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ONI GOKKO
〜アベック鬼ごっこ〜 15
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 随分と嬉しそうな服部の笑顔が印象的だった。
 二人が出ていくと、一気に静けさが部屋の中を漂う。
 さっきまで啓輔に突っかかっていた家城も二人の様子に予想外に毒気が抜かれたのか、無言のままキッチンへと向かった。
「何か、呆気なかったな」
 呆気無かったけど……疲れた。時間にしてみれば僅かな間だった。時計の長針はそんなに動いた形跡がない。
 啓輔はソファにぐったりと躰を投げ出した。
「もともと二人とも好きあっていたんですからね。それを梅木さんが余計な気を回しすぎて、うまくいっていなかっただけです。梅木さんの方をつついてしまえば、後はどうとでもなりますよ。服部さんがその気なんですからね」
 すっと差し出されたビールの缶を受け取る。
「今日は未成年、なんて言わないんだ」
 くすりと笑うと家城もその口元を歪めた。
「たまには、ね。疲れたんでしょう?」
「う〜ん、まあね」
 確かに酷く疲れている。
 精神的な部分が多いとは思うけど……特に今日は……。
「だってさあ、服部さんのことも一応俺なりにいろいろ考えたんだぜ。まあ、今日は出る間も無かったし。それはそれでラッキーなんて思ったけどさ。でもそれ以上に今日滝本さんや竹井さん達にもいろいろと言われたんだぜ。金曜日の件……」
 ちらっと家城を窺うと、涼しい顔でビールに口を付けている。
「家城さん、荒れてたんだって?どうにかしてくれって何でか俺に言うんだよね、みんな」
「そうですか。それは災難でしたね」
「……」
 も、こうなるとため息しか漏れない。
 ああ、もう……。
 啓輔はぐいっとビールを飲むと、気分を変えて、先程思ったことを家城に言ってみた。
 服部の方が強いと感じた事だ。
「それは、服部さんが一度挫折しているからですよ。どん底から這い上がってきた服部さんと、最初から目を背けていた梅木さんとでは、それは強さが違います。啓輔は服部さんが弱々しそうに感じることもあるでしょうが、彼は以外に強い一面を持っていますよ」
「そうなんだ……」
「啓輔だってそうでしょう?」
「え?」
 いきなり振られて驚いて家城を見ると、そこにある真剣な目に見入ってしまった。
「啓輔は手ひどい挫折を繰り返してきているから、今は少々の事では動じませんよね。何かあっても結構立ち直りが早いし……」
「そう……?」
 そうなんだろうか?
 自分ではそんな事、思っても見なかったが……。
「啓輔は強いです。いつだって私を翻弄して掻き回してくれて……いつだって私はあなたを追いかけている気になってしまう」
「は、あ?」
 何だそれ?
 家城の言っている意味が半分も分からなくて呆然と見遣ると、家城がことんと缶をテーブルの上に置いた。
 ソファに手をつき、啓輔の上にのしかかってくる。
「あ、ちょっと!」
 顔と顔が10CMも離れていないところで、家城が囁いた。
「あの時……あの車の中で啓輔の方が仕掛けてこなかったら、こんな関係にはまだなっていなかったかも知れませんよね。私には踏み出せなかった事を、あなたはいつだって簡単に踏み出してくれる。私はいつもそれに従うだけです。いつだって……」
「家城、さん……」
 ど、どうなっているんだ、これは?
 思わずソファの背もたれにぐっと躰を沈み込ませる。
 い、いや……これは、そのそういうシチュエーションで、気にすることはないんだよな?
 だが、目前の家城が思い詰めたような顔をしているのが気にかかる。
「な、どうしたんだよ?何、考えてんだ?」
「今日、休憩時間の時に、何で竹井君を追いかけていたんです?」
 ぎくっ〜んっ!!
 見てたのか、こいつは!
 あの状態で!
「休憩を誰と一緒に取ろうと、私は気にしません。だけと、あの時はちょっと普通ではなかったですよね。竹井君もあなたも」
 うっわぁぁぁぁ!
 ちょっと待てっ!
