。
 それは、精神の自己防衛本能だと調教師は言っていた。
 強い怒りに溢れた理性に支配された精神も、度重なる調教で脆くなっている。精神が完全に壊れること防ぐために防衛本能が働いて、快楽を感じると自身の怒りを封じ込め、与えられる快楽に浸ってしまうのだと。
 それが嫌悪すべきことであっても、それしか与えられないこの生活で、唯一すがれるものだったのだ。
「ふがぁぁっ! あぅっ! やあぁっ!」
 それでも理性ある内は、レオーネは暴れた。
 暴れるせいで鎖がガチャガチャと音を立てる。
 加勢に訪れた他の客達の手によって右足の鎖や首輪のそれも引っ張られ、すぐにその動きは封じられた。
 客の太い指が難なく奥まで滑り込んだ途端に、ざわりと肌を総毛立たせたレオーネは、きゅっと手の指を丸め、何かに絶え入るように動きを止めた。
 身体が快楽をくれるそれに気がついて、脳が考える先に反応してしまう。その尻に入り込む太い指が掻き回す刺激を逃さぬようにだ。
「熱いな、熱く熟れて、指一本など足りぬとばかりに、喰い締めておる」
 尻を撫で、さらに指が追加される。
「ん、ふっ……うっ……」
 レオーネの口から零れる吐息が甘さを増していく。
 ぐいぐい指が突き上げるタイミングで腰が揺れていた。
 厭だと首を振っていても、その尻はぐいぐいと檻へと押しつけられている。
 威嚇していた強い瞳の光が弱くなり、とろりととろけたその表情は、淫猥そのものになってきていた。
「おやおやおとなしくなりましたな。どうやら発情期の欲求不満だったようでな」
 揶揄の言葉に一瞬鋭い視線を向けたのも束の間、ぐぐっと奥を抉られて、その瞳が力無く閉じられる。
 口枷のせいだけでなく開いた口から飢えたように舌が零れ、唾液がポタポタと溢れ落ちた。
 その全身が今や欲情に紅潮しきっている。
 それは、さっきまでの威嚇していたレオーネとは全く違っていた。
 唸るような声は変わらないが、その声音には確かに熱が交じり、逃れようとする動きが、擦り寄るようなモノに変わってきている。
 調教のはてにアナルに異物を入れられるだけで発情し、一気に燃え盛る身体にされてしまったレオーネは、自身の防衛本能のせいですぐに淫乱化してしまう。
 ただそれではただの淫乱で依頼主の要望から外れるので、罰で痛みを与えて理性を引き戻す。
 どう猛で誇り高いレオーネと快楽に弱く淫乱なレオネッサ。
 二つの名は、まさに二重人格のように一人の中にいる相反する存在を示す。それを短いサイクルで繰り返させるショーも人気があったが、最近ではその痛みすら快感を感じるようになっていて、なかなか戻らなくなっているのも事実だ。
 そんな淫乱なレオネッサがレオーネの意識を取り込んでいく。
 その変化に見入っていた客達の背後から。
「お、お待たせ……しました……」
 か細い声が割って入った。先ほどのバニー・ウェイターがトレイに深皿を乗せて戻ってきたのだ。
「さきほど……ファック・キャットが出したばかりの、一週間分の精液……でございます」
 よろよろと力無く腰をかがめ、檻の前にどろりと粘度の濃い白濁液の入った皿を置いた。
「あ……ん」
 その拍子に、ぐらりと傾いだ身体からトレイが落ちそうになったが、なんとか堪えて立ち上がったけれど、その陰茎は完全に勃起しフルフルと震えている。
「た、担当の、調教、師によります、と、一週間お客さまのお相手、をした、後の、連続絶頂調教の果ての、ものだと……言うことでございます」
 蕩けた視線が縋るように客を眺め、にやつく彼らに息を詰めてお辞儀を返した。
 ゴリと微かな音が彼の体内からしている。
 きゅっと絞られた尻は、すでにかなりの玉が中に入っている証拠だ。彼らは客からだけで無く、この館の従業員からも褒美として玉を受け取るからだ。
