【Animal House ライオン編】 前編

【Animal House ライオン編】 前編

 アニマルと呼ばれるコンパニオンがお客の相手をする館。
 客が連れてきたアニマル候補を調教することもある。
 今度のアニマル候補は、ライオンだった。

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 鈍い頭痛と節々の痛みを自覚して、覚えず喉の奥でうなり、喉の振動が覚醒を促す。
 意識が先に目覚め、時間が来たのかとうっすらと目を開けた。
 焦点が合わずぼんやりとした視界は暗く、かろうじて、何かの棒が並んでいるのが見える。
 その向こうに薄ぼんやりと白っぽいものが見え、蛍光灯だなと思い至りつつも、どこか違和感を感じながら腕を上げようとして。
 チャリと金属音がすると同時に、腕に絡まる紐状の存在にビクリと身体が跳ね、意識が一気に晴れた。
 警戒した獣のごとく金色の産毛がブワッと総毛立ち、見開いた褐色の瞳に強い光が宿る。
 北欧の母の血が色濃く出た身体は、この南欧の地にしては肌は白い。コンプレックスのそれを普段は日焼けさせ、今は褐色がかっているがそれでも薄い。母譲りの金色の髪は金糸のように短く、端正な顔を縁取っていた。
 けれど、強い瞳と骨太の体格は父親譲りで、優男とは言われぬだけの気性を露わにしていた。その瞳が捉える視界は変わらず暗いままだが、凝らしてみればはっきりと棒が見える。
 それが近い。
 その見慣れぬ景色に慌てて身体を起こそうとして、上手く付けぬ手と伸びぬ身体、そしてどこか怠く力の入らぬせいでガクリと崩れ落ちた。
「な、何だ?」
 膝が完全に伸びず、腕が引っかかっていた。様子を探ろうと手を伸ばそうとしたら、首が引っ張られた。
 首に何かが巻かれていて、それと手が繋がっているようで、手探りで確認すれば首輪らしきモノがあり、重く冷たい金属質の塊は形状からしてパッドロックだと気付く。
 ロックが掛かっているそれの鍵は、そこには無い。
 さらにその身に触れられる範囲で布めいた物はなく、暗い視界の中に自身の褐色に焼けた肌が異様に白く浮かんでいた。
 足先まで浮かぶ色に眉根を寄せて、先より闇に慣れた瞳を巡らせれば、部屋の片隅にぼんやりと一つだけ灯りが揺らめいている。
 古風なガラスのキャンドルグラス内で灯るそれは、細く小さなキャンドルで、わずかにしか照らさない。
 そんな明かりの中、判ったのは無機質なコンクリの床と壁に一面だけ大きな鏡、何が入っているのか判らぬ棚と、工場のように白い傘があるだけのストレートの蛍光灯だけだ。
 部屋にしては広く、キャンドルの灯りが届かない反対側はよく判らない。
 鏡も檻に入った己の姿が写り込んではいたけれど、細かなところまでは見えない。
 だが、この身に何かされているのは感覚で判る。
「くそっ、一体何を挿れやがった……。ち、見えねえ」
 身体を捻ったときに、尻の間に何かが挟まっているような違和感があるのに気が付いた。だが、不自然な体勢ではそこまで見えないし、鏡にも写っていない。
 何か丸い棒のような……。
 考えたくも無い用途のそれを確認することもできず、息んでみても出て行く気配は無い。
「くそっ、何だってんだっ」
 毒づき、狭い檻の中で何度も身じろぎ、姿勢を変えた。
 男はレオーネ・サロスといい、今勢いのあるマフィアの若きドンだ。 前のドンにその気質と才を気に入られていて、昨年彼が引退するときに後を継いだが、まだ30になったばかりと若い。
 組織自体はそれほど大きくないが若い彼を慕う部下は多く、大きな組織にない活力があった。
 どちらかといえば商才に非常に長けている経済系ではあるが、売られた喧嘩は買うだけの闘争心は十分にあり、武闘派の部下も多い。新興とは言え十分な力を付けた彼のファミリーは、周辺からも一目置かれているほどだ。
 そんなレオーネであるから荒事には慣れてはいる。けれど、こうも状況が判らないのは初めてだった。
 焦ってもどうしようもないと冷静ではある。だが、情報が足りなさすぎる。
 判っているのは、裸で、四肢を伸ばせないように膝や肘に枷をされ、首輪は鍵付き。両方の大腿にも革のような帯が巻かれているようで、しかもそれら全てに鎖が繋がり、その先は辿れば檻の外に向かっている。ずしりと重い鎖は拘束だけで無く、その重さで動きを縛る。
 さらに閉じ込められている檻は、ステンレスらしき艶のある金属性でかろうじて手が擦り抜ける程度の等間隔で太い棒が並んでいた。単なる工具では切れそうに無いその棒で囲まれた檻は、レオーネが足を曲げて横たわる程度の広さしかない。
 檻の外は部屋にしては広いが、人の気配はしない。
 記憶にない場所であるのは確かだが、それ以前にこんな事態になった覚えが全く無いのが不気味だった。
 いつ拉致されたのか?
