SSS:プレゼント(千里と中井)

SSS:プレゼント(千里と中井)

 隠れ鬼の書庫の「鳴神」(DO-JYO-JI)の脇役、S気質千里とM気質中井のクリスマス前の会話から。
 なんだかんだ言っても甘甘な二人なので、甘いのが苦手な方はご注意を。
 (SSS:特別小話の意味ですm(__)m)




「中井くん、プレゼントは何が良いですか?」
 いきなりの千里の言葉に、中井の漫画をめくっていた手が止まった。
 その瞬間はまだ頭が理解していなかったけれど、一瞬遅れて理解した言葉の意味に、振り向く首がやけに鈍い音を立てているような気がする。
「……プレゼント……って?」
「そう、もうすぐクリスマスだから」
 にこやかな笑みを向ける千里の手の中に、赤と緑に金の混ざった写真のページの雑誌があって。
「いつもは私が選んでいたから、今年は中井くんの好きなモノを、って思って」
 にこりと微笑むその笑顔は、何の邪気も感じられないものだったけれど、中井の背筋にぞくりと悪寒が走った。
「あ、いや……その……」
 要らない、というのは簡単だ。
 だが、そんな言葉一つで止めてくれるような人では無いことは、この身に染みついて判っている。
 だからといって、何を要求すればこの場が、そしてクリスマスイブの夜から次の日のまでが無事に過ごせるかが思いつかない。
 言葉を無くした中井から視線を外した千里が、ぱらりとページをめくる。
 クリスマスのプレゼント特集なのか、ちらりと見えたそれは女性を飾ってこそ映えるアクセサリー。
「去年はアクセサリーで……」
 言われて思い出す。
 純白の包装紙にゴールドのリボンに包まれて渡されたそれは、精巧な細工のプラチナのピアスで、今でも中井を飾っている。
 気にならないときにはまったく存在を忘れてしまえるのに、その存在を意識したとたん、ちりりとした刺激を感じてしまう。
 同時に、それを初めて着けられたときの記憶まで甦ってしまった。
 今はページをめくる千里の手が。
 触れて……痛みが、走って……。
 記憶が、視線を固定する。
 あの指が、あの手が。
 視線の先で、その手が、不意に数ページを一気にめくった。
 それは、テディベアなどのぬいぐるみや精巧なレプリカなどの大人が好む玩具ばかり。
「その前は玩具で」
 千里の静かな言葉に、意識すらしないうちに記憶が引きずり出されていく。
 あのプレゼントは——メタリックな赤色の袋に緑のリボンで口を縛っていたそれは、その夜だけでなく、何度も何度も中井を、それ以上に千里を、ある意味愉しませていることは間違いない。
 他にもいろいろと。
 千里はきっとプレゼントをすることが好きなのだろう。
 クリスマスに限らずいろいろなイベントごとで中井に与える様々なものは、中井の部屋にたくさんある。
 そう、本当にたくさん。
 アクセサリーも玩具も服も、すべてが千里の手で渡されて——そして。
「プレゼント、今年は何が良いですか?」
 笑みを履いたまま、ちらりと向けた瞳に浮かぶ愉しそうな色に、中井は堪らずに視線を逸らした。
 プレゼント——と言われただけで、ぞくりと身体の奥が疼く。
 口の中に勝手に唾液が溢れて、喉がごくりと動いた。
「……な、んで…も……」
 要らないと答えようとした唇が震えて、意思とは違う言葉が紡ぎ出された。
 それを止めようとして下唇を噛むと、とたんに目の奥が熱くなる。
 潤んだ視界の片隅で揺れた緑色が、床に落ちていく。
「どうしたんです? 顔が赤いですよ」
 近づく声に、ぴくりと身体が震えた。
「イヤらしい子、何を想像しているんです?」
 熱い頬に冷たい手が触れる。
 促されるままに顔を上げさせられて、思った以上に近くで香った千里の臭いに、くらりと視界が揺れた。
「ほんとうに中井くんは、淫乱で……だから選べないんですよ」
 首筋を降りた冷たさが、首に掛かるチェーンを引きずり出して。
 シャラリと擦れる音ともに、チリッと胸の先が小さく痛んだ。
「んくっ……」
 引っ張られた痛みに、ずくんとあらぬところが激しく疼く。
 膝がすり寄り、人前で触れぬことなど適わずはずの場所に力が入る。
「あなたは、何でも悦ぶから」
「あっ、痛……ああっ」
 チェーンがさらに引っ張り上げられて、痛みが強くなった。なのに、身体の奥の熱がマグマのように噴き上げて、身体の中を満たしていく。
「だから……愉しい」
 血流の音が鼓膜に響く中で聞こえた言葉に。
 潤んだ視界の先で見て取った千里の面に浮かぶ明らかな嗜虐の色に。
「せ、んり……」
 うっとりと微笑んでしまう自分は、もうきっと壊れている。
 蛇ににらまれて竦むどころか、屠られることに歓喜しているのだから。
 中井の奥で鳴っている危険信号ははるかに遠くて、届かない。
 平常心に戻れば後悔することも判っているのに、止まらない。
「もっと、虐めて……犯せ、よ……」
 零れ、強請る声音の甘さに、千里が否を唱えるはずもない。それどころか、千里はいつだって。
「ええ、満足するまで……愛してあげますよ」
 中井に、足りない、と言わせたことなどない。
 そして。
「ほんとうに……可愛いですね、あなたは」
 くすりと満足げに口角を上げる千里の目論見もまた、未だかつて外れたことは一度もなかったのも、また事実だった。
 
【了】