溺れる。 家城の足を抱え、まだきつい家城の中を突き進みながら、ふっと思い浮かんだことはその事だった。 抱かれることは嫌いではない。最近ではそれに慣らされてしまったことは否めない。 だが、それでも無性に家城を抱きたくなる。それは、抱いたときでないと見せてくれない表情をもっと見たいから。他人が知らない家城の表情。 抱かれる側は啓輔の時だけだと言っていたから、その表情を知っているのは啓輔だけだと言うことになる。 だからこそ、抱きたいと思うし、何よりも堪らない。 家城の躰の中に自身を沈めたときのこの愉悦。 溺れる。それがほんとにしっくりくるくらいに、啓輔は家城がいいと思ってしまう。 欲しくて欲しくて堪らなくなる。 締め付けられ痛いぐらいに感じながら、それでもぐいっと突き進むと、家城の喉が声にならない悲鳴を上げた。 必死で堪えているその姿が何よりも愛おしい。 愛おしくて離したくなくて……だけど苦しませたくないから、啓輔はそっと家城自身を柔らかく握り込んだ。 ゆるゆると扱くと、きつく食いしばられていた歯が緩み、甘い声が漏れる。 そのタイミングを計って、一気に奥まで貫いた。 「ああっ!」 中を突き上げられた衝撃が、家城に声を上げさせる。 反動でぎゅっと中を締め上げられ、啓輔の方も息を飲んでそれに堪えた。 「じ、純哉……緩めて…よ……」 痛みに襲われ口走った言葉が届いたのか、家城が大きく息を吐くと、締め付けが緩んだ。 うっすらと開かれたその眦には涙が浮かんでいる。 「…け……いすけ……」 家城の中が馴染むのを待ちながら、息を整えていると家城がすうっと手を伸ばした。それはまるで誘っているようで、啓輔は起こしていた半身を家城の上に覆い被せる。 「何?」 耳元で囁くと、家城は真っ赤に染めた顔を背ける。 「……っ」 その口が何かを言葉を呟いたのだが、あまりにも微かで聞こえない。 何だろう……。 その顔を覗き込むと、固く閉じられた瞼が微かに震えていた。 「何?」 再度問いかけると、その瞼が微かに開けられる。その視線がどこか虚ろで、焦点が合っていない。それに気付いてさらに覗き込もうとした途端、家城の中で啓輔のモノが動いた。 「んっ!」 「純哉?」 再び閉じられた瞼。だが、その替わりのように濡れていた唇が開かれる。 「も……う…ご……いい…」 はあっと熱い吐息が最後に漏れた。 え……これは……。 啓輔は一瞬見開いた目でまじまじと家城を見遣る。だが、頭が理解するより早く、躰が反応した。 先ほどよりさらに固く体積を増した啓輔のモノが深く家城を抉る。 「うう……っ!」 求められた。 家城の方から……それが何よりも啓輔を昂ぶらせ、躰がより一層家城を求める。 入れられる経験の少ない家城のためにたっぷりと使ったゼリーが溢れて湿った音を立てる。 「…くふ……はあ…………ああ…っ!」 互いの躰の間に挟まれた家城のモノが固く興っている。 それが挟まれ擦られて余計家城を高めているようだ。啓輔自身、家城にさんざんやられた体勢だから、家城がどんなふうに感じているのか判っていた。だから、より一層よくなるように姿勢を変えながら突き上げる。 「す、ごい……中……あつ……いからっ!」 動きながら喋ると息が上がる。それでも何か喋らずにはいられなかった。 絡みつくような家城の躰の中は待ち望んでいたそのものだったから、その刺激に啓輔自身そうもちそうになかった。 だけど、その前に何としてでも家城を達かせたい。 啓輔は家城のモノを掴み込むと、一気に扱きあげた。 先走りの液でしとどに濡れていたせいで、手が滑らかに動く。 「ああっ……はあっ………だ、めっ」 切羽詰まった声と共に手が抗うように動くが、啓輔はそれを無視すると一気に家城を突き上げた。 「ああっ!」 家城の喉から嬌声が上がる。 迸ったモノが啓輔の手と互いの腹を汚した。 途端にきゅっと家城の体内で締め付けられた啓輔自身も堪える暇もなく、一気に解放させられた。 