【檻の家 -丹波の暴走-】(1)

【檻の家 -丹波の暴走-】(1)

 飼い主の一人丹波による敬一の陵辱のはてに。
 【クリスマス Ver.2010-】の前の話になります。
 
 
  

 長く続いた梅雨が終わったはずなのに、雨天時とさして変わらぬ湿度のままに気温ばかりが上がっていく。
 梅雨の高湿度にすでに体力を削られていた敬一の体を、その高温高湿度がさらに疲れさせる。昨年はこんな湿度でもそれほどまでに堪えはしていなかったが、毎日のように繰り返される意に沿わぬ行為が気力を消耗させ、食欲を減退させ、結果体力を失わせていく。
 しかも、遅く始めた就職活動は困難を極め、さらなるストレスが溜まっていった。
 それでも、大学に行けばあの家から解放されるし、友人たちとの他愛ない会話が息抜きになっていたのだけど。
 そんなひとときが奪われたのは、やはり酷く気温の高い夏の日のことだった。



 ここしばらく、いろいろな用事が重なって敬一はたいそう忙しかったが、盆近くはさすがに少し手がすき始めた。
 ただ今日は、どうしても帰省しなければならないメンバーが出たために、敬一一人が明日の午後まで泊まりの番をすることになって、バタバタとその手続きに走り回る忙しない日になった。本来なら二人でしなければならないのだが、結局敬一だけが残ることに許可が必要となったからだ。
 もっとも、家より大学にいる方が幸いな敬一にとって、そんなことは苦にもならない。しかも研究室は涼しくて、仕事と言っても時々数値の確認をするだけの簡単なものだから楽なことこの上ない。
 一人になってから装置の数値を確認し、少し時間がかかるかも、と、お気に入りの菓子と晩ご飯用の弁当を持買いに走り、久方ぶりに陽気な気分で実験室に戻ってきたところで。
 不意に目の前に現れた男の姿に、コンビニの袋が手から滑り落ちた。
「よう、待ってたぜ」
 大柄な体格を持つ作業着姿の丹波が待ちくたびれたとでも言うように壁から身を起こす。
 どうして? とか、なんで? とか。
 ぐるぐると頭の中に疑問が渦巻く。
 あり得ないと思ったけれど、目の前の彼は現実だ。
「な……なんで……」
 足が明らかに震え、後ずさることもできないほどに動かない。
 虚ろに問うた唇から色が失せ、視界に入りきらない姿を探るように、けれどその顔が見たくないとばかりに瞳がおどおどと忙しなく動く。
 だが、どう足掻いても至近距離で笑んでいるのは丹波でしかなくて、それを拒否する脳が受け入れた時には、その腕が敬一の腕を掴んでいた。
「ひっい、ぁ……、は、……せ……」
 声音に色濃く宿る恐怖に気付いたか、丹波の笑みがさらに深くなり、もう片方の手が敬一の喉をがしりと掴んだ。
 それを外そうと力の入らない指先で掴もうとするけれど、発達した筋肉はとっかかることすらできなくて、無駄にかりかりと引っ掻いてしまうだけだ。
「どうした?」
 意識しないままの抵抗とも呼べぬそれに、丹波が嗤う。
「逃げたいのか?」
 低い声音に、動けないままに首をかろうじて横に振る。
 頷けばどんな事をされるのか身体の方が良く知っていた。
 今だって、逃げたいのに逃げられない。蛇に睨まれたカエルのように筋肉が萎縮し、足掻くことすらできやしない。
 加藤の強制させられる恐怖とは違う。
 鈴木からの支配される恐怖とも違う。
 三枝に与えられる痛みへの恐怖とも違う。
 丹波のそれは、草食獣が肉食獣に感じる恐怖に近い。本能で逆らえない──逆らえば殺される。逆らわなくても殺される。捕まったら最後、骨までしゃぶり尽くされるだけ。
 そんな怯えを見せる敬一に、あからさまに指に力を込めて、丹波が嘲笑のままに信じられない言葉を吐き出した。
「俺、今日から三日、お前の飼い主だから」
「み……か?」
 みっか……みっ日……三日……?
