【二】
翌朝、と言っても、昨日あの扉を出てからまだ四時間ほどしか経っていない。
それでも時間は過ぎていき、まばゆい朝焼けが窓の外から差し込んできて起こされてしまった。
と言っても、シャワーを浴びて軽く食事を取れば、すぐに時間がきてしまう。
リアンのいる部屋へ向う通路は窓が無いうえに省エネだとあまり照明も点いておらず薄暗い。
睡眠時間が少々短いぐらいで疲労が溜まる身体ではないが、予定より早く目が覚めたせいか、なんとなく不機嫌なままにダラダラと歩いていると、後ろから来たゴルドンに思い切り背中を叩かれた。
「てめっ」
「シャキッとしろよ、隊長さん」
速攻で叩き返そうした手が空振って、むすうっと睨み付けるその背は、仮眠程度しか取れなかったはずだが、やたらに元気だ。
思いっきり叩くつもりだった手のひらを、ヒラヒラと振って、ついでに一つ伸びをして、気分を入れ替え取調室の扉を開ける。
金切り声のような音を立てて開いた部屋の奥は、なんとも言えぬほどに空気が澱んでいて、ひくひくと鼻を動かし、その淫靡な臭いの元を辿る。
すぐにリアンがつながれた状態のまま、身体を起こすことも叶わずに突っ伏しているのが目に入った。さらに、その腰がひくりひくりとうねるように動いている。
「んっあ、はっ……」
よく耳に澄ませば、掠れた喘ぎ声も聞こえてきた。
漂う性臭は昨夜とたいして変わりはしないが、ねっとりとした淫らな雰囲気は明らかに増加している。
何より、少し盛り上がったその尻の狭間では、低い機械音が断続的に続いていた。
何しろ壁のコンセントから長いコードでつながっているのだから、エネルギー切れなんてあるはずもない代物だ。
たとえ気絶しても制御した通りに動き続けるそれに、身体は勝手に開発されていくようになっていた。
そのディルドの駆動音が大きくなるたびに、腰の動きも大きくなり、喘ぎ声も大きくなる。
そんな様子を腕組みして壁によりかかりながら、たっぷり十分ばかり堪能してみたが、扉が閉まる音に気付いていないはずはないだろうに、リアンは一向に俺のほうへ向きやしない。
これはあれか、無視するつもりか?
などと思ったが、もしかすると、熱中しすぎて気付いていないとか?
「おい」
思わず声をかけてみても、反応はない。
変わらず、機械の駆動音と共に、震え、跳ねて、浅ましく呻く。
「おいおい、すっかりキメてんじゃねえよ」
無視されてるのも業腹だと、足音も高く近づいてその肩を掴んでひっくり返してみれば。
「ん、あぁぁんっっ」
なんとも言えぬ甘い声で啼いて、ぴくぴくと腰を突き出し震えていて。
「へえ、尻からの刺激にしっかり勃起してるんじゃねえか」
顔の横に立ち、視界に入るところで直立したままに見下ろして言い捨てた言葉に、視線がゆっくりと追ってくる。
「少しは達ったのかあ?」
紐が食い込むペニスは、粘液にまみれているけれど、精液の名残はどこにもないと見て取っての言葉だ。
まして、縛られたペニスは射精衝動のための動きを抑制するようにできていて、勃起はしても簡単には射精などできやしないのだ。
移動し、靴を履いたつま先で軽く蹴ってやれば、「ああっ……」とまるで擦りつけるように動いてくる。
最後に振りかけた潤滑剤は、粘膜から非常によく吸収されるセックスドラッグの一つが含まれている。男でも女でも性器に塗れば、性衝動が止まらなくてやりまくる代物だ。まあドラッグと言っても、こいつを一回や二回服用しても中毒にはならないやつだが、効果だけは過去例からして抜群な代物なのだ。
「答えろ、何回達った? てめぇは淫乱だからなあ、射精できねぇでも、ドライでキメて達きまくったんじゃねえか、十回くらい」
などと問うてはみても、あうあうとまともにしゃべれそうにない。
そういや、奥歯に枷を嵌めたまんまだったと思いだし、パチンとそれを外してやって。
「飲め」
と、水のボトルを口の上から振りかける。