「あんたって……ほんと……可愛い……」 荒い息のせいで途切れる言葉。だけど、言いたかった。 そのせいで怒ったように顔をしかめられても、それが照れ隠しのせいだと判るからもっと見ていたいと思う。 啓輔は家城の頬に口付けると、一向に萎えそうにないモノで再度家城を突き上げた。 「あっ!」 油断していたのだろう。大きく目を見開き、驚いたように啓輔を見つめる家城に啓輔は口の端をあげて応えた。 「俺、足んねーもん」 「でも……仕事が……」 「だって、これを逃すと次いつやらせてくれるかわかんねーだろ。だから、俺、もっとやりたい」 「やりたいって……若いですねえ……」 呆れたようにため息と共に漏らした言葉を肯定の意味にとった啓輔はにんまりと相好を崩した。 「あんたって、そんな年寄り臭いこと言うなよな。こんな……可愛いのにさ」 つつつっと家城の頬に手を這わすと、ふいっと顔を背けてしまった。 「何、怒ってんだよ」 「別に」 だが、その短い言葉が掠れて上擦っているのだから、啓輔にしてみれば崩れた顔が戻らない。 「やっぱ、かわいーや」 そう言うと、啓輔は再び動き始めた。 結局、何回やったか判らない。 何度も突き上げられ、疲れ果てた家城が意識を飛ばすまで啓輔は自分を止めることができなかった。 朝になっても動こうとしない家城を覗き込むと、じろりと睨み返された。 ひえぇっ! 声にならない悲鳴を必死で飲みこむ。 「あの……朝なんだけど……」 窺うように声をかけると、返ってきたのはきつい視線だけだった。 やっばー、怒ってるう! 無理はさせたと思うから、このまま寝かせてやりたいと思う。というより、どんなに仕事へ行きたくても、本人は動くこともできないのだろうが……。 だが困ったことに、啓輔は会社への通勤手段が無かったのだ。 ここは、家城のマンションで、しかも自分のバイクは工場に置いてきたまんまだ。 休むか……。 だけど……新入社員の啓輔には有給休暇は10日もない。両親が亡くなったドタバタで平日に休む必要性を身に染みて感じているから、できれば大事に使いたいから行けるときには行きたい。 はあ……。 完璧に忘れていたから、自業自得なんだが……。 「今、何時です?」 俯いてどうしようと考えていたときに、突然家城に問いかけられた。その声が掠れている。 「え、あ、今……6時……だけど」 「携帯取ってください」 手を差しのばされて、慌てて取ってくる。それを手渡すと家城は、ピピッと携帯を操作してどこかに電話をかけた。 こんな朝早くどこに? 啓輔は茫然とそれを見ていた。 数度の咳払いの後、家城がふっとその顔を引き締めた。 「あ、おはようございます」 誰だろう? 啓輔がじっと見ていると家城がふっと口の端を上げた。 「ちょっと、私は今日休みますので……いえ、風邪のようなんです。で、隅埜君が昨日泊まったんですよ。彼を会社まで連れて行って貰えませんか?」 げげっ 啓輔は茫然と家城を見つめる。 俺が泊まったことを平然と言えるような人って? いや、まあ、友人として泊まったんだったら、何も勘ぐられることはないと思うんだけど……。 「あ、ああ、ありがとうございます。じゃあ、6時半に。はい、それでは」 携帯を切ると、家城が啓輔に視線を移した。 「あ、あの……」 「滝本さんが送ってくれますから、6時半に下の駐車場出入り口で待っていてください」 「た、滝本さんっ!?」 あまりのことに声が裏返った。 それって、お泊まりの理由がもろバレの相手ではないだろうか? 「どうしたんです?早く用意しないと間に合いませんよ。朝食は適当に食べてくださいね」 冷たく突き放され、啓輔はがっくりと肩を落とした。 嫌だなあ……。 はあああ。 「おはようございます」 顔を合わせられなくて、近づく気配に適当に頭を下げる。 「おはよう」 「おはよう」 二人分の声がした。 