「あ、……三日、三日ってっ??」
「ああ、三日だ」 
 見開いた瞳に、同じ言葉を繰り返す口元が映る。肉食獣の牙を隠す唇を、肉色の舌が舐めていた。
 スケジュールに関しては、飼い主は嘘を言わない。鈴木が決めたそれを、誰も破ることはしない。
 今日は丹波、明日は鈴木、あさっては休みだったはずで。
 頭の中に浮かぶ予定表は、けれど、それが絶対でないことをもう知っていて。
「か……変わって……?」
 だけど、変更があれば朝のうちに伝えられるはずであって、朝出かける時も誰も何も言われなかったのは確かだった。
「おお、俺が出かける前に、鈴木さんには許可もらったぜ」
 鈴木が認めたのなら、そうなのだ。
 鈴木が決めたそれに逆らわないのは飼い主も同様だから。それに、敬一がイヤと言えるはずもない。
「そ、そんな……三日、も……」
 敬一にとって一番厭なのは、全員で遊ばれる日だったけれど。
 それにも増して厭なことがあったのだと、今更ながらに敬一は認識した。
 この丹波を三日連続で相手にするなど、とうてい堪えられない。
「おかげで、三日終わったら一週間まるまるお前に触れねえってよ。お前も二日連休だって。まあ、お前が忙しいから、家に寄りつけねぇってことで、実質時間は短いから今回は特別なんだと」
 確かに家にいる間だけならば、実質的な時間は少ない。
 けれど。
「大学はダメって言われってけど、俺が出向いて遊んだからって、ばれなきゃどうってことねぇだろ」
 そう、大学でこんな行為に及ぶことはしない、と、鈴木含めて全員で契約し直してくれたはずなのに。
 あの家に入居してピアスの傷がなんとか落ち着いた頃に、不意に鈴木の方からそれを言い出した。
 大学を卒業して就職するまで、鈴木が援助することも契約に入っていて、そのために大学での学業を邪魔することはもってのほか、と言い出したのだ。
 何より大学での勉強が最優先されると契約条項にまで追加してくれて、他の人達もそれに同意してくれたはずだった。ただ、確かに丹波は最後までそれに渋っていたけれど。
 でも、その契約があってこそ、敬一はこんな生活に耐えられていた。
 家に帰ればどんな悲惨な目にあっても、大学では彼らは手出しはしてこない。
 実際それを違えられたことは無く、だからこんな生活は卒業するまでの我慢だと思うことができたのだ。
 それに大学に行って勉強し、友人達としゃべり、遊び──そんな今まで何となく過ごしてきていた日常を許されたことは、敬一の精神を考えた以上に支えてくれるものであったのだけど。
 それなのに、この状況はその全てを奪うもので、明らかな契約違反だった。
 けれど、今の丹波は端からそれを無視していた。
「俺は仕事に来ているだけだし、お前は勉強に来ているだけだってことだし。なあ、お前が言わなきゃ判んねぇ、だろ」
 イヤだ……。
 無意識のうちに首を振って髪がぱさぱさと頬を叩く。溢れ出た涙がその頬を濡らし、髪が貼り付いた。
「ラッキーだぜ、ちょうどここの工事に入れてよ。ほれ、外から音聞こえてっだろ。向こうの棟の耐震工事期間中に水道管とかの配管工事でよ、そこに入ってんだ。だが、明後日は休みだが」
 それは、三日目はもう一日中離して貰えないだろうことが確実な予定。
「で、でも……仕事……」
 工事に入っていると言った。
 だったら、今日、明日は四六時中とはいかないはずなのに。
「そうなんだよなあ、仕事があるんだよ」
 残念そうな口ぶりのわりに、その表情は嗤っている。
「まあ、いろいろと考えてきているんだけどな」
 一転して愉しそうに笑って。
「いろ、いろ……」
 それはきっと、想像もしたくないことだろう。
