【檻の家 クリスマス Ver.2010-】(前編)

【檻の家 クリスマス Ver.2010-】(前編)

 キャンドルの炎が揺らめいて、大きな窓と手元のグラスに反射する。
 ゆったりとしたメロディーは、どこかで聞いたことがありそうで、けれど思い出せなかった。
 使い慣れないカトラリーが、誤って皿の縁に当たって小さな音を立てる。その音が意外に響いて、慌てて手を止めた。
 さざめく音でしかない他の客達の会話はたいそう静かで、そんな不躾な音が気になってしまう。
「浮かない顔ですね。美味しくない?」
 不意にそんな問いを向けられて、敬一はひきつる頬を無理矢理歪めて笑顔を作り首を振った。
 こんな豪勢な雰囲気には慣れない。
 似合わない場所に連れてきた鈴木が悪いと言ってしまえば楽なのだが、今までの経験上鈴木に逆らうとろくでもないと言うことは判っていた。この先も、何かあるのではないかと勘ぐってしまうと、素直には喜べない。
 ただ、今の状況が不味いことも判っていて、何とか話題を作ろうと考えるのだけど、気の利いた言葉などそもそも思い浮かばない。
「料理……美味しいです……」
 小さく呟き、けれどそれ以上言葉にできなくて、静かな時間を持て余すように料理を口に運んだ。
 メインディッシュの和牛のヒレステーキ肉はとても柔らかく、わずかな力で切り分けられる。その拍子に滲み出た透明な肉汁がソースと混ざり、料理の味を上げていた。それほど味覚が優れているとは思っていない敬一ですら旨いと思う。
 それでも、あの家で食べている時と同じく、美味しいけれど食欲が湧かなかった。


 メインが終わり、後はデザートだけだとほっと一息つく。
 その姿に、近くのテーブル客の女性がちらりと流し目を送ってきたのだが、その視線が笑みを含んでいるように感じてびくりと緊張してしまった。
 どこか変なのだろうか?
 テーブルマナーも自信がなかったけれど、服装もいつもと違っているから、動きがしゃちほこばってしようがなかった。
 今日の服装は、体の線に合った細身のスーツ、シルクのシャツ、ネクタイ、靴、さらにはカフスやネクタイピンまで鈴木が用意した物だった。髪もムースでしっかりと整えられ、鏡を見た時には、一体どこの誰だ? と思ったくらいだ。
 出かける準備を、と言われた時には、きっと淫具の類も身につけさせられるのだろうと思ったけれど、意外にも常時身につけているピアス以外には強要されなくて、ほっとした。それでも、どこに連れていかれるのかと警戒してみれば、こんなところで。
『今日は就職内定のお祝いですよ』
 そんなことを言われても信じられなくて。ここまで料理が進んでも、どこかでどんでん返しがあるんじゃないかと、疑っている。 
 けれど。
 飲んだアルコールが回ってきたのか、心地よい酩酊感にさっきから襲われ始めていて、少し体の力が抜けてきていた。
 淡い照明がキャンドルの灯りを邪魔せずに、料理とそして向かい合う二人を照らしていた。
 これが、相手が鈴木でなかったら──などと詮無い事を考えて、くすりと浮かんだ嘲笑は無意識だ。自分一人では、たとえ彼女がいたとしても、こんなところには来れるはずもないだろう。ここは、常ならば足を踏み入れることなど絶対にない場所──いわゆる知る人ぞ知る超高級ホテルのレストランだ。
 それほど高層ではないが、シックな外観と落ち着いた内装、別世界のように緑溢れた中庭が隠れ里的な雰囲気を醸しだし、痛いところに手が届くようなサービスの高さと従業員の対応の良さで、この不景気でも満室続きだと言われるホテルだ。レストランも和食とフレンチの二つしかないが、クリスマスともなれば予約でいっぱい──というようなことを昔雑誌の特集記事で読んだことがあった。
