【秘書の日常 ー専属秘書の実情編ー】

【秘書の日常 ー専属秘書の実情編ー】

【秘書の日常 ー専属秘書の実情編ー】


 某グループ某会長の専属秘書は、自分でも知らないある秘密があった。
 その力が専属秘書の能力を底上げしているとは本人も気が付かない。
 このお話は会長の要望に応える専属秘書の仕事風景です。

 秘書が知らない秘密の話。
 専属秘書久埜(くの)の話ですが、語りは久埜ではありません。






 長い一日だった。
 昨夜からすれば一日という範疇に収まらないだろう。
 疲れ知らずの私とはいえ、さすがにこの長丁場にはいささか疲労が滲む。
 考えるだけでもエネルギーは必要だからだ。
 久埜の専属秘書としての仕事は24時間いつでも会長の要望があれば発生し、決められた休みはない。正確には休む時間があればそれが休みだ。しかも比較的自由な時間は多い。
 私自身は休みなど必要ないが久埜はさすがに違う。それでも久埜が働いている間、私はいろいろと仕事のことを考えることができた。
 緊急性のないことは別の機会で会長に提言し、対応していただく必要もあるだろう。
 今は長年の懸念事項の解決策を思いつき、そろそろゆっくりと休みたいとは思うのだが。
 どうやらまだまだ久埜の仕事は終わらないらしい。
 いい加減体力はもう限界で、意識は飛んでいる。
 だがその身体は他人の手により揺すられ、強制的に与えられる快感に喉は掠れるほどに嬌声を上げ続けていた。
 多少は私にも影響があるため、さっきから快感により高揚感が止まらない。そのせいでこうやって活性化し、頭の冴えがいいのかもしれないが。
 だがそんな状態でも私は今の事態を冷静に観察してしまう。
 どうやら獣のごとく本能に狂う久埜が解放されるのはまだもう少しかかるようだ。
 私は妙なる高揚感の中で、それに浸るように目を閉じた。
 久埜が奏でる嬌声という名の音を子守歌のように聞きながら。


 私には身体がない。
 気が付いたら久埜(くの)という男の中に存在していた。
 あるのはクノウという自分の意識、使えるのは膨大な脳の潜在能力と時間。
 また久埜が意識せずに目や耳にしたものは、私が意識して覚えておけば彼の記憶として残っている。
 そのため、幼少時から久埜の記憶力はとてもいい――ということになっていた。
 もっとも私が久埜に影響を与えているのはその程度だ。
 脳の空いた部分を使っていくら素晴らしいことを考え出しても、四肢も口もないために誰かに知らせることはできない。久埜が見知って考えた情報でなければ、久埜の記憶として残らないのだ。
 見ることも聞くことも、意識を向ければ身体に感じる感覚も鈍いながらも手に入れることはできるが、外部に発信する力はないのだ。
 ただ与えられる情報を沈思黙考し、気付いたことを蓄えていくだけ。
 そんな久埜の中でただいただけの私は、ある日とてつもない恐怖を感じた。
 衝動的に反応した意識に、久埜までが引きずられたように振り向いた先。
 颯爽と歩き去る背の高い男の姿があった。
 それがその先、久埜の直属の上司となったこのグループの会長だった。
 そのときは彼の視線は前だけを見ていた。振り返った久埜に気付いている気配すらなかった。
 だが私には、彼が私の――いや、久埜の一挙手一投足を観察しているような気配をヒシヒシと感じていたのだ。
 見える後頭部に、その髪の毛をかき分けたら巨大な目があるような恐怖から感じていた。
 だが、久埜は自分がなぜ振り向いたのかも判らないようで、頭の中を?マークで満たしながら、再び同僚とバカな話で盛り上がりながら歩み去った。
 私が背後から感じる薄気味悪い気配を警戒しているのとは裏腹に。