 好奇心旺盛な丹波は、いろいろな事を敬一で試したがる。そのポリシーの無い責めは、他の三人と比べて予測できなくて、しかもたいそうきつい。
「ほれ、さっさとメス犬らしく服を脱ぎな。んでまずはその口マンコでおしゃぶりだな」
 相変わらず外から工事の音が響く中、それよりも強く丹波の声が凍り付いた身体に響く。
「早くしねえと監督に怒られちまう。そうなったら、判ってるだろう? 責任とってもらうぜ」
 丹波の脅しは、決して嘘でない。それがどんな責任なのか判らないけれど、敬一にとって決して良いモノではないことは確かだ。
 手が離れ、ずるずると壁づたいにずり落ちる敬一を見下ろす丹波から、もう逃れることなどできない。
 カチャーン。
 緩んだ手の中から、鍵が音をたてて床に落ちた。
 それを丹波が拾い上げる。
「逃げて鍵を閉められたら、どうしようかと思ったぜ。大学の備品壊して弁償、なんてなったら、面倒だしな」
 その言葉に、どうして部屋から逃げてすぐに鍵をかけなかったのか──と、激しい後悔に苛まれても後の祭りだ。
「さあ、まずはその邪魔な服を脱ぎな」
 本当に、どうして大学が安全地帯だ、と思ってしまったのだろう。
 震える身体を抱きしめたい衝動に駆られながら、それでも指先はシャツのボタンを外していく。
 脱げと言われただけマシかも知れない、と、いつもは破かれるシャツを放り出し、下着代わりのTシャツを頭から抜く。
 その時、敬一は無性に叫びたくて堪らなくなった。
 イヤだと叫んで走り出して逃げ出してしまいたかった。
 けれど動いたのは顎だけで、僅かに動いた前歯が唇をきつく噛み締める。
 息を吐いて、固く目を瞑った。
 もう諦めたはずなのに。
 時々こんなふうに、激情が込み上げて我慢できなくなる。
「早くしろよ」
 けれど、小さく息を吐いて頭からシャツを取り除いた敬一の瞳に浮かぶ諦めの色ばかりだ。
 逆らう気力など、とうの昔に潰えていた。まして、相手は丹波なのだから。
 待ちきれないとばかりに、萎えていても逞しいペニスを取り出す丹波の前に跪いて、頬から唇に移動したそれに舌先を出して、乾いた亀頭を僅かに濡らす。とたんに瞬く間に勃起して、蒸れた雄の臭いにこみ上げる吐き気をかろうじて堪えた。
 ぎゅっと膝に付いた手を握り、最初はピチャピチャと何度も何度も舌先で舐めて。
 ついた膝を上げて、己のジーンズを一気に下ろす。
 きつめのジーンズの下は、元より何も履いていない。縫い目の線が白い尻タブから太ももにかけて凹みと淡い色で残っていた。その尻タブを晒して、膝まで下ろす。
「そこまでいいや、それよりさっさと大きくしろよ」
 淡い愛撫に我慢できなくなったか、丹波が唇が歪むほどに押しつけてきた。
 丹波のペニスは太い。
 勃起していない時でも敬一の勃起並に太く、勃起してしまえば二回りも大きい。
 口に含むことすら辛いペニスで、丹波は敬一の口も尻も犯すのが大好きなのだ。
 汗の臭いの強い蒸れたペニスをいつまでもあやすだけでは許されない。しょっぱい味に顔をしかめ、けれど、躊躇うことなく亀頭を口に含んだ。
 どうせ逆らっても無駄なのだ、まだ楽な内に少しでも快楽を与えようと、舌が、口内の粘膜が、たくましい亀頭を包み込む。
 すぐに広がってきた汗とは違う味に、敬一はえづくように喉を震わせた。
「なんだ、期待してんのか?」
 身体に似合う太い指先は、力仕事のせいかささくれている。その固い指の腹が、頬を撫でる。
 爪先が涙で濡れた頬を薄くひっかいて、味見するかのように、それを舐め上げられた。
「へへ、相変わらずうめぇ」
 愉しげに嗤われて、こみ上げたのは激しい悪寒だった。
