淫魔 憂 デート 前編

淫魔 憂 デート 前編

 淫魔である憂とのデート権を引き当てた男目線での話になります。
 
 憂と出かけて、何をしても良いっていう権利を手に入れた男は、どこに行こうかと考えたら、やっぱり、憂のルーツはこれだよねってことで、場所を決定し、何をするかというのも必然的に即決した。
 ただ、もれなく撮影付ということで、容姿的に目立ちたくない俺の苦肉の策としては。




 通常の相場と比較すること自体がナンセンスなほどに一つがたいそう高額のビデオシリーズに嵌まって、それだけで無く、それに関連する特典やら景品やらを手に入れるためにも大金を注ぎ込んだが、そのことへの後悔は一切していない。
 何しろ、その中身がたいそう俺好みというレアものなのだから。
 数少ないゲイもの、リアルな激しい陵辱はもちろんのこと、多種多彩な多人数の輪姦、加えて徹底的に施される奴隷調教のハイレベルな出来はもう他の追随を許さないレベルなのだ。
 さらに、『憂』という名の主演男優は、20才前後の少し童顔ぽいところのある青年で、今時の人気がある清潔感のある風体だというのに、最初は確かに嫌がっている癖に、嬲られはじめるとすぐに欲に溺れてしまっているのがありありと判って。しかも、最終的にはいつだって男と見れば欲しがり出すほどの淫乱体質を顕わにし、かなりのS気あることをされても悦んでいるという、そのマゾッ気には目を見張るものがあって。
 そんな俺の好みにドンピシャのシリーズ物なんて、通常であれば見つけるのはたいそう難しい。だからこそ、その中身の素晴らしさを知ったとき、俺は歓喜のあまりに咽び泣きながら、近年まれに見るエクスタシーを得たのだった。
 もちろん、すぐに全巻コンプリートするべく購入に走ったのは言うまでもないほどだから、今回の当選の連絡を貰ったときには、奇声をあげたあげく、泡を吹いてしばらく意識が飛んでしまった。
 なにしろ、今回の景品というのが、そのビデオシリーズの主役である憂と好きなところで何をしても良いって言う大判振る舞いのものだったからだ。
 そんなこと普通のエロビデオではあり得ない。
 しかもお膳立ては全部向こう持ち。どんなに金がかかっても良いって言うし、非現実的なことでもとりあえずば連絡してくれって話で。ただ一つの条件は、その様子を撮影させてくれってだけ。
 俺の風体は映像向きでないし、主役やれるほど目立ちたがりでないし、って問題は、主役が別にいても構わないならそうすると、そのレーベル出してる会社的にはOKとのことだったので、そんなもの俺的には願ったりってところだから文句なしだった。
 じゃあ何をしようかとけっこう悩んだが、まあ、陵辱調教されまくりの憂相手に抜きまくっている俺がリアルに何をしたいかって言えば……決まりきっている。
 ただ場所だけは悩んで悩んで、悩んだあげく。
 やっぱ憂のルーツは電車だよな。 
 再度シリーズ全作を見直した時、そんなことをマジしみじみと思ってしまったから。


