客間にふさわしく、バスルームもたいそう広かった。壁一面の窓は、外の煌めく夜景を遮らず、全てを見通すことができる。近くの別のホテルで一部が遮られているが、絶景と言えるだろう。
バスタブはジャクジーの機能を持っているが、今はまだ湯は入っていない。代わりにローションまみれの敬一が服ごと細いロープで拘束されて転がっていた。
「うっ……ふぅっ、く……」
低く唸る呻き声が、密閉された空間に響く。
スーツまでも染みこんでさらに余ったローションが、バスタブの底で十分過ぎるほど液溜まりを作っていた。何しろ入っていた5本分のボトル全てを体に注がれたのだ。その中を泳ぐように体をくねらせる敬一の姿からは、低いバイブの音が複数響いていた。
「いいでしょう? そのローターを選んだのは丹波くんですよ」
スラックスの腰から中に突っ込まれたローターのコードをつんつんと引っ張られる。
「うぅ──っ、くっ」
「口枷は、加藤さんです。喉の奥まで犯すタイプですから、ちょっと苦しいですか?」
こくこくと頷く。
だが、鈴木は嗤って「そうですか」と、夜景を眺めながら頷いただけだ。助ける気などこれっぽちも無いのだと、敬一の頬に新たな涙が流れ落ちた。
実際口の中を満たすバイブがずっと振動していて、息苦しかった。顔は涙と鼻水と、そしてローションでグチャグチャだ。ローターも動いているし、それ以外にも服の隙間からたくさんの淫具を突っ込まれて、クスリに犯された肌に刺激を与え続ける。しかも、尻穴の場所だけ切り開かれて、そこから最初に取り出されたバイブが体内を深く抉り続けているのだ。
敬一のアナルは、度重なる陵辱で女のように濡れてしまう性器となっていた。快楽の泉である前立腺を刺激されなくても、アナルに異物を入れられるだけで、肉壁を擦られるだけで、全身を震えるほどの快楽を感じる体なのだ。そのアナルを犯すバイブは、マックスで振動している。
「うぅ、うぉぅ────ぉっ」
びくんと全身が震えた。
続いてひくひくと痙攣するように震える。
「また達きましたか? いくら達っても良いですよ」
鈴木の言葉が遠い。
何度目か判らない絶頂の中で、気が遠くなっていく。けれど男だからこそ、男であるからこその解放感はまだ得られていないから、体がすぐに熱くなる。意識が遠くなることはあっても気を失えないのは、体がもっと刺激を欲しがるからだ。
──もう、許して……。
叫びたいのに、言葉にならないまま唸って、身を捩る。
いつまでも勃起するほどの精力剤の効果もあって、多少の疲れ程度では萎えることはない。
膨れあがったペニスは、スラックスの中で震えて苦しんでいる。その先端は、喘いで解放の時を強請っているはずだ。
「ふふ、愉しそうで何よりです」
鈴木の手が伸びてきて、布地の上からカリッと膨らみを引っ掻いた。
「うっ、う────っ!!」
ビクビクと激しく痙攣した体が、縛られた中での限界まで仰け反る。見開かれた瞳から溢れた涙が、底に堪ったローションと混じり合う。
射精できない苦しみと快楽が混じり、頭の中がグチャグチャになっていた。
──もう許してくれ。
ただ、それだけを願う。
言葉を封じられ、動きを封じられ、そして、何よりも射精を封じられた体にできることは、呻いて泣いて快楽に狂うことだけだ。
「ねぇ、敬一くん」
鈴木が呼ぶ。
ただ一人、敬一を救うことができる存在である彼の言葉に、敬一は反応した。
力の入らない体を捻り、蛇のように這って彼に近づく。
さっきまで外にいた鈴木が、いつの間にかバスタブの中に入ってきていて、跪いていた。
「お願いがあるんです」
絶対的支配者からの殊勝な言葉を不審に思うより、彼の手が頬に触れたことに歓喜する。
カチリと後頭部で音がして、ずるりと口の中の異物が引きずり出された。その卑猥な感触にぶるぶると震え、射精の無い絶頂感に身を震わせる。
欲しい物はただ一つ──鈴木の助け、だけだ。
「す、ずき、さん……ゆるし……て。ごめ、さい……、助け、て……」