正気戻しも兼ねての冷たい水は、バシャバシャと顔にまんべんなく降りかかり、気管にでも入ったのか咳き込んで。しばらくそのまま放置していれば、咳が落ち着いたころに、ようやくわずかに焦点が戻ったように、視線が動いた。
「水だ」
今度はストロー付きのボトルを差し出しストローを口に咥えさせた、とたんに、ものすごい勢いでボトル内の水位が減っていく。それこそ五百cc一気飲みしたのだが、まだ足りないとばかりにちゅうちゅう吸い続けている。
しようがないので空を取り上げ、もう一本。
栄養剤入りのそれは味も違うだろうに気づきもせずに、また一気飲みだ。
まだ意識が完全に戻っていないのだろう。
これは今、生存本能が飢えて乾いた身体を癒やそうと、ただそれだけで動いているただの獣だ。
「まだ薬が抜けねぇのかね、これは」
独り言のように呟けば、すぐにイヤフォンに返答が入ってきた。
『ああ、すこし配合が多かったかな。としても、後三十分もかからねぇと思うけどな。どうする?』
「そうか……」
三十分くらいなら、と頭の中で時間配分を考える。三十分くらいならば、それはちょうど良い時間になるかもしれない。
ならば、と、俺はリアンの傍らに跪いて、その瞳を覗き込みながら問いかけた。
「射精してぇか?」
「……」
すぐに返事はなかった。意志の薄い瞳がどこかぼんやりと揺れている。
「おい、ここで射精したくねぇのか?」
もう少し大きな声で、さらに勃起しているペニスを掴み、親指と中指で絞るように刺激してやれば。
「ひ、やあぁ」
甘ったるい強請る声と共に、腰が跳ね、大きく瞠った瞳が何かを探すように蠢いて、俺を捕らえる。
「あ……」
「射精したいなら、させてやるぞ」
少し柔らかめな声を作って、囁きかける。指でえらの下を扱き、先端を潰し、鈴口に指先を入れて、ぐりぐりと刺激してやりながら、甘い言葉をかけてやる。
「んあっ、あぁ、んんっ」
「なあ、出してぇだろう? 一晩たっぷり感じまくった身体だ、もう重たいくらいに玉ん中に精液が凝り固まっているしなぁ」
陰茎を辿り、その奥にある陰嚢は重い。
たっぷりとした二つの玉を手の中で弄び、ディルドの音が一際大きくなった時に併せて、会陰部も強く押し上げてやれば。
「ひうぅぅっ!」
肺の空気を全て吐き出すような嬌声と共に、ガクガクと激しく痙攣して、両目を見開いて硬直した。
明らかにドライで絶頂を極めた様子に、なんとも言えぬ感慨が押し寄せてくる。
これはどんどん俺の手で淫乱になっていく。
男など知らなかった尻が性器を咥えることを知り、浣腸で勃起し、ディルドで感じて、尻で絶頂を極める。
同じような方法で幾多の男たちをいつも愉しく率先して拷問するのは自分の趣向に合っていたのは間違いないけれど、今のリアンを相手にしてみれば、あんなものは義務感というか仕事というか、それ以上のものではなかったのだと気が付いた。
いや、これも仕事の一環なのだけど、だが、無理にでも手に入れたいと思うほどの者が相手だと、こうも墜ちていく様が愉しく興奮するとは思ってもみなかったのだ。
どんな高位の者を堕としたときよりも、美しい身体の男を色狂いにしたときよりも、今のこの身のうちの興奮が一番激しい。
ハアハアと肩で息をして崩れているリアンの髪を掴んで、視線を合わせれば、その痛みに瞳の奥に光が差す。
目の前の俺を認識したのか、数度瞬いて。
「バ……バージル……」
「っ……」
掠れ、喘ぐように呼ばれた名に、堪らず手から力が抜けそうになった。
官能を直撃されるとはこういうことか、と後から思ったのだが、背筋を這い上がった甘い疼きにも負けずに手の中の髪を掴み直したのは、俺の反射神経のなせる技としか言い様がない。
マジで落としかけた頭を掴み直し、顔を顰めながらその顔を覗き込んだ。
ぼんやりとした瞳は未だ夢見心地のようで、どうやら現実を認識できていないのだろう。