 黒のTシャツに白いパーカーを羽織ってブラックジーンズにスニーカーを履いた姿は、あの時の学生姿を彷彿させた。
「あん時のこと思い出さないか? 真面目な大学生だった憂チャンが初めてを捧げたときのこと」
 ドア横の壁に押しつけ、楽しげに耳元で嗤って囁けば、俯いたままの憂が何か言いたげにびくりと震えた。
 うんうん、この角度で見ても色っぽいなあ、と、ああ、やっぱりあの憂だ、と本日何度目かの感慨に耽る。
 憂の見た目は、確かにそのあたりの青年と変わらない。どちらかというとようやく子供から脱しはじめた……そんな初さはそのままで、初めて映像として目の前に現れた時と変わらない。けれど、確かにあの時より今は、はるかに色気は増している。
 ただ、こうやってここに立ち竦んでいるだけでも、ふらふらと惹きつけられる色気に包まれていた。
 無垢な色が薄桃色に包まれている様は、僅かな身動ぎでも傍らにいる俺の欲を滾らせる。
 同時に辺りに漂うのは、極上の香りだ。
 たくましく力強いオスを惹きつけるために、その熱く生命力ある種が溢れるほどに欲しいと、全身で誘う淫らに濡れたメスが放つ香りだ。
 初めての男を銜えた撮影から今日という日まで、憂はその日々以上の数の男を銜え込んだと、憂の世話役だと言った男は言っていた。
 毎日毎昼夜、男の精を喰らい続けた故に、見ただけで男を淫欲の虜にするほどの色気を持つほどになったと。
 確かに、サイトで連載されている憂の日常を教えてくれるブログに載っている憂は、数ヶ月前の見晴らしの良い山頂での青姦写真より、先月の露天風呂での公開緊縛の方が萌えたし、先週のバイブを入れたままの全裸乗馬風景は、静止画像だというのに思わず腰砕けになり、俺をさらに惹きつけていたけれど。
 昨日は、普通に服を着て立っているだけの姿だったのに、見ただけで唾が口の中にいっぱいになり、自身に触れもしないのに、服の中にぶっ放しそうになっていた。
 そんな憂が、今ここにいるのだから、俺の理性は限界寸前だ。
 まして、記憶が俺を煽る。
 ほぼ毎日更新されるブログの画像はそれだけでなくて、俺の想像を煽るものがたくさんあったから。
 たとえば、一人遊びがすぎて罰を受けましたっていう記事では、全裸緊縛状態の憂に多数のバイブをつけて、射精禁止で街中の公衆トイレに放置されていた。その個室は故障中の貼り紙があっても、他は使えるから人の気配はひっきりなし。
 悶える憂チャンの苦悩も露わな写真に……ぅ、うますぎて涎が、上からも下からもっ溢れたその日の記事は、憂がその結果どうなったのか判らない。
 だからこそ、どうなったかって気になって。
 写真じゃ物足りねぇっ、即映像希望!!
 うなり、身悶えたのは記憶に新しい。
 しかも、ブログの各記事には、必ず『本数記録』というのがあって。
 憂が受け入れたペニスののべ本数が記録されているから、その日何本に犯されたのかが判るようになっていて、その日は一気に10本近く増えていたから、素晴らしい映像が撮れているはずなのに。
 さらに、『記録簿:ペニスNo.XXX』で始まるその記事は、過去から今まで憂が味わったベニスがその連番で番号をつけられていて、その様子を紹介している物まであった。
 その日は、新しい番号が3つほどあって。
 ある意味会員番号みたいなそれは、ブログでは他の記事でもその日は何番を味わったって事がチョコッと入ってたりもする。中には何度も記事に出てくる番号もいて、俺としては非常に羨ましかったのだけと。
 今日は俺が……。
 ごくりと多量の唾とともに息を飲み込み、同時にその芳しい淫臭を胸一杯に吸い込む。
 煙る視界の中の紅潮したうなじはしっとりと汗ばんでいて、小刻みに震える身体が、堪らなくイヤらしい。
 ぞくぞくとひっきりなしに背筋を駆け上がった快感に、頭の芯が痺れてしまう。
 知らず口角が上がり、欲の熱に乾いた唇をぺろりと舌先で舐めてむしゃぶりつきたい衝動に襲われて、ぎゅっと手のひらに爪を立てて堪えた。
 初めて見た憂のビデオは、大学に向かう電車の中で衣服を剥ぎ取られ、痴漢に犯されながらも快楽に意識を飛ばし、あまつさえ衆目の前で射精さえしていくさまがありありと描かれていて、TVからは一瞬も目が離せなかったが。
 今も目が離せない。
「憂……どうした? 思い出して、感じてんのか? まあ、大切な記念日だものなぁ……初めて男を銜え込んでアンアンよがり狂って。こんな電車の中でチンポ突っ込まれて達きたいって、痴漢にお願いして、ぶっ飛ばしてた日だもんな」
 囁く言葉に、憂が俯いたまま小さく頭を左右に振る。
 だが忘れてはいないはずだ。
 今日だって、指定された場所を訪れ対面したその時に、憂はあの映像を見せられていたのだから。
 乗車駅のすぐ隣のホテルの一室で、憂は全裸のままM字開脚でソファに繋がれ、その可愛い股間に、素敵な極太玩具をマンコ穴に銜えたところも含めて、身体の前面を俺に余すこと無く見せつけてくれた。しかも憂の正面には大型のテレビに、あの時のあの瞬間の映像がひたすらリプレイされていた。
 その可愛い勃起チンポは、世話役の男に指先で可愛がられていたけれど、彼はそれを止めること無く、笑顔で俺に相対して、今日の説明をしてくれた。おかげで、俺の我慢はたいそう鍛えられたけれど。
 説明が終わったときには、安堵のため息は、熱を逃すものでもあった。
 その時の憂は、結局涎を垂らした勃起チンポはそのままジーンズの下に押し込まれ、俺と仲良く電車に乗ったときも、まだ勃起していたのは確かだった。