 喰われる恐怖に、身体が逃げようとする。だがその寸前、読まれていたかのように丹波の手が、敬一の頭を掴んだ。
「うっ、う゛があぁっ」
 奥深くに一気に押し込まれた口いっぱいの肉の塊に、喉を抉られ目を見開く。
 狭い喉の奥すら犯す長さのそれが、止まることなく侵入していく恐怖に、敬一はイヤだと必死で叫んだ。けれど、喉を塞がれて、音は意味不明に響くだけだ。
 苦しさに喘ぎ、舌先を絡めて押し出そうするが、肉棒はそんなものではびくりともしない。
 さらに頭を固定されたまま、腰を突き出されては、逃げる術もない。
「ぐぅ、があ──っ、う゛ああっ」
 やめて、と首だけでも振ろうとするが、それすらも封じられて。
「とろいんだよ、お前は。まずは一回達かせろ」
 喉の奥まで犯すイラマチオに、激しい嘔吐感が込み上げて咽頭全体が震える。
 それが良いのだと、丹波はさらに激しく腰を前後させて、敬一の咽頭を侵し続けるのだ。
 長いペニスは、喉の奥で止まらない。
 奥の奥まで犯すペニスに全てが塞がれて呼吸すらままならず、苦しさにあふれた涙は、鼻水となって鼻を塞ぎ、さらに呼吸を妨げた。
 ぐっちゃぐっちゃと激しく掻き混ぜられた唾液が、抽挿の度にあちらこちらに飛び散った。
 自分ではどうしようもない窒息は、死の恐怖ばかりを育て上げる。必死になって丹波の腰に縋り付いて押し退けようとするけれど。
「が、あっ、あ゛っ」
 止めて欲しいのに、丹波の力には適わない。
 限界まで広げて銜えている唇まで抜けかけたペニスが、一気に押し込まれる。敏感な喉奥が、嘔吐感に震えるが、それ以上の息苦しさに目の前が暗く霞んでいく。足りない酸素を求めて、ただひたすら喉を震わせて。もう酸素を求めて口を開いてに意識すら遠のいていく。
「あ゛っ、がっ、ぶぁっ」
 引き抜かれる時に肺から空気が引き出され、また空気ごと押し込められる。
 新鮮な空気が供給されないそれは、もはや空気とは呼べなくて。丹波の臭いに汚染されたそれが肺を染め上げていく。
 ジュブジュブとした水音も、身体が上げる断末魔の音ももうはるか遠くに聞こえて。
「んんっ」
 茂った陰毛が鼻先まで押しつけられて、汗ばんだ肌が視界の全てを塞いだ。
 咽頭の最奥で、びくっびくんっ、と小刻みに肉が震える。
 開ききった喉に、絡みつきながら滴りが落ちていく。その拍子に、麻痺したはずの喉がえづき、激しく震えた。
「吐き出すな」
 ずぽっと音を立てて引き抜かれて、勢い大きく吸い込んだ空気に喉が悲鳴を上げる。激しく咳き込み、無意識のうちに口内の何もかも吐き出そうとした敬一に、無情な命令が響いて。
 条件反射のように手が動いていた。
 吐き出す間もなく、指の合間から息を吸い込む。
 痛めつけられた喉がそのたびにひくつき、咳き込んで、それでも吐き出さないようにと、口の中を駆け回る精液を唾液ごと封じ込める。
 吐き出すな、と言われれば、吐き出すことはできない。
 何度も繰り返された行為は、もう身体に染みついていている。逆らえば、さらに酷な命令が待っているともう知ってしまっているから。
 狂ってしまえば、いっそ楽かも知れない。いつだってそう思うのに、それすらも許さないのが彼らだった。
 理性を飛ばしかけるたびに繰り返し囁かれる理性を失った性奴隷の行く末は、もう脳に染みついていて、敬一を縛り付けていた。
「う、う──くっ、げぇぅっ」
 なんとか咳が止んだ拍子に、ごくりと唾液ごと飲み込む。
 激しい嘔吐感に震える胃を、腹の上から強く抑えて、手のひらについた精液も舐めて、飲み込んで。涙と鼻水、そして涎に濡れた顔を、もう一方の手のひらで覆い隠す。歯に触れた手のひらをぎりっと噛み締めて、その痛みに意識を逸らす。
 吐いたら何をされることか。