今目の前にいる俺を、今の俺と認識できていないからこそ、あの酒場で酔っているときのように、声をかけてきたのだろうけれど。
俺の夜のおかずでもあったその呼び方を、今されてはさすがの俺も、仕事だと言うことを忘れてしまいそうで。
ただ。
「リアン」
俺も少しトーンを落として、あの時と同じように名前で話しかける。
どうせ夢の中にいるのなら、その夢に沿って演じてやろうかと、リアンの首の鎖を解き、頭を掴んで股間に引き寄せる。
手早くスラックスを緩め、さっきの直撃ですでにいきりたっていた勃起を取り出して、水に濡れた唇に押しつけた。
「俺が満足したら、射精させてやるぜ。舐めてご覧、できるだろう?」
優しく、甘ったるく。
酔いに口が軽くなったリアンを誘導したあの時のように。
「リアン、良い子だ、やってごらん」
その言葉に、リアンがおずおずと口を開き、小さく舌を出してきた。
頭に添えた手が誘導しなくても首を伸ばしきて、水に冷えた舌がちろっと亀頭に触れる。とたんにざわっと背筋を這い上がる快感はすさまじく、それに加えて眼下に広がる光景にも引き寄せられる。
「もっと、もっとだ、リアン」
ことさらに名前を呼び、ずらした指で唇を割り開く。
「あっ……」
「開けろ、そして銜え込むんだ。リアンならできるよ」
命令しながら煽てて、さらに開いた口の中に己の亀頭を潜り込ませれば、その艶めかしい熱に、全身が総毛立つ。
ああ、もう、なんてこった。
この俺が、こんな拙いフェラで感じまくっているなどと、どこのどいつに知られたとしても、ゴルドンと仲間達には知られたくねぇ。
そんなバカなことを考えて、にやけそうになる口元に力を込めて堪えた。
「舐めろ、吸え、もっとだ」
夢うつつなリアンは結構柔順で、少しずつ銜え込み、言われるがままに吸い、舌を絡ませてくる。
「うあっ、んっ……ぐっ……」
またディルドの音が鳴り響き、銜えたままにその顔が顰められた。腰がペニスへの刺激を求めて揺れて、込み上げる射精の衝動にガクガクと前後する。
「射精したいなら、舐めて、吸って、俺を先に達かせろ。もっと奥まで、銜えろ」
「あっ、ぐ、や……」
けれど、少しずつ夢から覚める時間はやってくる。
薬の効果が切れ始めて、現実を認識し始めたのか、甘く啼いていた声が、苦しげなモノに変わり、舌が押し出すような動きへと変わってきた。
唇を割り開く指に快感では無い震えが伝わり、見上げてくる瞳が、信じられないとばかりに目の前に迫る俺の下腹と俺の顔とを交互に見やり。
夢の時間が終わったのだと、リアンが気付く前に、俺は低く制した。
「噛んだら、またあの薬を追加して放置するぜ。今度はもっと濃い奴だ」
ちらりと向けた少し動きが収まったディルドが入っている尻を見やり、嗤ってやる。
「ずいぶんと愉しんだみたいだから、気に入っただろう。あれは何回も使っていると中毒症状が出てな、そのうちにセックス中毒みてえに、日がな一日盛ってねえと駄目になるんだ」
その言葉に、リアンの口が止まる。
ほとんど俺のペニスに歯が食い込む寸前だったから少し冷や汗が出たけれど、まあ、その前に指を突っ込んで遮るぐらいはできたから良かったが。
「さて、さっさと舐めねぇか? だったら、さっき言った通り、薬入れてまた放置だ。いや、今度はほら、そこの壁にある棍棒をてめぇの尻に入れてやろう。あのごつごつとした凸凹が好いって人気の代物なんだぜ。いやあ、この前の奴なんか、あれをずんずん突っ込んで、最期にはガバガバになって、今度はフィストしてぇってイキ狂ってたけどよ。どうだ?」
愉しかったと思い出していると、堪えきれずにクツクツと笑みがこぼれてしまう。
そうしたら、ひっと喉の奥を鳴らしてすぐに、その舌が、口が動き出した。
ぎこちなく絡みつき、吸い付いて、頭を前後させて、快楽を与えようと頑張っている。