 それを落とせば罰。
 残していても激しい射精欲に、淫乱な身体が堪えきれるものではなく、結局は粗相をしたと罰を受ける。それから逃れるのは客の許可がいるのだけど、ここにいる客達は、皆目の前のライオンの動向しか頭になかったからだ。
 仕方なく離れるバニー・ウェイターを無視し、客が皿をレオーネの檻の下の投入口から差し入れる。
「エサだ、食べろ」
 レオーネであれば拒絶するそれ。
 けれど。
 尻の指が引っ切りなしに快楽の泉をかき混ぜている状況で、その理性はひどく薄い。
 躊躇い、嫌がるそぶりを見せているけれど、ごくりと喉が鳴り、身体が皿へと近づいている。
「食べたら、ご褒美だ。中をたっぷり掻き回してやるよ。我々の逸物でな、レオネッサちゃん」
 嘲笑交じりの命令に、レオーネの身体の前傾が大きくなった。
 檻の間に顔を押し当て、開いた唇の間から赤い舌が伸びてくる。
「う、あ……あっ……」
 人の舌は獣のように長くない。
 短く届かないそれに苦しげに唸るレオーネは、焦れったそうに何度も顔を柵に押しつける。
 頬のタトゥーが歪み、無様な表情を見せるその姿に、あちらこちらから嘲笑が上がった。
 その間も尻の狭間にまで伸ばされた手はアナルに潜り込んでいた。その指がさらに追加されて、五本の指が潜り込んでいく。そして。
「ひぁっ!!」
 レオーネの腰ががくがくと震えた。
 指先をすぼめるようにした手の関節の最も太い部分が入り口に差し掛かったのだ。
「あ、あっ、あっ」
 届かなかった舌先はそのままに、顔が跳ね上がり、肺の中を絞り出すように吐き続ける。
 けれど、その表情は恍惚のそれだ。
「あ、あぁっ、はぁぁ──っ、あ」
 犬のように舌を出し、喘ぎ、苦しいはずのそれを悦んでいる。否──苦痛は無いのだ。調教は、アナルの拡張にも及んでいて、今ではフィスト程度では軽く受け入れられるようになっていた。
 特に拳の膨らみで中をゴリゴリ抉られれば、たとえこの段階で理性が残っていたとしても吹っ飛んでしまうほどだ。アナルの快感ばかりに気を取られたレオーネに、エサを食べさせようとしていた客が苛立たしげに、床に伸びていた鎖を引っ張る。
「エサを食べろって言っているだろうが」
「ひぎぃ、ふぁぁっ」
 上に向かって引っ張られたせいで仰け反った胸で、金環を嵌めた乳首がびろんと伸びた。
 明らかに痛みがあるはずのそれに、霞のかかった瞳が白目を剥き、ヒイヒイと涙を流し始める。
「愛液たらたら」
 嗤う声に、揶揄も混じる。
 けれどそんな声もレオーネは聞いていない。
 ヒクヒクと痙攣する身体、栓をされたペニスの僅かな隙間からじわりと粘液が滲みだし。
「ケツマンコもきゅうきゅう締め付けて、達きまくっているぜ」
 ぐっぐっと拳を突き上げる客は、さらに奥を探っている。
 それでも、紅潮した身体の下で、ペニスは勃起したままだ。痛みに強いはずのレオーネだったが、一度快楽に落ちれば、その痛みすら快楽を助長する。
「しゃあないな、ほら、食べろ」
 上向いたレオーネの口に向かって、檻の上から皿が傾けられた。
 どろりと濃い精液が、糸を引くように口へと流れていく。
「あ、あ……」
 大半が口の中へ、零れた白濁がたらりと顔を汚す。
「飲め」
 ごくり。
 命令されるがままに、精液を飲み込んでいく。舌が、唇についた零れた精液を舐め取り、味わうようにして、その唇が笑みをつくった。
 その目が淫靡に歪み、視線が客達の股間へと向かう。
 檻に入れられ四つん這いで精液を飲みながら尻に腕を生やして、物欲しそうに男に向ける視線に、客達もまたゴクリと唾液を飲み込み卑猥な笑みを浮かべた。
