【蟻地獄のおいしい獲物】2

【蟻地獄のおいしい獲物】2

 その気になれば、肉が見えるまで裂くこともできるゴルドンだが、そうなれば早々に終わってしまうのが判っているから、かなり手加減しているのは判る。判るが、一撃で終わらないほうが、打たれる側は辛いだろう。
 だが、見ている俺としては、こんな僅かな傷跡ではとにかく物足りなくて堪らなかった。どうせなら、こう……柔らかい肌を食い破るような傷を……なんて思いつつ、ちらちらとゴルドンを横目で見やっていたが。
『さて』
 極悪人の顔で嗤ったゴルドンが、項垂れ、しゃくりを上げるリアンの顎を掴んであげさせて、問いかけるのに視線が戻った。
『これから五分待つぞ。空イキしたらOK。駄目なら、また五発の鞭打ちだが……』
『……ぃ、ひぃ、ぃ、い、やっ、ぁぁ、う、うわ、いてぇ……』
『何が許して、だ? 俺はただ、空イキすれば良いって言ってるだけだろう、俺たちに突っ込まれて、散々っぱら達きまくってたてめぇが、達けねえわけはねぇんだよ、あぁ?』
 顔を歪めて嗤うゴルドンは、どこのマフィアの下っ端かと思うほどに、迫力があって。
 リアンも痛み以上の恐怖に震えている。
 だが不意に、ゴルドンがその表情を崩した。
 それこそ文字通り、ニコっと笑って見せたのだ。
 俺らからすれば、あの顔のほうが怖いのだが、リアンはまだそれを知らなかったりする。
『と言っても、俺もまあバージルほど悪魔じゃねえ』
 今聞き捨てならない言葉が聞こえたが……。
『てめぇのだらしねぇケツ穴に、このいやらしいバイブを挿入すれば少しは空イキしやすくなるんじゃないかなあ……ってことぐらいは教えてやるぜ』
 そう言いながら見せたのは、陸に上がった魚のようにエラを大きく広げた卑猥な形の極太バイブだ。それを目の前に差しだしながら、スイッチを入れる。
 と、全体の強力なバイブレーションに加えて、カリ首の下辺りで鬼頭が弧を描くようにグリングリンとうねりながら回るうえに、前立腺があるあたりでボコボコとランダムに突起が出たり入ったりするステキに凶悪な代物となった。
 それを、息を飲むリアンの目の前で揺らしながらゴルドンが続けた。
『ああ、もうすぐ五分だ。じゃ、続いて五発……』
 実はリアンが訴えている間も、無情なカウントダウンは続いていたのだ。と言っても実際にはまだ早い。それでも、時間の感覚などないリアンには、それが真実にしか聞こえない。
『わってっ、あってぇ!』
 離れようとするゴルドンに縋るようにリアンが不自由な姿勢で身体を寄せる。腕を吊られているせいで、動いたと言っても腰回りだけで、まるで突き出すようにしている姿がひどく滑稽だ。
『う、うださ、ひ……、おえ(ください、それ)』
 枷のせいで今一不明瞭ではあるが、なんとか言いたいことは判る。
『おし、い……、おえが……(欲しい、お願い)』
『は、ん、それが人に者を頼む態度かあ?』
 それは予期せぬ打撃だったのだろう。
 ゴルドンの腕が目に見えぬ早さで振りかぶられ、一気に振り落とされる。
 ちょうどリアンの真正面からのカメラでは、ゴルドンの動きはその程度しか判らない、判らないが。
『ぎゃああああっ、あっ、あぁっ!!』
 破裂音のような音に続いて、一際高く悲鳴が迸る。
 そんなリアンの瞳は大きく見開かれて、涙とも汗ともつかぬ滴が当たりに飛び散り、仰け反った身体がいやらしくペニスを突き出し、いやらしく揺れる。
 くっきりと残ったのは体の側面から前へ、つまり腰から胸へと走る痕だ。
 乳首すれすれのそれは、弱い肌にはかなりの痛みと衝撃だっただろう。
 がくがくと激しく震える体から、ひときわ多く滴が流れていた。
 だが、音と悲鳴を聞いてなければ、興奮して欲しがっている淫売の踊りのようで、じわりとあふれ出す唾液をじゅるりと飲み込む。
『良いかあ? てめぇが何か言うときは全部、お願いします、ご主人様、愚かな奴隷の浅ましい願いを聞いてください、って言ってから、要望を言うんだ、判ったかっ!』
 今度は軽く、けれど。
『ひぎぃっ、いっ、あっ』
 変わらず悲鳴を上げながらその頭がコクコクと激しく動く。
『判ったなら、言ってみろ』
 バイブと鞭を目の前で揺らされながらの指示に、リアンはもうおとなしく従うしかなかった。
 これが、もっと痛みに弱かったり精神的にもろかったりすると、もっと早く気を失うなりなんだりしているのだろうけれど。幸か不幸か、リアンにとっては不幸だったことに、あれはたいそう痛みに強くで、この程度では気絶しなかったのだ。
『お、おえがい、いまう、おゆいん、さま……お、おおかな、おれーの、えが……』