解放された口から出る言葉は、謝罪ばかりだ。何もしていないはずなのに、けれど、謝罪するしかできない。
「うーん、別に私は苛めている訳ではないのですが。どっちかっていうと、敬一くんが淫乱だから、こんなクリスマスプレゼントばかりになってしまうんですよね」
いつもと変わらぬ落ち着いた口調で、彼は敬一を辱める。
「せっかく貰った物を味わわないで放置するのもマズイでしょう? だから、感覚のある内にしっかりと味あわせてあげようと……」
「ひ、ぁぁっ、ひあぁ」
シャツの上からローターを動かして、乳首を押しつけられる。ピアスが震え、乳首の奥深くまで振動が伝わって、堪らない。
バシャバシャと跳ね上げた滴が、鈴木にも降りかかっていた。
このクスリは、触れた者全てに影響を与える。陵辱される敬一のみならず、陵辱する鈴木にもだ。
その口元に跳ねた滴を、鈴木がぺろりと舐めた。赤い肉が蠢く様を、敬一は見つめていて。鈴木が昂ぶっている。敬一をどのように犯そうか、考えているのが判る。
それは恐怖を与えるモノの筈なのに、ぞくぞくと背筋を悪寒のように這い上がるのは快感だ。
それに追われるように、朦朧とした意識が言葉を紡ぐ。
「ほし……、鈴木さん……がほし……」
裸に剥いて、恥ずかしいところを暴いて、全てを白日の下に晒して。
全ての穴を抉って、犯して、物のように使って欲しい。
「その前に、私のお願いを聞いてくれますか? 敬一くんからのプレゼント代わりに」
「ん……聞く、聞くから……欲しい……、ください……、上げます、何でも……」
淫欲に狂った思考は、正しい判断を許さない。何よりも優先されるべき順番を間違えたまま、それに気付かない。
こくこくと子供のように頷く敬一に、鈴木はふっと口元に笑みを浮かべた。
「お願い、と言っても、簡単な事ですよ。卒業して引っ越す先は、私に決めさせて貰いたいんです。それだけですよ。最近不景気ですからね、契約が貰えるのは一口でも嬉しいんです」
それだけ、と言う鈴木の手が、敬一を抱き寄せた。
鈴木の仕事は確かに不動産業だから、その言葉は正しい。
「どうせどこかを選ぶ必要があるんですから、良いでしょう? 今ちょうど良い物件があって、立地条件も良いし、敬一くんの初任給からしても大丈夫な家賃なんですよ」
「ひっ、あ、ぁんっ、良い──っ、いいっ、ああ、もうイかせてっ」
触られるだけで、気持ち良い。震える体を宥めるように抱き寄せられて、それだけで絶頂を迎える。
「良かったら、これにサインしてください。ああ、その前に手を拭いて」
何もかもが快楽に押し流されている今、鈴木に逆らえるものではなかった。
「もう、射精した……達きた……ぃ、ひっくぅ」
子供のように駄々をこねて、この状況を作った悪魔の支配者に懇願する。理性などとうの昔に無い敬一に、その理不尽さを考える余地などもう無くて。
「ほら、手を拭いて。ここですよ。丁寧な字を書いて」
ペンを持たされる。
「あ、ヤダ……もうっ、うぅっ」
「しっかりと力を入れて。ちゃんと一回で書けたら、ご褒美にここ、解放してあげますよ」
ここ、と軽く叩かれた股間に、ヒンヒンと鳴いてしまう。
腰砕けになった体は力が入らない。その体を鈴木が支え、クリップボードにつけられた書類の数カ所を指さされた。
「ここに本人の署名欄があって、敬一くんのサインが必要なんですよ」
言われるままに、震える手を押さえつけるようにして名前を書く。
頭の片隅で、何かが怒鳴っている。ちりちりとした痛みもあった。何故か嫌な予感もしたのだけど。
けれど、理性のない状態で、たいそう判りやすい欲望の前では、全てがどこかに追いやられて消えていく。
「ああ、OKです。これで、契約一個頂きました、まいどありがとうございます」
珍しく喜色満面な鈴木に、縋り付いた。
「もう、お願っ……ぁ、ぁぁ」
「はいはい、”待て”、待てって」
強い口調の命令に、びくっと硬直したのは一瞬で、躙り這って踊り狂う。
「聞き分けのない子ですね。でもまあ、私のお願いを聞いてくれたので、約束通り解放してあげますよ、ここを」