はっと顔を向けると、苦笑いを浮かべる滝本の背後にもう一人僅かな笑みをその口元に湛えた男が立っていた。 なんか……ジャ○ーズみたいだ……。 テレビで見るいわゆる格好良い系のタレント達の顔がふっと頭の中を過ぎる。 そんな彼らと比べて遜色ない彼は、啓輔が見惚れているのに気がついたのかくすっと笑いながら首を傾げた。 あ、やば。 慌ててむりやり剥がした視線を滝本に向ける。 「彼は、営業の笹木だよ。昨日夜こちらについてね、泊まったんだ。同期でね、こっちに来ると私のうちに泊まるんだ」 「はじめまして、よろしく」 「あ、こちらこそ」 ぺこりと頭を下げる。 ああ、同期なんだ……って? 「じゃあ、家城さんも?」 「そう。金曜日もこっちに来てたから、一緒に飲んだんだけどね」 笹木がこくりと頷いた。 げー……。 家城さん、嵌めた訳じゃないだろうな? 今頃ベッドでダウンしている家城を疑ってみるが、乗せて貰わないと出勤できないのだからどうしようもない。 「車、こっちだよ」 「はい。お願いします」 諦めるしかなかった。 「家城君、風邪だって?大丈夫?」 笹木が助手席で、啓輔が後部座席に座っていた。その笹木が半ば振り返るようにして聞いてくる。 「あ、たぶん……」 風邪……というか何というか。 「そう?」 何故かくすくすと笑い出す笹木。 何なんだ、この人は? どうもさっきから随分と楽しそうだ。 啓輔の一挙一動を窺っているような気配がある。 なんだかいたたまれない。 しかし狭い空間だから逃げようがないから、とにかく外を見続けていた。 信号待ちで車が停まった途端に、どこかでため息が聞こえた。 ふとそちらに視線を移すと、滝本ががっくりと頭を垂れている。 「何だよ、優司。やっぱ、怠いんだろう?」 「ばっ、秀也っ!!」 へっ? 慌てたように笹木の頭をこづく滝本の髪を、笹木が笑いながら「お前こそ」と言いながらくしゃりと掴んだ。その滝本の反応に目を見開くと同時に、滝本がはっと自分の口元を塞いだ。 二人が名前で呼び合うほど仲がいいんだと思いつつ、だがその滝本の反応に驚きを隠せない。何となれば、その一瞬で滝本の顔が朱に染まったのだから。 「だから、俺が運転するって言ったのに。腰、辛いんだろ?」 だが、笹木の方はそんな滝本を煽るように言葉を続ける。 「だからっ!」 滝本の視線がちらりと窺うように啓輔へと向けられた。 聞かれたくない事柄なのだろうが、狭い車内で喋られたら嫌でも耳に入ってくる。啓輔は首を竦めてその視線から逃れた。 えっと、まさかなあ……。 腰が怠い……という言葉に、昨夜の行為を思い出してしまうのは……そういう状態を身に染みて知ってしまっているからで。 もしかしなくても……。 ちらりと前を窺うと、笹木と視線が合った。 くすっと確信に満ちた笑みを返されては、啓輔もうっと言葉を失うしかない。 「そういう関係なんだよ。俺達はね。だから君たちとのことも判るんだよね」 「はあ……」 そういう関係って……そういう関係なんだよなあ……。 そういう関係って言うのを考えると昨夜の行為をさらに思い出し、啓輔の顔がかあっと熱くなった。 少なくとも滝本は啓輔が家城とそういう関係なのを知っている。だが、これではこの笹木って人にもばれているって事だ。 「秀也……」 もうどうでもいいから……。そんなニュアンスのため息が滝本から漏れる。 「ふふん。この位していいだろう?金曜日の家城君の荒れ模様は君のせいなんだから」 ……。 そっか……あの時、この人もいたんだ。だからか、さっきから、どう見ても俺で遊んでいるような気配を感じるのは。 「まあ、あの家城君を御するのは並大抵ではないだろうから、君ばっかりを責めても仕方がないとは思うけどね。でも家城君は君しか見えていないから。だから、君も家城君を大事にしてよ。結構困った性格だけど、あれで可愛いところもあるし」 「え?」 いろんな事をいろんな人に言われた。だが、家城の印象は、皆一様に冷たい、厳しい、仕事ができる……だった。 