【檻の家 -丹波の暴走-】(2)

【檻の家 -丹波の暴走-】(2)

「おい、誰が休んで良いと言った?」
 ドスの効いた低い声音に、疲れて微睡みの中にいた頭が一気に覚醒した。横たわっていた身体が、そのままの姿勢でびくりと震える。
 慌てて目を開けた敬一の目の前に、いつの間にか丹波がいて腕組みをして睨み付けていた。
「あ、あ……」
 その怒気についた肘で条件反射的に後ずさりはしたけれど、言い訳をしようにも喉から言葉は出てこない。
 尻尾を巻いたイヌのように、小さくなって震えることしかできない敬一の腕を丹波が掴み、机から引きずり下ろした。
「しっかり解しておけと言ったよなぁ」
 打ち付けた腰の痛みに唸ることも許されず、俯せで上にのしかかられ、その重さに息が詰まった。
「勝手に抜いてやがって。飼い主の言いつけを逆らう馬鹿な奴隷は、まずはお仕置きから、と言いたいところだがな……」
 お仕置き。
 躾け。
 そんな言葉は、敬一に恐怖しか与えない。
 ガクガクと激しく震える身体を押さえつけ、背後から噛みつかれても、痛みよりも恐怖が勝つほどにだ。
「ゆ、ゆるし……て、…さい……」
 ずっと言いつけ通り張り型で解していて、何度も何度も絶頂を味わうほどに、身体を苛め続けていて。
 疲れて休んでいたところに帰ってきたのだと、そんな言い訳など通用しない。
 敬一にできることは這いつくばって謝罪し、少しでも丹波の機嫌を癒やすことだけだ。
 けれど、丹波はそんな敬一を無理に引き上げ、その首に工業用のロープを結わえた。
「飼い主の元に帰ってこずに迎えに来させた上に、言いつけを守らねーんだから、タチが悪いぜ。おら、来い」
 引っ張られ、息が詰まる。
 慌てて小走りで足を動かせば、丹波が部屋を出ようとしていることに気がついて、足が止まった。
 けれど、力の入らない身体はそのまま引っ張られてしまう。
「ど、どこへ……」
 廊下には数少ない非常灯だけが点っていたけれど、こんな姿でうろうろしては気付かれてしまうだろう。
「はぁ、そりゃお仕置きって言ったら、反省するまで家の外、だろ」
「あ、やっ、待ってっ!!」
 全裸のまま外に連れ出そうという意図を知って、さすがに敬一はドアに縋りついた。
「い、入り口も外も、夜になったらっ、カメラがっ。そ、それに、警備員もっ」
 大学で雇っている警備員が、建物内外を定期的に巡回するのを、敬一は知っていた。
 ここはあの家でないぶん人目に付きやすいのだ。
「あーぁ、そっか。そりゃそうか」
 納得したように頷く丹波に、判ってくれたかとほっとしたその時。
「じゃあ、服着ろ。お前の大好きなその張り型を尻に挟んだままな。それで俺についてちゃんと散歩ができたら勝手に休んでいた仕置きは勘弁してやらあ」
「!!」
 向けられたのはたいそう楽しげな笑みだったが、向けられた敬一にしてみれば逆らうことなどできない絶対的な命令でしか無くて。
 顔を歪めた敬一は、けれど結局何も返すことなどできずに、小さく頷いただけだった。



 服は着せられたが、素肌の上にTシャツとジーンだけだった。張り型は目立たぬように限界まで埋め込んではみたものの、入りきらない持ち手部分によって尻に不自然な膨らみができていた。
 首のロープは陰嚢の根元に移動して、そこからジーンズの腰を通って丹波の手へと伸びている。腰紐のようなそれを目立たせないためには、丹波に寄り添うように歩くしか無かったけれど、そんな敬一を気兼ねなどしてくれない。
「ま……てっ………ぅっ、くっ」
 足を動かす度にジーンズの縫い目が張り型を押し上げて、先ほどまでの淫らな遊戯に熟れた肉壁を抉り上げる。それでなくても異物に性的に反応してしまう身体で、そんな刺激を受けては堪らない。
 丹波を待つ間、薬と熱に煽られたそこは、さんざん張り型の刺激を味わっていたけれど、自慰のようなそれとはまた別の角度の刺激が疲れた身体を快楽に酔わせていく。
 刺激に張り詰めた勃起は、きついジーンズの前たてに押されて苦しくて、ガニ股で不自然な動きになる敬一の歩みはひどく遅い。
 大股で歩く丹波からはすぐに遅れを取ってしまい、そのたびにロープを引っ張られ、鍛えようも無い場所に走る痛みが、快楽に浮かれかけけた理性を引き戻した。