 その中でも今日のフルコースはこのホテルで特別な客のみの限定メニューだという。
 カウンターからわざわざ出てきたホテルの支配人が深々と頭を下げる様を、当然のように受け入れる鈴木に、一体何事かと驚くと同時に、ひどく場違いに感じて帰りたくなったけれど。
 帰りたがる敬一を引き留めたのは、
「敬一くんのために無理を言って用意して貰ったんです」
と言う鈴木の言葉だった。別に頼んだわけではなかったけれど、それでも帰れなかったのは、体に染みついてしまった隷属根性のせいだろう。
「たまにはこんな贅沢も良いですね。それに、せっかくのお祝いですし」
 愉しそうな鈴木が一体何を考えているのか判らない。
 《RESERVE》の札が置かれた席。
 食前酒のチョイスから、一品ずつ受けた料理の説明の内容。
 優しい言葉は必ず裏がある、と判っていても、それに逆らう力が敬一には無かった。注がれるままにワインを飲み干していくように、彼の言葉に流されていく。
 鈴木どころか、あの家の誰にも逆らえない敬一だったが、その中でもこの鈴木は、何かをひどく強要されるわけでも無いのに逆らえない何かがあった。
「今日は本当に……ありがと、ございます」
 僅かなな身動ぎ一つで、シャツに擦れた乳首からの疼きが己の立場を知らしめる。
 早々に穿たれたピアスは乳首を肥大させ、ひどく敏感な性器へと変化させていた。どんな服を着ても擦れる場所だから、我に返る度に自身の立場を知らされた。
 その疼きにワインの酔いが重なっていく。
 ふわふわとした浮遊感に襲われ始め、フルーティなワインとは言え、その濃度は高いのだとぼんやりと考える。
 少し暑い。
 小さく熱を吐き出せば、クスリと笑われた。その意味深な嗤いに、心の中全てを見透かされているように感じて、さらに熱が上がる。
 デザートが軽かったのは幸いだ。クリスマスらしくデコレートされたケーキが口の中でとろけていく。
「今日はクリスマスイブだから、敬一君のスケジュール決めを発表したときに反対されるかと思ったけれど」
 涼やかな笑顔の下に征服者の顔を隠して、その言葉だけで敬一を翻弄する。
「みんな、他に予定があるそうで良かったです。そういえば、最近みんな忙しいので、相手にして貰えなくて寂しかったでしょう?」
「そ、んなこと……」
 確かに皆が不在がちで、日曜日の朝に三枝に一度突っ込まれたくらいだった。しかも、その時達かされてないから、もう一週間近く射精していない。
 思わず数えた日々に、とたんに体の奥が熱く疼いた。夏までは、毎日のように犯され続けていたのが減ったことには、少しはホッとしている。最近ではもっぱら鈴木が相手になるだけで、他の人たちは戯れのように敬一を使うだけなのだ。
 それなのに。
「ほんとうですか?」
 嗤う鈴木の言葉が、耳の奥に染み通り脳を揺さぶる。
「加藤さんと丹波くんは家の修理に忙しいですし、三枝さんも病院のお仕事が忙しくてなかなか戻ってきませんし」
 笑みを含む声音は、傍で聞いている分には愉しそうだとしか思えない内容だ。その実を知っている敬一ですら、妙な気分になる自分の方がおかしいのだと思ってしまう。けれど、体が熱くなる。
 ずっと遊ばれていないけれど、今日は鈴木がいる──という、そのことに。
「後三ヶ月……いや卒業してすぐに引っ越せば二ヶ月くらいですね。あの会社は支度金が出ますからね」
 不意に、鈴木の口調が真剣なものに変わったような気がした。
「え?」
 変わった雰囲気につられて視線を向ければ、鈴木が可笑しそうに噴き出す。
「忘れたのですか? 敬一くんがあの家にいるのは、後三ヶ月ですよ。だって就職したんですから、ね」
「あ……」
 就職するまで、大学を卒業するまで。