 
 あの時、俺に憂を引き渡した世話役だという男は、いろいろと俺に教えていった。もちろん今日の段取りもあったけれど。
 それだけでなくて。



—–憂は人で無く『淫魔』です。—–
 憂のサイトに、そんな言葉が表示されたのは憂のシリーズが本格的に販売されてからしばらくしてからだったらしい。
 それを見たとき、すげえ設定にしたな、と思ったが。
 あの世話役の説明はそれと同様のものだった。
『淫魔は生き物の精を餌としています。憂の場合は男の精ですね。そんな憂にはお客様である皆様にご奉仕することを仕事としています。お客様にご満足いただけない場合は、餌を与える必要はありません』
 きっぱりと言い切った世話役の瞳はどこか赤みを帯びていたけれど、それに違和感を覚えるより、話の内容が気になった。
『まあ、人間でも働かないもの食うべからず、と言いますから』
 憂の浅ましい喘ぎ声に気を取られつつも、彼の言葉はしっかりと耳に入ってきていた。 
『ですがこれは我慢が足らないところがありまして、すぐにお客様よりも自分の食欲を優先させるところがあります』
 不意にチン先を指先で弾かれた憂は、口角から涎を垂らしヒイヒイと喘ぎながら、腰を何度も突き上げた。その狭間には玩具を銜えた赤い唇のような肛門が、その縁を盛り上がらせひくついている。
 ああ、達ったな。
 と、憂の映像を何度も見てきたからすぐに判った。
 陰茎を絞るように巻かれたベルトは陰嚢の根本に渡り、その動きを拘束している。故に射精はできないが、代わりにドライで達ったようだ。
『まったく、すぐにこうやって一人悦ぶから始末が悪い。実際、お客様を喜ばせる前に勝手に射精してしまうので、いつでもこうやってベルトをしているのですが……。さて、これはいかがされますか?』
 その意味深な問いかけの意味が判らないわけもなく、口角が覚えず上がってしまう。
『……許可制?』
 短く問うた言葉に、世話役は当然とばかりに頷く。
『お客様がそれをお望みとあれば。射精という部分においては淫魔も人と同じでして、別の意味で満足感を得てしまいます。そうなるとしばらく動かなくなったりしますので、お客様からお許しが無い限り射精は禁じております』
『へぇ』
 許可制と世話役は言う。
 けれど、その視線が嗤っていることを、彼は隠そうともしてないかった。そして俺にもその理由は判っていた。
 判っているからこそ、言った。
『外してくれ』
 とたんに快楽の中にも悲痛の色を浮かべた憂の表情に、溢れるほどに涎が沸いてきて。それをごくりと飲み込む。
『どうやって撮影するんだ?』
『人混みに10人ばかり撮影隊が忍び込んでいます。それに隠しカメラも設置済みですよ。周りにはお客様のお助けをする共演者も揃えていますし。ええ、どうか周りのことなどお気になさらずに、お客様のやりたいように。それに後始末は全て我々の方で行います……あの時のように、いえ、それ以上に』
 くすりと笑みと共に追加された言葉に、問題はなく。
『それで頼む』
 きっと誰にも邪魔されないだろう。
 あの時のように。
 それが俺にとっていちばん大事なことだった。