 大学の各棟が密集する地域をなんとか出て、丹波が向かったのはすっかり人気がなくなったグラウンドの横の歩道だった。一般道の脇にあるそこは、その先にあるのが住宅地だけで抜け道でもないこともあって、車通りはほとんど無い。それでも十分外灯に照らされたその歩道を歩く姿は、明らかに判る。
 まして、前屈みに足を引きずるように歩く敬一の姿は、いくらその異常な状況を隠そうとしても目立つことこのうえなかった。
 それを、丹波が耳元で囁き、教えてくる。
「尻を振りたくって、男を誘ってんのか? 厭らしい臭いがプンプンするぜ」
「ひぎっ!!」
 尻タブを叩かれて、咄嗟に出そうになった大声を慌てて両手で塞いだけれど。張り型が前立腺のある場所を抉った物だから堪らない。
 頭の中が白く弾けて、震えた膝の力ががくりと抜けた。
 じわりと股間が濡れるのを感じながら地面に膝を付く寸前、ロープを引っ張られて。
「ぐぅぅっ!」
 急所を痛めつけられる痛みに、喉の奥を鳴らしながら丹波の腕に縋り付く。
 締め付けが弛んでほっと息を吐くと同時に、また尻を叩かれて。
「あ、あんっ、や、やめ……、んっ、も、ムリ……ゆるし……て」
 薬の効果は切れていても、熟れた身体はいくらでも快感を拾う。まして、男としての解放を満足に与えられぬ身体は、過去の調教の果てに否応なく貪欲になっていた。
 勃起にまとわりつくジーンズの感触すら、今や甘く敬一を苦しめるのだ。
「はっ、そんな色っぽい目で見て、欲しがってるくせに。嘘付きは罰として、あの木まで走るぞ」
「え? あっ!」
 ムリ、という暇も無く、ロープを強く引っ張られる。
 腕を腰に回されて、二人三脚のように身体を支えられていなければ、動かない足のせいで地面に倒れ伏していただろう。けれど、丹波は何を思ったか敬一の腰を半ば抱えるように走り始めたのだ。
「急げ」
 引きずられるように、ムリに足を動かして走る。とたんに、すぐにその意図に気付いた。
「んぁ、や、まっ……あっ、んあっ、あぁぁっ」
 動きが速くなったせいで、ずんずんと振動が尻の奥に伝わる。星が瞬くかのごとく何度も弾ける意識の中で、自分の耳に届く嬌声を聞いた。
 抱えて前にまわった丹波の指先が、器用に敬一の乳首をTシャツ越しにすり潰し、そこからも全身の力が抜けるように感じてしまう。
 膝の力が入らなくて、足はもうほとんど動いていない。
 けれど、丹波の動きに合わせて身体が前後するから、走っているのと同様だ。
 敬一は、自身が走りながら、達きまくっているのに気付いていた。
 声を塞がなくては、意識を逸らさなければ、と僅かな理性が訴えていたけれど、ヒイヒイと唾を飛ばして喘ぎながら、暴れ回る快感に狂いまくった。
 長いようで短い距離を走りきって、丹波がその足を歩道からグラウンド側へと向けて。
 歩道からすれば数メートルばかり奥に入ったところで、ようやく身体を離されると、転がるように敬一の身体は地に俯せに倒れ伏した。
「うぅっ」
 崩れ落ちた先は生け垣の木々の向こう側だと気付く間も無く、尻に丹波の足が乗る。その爪先が盛り上がった張り型の尻をコツコツと軽く蹴って、その刺激に上がりかけた呻き声は寸前で手のひらで封じ、押しとどめた。
「すげぇよなあ、走りながら達きまくるってどんだけだよ? 道ばたでひいひい大声で喘ぎながら、股間濡らしまくって変態も真っ青な、ど変態ぶり晒してやんの」
 嗤う丹波の言葉が痛い。
 「ひ、くっ……うっ……」
 流れる涙は快楽以上に精神の悲鳴がもたらしたものだ。
 そんな敬一の傍らにかがみ込んで、丹波は笑みを消すこと無く、髪を引っ張り上げ顔を覗き込んでくる。
「さて、こっからは一人だ」
「……えっ」 
「あっちの裏庭に、小屋がある。そこで待ってるぜ」
 指さして、すくっと立ち上がった丹波は、戸惑う敬一に見向きもしなかった。
 そのままスタスタと何事も無かったように去って行く姿に、敬一は立ち上がり追いかけようとしたけれど。
「まっ、待って──んぐっ……うっ」
 足に力が入らないままに、再び崩れ落ちる。
「た、丹波さっ……まって──っ、まっ」
 せめて呼び止めようと、必死に声を上げようとしたその時。
 さあっと辺りに光の筋が走り、叫ぶ寸前で言葉を飲み込んだ。同時にまだ熱に浮かされていた頭も完全に冷える。
