【成果報告書 黄金花】後編

【成果報告書 黄金花】後編

 今日は早々に黄金花の生殖蔓にアナルを抉られる度に白濁混じりの液を鈴口から噴き出して、蒼白だった肌を淫らに朱に染め、イヤらしく誘うように腰を振っている。
「あ、あぁ、イィッ……んっ、あふぅ」
 少し音量を上げれば、耳障りな悲鳴ではなくなっていて、聞き慣れた研究員でも背筋がむず痒くなるような甘さを持っていた。
 そのアナルに潜り込む蔓がさらに太く、長くなってるようだ。しかも、ブルブルと脈動して、時折激しく暴れている。
 そうなれば、さらに声は強請るように甘く、異形である黄金花を誘うように淫らな踊りを晒していた。
「ああああぁ、やあぁっ、そ、そこ、ああ、イイ——っ、もっとぉ」
 改めて観察すると、S-080の恐怖に怯えていた瞳はとろんと濁り、強ばっていた身体も弛緩していた。
 今や、巻き付く蔓の動きに逆らう事無く揺すられるようになっている。
「ああ、精神も快楽に染まりきっているなあ。理性は……もう無いようだね」
 理性が飛ぶ時間は、ますます短くなっているようだ。
 昨日の振動虫が堪えたのか、それとももともとの性なのか。
「まだこれからだっていうのに」
 捕捉蔓がその四肢に絡みつき、腰にも回され始めていた。
 ずる、ずるっと、這い上がるのは、黄金花の本体と言われる茎。それがS-080の身体に絡むように上へ上へと上がっていく。
 黄金花の動きは、アナルを穿つ生殖蔓と固定する捕捉蔓以外は緩慢だ。
 逆らわぬS-080の身体も、その蔓の動きに合わせて揺れるばかりだったけれど。
「ひっ、な、何?」
 突然嬌声とは違う声が漏れて。
 研究員の視線の先で、S-080の全身がビクンと硬直した。
「あぁ、やっぱ今回の培養液は相性が良いのかも」
 過去二日では出なかった巻き蔓が、蔓のあちらこちらからクルクルと巻きながら出てきていた。
 もともとは湿原の沼の近くに生息しているらしい黄金花の生息や、必要な栄養素は不明な点が多い。判っている一つとして、生殖行為時に動物の身体が必要だというものがあった。だからこその成育実験のために、このS-080はその生命力もサイズ的にもぴったりだったのだ。
 それにヒトであれば、その生体維持に必要なデータは揃っているし、必要ならば状態を言葉や精神からも観察できるのが良くて。
 だからこそ、ここではヒトを良く使う。
「黄金花の巻き蔓が出たということは、より大きく成長しようという現れ、だから……もしかするご、今日は」
 あの巻き蔓は、さらに高く伸びようとする茎のために、本体を支える手助けをするのだから。
「ひ、い、痛っ!」
「あらま」
 いきなり上がった悲鳴にS-080の様子をよく見れば、伸びた巻き蔓が、前方に勃起してピョンと飛び出しているペニスに巻き付いていて。しかも、糸巻きハムでも作っているかのように雁字搦めに食い込んでいる。
「ひぃぃっ、いっ!」
「う、わぁぁ、痛そ」
 あの蔓は、確か指ぐらいで外れないくらいにきつく巻かれていたよなあ。
 大きな本体を支えるそれは、まあ簡単には外れないだろう。
 さすがに男の象徴をきつく縛められるその痛みを想像してしまい、少し前屈みになってしまうけれど。
 それよりも、すぐに、他の巻き蔓の動きに意識を取られた。
 何せ、ちょっとでも突起があるところにどんどん巻き蔓が巻かれていくのだ。
「乳首もちょうど良いんだな。あんなに小さいのにさ」
 検体図を表示し、巻き蔓が巻かれた場所を記録していく。
「ペニス、乳首、耳、腕、太股、……アナルにも入ってる?……ああ、尿道口にも刺さっているな。とりあえず、入るところとか、巻くことができるところとか……すごいなあ、陰嚢にも絡まってるから、あれ、出ないよな?」
 首に巻かれると大変だけど……。
 とは思ったが、それはなさそうで。
 首には巻きついていない上に、他の場所もキリキリと締め付けているようで、だが血行不全になるような致命傷は負わせていないようだ。
「……締め過ぎると獲物が死ぬって認識しているのかも……。これは要確認だな」
 推測事項として記録し、次回の実験提案をも記録する。
 それからしばらくじっと黄金花の様子を確認して。
 15分後。
「やった、蕾だ」
 思わず嬉々として、通信ボタンを押していた。
「おい、黄金花の蕾ができた。今日は花が咲きそうだっ」
 その報告に、相手からも歓喜の声が上がる。
「やっぱ、今回の培養液が良かったんだなあ」
 まじまじと呟き、視線を向けたのは、S-080の頭の上で、ゆったりと揺れている大きな蕾だった。それは、S-080の頭の二倍はある。
 その巨大な蕾を支えるかのように、増えた巻き蔓がさらに絡みついていて。
「あひっ、やあっ、イぃ……、はうっ、やあっ! も、もおっ」
 乳首を括り出され、ペニスを縛められ、生殖蔓の動きに嬲られ続けるS-080の嬌声は止まることは無かった。
 その身体に絡まり、黄金花は動きは緩いがじわりじわりと自身を揺すり、まるで落ち着く場所を探すかのように動き続けている。
 大腿に絡まったそれが、会陰を押し上げているのが見て取れた。
 腕を伝う枝別れした蔓が、脇の下を刺激しているのか、S-080が奇声を上げて身悶える。
 細く長く伸びた巻き蔓が、細かな震動と共に乳首や亀頭を弾く度に、腰が踊るように跳ねて、透明な滴が辺りに糸を引いていた。
「ヒャウッ、ああ、いきたぁ、ち、チンポ、出したぁ、射せーさせてぇっ!」
 戒められた苦痛に泣き叫ぶ声も、感じまくっている甘さがあった。
「イキたぁっ、あひゃっ!」
 意味の為さぬ嬌声を虚ろなS-080の瞳には、己の頭上で開き始めた黄金の花びらは見えていないだろう。
 ガラスのこちら側で増えた研究員が、歓声を上げていることも。
 活発に動く生殖蔓にグチャグチャとアナルを抉られる音と嬌声は、歓声の声で研究員達のところまで届かない。

