BL/ML鬼畜小説
【蜜と果実と種子】

【蜜と果実と種子】

今回の研究員は、少々お調子者になります。
親子、薬系 

成果報告書ファイル No.S-004 【蜜と果実と種子】

 リソール王国に広がる広大な手つかずの自然の中に、ジュリオル医薬毒生物研究所は存在した。
 管轄するその研究所は発見された新しい生物が持つ有効性を研究し、役立つ物質の抽出や改良を行っている。
 また、その研究所の隣には他国からも犯罪者を受け入れている刑務所があり、厳重な警戒態勢が敷かれていた。この研究書と刑務所の経営団体は同一であり、互いに必要なものを融通し合っているのは公然の秘密でもある。
 そんな研究所の一角にある研究室で、ある植物から女性ホルモンの一種と酷似した物質を抽出して改良せんと、某研究員がいつものように実験にいそしんでいた。
 抽出するのは花から取れる蜜で、これは少量でも効果が高く、ホルモンバランスの崩れた更年期世代へ投与することにより、男女区別なく若返りに近い様々な効果があることが判明している。
 この効能であれば、特に老いを気にする世代には受けが良い薬になるはずなので、販売が可能になれば、この研究所のみならず主任研究員である彼にも莫大な利益をもたらすはず。 だからこそ、彼のやる気は最高潮――であるはずなのだが。
 今、彼は困惑の度を深めていた。
 現在は、実験投与した被検体のNo.G-285の変化を観察しながら、日々蜜の改良に努めてはいるところではあるのだが。
 実際にこの蜜は、その他のホルモン剤と比較しても機能的には非常に優れている。だから、問題点の改良さえできれば成功と言えるのだが。
 実験室と大きなガラス越しで区切られた向こうにある観察室には、その蜜を1カ月服用した被検体がいた。
 隣国のスラム街で路上生活をしていた被験体No.G-285は、強盗殺人未遂で治安部隊に捕らえられ、隣の刑務所に送られてきた。禁固何十年か、生きて出られないだろう刑期を軽くするために、研究所での被検体に応募したらしいが。
 年齢は45。服役当時の写真を見れば、年以上に老けて見える。生気を失った表情のせいだけではないだろう。深く刻まれた多くのシワに、日に焼けて染みだらけの肌。肌質も写真でもざらついているのが分かるほどで、白髪の多い髪はごわごわ。
 連れてこられた時に、一目見て「老体かよ」と思わずと言ってしまったら、アレと同世代の年輩に睨まれたものだが。
 確かに直接見ても、決してその年代には見えなかった。
 だが今、ガラスの向こうにいるのは、肌の張りも良い、青年と言っても良いぐらいに若々しい相貌。茶褐色の肌はシワも染みも何も消え、髪の色すら元に戻って、今は濃い茶色の髪が艶やかに肩まで伸びていた。

「あれだったら、先輩より若いよなあ」

と、独りごちたら、これまた先輩に聞かれて睨まれたのはつい先日。
 それほどまでの若返りを見せたあの被検体、G-285は、確かに蜜に効果があることの証明だ。
 過去の被検体のビフォーアフターの写真が同一人物に思えないほどで、加工したんじゃないかと知らない人には疑われたほどだ。まあ、実験データを見せたら、その目が怖いほどにぎらついて、両肩を痛いほどに掴まれて、絶対に成功させろと脅しをかけられてしまったが。
 ということで、金目当てだけでなく成功しなければならなくなったこの実験。
 だが、どうしても蜜の副作用が消えない。
 この蜜は、服用を続けているうちに、その蜜に対する常習性が出てしまう。というか、その蜜以外に食欲が湧かなくなってしまう。
 初期の頃、原液を飲ませた被検体は2日で他の食事を摂ろうとしなくなり、中止後1カ月でようやく他の物を食べるようになった始末。ただその分、若返りの効果も高かったが、これでは薬にならない。
 それから改良を重ねて常習性がなくなるようにしてきたのだが、今回は常習性が出ない期間が2週間と延びたものの、それを越えたらまた他の食べ物を食べなくなってしまった。
 2週間でも良い結果は出るから期間を切って服用するようにしたら良いとはいえ、体重、体質その他で、それが短くなる可能性もある。それに、改良したせいか効果がやはり落ちてしまっているから、若さを羨望する人が2週間で満足するかどうかは――難しいだろう。

