【黒茶蜂】

【黒茶蜂】

《医薬毒生物研究所 成果報告書》の第三弾 黒茶蜂(こくちゃばち)

異種姦(昆虫)、産卵、実験体、身体改造





 世界五大大国の一つリソール王国の密林は、独自の進化形を辿った生き物が多い。
 独特の環境下が他の品種を受け入れなかったこともあるが、それだけでは理由がつかないような進化を下げたモノもいた。
 一見植物なのに動物のように動く生き物が多いのも特徴的なのだが、他の他方では珍しいほどに巨大化している種、奇妙な組み合わせで他種と共存している種、外的要因によりその生態を自在に変化させて生き延びる種と、他の国の生物学者が声を揃えて信じられないと言うほどに、珍しいものが多い。
 そんな動植物を研究しているのが、この密林の奥深くにあるジュリオル医薬毒性物研究所だ。
 特異な立地条件故に他の政府機関の設備——特別な服役者ばかりを収容した刑務所も併設されている場所でもあり、ここでは日夜多くの研究員により、ここの生物を利用して人類に効果がある医薬品等の研究が続けられていた。
 たとえば、「黒茶蜂」と呼ばれる蜂の一種は、その個体に応じて異種の効能のある薬が抽出できる。
 けれど、一個体からそれほど多くは採取できないという問題があったため、その生産性を上げる研究は最優先課題の一つであった。

 
 『実験計画書 No.S-098-657 黒茶蜂の抱卵蜂の代わりに人体を利用した場合の成果物の傾向』
 黒茶蜂は遺伝子レベルまで解明されたその生態を人為的に変化させ、より多くの材料を採取するための個体の巨大化、及び卵の多産化、また限りがある抱卵蜂を別の種族の身体や組織に代用させる方法を探るために実験を開始する。