 ウエイティング・ホールで客達に遊ばれているレオーネは、これからが仕事の始まりだ。
 最近ではそんなレオネッサが、レオーネでいられるのは起きた時の僅かな間だけ。
 淫乱化したレオネッサになってしまえば、全てが客の言いなりだ。
 以前は客がレンタルする部屋に連れて行く時も逆らって無理矢理だったが、今ではひどく従順で連れて行きやすいと従業員達にも好評だった。
 そんな様子をあの調教師は巧みに隠された監視カメラでずっと観察していた。
 その精神を貶めるために、もう調教師が出張る必要はない。
 目覚めから寝るまで、全てが客達に支配され、客が施す全てがその身体の調教となるからだ。
 それに当初と比べて、精神が壊れるまでの時間がひどく短くなっている。
 これならば、依頼主のカミロからの要望であった『ペニスを見たら涎を垂らすほどの淫乱化』も、少しでも快楽を与えた状態のレオネッサであれば、もうすでに調教完了と言えるだろう。
「そろそろだな」
 調教師の口元に微かな笑みが浮かぶ。
 顧客の要望通りに仕上げることこそが調教師としての悦びだった。


 アニマルハウスから数少ない身請けの話が発生し、他の客達に惜しまれながら雌ライオンのレオネッサが客の一人によって館から出て行った。
 眠らされ、闇に覆われた檻で運び出されたレオネッサことレオーネが目覚めたとき、家具などがほとんど無く、片側壁面全体がカーテンで覆われており、反対側は高い位置に窓があり見えるのは空ばかりという部屋だった。明るい青空は久しぶりで、雌ライオン設定ではあったが男である彼は眩しそうに目を細めて見入ってしまう。
 ただ、馴染んだ故郷の匂いがし、数少ないインテリアもどこか懐かしさを覚える。
 けれど、四つん這いで繋がれているのは変わらず、身を隠す物は何も無い。口枷もペニスのカバーも無いけれど、ピアスと射精を制限するロックは残ったままだ。
 檻は無くても同様の扱いに、生きては出ることなど叶わぬのだと言われている館から生きて出られた僥倖は感じていない。
 この状態を楽観的に考えられずに警戒しているレオーネの雄々しい姿は、レオーネというライオンを表す名に相応しいものだ。
 それが裸でなかったら、の話ではあるけれど。
 結局六ヶ月の人では無い生活は、レオーネの気性を変える物では無かった。
 変わらずにプライドは高く、他人には馴染まない。
 けれど、それに対抗するように、性的快楽にはたいそう弱くなっていた。
 もともとから弱かったのが、薬を使った調教によりそれがさらに開花したのだろうと判断した調教師が、さらに身体を敏感にしたことによって、今ではすぐに理性が飛んでしまうほどに淫乱化しているのだ。
 それこそ肌に触られるだけで腰砕けになるほどに感じ、鼻孔で淫臭を嗅ぐだけでも身体の奥が疼く。
 今では排尿にすら勃起し、排泄に身悶えてしまう有様で、髪ですら優しく梳かれるだけで全身を震わせるほどに感じるのだ。
 そうなればあっという間にその理性が蕩けていき、淫乱レオネッサができあがる。
 まして、アナルにペニスを銜えるとなるともうダメだ。挿入だけで空イキをし、もっと多くの快感を欲しがって尻を振りたくる淫売となり果てるのだ。
 それに肥大化させられた乳首は、表面を撫でられているだけで射精してしまうほどに、亀頭並の敏感さにもなっている。
 全身くまなく性感帯になった身体はレオーネの理性などたやすく突き崩し、そうなれば、雄を欲するだけの存在でしかない。
 理性がなくなれば、そこにいるのは淫乱雌ライオンのレオネッサだ。
 まるで二重人格のジキルとハイドのように両極端な様子は、館でも面白がられて良い見せ物だったが、その分レオーネの精神も蝕むものであった。