「絶対、飲み続けて、蜜狂いになるのが見えているよなあ」

 せめて1カ月は副作用が出ないこと。
 2週間の服用で十分な効果を出すこと。

「いや、無理だな、これじゃ」

 最低限の基準をクリアできていない。
 判明した時点で、以後の実験を中止する話も出たが、この後がどうなるかの確認も必要ということで、1カ月続けていく予定だったのだが。 

「まさかなあ、果実のほうにこんな効果があるとは。これって、別の意味でヤバくね」

 右手に持ったガラスの試験管に入った琥珀色の粘性の高い蜜と、左手に持った拳より大きな丸みを帯びたひし形の果実を眺めながら、彼は首をむうと唸った。
 試験管を灯りに透かしてみれば、中に小さな粒子が見える。きらめくそれは、この蜜を採取する際に入った花粉だ。蜜と花粉を同時に服用するほうが効果は高いが、副作用も強くなる。今、手に持っているのは改良前の一番効果の高いものだ。
 この蜜の持つ濃厚な匂いが虫を引き寄せ、蜜を採取させ花粉を運ぶ。その後、虫は別の花に向かい、めしべに花粉を付着させ受粉する。その際に、粘性の高い蜜もまためしべにつき、成長促進を促す栄養としても使われることが分かっていた。
 次代に繋ぐための蜜だからこそ、若返りの効果があるのだろうけれど。
 だからと言って、飢えた獣のように理性を失われては毒と同じだ。ましてや、この薬を使用するだろう人は、富裕層、支配層の人たちのはず。そんな人達を蜜狂いにして、彼らの家族や、それどころか政府に恨まれてはかなわない。研究所のスポンサーに逃げられたら、好きな研究もできないではないか。
 ただ蜜ばかりを欲するようになっても栄養価が非常に高いから、病気持ちでなければ、あの被検体のように健康にはなる。ただ、蜜だけでいつまで保つかなという問題もあるし。
 正直、蜜も結構な貴重なので、量は与えられない。
 もう実験は中止して、無理やり点滴でもするかとか、そんなことを考えていた時、ふと思い立って、その花の果実を目の前に置いてみた。
 これの果実も、蜜ほどではないが果汁や果肉が似たような匂いもする。もしかすると蜜と間違えて食べないかなあと、そんな軽い気持ちだった。
 それは完全なる戯れだったし、期待などしていなかった。ただ、効果があまりないから、実験材料としては余りぎみだというだけで。
 そうしたら。
 なんと被検体は、蜜以上にその果実に執着してしまったという現状。
 いや、そこでそっちに執着するのかという疑問と、蜜から離れてくれて嬉しいというか、いろいろな感情が絡み合う。

「実験計画が狂うー」

 惑ううちに、被検体の動態もまた前と違ってくる。
 大きい果実だから1日一つもやれば満足してくれる。それはいい、コスパもいい。花の蜜10個分より、はるかにいい。
 けれども、あれは何だ、何しているんだ?
 被検体のG-285は、果実を食べ終わりと、中央にある親指の先ぐらいの丸い種子をまじまじと眺めて、にたあっと笑った。まるで、子どもが宝物を手にした時のように。
 一つの果実にあった5個の種子を大事に手の上に並べて、ずいぶんとまじまじと見ていると、研究員が観察していると。
 被検体がおもむろにそれを一つ指先で摘まんで、自身の体内に入れてしまったのだ。
 体内――口ではない。なんと、肛門から中に。
 あれは観察していた研究員も、驚いて椅子から落ちかけた。目が離せない先で、尻の狭間から指先で押し込む姿を見てとって、口があんぐりと開いたままになった。
 果実を食べるまで、蜜を目にしないとずっと朦朧と何もしなかった被検体の驚くべき行動が信じられなくて、その後何度も撮影した映像を確認したほどに。