「あ、あれは、竹井さんが安佐さんと喧嘩状態になっちゃって、で、なんでか泣きそうだったんだよ。そんで追いかけたって言うか。ていうより、何で俺が責められなきゃいけないんだよ。元はといえば、家城さんが金曜日にみんなにあたるからだろーが」
 手を伸ばして家城の肩を押し戻す。
「元はと言えばって……そのおおもとは、あなたの方でしょうが?」
「うっ」
 それを言われると元も子もないのだが……。
 啓輔は上目遣いに家城を窺っていた。
「なんだよおっ!家城さんだって服部さんとあんなに親しくしちゃってさ、俺、信じろって言われてたから我慢したけど、あれ見た途端叫びそうになったんだぞ。あんなの、あんなのっ、俺、どんな想いで見てたか!しかも竹井さん達には責められるし!!」
「そう言えば……そうですね」
 意外にすんなり認められ、啓輔はそれはそれで口ごもってしまう。
 あれも仕返しかって聞きたかったが、そんな事をいうと墓穴を掘りそうな気がして言うことが出来ない。
「で、それが?」
 それが……って……言われるとどうしようもないんだけど……。
 至近距離にある家城の顔。
 僅かに離れていても伝わってくる体温。
 ちょっとだけ入っているアルコールの影響もあるのか、啓輔の躰は熱を持ったように火照っていた。
 それに気づくと、今度は違うところがぴくりと反応する。
 ああ、俺って、お手軽……。
 なんだか、またこれで有耶無耶になるんだろうなあ。
 ふっと浮かんだ考えに苦笑しつつも、駄目もとで聞いてみる。
「なあ、今日は俺にやらせてよ」
 途端に家城がはっと躰を起こそうとした。
 それを咄嗟のところで捕まえた。
 逃げられないようにぐいっとその襟元を捕まえて引き寄せる。
「滝本さん達の愚痴、俺が引き受けたんだからさあ……少しはご褒美貰ってもいいと思うんだけどな。いいだろ?」
 耳元に口を寄せ、息を吹き込むように囁くとため息にも似た吐息が聞こえる。
 すうっと赤くなっていく家城の首筋を観察しながら、啓輔はそっと家城を抱き寄せた。
「明日は仕事ありますから」
 強ばった躰を抱き締めていると、そんな言葉が耳に入った。
「も、駄目。止まんねーよ」
 欲情して掠れている自分の声をそのまま家城にぶつける。
 びくりと素直に震える躰を愛おしげに抱き締めた。
 くうっ!堪んねーよ。
 どうしてこんなにこいつってば可愛いんだよおっ!金曜みたいに強気なときはあんなに憎たらしい癖に!
 その温もりが気持ちいい。
 啓輔の腕の中で、家城がふっと息を吐いた。その途端に家城の強張っていた躰が柔らかくなり、その手が啓輔の背にまわされる。
 これって……させてくれるってこと?