 客に嬲られていない睡眠時間、ホールにいる客達に気づかれぬように涙したことも、食い縛った歯が唇を傷つけるほどであったことも幾度もある。
 いっそ、正気を失った方が楽ではないかと考えたことも多々あった。
 けれど、それでも寸前で正気を保ってきたのは、自身をこんな目に遭わせたカミロに対する復讐心があったからだ。
 ここを抜けだし、あの男を捕らえて同様の目に遭わさなければ。
 ファミリーを崩壊させ、全てを根絶やししなければ気が済まない。
 こみ上げる復讐心は陵辱を受ける度に成長し、肥大化して、レオーネの精神を縛り付けている。
 あれ以来、カミロは決してレオーネの目の前に現れなかった。
 嬲るのは他人ばかりで、あのブルーノすら現れない。
 復讐するには館から出なければならない。たとえそれが身請けという誰かの専有物という立場であろうと、そこから逃げだし絶対に生き抜くつもりで、浅ましい己の姿も黙認して、全てに堪え続けたのだ。
 今、ようやくその機会がやってきたのだという理解に、レオーネは気高く辺りを見渡す。
 その矜持と鋭い目つきは、マフィアのドンの頃と変わらない。
 その身体も栄養だけは十分与えられていたせいか、鞭痕や歯形などがあっても肌には張りがあり、脂肪の少ない肌の下はしなやかな筋肉が見て取れた。その足が歩けないということさえなければ、いますぐにでもあの高い窓によじ登っていただろう。
 その窓を見つめるレオーネの肌は、長い間日に晒されなかったせいで元の白さを取り戻していた。
 長く伸びた金色の髪と髭がたてがみのように顔を縁取っているせいで、四つん這いでいるレオーネは確かにライオンのように見えないことは無く、ぎらつく視線も猛獣のそれだ。
 けれど、不意に微かな音が響いた途端、その身体がビクリと跳ねた。
「ん、くっ……」
 瞬く間に理性ある瞳が揺らぎ、切なげに喉から音が漏れる。
 もじもじと大腿が合わさり、丸みを帯びた尻タブがこまかく震えていた。
 その尻タブの狭間に覗くのは8センチ以上の径があるバイブ機能付きの張り型の根元で、それが不意に小刻みな振動を体内に与え始めたのだ。
 垂れていたペニスがむくりと鎌首を持ち上げる。
 尻に何かが入るだけで感じるよう調教された身体は、バイブ機能が働けばひとたまりも無い。
 襲う快楽に理性は蕩け始め、精神すらレオーネからレオネッサへとなっていく。
 それでも、今日ばかりは必死で抗い、唇を噛みしめ、理性を保とうとする。
「くそっ……止めろ……、俺は……俺は……」
 泡立つ快感に逆らうのは、全力をしても難しいけれど。
「あ……」
 不意にそれが止まった。
 いつもなら、完全に墜ちるまで止まることの無いそれ。
 まるで実験のように始まってはすぐに止まったそれに、レオーネが眉をひそめたその時。
 ただ一カ所あった観音開きのドアが勢いよく開け放たれた。
 ぴくりと視線を向けたレオーネの口が開く。
 見開いた瞳が写すのは、あの時と同様に忘れ得ぬ姿だ。その後ろにはブルーノもいる。
「か、かぁみぃろぉ!!」
 地の底からの呪いの言葉のように、敵の名を呼ぶ。
 何らかの口枷を付けられることの多かった口は、その名すら呼ぶのが難しい。
 それでも、はっきりと伝わった呪詛が込められた名に、持ち主はニコリと口元だけで笑みを返した。
「ああ、レオネッサ。目覚めたようだね」
 侮蔑が混じる呼び名で声をかけたカミロは、鎖が伸びきっても届かぬ1メートル前で止まっていた。
 喉が締まるほどに引っ張っても届かぬその距離に、泡を吹きながらレオーネが足掻く。
「やはりライオンだな。従順になったようで、すぐに牙を剥く。と言っても、その可愛い牙はもう抜かれてしまったんだよな。ここにあるように」