「まさかねえ、よりによって尻の穴に入れる? あれは一体何なんだろう。確認のために取り出そうとしたら、暴れまくるし。一日ごとに取り出してみたけど、別になんともないし。というか、いろいろ確認しても普通の種の構造しかしていないし……」

 外殻になる種皮、栄養となる胚乳、発芽する胚。この三要素はしっかりあったし、それ以外の何物でもない。まあ、胚から発生するのがどういうものかは、まだはっきり確認はできていないということだが。
 人工栽培のために種子から成長させる実験も始まってはいるらしいが、それは別の研究チームが行っている。まだ情報がアップデートされていないということは、大した進展もないのだろうと思っている。
 だが、ああやって取り込んでしまうということは、何かがあるということで。

「実験内容の変更……。確認項目が増えちゃったけど、しょうがないかあ。うーん、でもどうしようか」

 とりあえずは被検体の中から定期的に取りだして、変化を確認するかと、スケジュールを変更していった。


【被験体G-285 経過報告】

・投与後14日で蜜以外を口にしなくなり、20日目に果実を与えたところ果実以外を摂取しなくなった。
・種子を体内に入れて48時間後から、自慰を行うようになった。果汁を身体に塗り、自身の陰茎を弄り、肛門を見せびらかすように尻をつかんで広げてみせる。特に研究員の姿が見えると行う傾向がある。バイタルは発情を確認。
・30日経過。最近の動態は変わらず。種は20個入っていると思われる。1日ごとに1個を取りだして確認しているが、種子に変化は見られない。種子の回収を被検体が拒絶するため、麻酔を実施。観察後、再び体内に戻している。
・蜜摂取時に理性の消失が見られたが、果実を摂取後はこちらの言葉を聞き取る様子も見える。果実がもらう方法を学習している。
・目の前に果実があると、従順に命令に従う傾向がある。例えば、実が欲しいなら、食虫植物に腕を銜えさせてみろという命令に、素直に従おうとした。
(肉食の食虫植物にためらいもなく腕を入れようとしたことにより、生存本能より食欲が勝っているように思えた。なお、寸前で制止したため被検体は異常なし)
・要確認事項として、被検体に近づくと果実と似た匂いがする。その匂いを嗅ぐ時間が長いと、性的な興奮を感じることがある。ただ、視覚情報から来るものの可能性もあり、観測データに異常は見られない。室内の空気測定項目を追加する予定。


 蜜の常習性がいまだ克服できていない課題だというのに、果実も気になる症状が発生している。本来なら、蜜の実験を修正して改良をしていくのが正しいのだが。
 だが、せっかくあそこに良いサンプルができあがっているから、これはこれで続けるしかない。
 しかし、本当にあの自慰はどういう傾向なのか。
 仰向けになって、余すことなく中空に晒しながら、一心不乱に陰茎を扱いているアレ。
 ちらっとガラスの中に視線を向ければ、ちょうどこちらを見ていたのか、被検体G-285がにたあっと笑い、尻を向けてきた。広げる股間、ぶら下がる陰茎。若々しい身体に戻った被検体の尻はプリップリで、ゆらゆらと揺らして淫らに研究員を誘ってくる。

「う、わあ――、あれ、やりてぇ」

 決して品行方正ではないと自覚している研究員にとって、あのような痴態を見せられると非常に蠱惑的に見えてしまう。
 実験上で性的に狂う姿は他の被検体でさんざん見てきたが、あれはなんというか、己を誘っていると明らかだからだろうか、妙に下腹部がざわざわするというか。
 それとも、あの匂いを何度か嗅いでしまったせいだろうか。
 取りだした空気データに微かにあった化学物質は、ある動物の雄を誘因するフェロモンに酷似しているという結果。
 分かってからは、防護マスクを着用して入るようはしているが、皮膚からの吸収も考えられる。
 というか、あのフェロモンはどこから出ているのか問題もあるし。