 それまでの生活苦から逃れるために安いアパートを探していたのは1年ほど前の事だ。そして鈴木に誘われて、あの家に引っ越した。敬一にとって檻でしかない、あの家に。
 終わりなど無いのではないかという陵辱の日々は、けれど、もう少しで終わる。その事実を鈴木に言われるまで全く気が付いていなかったことに驚くと同時に、実感が湧かないことにため息を吐いた。
 家を出ることは解放を現しているのに、檻の家から出たとしてもこの体を雁字搦めにしている鎖が外れるとはとうてい思えないのだ。
「引っ越し先は、どの辺りが良いですか? 格安で斡旋しますよ」
 あの時と同じように、優しい営業マンの物言いで希望を聞き出してくる。
 あの時と同じ──しかも、就職戦線に完全に乗り遅れていた敬一に、先月就職口を斡旋してくれた時も、こんな感じだった。だから、内定を貰っても素直に喜べなかったのだ。
「いえ、自分で探します」
 できるだけ鈴木の世話にはなりたくない。できれば、三人の誰にも知られない場所に行きたいけれど、就職先は知られてしまったのでそうはいかないだろう。だから、いずれは会社も移って、少しずつでも痕跡を消していくつもりだった。
「そうですか。まあ、もう会社員ですもんね。良かったですね、広野さんの人となりは知っていますから、敬一くんが気に入るだろうと思っていましたが」
 仕方なさそうに頷いてくれてホッと安堵した。それと同時に、気になっていたことが浮かんできた。親しげに呼ぶ社長の広野と鈴木の関係だ。
「就職先の社長さんって……」
「まだ若い会社ですが、将来有望なんですよね。その分人が足りなくなって。良かったですね、気に入って貰えて」
 それがどんな知り合いなのか、聞きたいけれどずっと聞けなくて。今もまた、口から出かけた質問が喉の奥に戻っていく。
 面接で会った時には、誠実そうで、やる気に溢れた若い社長だと思った。少なくとも異常な性癖は感じられなかったのだけど、目の前の鈴木にころっと騙されたから、安心はできない。
 けれど聞けなかった。鈴木と同類なのだと言われるのが、怖くて堪らなかった。
 聞きたくて、けれど、聞けなくて。
 黙ったままにコーヒーカップが空になっても、結局その問いかけは口から発せられることはなかった。


「クリスマスにホテルのレストランで食事して、後はスイートルーム。なんて、ベタなデートコースそのまんまで申し訳ないですね」
 マジでベタだ。というより、女性相手ならベタでも、敬一を連れてきた時点で非常識だ。
 クリスマスで男二人のスイートルームなんて、案内してくれたフロア専用コンシェルジェの目が気になってしようがなかった。それこそ一発で酔いが醒めてしまったほどに。
「こんな高い部屋なんか取らなくても……」
 どうせ、ヤることは同じなのに……。
「そうなんでけどね。せっかくなので」
「鈴木さんて、金持ちだったんですね」
 もう諦めの境地で再度の酔いに身を任せようとしたけれど、鈴木の言葉に明るく切り返せるほどの高揚感にはほど遠い。
 エレベーターの前で「実は部屋を取っているんですよ」などと、ポケットからカードキーを出しながら言われた瞬間、あまりの予想通りの展開に噴き出すよりは、ため息が零れてしまった。
 案内された二間続きの部屋は、通常の客室の四倍の広さはありそうで、大理石の床にアンティークな家具、奥の寝室にはキングサイズのベッドが待ち構えていた。
「美味しそうなメロンですよ、食べますか?」
 切り分けられたフルーツの皿を差し出され、「ありがとうございます」と受け取る。同じテーブルには、先ほどソムリエが、最高級ワインだと賛美していたラベルのワインボトルが冷やされながら待っていた。それに視線を向けていると、グラスに注がれて手渡される。
 本当に至れり尽くせりの対応だ。