そんな頑張りを評して、ちょっとした昔話をいろいろとしてやった。
たとえば、敵兵の、俺の部下に傷を付けた輩を念入りに責めてやったら、最後には尻に棍棒突っ込んだまま涙を流して土下座して、みなさんの腕で犯して下さいって、あれはまあ、激しいお強請りだったとか。
最後まで一言も情報を漏らさなかった奴は薬に狂って、今では精液便所としてどっかで飼われているらしい、とか。
そうすれば、ますますリアンの動きは良くなって、慣れないまでもその一生懸命な動きに、俺の息子も現金に反応する。まして、銜えてんのがあのリアンなのだから。
「はは、イイぜ、もっと動かせ、抜くときには吸うんだっ、おら」
極まってくると、ついつい乱暴にその頭を動かして、込み上げる衝動に、一気に高みへと駆け上がる。
「んっ、んんっ」
ドク、ドクン
感じる刺激のままに喉が鳴り、濃厚な俺の精液が噴き出していく。
唾液が満ちた口内に、俺の白い精液が広がっていく光景が透けて見えるようで、もうその想像だけでもう一回達きそうになる。
最後にぶるりと全身を震わせて、射精の気怠げな余韻に浸りながら掴んだままのリアンの頭を見下ろしたら、未だ銜えたままの状態で涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔が蒼白な面持ちで見上げてきていた。それが言いたい言葉を、俺は理解して頷いた。
「飲め」
簡潔な命令に、その瞳が大きく見開かれる。
イヤだと、固定されていながらも頭が横に振られる。
だが、それを許すはずも無い。何より、嫌がる奴に飲ませるのが大好きな俺が、リアンだからという理由で許すはずも無いのだ。だいたい、一番飲ませたいと願う相手なのだから。
「飲まないなら、さっき言ったこと、てめぇにもやってやるよ。どっちが良い? 薬漬けになるか、ガバガバになるか」
提示した究極の二択に、リアンは折れた。
ごく、ごくり。
それでなくても溢れそうになっていた唾液と共に、俺の精液がその喉を流れていく。
嗚咽と、堪えきれない吐き気による嘔吐きに震える喉が気持ちよい。
このまま第二陣に出撃したいと願うけれど、また耳元から怒声が届きそうな気がして、さすがにそれは諦めた。
俺以上に寝不足なゴルドンの沸点はただいま絶賛低下中だ。
今回ばかりはあいつにしっかりと働いてもらわないと収拾が付かなくなることは判っているから、おとなしく引き下がる。
ただ代わりに、ずるりと引き抜いた拍子に口の端からわずかに白濁混じりの涎が流れるさまを堪能して。
「美味かったみてぇだなあ、さすがに淫乱なだけあるわ」
しっかりと飲み込んだことを褒めてやったら、震える唇が何かを言いかけて、結局俯き言葉を無くした。
どうせ、これは俺たちが許しを与えるだけの情報を持っていない。そして、それはこれも良く判っているのだ。
それでも少しでも何かを言いたくて、けれど、俺はもうリアンに何かを言わせる気はなかった。
「ああ、そうか、射精したいんだっけなあ。だから俺のチンポを美味そうに銜えたんだっけぇ」
最初が夢の中で始まった行為のきっかけを提示して、衝撃を受けるリアンに、たたみかける。
「なんせ、尻のディルドに嵌まって極めまくっているんだからなあ。今もビンビンに勃起しているし。なあ、うまくフェラできたご褒美だ、特別に手を使って良いから、そこでオナってみろよ」
「え……けほっ……」
呆然と、けれど喉に絡みついた精液に小さな咳をして。
込み上げた吐き気にひどく顔を顰めて蹲ったけれど、それも想定内ということで、特別に水を恵んでやれば、ゴクゴクと何度も何度も飲み込んでいた。
ああでもそのうちに『ざーめん、おいしー』とか言わせてみたいなあ、と思う。
なんだかいろいろと願望が増えてくるが、それよりも、とリアンの腕を解放してやって、俺は椅子を持ってきてその前に座った。ついでにコントローラーを取り上げて、スイッチを動かして。