「あー、まあ、実験が先だしな、先、先だ。とにかく訳の分からん状況に、自分が被検体になってどうするっ」

 軽く自身の両頬を平手でたたき、理性を戻す。
 今日は別の研究員から提案された追加実験をするため予定なのだ。



 観察室は複数の実験室を映像やガラス越しでの直視で観察できるからこそ、そう名付けられている。
 基本的に二つから四つの部屋を見渡せるが、今回研究員が陣取っているのは二つの同じサイズの実験室を見ることができる部屋だった。どちらの実験室も同じ内容の設備があり、壁は白く、全灯した照明を反射して非常に明るく照らされている。
 床は掃除しやすいものであるが、床の温度は制御が可能。今回は人の実験のため、冷えすぎないようにする。
 また壁や天井から数多のマニピュレーターが出ており、カメラは被検体の状態を視角なく捉えられるように設置してある上に、マニピュレーターの先にもついていた。
 すでに一つ目の部屋にいるG-285はいつものとおり。いつもすぎて、こちらを欲情した目で見ているほど。そして、壁越しの隣の部屋には、また別の被検体が待機していた。
 データによると年齢は19歳。
 隣国の某領地で起きたクーデター未遂があったのは、こちらの国でも噂になっていたが、どうやらその関係者ではないかと疑われて投獄。捜査の結果、余罪もありここに送られたとなっている。拘束場所はスラム街。
 その地名が、G-285と同一だなと何気なく目を通す。
 新しい被検体G-396は、全裸の身体を恥ずかしそうに丸め、手で股間を隠していた。年齢よりは幼く見えるのは、蜜の研究のために中高齢の被験者ばかり相手にしたせいか。
 研究員はカメラを操作し、映像を拡大してその青年の様々な部分を確認していく。
 隣国の南部の民特有の淡褐色の肌は、金色の体毛のせいか実った小麦のように煌めいており、金の髪はふわりとゆるく顔立ちを覆っており、すらりとした手足に無駄のない筋肉がひどく躍動的に見せた。
 投獄された刑務所から被検体として選ばれてきた時に健康状態は確認されているから、その身体が健康なのは間違いない。
 ただ見知らぬ場所のせいか、不安げに揺れる瞳がうろうろと辺りを窺っているけれど、こっちの部屋は偏向ガラス状態にしているため、中から観察室を見通せない。その分、中からは鏡のように見えるだろう。そのせいで自分の裸体を再認識したのか、目元を赤らめ俯いてしまった。その垣間見える表情はひどく初々しく、研究員はぺろりと乾いた唇を舐めて、楽しげにその若い肢体を堪能する。
 なかなかに好みの被検体だった。あれならば、この観察も楽しめるだろう。
 そんなことを考えながら、研究員はもう一つのスイッチを押した。途端に、二つの部屋を隔てた壁が、折り畳まれながら収納されていく。
 怯えていた若いほう、396とうずくまる265の双方が対面する。
 先に気付いたのは、若い396のほうだった。訝しげに眉間にしわを寄せた396は、まじまじとうずくまる265を見つめ、はたと何かに気が付いたように表情が変化した。その身体は硬直したように制止し、それでもその視線は365から外れない。
 しばらくして、その口が戦慄き開いた。
 何を叫ぼうとしたのか、はくはくと喘ぐ口元の動きに気が付いて、ああ、スピーカーがオフだったと慌ててオンにした。
 途端に、大きな声が観察室にも響く。