 最後の記憶は事務所の仮眠室だ。
 近隣のやっかいなファミリーとの抗争に、どう対応するか右腕でもあるアベーレと話をしていて。
 すでに深夜と言える時刻で、昼間も精力的に動き回っていたせいか睡魔に襲われ、勧められて仮眠を取ろうと移動したところまでは覚えているが、その後の記憶が無い。
 となれば仮眠室から拉致されたと考えるのが普通だろうけれど。
 侵入者に気づかぬほど愚鈍でも無いと自覚はあるレオーネだから、全く気が付いていないというのは、薬か何かを使われたということになる。
 記憶にない部分が鍵を握っているはずだと、些細なことでも何かないかと探ってみるが、やはり眠くなって仮眠室に入ったことだけだ。
「誰か忍び込んだか、それとも内通者……」
 どこかのタイミングで薬を使われ拉致されたと考えるのが妥当だが、ならば目的は何か?
 思いつかないそれは、思い当たらないのではなく、多すぎる故だ。
「クソッ、身体が強ばってやがる」
 無理な姿勢で転がっていたせいか、節々に違和感が強い。
 僅かに肌寒さを感じるのも、筋肉が萎縮する原因だろうと届く範囲で肌を擦った。
 髪と同じ金色の産毛が逆立つ感触に、ざわりと肌が総毛立つ。それでも、存外に冷たくなっていた肌にはその摩擦は心地よかった。
 どちらにせよ、筋肉を解さないといざという時動けない、とは思うのだが。
 身体を起こしてはみるが、取れる体勢は四つん這い程度。
 首と手を繋ぐ鎖が短いのはあるが、檻の天井が少し腰を伸ばせばすぐに頭が当たる程度に低すぎるのだ。
 ならば手を床に付けば膝の枷のせいで四つん這いにしかならない。
 その姿勢では股間で無防備にペニスが垂れ下がる。
 レオーネ自慢の長さも太さも申し分の無い立派な逸物だが、こんな状況ではひどく間抜けだ。まして、四つん這いの情けない姿を晒すなど、レオーネの高いプライドが許せるものでもなかった。
 舌打ちとともに眉をひそめ、座り直そうとしたけれど。
 膝関節が制限されているせいか、不自然な横座りにしかならなかった。それでも、寝っ転がったままより楽なようで、知らずホッと息を吐いた。
 ただ、意識が明瞭になるにつれ自覚したのは、身体を襲う怠さだった。強張った筋肉もなかなか解れないが、それに加えて全力で運動したかのような疲労感があり、それに対し栄養が足りていないかのように身体が怠い。
 それを気力で奮い立たせて、広がった視界で辺りを窺っては見たものの、思うように見通せない。さらに、尻を付いたせいかそこに体重がかかり、肛門付近の違和感が強くなる。明らかに肛門が拡げられているような、確かに何かがそこに入り込んでいるのがまざまざと感じられる。
 視線を巡らそうと身体を捻るとより感じてしまうそれは、変わらず抜ける気配はなかった。
 そんなところに入っている物が何かなど考えたくないけれど、それでも入っているそれの用途が何かだと知らないほど無知では無い。
 ならば、この後待っているのは性的な暴行になるのでは、という外しようも無い嫌な考えを、とにかく頭を振って振り払って、顔を顰めながらも他の部分を再度確認する。
「ケツだけでねぇし……。こっちの手首と肘と首……。ちっ、これのせいで動かせねぇ」
 ナイフでも簡単に切れそうに無い金属補強の入った分厚い革の枷は、鋼のような丈夫な金具で止められていて、簡単に外れそうになかった。届く範囲で自慢の丈夫な歯で噛みついても、歯形程度しか残せない。それらの枷のせいで肘は狭い範囲でしか稼働せず、ほとんど伸ばしたままだ。しかも、互いを繋ぐ鎖が邪魔してせいぜいが臍の辺りまでしか腕を下ろせない。
 さらに膝は曲がった状態で足首は伸ばされて固定されている。これでは立つことも叶わないどころか歩くこともできない。
 一つ外しても他の枷が邪魔するほどに厳重なそれに、敵がレオーネを舐めていないということになるのだろうけれど、レオーネ自身にとっては拙いことには違いない。
 それに、檻の外に向かっている鎖の存在も気になった。それらの先は闇に消えていてうまく見えない。
 檻といい鎖といい、明らかに猛獣扱いでもされているようで、そんな異常な状況に、短い金の髪が怒りでざわりと逆立つ。
 己をこんな目に遭わせた未だ見えぬ敵に憤怒ばかりが沸き起こり、レオーネは知らず喉の奥で唸り声を上げ、奥歯が軋むほどに噛み締めていた。



 微かな音だった。
 けれど警戒心でいっぱいだったレオーネの耳は、確かにその音を拾い発生源へと目を凝らした。
 金属質の、カチリという音は鍵の音だ。
 何らかのロックが解除されたその音の場所に、さあっと光の筋が走る。
「うっ」
 思った以上に激しく目を射ったその光に、レオーネは堪らずきつく目を閉じた。
 その閉ざされたまぶたの向こうで、足音と衣擦れが近づいてくる。
 ようやく相手が判るというのに、うっすら開いた目に写る影は逆光も相まって、かろうじて黒い人型だということしか判らない。
「だ、れだ……?」
 問う言葉に、返事は無い。
 けれど、人の気配に敏感なレオーネは、その肌に複数の視線を感じた。
 二人……三人か?