 程良く冷えたワインがやけに乾いた喉を潤してくれてホッとする。けれど、確かにアルコールの味はするのに、酔いが深くならない。
 体の方はかなりふわふわとした感覚があって、酩酊しているといっても過言ではない。けれど、友人たちと飲んでいる時のようには楽しくなれない。
「くす」
 すぐ耳元で吐息が鳴った。
 びくりと首をすくめる体を、背後から回ってきた腕が拘束する。
 ああ、やっぱり。
 抱かれる覚悟なんてとうの昔にできているから、驚きなどない。ただ、できればお手柔らかにして欲しいとだけ、願う。
 なにしろここは、あの家から遠い。
 犯され疲れきった体で帰らされるのだけは勘弁して欲しかったから。


「んっ……、ふぅ、くっ」
 上着もそのままに、裾から鈴木の手が潜り込んできて、その冷たさに身震いする。嬲られ慣れた体は、そんな冷たい感触にすら感じて、熱を上げた。
「イヤらしい体、相変わらず」
「うっ!」
 乳首を貫くピアスを引っ張られ、痛みに喘ぐ。その熱の籠もった喘ぎごと唇を塞がれて、より深くへと鈴木の舌が入り込み蹂躙していく。
「あぁ……ひぃ、ん」
 体が熱い、熱くなって、冷たく冷えた心までをも飲み込もうとする。
 そうやって狂ってしまったら、楽になれる。それはとても簡単で、なんて楽なんだろう。快楽に身を任せてしまえばいいのだ。
 ただ、喘いで。卑猥な言葉に身悶えて、強請ればよい。そうやって楽になったら、もう何も考えなくて良い。
「ひ、ぃいいっ!!」
「ニップルピアス、すっかり定着しましたね。引っ張ると勘らないんでしょう? イイんでしょう?」
「あ、んっ、イイっ」
 服は脱がされないままに、敏感な肌の上を男のザラついた手のひらがなぶっていく。
 まだ触ってもらえない股間は、もう痛いくらいに張りつめていた。
「イヤらしい臭いが立ち上って。最近遊んでもらえなくて、ずいぶんと飢えていたようですね。男を誘うフェロモンがたくさん出ているようですよ。欲しい、男が欲しい、チンポが欲しいって」
「そ、んな……こと……」
「ない、なんて言わせませんよ」
「ひあっ!」
 不意に、布地ごとペニスを痛いくらいに握られて、悲鳴とともに体が硬直する。
「ひ、ぐう、うくっぅ……」
「こんなことをされたら、男ならば萎えますよねえ」
 陰茎を強く押されて、真下の陰嚢がつぶされていた。太いピアスが、ゴリゴリと中の睾丸まで押しつぶす。
「ひっ、やあぁぁぁ、やめっ! す、ずきさんっ、止めっ!!」
「どうして? 君のチンポが喜び震えているのが服の上からでも判るのに?」
 ほら、と、強く叩かれて、声のない悲鳴を上げる。目に前にいくつも星が瞬くと同時に、鈴木が冷たく笑っているのに気がついた。
「ほんとに敬一君は可愛いですね。私の予想通りの反応をしてくれる」
 昔も今も、鈴木の予測外の事ができたことはなかったように思う。
「でも、たまには私の予想外の反応をしてくれても良いんですよ。今日だって、ベタな展開に苦虫を噛みつぶしたような反応をして、予想通りで愉しかったです」
 今日の種明かしをさらりと伝え、嗤う。その手は相変わらずペニスを揉みしだき、痛みに苦しむ敬一の姿を堪能している。
「最近慣れてしまって楽しくないでしょう? だから、今日は趣向を凝らそうと思っていろいろと準備してるんです」
「じゅ……び?」
 嫌な予感にぞくりと体が震える。けれど、悪寒かと思ったその震えは、明らかに甘い疼きをも体にもたらしてしまう。
 ペニスが解放されたとたんに拘束も解けて、ずるずると床にヘたり込んだ。じんじんとした痛みに疼く股間に手をやれば、あの痛みの中でもそれはしっかりと硬度を保ち、自身が触れた感触にすら歓喜に震えた。
 その情けなさに唇を噛みしめる敬一の視線の先で、鈴木がクローゼットから大きなスーツケースを取り出す。それは、特大サイズと呼ばれるもので、長期の旅行サイズものだ。