 背後の道路に、今まで通らなかった車のヘッドライトの灯りが通り過ぎていったのだ。
 その自分達以外の存在を知って、敬一は座り込んだまま動けなかった。
 車からは見えないだろう。だが、学内は定期的に警備員が見回っている。もし声を出した時に近くにいたら、不審人物として誰何されて。
 思わず見下ろした股間は、僅かに届く外灯の灯りの中でもはっきりと判るほどに変色していた。
 それに、鏡など見なくても、自分がどんなに淫らな表情をしているか、容易に想像できる。こんなに身体が疼くときに、自分がどんな状態かを今までさんざんビデオに取って見せられているからだ。
 そんな姿を見られることを考えるだけで、激しい羞恥と恐怖心が襲ってくる。
 それから逃れるには、少しでも早く丹波が言った小屋に行かなければ。
 いつだって、全ての命令は理不尽で従いたくない物ばかりだけれど、従わなければ今よりもっと状況が悪くなることは判っていて。
 敬一は、力の入らぬ足に必死になって力を込めて、なんとか立ち上がると、二足歩行の割りにはまるで這っているように、動き始めていた。
 



 時間をかけて、重い身体を引きずるようにして辿り着いたのは、敬一自身も来たことも無いような場所だった。
 そのトタンの波板で囲まれた簡素な小屋の中で丹波は居眠りしながら待っていたようで、窺うようにドアを開けた敬一を、あくびを零しながら「遅い」と中にと連れ込んだ。
「んあぁぁ……」
 その拍子に堪えていた喘ぎ声が、もう我慢しなくて良いのだという歓喜とともに零れ出す。
 ぺたりと床に付いた足の間で股間の染みはさらに広がり、Tシャツの胸は飲み込めないままに垂れ流した涎でぐっしょりと濡れていた。
「こ、ここ、は?」
「ポンプ小屋さ。地下水を汲み上げるポンプで、こっからあっちの庭までの埋設管を直すのも今回の工事の一つ。まあ、この辺はもう終わったけどな」
 床のコンクリの一部の色が違う。中央にあるのは大きなポンプで、そこから配管が壁へと伸びて外に出ているようだった。
 もっとも、ポンプを置くだけの小屋だからたいそう狭い。体格の良い丹波と二人だと酷く狭苦しく、暑い。
 しかも、蜘蛛の巣があちこちに張っていて、隅には虫の死骸や枯れ葉が積もっているほどの薄汚れた小屋だ。それに揚水ポンプを雨から守る程度のちゃちな小屋は、天井と壁の間、床と壁の間と、あちらこちらに隙間があり、大きな声が漏れるのは防ぎようも無い。
 こんな隠れていそうで隠れていない場所は、確かに丹波の好きな場所だと、敬一は項垂れた。
「ほら、尻出せ」
「も、……ムリ……おねが……い、休みたい……」
 張り型が入りっぱなしのアナルは、もう感覚が鈍い。
「何言ってんだ。いっつも一晩中遊んでも満足なんかできねぇくらいよがりまくっている変態が、こんな程度でバテる訳ねぇだろ」
 けれど、丹波は一刀のもとに敬一の懇願を斬り捨てて、背後から首筋をねっとりと舐め上げる。
「あ、ぁ……ぁ」
 そんなことで、疲れているはずの身体がぶるりと震えて、新たな涙が流れ落ちた。
「ほれ見ろ。まだまだ満足してねぇんだろ? ああ、それとも外でやりたいのか? 開けっぴろげの芝生のうえってのも開放感があって良いかもな」
 それはそれで愉しそうだ──と、丹波の目線が外に向かうのに気がついて、敬一は慌てて首を振って許しを乞うた。
「い、いい、ご、ごめんなさいっ……ここで、ここでっ」
「そうか、外でやる方が気持ちいいぜ。ここはちょい臭ぇし」
 ポンプのグリースが焼けた臭いなのか、それとも他の臭いなのか、すえた臭いのする場所だけれども。
「良いっ、ここで……ここで……」
 俯いたまま、外に出ようとする丹波の腕に縋り付く。
「ここで?」
 喉で嗤われながらの問いかけに、敬一はふるふると首を振ったけれど、すぐにぎりっと奥歯を噛み締めて小さく言葉を返した。
 言われなくても判ってしまうほどに、彼らの躾は徹底的にこの身に染みついていた。
「ここで、したい……」
 自分から望む言葉に羞恥が肌を染め上げる。
「何、何をしたいって?」
 意地の悪さでは飼い主1のこの男は、笑みを隠すこと無く敬一の前髪を掴んで顔を引き上げる。