「あっ、はあぁぁっ、早くっ、早くぅっ!!」
もう鈴木の手の動きしか目に入っていなかった。
身動いだせいか、腹の中を掻き回すバイブがさっきから前立腺を叩いていた。快楽の泉がぐちゃぐちゃと掻き回され、激しい射精衝動が何度も津波のように押し寄せる。けれど防波堤は堅牢で、全てが遮られる。
ゆっくりと動く手がもどかしい。
「あ、あ……」
その手がスラックスに触れる。歓喜に溢れた涎が口の端から流れ、泣き笑う顔を汚した。
さらけ出されたペニスを拘束した皮のバンドは色が変わり、食い込んだ肉は血管を浮きだたせ赤黒く変色していた。その鈴口は開閉を繰り返しながら、涎のように粘液を垂らしている。
「ぱくついて、リングの玉を飲み込みそうですよ」
鈴口を通り尿道を貫通する太いプリンスアルバートはボール上の留め具がついていて、それは尿道を塞ぐほどに大きい。さらに亀頭の根元を締め付けるフレナムループは、敏感な場所にあるが故に常に存在を意識してしまい代物だ。
この二つは三枝の趣味で作られているもので、数ヶ月おきに太いものに取り替えられていた。今やニップルピアスとともに敬一が奴隷である証なのだ。
「ふふ、可愛くなって。良い色ですよ」
一つ、また一つとベルトが外される。
「あ、ひっ」
そのたびに絶頂が訪れて、もう鈴木の言葉など耳に入らなくて。闇雲に鈴木の体に縋り付いて、その時を眩む世界の中で待ち続けて。
「はい、最後」
パチンとベルトが弾けるように外れ、一気に血流が戻ってきた、その瞬間。
「ひっ、ぎぃあああぁぁぁぁっっっっ!!!」
バスルームに響いたのは、悲鳴でしかなかった。
ビュッビュッと噴き出す精液が、ローションの液溜まりやバスタブに降りかかる。
その勢いのある噴出に、感じる快感はいつもより激しい。腰が勝手にかくかくと前後に揺れて、陰嚢が溜まった全てを吐き出そうと、何度も持ち上がっては下がる。
「ずいぶんと濃いし、たくさん出ましたねぇ。いっそのことこの部屋全てを白く染めるほどに、出し尽くしてみますか?」
「あっ、ぁっ……まだ……マダ、ぁ」
ガツガツと前立腺を叩くバイブの動きに、萎える間も無く次の衝動が迫り来る。
けれど、力が入らなくて先に体が崩れ落ちた。ずるずると上体も崩れて、精液混じりのクスリの中に沈む。跳ね上がったクスリが口の中に入り、知らずそれを舐めて飲み込む。
「クリスマスの夜はまだまだ長いですから、これからが本番ですよ。私のお願いを聞いてくれたお礼に、今夜はたっぷりと可愛がってあげますからね」
濡れそぼった敬一の体がずるりと引き上げられる。
朦朧としつつもその行為に気が付いて、起きようと思うけれど体が動かない。縛り付けられたロープを引っ張られて食い込んで、その痛みに小さく唸ったけれど、それも熱い吐息に混じっていた。
ずりずりと荷物のように引きずられても、ドアの僅かな段差で体を打ち付けても、全てが快感にしかならなくて。
途中の道筋に残ったナメクジのような粘液の後と外れた淫具はそのままに、ベッドに持ち上げられる時もなすがままだった。
そんな敬一の体から、ロープも衣服も引き剥がされる。
「これからが、本番です」
多量の射精にもかかわらず勃起したままのペニスの先で、ピアスがきらきらと煌めくのが視界の端に映る。
──ああ、まだあるんだ。
終わるなんて思っていなかったけれど、それでも、力の入らない体では鈴木も愉しめないだろうに、と思う。
けれど、鈴木はたいそう嬉しそうだ。
近づく鈴木のペニスもまた、完全に勃起していて、ぺろりと唇を舐める彼の顔も手も足も、たくさんのローションで濡れていた。
「ふふ、たっぷりと注いであげますよ。ザーメン大好きな敬一くんのために、せっせと蓄えてあげますからね、これからずっと」
クスリに犯された鈴木が、のしかかってくる。
その肌の熱さに身震いして、けれどどこか非現実な言葉に、意識の一部がふっと覚醒した。
「……あ、何?」
何を蓄えるって? 何がずっと、って?
