【披露宴】(1)

【披露宴】(1)

 その新婦のドレスは背中が全て出ており、尾てい骨の窪みが垣間見えるのでは無いかというほどに深い切れ込みが入っていた。腰周りで締め付けていないから、その境目から男の腕が簡単に入り込むほどに緩い。
 前身頃は乳首のすぐ上あたりが襟ぐりで、幅狭の黒のレースから腰までは前だけしか無い。
 腰骨の辺りからふわふわしたフレアを効かせたスカート部は花模様の黒のレースを重ねてできていて、ちらちらとその大きな網目の間から肌色が見えている。丈も短くて、太股の上の方までしかないから、動く度にふわりとまくれ上がって、そのたびにやはり黒の網のガーターストッキングが見え隠れてしていた。
 ドレスの生地は、黒の縁取りがされた向こうが透けて見える真っ赤なオーガンジーだ。面積も少ないが、それ以上に薄い生地のドレスは新婦の腰のラインもはっきりと見て取ることができた。
 しかも、さっきから新婦はずっと腰をくねくねとくねらせて、曲に会わせて新郎に促されながら踊っている。そうやって揺れる度に堪えきれないとばかりに熱い吐息を零しまくり、くるりと回れば、スカートがふわりとたなびいた。
 その新婦の可愛らしさに、招待客達はひとときも目が離せない。
 新婦が踊れば、同様にふわふわのドレスの裾も踊る。その度に覗く肌色は、尻の割れ目をくっきりと見せていて、形良いペニスがフルフルと震えているのも見て取れた。
 可愛らしいと評判の新婦は、招待客達の囃子に乗って、新郎が落とす口づけに全身を震わせる初な一面も持っているから、よけいに招待客達の興奮を誘う。皆が、もっと、と煽って、それに新郎も答えるから、その腕の中で震える新婦はただ与えられる濃厚な口づけにガクガクと痙攣するだけだ。
 今宵の披露宴は夜の8時から始まり、夜中の2時が終了予定時間だ。
 深い口づけをしながらのダンスを披露して、ようやく曲が終わったときには、ぜいぜいと荒い吐息を零していた。けれど時刻はまだ12時前でしかなくて、新郎も含めて客達はますます盛り上がっていた。
 そんな中、何度目かのお色直しに退席するよう促す司会の言葉が響き、新郎が「さあ」と新婦を促せば、新婦は恥ずかしげに新郎の胸に顔を埋めて。
「もう……許して……」
 掠れた声で訴えた言葉は、客達の祝いの言葉に掻き消えてしまって、新郎は気付かずに歩き始めいてた。
  


 そんな夜の披露宴が始まった時からずっと、新郎は幸せそうに微笑み、新婦がどんなに愛らしいかを客達に見せつけている。
 初めて新婦が皆の前に姿を見せたのは、披露宴の始まりの合図とともにだった。
 会場に純白のレースでできたミニのドレス姿の新婦を伴って現れた新郎は、緊張しきって硬直している新婦の腕を取り、5つのテーブルの周りをゆっくりと歩いて、新婦を見せびらかしていた。
 気心の知れた友ばかりの披露宴の会場は、新郎達が現れる前からすでに盛り上がっている。
 彼らもこの宴をとても楽しんでいて、今日という日を迎えた新婦と新郎に惜しみない祝いの言葉を贈り続ける。誰とも無く乾杯の歓声を上げ、皆がそれに応えて、グラスの鳴る音があちらこちらから響いていた。
 笑顔を浮かべる新郎は、やに下がったと言われそうな笑顔なのに、それでも人目を惹く容姿を持っている。恥ずかしがって後ずさる新婦を抱き込んで、髪に額に、その頬に熱いキスを施しながら、客に向かって感謝の言葉を紡いでいた。
 羨ましげな囃子にすら余裕綽々のそれに、ブーイングが起きるのはいつものこと。
 新郎の名は来生(きすぎ)と言い、その新郎が射止めた新婦は、借金取りに売り飛ばされそうになっていたところ、来生に気に入られて助けられたのだという。
 その新婦が見せるたいそう可愛らしい仕草に、25人の招待客も来生が気に入るのは無理ないと、彼を良く知る皆が頷いた。
 それでも羨ましいのは間違いなく、ついでに自分たちも楽しもうと、始まって数十分も経っていないのに、会場がすごいことになってきていた。
 綺麗にセッティングされていたテーブルは、悪ふざけの果てにシャンパンまみれ、びしょ濡れのキャンドルは逆さに水没し、代わりにどこから持ってきたのか仏壇用のロウソクが伊勢エビの頭の上に飾られていた。 
 もっともそんな無茶をしても構わないと来生が豪儀に言い放っているからこその乱交なのだが、この場所が彼が経営するホストクラブだからこそできることだろう。
 さらに言えば、このホストクラブは元々完全会員制で、しかも客も男のみという特殊な店だ。よほどのことが無い限り会員になれないこの女人禁制の店は、たとえ貸し切られたとしてもそれは守られる。
 つまり、この場にも女は一人もいなくて。
 さらに通常迎える客より、来生自身が下品な奴らと言う仲間達だから、バカ騒ぎになるのは当たり前なのだ。
 もっとも来生とて、金儲けができるまでは彼らと似たような物だったから、今でもその頃の友人達を大事にしている。だからこそこの披露宴に友達を招待して、ペニスの先が覗くほどにミニのドレスを着せることで、無垢と卑猥さを醸し出させて。
 来生自慢の愛らしい姿を余すこと無く見せつけているのだった。