 息づかいに、足音の数。
 かなり正確に察することができるほどに人の気配が近づいてきていた。
 いつまでも闇の中にいることはできぬと、上げた腕で光を遮り、なんとか明るさに目を慣らす。
 頭上で光が瞬き、室内の灯りが点いたせいで逆光も薄れて。
「き、貴様は……痛っ」
 檻の右横一メートルばかり離れた場所にいた見覚えのある髭面の男に、立ち上がろうとして頭を頭上の檻に打ち付けてしまう。
 立ち上がることすらままならないその檻の外、見上げるしかない屈辱に歯噛みしながら、敵意のこもった視線で睨み付けた。
 見慣れた、嫌悪と憎悪でしか思い浮かばない顔だ。
 ブラックスーツに気に入りのブランドのネクタイは嫌味な成金にしか見えず、トレードマークの顎髭は実のところ似合っているとは思えずに嘲笑の的にしていた。
 何人かの部下がこの男の部下に殺され、卑怯な手段で家族を失った者もいる。
 レオーネのファミリーにとって、もっとも唾棄すべき敵のドン。
「カミロ・ヤンガスっ……。貴様の仕業かっ」
 唸るように名を呼べば、カミロ・ヤンガスはクツクツと喉の奥で笑い返してきた。
 けれど、嘲笑を浮かべた口元は、何ら言葉を発さない。
 焦れたようにレオーネが食ってかかる。
「何を企んでる? 俺をどうするつもりだ?」
 檻の柵を掴み、顔を棒に押しつけるようにして憎い敵を睨み付けるけれど、カミロはそんなレオーネに肩を竦めたかと思うと、視線を檻の正面に立っている男に向けた。
「ずいぶんとどう猛だなぁ。牙を剥いて威嚇しているぞ」
「ライオンですからね。鷹揚としていそうで、狩りを邪魔する敵には容赦ない。特にこれは雌で、雄の代わりに狩りをしますから、よけいに縄張りに侵入しようとする敵には容赦が無いんでしょうね」
 しらっと答えた男は、同様にブラックスーツではあるがレオーネは見たことが無かった。どこか知的で礼儀正しい物言いで、姿勢良く立っている姿は高級バーのバーテンダーのようにすら見える。
 けれど、ずいぶんとご機嫌なカミロと共にいるうえに、全裸で檻の中にいるレオーネを前にして平然としている以上、一般人ではないだろう。
 しかも、後ろ手に組んでいた手を前に出してきたとき、その手にあったのは一メートル足らずの細い乗馬鞭だった。
 その鞭先を檻の中に入れ、レオーネの額を突くようにするのを、顔を背けて避けようとするのだけど。
「ふん、檻の中にいるくせに一人前に威嚇しているな」
 カミロの揶揄の声に、「だいたいにおいて猛獣はブライドが高いですからね。なかなか立場をわきまえません。こうやって鞭で徹底的に躾ける必要がありますが、このライオンも同様ですよ」と答えた男が、先を揺らしてピシリと頬を叩いた。
「てめっ、何しやがるっ!! カミロっ、無視するなっ!!」
 弱い力のように見えて、丈夫なそれはたいそう響いた。
 走った鋭い痛みに顔をしかめ、睨み返すが男はこちらを見ていない。
 黒く細い丸棒は先に行くほど細く、先端は2、3ミリの径だが、手元は握り手側は10ミリ近くありそうだ。その鞭が今度は横から入ってきて、男が手首を捻るとしなやかに曲がり、勢いよくレオーネの剥き出しの肩を打った。
「う、くっ」
 電撃が走ったような痛みが走り、赤い筋が残る。
 よくしなる鞭は、僅かの手の動きでも勢いが強い。
 打撃から逃れようとしても、狭い檻の中では十分に逃げられない。
 剥き出しの肌を何度も叩かれて、褐色に焼けた肌に幾筋もミミズ腫れが走る。もう少し強ければ、皮膚が裂けるだろう。
 分厚い馬の皮を打つ乗馬鞭は、人の肌には強すぎる代物なのだ。
「くそっ、止めろっ!!」
「無駄吠えも酷い」
 威嚇しても、怒鳴っても全てを無視されて、男はゆっくりと檻の周りを歩み出し、気まぐれのように鞭を突き入れ、レオーネを打つ。
 そのままレオーネの尻側へと移動して。
「ああ、こちらは大人しく銜えたままのようですよ。どうぞ、ご確認なさってください」
「ほお」
 二人が何を覗き込もうとしているのかに気がついて、慌てて尻を床に付けて足で隠そうとするけれど。
「隠れて見えぬな」
「引き上げましょう」
 ガチャ、と四方で音が鳴ったと同時に枷の鎖が一気に引っ張られた。
「う、わっ!」
 予期せぬ動きに体勢が崩れた。檻の床に転がった身体が、肘を引っ張られて前へ滑り、けれど首輪は逆へと引っ張られてそこで止まる。
 膝と足首はさらに激しく後ろに引っ張られ、すねから先が角から檻の外に引きずり出された。尻側の檻の両側近くで一部分だけ、ちょうど膝下が通るほどに空間があったのだと気づく間も無い。さらに太股の鎖も強く引っ張られ、そのせいで膝上から尻までが檻に押しつけられてしまう。
 さらに下げていた首が上へと引っ張られ、喉が絞められる苦しさに上体をあげざるを得なかった。
 まさしく四つん這いにさせられたその姿勢を自覚するまでもなく、強制的なその体勢にううっと喉の奥で唸る。
 そんなレオーネの尻に、カミロが喋っていた。