『浅ましい願いだ、もう一度最初からだ』
 今度は床を強く打って、その音で怯えさせながら、再度言わせる。
『おおがあしまーう、おゆいんさま……おおかなどえーのあさまいーえあい……いいてくださ……い、あいうをいえてうださいっ』
 最後は一気に、それでも言われたとおりに言い切ったリアンは、恐怖と屈辱に顔を俯かせ、全身をぶるぶると震わせていた。
『おお、よく言ったな。俺は素直なやつには寛大なんだぜ。ほら、要望通り挿れてやるよ』
 その言葉通り、ゴルドンがバイブを握り、リアンの片足の太股を抱えてぐいっと高く上げさせる。そのせいで露わになった尻タブの狭間の狭い口に、その凶悪なサイズのバイブをググッと押し込んで。
『むうぅっ!!』
 獣の唸り声のように喉を晒して吠える身体を押さえつけ、ギリギリとそのバイブを奥まで入れていく。
 奥まで入っても、まだ外には十センチ近く出ていた。そのまま足を下ろしても、それが邪魔をするのか、太股の間は開いたままで、移動したカメラが写した映像を見れば短い尻尾があるようにすら見えた。
『へえ、可愛いじゃん、似合うよ』
 ちらりと見えたマーマニーが一言声をかけ、『じゃあ、俺はこっちもあげる』とニップルクリップをパチン、パチンと付けていった。
 そのたびに小さな悲鳴がくぐもって響く。
『頑張ってる、ご褒美だよ』
 にこりと笑うその邪気がたっぷり混じった笑みに、もうリアンは気付かない。
『さて、五分だ。やるぞ』
 ことさらに宣言して、逸れた意識を向けさせて、ゴルドンがまた鞭を振るう。
 今度は天井近くで溜めをとり、緊張しきったリアンの身体が耐え切れずにふっと弛緩した瞬間、なぎ払った。
『がああぁ、っ、っ、っ!!』
 右から左へ、軌跡を辿った鞭先が、返す先で左肩から右の腰へと振り抜かれ、腕に巻き付き、外れた直後に太股に絡み、最後は左肩に胸の先を掠めて蛇のごとく背後に消えていった。
 それはほんとうに一瞬で、その連続した攻撃に、リアンも悲鳴すら忘れたように硬直したままだ。
 それからワンテンポ遅れて。
『いあ──っ、あっ、あっ!』
 血を吐くような絶叫が狭い部屋に共鳴して、響き渡る。
 思わず音声を下げては見たものの、相変わらずの巧みな鞭捌きに、俺の気分も昂揚しきりだ。
 ガクリと頭を落としたリアンの口の端からだらだらと涎が落ち、床に着いた足はフルフルと震え続けていて、まるで生まれたての子鹿のようだった。
 しかもバイブの尻尾がその連想を助長して、やけに可愛く見える。
 カメラがズームインして見せる痕は、ぱくりと裂けた鞭痕もさることながら、よくもまあここまで測ったように痕が残せるなと思うほどに、背中にくっきり×が入り、腕と足には並行に横線が走っている。ついでに肩から前に降りた痕は、あと少しで乳首に至る道を作っていて、その先でニップルクリップにぶら下がった分銅がゆらりゆらりと揺れていた。
「ふふん」
 まるでどうだと言わんばかりの音がして、画面を凝視していた俺の視線が横へスライドする。そこには自慢げに口の片端を上げて自慢げに笑うゴルドンの姿があって。
「まあ、あれぐらい俺でもできるからなあ」
 確かにすごいとは思ったけれど、俺もまたあれぐらいできるという自負が頭をもたげてきて、つい口にする。
「まあ、難しくはないな、あの程度は。だが、あの血の流れはどうだ? 将来痕が残らない程度での傷は、付けるのが結構難しいよなあ」
 それが判ってか、素直に認めたのは一瞬だ。どうもこの男は俺を駆り立てるのがうますぎる。
「……俺は、そもそも傷を作らずに最大限のダメージを与えることができるからな」
 と言い切ったところで、映像からの音声に視線を戻された。
『なんだあ、まだ空イキしてねえのかぁ? だったら、また……』
『お、おえあ……』
 ゴルドンの笑みを含んだ宣告に、もう意識でも失っているのかと思うほどに動かなかったリアンが、ふいに顔を上げて、必死になって希っていた。
 その顔は涙と鼻水と、飲み込めないままに溢れる唾液でボロボロだ。
『おえあしますっ、おおあなおれーお、ああまいーねがあ、いいてうだあいっ、ばいうっ、うごあいてぇぇ』
 尻が激しく揺れていた。ぎゅっと尻タブにえくぼができるほどに締め付けて、前後左右にカクカクと揺れている。
 いやらしく、浅ましく、盛りの付いた雄犬のごとく振りたくり、少しでも快感を拾おうと必死になっていた。
『あ、あうっ、うっ、あっ』
 動けば多少は刺激になるのだろう。今までの課程で尻穴の快感を覚え、薬で蕩けさせられた身体は、そんな自慰でもあっさり快感を覚えたのか、痛みに萎えかけていたペニスがまたむくりと鎌首をもたげていた。