 新郎新婦が入場して新郎の挨拶が済めば、最初のイベントは「挿入の儀」だ。
「や……だ……、やっ」
 高砂の前には腰ほどの高さの丈夫な台が置いてあって、それに俯せに押さえつけられた新婦は、何が起きるか聞いていない。
 それでも、ろくでもないことだと気が付いているのか、その顔色は蒼白で、涙が頬を伝い台の上を濡らしていた。
 短い丈の裾は、上体を倒されてしまえば持ち上がって、尻を隠すほどには長くない。
 もとよりレース地のドレスは、透け透けだ。それでも何とか隠れていた尻タブは、照明に照らされて白磁のごとく煌びやかだった。
「これより、新婦の紹介をいたします。新婦の名は陽一郎。皆様親しみを込めて、ヨウとお呼び頂ければ幸いでございます。さて、このヨウは○○県××市の出身で……」
 新婦の経歴を事細かに語る仲人を、新婦である陽一郎は知らない。その仲人の紹介を客達が聞いている間、頭の上で両腕が、降ろしたままの両足は左右の台の脚にそれぞれ括り付けられる。
 力の強い助手の手際は良く、陽一郎が逃げる隙も無い。
「大学を優秀な成績で卒業し、この就職難のおり、請われてある会社に就職いたしました」
 皆が羨む一流会社の本社勤務。
 年老いた母も、離れて暮らす兄夫婦もたいそう喜んでくれた就職先だ。
 けれど。
「ところが、一年ほど前からの景気の悪化に伴いまして、業績が瞬く間に悪化し、ひいては、資金繰りも悪化して……」
「ひ、あぁぁっ」
 身体の中に入ってきた何かが、ぐねぐねと腸の中を掻き回す。
 まだ入り口だけのそれが、くいっと曲げられ、中を強く押して。気持ち悪さに喘ぎ、かろうじて動いた腰をくねらせて、それから逃れようとするけれど。
「おやおや、可愛いお尻をフリフリと」
「お口がぱっくりと開いて、もっとと涎を垂らしているじゃないか」
 近くのテーブルから聞こえる言葉に、かあっと身体が熱くなった。
 陽一郎の丸出しの尻を、皆が見ていた。
 それを一度自覚すると、視線が突き刺さっているようにすら感じた。
 台に押しつけるように真っ赤な顔を隠して、動きを止めた陽一郎だったが。
「ひっいぃぃっ!」
 さらに奥へと入っていくる物が太くなり、堪らずに背を逸らして背後を見やる。
「あ……やっ……」
 指だった。
 先ほど陽一郎を繋げた二人の男達が、陽一郎の尻の穴にそれぞれの指を入れていたのだ。
 その手が離れ、また寄り添い。
 手のひらまでが尻につけば、次の瞬間には互い違いに抜き差しが始まる。
「やっ、抜けっ、いやだっ」
 引きつるような痛みを覚えて、尻穴が広がって。
 指が増えたのが、そのきつさで判ってしまう。
「資金繰りに苦慮した会社は……」
 仲人が紡ぐ言葉は遠く掠れた。
 何よりも、陽一郎はその全てを知っていた。
 自分が何故ここにいるのか、聞かなくても教えられていたから。
「知り合いの金融業者に、容姿端麗な社員を一人資金援助の見返りとして提供したのですが」
 気が付いたときには逃げることも叶わず、逃げれば親兄弟に借金返済を要求すると言われた。あの会社がした借金は、全て陽一郎名義になっていたのだ。そんなふうに売られた陽一郎がそのまま奴隷商人の手によって連れて行かれそうになったとき、来生が自分の店で使う奴隷を探しにやってきた。