 その男について久埜はただ会長というものだということしか知らない。彼が調べて私に情報を寄越してくれれば、その先のことを回避できただろう。
 だが、そこそこに良い成績で名門と言われる大学を出た久埜は、この会社に入ったときから自分もエリートの仲間入りでもしたかのような態度をし、鼻持ちならない性格をさらに強くしていた。
 他人を巧みに使うことだけを覚え、努力を放棄する。
 考えることは独善的で、クライアントには口先だけで巧みに誘導し、業者には圧倒的な会社の力でもって無理難題話押しつける。
 そんな愚かな久埜は、いずれ誰かに刺さられてでもして殺されるのではないか、そんな妄想を何度したことだろう。
 久埜が死ねば私も死ぬが、もしかすると私はこの閉鎖空間から解放されるかもしれないという甘い誘惑が頭の中に占めてくる。
 だが刺し殺される前に久埜には転機が訪れた。
 どうやら会長の専属秘書という立場になったようだ。一般社員の誰もがうらやむ大出世。
 久埜自身もそう思っており、意気揚々と指定された場所――会長が住む自宅へと赴いた。
 都心の一等地、利便性という言葉など当たり前に付随する場所にあるタワーマンション。
 その最上階全てが会長の持ち主――正確にはそのマンション全てが会社が所有しているものだ。
 富裕層のみをターゲットにしたその最上階で会長から専属秘書の仕事内容と心構えを教えて貰い……即座に逃げだそうとしたが捕らえられた。
 与えられた自室という名の監禁部屋で、与えられたのはそれだけではない。
 徹底的な調教は、男を受け入れる身体へと久埜の身体を変化させ、特に尻の拡張と前立腺への刺激は徹底的に行われた。
 私自身その光景を見たときは、驚愕したし、逃げたいとも思った。
 久埜が捕まり、始めて男を受け入れたときは、久埜でなくて良かったと思った。
 もとより身体の感覚は、私に届くものは鈍い。
 絶叫にして泣き喚く破瓜の痛みはそれほどでもなく、乱暴に押し広げられる股関節がミシミシと音を立てるのも他人事だ。
 まあ至近距離で若干の感覚付きでAVを見せられているようなものだ。
 そう考えると痛みも不快な感触も意識から切り離せられたし、そんなことができるという発見すらあって臭覚はあったのだ。
 それにその光景は俺にとって知らないものであった。
 AVを見たことがないわけではないが、しょせん女と男のものでしかない。
 久埜は激しい鬼畜ものは好みでなかったのか、そんなに激しいものを見たこともなかった。
 だが情報を得ることに飽くなき欲求がある俺には、調教というその言葉、特に男が男を犯すという行為、それだけでもその場で見続けるだけの価値はあると気付いたのはすぐだ。
「ぐぁっ……ひぃ、ぃぃダメェっ……ぁぅぅっ」
 専属秘書となるために、会長が連れてきた男に犯される日々は一ヶ月ほどか。
 会長は道具を使うことはあるが、たいていは別の男達より犯された。
 恰幅の良い男にのしかかられ、背中に熱く湿った肌が密着し、首筋に鼻息も荒く吐息が触れ、ナメクジのような舌が這い回る。ガツガツと貪られる場所は、早々に馴染んだのか痛みはなく、たっぷりと使われた潤滑剤の音が厭らしく響く。
 そんな日々が日がな一日過ぎていく。
 私は男達の手管をつぶさに観察し、久埜の反応も記憶した。
 どんな道具が有効で、どんなふうに身体は反応しているのか。
 そのうち仕事が始まり、反抗的な態度を取れば罰が与えられた。
 きちんと対応できたと褒美という名の調教を逃げだそうとして、それがそのまま罰に変わったこともある。
 仕事に慣れるにつれ、相手をする人たちは増えた。