 やっぱ、こういう時の電車は満員電車だよなあ、と、不快指数半端無い混み具合でも、俺の気分は最高だった。         
 そんな俺に半ば寄りかかり、はあはあと苦しげに呼吸を繰り返す憂は、ぐらぐらとゆれている。息の荒さもだんだん酷くなっている。
 それに触れた熱はますます激しくなっていて、肌を覆うシャツがひどく湿っぽくなっていた。少なくとも上半身は汗だろうけれど、手の甲に触れたジーンズの股間部分の微妙な湿気は、違うものであるのは確かだ。
 憂を取り囲む数人が、電車の揺れを利用して大きく揺れ動き、そのたびに憂の身体が強く押されぐらつく。
 それぞれがかすかに発しているさまざまな臭いの中でも、憂からの淫臭だけははっきり判別できた。
 上がった熱のせいか、先よりは強い。
「臭うぜ」
 ちょっと耳元で囁き、吐息で触れる。それだけで、あからさまにビクビクと震えて、小さな嗚咽が零れていた。
 全身性感帯になるほど、男からの愛撫を味わった身体は、たいそう敏感なようで、吐息一つで達きそうになっている。
 内緒話のごとくの囁きは、電車の音とアナウンスに掻き消されるほどに小さく、他人には聞こえない。
「イヤらしい臭いだ。こんな人前で、何茹だってんだろうねぇ?」
「ゃっ……んっ、あ、はっ……」
 ぷるりと震え、けれど衆人環境という意識はあるのか、息を詰め、零れそうな喘ぎ声を必死で堪えている。
 しかし、膝が震えて崩れそうになる頻度があきらかに増えていた。もうろくに自分の身体が支えられていない。
 乗り込んでから10分も経たないうちに、その瞳は水膜に覆われたように濡れ、虚ろに彷徨い惑って揺れている。
「ひっ、うっ、く……あぁ……たす……け……ねが……んん……」
 押し殺した嬌声と懇願がひっきりなしに繰り返され、時折大きく息を飲み硬直している様に、嗤いが止まらない。
「良かったな。大好きなオスにいっぱい囲まれてさ。うれしいだろぅ? ほら、君より大きな、素敵な人たちがいっぱいだよ」
「んあ……だめ……こない……でぇ……あぐっ……」
 とろりと瞳が濁り、かすかに開いた口角から涎が垂れ出していた。
 多量の唾が、その口内に満ちているのが判る。
 あの世話役の話によれば、憂は男が大好きで、傍らにいるだけで涎が出てくるほどに欲しがるのだという。オスの匂いを嗅いで発情期を迎えたメスのごとく、潤滑剤になる淫液を穴から垂れ流し、ペニスからも期待の汁を溢れさせて、早く犯して欲しいと、その股を開く。
 ガクンと電車が少し揺れた拍子に、ああ……と嬌声でしか無い振動が触れた頬から腕に伝わってきた。
 見下ろす先にあるうなじの汗は増え、滴となって流れ落ちる。それが蒸発し、肌から湯気のように淫香が立ち昇る。
 奇妙なざわめきが、周りに起きているのも気付かずに、憂が堪えきれないとばかりに身悶える。
 今や周囲の男たちの視線が、憂に集まってきていた。
 全ての瞳に浮かぶ欲情はひどく荒々しく、いつ爆発してもおかしくないほどだ。ただ、かろうじて理性という枷で押さえつけられているだけのそれ。
 何故だと──自分達の違和感にためらいつつも、憂が原因だと本能的にとらえているのだろう。俺だって、きっと判る。
 原因は、このイヤらしく喘いでいる憂なのだと。
 だからこそ視線が集り、男たちが近づく。
 実際、俺もかなりやばい。
 けれど、この先の楽しみを知っているからこそ、まだ堪えられた。