「ひぐぃっ!!」
「ディルドをマックスにしてやるから、チンポを擦ってオナれ」
前立腺を叩き付けるモードにした最凶モードに、リアンの細い身体が転げ回る。
「おい、何してるっ、さっさとしろっ」
叱っても、腰をガクガクと振りながら、踊るばかりで。
しょうがないとコントローラーを弱めながら立ち上がり、取り上げたのは、久しぶりの俺の一本鞭だ。
それを右手に握り、もう色が変わり始めた痕だらけの身体に振り下ろす。
「いあぁぁっ!!」
肌を打つ音に、悲鳴が混じる。
一度、二度。
同じ所に落とした鞭の衝撃に、皮膚が裂ける。
少し強かったのか、それとも昨日からの鞭打ちに肌が弱ってるのか、どちらにせよ、二日目となるとその身体のダメージは昨日よりはでかい。
今日はもう血を見るのは避けられない鞭打ちを、けれど俺は止めなかった。
逆らえば罰を。
これは遊戯でなく拷問のだから。
「オナれ」
四度ほど振るった鞭の手を止めて、再度高い位置から命令する。
「その淫乱チンポを扱いて、達ってみろ」
未だ括られたままの射精できないペニスに鞭の先端を絡ませる。
何とか姿勢を起こして、怖々とその様を見つめるその先で、ずるずると動かして、すうっと鞭先を引き上げる。痛みをもたらす元凶が、男の一番の弱点に絡みつく恐怖に、さすがにチンポも柔らかくなっている。
何しろ鞭の先は、ぺたりと腹を打つペニスのすぐ上なのだ。
「やらねぇのか? だったら、このままこれでてめぇのチンポを打ってやろう。もう使い物にならなくなるほどにぼろぼろになったら、射精できねえってことで、許してやるから」
ニヤリと口角を上げて、愉しげに言ってやれば、リアンががばっと上半身を起こして座り込んで。シコシコと必死の形相で、己のチンポをしこり始めたのだ。
その勢いときたら相当なモノで、あまりの滑稽さに込み上げる嗤いが止まらない。
「それじゃあ、よく見えねぇ、尻をつけて足を広げて尻の奥まで鏡に映してやれ。チンポも映るようにな」
「は、はい」
おとなしく言われるがままに座り、股間のチンポに手をやったリアンは、一生懸命オナニーを始めた。そのタイミングでディルドも動かしてやる。
「ひ、あっ……んっ、んあっ……ぁぁっ」
もうすっかり尻で達けるせいで、扱くよりもディルドの振動に良い反応を示す。
けれどリアンのそれはしっかりと拘束されていて、精液は出せないようになったままなのだ。
そんな状態で扱けばすぐに、リアンの身体が堪えきれないとばかりに仰け反り、片手を後ろについて、尻を持ち上げ腰をふりたくり始めた。
その虚ろに開いた口の端から涎がすうっと流れ落ちていく。その表情は、達きたい、達きたいと、誰が見てもそう言っていると判るだろう。
腰がゆらめく。
ディルドを押さえるベルトが、振動で震えている。
きゅっと引き絞られる尻タブに、なんとか射精しようと持ち上がろうとする陰嚢。そして、先走りで汁だらけとなったペニスに絡むリアンの手。そんな全てを晒して、喘ぎ続ける。
「あ、んあっ、達く……ぁぁ、達きたぁ……ぁぁ、もう、あぁ、あ」
ビデオには入っている昨晩の痴態もこんな感じだったろう。今のように手を使えなくても、その腰を動かし、ペニスを床に擦りつけて、悶えていただろう。
達けない苦しさ以上の快感に捕らわれて、そうやって皆次第に狂っていくのだ。
もう薬の効果は切れているとリアンは気付いていない。
尻をディルドに犯されて勃起しているのは、もう身体がそう覚えてしまっているのだということが、まだ判っていないのだ。
「ん、あっ、あうっ、……うあふぁ」
「どうした、まだ達かないのかあ。淫乱なてめぇだったら、もっともっと、一日達きまくっても、欲しくて堪らなくなるだろうからって、わざわざ許可してやってんのになあ。そんな俺の好意を無碍にするって言うのかよ、こりゃあまた罰かぁ?」