 加藤ならば、舐めさせられる。
 三枝なら、ピアスを引っ張られて、むち打たれて。
 丹波ならば……飲み込めるようになるまで繰り返される。その口が力を失っても、丹波が飽きるまでずっと。
 たった数ヶ月で身につけてしまった処世を嘲笑うかのように、丹波が鈴口に残っていた精液を敬一の額に擦り付けた。
 その欲望に滲んだ瞳が怖くて、視線を合わせられない。
 床から視線を剥がせずに俯いたままの敬一に、丹波が差し出したのは、真っ黒な歪なペニスの形をした張り型だった。太さは中くらいで、それほど大きくはなかったけれど。
「まだ仕事中なんだよ。時間がもったいねぇから、俺を待つ間これでしっかり広げておけ。二ー三時間ほどしたら戻るから、休むんじゃねえぞ。もし帰ってきたときにいなかったりしたら、おめぇのメス犬っぷりをそこら辺中に張り出してやるかな」
 その張り型で、暗に自慰をし続けろと言い捨てた丹波に、元より逆らう気力などなく頷く。
 けれど、一度は部屋から出かけた丹波が、ふっと振り返ってにやりと嗤った。その不気味な笑顔は何かを企んでいる証拠だ。
 ぎくりと強張った敬一に、再び歩み寄った丹波が、縮こまった身体を抱え上げる。
「ひ、あっ」
 決して軽いとは言えない男の身体を、丹波はまるで空箱でも抱えるように持ち上げて、実験台の上に乗せた。
 そこは、窓から比較的近く、隣の研究棟が良く見える場所だ。しかも机の上だから、窓から隠す物は何も無い。
「ここでしろ、股押っ広げてやれよ。淫乱マンコにたっぷりと日光浴させながらな」
 そう言って向けさせられたのは、窓の方だ。すでに夕刻になっていて、昼よりは穏やかになったとはいえ、それでもまだ太陽の光は強く、そんな日差しと熱が股間を照らし、敬一は羞恥に全身を紅潮させた。
 陰茎の目元に嵌められたペニスの拘束リングがやけに煌びやかに輝くのも、追い打ちをかける。
 射精がしにくくなるように陰嚢と陰茎を拘束するそれは、普段であれば目立たないけれど、こんな格好をすれば別だ。
「暑いだろうから窓は開けといてやる」
 エアコンの効いた部屋でそんな事をうそぶいて、言葉通りに目の前の窓を全開にした。
「ま、待って、ここは、イヤだ、見える……」
 こんな夏休みのまっただ中でも、そこかしこに見える灯りのついた部屋。
 ドアを開けて廊下に出て、こちらに視線を向けたら……。
 遠くても何かが変だと気づかれるかも知れない。
 それに、ここは四階とはいえ、窓の下は人もよく通る中庭だ。現に、今だって、誰かの声が工事の音に負けじばかりに響いていた。
「声を出さなきゃいいだろ?」
 たらりと張り型に流された白い液体。
「挿れろ」
 急いでいるにもかかわらず、丹波は敬一が動くまではここにいるつもりらしい。
 それに気づいて、仕方なく張り型を手に取ったが、それから漂うどこか甘酸っぱい匂いに気が付いて、顔が泣きそうに歪んだ。
「こ、これ……」
 それは、間違いなければ三枝が好む潤滑剤の匂いだった。
「ああ、貰ってきた。お前、これ好きだろ?」
 嗤う視線に早くしろと促され、ひくりと喉が震えたけれど、結局言葉は出なかった。つうっと頬に伝う涙を拭う間もなく、身体が勝手に足を大きく割り開く。
「んっ、くっ」
 朝出かける前にも嬲られたアナルは容易く白い液体を垂らした張り型を飲み込んでいく。
「ん……きつっ……んくっ」
 それでも異物感のあるそれを、喘ぎながら押し込んだ。
 どうせ逆らっても無駄だから……。
 いつだって思うそのことに、それでも涙がこぼれていった。



 二時間経っても丹波はまだ戻ってこない。