 少しずつ、少しずつ。やるべきことはまだたくさんある。
 そう思って意識を逸らそうとほおっと熱を吐き出すのに大きく息を吐いたとき、懐で携帯電話がぶるっと一回震えた。
 一つ大きな駅を過ぎて、これからしばらく区間が長いエリアが続いきはじめた時。
 短い着信は、準備ができたという、その合図。
「憂、周りを見てご覧。誘われて、こんなにも集まっている」
「ぇ……」
 その囁き声への反応は、少しだけ遅かった。
 何かを堪えるように固く閉じたまぶたを開いた憂が、ぼおっとしながらも辺りを見渡していて。
「え、あ……」
 直後、その目が大きく見開かれ、ぐらりと身体が傾く。
 それが合図だったかのように、周りの連中が声高に憂に声をかけ始めた。
「なんだ、お前。何そんなに腰カクカクさせてんだ?」
「え……あ……」
「目、焦点合ってねぇぜ。熱に浮かされてるっぽいけど……何の熱だぁ?」
「ちが………、こな……で……うぅ……や……」
「いい加減にしてくれないか。さっきから何度も腰を押しつけてきているが。そんな硬いもの押しつけられても困るのだが」
 背後のスーツ姿の壮年の男が声高に窘め、憂の身体を引き剥がす。自然皆の視線が憂の腰に集まって。
「わぁおっ、勃ってるぜ、あれ……」
「あんたの股間、濡れ濡れ」
「やんっ!」
 右手の青年が指差した指が、電車の揺れでその場所を引っ掻く。途端にびくりと硬直した憂の喉から堪えきれない呻きが零れ。
 ピクンっと跳ねた身体が沈む。
 寸前にその腕を取って支えた男がいた。
 俺じゃない。
 俺は、皆が騒ぎ出したときには他人の振りに入っていたから。
 これからの俺は、脇役というかエキストラ。
 主演は、憂、助演は、彼。
 俺はこのイベントを最大限に楽しみながら、さらに撮影現場を一番近い位置で楽しめる役。
「おやおや」
 呆れた風情で皮肉げに零す嘆息を零す男は、かなり危険な匂いのする、一般人なら近づきたくない類の御仁に見て取れた。
 その彼に背中で両手を捕られ、自然胸を突き出した憂に。
「シャツの下ででかい乳首がつっぱってんのが丸わかり」
「ひあっ」
 Tシャツ姿の逞しい体型の若者が、太い指でその胸の突っ張りを弾き。
「こいつ、漏らしてんじゃね? どうする?」
 暗に、罰せよ、と、別の男が意志を込めて周りを見渡した時、準主役の彼は躊躇うことなく嗤いながら言い放った。
「まずは確認だろう? 本当に漏らしているのかどうか」
「どうやって?」
 疑問に、質問自体ナンセンスだと、その表情が教えていた。
「や、止めて……くださ……」
 か弱き雛のように震え、厭々と首を振る声はか細くて。それが周りをさらに煽っていく。
 ギラギラと渦巻く欲望が狭い車内に伝染し、皆の意識の場所の概念がなくなっていた。
 俺も我慢の限界に来ていた。あのシリーズの映像のように。いや、これはもう現実なんだ。あれだけ夢見た場に、憂をいたぶり尽くす相手としてここにいるのだ。
 しかも俺がはまったきっかけである車内のレイプ場面と同じような状況の中で。
 あの時のように、いや、それ以上に禁忌などなく。
 叶うはずなどない夢だったのに、憂が憂で有る限り、それはどんな夢であろうと叶うものなのだと、あの世話係は言い放ってくれて。
「ひぃ…ぃ…」
 悪い予感に、哀れな贄は蒼白になって辺りを見渡し、身を隠すように後ずさる。と言っても、背後には彼がいてそれ以上動ける場所はなかった。


続く