「んくぁ、あ、だ、だめぇ、やあっ」
再び鞭を手に取って近づこうとすると、その頭が嫌々と横に振られた。
「ゆ、許して……すぐ、すぐに達くぅ、あん、あぁ」
俺の足に縋り付くように、粘液に濡れた手でスラックスの布を引っ張る。
「ま、待ってぇ……あ、ん、うっ」
「おい、汚ねぇ手で触るな」
「ん、あ、あぁ、ごめ、ごめんな……バージルっ、ああ、バージルぅ……」
不意に名を呼ばれて、息が止まる。
今日の最初の時もそうだった。
リアンに名前を呼ばれると、目の前が赤くなり、激しい衝動が身の内を焦がすのだ。
それこそ、拷問士としての血肉が全て剥がされて、こいつを抱きしめて、貫いて、自らのものでよがり狂わせたいのだと、色欲に狂った獣が暴れ出しそうになる。
そんなことになれば、もう尋問どころか拷問としての体もなさなくなる。
ここで行うのはあくまで情報を吐かせるための尋問がメインで、拷問はその付随的行為なのだ。全てが計算尽くで行ってこそ拷問は効果があり、どんなに熱中していても頭の片隅にはきちんと冷静な部分が残っている。
なのに、それが吹っ飛んでしまいそうになる。
リアン自身はそんなことを知るよしも無く、ただただ、朦朧とした意識の中で、夢の俺と混乱しているだけだということは判っている。
そう、冷静な一欠片がそう断じていて、正しい対応をしろと言う。
いつもなら従えるその言葉に、けれど獣の本能が逆らいねじ伏せようとする。
俺自身を欲しいと言われて、望み、望まれるままに喰らい尽くしたいと、強欲なまでの本能が暴れている。
けれどまだその時では無い。
今はまだ、リアンは敵で、情報を取り出すべき獲物なのだから。
そうやって、意識して己を律しているというのに。
「……ジルぅ……、バージル……」
縋り付き名を呼んでくるこれに、捕らわれそうになる。
このままでは何か間違いをしでかしそうだった。
何より今、動けない俺の立ち位置はどうだ?
これは誤魔化せるのか?
本当なら、このまま再度犯すはずだったのに。
ぎゅぅっと力を込めた右手に馴染みの革の感覚があった。視線をやれば、鞭の革の柄が力を入れた分だけしなっている。
これで先に打つか、それとも……。
『動けっ!! 生チンポで達かせろっ!』
まるで俺の迷いに気が付いたかのように、鼓膜を裂くような強さで鋭い指令が飛ぶ。
俺の動揺を打ち消すその勢いに、俺は数度目を瞬かせた。
あ、ああ、そうだ。
そうしなければならない。
正しい指示に本能が従う。
長年生き延びてきた経験が、それが正しいと判断して、意識が急速に晴れ渡った。
澱んでいた意識の残りの欠片を首を振って払い、足下に縋り付いていたそれを蹴り飛ばした。
「ぎゃっ、あっ」
「は、ん、玩具ごときじゃ物足りねぇってかぁ? だったらやるよ、生身のチンポをなあ。昨日一回でやみつきになったみてぇだから、もうイヤだって言ってもやるよ」
握りしめていた鞭を放り出し、床に倒れたリアンの髪を掴み上げ、足先が当たったのか口の端が切れた顔に視線を合わせて。
「這えよ、お望みどおり犯してやるよ、淫乱」
痛みに夢から覚めたように呆然としていたリアンの瞳が正気に戻り、恐怖が宿った。
「い、嫌っ、あぁ」
咄嗟に逃げを打つ身体を押さえつけ、ディルドが埋まっていたベルトは、手慣れた俺からすれば簡単に外れる代物で、皮ごと引っ張れば中身がずると飛び出してきた。
「んくぁぁっ」
その刺激にすら感じまくっている身体から力が抜ける。
蹲り、引き寄せた尻だけが上がっている状態で、しかもさっきまで異物を銜えていた穴を、犯すのはほんとうに簡単だった。
異物を銜え、薬に犯された穴は、昨日よりさらに熱く柔らかく俺を包み込む。
だが、未だ筋肉の締め付けは変わらずきつく、しっかりとした脈動を伝えてきた。
ぞわぞわと暴れ出した腸の蠕動運動も、ほどよく陰茎を包み込み、揉み上げてくる。