 期待に満ちた表情で、さらに敬一の顎を掴み、視線を外すなと言わんばかりに覗き込んで。
「で、敬一くんは何をしたいって、ここで?」
「……俺を……」
 性交とかセックスとか。
 そのものずばりの単語を、丹波は好まない。丹波にとってはこれはセックスではないのだから。もちろん、甘く『して欲しい』とか強請ったとしても、笑い飛ばされるだけだ。
「おか、して、ほし……い……。ケツ、マンコ……を、突き上げて、抉って……」
 何度も言わされた言葉だ。懇願するしかない状況で言わされ続けてきた言葉が、口を吐いて出る。
「ザーメン……溢れるくらいに、注いで──っ」
 敬一の意志などそこには無く、ここにいるのは、彼らが望む性奴隷だ。
 震える手でジーンズのジッパーをずらし、僅かなためらいは、けれどごくりと息と共に飲みこんで。
「丹波さんが満足するまで……俺を……この変態のマンコ穴を使ってくだ、さい」
 濡れて張り付くジーンズを下ろした。


「へえ……お前、こんなとこで突っ込んで欲しいのか、あいかわらず、やーらしー穴で誘ってよ。パックパック物欲しそうに広げて」
 背後からかけられた丹波の言葉と突き刺さるような視線に、きつく奥歯を噛み締める。
 落とした視線の先は、土埃とゴミ、そして油の浸みたコンクリの床だ。こんなところで犯されるのならば、まだ実験室の中での方が良かった。ここだと、ほんとうに自分の存在が塵芥のように感じてしまうから。
「そんなに欲しいのか?」
 丹波の声は大きい。その声を抑えもせずに、いや、普段よりも大きな声は、まるで誰かに聞かせるようだ。だけど、声を抑えてくれと頼んでも、無視されるどころかさらに大きくなるのは判っていた。
 だから、きつく口を紡ぎ、丹波の楽しみを邪魔しないようにする事だけを望む。
「は、い……そのおっきな、チンポが欲しい……」
「おっ、またひくつきやがった」
 じっと覗き込みながら、つんつんと尻を突かれる。
「まあ、使ってやっても良いけどなぁ。その前にまずは尻を洗えよ。朝も浣腸して、薬はもう切れてるだろうけどよ。それでも俺のチンポが痒くなったら困るしな」
 今朝までの飼い主は加藤だったからの言葉だ。彼はとにかく敬一の排泄シーンを見るのが好きで、飼い主で無い日も請われれば悦んで浣腸役を引き受ける位なのだ。
 もう慣れた行為に、敬一が奥歯を噛みしめながら窺うと、丹波が持ち上げたのは、薄汚いホースだった。購入から何年も経っているのか、薄いブルーの地がくすんでひび割れだらけのうえに泥だらけだ。
 ずるっと引っ張る音を目で追うと、丹波の手がきゅっと何かを捻っていた。とたんに、ホースの先から溢れ出すのは赤茶けた水だ。床に落ち、埃やゴミを浮かび上がらせて隙間から外に出て行く。その落ちる水が近づいてくる。
「な、まさか……」
 思わず吐きだした尻を引っ込めようとした寸前に、尻タブを強く掴まれた。
「昨日出したのに、また赤さびが出やがったが……ああ、キレイになってきた」
 先より透明度を増した水が、ビチャビチャと床に跳ねる。
「い、いやっ、だっ」
 堪らずに尻を庇うように丹波に向き直って、背後の壁に貼り付く。
「なんでさ、風呂でいっつもやってることだろうが」
「あ、あれとは違うっ、そんなホースなんて……」
 違うと言いながら、何が違うとは自分でも思う。けれど、確かに違う物だとも思って、大きく首を振って拒絶する。
「尻を出せよ」
「ひっ!」
 けれど、薄ら笑いを浮かべた丹波の腕が、呆気なく敬一の身体を回転させて、壁に押しつけた。
 逃れようと身を捩る前に、冷ややかな声が背筋を凍らせる。
「尻付きださねぇと、ジーンズが濡れるぜ」
「あ、ま、待って」
 着替えなど持っていなくて、けれど、脱ぐ時間も無い。
 慌てて尻を突き出せば、とたんに狭間に水がかかって。
「ひっ、うぁっ」
 丸みのある感触は、水圧のせいだったのだろう。度重なる陵辱に柔らかくなっているアナルが押し広げられる。慣れた違和感と苦痛に、ぐっと息が詰まる。
 思った以上の冷たさに、ぞくぞくとした悪寒が背筋を走り抜け、苦しさに息を飲んで耐えた。
「こんなもんか」
 洗浄だけで良いと踏んだのか、少ない量で止められたそれにほっと安堵したのもつかの間、いつもより早く腹痛が襲ってきた。
