良い子-悪い子 3

良い子-悪い子 3

 大成功で終わったイベントの収益は予想だにしていなかった金額となった。
 イベント自体の参加費に、ゲームの参加費が増やした回数分加わって。追加された特別ゲームはまた別の対価を要求したが、客達は渋ること無く小切手を切り続けた。
 その結果の収益に、ズーミーの緩んだ顔はいつまでも治まらない。
 巨躯に見合った力で軽く毛布にくるんだだけのココの身体を脇に抱えたズーミーは、鼻歌が飛び出すほどにご機嫌だ。
 ゴムの玉とはいえ当たれば相当痛いはずのそれに勃起して。
 あまつさえ、嬌声を上げて淫らに悶えたターゲットなど、未だかつて見たことがなかった。
 頭上から精液を浴びる羽目になった客達もクレームを付けるどころか喜んで愉しんでいたから面白い。まあ、もともと導尿していても小便を漏らす過去のターゲットに比べれば、よっぽどマシだと思うけど。
 もっとも通常は二回で終わるイベントを五回もするハメになったから、クレーンを操らなければならなかったキリーはかなり不機嫌だが、それでも儲かったのだから、いつも以上の文句はなかった。
 だいたいアナルにボールが入るなんて、とんでもないことをやってのけたこいつが悪いんだ。
 と、片腕で抱えている男の——ディードと名乗っていた男の身体を揺すれば、「ううっ」と小さなうめき声が、なぜかやたらに艶めかしく聞こえた。
 アナルは普通、括約筋に弾かれて入る物では無い。だがこれの穴は、おちょぼ口のように開き気味の縁にうまく引っかかって、止まっているうちに次のボールに押し込まれてしまって。
 マジで入りやがったのだ。
 しかもそれで道ができたというように、ぬるり、するりと入り出して。
 まあ、入るときには縁にひっかかって衝撃は緩んだようで、腸壁は傷ついていなかったのが幸いだ。おかげで、また使えるって寸法で。
 こんな面白いターゲットは、金蔓として長くしっかりと使い込まなきゃ損。
 何しろ、降ろしてからもあんなにも盛り上がったのは初めてといって良いだろう。
 最後にアナルに入ったボールを数えるのに、指を突っ込んだらけっこう柔らかくて。おもしろおかしく次々指を入れていったら5本全部入ったどころか、ズーミーのばかでかい拳すら入ったときには、自分で挿れておいて驚いた。
 それに咄嗟に新しいゲームを考えて、それを実行したのはキリー自身だから、文句も口の中だけで治まったようだ。
 至近距離での玉打ちゲームは、みんな一回ずつやったら15回。
 尻タブに袋、チンポ、アナルと会陰、狙って撃って、やっぱりアナルに入ったら最高得点のゲームだ。
 何発入ったかの確認は、この拳を挿入して一個ずつ数えながら取り出した。その間中、苦しがるどころか、ヒイヒイ喘ぎながら卑猥な言葉を喚き散らして射精しまくって。その姿に、ヤラセロ、とうるさくなったほどだが、そこまでやったら時間がいくらあっても足りないと今夜はようやくお開きになった。
 それでも、みな満足していたから、こっちも大満足。懐も大満足。
 そんな大事な金蔓を、上機嫌でトレーラーに運び込む。
 トレーラーの中はギッシリと大小色とりどりのプラスチックコンテナが積んであるように見えるが、慣れた手つきで壁の一カ所を押したとたん、その光景は一変した。
「おつかれぇ」
 冷房が利いた、ゆったりとした部屋がそこにはあった。長大なトレーラーの2/3が部屋になっているのだ。
「そいつが俺の代わりの奴? 大盛況だったじゃん」
 大画面の液晶テレビには高性能なコンピューターや大容量ハードディスクにレコーダーが繋がっていて、そこでリラックスしていた赤毛の青年がリモコンを操作するとさっきまでのイベントの様子がクリアに映し出された。
 ターゲットの位置を操るクレーン装置はもちろんのこと、その身体を縛るハーネスや、倉庫の灯りなど随所にカメラが仕掛けられていて、ゲーム中の映像を編集して。特にターゲットの泣き喚くところとか、腫れ上がったチンポや乳首とか。
 そのターゲットによっては、輪姦風景や調教風景も入れて売り飛ばす。
 闇の世界では、映像の内容が、悲惨であればあるほど高額で売れるから、良いターゲットが入れば腕の奮いがいがあった。
 良い映像ができれば、用済みになったターゲットの引き取り手の金払いも良くなるし。
 ターゲットは一ヶ月もこんなことを続ければたいてい壊れていくから、その前に売り飛ばすのだ。壊れてしまうと二束三文になっちまって、儲けが少なくなってしまうからその前に