「ほお、確かに。丸く広がり、美味そうに銜えておるわ」
「だいぶんに馴染んでいるようですよ」
 尻タブに鞭先が触れる感触があった。イヤだと身を捩るが、存外にきつく鎖を引っ張られていて、逃げることも叶わない。
「止めろっ、この、クソやろうっ!!」
 罵倒ごときでは二人の動きは止まらず、息づかいまで肌に感じるほどだ。
「けっこう太いな。こんな大きなものがこの短時間で入るとはねえ」
「ここに連れてきてすぐに入れた時は指一本分でしたけどね。これが惰眠を貪っている間に、少しずつ太いものと入れ替えました」
 その言葉に、そんなことなど記憶に無いレオーネは、羞恥に紅潮したままに歯噛みを繰り返す。
 だが、ギリリと頭まで響くその音が鈍い痛みを起こしたことに気がついて、何かの時に話に聞いていた睡眠薬からの覚醒時の現象だと思い当たった。
 確かにこんな枷を付けられ、尻に何かを入れられても目覚めないなど、普通の睡眠時であればあり得ない。
 思わず確認のために自身の顎を肩に当てれば、髭がチクチクと刺激する。
 2、3日は無精していた程度に伸びていたそれに、一体何日眠らされていたのかと唸る。
「今は空気を入れて自在に大きさを変えられるものを入れています。抜けないように括約筋のところは細いままですが、外のこの大きさは内側と同じ太さですからね」
「ほお。直系が5センチくらいはあるな。どのくらい中に……長さは?」
「10センチほどですか、これは。ああ、でもこの太さだともうちょっと伸びていますかね」
 空気を入れると長さも若干伸びるのだと、平然と説明する男の言葉に、レオーネは考えぬようにしていたその存在をはっきりと思い至った。
 これは……。
 レオーネ自身、ホモセクシュアルではないし、カミロも愛人は女ばかりだったはずだ。
 だが、この状況が示すものは明らかだ。
「すっかり尻はできあがっているようだな、ふふ」
 侮蔑の視線を送るカミロの意味ありげな物言いが悪い想像ばかりをさせる。
「そろそろ出しても良いでしょう」
 その言葉と共に、尻タブに何かが当たる。近づく雰囲気に、必死になって尻を檻から剥がそうとしたけれど。
「さ、触るなっ! くそっ、このっ」
 暴れてもピンと伸びた鎖がガチャガチャと檻に当たる音がするだけだ。
 異物を体内から出したいが、カミロの目の前で出されるのはまっぴらだった。それで無くても全裸で四つん這いという情けない姿だというのに、尻から何かを引きずり出されるなど、考えたくもない。
「暴れてもその枷は丈夫な革で出来ているから外れない」
 ピシッと音が鳴ったと同時に尻タブに鋭い痛みが走る。
 堪らず唇を噛みしめたその瞬間。
「うわっ!」
 ずるり。
 体内から響く擦られる振動に、厭な感覚が全身を襲い、筋肉を震わせた。
 うなじの毛が総毛立ち、全身がガクガクと小刻みに震える。
 肛門が中から開かれていく。排泄にしては強い感覚は明らかに感じたこのないもので、それより太いものが出てこようとしている状況に、レオーネは嫌悪感に歯を食いしばった。
 窄まっていた入り口が、ぐいっと外に広がろうとしていて、ピリリと鋭い痛みが走る。
「ひ、ぎっ……」
 拡げられる括約筋が、裂ける恐怖を伝えてくる。
 恐ろしいほど太いものが限界以上に押し広げて出てこようとしていた。
 強くなる痛みに肌が粟立し、堪らず声が出そうになるのを矜持だけで堪えようとするけれど、きつく噛みしめた歯の隙間から零れる息が、シューシューと音を立ててしまった。
「もう抜ける。いい子だ」
 あやす言葉が、口惜しい。
 それでもその言葉にホッとする自分がいることも認めざるを得なかった。
 最後には、自ら息んでしまい、ズルズルとそれが抜けで出したことに、安堵の吐息が零れたほどだ。
 開ききった括約筋を刺激しながら排出していく感覚は、いつもとは違う。熱を奪われたように、怖気だつような寒さを感じてさらに鳥肌が激しくなる。
 ジュッ、ポン。
「抜けました」
 間抜けな音だった。
 痛みも薄れるが、無理矢理拡げられた違和感がいつまでも残る。いつの間にか吐きすぎていたせいか肺が新しい空気を欲して、荒く胸が波立った。
「くそっ」
 弱いところなど見せるものかと上体が崩れるのは必死で堪えているが、爪も立たぬ床に縋り付いていた手は白く強ばり、身体を支える腕はガクガクと痙攣していた。
「ぱっくりと口を開けているな。たらりたらりと涎を垂らしておる」
 クツクツと嗤いながらの声が、尻の肌を震わせる。
「見るな……見るんじゃねぇっ」
 喉の奥からあふれ出す低い怒気すら、無視された。
「これなら、すぐにでも入るだろう」
「ええ、十分に解れていますからね」
「おいっ」
 カミロが何かを命令しようとしていることに、ぎくりと硬直する。
 あの口調、あの態度。
 自分も部下に対して命令するときに、同様にとっていた態度。
 カミロよりは洗練されていたと考えているその態度ではあるけれど、見えなくとも自分にとって悪い何かが始まるのは明白だ。