昨日の時も良かったが、今日はさらに熟れているのだ。
「あ、ぁ……あ……」
突っ込まれた衝撃に震える身体がしなり、腰がくねる。
すでに尻穴の異物で快感を得ること知った身体は、堪えきれない衝動のままに快感を欲していた。
昨日の鞭の痕が黄色く青く、その肌に模様を描いているのだが、それすらまるで誘うかのように波打っている。
その身体は、細身とは言え明らかに男だ。なのに、流れる汗が滴り落ちる様まで、淫婦のごとくいやらしく見える。
仰け反るとくぼむ腰の背骨のラインをなぞりたくなるし、肩甲骨がぐるっと動くのを見て無性にしゃぶりつきたくなって、堪らずに乾いた唇を舐めていた。
そんな視線の先で、リアンが動いた拍子に、ほんの少しペニスが出てきた。とたん、リアンが頭を上げて、イヤだとばかりに仰け反った。
「んあっ」
そのあえかな甘ったるい声が耳に入ったとたん、眩むような快感に駆られてその腰をきつくひっつかみ、引き寄せる。
「ひっんっ」
「勝手に抜くなっ、てめぇはそこでよがってるだけで良いんだっ!」
一気にぎりぎりまで抜いて、一呼吸置いて。
まるで探るようにアナルがひくついたその瞬間を狙って、一気に押し込む。
「んあぎゃぁっ!!」
背中がしなり、頭が振られ、髪が泳ぐ。その身体がしなりきったその限界でまた引き出して。
喪失感に襲われたかのように追ってくる尻を押さえて、強く押し開く。
パンッと乾いた音が響くほどに肌を押しつけて、ぐりぐりと最奥を抉り、同時に滾りきったチンポも扱いてやる。
「んぁっ、だ、いやぁ、あっ、きっつっ、あぅぅあひぃ!」
先っぽがしとどに濡れたペニスは、滑りが良くて擦りやすい。しかも、嬲ってやればおもしろいように暴れるから、ついついぐりぐりと押さえつけて、悲鳴を上げさせた。
もちろん抽挿も休み無く、腰を突き上げるように押し込めるついでに右に左に振ってやって、予想できない突き上げに、そっちのほうもワアワア喚いて悦んでいる。
ことさらに乱暴な抽挿をしているが、もろちん前立腺を嬲るのも忘れない。
すっかりそこの善さを覚えた身体は、抉られるたびに跳ねて悦んでいる。それに、入り口付近も良いのか、その辺りで一際締め付けが良くなって、俺もやたらに気持ち良い。
入り口に、中程に、奥に。
マジでどこもかしこも性感帯の持ち主だと、外見だけでは判らなかったその意外な特技に、俺はもう楽しくてしようがなかった。
ちょっとタイミングを計ってやれば、抽挿のタイミングで締め付けもできるようになった。
本当に覚えが良くて。
「すげぇな、ほんと。客引きしたら、あっという間に淫乱で名器持ちだと評判の売れっ子になるんじゃねえか」
「い、ぁぁ、ぁぁ、ぁっ、くあっ、あっ」
掛け値無しの賞賛には悦ぶ気配が無いのだが、うまく突いてやれば、とたんに歓喜の声が上がり、踊りまくってこっちまで昂ぶってくる。
やりやすいように腰を引き上げていけば、リアンの腰も上がってきて、四肢を伸ばした四つん這いで頭を上げて吠え続ける。
もうすっかり理性など飛ばしてしまっているのか、床につながれていないのに逃げも打たずに抽挿を甘んじて受け、口角から涎を垂らして悦んでいる姿が、鏡にしっかりと映っていた。
薬はもう切れているはずだが、生身のチンポに狂う姿は浅ましく、淫乱と呼ぶにふさわしい。
時折びくびくと激しく痙攣する時には、ひどく締まって、あやうく達きそうになるが。
いくらなんでも早すぎると、己のプライドだけで我慢する。
ふと顔を上げると、鏡に快感に蕩けて強請る浅ましい表情がはっきりと映っていた。あの姿が、今もずっと撮影されているカメラに、この痴態もつぶさに入っているだろう。
撮影された映像は、その後の検証はもちろんのこと、一部のお偉方が裏に回して、俺たちもおこぼれをいろいろともらっていたりするのだが。
『捕虜拷問調教』シリーズの主演男優としても、そんな情けないところは見せられないので頑張ってしまう。