『あ、ああ、動かして欲しいって。だったら早く言えよなあ。淫乱だから一気に味わうのがもったいねえんかと思ったぜ』
 そう言って、カチリと動かしたコントローラーの、それは一気にMAXを指し示した。
『ひゃあ、あ、うっ、うっ、あああぁ!!』
 先ほどまでの悲鳴とは違う、どこか甘さの混じった声がひっきりなしに上がりだした。腰振りダンスは変わらずに、そこに全身が小刻みに揺れるような踊りが混じる。乳首が震え、分銅がカチリと隣同士でぶつかり合い、反動で乳首を引き延ばす。
 腰が揺れるたびにペニスが震え、たらりと落ちた先走りが床に不思議な絵を描く。
 それを足裏が崩し、流れた血の滴が微妙な色合いで別の芸術を作り出していた。
 身体も快感に煽られて紅潮し、しっとりした汗が全身を濡らして妖しく光らせている。
『五分』
 そんな淫らなダンスに視線を奪われているうちに、ゴルドンの声で我に返る。
 時計を確認するゴルドンは愉しそうな表情に、もうリアンは意識など向けられてない。
 そのままタイムはゼロに近づいていて。
『あ、あぁっ──ひあぁぁぁっ!!』
 それでも切なげに踊るリアンに意識を取られていたのか、喘いでいたあれがいきなり悲鳴を上げたのに、ほんの少し驚いた。
 前面にあるカメラからの映像で、背後でゴルドンが鞭を振るっている。
 相変わらず抜群の力加減で皮膚の上で滑らせて、致命傷にならないように、体力を必要以上に削らないように、けれどしっかりと残る傷は、今日という日が終わっても捕虜を痛めつけて屈服させるのだ。
 そんな鞭が今度は足を徹底的に痛めつけ、跳ねるように足が踊るところへ、絡みつく。
 荒ぶるそれは牙を剥けた蛇のごとく、決して許さないとばかりに逃げるリアンを追いかけて。
『あ、あ、あっ!!』
 四発目が終わり、五発目の瞬間、ゴルドンの手元が写り、視界の中で鞭の軌跡が入ったのを認識する間もなく、アップになった肩口と胸に生き物のように鞭の先端が絡みついて。
 予想外の場所へ打撃に、リアンもいくらもかばうこともできずにまともに受けていた。
 その傷は他より深く、赤い痕からじわりと滲んだ血液が、大きな玉を作って落ちていく。
『いああ、あんっ、うっ、ゆういてぇ……ひっんっ』
 痛みが少しでも引いたら、すぐに快感に身体が苛まれる。その繰り返しに、リアンの悲痛な喘ぎ声が響いた。
 もっぱら背中から打っていたせいで、前面から見れば肩や腰、足の後ろから前へと先端部だけの打痕しかないのだが、それが蛇の顎のように見えるなあと、その美しさに、俺もやろう、と思っていた頃。
 肩口から胸にかけてついた、さっきの最後の打痕の端から乳首に流れた血の滴が、分銅へと伝い、ぽたりと落ちたその先にあったのは、ペニスの鬼頭であって。
 その瞬間。
『んあぁぁ──あ、あんっ、んっ、んっ』
 びくんと震えた身体が、一気に紅潮し、晒した喉が震えている。
 仰け反った胸にくっきりと残る原因となった鞭痕は、芸術的な美しさで、肌を彩り、その先にある乳首は真っ赤に熟して、むしゃぶりつきたいほどに美味そうで。
 ああ、噛みてぇ。
 下腹が窮屈だと訴える中で、それでも見るだけは最後まで見ようと必死になって我慢はしていたのだけど、それはそれで限界というものがあって。
 何より、俺もあれの体に鞭打ちたくて堪らなくなっていたのだ。
 最近では細いだけでなく、薄く筋肉もついてしっかりとした体つきにはなっているけれど、だからか余計に男の色気のようなものを感じるようになっている。そんな体に鞭打つなんて、最高だろうなと思ったら止まらない。
 だいたい日々の軽い鞭打ちでも、結構な興奮があるのだから、あれを吊るして思いっきり打ったら、それはもう格別だろう。
 確かにゴルドンの鞭はすごいけれど、もともと俺のほうが人気があるのだし。
 なんて対抗意識も芽生えてきて、ジクジクと熱く疼く股間とも相まってなんとも言えぬ居心地の悪さで映像を見続けていたのだが。
 もう我慢ならぬと立ち上がったのは、それから三度同じように繰り返された鞭打ちのはてに、さすがに疲れたと鞭を下ろしたゴルドンの後ろ姿が映り、リアンが安堵の吐息を吐いたとたんに、その身体が大きく震えた瞬間だった。
 天井を仰いでひいぃぃとか細く悲鳴を上げながら、その硬直した身体が震えるさまに、リアンが自力で空イキしたのだと知ったのだ。
 その時、同時にゴルドンも立ち上がっていて。
「……続きを撮るぞ」
 なんて言い出したから、俺も即座に頷いた。