「カミ、ロ──っ」
「ブルーノ、獣である雌ライオンを相手にお前の立派な逸物を使うのはもったいないが、しょうがない。それでその涎を垂らす穴を掘って、人間様に逆らう愚かさを教えてやれ」
「カミロっ」
 必死になって背後を見やり、近づくもう一人の体格の良い男を見やる。
 背が高い。
 そこにいる気配はしていたが、今まで視界に入っていなかった男は、カミロの部下なのだろう。
 四角く張った顔に、重くつぶれたように細い目に薄い唇。
 明らかにレオーネを蔑み、路上の虫のように見下している視線が、好色を滲ませる。
 つぶれた拳は暴力行為に慣れた雰囲気を醸しだし、カミロの言葉に躊躇いもしない。
 すでにドンが何を欲しているか理解しているうえに、男を犯すことに慣れていることが、ありありと伝わってきた。
「ご命令のままに」
 無機質な応えは簡潔で、明確だ。
 けれど、がしっと掴まれた指は太く、食い込む痛みは強い。
「や、止めろっ! 離せっ、カミロ、止めさせっ……、くっ!!」
 男が自身の命令など効かぬことは判っている。けれど、堪らずに発した言葉が懇願でしかないことに気が付いて、慌てて言葉を飲み込む。
 腰が、強い力で無理矢理引きずり上げられ、大腿部と尻タブに痛いほどに柵が食い込んだ。
 暴れても鎖はさらに強く引かれ、腰の下に別の革帯が回されて腰を高くあげた状態で固定されてしまう。
「くそっ! 外せっ、離せぇっっ!! てめぇ、やってみろっ、ぶっ殺しやるっ!!」
 威嚇しても脅しても、ブルーノは離れない。
 冷えた尻タブに、熱い滑った何かが触れる。
 ベタンと尻の上に乗って、叩かれる。
 重量感のあるそれは、きっとレオーネのそれより太い。
 考えたくないそれに顔が引きつり、せめてもと尻タブに力を入れアナルを閉じようとするけれど、滑るそれは尻の谷間を上から下へとゆっくりと辿っていくことを繰り返す。
「ほぉ、特大サイズですね。太いだけでなく硬さも長さも立派だ。それほどのサイズはこの館でも持つものはいません。処女穴ならば破壊しそうですねよ。いいですねぇ、ぜひ雇いたいですよ、アニマルの懲罰用として」
「や、止めろっ」
 知らず声が震えた。
 逃れられないのは判っていた。
 人の身で鎖は切れない。
 人の力で檻は壊せない。
 拡げられた肛門は……、きっと、潤滑剤をも塗されたそれが入るのを止められない。
 そんなことが理解できるだけに、そして否定できないだけに、ブルーノが止めない限り自分は犯られてしまう。そして、自身はカミロの部下であるブルーノを止めることはできない。
 男に掘られるなど、レオーネの矜持として許容できるものではない。
 けれど。
 ブチュ。
 アナルが押し広げられる。
「や、止めろっ……、やめっ」
 ぐいっと入り込んでくる丸く滑った何か。
 考えることを拒絶してきたその存在が、身体の中にじわりと入ってくる。
「ぐうっ……うぅ……、や、やめぇ……あぅ」
 押し開かれて先より強い痛みが走った。
「裂けるか?」
「ヴァージンには大きすぎますので、たぶん」
「うぅっ……くうっ……」
 太い。裂ける。
 言葉の意味を、痛みで理解する。
 中から裂かれるような痛みが腕から力を奪う。上半身がくりと崩れ、腰に巻かれた革帯で身体が支えられる。
 痛みに出そうな悲鳴を拳を噛んで堪え、増えた鋭い痛みと口内に広がる血の味に、理性を保つ。
 この程度の痛み、殴られたり刺されたことを思えば、何ともない。
 下っ端だった頃には、痛みは常時つきまとう物であったし、慣れている。
 それでも、内臓を無理に拡げられる痛みは、それとは別格だった。
 全身を冷や汗が流れる。
「おお、おお。商売女も青冷めるあの巨根がずるずると入っていくわ。そういえば、お前のペットも初めての時は鳴き喚いて許しを乞うたと言っておったな」
 嗤うカミロの声が、痛みに働きを鈍くする脳を揺さぶった。
 悔しい、悔しい。
「うぐぅ……、ううぅっ、くそっ……こんな、の……」
「あの時は慣らしに時間をかけませんでしたからね。それよりは弛いですよ、まああれも、すぐに弛んで、今では悦んで加えるようになりましたから、これもすぐに慣れますね」
「太い物に慣れると、それより細い物では物足りなくなりますからね。もう元には戻れませんよ。このライオンとて同様でしょう」
 誰が、こんなものに……。
「抜けぇっ、離せぇっ」
 慣れぬものか、こんなことに。
 痛みばかりが走る行為に、慣れるはずも無い。
「一気にやれ」
 傲慢な命令に、押し込む力が強くなる。
「ひ、いんっ!」
 食い込む指の力が強くなったと同時に、ピシッと激しい痛みが走った。
 タラリと右の太股に流れる感触が血であることを、敏感な嗅覚が捉える。
 尻タブにも布地が触れる。
 穴周辺の敏感な肌に触れるそれは、男の陰毛だろう。チクチクとするそれに、吐き気にも似た嫌悪感が湧き、喉の奥から唸り声が零れ、きつく閉じた眦から悔し涙がこぼれ落ちた。ポタリ、ポタリと床にシミを作るのは、冷たい汗だけでは無い。