まあ、両方ともに顔を別人のようにしてしまう技術を開発しているので、俺だとバレたことは一度もないけれど。
ついでに、生に近い映像は一部の好事家達垂涎の的らしいが、実は敵国にも流れているという噂を聞いたことがあった。
だったら。
「おい、てめぇが悦んで尻振ってよがってる姿を、てめぇの大っ嫌いな親父に見せてやろうか?」
どうせ、一部の好事家の中にその名前が入っているんじゃなかろうか、という気がものすごくするモリエール家当主のことを思い出しての、問いかけに。
「くっ、う……や、止め……て、ん、あんっ、イクっ、イクぅっ」
”親父”と言ったとたんに、これの頭がぴくりと動いて、身体も硬直したように感じた。もっともそれは一瞬のことで、すぐに柔らかく解れ、喘ぎも再開したけれど。
「いいじゃねえか、不肖の息子は親父の言いつけ通りちゃんとその身体で男を誑し込んで、敵兵すら虜にしてますって。絶対、親父さんも大喜びで褒めてくれるぜぇ、あははははっ」
けれど、さらに追い込む言葉に、喘ぎが止まった。
「ん……う……いや……、それ、だけ……は、あ、ひっ、……やだぁ、ぃぁっ」
すげぇな、こりゃ。
どうやらリアンの精神は相当親父に縛られているらしい。
変わらずこっちは尻タブが音を立てるほどに激しく抽挿してるっていうのに、喘ぎ声の間にイヤだと拒絶し始めたのだ。
「や、ひぎっ……やっ……んんっ、」
とうとう、ぽた、ぽたっとその頬から涙が垂れて落ちていく。
「……やあっっ、こんなのっ、やだぁぁ、やりたくないっ、無かったのにっ!!」
不意に、堰を切ったように悲鳴が溢れ、逃れようと身体も暴れ出す。
これは相当鬱積が堪っていたようで、疲労感が半端ないはずの身体にしては、その暴れる力は強く。
身体を捻って倒れかけたところを上から押さえつけ、ついでに仰向けにひっくり返してのしかかった。
お陰でさっきまで見えなかった顔がよく見える。
快感に溺れていた顔も好いが、今のように泣きじゃくり、絶望に満ちた顔も堪らなくて、もっとよく見たいとその顎を捕らえて固定する。
「はは、親父に悦んでもらいたくて、軍の内部に入っていったんだろうが?」
太股を抱え上げ、足枷の間の棒を潜って股の間に入り込み、思いっきり股間を広げてより深くその肉を味わう。
「汚ぇじじいのチンポを舐めて、ザーメン喰らって、尻がガバガバになるまで突っ込んでもらって。てめぇがして欲しかったことだろうが、だから、自分から入っていったんだろう、うん? 止めとけって誰かから言われなかったかあ?」
あの酒場で、どこまで理解していたのか判らぬが、それでも悪い予感はしていたのだろう。
俺もどうにか止められないのか、と言ってやったほどに、話の中にどこか嫌な感じがしていたのだ。
それを突きつけられて、リアンがくっと唇を噛みしめて、視線を逸らした。
けれど、押しのけようと上がっていた手は力無く、今は爪の先で腕に微かに引っかかっているだけだ。
昨日はまだ怒りが強く、身体も拒絶しようとしてたけれど、快感を知り、何より絶望の中にいるリアンの身体に拒絶はなかった。
「いや……だぁ、うくっ、ち、父、は、あうっ、父の、やっ、ああっ」
イヤだと、激しい嗚咽と突き上げられる衝動に、言葉は続かない。
父には見られたくないと言いたいのか、それとも父の話はするなと言いたいのか。
そのどちらもだろうと推測しながら、俺は体重をかけてリアンの熱も、そして呼吸も奪い取る。
乾いた熱が、俺の中を満たしていく。
代わりに押し込める俺の熱を、唾液と共にリアンが飲み込んでいく。
そういや、初キッスがこれか。
なんて、ほんの少しセンチメンタルな気分になってしまったけれど、まあキスなんてうまくいきさえすれば、飽きるほどにできるわけだし。
今は、この身体をしっかりと堪能しよう。
どうせこんなリアンは、……今だけなのだから。