 カミロが掌を掲げて、その位置から何かが零れ落ちる。
 白い小さな物が四つ。
 かつん、かつんと大理石の冷たい床に落ちたそれが数度跳ねてからレオーネのほうに転がった。
「!!」
 それが何か気が付いて、びくりとレオーネの動きが止まる。
 誰のだ、と、問うことも無く理解できる。
 こんな時に提示されたならば、それは自分の物でしかない。
 レオーネは、目の前に転がる先の尖った犬歯に、喉の奥で唸った。
 あれがここにあるということは、カミロが指示したと言うことなのだ。しかも、その歯の一部には金のピンがささっていて、何かに細工されていたように見える。
「しばらくピアスにしてブルーノが使わせていたが、見るのも飽きたらしくてね、戻してきたんだよ。やはり元の持ち主に返そうと思ってね」
 持ってきた、とクツクツと嗤いながらの言葉に、その悪趣味さに怒りと嫌悪がこみ上げる。
 あまりのことに言葉すら出ないレオーネに、カミロはブルーノを振り返った。
「さて、このライオンを飼うにはタダではないからね。相応に働かす準備はできているか?」
 わざとらしい物言いに、ブルーノが慇懃に頭を下げる。
 その口角が笑みを浮かべているのに気が付いて、レオーネは顔を顰めた。
 初めてレオーネは犯した男は、檻に遮られない明るいこの部屋で見ても、やはり体格が良い。
 レオーネより数十センチは高い身長に、体重も重量級だろう。
 だが、決して太っているわけではなく、分厚い筋肉がその身を覆っているのだ。
 その身体に見合うだけの股間にあった巨根が引き裂いた痛みは忘れてはいないけれど。
 そんなことが脳裏に過ぎった途端に、ずくりと腹の奥が疼いた。
 哀れな身体は想像だけで感じてしまうのだと再確認してしまい、レオーネは俯き歯噛みをししてそれに堪える。
 カミロのいう仕事などろくなことでは無いだろう。
 早くここを逃げ出して、手勢を集め、こいつをぶっ殺す。昔の仲間達がどうなっているか判らないけれど、それでも見つけ出して集めてみせる。
 そのためにも今は堪えようと必死に息を整えていたその時。
 またドアが開く音がして、跳ねるように顔をあげたレオーネは、その姿勢でぎくりと硬直した。
「これに今後レオネッサの世話係をさせます。仕事の内容も世話の仕方も全て叩き込みましたので、問題無いかと。何よりこれ以上の適任はおりません」
 ブルーノの言葉が遠く聞こえる。
 近づきブルーノの斜め後ろで止まった細身のブラックスーツが似合うレオーネの同年代の茶褐色の髪の男は、決してレオーネの方を見ようとせずに視線をずらしている。
 けれど、それが誰か、レオーネが見間違うはずも無かった。
「あ……アベーレ……」
 呻くように名を呟けば、明らかにその肩が揺れる。
 食い縛ってるのだろうその唇は白く、顔も青白いけれど、女性が振り返るほどの美麗な顔立ちのそれは、確かにレオーネの右腕で大親友であったアベーレの姿だった。
「そう、アベーレだよ。ブルーノの部下として良く働いている。ああ、そういえば半年ほど前か、敵対組織を壊滅させるのにもたいそう役立ってくれたよ。まあ畜生の世話係などにはもったいないが、他に適任がいないからな」
 暗に指摘されたことに、レオーネは、まさか……とアベーレを見やった。
 否定して欲しいと懇願する視線は、けれど、アベーレは何も返さない。
 それどころか。
「かしこまりました、カミロ様」
 などと最敬礼を持って応えている。
「うっぅ、嘘だ……そんな……」
 喘ぐように出た言葉は、ひどく弱々しい。
 誰よりも信用していた男だ。
 もともと幼い頃からの友人で、レオーネがこの道に入ったときの、自分も──と自ら一緒にきてくれた。