「入りました」
 少し苦しげな声が背中に落ちてくる。
 引き裂かれる痛みは変わらず、奥深くまで押し広げられた違和感は、最初の時よりはるかに強い。
 ゼイゼイと吐息が乱れ、血の気を失った頬からポタポタと汗が落ちた。
 昔ナイフで切られたことはある。だが、その痛みとは違い吐き気すらするそれに、せめて弱みを見せたくないと、すべてを飲み込み我慢しようとしていたが。
「しっかり抉ってやれ」
「記録によると体内の感度はたいそう良いようですからね。うまくやればすぐにイクでしょう」
「それは良い。おい、イかせた分だけ金をやろう」
「了解」
 背後での会話を止めさせたいのに、ブルーノがずるりと引き出した途端に、喉が勝手に悲鳴を上げる。
「ひ、いぁぁっ、や、め……ああっ、うご、動……なあぁぁっ」
 馴染むより先に内壁を擦りながら出て行く。排泄時の微妙な感触より激しい感覚に、ぞわりと肌がざわめいたけれど。
「んぐぁぁっ」
 勢いよく突き上げられ、弛んでしまった口から続けて悲鳴が迸る。
 快楽など無かった。引き裂く痛みは変わらずに、内臓が引きずり出されるようで、中から破壊されそうな恐怖が襲う。
 こんな弱い気性ではなかったはずなのに、激しい悪寒が襲っていた。
 そんな自分が信じれなくて混乱し、歯を剥いて威嚇する動きも拙い。
 こんなのでイクはずも無い。
 カミロの言葉など守られるわけが無いのだと、きつく目を閉じ、襲ってくる痛みを必死で堪えるだけだ。
 床に着いた顔の横で、握り締めた拳についた歯形から血が流れていた。
 


「そろそろですかね」
 慣れぬ身体を穿つ拷問のような時間がいつまでも続きそうだったが、鞭を持ったあの男が、楽しげにその先でレオーネの肌を嬲りながらぽつりと零した。
「そろそろ?」
 カミロが上げた不審げな声に、こくりと頷き返した男はじっくりとレオーネの身体を観察していた。
 男は、このアニマルハウスと呼ばれる館の調教師だとレオーネは知らない。
 元々そのような存在に興味が無いレオーネは知らなかったが、ここはセレブ達の疲労を癒やし、彼らの欲望のままに娯楽を与えることを目的とする館で、その場所は一般に知られていなかった。
 特別なルートで、厳選された会員達しか知らない館なのだ。
 そこでは、アニマルと呼ばれるコンパニオン達が接客しているのだが、そのアニマル達を会員達が満足するように調教するのが調教師達の仕事だ。ただ、要求があれば会員自らが連れてきたアニマルも調教する。
 今回カミロが連れてきたレオーネを、雌ライオンとして調教する役目を負ったこの調教師は、覚醒しない程度に眠っているレオーネのアナルを拡張し、快楽を感じる場所を全て刺激し続け感度を上げておいたのだ。さらに中にたっぷりと潤滑剤を投入しておいた上で、覚醒をさせた。
 それでも狭い肉穴を機械のように犯すブルーノは、躊躇いなどどこにもない。時折付く角度を変え、レオーネの隠された場所をその張ったエラで抉り、亀頭で探り暴いていく。
 その動きが与える苦痛を堪えようと、唇に血が滲むほどに噛みしめているレオーネは、だが自身の顔が先よりその緩んでいることに気が付いていなかった。
 青白くまで角毛が失せていた肌が、うっすらと紅潮し始めていることもだ。
 グチュグチュと泡立つアナルから、引きずり出されるペニスとともに中に仕込んでいた潤滑剤が溢れ零れていた。
 溢れるほどに、張り付き軋むようだった抽挿もひどくスムーズになっているのが外からも見て取れる。
 それだけでなく、レオーネ自身、体内に感じる別の違和感に戸惑っていた。
 気が付けば、呻くだけの口元が歪み、肺から熱い吐息が零れそうになっている。
 いっそのこと痛いだけなら良かったのに、スムーズに動き出した頃から身体の奥で何かが弾け続けていることに気が付いてしまったのだ。
 それはとても小さな熱の塊だったけれど、数が多く、いくつもぽつり、ぽつりと浮いては弾け、それがどんどん増えて強くなる。
 痛みでは無い。
 単なる異物による違和感でも無い。
「肌が熱を持ってきましたね」
「……っ」
 鞭の先端が肌を擦った時、まるで羽毛の先で擦られたようにくすぐったく、ざわざわと肌がざわめいた。震えるそれが、堪らなく善い。
 悪い疼きが下腹部にわだかまり、零した吐息の熱が高くなっていた。
「な、何、が……」
 何かが先より違い、明らかな異変にレオーネが喘ぐ。
 良くない兆候に、身を捩り、意識を痛いはずの拳へと向けようとしたけれど。
「んぐっ、ああっ」
 ズドンと突き入れられた途端に、零れた声に明らかな甘さが混じった。閉じたまぶたが震え、食い縛ろうとした歯が堪らずに弛む。
 背筋を稲妻のごとく走った快感は、違えようも無く脳髄を侵食する。
 指先が震え、伸ばされた足先の指が覚えずぎゅっと丸くなった。
「あ、な、何……ああぁ、何だ……ダメ、うぅっ……」
 中で男の肉棒が動く度に、堪らない快感が走る。