『と、父さんっ、なんで、いやでも、なんでそんな若い? 違う? いやでも、やっぱ、父さん? だよなっ、おいっ』

 明らかに混乱した、問いかけなのか断定なのか分からないような言葉が響く。
 396は驚愕に震え、もう一方は声をかけられてようやく気が付いたように、緩慢な動きで視線を向けた。
 枷の金属質の音は、若いほうからした。近づこうとしているのだろうが、両方共に足を鎖で繋がれたままだから、それ以上距離は縮まらない。
 その必死な様子に、研究員はあれっとばかりに首を傾げて、改めてタブレットの表示を確認した。

「父親? まあ、確かに似ているけど……」

 確かに若々しくなった被検体ともう一人、比べれば兄弟のようにも見える。
 確認のために遺伝子情報を引っ張り出せば、確かにこれは近親者というか、親子であるという情報を示していた。

「なんだ、これ親子かあ。別に狙ったわけじゃなかったけど。ああ、でも、今回の実験、もしかすると面白い結果になるかも」

 どうやら親子ともどもこの実験に協力していただくことになったようだ。
 今日の実験は、やたらに雌のように発情するG-265が、同性でもある雄が目の前に現れた場合、どうなるのか。これがあの果実の効果なのかどうかを確認するものだった。
 それに実は、種子が発情を促して種付けを望んでいるのではないかという仮説もある。あのフェロモンが良い情報ではないかと。
 他の生物ではあるが、発情時に他種族の精液を栄養分にして受精を円滑にする植物がある。あるいは、他種族の体内に種子を埋めこみ、受精させる生物も存在する。
 どちらも苗床になる生物は発情を促す物質により、色狂いかと言われるほどの発情状態になる。
 この密林で産出された物の効果に性に関するものが多いのは、その特有の生物が影響しているのではないかという仮説もあった。だから、今回の種子もそれと同じではないかと、黄金花研究チームからのアイデアも参考になる。
 そのためにもう一体を準備したのだから、いまさらやめる理由もない。


 まずは、父親に向かってきいきいとわめく若いほう、G-396に高濃度発情薬を与える。飲めと言っても、それどころではないので、マニピュレーターで頭を掴み、口を開けさせて強制的に口の中へ流し込んだのだが。
 何しろ1滴で発情する黄金花チーム特性の発情薬だ。
 最近ではそこそこに理性を残し、けれども身体は性欲で支配されて理性を無視するという、なんとも特殊な効果がある製品ができあがり、一部の顧客にはたいそう人気だという。
 そんな薬のおかげで、瞬く間に若いペニスを勃起させた被検体は、枷が外れた途端に父親だというほうに駆けていった。

「父さん、父さん、父さんっ」

 確かに父を呼びながら、被検体G-285へと飛びついていく。

「……レイザ……か?」

 微かに聞こえる被検体G-285の声。
 蜜の効果は薄れて、記憶が戻ってきているのか。それとも、これが果実の効果なのか。
 どこかぼんやりと名前を呼んで、父親は両手を広げて息子を迎え入れた。
 そこに飛び込む息子。
 受け入れる父親。
 離ればなれになった親子の感動の対面。

「ああ、いい光景だねえ」

 顎杖をついて観察を続ける研究員が、口角を上げながらぼそっと零す。
 そんな感動の対面は、けれど次の瞬間。

「ひっ、ああああっ、あーっ!」

 父親の悲鳴がこだまする。
 飛びかかった息子が父親をひっくり返し、尻に一気に突っ込んだのだ。
 あの発情薬を投与されては、突っ込むところがあれば突っ込むしか考えられないだろうけれど。昂ぶった性欲は、相手が父親であっても関係ないらしい。
 突っ込まれるか、突っ込むか。それは力関係が関係していると言ったのは、あのチームの誰か。タイミングもあるらしいが。
 父親は果実の影響だけなので、さすがに息子を犯そうとは思えなかっただろうし。