 暴走しがちなレオーネを抑え、うまくファミリーを切り盛りもしてくれて、レオーネに取って無くてはならぬ存在だったというのに。
 けれど。
「あ、……あの……コーヒー…、まさか」
 眠くなったあの時、自分はアベーレが入れた濃いコーヒーを飲んでいた。軽食のクッキーを摘まみ、栄養剤も渡された。
 あの時のことは、何度も何度も繰り返し思い起こしたから未だに覚えている。
 信じているからこそ、疑惑の対象から外していたそれが、今目の前に突きつけられた現実に、最たる疑惑の元だと浮かんでくる。
 アベーレであれば、レオーネを眠らせることも、密かに連れ出すことも可能だ。
 アベーレだから、可能だったのだ。
 一度芽生えた不審感は瞬く間に大きくなり、確証となり、それが怒りとなって脳内を荒れ狂うのはすぐだ。
「あ、アベーレっ、なぜだ、何故、裏切ったぁっ!!」
 狭くない室内を震わせるほどの怒声に、アベーレは返さない。
 まるで耳栓をして声を封じているかのように、視線を外しあらぬ方向を見て立ち尽くしていた。
 その横顔は前と変わらないのに、今はひどく遠く感じる。
 色鮮やかな過去は消え失せ、真紅の炎の中でアベーレが笑っているようで。
 怒りは燃えたぎり、レオーネの脳裏深くに復讐相手としてカミロととも強く刻まれる。
 その怒りに油を注ぎ、さらに燃え盛らせたのはカミロだった。
「ああ、彼はねブルーノと恋仲なのだよ。ブルーノの言うことなら何でも聞く。あの時も、率先して動いてくれたしな」
「ええ、いい相手を見つけたと思っていますよ。一時も離れていられぬほどに。なあ、アベーレ」
 言葉をかけられたアベーレは、びくっと跳ねるように顔を上げた。その視線が一瞬レオーネと絡む。けれど、幾ばくかの後悔でもあるのか苦痛に顔を歪めはしたけれど、すぐに元に戻ったその口が。
「はい」
 と肯定した。
「私、アベーレは、ブルーノ様を愛しています。この身を捧げるべき相手はブルーノ様だけで、ブルーノ様のご命令とあらば、どんなことでも従います」
 それは、どこか機械的な抑揚の無い口調であったけれど、はっきりとレオーネの耳まで届いた。
 その言葉に、レオーネの怒りは暴発した。
「あ、アベーレぇっ、貴様っ!!」
 膝で身体を支え、アベーレへと突進する。
 ピンと伸びた鎖に上げた上体が突っ張って、うまく伸びぬ腕を突き出し、傷だらけの手指を伸ばし、宙を掻く。
 興奮した犬が後ろ足だけで立ち上がりつっかかっているように、届かぬ敵に一糸報いようとする姿に、カミロとブルーノが嗤い出す。
「元気が良い。これは相当酷使しても壊れるまでは相当かかりそうだな」
「皆、これに煮え湯を飲まされたものばかり。楽しんでくれると思いますよ」
 そんな言葉も耳に入らない。
「ちくしょっ、てめぇ、許さねぇっ、貴様ぁぁぁっ! ぶっ殺す。この手でぜってぇに、殺してやるっ!!」
 泡を吹いて喚き、首が絞まり脳貧血を起こしそうになっても、目の前の敵のことしか考えられない。
 それほどの怒りだった。
 だが。
「うるさいな。アベーレ、大人しくさせろ」
 ひとしきり嗤ったブルーノの言葉に、アベーレがこくりと頷き、手の中のコントローラーを操作したその途端。
「ひっ、うっ」
 ブーンと振動音が体内に響き、背筋を貫く快感に、がくりと身体が崩れ落ちる。
 尻のバイブがいきなり最大パワーで動き出したのだ。
 ガツガツと快楽の泉に表面の瘤が叩き付けられる。と思えば掻き回し、敏感なそこを乱暴に刺激しだしたのだ。
「ひっ、だ、ダメ……止め、っ……あうっ」
 あれがこれを制御していると、力の抜けた腕を伸ばし、アベーレへと向かう。
 けれど決して届かぬままに、身体の奥を掻き回すそれが、一回目の絶頂をもたらした。