 一般社員だったころには常識人で優れた役員だと思っていた香山が、とんでもない変態だったと知ったのもこの頃だ。
 連れていかれたSMパーティーで、他人が犯されるのも始めて知り、同じ調教でも人によって反応が違うことも知った。
 恐怖に怯えていた久埜が引っ張り出され、双頭のディルドで先に射精したほうが先というゲームでは、相手のほうが巧みで久埜はあっという間に達かされていた。
 あれは私が見ても少々情けなかったが、会長も憮然とした表情で見ており。
 あれ以来、許可のない射精をしたときの罰は厳しい。
 おかげで夜中の数時間、尻穴に太いバイブを銜え込まされたまま振動マックスで放置され、獣のように狂いまくった身体は、数時間の睡眠の後、そのまま仕事に引きずり出された。
 粗相をし汚れた身体をおざなりに清浄し、昨夜の命令のままにチャコールのスーツを下着無しで身に着ける。
 久埜本人はすでに飛んでいた頭では記憶に残っていなかっただろうが、私はきちんと聞いていた。
 そんなスーツに身を包み、迎えに来たやはりこちらも専属の運転手により会社まで運ばれる。
 疲れていても自動的に運ばれるのだから、ずいぶんと楽な仕事だ。
 ふらふらの身体でも、するべき仕事をしないと受ける罰の恐ろしさに、久埜は働く。
 香山に会い、本来なら会長が出るはずの会議の資料を渡し、そのフォローをして。
 会議が終わったあとは香山の部屋に赴き、彼の部屋にしつらえらている仮眠室で踊りの披露だ。
 スーツの下だけ脱いで彼の股間にまたがり、自慢できるほどに長い陰茎を尻に加え、腰を激しく揺らせる。
 まさに彼の上で踊るように。
「ぐっ、あっ……っ! ふかっ、ああっ」
「もっと激しく」
「ひゃ、いっ……あっ……達かせ……てっ、あっぅっっ! ぐっ……あっもう、も、ダメ……」
 罰だと付けられた貞操帯のせいで、勃起しようとしても先端は下へと向いたまま。
 無理に折り曲げられるような痛みが鈍く、快感を邪魔をする。それに、そんなふうに曲げられいるせいで、射精がうまくできない。
 尻穴に入れられるだけで快感を感じる久埜には、勃起すら許されぬ状態が苦しそうで、涙がボロボロと流れていた。
「あーっ、あっ、ひぃぃっ」
 久埜が無様な悲鳴を上げながらぐるりと白目を向くと同時に視界がシャットダウンする。
「ほーら、ダメだよ。君はまだ満足していないだろう? ほら」
 香山の声が、鼓膜を通して私にまで届く。
 壮年ではあるが、早朝のジョギングや筋トレで鍛えている香山の身体は引き締まっており、久埜の身体など軽々と操る。
「ぐっ、がっ!」
 持ち上げられ、膝の上に落とされた身体は太い肉杭で貫かれ、吐き出した吐息が無様な音を立てた。
 香山の持ち物はなかなかに大きくて長く、串刺しという言葉にふさわしく久埜の身体を貫いていた。私が結腸責めという言葉を知ったのは彼からだ。
 幾ら頭の回転速度は速くても、知らないことはたくさんある。久埜が知らないことは私も知らないのだ。
 だから新しい知識が増えることはたいそう嬉しい。
 始めて奥の門を貫かれたとき、まさに串刺しにされた久埜は意識を飛ばし、瀕死のごとくか細い吐息を零しながら、涎に涙に汗、そして貫かれた拍子にほとばしった精液でまみれた見るも無惨な姿に成り果てた。
 そんな状態でも、乳首に触れた指が強く揉み込んでくれば、ビリビリとした快感が心地よく響く。
 どうやら私が感じるのは、どんなに強いものであっても心地よいというレベルに落ち着いたものだけらしい。
 それが一つの身体に二つの心という異常な状態のせいなのか。
 小説の中で良く出てくるような二重人格の特殊な状態なのだろうと判断していたが、私は今のこの状態が実は嫌いではない。