 そんなターゲット達と違い、今ここにいるジュンはズーミー達のパートナーで、良いターゲットが見つかるまでの繋ぎ役だ。
「にしてもジュンより淫乱ド変態野郎がいるとは思わなかったが。マジでこいつの映像は高く売れるぜ」
 部屋の大半を占領する巨大なベッドの上でしどけなく横たわっているジュンは、クスクスと喉の奥で嗤い、テレビに映るディードの痴態を蔑むように見やっている。
 ジュンは、ズーミーがスラムで男を漁っていたのを拾った、根っからの男好きの淫乱だ。だが、自分の言葉で、身体の動きで男をその気にさせて、たっぷりと犯して貰って気持ちよくなるのが好きなのだ。
「犯してもらうのは大好きだけどさあ、ここまでの変態にはなりたくないな。なんかさあ、もう、人じゃ無いみたいだよね」
「俺も、ジュンがこいつみてぇになったら、速攻で売るぜ」
 人をオモチャのように扱うズーミーでも、いや、人で遊ぶのが好きなズーミーだからこそ、ここまでの変態には興味が無い。
 だが、この世にはこんな変態をおもしろがる者達も確かにいて、それで、ズーミー達の商売は成り立っているから、ありがたい。
 視線を向けた先で、クリアな画面の中、響き渡る聞く者の欲情を堪らなく掻き立てる嬌声と、人としての理性を吹き飛ばす程に煽るその変態チックな痴態が続く。それは、過去のイベントがすべてお遊戯に見えるほどに凄まじく淫靡な状況だ。
 これなら、映像も高価格で取引されるだろう。
 ジュンの隣にドサリとその金蔓の身体を落として毛布を剥げば、それは完全に意識を失っていて動きもしない。
 軽く洗ったから色はかなり落ちているけれど、ハーネスの痕が赤く残った身体は、それだけでも艶めかしい。
「ディードって言ったっけ?」
「ああ、山道からフラフラ降りてきたってだけでも変だったが、服の汚れがどう見てもあれだったんで、レイプでもされて放り出されたんかと思ったてよ。こりゃ良いかもと思って開けて見れば……ってことで」
「ズーミーは運がいいからね。良い獲物を手に入れるのは、いっつもズーミーの方だよ」
 その手が伸びてすっかりしなびたベニスを持ち上げる。
「はは、すげー。穴広がってるし、拡張されてんだ。ここなんてピアス穴もある、うっあ——いたそ」
「乳首なんか、女でもこんなでかいのいねえぜ」
 ずいぶんとつまみがいがある乳首を指先でひねり潰すと、びくびくとその身体が痙攣し。
「あ、固くなってる」
 勃起した乳首は、どうやらペニス並に敏感らしい。
「ケツマンなんか俺の拳が余裕で入って、しかもそれで達きまくりってんだからなあ」
 ぎゅうと握った拳は大きなリンゴほどになり、しかもたいそう骨張っている。
 ジュンでもさすがに入れられないこれを、本当に挿入できる男がいるとは思っていなかったけれど。
「こいつといたら、当分ターゲットには不自由しないよねぇ」
「おお」
 そうだ、もっと儲かる、と笑み崩れながら大きく頷いたとき。
「そいつ、さっき売れたわ」
 ひどく冷ややかなキリーの声音が背後から響いた。



「くふっ、あふぁっ……ああ゛ぁ、がぁ゛」
 四つん這いになったディードが首輪から伸びた太い鎖に引っ張られて、苦渋の声を上げていた。
 膝を付けない四つん這いだと股間大開きのがに股歩きになり、高くなった尻を大きく左右に振るという不格好な姿で進むしかない。
 それは、最初に四つん這いで散歩させたときに、膝小僧を擦りむきまくったディードが選んだ這い方だった。それも一ヶ月もすれば、そこそこに慣れたようで、アナルをヒクヒクさせながらも早く進めるようになっていたはずなのだけど。
「もう、遅ぇよ、メスザル・ディード・バイタ。ザーメン喰らうことばっか考えて尻振ってんじゃねえよ、この売女(バイタ)が」
 ジュンが何度もフルネームで呼んで鎖を引っ張るけれど、淫猥にとろけた表情をしたディードの身体はなかなか進まない。
 口枷をつけられて開いたままの口からは舌が引き出され、先端にクリップがつけられていた。そのクリップから伸びた細い鎖の先には円錐状の重しが伸びていて、地面近くでブラブラと揺れている。そこから垂れた涎が、床に点々と染みをつけていた。
 その染みの痕が出来た後、少し遅れてもう一つの痕が点々と追加される。それは、歪に戒められたペニスの先端から滴り落ちている粘液のせいだった。