「え? いつ、そんな荷物?」
 今日はあの家から一緒にここまで来たけれど、そんな荷物など持っていなかったはずだ。
「宅配で送っておきましたから」
 かちりと蓋が持ち上がる。
「今日はクリスマスだから、たくさんのプレゼントを準備してますよ」
 最初に取り出されたのは、イボがたっぷりついた極太のバイブだ。それに、大きなボトルから垂らされた粘着質の液体がたっぷりと降り懸かる。ラベルのない薄ピンクの液体の、甘ったるい匂いは嗅いだことがあって。
「そ、それ、まさか……」
 スーツケースいっぱいの淫具より、そのボトルに目を奪われる。
「ええ、あなたが大好きなローションですよ。これだといつも以上に萌えるんですよね」
「まさか……。そんな、それ、ち、が……い、いや、あ……」
 ぶるぶると大きく首を振るけれど、鈴木の手は止まらない。
 バイブからたらりたらりと落ちるほどのローションが、大理石の床に液溜まりを作っていた。それが近づいてくる。
 可愛い色合いとは裏腹に、あの中には精力増強剤やら催淫効果のあるクスリやらが大量に含まれているという、三枝特製の極悪、お仕置専用ローションなのだ。
 あれを粘膜に擦り込まれると、すぐに吸収され全身にクスリが駆け巡る。全身の細胞に染み渡ったクスリは、肌を敏感に、神経を過敏にし、何より男が欲しくて堪らなくなるという代物なのだ。さらに、陰茎の血流を盛んにし、いつまでも勃起させる効果もあって。
 流されて淫欲に狂ってしまえば楽になれるけれど、クスリは別だ。あのクスリは果てが無くなるのだ。
「や、ヤです……ぅ、ゅ、許してくださ……」
 ぺたりと座り込んだまま動けない。
 確かに今日の反応は誉められたものではなかったろうけれど、でも、鈴木だって予想の範疇だって言ったばかりで。
「許すって、敬一くんは何もしていないでしょう?」
「でも……」
 ならばそのクスリは何だというのか。
「今日はクリスマスだし、内定のお祝いだし。だから、これはみんなからのプレゼントですよ。せっかくだから、全部楽しみましょうね」
 お仕置きではないと言うけれど、スーツケースの中身はいつもより凶悪に太かったり、イボが多かったり、歪だったり。拘束具の鍵はたいそう頑丈そうで、何より、あのボトルもあと数本は入っていて、簡単に無くなる量ではなかった。
「さあ三枝さんのプレゼントです。しっかり頂きなさい」
 頭上でバイブが逆さに振られ、顔にも髪の毛にもポタポタとローションが降りかかった。その悪魔の滴から這って逃れようとすれば、襟首をがしりと捕まれた。
「どうしたんです? ああ、物足りないんですよね」
「ひゃあっ──!!」
 息が詰まるほどに引っ張られた襟首から背中に、ローションが一気に注がれた。その冷たさに身震いするとともに、その結果がもたらす恐怖を想像して悪寒に襲われる。
「い、イヤだっ! やだっ!!」
 粘膜ほどではないにしろ、これは皮膚からも吸収される。
「あ、あっ、ああっ!」
 服を剥ごうとするけれど、上までしっかりと止められたボタンが滑って外れない。しかも。
「ああ、まだ脱がないでください。その服は私からのプレゼントですから、脱がせるときは私がします」
「い、だって……、あ、ごめん、なさいっ! でも」
 鈴木の命令は絶対。けれど、背中から腰まで伝わったローションは今もじわじわと肌に染み込んでいっている。
「ああ、ダメですって。もう、しようがないですね」
 脱ごうと暴れる敬一に、ため息をこぼした鈴木の手が、今度は細身のロープを取り出していた。




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