 海原のようにどこまでも続く緑濃い密林の奥深く、ほんの少しだけその色が途切れるところがあった。
 まるで大海原にただ一つ浮かぶ島のように、けれどほとんどが似た色で覆われているその場所は、容易に見つけることは敵わない。
 慣れたパイロットが誘導されて初めて辿り着けるその場所は、地上から見れば深い緑の壁の中、ぽかりと空色が見えるところでもあった。
 空が見られるその場所は、研究施設のごく一部と輸送艇が離着陸するためのスペースだ。隣の広大な刑務所はグラウンドですらカモフラージュされた天井で覆われていて、受刑者は空を見ることはできない。
 そんな空を仰ぎ見ることのできる実験棟の一つは、中層階部分で床面積を減らしており、その分その階にはテラスの外に解放された広い空間が設けられていた。
 そこに並ぶのは、空を飛ぶ生物の飼育施設だ。特に鳥や昆虫類が多く、互いが捕食しあわないように種別に特製の防護装置で囲われていた。
 そんな場所の一つに、頭から指先まで全身を覆う白い防護服姿の研究員が入っていく姿を見る者は、今は他にいない。
 特殊な実験をするという通達に、他の研究員は立ち入っていないからだ。
 そこは、飼育施設の中でも数メートル四方の箱状の巣箱がいくつも並んでいる昆虫系の飼育エリアだった。
「さて、女王様方のご機嫌はいかがかな?」
 頭部の硬質ガラス製のシールドを通して、その好奇心に満ちた瞳が巣箱の片面、蜂の巣状のネットが張られた部分を見やる。
 一週間前に、地下の実験室内で特別に育成した黒茶蜂という蜂の、その女王蜂を数十匹このエリアに放したのだ。自然界での観察結果によると、時期的に産卵時期がきてもおかしくない頃合いで、その確認に来ていたのだ。
「んん? これはまだのよう……というか、生育状況が不完全……と。これはダメだな」
 一つずつ、中を確認していくその後ろ姿は今ひとつの出来具合に肩が落ち気味であったけれど。
「おっ、こっちは良さそうだ」
 丈夫な網目の向こう、赤らかな産卵時期の兆候を露わにした女王蜂の姿に、研究員の面に笑みが浮かぶ。
 識別ナンバーを読み取り、ようやく、という風に記録に○をつけていき。
「B、C、F……12、16もだな。後は……死骸もあるな。ああ、これも生き延びられなかったか……」
 最終的に30匹のうち6匹が彼のお眼鏡に適ったようだ。
「1割と思ったが、2割か。さい先いいな……」
 その口元がニヤリと笑みを作る。
「次のステージに行っても、十分成果が出せそうだ」
 念入りに立てた実験計画の第二ステージにいける高揚感に、覚えず彼の口元が綻んだ。
 生物相手のかなり無理な実験はイレギュラーなことが多く、全滅することもままあった。けれど繰り返してきた甲斐はあったようで、この数ならば第一ステージは大成功というところだろう。
 ならば、と、一度建物内に戻った研究員がすぐさま連れてきたのは、身体の前で両手首を拘束された若々しい肉体を持った青年だった。
 かろうじて裸体を隠す丈の短い前袷のガウンもどきを身に纏った青年は、久しぶりの空の青さに眩しそうに目を細めた。けれど、血の気が失せた顔は強張ったままだ。靴すら履かされぬままにざらざらとしたコンクリの床を歩くその足も、ひどく弱々しげでふらついている。
「ようこそ、わが女王様の館へ」
 大仰ぶった研究員の戯れにも、ますます硬直するばかりだ。
 そんな姿に、研究員は口角を上げ、愉しげに彼を巣箱の方へ押し出す。
 その青年は、つい一月ほど前までこの研究所に併設されている刑務所に収監されていた者だった。と言っても、犯罪者らしからぬ優しげなその灰色の瞳は、今は怯えに震え、気弱な表情が助けを乞うように研究員に向けられている。
「罪状は婦女暴行……五人もの男女を拉致してやりまくったレイプ犯って聞いてたから、どんな剛胆な奴かと思ったけど、ねぇ。もうちょっときちんと動きなよ」
 呆れたように呟いたその言葉に、青年が「違うっ!!」と大きく頭を振って否定した。
「濡れ衣なんだっ。地主が、金に物言わせて俺を犯罪者に仕立てたんだっ、あいつの息子が犯人なのにっ」
 もう何度も訴えたのだろう、淀みなく言い放つ言葉は、けれど一切聞き入れられなかったことは明白だ。悔しそうにボロボロと涙を流しながら、薄金の細い髪を振り乱し、がくりと肩を落としている。
 もともとは雇われ農夫として日々の農作業で鍛えた身体を持っていたけれど、一ヶ月の準備期間中ほとんど寝たきりで動くことの無かったその身体の筋肉はかなり衰えていた。特に足元は心許なく、ふらつきが止まらない。そのせいか、言い返しはしたけれど、つかみ合うようなことはなかった。
 もともと暴力的な行為とは無縁に過ごしてきたのだろうことは、一ヶ月の間に容易に想像できるほど、彼は暴れる訳で無く切々と実のところ判りきった”真実”を訴えるばかりだったと聞いている。
「世間様は金持ち優遇だからねぇ。それにあんたも金持ちに目ぇ付けられるようなことをしたんだろう?」
「そ、それは……あいつの惚れた女が俺の方が良いって……言ったらしいけど……。それだけだったんだ……。俺は何もしていない、何もしてないかったのに……それだけでそんな……」
「寝たんじゃないの、その女と」
「……してない……俺は、まだ女とは一度も……なのに……」
 俯き、がっくりと肩を落とした青年はどうやら童貞らしい。
 女相手の喜びも知らぬのは確かに気の毒かも……と、不意に浮かんだ同情は、けれど、それよりもっと素晴らしい体験をさせてやろう、と期待の方が先に立つ。
 どんなにこの青年が無実を訴えても、すでに複数の男女に対しての誘拐・強姦、傷害の犯人と確定しているのは確かで有り、金のない彼にはそれを覆すだけの術は無い。
 ならば、彼がここから出て行くためには。
「模範囚としてガンバりゃ、早めに出ることもできるんじゃ……ないの?」
「模範囚……」
「そっ、そのために協力する気になったんだろ?」
 刑務所と研究施設が併設され、どんな国からでも犯罪者を受け入れている理由は、国の大切な研究にはたくさんの実験が必要だから。
 多重殺人、反逆などの一級罪人は強制的に実験に参加させられ、さらに刑の軽減はない。だが、それ以外であれば受刑者自身が協力を受諾すれば、それは成果次第で刑期への反映される。しかも、特に素晴らしい成果があれば、外に出たときに褒賞金すらもらえるのだ。
 その事を思い出したのか、青年の瞳が揺らぎ、意を決したように口元がきつく引き締められる。
「さっ、がんばってな」
 その背をとんと押して巣箱が連なる場所の中央にあるH型の柱へと身体を押しつけた。
「何を……?」
 おずおずと問いかけ、辺りを見渡す青年に、研究員はにこりと笑いかけ。
「ここにいれば良いのさ。でも反射的に暴れる奴も多いんで、固定はさせてもらうよ」
 その言葉を青年が理解するより先に、研究員は手早く青年の手枷を分割し、左右の上に伸びる柱に付けられた空洞へと挿入した。とたんに五石木(ごせきぼく)でできた空洞の木が、青年の四肢の先端を覆い、さらなる蔓を出して柱へと絡みつく。
 衝動的に暴れる身体は、けれど、衰えた筋肉のせいでか弱い女性のように力が入っていない。寝たきり生活の生もあったけれど、何より体質改善のために登用した薬のせいもある。研究員はその成果にも嬉々としながら難なくその足を押さえつけ、足下の柱へそれぞれの足先を押し入れれば、そちらも同様に固定される。
「ひっ、やっ!」
 五石木は木のような外観した植物ではあるけれど、この施設では改良を重ねて自在にその形状を制御する術を得ていた。空洞の木は普段は柔らかな野布のような質感だが、その空洞に餌となる小動物や昆虫が暴れる刺激を受けると、一気に収縮させて捕らえ、絞め殺したその全身から体液を啜るという、食肉木なのだ。それを締め付けすぎず、消化液を出さないように改良したのがこの拘束具で、拘束したい部分に嵌めると、内面に刺激を受けて一気に収縮・固定してくれ、蔓で他の者に絡みつき、しかも金属の斧などでは切り裂けないほどに丈夫なのだ。今や、何よりも丈夫な枷として電気的な刺激や栄養剤で制御しながら、この施設では便利に育てている。
 その五石木でXの字でH字の柱に固定された青年から衣服をはだけさせ、裸体を晒させて、研究員は巣箱のエリアから抜け出した。さらに。
 手の中のスイッチを押したとたんに青年と巣箱を囲むように仕切りがせり上がる。
「な、何!!」
「実験体が逃げないようにだから心配しなさんな。さあ、おとなしくしな。えーと、実験体ナンバーS-098君。女王様がお待ちかねだよ」
 エリアを区切る透明な壁はたいそう丈夫で、ハンディータイプの火器類程度では破ることはできない。天井も塞がれ、逃げられる隙間など皆無になったのを確認してから、壁の外に置いていた椅子に腰を下ろす。
 無意味に身を捩り四肢を引っ張る青年は必死の形相だが、よく見れば整った顔つきをしていてなかなかそそるものがあり、そういう嗜好の人間からしたら、垂涎ものだということは容易に想像できる。
 最近、犯罪者としてやってくる受刑者の顔形が良いモノが多いなあ……。
 脳裏に浮かぶさまざまな実験体を思い出し、口角を上げてここのスポンサー達の趣味を密かにあざ笑う。
 嵌められたというか、選ばれたというか。
 そんな青年は、どうしようも無い枷に諦めたのか、それとも今後に思考を向けてしまったのか、こわごわと巣箱の様子を窺っている。
「平々凡々の顔が一番だよなあ……。最近はとみにそう思うぜ」
 頭だけが良くてももてなかった学生時代には不満たらたらだったこの顔だが、こういう目に遭う確率が少ないというだけで良かったのだと、ここで働くようになってから常々思っていたことだった。