 そんな染みがもう何重にも重なっているのは、毎日朝晩に日課として行われているディードの散歩のためだ。
 あの日、キリーが売れたと言った時、金蔓が無くなったと落胆したけれど。
 実際に売るのは1ヶ月後ということと、その間は本人には何も知らせずにたっぷりと商売に使って良いという許可を得たことを聞いたときは小躍りした。
 けれど、そんな珍しい売却先はいまだかつて無くて、非常に興味がそそられたが、世の中には知らない方が良いこともある、と言われるとそれ以上の追求は諦めた。
 相手はキリーの古い知り合いで、依頼されたことをこなしていれば心配無いところだというから、大丈夫だろう。
 もともと夜の世界に生きていたジュンだから、下手な好奇心が身を滅ぼすことは良く心得ていた。
 ただ、売却先からその間にすること——というリストが渡されていて。
 そのリストはやたらに長く、延々続くそれを最初に読んだとき、面倒くさいと思ったけれど。
「まあ、虐待されたサルみたくに飼って、毎日男をあてがって、ゲームの客にはたっぷりレイプさせろってことだね」
 簡潔に言い切ったジュンに、キリーが肩をすくめて「そうだ」と返した。
 いろいろ思惑があるらしいが……。
 と、呟いたキリーも、それについてはよく判らないらしいけど。
「まあ、いいよ。愉しそうだし」
 自分がサドだと思ったことはなかったけれど、指示された内容と、渡された荷物の中身を見て、なんだかとっても面白そうだとワクワクしてきた。
 あのときの高揚感は、今思い出しても、いや、全部を経験した今だからこそ、ほんとうに期待通りだったと思う。
 このディードは、人の嗜虐心をたいそう煽る存在で。
 たいそう愉しかったのだ、1ヶ月間が。
 けれど、それも今日で終わる。
 最初は時間はたっぷりあると思ったけれど、終わってみればたいそう早く感じた。
 今日の夕方には売却先に連れて行く予定のディードは、ゲームのターゲット役としてずいぶんと稼いでくれたし、売春先は売却先が手配してくれたうえに、その代金はキリー達にくれたし。おかげで、今やすっかり金持ちになったキリー達は、これを渡したら、しばらくは遊びほうけようと話をしていた。 
 そのためにも、今日のノルマもきちんとこなさないといけない、と、鎖をぐいっと引っ張る。
 最後の四つん這いの散歩が、今日は遅々として進まない。
 昨夜はゲームは無かったが、その代わりの売春があって。何をされているのか知らないが、ただ犯されているだけではないのは、その後始末をするから想像はついた。
 今朝などは、ばかでかい張り型に犯されたまま木に吊されていたのは良いけれど。勃起チンポに芋虫をたっぷりとへばりつけて喜んでいたから、芋虫が大嫌いなジュンは悲鳴を上げて逃げ帰ったほどだ。
 それから2時間ほどしてズーミーが、芋虫が全部落ちてたと、疲労困憊のこれを連れて帰ってきてくれた時には、心底ほっとしたほどだった。
 そんなだから、今日はそれでなくても日課をこなすのが遅れていた。
 ジュンが急いて鎖を引っ張れば首輪が絞まり苦しげにうめくけれど、ジュンの腕並に巨大なバイブに前立腺を抉られてて、背筋をピンと逸らして絶頂を愉しんでいる。
 だが、変態だがオスであるディードは射精しないと満足しない質だが、あの最初の日からその陰茎に嵌められた強固で頑丈な金属製の射精防止の戒めが緩められたことは無かった。それは鍵付きで、その鍵はトレーラーの貴重品用金庫の奥にきっちりとしまわれたままなのだ。
 そんな勃起したままの鈴口には、亀頭を覆う金属製のカバーと筒が取り付けられていて、陰茎のベルトにしっかりと固定されていた。中に入った筒は亀頭の根元あたりまで伸びていて、尿道内に専用バイブレーターを出し入れするガイドと固定に役立っていた。
 ちなみに、口枷と凶悪な各種バイブに重りなどは、とっておきの躾セット内の物だ。
 最終日は必ずこれらを付けて過ごさせ、そのまま連れてこいというのが売却先に依頼なのだ。
 このえげつないセットは最初から預けられていて、ディードが言うことを聞かないようならば使え、と言われた躾専用セットなのだ。
 過去5回くらい使ったが、それこそ、ディードにとっては快楽地獄と呼ぶしかないというような状況で。
 あの緑の蔦模様の絵がついたチューブ入りの潤滑剤だというクリームは、どうやら性感体の感度を何倍にもするようだ。