 
 そうして、実験開始から二時間後。


 モニターが、室内に甘さを持つ芳香が充満したことを知らせると同時に、黄金花の幾重にも重なる花びらが外向きに反り返って。
 その花びらの先から、支柱となった獲物へと、たらりたらりと多量の蜜が滴り落ちていく。
「おおっ、あれは雄を誘うという花蜜ですっ」
 この黄金花の研究主任が、感極まった声を上げた。
 黄金花が雄を誘うために発する甘い芳香と多量の蜜。
 今回の実験には、それらの採集と調査も含まれていて。
「これで、研究が進むっ」
 と歓喜の声が響き渡る横で、ガラスの中では、S-080が黄金の蜜を浴びながら、動かなくなった生殖蔓からの刺激を得ようと必死に腰を振りたくっていた。
「あ、はぁぁぁっ、もっとおっ、もっと動いてぇぇ、ああっ、もっとぉぉっ!!」
 それに気付いたのは、今日の観察担当の研究員で。
「へえ、花が咲くと生殖蔓は動きを止めるのかあ……」
「そうなんだ、花が咲くのは獲物の体内が種を植えられるほどに広がったっていう証なんだ。それで雄を呼ぶんだ。ほら、もう括約筋部で60ミリを超えている。細い腕ぐらいだな」
 研究主任の説明に、「はあ」と頷いて。
「それでもし雄が来なかったらどうなるんですか? ここには雄がいないし。昨日までは花が咲かずにただひたすら生殖蔓が動き続けていましたよね。で、夜になったら動きをやめたところを、被検体から外したんでしょう?」
 種を植えられなかった黄金花は、日が暮れると伸びすぎた生殖蔓や捕捉蔓を落とし、大元の本体部だけになる。それは最初の部屋の1/3程度のものだ。
「夜は動けないらしく、その間は草木に身を隠し、新しい獲物を待つ習性があるんだ。第一、ここが研究所だから獲物は生きているが、一日嬲られた獲物はたいてい死んでしまうからな。死んだ獲物はそれはそのまま栄養にもなるらしい」
「ああ」
「それに、自然界では雄はすぐ現れるようなんだよ。今のところ、どうやっても雄が見つけられないんだが……無人カメラで観察に成功した映像を確認する限りでは雄は雌に比べて非常に小さいということ。開花から数時間以内に雄が現れて、雌による種づけ後……まあ産卵に近い現象だが、それから雄に交替し受精させているということぐらいしか判っていないんだが」
 よく判らないところがまだまだ多い。
 とぼやく研究主任は、雄が欲しい、とブツブツと呟く。
 それに関しては、研究員も強く同意した。
 希少性物である黄金花の習性を全て知るにはやはり産卵から雄の受精、そして子を生まれさせなければ成功とは言えない。
「この被検体は一ヶ月しか借りられないんですよね。これはずいぶんと黄金花と相性が良さそうですから、それまでに雄が見つかると良いんですけど」
 記録された情報によれば、この被検体を提供したスポンサーは一ヶ月という期限を提示していた。一ヶ月後に被検体が狂っていようとも回収するということなので、見つけるにしたらできるだけ早いほうが良い。
 スポンサーが金と共に被検体を提供する話は珍しい事ではないけれど、期限が短いことが玉に瑕だと、口には出さずにぼやいて。
「ああ、そうだな。後で、映像を再確認して、更なる情報が無いか調べてみよう」
「はい」
 なんだか応援ではなく積極的に参加してみたくなった、と、S-080の様子をじっと観察する。
 今や黄金花の蜜に全身を包まれたS-080は、動かない生殖蔓に自らアナルを抉るように腰を揺らし、甘い嬌声を上げて足りないとばかりに強請り続けていて。
 スポンサーのところでは、すっかり淫乱になった身体で奴隷扱いかパーティの余興の玩具にされるのか、そんなところだろう。どちらにせよ、ここで黄金花に嬲られた方がよっぽどマシだと思うような扱いになるのだろうなあ、と今までの経験から推測して。
 そんなスポンサーを満足させて、さらに資金を調達することも研究員達の仕事と認識しているから、一つ提案してみる。
「雄が出てきて、種が受精したら、出産とかとか、いろいろと変わった観察映像が撮れますから、それはそれでスポンサーも愉しんでくれると思うんで。きっと貸し出し期限が伸びるかもしれませんね」
 どうせ、実験経過は事細かに映像にして、スポンサーにも提供するのだから。
「ああ、それは有りだろうね。やっぱり雄を見つけないとなあ」
 張り切る研究主任の言葉に、研究員も大きく頷いた。
 