 欲しい、それが欲しい。
 痛みに苦しんでいた身体が、縋るようにそれを欲するのに、意識が引きずられる。
 嫌悪感が薄れ、抜けようとする体内の異物を追った身体が締め付けていた。
 そんな自分の身体がおかしいとは思うけれど、止められない。
「遅効性の媚薬です。痛みの次は快楽を。初めてが痛いばかりではかわいそうですからね」
 かわいそうと言いながら、その言葉に労りの色は無い。
 ピシリ、ピシリと肌を打ちながら、ブルーノに指導する。
「奥も感じますが、半ば辺りにも善いところがあるんでよ。肉壁に少し異物感を感じませんか」
「ん……ああ、ここですね」
「ぇ、あひぃぃぃ──っ!」
 言葉と共にぐいっと抉られ、途端に走った閃光に、全身が硬直する。
「あ、がっ……が……こんな、何でぇ……あ、あ」
 口角から溢れ流れた唾液が、床に付いた頬を濡らし広がった。
 それは、射精感にも似た、けれど違う快感だった。
 目の前が白く弾け、まぶたの裏に星が瞬く。
 痛かったはずの穴が、男のペニスをきゅうっと締め付けてしまうほどに味わった快感は堪らなかった。
 ヒクヒクと震え、呆然と口を開けたレオーネのぼやけた視界にカミロの顔が入り込む。
「ひゃっひゃっ。良かったらしいぞ、ほれ、もっとやれ」
 下品な笑い声だと思うのに、それ以上意識を向けられない。
 いきなり頭の中が弾けた余韻のせいか、何が起こったかも良く判らなかった。
「そうです。そこを徹底的に刺激し続けてください」
 しかも、先の快感が間違いなかった通り、再び同じがそれ以上の快感が脳を冒した。
「ひ、やっ、ああっ、や、め──っ、あうっ、あ、ダ、メだぁぁっ、そこはぁぁ、やぁっ」
 物覚えが良いのかブルーノが狙い違わず、堪らなく感じる場所をその張ったエラで抉っていく。
 そのたびに身体が跳ね、目の前が白く弾け、堪えきれないままに嬌声が出た。
 浅ましく、イヤらしい声だと、理性が警告する。
 だが、止まらない。
 止められない。
 ダメだ。
 ダメだ、感じたら。
 そんなことを思う自分がいる。けれど、ずるりと抜かれ、また入り。
 そのたびに全身を貫く快感の鋭さに、そんな思考がどこかに追いやられた。
「いあっ、ああっ──あぁっ、やぁぁ」
 襲う快感はさらに激しく強くなる。
 下腹部で何かが弾け、全身の神経を走り回って、さらに敏感にする。
 ビクビクと震え、浅ましく喘ぎ、入り込む男の肉棒を拒絶できないのだ。
「あはははっ、イキまくってるのではないか? 処女と聞いていたが、あれ、あんなにも美味そうに喰い締めておる」
 指刺され、嘲笑されても、止められない。
 流れる涙は屈辱それより、ただ快楽からくる生理的なものだ。
 元より、これが異常だという意識すら消えていた。
「二日間、徹底的悦楽部分への刺激を与え、眠りながらも何度も絶頂を迎えさせました。さらに投薬しておいた薬は処女だろうと老婆であろうと淫乱にするほど強烈な効果があります。快楽中枢に働きかけ、ほんの僅かな刺激を何倍もの快感にしてしまうのです。ゆっくり効き始めますが、一度始まるとその効果は劇的に強く効き、長い。初めて尻穴を使った場合でも、すぐにイキ狂い始め、あまりに急激なその変化に戸惑う暇さえ与えぬままに溺れ、精神が侵されます。快楽に逆らえるモノはおりません。使いすぎるとペニス無しではいられないほどの淫乱になりますが、猛獣タイプのアニマルを手っ取り早く大人しくさせるためには良く使っております」
 グチュ、グニュ。
 濡れた音を立てる穴から、タラリタラリと流れ落ちる潤滑剤は何度も足され、落ちたそれはペニスを辿り、その真下に液だまりを作る。
 そこに、それとは別の粘液が糸を引いて滴り落ちた。
「ほれ、大きなクリが膨れ上がっておるわ。雌ライオンも発情したということか。ぶっといペニスに喜んで、涎を垂らしておる」
 下品な言葉で囃子たてるカミロの言葉がレオーネの耳に入ってくる。
 否定したいのに、自身の口からでるのは嬌声ばかりだ。
「一度発情さえしてしまえば、この館では常に発情させ続けることもできます。ああ、そうそう。この先の調教ですが、具体的な取り決めはしておりませんでした。どんなご希望がございますでしょうか?」
 思い出したかのようにレターパッドを取り出し、ペンを手に持つ調教師に、カミロは楽しげにつらつらと要望をあげていった。
「もちろん、寝ても覚めても発情して、雄のペニスのことのみ考えるようしてくれ」
 喘ぎ、震えて鳴き喚くレオーネの上で、男達が楽しげにレオーネの行く末を決めていく。
 強い効果を発し始めた薬のせいで、レオーネの先まで保っていた意識は薄れ、体力の有り余った部下が与える絶え間ない快感ばかりが支配していた。
 高く掲げた尻タブと太股には、檻の棒の痕がくっきりと付き、背中には与えられた鞭の痕が赤く線を引いている。
 薄く紅潮した肌は、しっとりと汗を帯び、男らしい喉から零れる吐息はひどく甘い。
 霞がかかったように膜を張った瞳が虚ろに泳ぎ、与えられる快感に溺れていることを如実に表していた。