「い、痛っ、出した、いっ」
「出していいが……外でな」
 言葉とともにきいっとさび付いたドアが開いた。
 暗いところにいたせいか、遠くの街灯が眩しいほどに目を射る。けれど、敬一は、呆然と丹波を見上げて、つかの間痛みを忘れた。
「外……」
「中で出したら、くせえだろ」
 当然のことだと言われて指で促されて、視線が丹波と緑溢れる外とをさまよった。
 けれど、ためらいは僅かだ。グルグルと腹を鳴ると同時に激しい腹痛を思い出す。
 そして今、敬一にできることは、丹波の言葉に従うことだけだった。
「あ、んっ、くっ」
 うずくまったまま、片手でジーンズがずれないように掴み、這うようにして外に向かう。
 狭い小屋のこと、数歩進めば外。
「その木の下で全部出してこい」
 もうそれに返事をする気力もなく、2メートル先の木に向かう。
 小屋から少し外れたそこは、あの棟の端からも見えるだろうけれど。
「あ、んあぁぁぁぁっ」
 冷たくなければ耐えられたかも知れないそれが、破裂音と共に吹き出したのはすぐだった。



 小屋に戻った敬一を、丹波は待ちくたびれたとでもいうように、引き倒してジーンズを引き剥がした。
「ひっ、い、痛っ!」
 ひっかかったせいで足首が妙な方向に捻られた。その悲鳴すら無視されて、大きな身体がのしかかってくる。
 咄嗟に押しのけようとしてもびくりともしない身体は、そのまま拡げられた足の間に入り込んできて。
「ちょ、ちょ、待っ────ぎゃあああぁ────っ!!」
 熱杭が音を立てて肉を引き裂いていく。皮膚が引っ張られ、括約筋が中に引きずり込まれる。
「あ──、あぁぁっ──あぁ!!」
 声を抑えることなど考えられなかった。限界まで開いた口から悲鳴が迸る。
 丹波のペニスは太い。さっきまで入っていた張り型より一回りは大きい。普段でもなかなか慣れないというのに、それをならしもせずに突っ込まれて、下手にその大きさがもたらす苦痛を知っているからこそに、恐怖に泣き叫ぶ。
「おいおい、強姦されたような声を出すんじゃねぇよ。さんざんぱら張り型咥えて遊んでたくせによ」
 嗤う吐息が、耳を擽る。
「お前が欲しいっていうから、入れてやってんのに、ぎゃあはねえだろう?」
「ひっ、だ、だからって、ひぐっ」
 もとより欲しがった訳ではないけれど。だからと言って、いきなりは無いだろうと、痛みに霞む脳が訴える。
 けれど、大柄な丹波がのしかかってくると、大きく割り開いた足はさらに拡げられ、腰は折り畳まれて、深く丹波を受け入れてしまう。
 痛いのに、絡みついた粘膜は、それが与える壮絶な刺激を思い出したのか、はっきりとその形を伝えてきた。
 大きくて熱くて硬い。
 今身体の中にあるそれに、敬一は絶望に涙を流している当のに、身体だけが歓喜し、ひくついていた。
「ほおら、飲みこんだ。どうせ切れてやしねえし」
 その言葉の通り、敬一のアナルは伸びきってはいたけれど、どこも切れてはいない。
「あ、で、も……痛……い」
 引きつれた皮膚が引っ張られる痛みが、ぴりぴりと伝わってくる。
 このまま抽挿されるのはきついのも知っていて、敬一は丹波の腕に縋り付いた。
「……濡らす、から……」
 止めろと言っても効かないのは判っていた。だったら少しでも楽になりたくて、震える手を口元に持ってくる。吐き出す唾液はたいした量ではないけれど、それでも指先にまとわりつかせて、アナルへと持っていく。
 豊かな茂みの中にある硬い肉棒に、指先が触れた。脈打つペニスを銜え込んでぎちぎちに伸びたアナルの感触もまた同時に感じて。
 確かに銜え込んでいる様子を指先で感じながら、敬一は涙を流す。
「さっさとやれよ、欲しいんだろ?」
「あ、んぁ、ま、待って」
 僅かに引き抜かれ、戻される。。
 その隙間に唾液を擦り付けて、足りないとねまた口に指を運んで。
 忙しくそれを繰り返して、無いよりはマシ程度に濡らしたのも束の間。
「タイムリミットだな」
「あ、やぁぁっ、ああっ、ひぃぁっ!!」
 不意に引きずり出されたそれが、奥深くを抉ってくる。
 その衝撃にびくんと背筋が仰け反り、両目も口も開ききって、舌がだらりと零れ出た。
「あ、ぁっ、あっ、はあっ」
 パンパンと肌を打つ音に合わせて嬌声が迸る。