「ひ、ひぃあぁぁ──っ」
 腰がガクガクと激しく前後した。
 射精できぬままの絶頂に、理性を突き崩すほどの快感を味わってしまう。
「ひ、や……」
 しかもバイブの振動は止まらない。
 機械的なそれは、弛緩したレオーネをさらに攻撃し、怒りにまみれてかろうじて残っていた理性を突き崩さんとしてくる。
「や、やめ……うっ……あっ……」
 久しぶりの理性ある絶頂ではあったけれど、その瞳は霞がかかったように虚ろだ。
 そんなレオーネに、カミロが告げた。
「レオネッサの仕事は、ここの荒くれ専門の若い部下達の性欲解消の相手だよ。100人ばかりこの屋敷に滞在させているのだが、何しろ血気盛んで性欲も有り余っている。だが、娼婦を与えれば壊しかねなくてね、さてどうしたものかと思っていたが」
「レオネッサなら、皆悦んで使いますよ。過去さんざん煮え湯を飲まされ、中には身体を損なったものもいる。誇り高きライオンを陵辱できる機会などそうありませんし、あの館からの報告だと、この身体は極上品とのことです。600を越えた客を取るほどの人気者は、そうそう無いとのことですからね」
 床に這いつくばり、襲う快感の波の中、言葉がなんとか理解できる。
「見なさい、レオネッサ。あちらを」
 カミロの言葉に知らず従っていた。
 そちらは先まで壁一面カーテンで覆われていた場所だったけれど、今はそのカーテンは開けられて、隠されていた一面の窓が現れていた。
 その向こうは通路のようで、たくさんの男達の姿が見える。
 その全てが、悶えるレオーネにぎらつく視線を向けていた。
 その視線の圧力に、覚えず腹の奥の熱が渦を巻き出した。
 ごくりと息を飲んだのは無意識のうちだ。
「アベーレ、言ったとおり人数制限は無い。訪れたもの全てに自由に出入りさせろ。食事は朝と晩。排泄は全て管理する。ただし、訪問者を最優先するからな。時間が来ても客がいれば、客の邪魔はせぬように。それから射精は週一だが……。それも多いかもな。それはおいおい指示する」
「……かしこまりました。ブルーノ様」
 遠い馴染んだ声音が、震えていると思うのは気のせいだろうか。
「あ、はぁ……あ、うんくっ……あっ」
 びくりと痙攣する身体が、歓喜の声を上げる。
「ああ、私が来る日は会話したいからな。水でも浴びさせて正気に戻せよ」
 鈍く働く脳に、響く言葉が遠くなる。
 それよりも、疼く尻穴にもっと奥までかき混ぜて……。
「アベーレ、決めたルール通りにこれを世話できなかったら……」
「あ、は、はいっ、全てブルーノ様に申しつけられたとおりに」
「後、夜は世話する必要は無いからな。夜のエサが済んだら俺の世話があることは変わりない」
「っ。……はい、かしこまりました、ブルーノ様」
「後は任せたよ、アベーレ」
 カミロが踵を返した。
 手が伸びて、カリカリと床を引っ掻く。
 行くな。
 心の奥が叫ぶけれど。
 何故?
 と笑う心がいる。
「我々もだ。当分放っておけば良い」
「はい……かしこまりました」
 遠ざかる足音が、もの悲しい。
 誰かこの疼く身体をどうにかしてくれ。
 その懇願が声になることはなかった。
 けれど、増えた雄の気配に、すぐに叶えられると歓喜に震えた。
 太い指が身体にかかる。
 鎖が引っ張られ、足首が掴まれる。
 ズルズルと引きずり出されるバイブを引き留めたくて尻に力を入れるけれど、すぐに入ってきた熱い肉に全身が震えた。
「あ、ぁぁぁっ、ひあぁ、もっと、もっとおぉっ」
 何人もの男臭い集団の中、白い肌の身体が埋もれていく。
 怒号の中、甲高い嬌声が響き、淫臭が一気に強まった頃。
 この部屋のたった一つのドアから憎い敵が去って行ったなどと、レオーネが気づくことはなかった。

【了】