 工事の音はずいぶん前に止まっていた。日は暮れて、外はすでに闇の中だ。外灯と別棟のいくつかの灯りだけがやけに目立つ外は、まだ気温は高いままで、剥き出しの敬一の肌は汗にまみれていた。
 敬一がいる部屋は、電灯がついていない分機械装置のパネルの灯りがうっすらと敬一の白い肌を闇に浮かび上がらせていた。
 そんな中で、敬一は言われたままに机の上に仰向けになって、窓に向かって足を拡げて股間を晒し、尻に刺した張り型を動かし続けている。
 最初は遠慮がちに、股も閉じ気味にして小さく動かしていた張り型だったけれど、今はそれが大きくスライドして、手元ぎりぎりまで肉の中に埋もれていた。
「あぁ、かゆ……うっ……あふぅっ」
 白く甘い果実の香りのする潤滑剤には、三枝特製の媚薬と掻痒作用のある薬がたっぷりと含まれている。敬一のために特別に処方されたのだというそれは、果実の香りとは裏腹に、猛毒のように敬一の身体を犯し、その心身を狂わせていく。
 強烈な作用があるその薬は、持続時間は直腸吸収でも二時間ほどだ。
 けれど、これを使われると、敬一は我を忘れてペニスを求めて、尻を振りたくってしまうのが常だった。
 張り型が与えられれば一心不乱にそれで自分のアナルを穿ち、ペニスを差し出されれば自らそれに乗っかっていく。何も与えられなければ、泣き喚きながらも卑猥な言葉を発して、ペニスを求めた。
 あまりのことに記憶など飛んでしまう敬一がそれを知っているのは、その姿をくまなく撮られたビデオをさんざん見せられたからだ。
 這いつくばり、差し出された汚れた足の裏すら率先して舐めて、足の指を突っ込まれて歓喜の涙を流して感謝の言葉とともに、飼い主を讃える。
 さらには、そんな目に遭っているのに卑猥な言葉で忠誠を誓っている姿を、何度も何度も犯されながら、揶揄されながら、絶望に叩き落とされながら見せられ続けたのだ。
 だからこそ使いたくないそれを、けれど、淹れられてしまえばもう薬の効果から逆らえない。
 それでなくても敏感になった粘膜をさらに敏感に腫らし、熱を孕ませ、同時に生み出される激しい掻痒感に、理性などあっという間に砕け散るのが常だった。
 奥まで塗り込めば酷いことになると判っていても、こみ上げる情欲と掻痒感に手が張り型を動かし、余計に拡げてしまう。
 張り型を激しく動かす度に、頭の中が白く爆ぜる。
 もう何度絶頂を迎えたか判らない。
 自分が何を叫んだか、何を願ったか。
 誰も来なかったと言うことは誰にも気づかれなかったと言うことか。
 虚ろな理性は次の波ににもまれて消えていく。
 はあはあ、と、喉を晒して喘ぎ、口角から涎をだらだらと垂らして、妙なる快感に浸りきっていて。
「ああっ、はあっ」
 すっかりと奥まで飲み込んだ張り型のエラが、痒いところを擦るのが堪らなく気持ち良い。
 こみ上げる激情に手が知らず胸元に伸びて、軽く乳首のピアスを引っ張っていた。
「んくぅ、んっ、あっ」
 ぞくぞくと背筋を快感が走る。
 戒められ、動きの悪いペニスがそれでも僅かに白い精液を滲ませて何度も何度も震えた。
 弄り続けられた乳首は今や立派な性感帯で、ほんの少しの刺激でも背筋を強い快感がゾクゾクと這い上がる。
 それを無意識とはいえ弄ってしまう敬一は、アナルからの快感もあって、涎を垂らし忘我のままにひたすら張り型を動かしていた。
 そうしないといても立ってもいらないほどの痒みが襲うから。
 そうしたいと身体が訴えるから。
 高いエラで肉壁を抉るように何度も何度も濡れた肉壺を掻き回し、痒みを快感で紛らせて、射精できない苦しみのままに解放を追い求める。
 濡れた音が高く鳴り、たらりたらりと流れ落ちる腸液が、机に溜まった先走りと混じり合り、薄く塗り拡げられ、書きかけのレポートをべっとりと汚していた。