「やらしい身体は達きまくってんのか、もう」
 愉しげに喋る丹波の言葉通り、敬一は最初から絶頂を迎えていた。
 それほどまでに丹波のペニスは敬一の中を押し広げ、前立腺がある壁を薄くしてしまっているのだ。
 まるで直接嬲られているかのように、刺激されてはもう敬一は逃れられない快楽の渦に巻き込まれるしか無かった。
 けれど、そのペニスは陰嚢もろとも拘束されていて、射精のための動きができないようになっていた。そのせいで、張り詰めた重い陰嚢が揺れてはいても、せいぜいが先走りの液が溢れるだけだ。
「あ、あぁ、達、イかせてぇぇっ、ひああぁ、ああっ」
「ひひっ、やっぱ、お前の中は極上品だぜっ。絡みついて放さねぇぜ」
 すぐに始まった懇願は、完全に無視されて、足首を掴まれ頭の上へと押し上げられて。
 深く飲み込んだペニスの責め苦に、泣きながら乾いた絶頂を味わい続ける。
 それが、一晩中続くことは判ってはいたけれど。
 もうすでに今が一体何時なのか、後何時間あるのか、すでに敬一の頭の中には残っていなかった。



 丹波の体力は、敬一の比ではない。
 それでなくても夏ばて気味の敬一と、体力仕事をこなしている丹波では比較にならないほど、丹波の方が強い。
 しかも、丹波はそんな敬一に頓着しなくて、だからこそ敬一への陵辱はいつも長く行われる。
 今日とて、一晩遊んだ後は多少満足したのか、早朝には一区切りをつけて休憩に入っていた。けれどそれも、丹波の昼休憩が始まるまでのことだ。
 その間、敬一は全裸のままこのポンプ小屋に縛り連れられて放置された。
 もとより動く気力も無く、体内の洗浄だと再度水道水で浣腸された後は、コンコンと深い眠りについて、丹波に起こされて始めて昼だと気がついたほどだった。
 そんなまだ朦朧とした敬一に、丹波が背後からのしかかるようにして、元気なペニスを挿入する。
「ひあっ、んあぁぁ」
「へぇ、熱いぜ、お前のマンコ。へへ、俺のこのデカマラを期待して待ってくれてたのか?」
「んっ、あっ……はあっ、ああっ」
 もう何を言われても喘ぐことしかできない。
 朝には浣腸の我慢すらできないほどにアナルの感覚は遠かったけれど、それでも僅かな休憩で少しは元に戻ったのだろう。熱杭に裂かれる苦痛を感じるほどに、快感も確かに感じてしまう。
 けれど、意識はどこか遠かった。
 喘ぎ声もただ押し出されるように出ていくだけだ。
 それでなくても室温の上がりやすい小さな小屋に換気設備など望むべくも無く、獣のように盛る二人分の熱気も相まって蒸し暑さはすでに尋常では無くなっいた。
 その暑さだけでも、今の敬一の気力も体力も確実に奪っていく。
「あ、ぁっ、ぐぁ……ぁ、も、ダメぇっ、むりぃ……んくぅっ!」
 グプッと激しい音を立てて長大なそれに最奥まで貫かれて、俯せで腰を上げた姿勢のままに背がぴくんと大きく跳ね上がり、硬直する。骨はそのまま動かないのに、ぞわぞわと這い上がる快感は止まらずに、指先にまで広がって。
 ふいに、全身がガクガクと大きく痙攣して、衝撃に飲み込んだ空気が喉から苦し気に長く溢れ出た。
 白濁交じりの粘着質な液体が、敬一の鈴口から僅かに溢れ、つうっと糸を引いて落ちていく。
「無理って、どこがだよぉ、また達きやがったくせに」
 背に落ちる嘲笑が、それと判る程度にしかもう働かない脳を擦り抜けていき。
 悶えるような快感の中で消えていった。
 支えていた腕かに力が抜けて崩れた上半身は、丹波によってを掬い上げられ、動けとばかりに捕まれた腰を揺さぶられて。
「あ、んあぁ、……やめ……てぇ……ああっ」
 知らず零す堪えきれない喘ぎ声がさらに淫らな疼きをもたらして、足掻くように首を振った。
 すでに全身は汗だけでない体液にまみれ、それに埃と砂、枯れた落ち葉のカケラまで張り付いて、見るも無惨な有様だ。そんな敬一はすでに与えられる刺激に反射的に反応するだけとなっていたが、それでも丹波は止めるどころか悦んで、さらに激しく揺さぶってきた。
「だめぇっ……も、くるし……やめっ…はっ、あっ…あぁ」
 もうアナルの感覚が遠い。
 極太のペニスに貫かれて、柔軟なはずの肉壁は痛みを覚えるほどに限界まで引き延ばさた状態で、擦られ続けてきたのだ。それでも抽挿のおりに僅かにできた隙間から、泡立った白濁がたらりだらりと滴を垂らして落ちていき、埃の積もったコンクリの床に淫らなシミを作っていく。