浮かんだ疑問は、肉壁を押し広げて入ってくる熱杭に押しやられる。
熱くて、大きくて、狂うほどの快感を与えてくれるそれに、意識が軽く飛ぶ。
「ん……はふぅ……お、き……ぃ、ん」
「そうそう、家なんですが、実は、一軒家がご用意できそうなんですよ。駅から歩いて5分ほどです。四角の一角が開いた形の家で、広めの中庭があるんですよね」
敬一を犯しながら鈴木が何かを喋っている。すぐ近くで熱の籠もった声音で囁かれ、その響きに肌を愛撫されているようにしか感じない。
ブルブルと小刻みの痙攣を繰り返し、深く浅く突き上げられる度にあえかな嬌声を上げて身悶えて果てる。
シワ一つ無かったシーツが、あっという間にローション以外の粘液で汚れ、ねとり肌に絡みついた。抽挿の度にグチャグチャと音を立てては、性器と化したアナルから潤滑液代わりの腸液が零れ落ちる。
許された射精は、瞬く間に回数を重ねた果てに苦痛となった。だが、それすらも快楽の中のスパイスでしかない。
言葉など何の意味も成さない中で、それでも鈴木が何かを喋り続けていた。
「中庭は広いうえに部屋で外と遮られるので、太陽や星空の下での青姦という醍醐味が味わえるんです。一室からは中庭の様子が良く見えますから、加藤さん達が来たときにも見て頂くことができますよ。それに、二階にはタイル張りのテラスがありますので、そちらでも遊べます。中もフローリングですから何をしても掃除しやすいですし」
「あ、はっ、そこ──ぉ、ああ、良いよぉっ、もっとおっ──っ、はあぁぁ」
予想が外れていない現実は、けれど敬一には判らない。間欠的に何度も視界が白く弾け、犯され慣れた体は逃げる気も湧かずにただ喘ぐだけだ。
柔らかな肉壁を抉る剛直に翻弄され、肉欲にずぶずぶと浸り込む。
「鈴木さっ、あぁっ、もっと──もっとぉぉ」
強請り、狂い、目覚めて訪れる激しい自己嫌悪も今は忘れて。
「あ、あぁぁっ、ぃぃぃぃぃっ!!」
ただただ、犯されるだけだった。
「プレイ用にはあのバスルームは狭いので、改造したいんですよね。ちょっとぎりぎりになるかなあ。それに、一室はプレイルームに改造しないと」
度重なる絶頂のすえに、意識を失った体を抱きしめる。
ふっと時計を見やると、もう日が変わっていた。それでも朝日が昇るのはまだ先だ。真っ暗闇の窓の外をしばし見つめ、片隅に見える別ホテルに目をやる。ほとんどが真っ暗な窓の中で、いくつか明るい光りが零れる窓があった。特に最上階に近い場所の大きな窓は、カーテンも閉めていないのか窓際に人がいるのが影となって見えていた。
あそこからはこの部屋のベッドの上の痴態は直接は見えないだろうけれど。くすりと笑みを零した鈴木は肩を竦めて、視線を敬一へと落とした。
バスルームの痴態は、ネットカメラを介して観察していただろう。それは、この部屋の支配人とあのホテルで遊んでいる兄への、今回の尽力に対するお礼だったと、後で敬一にも教えてやろう。
落とした鈴木の視線はあくまで優しく、その腕の力は宥めるように柔らかい。
鈴木の言動に一喜一憂する敬一が可愛くて仕方がない。
昔から、嫌だと言われれば、もっと苛めたくて仕方がなかった。泣かれれば、もっと泣かしたいと思った。気に入った子は、徹底的に自分好みに変えたかった。
それは果てがなく、相手に恐怖を与えるほどに徹底していて、その本性を知った相手はたいてい逃げていった。だから、いつしかその本性を隠すようになって、かなり大きな猫を被るようになって。
加藤を知って、三枝に出会って、互いの本性をさらけ出す相手と遊ぶ愉しさを知って。
あの家に奴隷候補を送り込んだのは、敬一で三人目だ。一人目の子は鈴木の好みには合わなかったけれど、一年半ほどたっぷりと遊んだ。二人目は加藤好みを仕入れたのだが奴隷向きではなかったので仲間に引き入れて。そして、三人目を物色していたときに、敬一を見つけたのだった。
容姿が好みだった。
不幸な生い立ちに泣く姿も可愛らしくて、もっと泣かせたいと本性がむくむくと表に出ようとするのを、あの時は必死で押さえつけた。
けれど、頭の中ではこの可愛い子を裸に剥いて、どこをどうやれば自分好みになるのかをシミュレーションしていたくらいで、ほんとうに今回の出会いは、運命の神がいるのならいくらでも感謝したいくらいだった。
