【披露宴】(3)

【披露宴】(3)

 お色直しにより、無垢な純白の姿から一転して漆黒の中に浮かぶ真紅の薔薇のような姿となって現れた陽一郎に、どよめきのような溜息が向けられた。
 胸から下、身体の全部だけを覆う黒い縁取りの真っ赤なオーガンジー。スカートは、やりは真紅の荒い網目のレースを何枚か合わせたたもので、下の肌色が透けて見える。
 淫らな娼婦のような姿に、ごくりと喉が鳴るのだけど、それは、そんな客達の目に晒されている陽一郎も同様だった。
 背中側など何も身に付けていないのと同じで、腕を取られて引きずられるように歩く新婦の身体は力無く揺れ、スカートがふわりふわりと舞い上がる。
 その度に日に焼けることのなかった滑らかな尻タブが丸見えになっていて、客達の欲情を誘うのだ。
 さらに、先ほど客の一人から贈られた張り型は、真っ赤な細い革紐がその尻のリングに通されて、革紐は尻の狭間と会陰を通って腰で結わえられていた。
 肌に映える赤色は、皮膚にぎりっと食い込んでいて、歩く度にひょこひょこと上下する張り型を、それ以上抜けないようにと固定している。
「あっ……んっ……くっ」
 一歩進む度に呻く声は甘い。
 退席時には色を失っていた肌は今やはっきりと上気して、汗が滲む剥き出しの身体は照明を淫らに反射し、沸き上がる淫臭が辺りに漂っている。
 さっき退席した時に、張り型を埋め直されながら注がれた媚薬が、熱く潤んだ肉壁から吸収されてしまったのだ。
 身体が熱くて堪らない。
『贈り物だから試してみないとね』
 垂れたそれを指で掬われ、舌で舐めさせられて。多量の唾液をごくりと飲み込んだ後には、口移しで貰った酒を飲まされた。先とは違う味の酒は、なんだか回るのが早くて、ふわふわと、まるで宙を歩いているようにおぼつかなかった。
 そんな陽一郎が歩いた後も、歩く先も、客の視線は外れず、好色なざわめきが漏れ聞こえてくる。
 陽一郎の前方からの視線が捕らえているのは、可愛く勃起したペニスだ。
 たらり、たらーりと先端から汁気が落ちていくのは、アナルの張り型が前立腺を抉ってくれるせいだけれども、アナルと口とで飲まされた薬の効果も大きいとは陽一郎は知らない。
 ただ、達きたい。
 もっと気持ちよくなりたい。
 欲情しきってはあはあと熱い吐息を零す陽一郎の意識はもうろうとしていて、物欲しげに男達の股間を見やり、ぺろりと舌なめずりしていた。