「来生は、みなさまご存じの通り、可愛い子が大好きでございますから。一目惚れして、大金を払ってヨウを手に入れたのでございます」
「あっ、だっ!!」
 助けられたと思ってなどいなかった。
 逃げようと思った。あの奴隷商人よりはマシだと思ったけれど、来生はそんな隙など見せず、陽一郎を拘束し、ベッドに括り付けて自由を奪った。
 そして見せられた来生に逆らった者の行く末を写したビデオは、奴隷商人の脅しより効果的に陽一郎から反抗心を奪ったのだ。
「ヨウは、来生の手の中で、生来の質であります淫乱な身体を開花させ、たいそう淫らに感じる身体に仕立て上げられておりますが、未だ処女でございます」
 来生と会ってから一週間ずっと、寝室と浴室から出られず、一人になることはほとんど無かったのだ。
 寝る間も食べる間も惜しんで、乳首を弄られ続けた結果、今では触れられるだけで勃起する。浣腸の苦しさに身悶えて、来生の言葉に従うよう躾けられた身体は、排泄の許可を貰うまでは我慢するようになった。綺麗になった尻穴に指で掻き回され、前立腺での絶頂がどんなものか徹底的に教えられて、尻穴に指を挿れられて刺激されるだけで達くようになってしまった。
「今宵こうしてみなさまにお披露目できる事を、来生ともども我々も幸いに感じております。どうか、新婦ヨウを末永く皆様で可愛がって頂けたらと、お願いし、ご挨拶を終わらせて頂きます」
「ひっ、——あぁっ」
 薬も使われた。
 痒くて自らアナルに指を突っ込んで掻き回して、絶頂を迎えたこともある。
 来生は、この身体に快楽を教え込み、淫らに作り替えていく。このままではマズイと何度も思ったけれど。
「これより、「挿入の儀」を執り行います。カメラをお持ちの皆様は、ぜひとも前の方へ」
 促され、わらわらと集まる客達のムンとした熱気が肌を嬲る。
 その剥き出しの尻に触れた布地越しの手は、新郎のだ。
「可愛いよ、我が花嫁」
 くすくすと愉しげに嗤う来生の瞳に、ぞくりと悪寒が走った。
 愉しげに、けれど嗤っていない瞳は、どう猛な肉食獣のそれ。獲物を手に入れて、けれど、簡単には食い尽くさずに息も絶え絶えの獲物で戯れる王者。
「さあ、皆さんに見て頂こうね」
「さあさあ、顔からも撮ってあげてくださいませ。この「挿入の儀」は、新婦のマンコに新郎のチンポを突き刺して、その永遠の絆を誓う儀式でございます。どうか、破瓜の儀式も兼ねることになりましたこの素晴らしい瞬間を皆様、撮り忘れなど無きようお願いいたします」
 髪を掴まれ、顔を上げられる。
 その目の前にたくさんのカメラのレンズに、ビデオカメラもあって。
「ではカウントダウンを」
 尻に熱い肉が触れる。
 あの一週間の間、来生が服を脱ぐことはなかった。
 衣服の下の、彼のペニスのサイズは知らなかったけれど。
「五、四……」
「い、あ……、は、はいら……ないっ、いやだぁぁぁぁっ!!」
「二、一、」
「やめっ」
「挿入————っ」
「ぃああぁぁぁぁぁ——っ!!」
 


NEXT