 久埜の与えられた専属秘書という仕事は、行ってみれば会長や会社のために益となる人物を喜ばせるためのものだ。
 そのせいで社会的に影響力のあるグループ会社を束ねる会長の仕事を間近で見ることができるのだ。
 それに彼からの依頼をこなすために接触する役員やクライアント、他業界の重鎮。
 過去の久埜であれば話すことすらなかった彼らと、今は接することができる。
 彼らの特殊な性癖の相手はかなり大変らしいが、私には関係ない。
 久埜を騎乗位でいたぶるのが大好きな香山は、彼自身動くことなく久埜に腰を揺らせ続けさせ、自ら気をやらせるのが好きだ。
ひ弱な体力しかなかった久埜は、騎乗位で腰を振り続けた結果、かなり持久力がついている。
 今回も昼間香山の仮眠室で相手をし、疲れ切ったまま眠っていた久埜は、そこからさらに慰労会だと引きずり出された。
 その頃には歩けるだけには回復していたのだが、今度は他にも男達が揃っていた。
 その光景に久埜は泣き喚いて嫌がったが、それを聞く者はいない。
 その中の本社の警備主任の遠山という男は、華奢な若い男を嬲りペットのごとく飼うのが好きな変態だ。
 今年の新入社員の華奢な青年が彼の毒牙にかかったのは数ヶ月前だが、今や完全にペット扱いで、時々奥まった部屋で構っている姿も見かける。
 遠山は身体に見合った巨根の持ち主で、あれをあの華奢な身体に無理矢理ねじ込まれる姿は圧巻だ。
 最初のころは悲鳴しかなかったらしいが、今は完全にその巨根に溺れた青年はいつでも遠山のいいなりになっている。
 そんな青年の従順さへの褒美だと、今日は久埜で脱童貞をさせてもらっている。
 華奢な身体の小さな陰茎は久埜には物足りないものであったが、かなり堪っていたのか精液量は多く、最後には口にも放出されて、今は上からも下からもダラダラと濁った体液で身体を汚していた。
 その前に久埜を嬲ったのは、某テレビ局の重鎮で。
 縛り上げられた久埜はたっぷりとした媚薬に一人よがりまくっていた。身体に入った成分を確認したが、とりあえず常習性はないらしい。
 もっとも専属秘書を傷つけることは禁止されており、会長を激怒させるようなことは彼らもしない。
 それでも。
「ひ、ぃぃっ!」
 乳首に刺された注射針に、暴れる久埜はベッドに押さえつけられてた。
 その尻に埋まる巨根がほどよく締め付けられたようで、男が唸り声を上げる。
 突き刺さったままの注射針から、僅かに薬液が注入され、赤黒く変色した小豆のような乳首が膨れていく。
「メスのおっぱいにしてやろう」
 笑いながら注がれて、膨れ上がった乳首から針が抜かれる。
「ひ、っ」
 息を詰めた音とともに、乳首から血と注がれた薬液が滲み出た。
 いじられ続けていたせいか、昔より大きくなっていた乳首がさらに強調される。
 うっ血したように赤黒さを強くしたそれに、パチンと音を立てて洗濯ばさみが付けられた。
「ぎぃぃっ!!」
「うおっ」
 私でも少々の痛みを感じたが、無様な悲鳴を上げた久埜は押さえつけられた身体を跳ねさせて、つながってた男に声を上げさせた。
「いいねえ、ずいぶんと喜んでいる」
「このまま繰り返せば、メス並みにでかくなるんだぜ。そのうち戻らなくなる」
 特殊な薬だと、笑う男達に久埜が力なく首を振った。
 それでも誰もその手を止めることはない。
 いい加減、諦めてしまえばいいのに。
 全てを受け入れ、全てに従順であれば、ずっと贅沢な暮らしができるというのに。
 でなければ、あんなタワマンの最上階で暮らすことも、贅をこらした食事、高価な服やアクセサリー、人もうらやむ立場など手に入れることはできなかった。
 そんな生活をするのだと、久埜は言い続けていたではないか。