 一晩では満足しなかったのだろう、丹波はさらに激しく──嬉々として敬一を苛み、苦鳴を聞きながら、心身ともに汚し、壊すことを楽しんでいる。
 あの家に棲まう敬一の飼い主達の中で、もっともあからさまな嗜虐性を出すのが丹波なのだ。
 けれど。
 どんなに苦しくても、まだ身体は与えられる刺激を快感として取り込んでしまう。奥深く、常ならば誰も触れ得ぬ場所にある快楽の泉は、繰り返される調教の果てにひどく敏感になっていて、そんな場所を抉るように抽挿する巨根のカリが掻き乱し、暴発するがごとく快感が全身へと飛散する。
「あひっ……いあ──ぁ──っ、ひぃぁぁぁっ、あぁっ、んあ、だめぇっ、あんん、くふっ」
 興奮した獣のように意味不明な呻き声を抽挿のリズムに乗って上げ続けているのは、もう完全に無意識だった。
 そんな敬一の腰を掴む背後の丹波がニヤリとほくそ笑みながらぐいぐいと腰を強く押しつけてきた。
「ひうっ!」
 尻タブに食い込んむ指が与える痛みより強い快感が走り抜ける。
 身体がまたもや大きく痙攣し、押し出されるように零れていた吐息が止まり、断末魔のように目が見開かれた。
「へへっ、まだまだちゃぁんと締め付けて美味しそうに飲み込んでやがる、ぜ」
 そのまま深く貫かれている間ずっと、敬一の身体も硬直し続けていた。


「ふうっ」
 丹波が大きく息を吐いて尻に食い込んでいた指を緩めたのはそれから1分ばかり経ってからだった。
 支えを失った敬一の身体がずるりと床へと崩れ落ちる。すでに身体を支えるだけの体力も気力も、今の敬一には残っていなかった。
 もとより、丹波の極太のペニスは、敬一にとっては凶器にも等しい。
 今日に限らず、彼に犯された翌日はいつだって股関節がギシギシと悲鳴を上げ、次の日に椅子に座るのも一苦労だし、いつまでも尻に何かがはさまっている感覚が抜けなないほどだ。
「まだ、足りねぇなぁ、こっちは。お前のマンコだって、まだまだ元気じゃねぇか」
「んぐぅ──っ!」
 抱え上げられ身体がふわりと揺らぐ。と、次の瞬間、がつん、と骨が音が立つほどに腰から落とされた。
 いわゆる背面座位の態勢で、再び持ち上げられて。
「やあっ、あぁぁ」
 押し出されるように悲鳴が溢れた。
 押し広げられた肉が、強く激しく擦られる。
 泡立つほどに粘液で濡れた穴から、滴が飛ぶほどに激しい抽挿は丹波の腕力があってこそだろう。もはや力の入らぬ敬一の腕は衝撃でぶらぶらと揺れるだけだったし、足にも全く力が入っていなかった。
 けれど、こんなになっても渦巻く快感は胎内で暴れていて、明らかに悲鳴なのに、どこか甘く強請るように響いていた。
 すでに敬一の瞳は焦点など合っておらず、涙も途切れたのか、その瞳は乾いているようにも見えた。
 その瞳もすぐに力無く閉じられる。
 小さく何かの音が響いたのは、その時だ。
「ああ、もう昼休憩は終わりかぁ」
 忌々しげに零した丹波の舌打ちを敬一は聞こえていなかった。
 ぐらりと傾いだ身体が床に落とされて、頬がコンクリの砂に擦れた痛みも気がつかず。
「んぁ……」
 太いペニスを引きずり出される感覚に、悪寒に似た衝動に堪らずに身動いだのも無意識だ。
 その動きにつられたように、尻穴から収縮の度に新たな精液交じりの粘液が噴きだす。
 そんな敬一の背後で、大きな音を立てて地下水の汲み上げポンプが動き出した。
 その配管に寄りかかるように涼を取る丹波が忌々しげに呟く。
「あっちーな、くそっ」
 立ち上がった丹波が、すでに布きれでしかない敬一のTシャツで己のペニスを拭い、脱いでいたつなぎの作業着のズボンをズリ上げてボタンを留めた。まだ剥き出しの上半身を傍らのパイプに引っ掛けておいたタオルを取って拭い、大きく息を吐く。
 暑いのは道理で、このポンプ小屋は研究棟の裏にあるとはいえ、外にある設備だった。トタンの波板の熱せられた屋根から伝わる熱気も伝わり、屋根と壁、床の間の僅かな隙間ではほとんど中と入れ替わらない。
 地下水が通る配管以外の涼といえば、不定期に地下水を汲み上げる揚水ポンプが動いた時に、配管の継ぎ目から僅かに漏れる噴霧のような水だったけれど、それすらもこの気温では焼け石に水で、蒸し暑さを助長させるだけだった。