 いつだって言葉で翻弄して、俺にやらせてくれねーくせに。
 ちらりと家城の横顔を窺うと、瞼を固く閉じて啓輔の肩に埋めるようにしている。
「家城さん……って、純哉って呼んだ方がいいかな。こーゆー場合?」
 くっと喉を鳴らすと、家城の朱に染まった範囲がすうっと広がった。
「なあ、淳哉……俺、すっごく欲しい……もうずっとさせてくれてないじゃん。俺だってたまには……したい。な、頼むよ……」
 その耳朶を甘噛みしながら、熱のこもった息とともに囁く。背にまわした手をゆっくりとまさぐるように上下させ、背筋のラインをシャツ越しに激すると、家城が堪えられないように吐息を漏らした。
「ふっ」
 微かな震えをその手の中に感じながら、啓輔は懇願していた。
「俺は……淳哉としたい。淳哉を感じさせたい。淳哉の中に……入りたい……」
 家城の躰をさらに引き寄せると、明らかに固く張りつめたモノを躰の上に感じた。
「淳哉……」
「んっ!」
 それにそっと手を添えた途端、家城が強く手を突っ張った。逃れようとするせいで露わになった顔は何かに堪えるかのように歪み、そして火を噴きそうな程に赤い。
 だが、啓輔は決して家城にまわした手を離さなかった。
「逃がさない」
 にやりと笑いながら声をかけると、見開いた目が啓輔を見据える。
「どうして……そんなに……」
「だってしたいものはしたいの。家城さんだって、したいから俺とするんだろ?そりゃ、家城さんにされるの、嫌じゃねーけど……でもやっぱり凄くしたくなる時ってあるんだ。今がその時」
 きっぱりと言い切ると、大きなため息が家城の口から漏れた。そして、その赤い唇が開く。
「啓輔の好きなようにしてください」
 掠れた声だった。
「純哉っ!」
 乱暴にきつく家城を抱き締めると、噛みつくように口付けた。
 今のこの機会を逃したくはなかった。
 両腕を家城の頭に回し、さらに強く深く口付けると、家城の柔らかい唇を貪るように味わう。唇から伝う少し苦いビールの味が酷く美味しいと感じてしまう。
 家城の唇がすっと緩んだ。それを逃さず、するりと舌を差し込む。
 それを家城の柔らかな舌が招き入れた。
 絡め取ろうとして絡め取られる。
 上顎の内側を撫で上げられ、ぞくぞくとした疼きが背筋を走る。掻き抱く両の手に余計に力が入った。
 もう、止まらない。 
 家城を抱いたまま姿勢を入れ替えると、ぱさっと乾いた音がして家城の躰がソファに沈み込んだ。一瞬だけ、驚いたように目を見開いた家城だったが、啓輔が再び口付けるとまた目を閉じて受け入れる。
 熱い……。
 シャツの裾から手を入れると触れた躰がしっとりと汗ばんでいた。
「ふっ」
 つつっと動かした手に家城が身動ぎ、鼻にかかった声が漏れた。堪らないとばかり顔を背けたせいで露わになった首筋に誘われるように吸い付くと、熱を持った躰から家城の匂いが立ち上り、啓輔はさらに煽られた。
 吸い付くたびにびくりと反応する躰。
 家城の手が時折焦れったさそうに動く。
 無意識の内に啓輔の躰をまさぐろうとしては、それに気付いて止めているっといった感じだ。
 どうやら、家城は本気で啓輔にさせてくれる気になっているらしい。
 家城がぴくりと仰け反ったその喉元に吸い付き、尖らした舌で首筋をつつきながら移動する。
 啓輔の行為は昔女相手にしたときの経験を除けると、全て家城が施した行為を繰り返しているだけに過ぎない。まだまだ自分から仕掛ける経験の少ない啓輔の動きはほとんどが本能の赴くままだ。
 だが、それでも家城が反応してくれる。
「……っ……あ……」
 押し殺した声が喉から漏れ、何かに堪えるように唇を震わせ、顔をしかめる。
「ここ、いい?」
 わざと強く吸い付いてから声をかけると、家城はふるふると首を振った。だが、眉を寄せた切なそうな表情は、家城が感じている事を如実に現している。
「嘘つき……」
 啓輔が揶揄を込めて言うと、家城は赤くなったその顔を逸らせた。
 感じていないはずはない。
 家城は肌への愛撫に酷く敏感なのだから。
 嘘をついたお返しとばかり、知っている性感帯に舌を這わせる。
「…んくっ………ああっ……」
 その顔……。
 喘ぎ声を漏らすその顔が啓輔を煽る。
 抱かれている時に見せる愉悦に堪える切なそうな顔が啓輔は好きだった。
 その顔が、抱いているときには特にたくさん見ることができる。
 啓輔の手が直接胸に触れると、家城の手が啓輔を押しのけるように動き、より一層きつくしかめられた顔が羞恥に彩られ、啓輔から逃れるように背けられる。その横顔へ誘われるように唇を押しつけると、それら答えるように家城が自らの唇を押しあててきた。
 押しのけようとしていた手が、啓輔の背に回されシャツを掴む。
「……んっ……」
 鼻にかかった声はどちらのものか判らない。
 家城とのキスはそれだけで、頭の芯を痺れさせるから。

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