 そんなレオーネの檻の上で、ボードに貼った一枚の契約書に、カミロがさらさらと万年筆でサインを入れる。
「それでは、徹底的に屈辱を与え、公開交尾を主にして調教いたします。壊れない程度の薬の使用許可。情は常時維持で、他のお客さまへの提供は自由。追加オプションで関節の固定に、逃亡防止の腱の切断。口枷活用の口淫調教。乳首の肥大化、性感帯へのピアス。排尿・排便を含む排泄制限。最終的には、理性を持ったままの全身性感帯化、ペニスを見たら涎を垂らすほどの淫乱化をご希望とのことで、よろしいでしょうか」
「ああ、それで頼む。また希望があったら追加するかも知れないが」
「もちろん、いつでもご連絡いただければ、対応いたします」
 そんな言葉で男が深々とお辞儀をしたその瞬間。
「ひぃああぁ──っ、あっ、あっ、あっ……」
 レオーネの身体がひときわ大きく震え、股間で揺れてたペニスから、二度三度精液が噴き出した。
 その間も抽挿を繰り返される身体はいつまでも痙攣し、射精したはずのペニスはまたムクムクと膨れ上がる。
 それを見やったカミロは、ふと思いついたように言葉を紡いだ。
「雌が射精するのはおかしいな。射精させないようにできるのか?」
「射精管理は排泄制限に含まれます。そうですね、射精を許可するタイミングなども決められますが」
「ふむ……」
 調教師の言葉に首を傾げたカミロだったが。
「それについては思いついたことがある。こちらの準備が必要なので、できたら連絡するがそれまではペニス以外で絶頂を極める身体にさせておいてくれ。射精管理はそれからだ」
「かしこまりました。それでは、ペニスには自慰等禁止のためのカバーを取り付けさせていただきます」
「頼んだ」
 思いついた何かがよっぽど楽しいことなのか、浮かべた笑みを隠すことなく鷹揚に頷いたカミロは、未だレオーネを犯すブルーノに声をかけた。
「気の向くまで犯して、飽きたら戻ってこい。私も遊んでくる」
「了解、んっ」
 言葉と共に、長く抽挿していた部下が不意に止まり、ぐいぐいとレオーネに股間を押しつけた。
 暴力的なほどに強面の顔が僅かに弛み、目元が赤く恍惚に揺れる。
「あいつは巨根の上絶倫だ。たいていの女はそれに耐えられん。いつもはペット相手で解消しているようだが、たまには他で遊びたいとぼやいていたからな。今日は最後まで遊ばせやってくれ」
「構いませんとも。ああ、ところでこれをなんと呼べばよろしいでしょうか?」
「ん? ああ、そうだな。ライオンにふさわしい名か?」
「ご希望であれば『雌ライオン』でも」
「ふむ」
 カミロがちらりと喘ぐレオーネを見やり、何かを考え込んで。
「レオネッサにしよう」
 雌ライオンを意味する名に、調教師は慇懃に頷き、契約書に追加する。
「最近、お客様の間で特別なお気に入りにされたアニマルにタトゥーで名前を刻むことが流行っております。これはお客様の持ち物ですから、ご自由に設定できますが」
「ほお、例えばどこに?」
「尻や肩甲骨付近が多いですが、顔もあります」
「ああ、それも良い。考えておこう」
「ふ、がぁっ!」
 盛り上がる二人の背後で、太いペニスに犯され絶頂を繰り返し、何度も射精を繰り返すレオーネが掠れた悲鳴を上げた。
「おや、ああ、結腸を通ったようですね」
「ん? おお、しっかり咥えとるわ。浅ましく白眼を剥いて喜んで」
 深く陰嚢まで食い込みそうなほど咥えたペニスに、レオーネの身体は小刻みに痙攣し、放心したかのように舌をこぼし、唾液を溢れさせていた。
「最初は苦しいようですが、何、すぐにそこまで挿入されないと満足できないようにいたします」
「ああ。男であれば誰でも股を開くようにな」
 満足げに頷いたカミロに男は再び外へと促した。
「それではお客さまはこちらに。いつもお相手させております人魚姫を、ご来訪時点から水槽の間で準備させておりますので、そろそろ我慢できなくなっているころかと」
「おお、可愛がってやらないとなあ。最近、なかなか来れなかったからな」
 この館で体型的にも雌を好むカミロの最近のお気に入りを思い出したのか、その顔が醜く歪む。
 泣き叫び懇願するアニマルを焦らし、苦しみから脱するための方法を示し、ぎりぎりまで与えぬままになぶるのが好きなカミロに、精神が壊されたアニマルすらいるほどだ。
 そんな嗜虐性を持つカミロがちらりとレオーネを蔑む視線で一瞥し、肩を竦めてドアへと向かう。
「あんなのが良いという輩に、タダで使わせてくれ。壊れなければ良い。壊すのは……私の手で行いたい。あれに飲まされた煮え湯、この手で返したいからな」
「かしこまりました。そのように設定いたしましょう」
 この先の楽しみに、カミロが調教師とともに嬉々として部屋から出て行ったその背後で。
「んあぁ……あぁ、ぐぁぁ、あっ、あっ……あぁ、イクぅ、出るぅぁぁ」
 ポタリ、と薄くなった精液を噴き出すレオーネの意識には、もう快感以外何も入ってきていなかった。