 快感によがり狂う姿は、下手な拷問より強烈にその心身を痛めつけるようで。最後には芋虫のように這い、だらだらと全身から様々な体液を零し、局所を腫れ上がらせた身体で、譫言を繰り返し許しを請う。
 その経験の度に素直に従順になったディードは、今や命令には絶対服従なのだけど。
 その淫らな身体は、ルールがなかなか守れない。
「ああ、もう行くよ。チンポ狂いのメスザル・ディード・バイタはそれで愉しいかもしれないけど、俺はもう疲れたし」
「ひんっ、ぎぃ、あがぁぁ」
 ぐいっと引っ張れば、歩けば揺れるペニスの中と尻の内部の動きに刺激されたのか、ディードが嬌声を上げた。
 揺れる尻はひくひくと震え、射精を求める身体は、散歩が終わる頃はたいてい理性など無い。
 こんな色狂いを買い取って、何が愉しいのだろうと思うけれど、それはそれ、まあ人の好みはそれぞれだ。
「ああ、やっと着いた。もう、せっかく運動させてんのに、歩いてくれなきゃ、どうしようもないよ」
 ブツブツとようやく目的地に着いたジュンは、そこにあった2メートル四方の犬用ゲージに向かってディードの尻を蹴飛ばした。
 これがこの一ヶ月の間ディードが暮らした小屋だ。
「ひ、あっ……」
 口枷のせいで言葉を封じられたディードは、文句すらも言えず、それ以上におねだりすらできない。
「よお、やっと終わったか。これもつけとけ」
 今度はズーミーがゲージに入り、くたびれ果てて床に転がるディードをひっくり返し。
「ぎゃぁぁぁ——っ、あっ、あっ」
 口枷より大きく広げた口から出る悲鳴は、聞くに堪えない悲惨な物だが、ズーミーの手は緩まない。
「何、それ」
「重りを追加したんだ」
 固定用のネジをきりきりと乳首をつぶさんばかりに締め直し、増えた重量で落ちないようにする。
 重りは見るからに重そうで、乳首を引き延ばすようにぶら下がった。それが両方につけられて。
「っぁぁぁっ」
 バイブの震動がより強く、乳首どころか重しまで奮わせる。
 ガクガクと痙攣するディードは、さっきから絶頂しまくっていた。
「それの鍵は?」
「これでOK」
 ネジには回転防止のロック機構がついていて、それを緩めるピン上の小さな鍵が、ズーミーの手のひらで転がっていた。
「んじゃ、これがアナルのバイブ固定用で、こっちがペニスバンド用で、で、これがチン先用っ、と」
 取り付けられたすべてに鍵付きで、それらの鍵が一纏めにされて。
 金庫に入れていたペニスバンドの鍵も一緒にする。
「おーい、そろそろ配達に出るぞ」
 キリーが呼びに来たのに、鍵をぶらぶらさせて応えかけて。
「あ、まだ今日の躾をしてないっ」
「おっと」
「さあて仕上げだ」
 ディードを買ったという相手は、ディードに恨みがあるのか、というくらいに徹底的だ。
 ディードをゲージから引っ張り出し、ジュンとキリーで押さえつけて。
「このっド淫乱ディードっ! 汚ねえ汁垂れ流すなって言っているだろがっ」
「ぎゃぁぁ、つぁぁぁ、ひぃぃぃ」
 ズーミーが客の残した尻タブの鞭痕の上に、くっきりとした鞭痕を何度も刻み始める。
 毎日理由を付けて、躾用セット内の鞭、スパンキング板、圧縮具のいずれかで躾ることも、リストの一項目なのだ。
「真っ赤になるまでな。おサルのお尻にしろ」
「なに、それ」
 何かのギャグかと嗤いながら、ズーミーがますますその力を込めて鞭を振るい続けた。


 真っ赤なお尻に白い尻尾がよく似合う。
 抜けないように念入りに固定して、つけたバイブは全部マックスにして。
 短い鎖のせいで、蹲ることしか出来ないままに、運搬用の小さなゲージに入れて、ディードをトレーラーで運ぶ。
 部屋を隠すための荷物があっても、このゲージくらいは軽く入るのだ。
 ひいひいゲージの中でのたうち喘ぐディードとも今日でお別れかと思うと、ちょっぴり感傷的なジュンだったが。
 2時間かけて目的地について。
 裏口から部屋の中にゲージを運び入れたら、一番にトレーラーに戻ったのはジュンだった。
 目的地がどこか、その巨大な屋敷が誰のものか、知ってはいるけど、知らないことにする。
「ははっ、あの方のところで飼われるなんて、すげぇのに目をつけられたもんだ」
 たった一言呟いて。
 楽しく生きていたいならば、決して関わってはならない世界は確かに存在するのだ。
 それからすぐに戻ってきたズーミー達とふざけながら、走り出したトレーラーの中で騒ぐ。
 仕事自体は愉しかったけれど、やっぱり遊びに勝る物はなくて、ジュンの心はすでに目的地へと向かっていた。


続く