 怯えて硬直している実験ナンバーS-098と呼ばれた青年が、不意にある方向へと目を向けたのは、それから数分ほど経った時だった。
 研究員も、スピーカーを通さずともその音を聞き取っていた。
 低く空気を震わせるそれは、微弱な振動音として響く。複数のそれが重なり合ったからこそ可聴域音となったその音は、強固とは言え薄い壁に手を触れても伝わってくる。
 巣箱からのそりと這い出したそれらが獲物を感知した、悦びの雄叫びにも似た羽音。
 誘われるように、次々現れたそれらに、Sー098もようやく気づいたようだ。
「ひぃっ!」
 戦慄く唇から掠れた悲鳴を上げて、唯一自由になる胴体部をくねらせて少しでもその視界から逃れようとする。と言っても、結局は無駄な動きでしかなく、むやみに体力を消費するばかりだ。
 無様に足掻く姿に、それらは先より一際大きな羽音を立てて、狙いを定めているのが端から見れば良く判る。
 この国の蜂の中でも最大種となる黒茶蜂の女王蜂をさらに大きく育つように改良した、全長50cmほどにもなった実験体だから、細部がどういう状況か目視でもよく判る。明らかに産卵態勢となった女王蜂達が、それぞれの巣箱から出てきて、S-098を取り囲んでいるのだ。
「いつ見ても大したもんだ……」
 覚えず呟いてしまうほどに、統率のとれた軍隊のような動き。
 これが兵隊蜂なのだと言われれば、蜂という種にしてみればその動きは珍しいモノではない。だが、ここにいるのは女王蜂ばかり。
 この黒茶蜂は、別の巣を作る女王蜂そのものが、コロニーを作り始めた段階では種々の作業のために集まり群れを成すのだ。
 そうやって、まだ己の配下のいない状態でも狩りをし、新たな巣材を集め、子を育てるための雄種である抱卵蜂を産み落とす。
「う、わ、ぁ、ぁ、あああぁっ、た、助けてっ、助けてぇっ!!」
 虫といえど自身に向けられた明らかな視線に、S-098がパニックに陥いり、びくりとも動かぬ四肢を捕らえた枷から身体を抜こうと必死になっている。けれど、そんなことをしても強固な五石木の枷が外れるはずもなく、無駄に四肢の筋肉を痛めるだけだ。
「そんな暴れたら、五石木の締め付け強くしなきゃいけなくなるよ。そしたら壊死してしまうぜ」
 血流を遮られ腐り落ちてもよいならば、とマイク越しに話しかけながら、遠隔で五石木の締め付けを強くする。
「あ、だ、め……や」
 ぎくりと強ばり、動きが止まったS-098がおろおろと締め付けられた左右の手先を見やる。
「ああ、手足に麻酔打っとこうか? 血流がなくなって麻痺しちまって、多少は痛みが和らぐかも知れないけど。でもまあ腐り落ちるまで放置すりゃ、なんともいえない痛みもあるっていうし」
 五石木の枷は、指先から手首と肘の間まで、足は膝下までその木肌の筒で覆っていて、その内部には研究員が遠隔で操作できる様々な仕組みがあるのだと教えてやれば、S-098が絶望したかのように顔を歪ませた。
 そんな彼の周りでは、獲物が逃げないと悟ったのか、女王蜂の編隊が背後を取り、ゆっくりと近づいてきて。
「く、来るな……っっっっっ!!!!!」
 S-098がびくりと振り返った途端、一斉に襲いかかった。