「……ほら、水だ」
「んっ……」
 顔に落ちる生温い刺激に敬一が僅かに身動ぎ、無意識のうちにその口が開いて、顔の上を流れる水をごくりごくりと飲み込んでいく。
 飲ませるというより浴びせている水の大半は床へと零れ落ちて、舌が名残惜しげに唇周りの水滴を舐めとっていく。
 その水が敬一の理性を僅かばかり取り戻させたのか、僅かに覗いた瞳が小さく揺らいだ。
「た……んば、さん……」
 掠れた声音がかろうじて届く。
「ああ、時期間切れだよ、せっかく愉しんでんのによぉ。でもまあ……」
 諦めを意味する言葉とは裏腹に、妙に嬉々溢れたその声音に、さらに意識が引きずられ、それを理解するより先に全身が恐怖に総毛立つ。
「まっ、今晩のお楽しみのために、準備だけはしとかんとなぁ」
 狭い視界から丹波の姿が消え、ガサガサと何かを探る音に、カキンと固い何かが当たる音が重なり、それらの音が敬一の朦朧としていた意識を覚醒させた。
 それは、今までの経験から身体が危険信号を出したせいだろう。
 逃げなければ、とただそれだけを思うのに、それでも身体は思うようには動かない。
 じりっと指先が埃を削り取り、力無い足がずるりと動く。とたんに忘れていた痛みを思い出した。この小屋に連れてこられて衣服を脱がされたときに、無理に捻ったせいか、足首を痛めていたのだ。
「や………」
「へへ、お前も楽しめるようにいろいろと考えたんたぜ」
「……や、め……」
 制止の言葉が喉につかえて出てこない。
 何を言っても無駄だなことだと震える舌が動かなくなって、代わりに入り込んだ砂がじゃりと音を立てた。涸れたはずの涙の代わりに、さっきの水が髪から滴り墜ちて、頬に新たな筋を作っていた。
 



「あ、ああ……ああ」
 声は掠れて、小さく、ひどく弱々しく零れた。敬一自身、声を出していることすら自覚していない。
 この小屋のもともとの主であるポンプが稼働したとたんに漏れたそれは、すぐに途絶えていたけれど。
 しばらくして、ポンプが動き出したとたんに、また零れていった。
 ポンプは地下水貯蔵タンクの水位が下がれば動いて、満水になれば止まるようになっていた。ひとたび動けば、その鎧のような金属の外郭でもって、ハイパワーの名にふさわしい強さで空気すら振動させた。
 その振動が、敬一を襲う。
「ん、ひぃぃぃ……」
 掠れた悲鳴でしかないそれを、聞き取れる者はいないだろう。あまりにも小さく、隙間だらけの壁すら通さない。
 もう身じろぎ一つしないままに、もう何度もそうやって敬一は啼くだけだ。
 丹波の姿が無いことも、自分が何故ここにいるのかも、どうしてこんなふうに呻いているのかも、判らなくなっていた。
 何かを考える力などすっかり潰えていて、外部からの刺激に無意識のうちに反応するだけだ。
 昼休憩の時間に、丹波に犯されたままに全裸で汚れたままの身体を俯せにされ、床の上で首を捻り、膝を折り曲げて尻の下に足を置いて。
 不自由な格好であることすら、自覚できていない。 
 太い肉棒の代わりに直径が3cmばかりの鉄パイプがアナルに突き刺さっていることすらもだ。
 丹波が去るときに残していった置き土産は、ポンプの外壁と接触していて、その振動を確実に敬一の体内へと伝えていた。
『淫乱敬一専用の全自動バイブだぜ、俺がいない間たっぷりと楽しみな』
 そんな言葉と共に押さえつけられ、固定された時の恐怖は、ポンプが動けば嬌声に消えていったのだ。
 何度も何度も、上げ続けた声は、そのたびに小さくなっていった。
 もう快感など無く、ただ喉が渇いて、身体が熱くて動くのが辛く、そのせいで余計に動くことができない。
 時折見えた視界は狭く、今自分が何をしているのかさえ判らない。
 ただ、熱くて、怠くて、息苦しくて。
 なんだか気持ち悪いと感じたときにはえづくような咳がでたけれど、唾の一つも出てこずに、苦しいだけだった。
 それもすぐに何も感じなくなって。
「ああ……ぁぁ…………ぅ……ぅ……」
 ただ、暗闇に引きずり込まれるその寸前、その闇の中に日の光が入り込んだような気がしたけれど。
 敬一が何かを感じたのは、それだけだった。