 薬と酒の相乗効果のすさまじさを陽一郎が知るはずも無くて、浅ましく悶え出した姿に、来生はほくそ笑んだ。
 聖職に就く者の理性を狂わせ欲の虜にし、処女が腰を振って求めるほどに淫乱にし、疲労の果てに動けなくなっても男を求めるほどにさせるその薬と酒を、たっぷり飲まされた陽一郎には理性などもう無い。
『理性あるヨウも可愛いが、狂うヨウも可愛い』
のだと、親しい友には伝えていた来生は、強い効果はあるけれど効き目が短いその間に、淫らに振る舞う陽一郎をたっぷりと見せるつもりだった。
「さあ、正面を向いて」
 歩いて数分の距離を、10分以上時間をかけた二人が高砂の席まで辿り着いたときには、陽一郎のもう堪えきれない快楽に意識が朦朧としている。
 促されるままに正面を向かされて、客に向かって一礼。
 席に着こうとして、来生に引っ張られた身体は、なんなくその腕の中に捕らえられて。
「私の上にいなさい」
「な……に……」
 腰を下ろした来生の膝の上に、その腰を落とさせる。
「ひぃぃ————っ!!」
 太股に食い込む張り型の底の感触に微笑み、暴れる身体を両腕を回して押さえつける。
「き、つぅ——っ!」
 ぐりぐりと膝を立ててやれば、面白いように跳ねる。回した手で乳首を摘まんでひねり潰せば、嬌声を上げて射精した。
「やっ……あ、そこ、やだぁ……」
 調教中、ずっと乳首を刺激するようにしたら、呆気なく達くようになって。
 一度達くと、後は早かった。
「淫乱な身体をたっぷりと見てもらうんだ」
 笑みととともに伝え、横抱きだった身体を正面に向かうように足を広げたと同時に高砂のテープルが移動し、前が開ける。
 椅子に座った来生の広げた足より外に両足をかけ、来生の背に回させた手は、手首のそれぞれの枷を繋がせた。
 足も来生の椅子に繋がせて、膝から降りられないようになる。
「い、いや……」
 集中した視線を感じたのか、虚ろに逆らう陽一郎だが、その頬はさきより赤い。
 興奮したように荒い呼吸も治まるどころか酷くなっている。
「皆様、どうぞごゆっくりお食事とご歓談をお楽しみください」
 司会の言葉とともに、スカートの裾を上げてピンで腹の布に留めてやって、ペニスもさらけ出した。
「おやおや、可愛いチンポが丸見えで」
「せっかくのドレスが台無しになっているね。ほら、見てご覧よ、あの白い染みを」
「カウパーもどくどく溢れているじゃないか」
 グラスを持った客達が二人の元にやってきては、陽一郎の姿を見学し、嘲笑っている。
「ヨウは淫乱なんだね」
「ああ、とても淫乱なんだ、凄いだろ」
 くすりと嗤い、乳首に手をやって、括り出してやる。
「ひ、あうっ」
 それだけでビクビクと激しく震え、ぴんと足先まで伸びて仰け反って。感じまくって勃起の先から流れ落ちたのは精液だが、それはもう薄い。
「いっぱい達ってるようだね?」
「ああ、昨日は禁欲させたんだが、もうこんなにも薄い。さっきもお色直しの最中に何回も達ったからね」
 張り型を挿し直す時に、数度抉っただけで簡単に達って。
 紐を締め付けるときにも達って。
「可愛いけど、淫乱すぎないかい?」
 いつも薬を調合してくれていて、効果に絶大な自信を持っている友の言葉に、笑い返す。
「淫乱だから楽しめると思うけどな。不感症なんか相手にしたって面白くも何ともないし」
「だね。……おや、血が滲んでいるよ」
 あまり血を好まない来生にしては、と友が不思議がるのも道理で。
「すっとしゃぶってやっていたから、皮膚が弱くなっていたみたいだな」
 それでもこねる乳首は勃起して、ドレスに引っ張られる金環によって根元は血を滲ませていた。
 本当は、直接乳首にテグスを結わえ付けたかったのだが、それだと早々に皮膚が切れてしまう。その痛みも快感に感じるかもしれないが、見た目が可哀想だから、今日は金環にしたのだが、けれどやっぱり切れてしまったようだ。
 舐めまくれ、弄られ続けてふやけた根元の皮膚は、金環でも駄目だったのだろう。
「いずれピアッシングをしようと思うんだ。さっき素敵なのを貰ったから。また、都合の良いときに来てくれるかい?」
 医者である友に頼めば、快諾が返ってくる。
「いいよ、乳首だけか?」
「耳とヘソ、乳首にチンポに玉もだな」
「全部まとめて?」
「もちろん」
「それはしばらく痛いだろうね」
「1個ずつやってればいつまでも痛むけど、まとめてやれば痛いのは早く終わるじゃないか」
「ははっ、確かにな。じゃあ、準備だけはしといておくれ」
「頼む」
 にこやかな会話の後に、彼らは自席に戻っていった。