「父さん、父さん、父さんっ。ああ、なんてこんな若返ってんだよっ、すげえっ」
「あっ、あっ、あっ! レイザーっ、ああ、すごぃっ、硬いぃぃ」

 呼びかけながら激しく抽挿を繰り返し、突き上げられながら嬌声を上げている。
 一応弛緩薬は投与していたので、幸いに受け入れた穴は切れてはいない。ならば、実験は続行。
 投影装置で腹を透過撮影し、中の種子の動きも確認する。
 20個の種子が張り詰めた陰茎に突き上げられるたびに、腹の中で暴れている様子が見て取れた。ゴロゴロと硬い種子が突き上げられ、どんどん奥に運ばれている。前立腺らしきところが押し上げられると、父親が痙攣して粘液を噴き上げているのも確認できる。

「痛くないのかね?」

 ふと思ったが、拡大した表情は恍惚に歪んでいた。初めて男を受け入れた表情ではないことに気付き、バイタルを確認する。
 体温は上がり、発汗もあり、鼓動は速く、明らかに欲情していた。
 あの果実に媚薬効果はないはずだか、やはり種子が何かを出しているのか。
 息子のますます激しくなる抽挿、狂ったように腰を振って受け入れる父親。
 くんず解れず、お互いを離したくないとばかりに絡まり、スピーカーからは声と共に粘着質な体液のまざわる音が聞こえてくる。
 部屋の中は、きっと淫猥な匂いで充満しているだろう。

「あっ、あ――っ、いいっ、奥っ、おくがいい――っ」
「熱い、すげえ、父さん、すげーぇ! な、んで、こんな、すげぇー穴、もってっ」 
「ひ、いぃ、ああっ、いや──ぁぁっ、そんなぁ、奥、もっと奥に入れてぇっ」

 双方が欲しがり、狂いまくっている。
 姿勢が変わり、今度は騎乗位で父親が腰を振っている。のけ反った喉元が上下に動き、甘い吐息を何度も吐き出しているようだ。
 肌は上気して汗ばみ、指先が何かを探すように胸元を探る。捕らえたのは、小さな乳嘴。つまみ、つぶし、新たな嬌声が響き渡る。

「やべ、もよおしてきた」

 思わず股間を押さえる。膨らみきったそこは、これはきっともう濡れている。
 こんな実験、何度も見ているはずなのに、どうしてこんなにも興奮しているのだろう。
 発情に意識を取られながら、それでも研究員は自身のバイタルを測定した。

「あー、これ絶対あの匂い……、フェロモンに侵されている可能性がある」

 血液、脳波などの分析データからその傾向が示唆された。
 匂いを直接嗅いだのは三度ぐらい。それ以降は防護していたはずなのに。
 あの匂いは蓄積タイプ――もしかして蜜もまた常習性が蓄積していくタイプか。だから、改良しても、その成分が溜まっていくと発症してしまうという。
 そんなことを考えている間も身体が熱くなる。急いで、発情抑止薬を己に注射すれば、血液が循環することによって、性的興奮が少しずつ治まっていった。

「はあ――っ」

 深い嘆息が零れる。それには安堵が混じっていた。

「これ、マジで予想外が多い。蜜のみならば果実も癖が強すぎる。さすが密林産」

 特にあの種子。ただの種子ではないのは確定だ。
 畑に植えても発芽をしなかったというデータも新たに届いていることを考えると、発芽には特殊な条件が要るということ。そして、あの状況。

「精液摂取パターン、それとも交尾発情パターンか」

 他生物の精液、もしくはそれに類する物、あるいは体液が必要な場合。
 交尾による性的興奮により発生する成分を得ることが必要な場合。
 いろいろと考えられるが、それらの仮定を分析機器に入れていく。

「うわっ、すっごい、おなか……いっぱぃ――」
「熱い、これ、柔らけえっ。なんか、あはっ、いいっ、すっげぇ――っ、いくぅっっ!」

 射精が始まったようで、マイクとカメラを局部に近づければ、濡れた音と溢れた精液が落ちる様がつぶさに見えた。
 父親は恍惚とした表情で、下腹は突き上げる陰茎のせいか、それとも中にある種子が大きくなったのか、ぽっこりと膨らんでいる。