初めてだ、可愛いなんて言った人は。 「可愛い?家城君が?」 運転席で滝本が不審そうに声を上げる。 「彼さ、結構純情だと思わない?優司だって知っているんだろう。彼が竹井君をずっと思っていたのに、結局手を出さなかったことをね」 「それは……まあ、そうだったけど」 「知って……るんですか?」 誰も知らないのかと思っていた。 家城にとって知られることを何よりも恐れていたようだったから。 「知っているも何も……俺ってそういうのって気付くの敏感なんだよ。だいたい竹井君と安佐君がつきあい始めた頃の家城君の行動はどう見ても嫉妬が入り交じっていたよ。本人も気付いていなかったみたいだけど、なんかね、判ってしまったんだよね」 からかっているのかと思っていたが、どうもその声音が優しい。 啓輔は茫然と笹木を見遣った。 「荒れていたよ、あの時からずっと。でも君と逢ったときなんだろうな、彼が落ち着いてきたのは。その前くらいに、ちょっと落ち着いてきたんだけど、ほんとに落ち着いたのは、4月に入ってからだからね。優司に君のことを聞いていたから、やっと彼も心を許せる相手が見つかったんだなって思った。あんな性格だから、いろいろ難しいかも知れないけど……たぶんね、喧嘩でもして二人が離れることになったら、ショックを受けるのは家城君の方が強いよ。彼は、ほんとに君のことを思っているから」 「そんなの……」 何でこの人がそんなことまで言うんだろう? それよりそんなに家城が俺の事を想ってくれているんだろうか? 「隅埜君、家城君はね、ほんとに愛したのは君が初めてなんだよ。竹井君は、好きだったろうけど自分から諦めることができる程度だった。だけど、彼は君を諦めることはできないだろう。だから、俺達からも頼むからね。家城君のこと」 どうして……。 この人はこんなにも家城の事を心配してくれるのか? どうしてそんなにも家城の事が判るのか? 啓輔にも判らなかった家城の想い。本当にこの人の言うとおりなのだろうか? 「ああ、そうだ。今度みんなで飲むときは、隅埜君もおいでよね」 ふっとその笑みが悪戯っぽいものに変わった。 「え?」 飲みって……金曜日みたいな? 「是非とも来て欲しいね」 「はあ……」 メンバーって、この笹木さんと滝本さんと、竹井さんと安佐さんと、家城さんと俺? 3組のカップル? でも……。 「楽しいと思うよ。だって、あの家城君の相手が来るとなったら、みんな手ぐすね引いているだろうし」 くすっと笑われるその真意に啓輔は気がついた。 げげっ 冷や汗が背筋を流れる。 強ばってしまった啓輔の表情を見て取った笹木が面白そうに声を押し殺して嗤う。 滝本がつんつんとつつくが止まりそうにない。 「いい加減にしろよ」 「くくくっ。だって止まらない」 これもあいつの後始末かよ。 啓輔は大きなため息をつくしかなかった。 ******************************************* ジャパングローバル 人事部 本日の勤怠報告 有給 ○○ ×× △△ 病欠 ++ 服部 家城 竹井 ******************************************* 終わり アベック鬼ごっこ ・二人ずつ(または三人)組になった人が同心円上に間隔をあけて並び、中心に鬼、円周上または外に逃げる人がいる状態で始めます。 ・逃げる人は、組になった人と手を繋ぐことによって鬼から逃れることができます。ただし、その瞬間に手を繋いでいない側の人が逃げる人になります。常に組をつくっている人数は一定です。 ・すぐ隣に逃げれば良いのですが、それは鬼も判っていますから、いかに素早く他の組に辿りつけるかが勝負になります。 ・鬼は一人で逃げている人にタッチすれば、即座に交替。今度は追いかけられることになります。 という遊びです。 さて今回、最後に鬼に捕まった人は誰でしょうね(^^)V |