「あうっ、んっ、くっ——イイ、やあっ、中がゴリゴリ擦られっ、てっ、あうっ」
 30分も経てば客達の挨拶が落ち着いて、ようやく休めるとホッとする。けれど時計を見れば、そろそろ頃合いだと気付いて、来生は口角を上げて乾いた唇を舐めた。
「ああ、もっとぉ——虐めてぇっ! もっと虐めてぇっ」
 繰り返し植え付けた懇願の言葉で訴える陽一郎の望むままに、張り型を蹴り上げ、腰を揺する。 玩具は深く、与えられる振動のままに肉壁を掻き乱して、陽一郎を喜ばせた。
 喜ばれれば、もっと与えようと躍起になる自分に呆れつつ、それでも膝をガクガクと上下させれば、艶やかな甘声が耳に心地よく響く。
「ひぅぅぅ——っ、うあぁぁ、やあ、出るぅ、チンポ、出るっ!」
 びく、びくっと激しく痙攣する身体にキスマークをつけて、流れる汗を啜れば、どんな美酒よりも芳しい。
 けれど、単調なだけのイベントは、頃合いを見る必要があって。
 強烈な効果を持つ薬は、きっちり効果の時間を計って与えている。酒により早く出た効果は、もう切れ始める頃で。
 快楽に溺れた虚ろな視線が、意味も無く宙を彷徨う茫洋とした様子は、まだまだ薬がもたらした世界にいるようだけど。
 くっきりと伝わる固い棒の感触を狙い、足を突き上げる。
 上体はしっかり押さえて、首筋に、肩を吸い、噛みつけば、もっと欲しいと仰け反ってきた。
 淫乱な身体は、それだけでも射精しているようだが、もうたらりと滴のような白い液体を零すだけ。
 それに、射精よりも、ドライで達く方が多かった。
 可愛らしい容姿の陽一郎が、頬を上気させ、感極まったように天上を向けた潤んだ瞳をきらきらと照明に反射させている姿は、数多のどんな新婦よりも素晴らしい。
「あ、あんっ……いっあ……あぁっ」
 実際、切なく身を震わす可愛い陽一郎の姿に、客の視線は釘付けだ
「ヨウ、良い子だ。もっと腰をふりなさい、さあ、お客様にお見せして」
「んっ、やっ……あぁっ! い、あっ!」
 言葉と共に掴まれた腰を激しく揺さぶられて、陽一郎は甲高い嬌声を上げた。その声がもう掠れ始めてるのは、何度も上げたせいだ。
 そうやって、さらに10分。
 さすがに足が疲れてきて止めると、がくりと崩れた陽一郎の身体が不自然に揺れた。
 ぐらりと傾いだ頭が、ぴくりと反応する。
「ヨウ?」
「あ……や……」
 力無い言葉の中に滲む拒絶に、薬が切れ始めているのを知った。
 短くも濃厚なセックスの記憶は、残っているだろう。
 淫らに喘ぎ、求めた己の声ももちろんのこと。
 床に飛び散る精液が誰のものか、陽一郎は決して忘れていない。
「や……ぁ……ど、して……」
 この薬が楽しめるのは、これだ。
 貞淑な処女が快楽に狂った記憶に恥じらい苦悩する姿は、淫乱な売女が男を貪るのとは全く違う趣向で、しかもより素晴らしい感動を与えてくれる。
「よかったね、お前の浅ましくも淫乱な姿を、幸いにもみなさん気に入ってくださった。ほら、お礼を言う時間だよ」
 時間をおけば置くほど正気に戻る様は、それはそれで愉しかったけれど。
 乳首を摘まんだ途端に。
「いたい……、やめっ──ゆる、してぇ……」
 嫌々と首を横に振り、拒絶の混ざった悲鳴を上げるのを聞き取って、頃合いだと合図を送った。




 朦朧とした霞の中にいたような感覚なのに、自分が何を喋って何を強請ったのか覚えている。
 何度も何度も射精して、その倍以上に空達きして、出す物もなくなったペニスはじんじんと痛みすら訴えていた。
 身体の中に走った熱は、今やかなり鳴りを潜めていた。その分戻った理性は、けれど、消え去って欲しいとすら願う。
 こんなことなら、何もかも忘れたい。もう狂ってしまいたいのに。
 まるで違う薬で呼び覚ましたように、頭だけはクリアだ。
 けれど、嫌々と首を横に振るのに、来生は離してくれない。
 不意に両脇を抱えられて、悪魔のような膝から離された安堵に浸る間も無く、降ろされた。
 けれど、そこは膝とは違うクッションの感覚で、平らで硬い。
「な、に?」
 また何か、と下を見下ろした瞬間。
「あ、やぁっ、あんっ、んあっ!」
 どんっと、激しい突き上げに、身体が跳ねる。
 ドンッドンッ、ドンッドンッ。
 リズミカルな太鼓のように、脳天まで貫くような衝撃があって、身体が跳ねる。
 その度に、体内奥深くを抉る張り型もまた押し込められて。
 膝の突き上げだけであれだけ達きまくった身体にとって、悪夢のような衝撃は、違うことなく奥と前立腺を突き上げ続ける。
「いっ、いあああ——っ!!」
 びくんと震えて硬直して、呆けたような視線が宙を舞う。
 ほんの数回。
 堪えきれないままに、腰を突き出して。
 ぽたりと太股に濡れた滴の感触と、くくっと嗤う男の吐息を首筋に感じた。

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