「追加項目に、種子の精液、体液の浸漬テスト」
「んあぁっ、お、なかぁ、いっぱぁぃっ、あふっ……」
「ゴロゴロしたのが先っぽに、ひぐっ、またっ、またっ、搾り取られてるぅっ!」

 研究員の冷静な声に、二つの熱い言葉が重なった。
 父親と交尾する息子は、舌を出し、溢れる快感に浸りきっているようだ。
 溢れた体液は全身を汚し、下肢は白い粘液まみれ。
 発情はまだまだ終わりそうにない。それどころかますます酷くなっている。
 ガラス越しで内外の空気は完全に遮断されているというのに、甘い匂いがここまで漂っているよう感じた。
 鼻がバカになっているのか、それともこれは……。

「特に、追加投与も必要なさそうだし。まずは今の体力が尽きるまで続くとみていいか。それよりも」

 研究員は、無意識のままにむずむずする股間を押さえていることに気が付き、苦笑する。
 発情抑止薬の利きが甘い。これはフェロモン物質の確認を早急にする必要があるか。
 研究員は深く息を吐いて、わだかまる熱を吐き出した。
 まだ時間がかかるなら、ちょっと退室してもいいかもしれないなと考えながら。
 手元のパネルを操作して自動観察を設定し、緊急時には己のモバイルに警報が転送されるように設定して、研究員は立ち上がった。
 3時間もあれば戻ってこられるかなあと思いながら、全ての記録がオンなのを再度指さし確認してから観察室を出る。
 扉を閉めた途端、鼓膜から脳を刺激するような嬌声が消えて、それだけでほっと安堵の吐息が零れた。
 実験から離れなければいけなくなったのは始めてで、少なからず落ち込んでいた。
 準備も予防もきちんとしていたはずなのになあ。
 予想外のことが起きるのは常とはいえ、それでもまるで初心者のような失敗は、研究員の矜持を傷つけたのだ。
 はあっと溜息を零しながら、タブレットを操作して、抑止薬の研究員にメッセージも送っておく。今度はもう少し強めのものを準備してもらう必要がありそうだということと、自身の血液データも添付して。
 それから別の予約フォームを起動する。

「123ちゃん、空いているかなあ……、あっ、空いてた、ラッキー」

 お気に入りの性欲解消囚人が空いているのが分かると、少し落ち込み気味だった気分も向上する。
 刑務所の囚人の中から希望者が出向しているエリアは地下にある。
 研究員は気分を切り替えて、早足でエレベーターへと向かっていった。



【被験体G-285(種子保有体)および被検体G-369 追加報告】

 実験開始から5時間後、被検体G-369の体力が尽きたことにより実験は終了。
 その後、G-285は種子を全て排出した。排出は息みにより行われ、一つ出るたびに射精を繰り返し、最終的に気絶した。
 種子は全て発芽の兆候を確認。胚は明らかに子葉を形成し、種皮は柔らかく断裂部を認める。これらを育成チームに渡したところ、土壌での発芽が発生。順調に育成しているとの連絡あり。
 分析によれば、体液により種皮の軟質化が認められる。腸液よりも精液が効果は高く、速く進む。
 種子を改めて分析した結果、微弱な精神制御波が出ていることが判明。ある種の寄生生物と同様の生態とみられるため、動物系の追加実験を申請する。
 なお、被検体G-285は種子を排出後に理性が戻っている。
 蜜の副作用は果実または種子が消失させる可能性があり。

 なお、待機中の被検体G-369と被検体G-285について。
 G-285が父親で、G-369が子であることは確定。
 現在、G-369とG-285が性行為を行う様子が毎日確認されている。
 G-285には抵抗が見られるが、力関係はG-369に軍配が上がる。
 性的興奮の度が激しいため、何らかの後遺症または蓄積された不明物質が考えられる。
 観察を続行する。

【了】