 その対価に身体を与えるだけのことだ。
 その場にいた六人の男達の精をこの身で受け、解放されたのはもう空も白み始めるころ。
 指一本動かすこともできずに、白目を剥いたまま転がっている久埜は、グループ直営のホテルの特別室に放置されたままだ。
 掛けるものすらなく、大の字で転がされているのはいつものこと。
 会長が久埜を扱う男達に伝えたように、痴態を晒すように全てを久埜は晒される。
 伸ばした手はシーツの上で大きく広げられていた。そんな格好で久埜を放置した男達はとっくの昔に帰宅している。
 そんな私に入ってくるのは薄く開いた目蓋の隙間から見える豪勢な天蓋と天井。
 どうやら半ば白目を剥いたまま気を失っているらしい。
 散々嬲られ、限界のまま気を失ったせいか。
 部屋の天井の片隅にこっそりと仕掛けられているカメラが、久埜の姿を捉えているのは気が付いていた。
 いつものように久埜の一挙手一投足は全て記録されているのだ。
 それは私がその存在に気付くよりも先のこと。
 どうやら特殊な回線でサーバーに蓄積されたそれは逐次編集され、会長が認めた者に対して解放されており、いつでも閲覧できるらしい。もちろん最新技術で男側の身元は秘匿されている。
 私はカメラを見つめながら、意識を集中させて久埜の指につながる神経を意識した。
 僅かに反応したのを良いことに、少しずつ動かしてみる。
 そんな私をカメラが視ている。
 慣れてきて私の両手の指が複雑に動き出したのはすぐだ。
 身体を持たない私が、始めて久埜の身体を――正確には指を動かすことができたのは、やはりこうやって身体を嬲られて久埜が気を失った後だった。
 私の意識に常に絡みつくように存在する鎖のようなもの。言葉にすればそんな感じが、いつものより薄いような気がしたのだ。
 仔細に自身を観察し、結果指が動くことに気が付いたときには久埜の意識が戻ってしまって、その日はそれだけで済んでしまったのだが。
 だが確信めいた予感があった私は、それから久埜が果てて意識を失うたびに実験を繰り返し、そして手の十指だけは動かすことができるのだという結論に到った。
 単なる睡眠時では駄目だった。
 久埜が眠っているとき、起きているつもりでも私自身眠りの中にいるらしい。意識はあっても身体を動かす気力が沸いてこないのだ。
 だが嬲られ興奮した意識は、身体がないぶん久埜のように意識を失うこともなくはっきりと目覚めている。
 そのため私の意識が久埜の指を動かすことができるようだ。
 その数も、時間も久埜がどれだけ激しく嬲られ果てたかによるのだということもそのうちに判ってきた。
 そうなればどうしても外界と接触したいという欲望が沸いてくる。
 できなけば最初から諦めていたのに、できると知ったなら、どうして我慢などできるだろうか。
 私は、おとといの夜からの会長の躾けから続く快楽の果てに得た時間を有効に活用しようと指を動かし続ける。
 それは指文字という概念に私自身かせ改良を加えたものだ。
 できるだけ小さな動きで、大量の情報を送るために。
「けほっ」
 久埜が精液混じりの唾液を吐き出し、意識がぶれる。様子を見ていればすぐに静かになったので、すぐに途切れたところから再開した。
 いつもより長いメッセージは、カメラに逐一撮られている。
 サーバーにためられた私の指文字は、会長に送られ解読される。
 そう、あの会長は私の存在を知っている。
 不自然に動く気絶した久埜の指に気が付いた会長が、私という存在を認識するまでは少々時間がかかったが。
 気が付いてもらった後は全てが順調に進んだ。
 

「久埜、今日は塔世(とうせ)の会長と会食だ。彼の御仁は気難しい、粗相のないようにな」