 一ヶ月後、雄の発見は間に合わず、S-080はスポンサーが引き取った。
 正式に黄金花のチームに所属した研究員は、その後スポンサー宅で行われた高位の貴族数十人立会いの成果報告会に出席し、それでも得られた様々な成果とS-080の実験への貢献度を報告した。その甲斐あって、スポンサーより、いずれ雄が見つかれば再びS-080を貸し出そう、という確約を取り付けることができたのだ。
 その後、成果披露という名目でスポンサーに連れてこられたS-080は、それまでは死なぬように大事に飼う、という言葉が聞こえても、首輪のみの全裸の身体を紅潮させて、鞭傷だらけの背中を丸めて四つん這いでいたけれど。
 理性ある瞳には怒りを浮かべ、恥辱に顔を歪ませていた。
 だが。
「良い子にはご褒美だ」
 と、スポンサーが自身のペニスに黄金花の花蜜を一滴垂らした途端、目の色を変えてむしゃぶりつき、その身体に染み付いた実験成果を見せてくれた。
 そのアナルから生える腕の太さほどの軸を持つ尻尾をひくつかせ、勃起したペニスからヨダレのように粘液を垂れ流して、グロテスクなペニスを音を立てて舐め回すS-080は、もっと欲しいと切なく啼いて、数多の淫売の如く媚を売り、観客に卑猥な尻振りダンスを披露し始める。
「先日オペラハウスに連れて行ったんだが、あまりに聞き分けが悪いのでこの蜜を観客席の真ん中で振りまこうかと言ったら、土下座して謝罪してきてね。それ以来、ずいぶんと聞き分けが良くなったよ。まあ、前に人足どもの群れに蜜を垂らした時の無様な姿でも思い出したんだろうねぇ」
 自慢げに語るスポンサーである伯爵に、その言葉に目の色を変えた貴族たち。そんな彼らと共に、S-080の滑稽さを笑いながら見つつ、研究員は内心でほくそ笑んだ。
 黄金花の支柱として花蜜を浴びた被検体は蜜に対し強い希求心を持つようになるのだ。しかも、中毒者にはその蜜は強い媚薬効果すらあった。
 今、目の前で卑猥に強請り続けるS-080のように、たとえ衆目の場であるオペラハウスであっても蜜の匂いを嗅いだら、全ての理性を吹っ飛ばして獣のように這いずり回りながら蜜を舐め、餓えた身体を晒して男を求めて啼くだろう。
 そんな新たな知見は、大衆向けではない。
 だが、新しいスポンサーを増やすのにはずいぶんと役立ちそうだった。

【了】