「敬一くん、離しませんよ、絶対に」
遊べば遊ぶほどに気に入って、加藤や丹波、三枝が最終的に敬一を譲ってくれて本当に良かったと思う。
危なかったのは三枝だったが、幸いにして一人目を再度捕らえたようで、今はそっちに夢中なのだ。加藤も丹波と意気投合して排泄プレイがふんだんにできるように家の改装計画を立てて工事することに熱中している。
「良かったですよ、あなたが三人目で」
計算したわけではなかったけれど、皆がそれぞれに希望のモノを手に入れたからの僥倖に、笑みが浮かぶ。
一年の間に作り変えた敬一の体は、本当なら三枝のクスリなど無くても十分従順だ。それなのに、わざわざ今日という日にこのクスリを使ったのは、今回の契約はクスリのせいだと思わせるためだった。
目が覚めて契約の話をしたら、不履行だと怒るだろう。
従順とは言え、この状態での契約をそのまま納得してしまったら、先にも同じことが起こりうる。それくらいは敬一だって考えるのは容易に想像できた。だからこそ、敬一は逆らおうとする。逃げるかも知れない。
けれど。
「逆らえばお仕置き、逃げても捕まえてお仕置き。でも、お金のないあなたはどこに逃げるんでしょうねえ。仕事先も、社長の広野は私に弱みを握られているからあなたを逃しやしませんし、実家も親戚も全て把握しています。まあ、それ以外のどこに逃げても、見つける当てはありますからね」
鈴木が優しい手の動きとは裏腹の酷薄な笑みを見せて、聞こえていない敬一に教える。
「私が勤めていると思っている不動産店ですけどね、あれ、本当は趣味みたいなモノで兄が社長をしている会社の出先店なんですよ。会社名もちょっと変えていて、本当は……」
呟くそれは、全国にチェーン展開をしている会社名で、一般には知られていないが某暴力団のフロント企業でもあった。
このホテルもその会社が株を所有しているから、たいそう融通が利く。部屋をいくら汚しても、決して文句は言われない。何より支配人は同好の士だ。
「知り合いにこういう行為の後処理用クリーニング会社をやってて、その筋では結構人気なんです。だから、新しい家の掃除も、そこに手配しましょうね」
ニヤリと嗤いながら、口づけて舌を差し入れる。口の中をさんざん嬲ってやると、眠っていた敬一の体がビクビクと跳ね始めて、萎えていたペニスが硬くなっていった。
「そろそろ、こちらの疲れも消えたし、休憩時間はもう終わりですよ」
横たえて、濡れて少し冷えた体にのしかかる。冷たい体は気持ち良く、荒くなった吐息が肌に心地よい。
夜は長い。それに、明日も宿泊予約を入れていると知ったら、敬一はどんな反応を返すだろうか。
「ひっ、あぁっ!」
すっかり解れたアナルが急に締め付けられて、耳に悲鳴が届いた。
挿入の刺激で目覚めた敬一が、泣き濡れた瞳で見上げている。途端に脊髄をぞくぞくとした疼きが駆け上がり、凶悪な衝動に駆られてしまった。
これでもまだ本気でないと知ったら、敬一は逃げるだろう。
それもまた一興かも知れないと、暗い愉悦に浸りながら、それはもう少し遊んでからだと、思い直す。
「まだまだ時間はありますからねぇ」
「や、やだっ、もう……っひくっ!」
アナルの中は熱く、締め付けが良い。もう何も追加しなくても充分に潤っているそこは、蠕動運動を繰り返してじっとしていても鈴木を追い上げてくれた。
これならまだまだ大丈夫だろう。
「もうあのローションは無くなりましたからね。今度は普通にしましょうね」
普通でも、それはそれで辛いと判っている敬一が、眉を顰めていやいやと首を振る。達きすぎて限界の体では、快楽に完全に浸れない。長い陵辱を、意識ある状態で受ける敬一は、いつも泣いて許しを請う。
もっとも鈴木の方は、嫌がる敬一の姿を堪能できるというものだ。
「や、ああっ、ひっぃぃぃっ!」
力のない逃げる体を押さえつけて、がつがつと貪るように熱の上がった体を堪能する。
夜はまだ長い。
「プレゼント頂いたからには、お礼をたっぷりとしなくてはなりませんからね」
何のことか判らない敬一に微笑みかける。
優しい鈴木の姿を、敬一は信用していない。信用してないから、不安を煽るように微笑みかけて、激しく敬一を犯すのだ。
それは、鈴木が飽きるまで続くだろう行為だけれど。
後、少なくとも5年は絶対に飽きない自信があった。
【了】