「かしこまりました」
 私が考えた策を使い、次々と会社を大きくする会長。
 それを実行するのが久埜だ。
 塔世会長は稚児趣味らしいが、稚児が大人をからかう姿を見て興奮するという、ちょっと変わった性癖の持ち主だ。
 彼が育てた子は、そんな性癖を存分に楽しませるだけの技量を持っているという。
 久埜が、大好きなブランドもののスーツに身を包み、誰もが見惚れるエリート然とした姿で仕事に向かう。
 海外もの高級ブランドのスーツを嫌みなく着こなし、腕にはこれまた高級という名しかつかない腕時計。
 タイピンに輝く石はクォリティの高いダイヤだし、土台はプラチナだ。
 そんな贅沢品に身を包み、久埜は予約された店へと向かう。
 だが部屋に入れば、彼のスーツは瞬く間に身から剥がされた。
 ベッドに転がされて拘束されて、あられもない格好の彼に向かうのは、塔世会長の孫だったか。
 年端のいかぬ彼の、年に似合わぬ表情に久埜が怯えた。
 その怯えが、私にとり心地よいと感じだしたのは最近だ。
 そして悲鳴が、嬌声が。
 もっと聞いてみたいと思えるほどに、私にも嗜虐心というものがあるらしい、それも相当に強いものが。
 久埜が身悶え、苦しみ、そして快楽に落ちていく、その過程をつぶさに堪能するのが最近の楽しみなのだ。
 久埜の中で、穏やかに感じる快感の渦に身を委ねながら私はじっとそのときを待つ。
 絶頂を繰り返し、その身を狂わせていく久埜。
 久埜が心身共に闇に墜ちれば、今度は私の時間だ。
 私と会長がつながる大切な時間だ。


『今宵の接待は大成功だ。塔世との結びつきはますます強くなった。久埜はかなりあの方に気に入られたから、今度貸し出して欲しいとまで言っているし、その価値はある。何より彼は、睦言にいろいろな情報を零すようだよ。例えば……』
 私が残したメッセージを目にして、会長はその口元をほころばせた。
「よくやった久埜」
 彼が見るのは久埜。
 体力を奪う遊戯により目の下にクマを作った久埜は、絶望と諦観の色を浮かべた瞳を伏せてただ頷くだけだ。
「ありがとうございます」
 その言葉に力はない。
 そして。
「クノゥ、素晴らしいよ お前は」
 その鋭い視線が見据えるのは、私 クノウ。
 久埜が違和感を感じることなく私に向けた言葉に、私は歓喜の声を内心で上げていた。
 誰にも知られず、誰にもその価値を見いだされずに過ごした日々は今から思えば無味乾燥したものだった。
 私を認めてくれる人がいる開けた世界はこんなにも素晴らしい。
「次も頼む」 
 そう言葉をかけられて、私は内心で大きく頷いた。
 彼の手元にあるメモ用紙。
 そこには私宛のメッセージがある。私にしか理解できないように言い換えと暗喩で構成されている。
 それは前に彼に提言していた案を採用するということ。
 久埜をあるマフィアに貸し出し、その利により価値のある土地を格安で手に入れるという
 噂で聞いた会長の専属秘書を一目見て、気に入ったらしい彼のボス。
 久埜を貸し出すだけでその見返りは膨大な価値を生み出すだろう。
 だがレンタル期間は一ヶ月近く。嗜虐趣味の強い相手に、久埜の身体を欠損させず、心身共に健康な状態で戻してもらうためには、いろいろとルールが必要だ。
 そのために久埜の身体をもっと淫乱に躾けることに、会長は同意されたということ。
 何も知らないまでも不穏な空気を察したのか、微かにしか頭を下げなかった久埜の頭を押さえつけたい欲求に駆られながら、私はさらに会長のためにこの頭を使おうと決心する。
 会長が久埜に向けた指示内容を頭の片隅で聞きながら、私はさらなる最適なプランを考えることに集中することにした。

【了】