「あっ、ひっ……いぁ……ぁぁっ」
 H字の柱に貼り付けられたS-098は、全身に6匹の女王蜂に取り囲まれたまま、身悶えていた。
 今は3匹目の女王蜂が、6本の足で背後からS-098を抱え込み、それが持つ唯一の窖(あなぐら)である尻穴に、歪な瘤を多数持ち直系が3cm近くある産卵管を突き刺している。
 自分のコロニーを作るために、すでにその腹にたっぷりと未受精卵を蓄えた女王蜂は、通常ならば抱卵蜂が成体になると同時にすぐにその卵を植え付ける。
 この黒茶蜂は、未受精卵を抱卵蜂と呼ばれる雄の胎内にある受卵器官に産み付け、雄の胎内で幼虫まで育ててから改めて外に産み落とすのだ。
 新しい女王蜂の場合は、巣離れする前に先代のための抱卵蜂から己の胎内にある卵に受精をしてもらう。そのたった一度だけ、女王蜂の器官は雄を受け入れるが、以降は必ず雄が受け入れる。
 ただ、この巨大な女王蜂達は、身体の巨大化実験のために生まれた特殊なモノで先代を持っていない。その結果、本来持ち得るはずの抱卵蜂である卵を持っていない個体達なのだ。
 そのため研究員は、この女王蜂達の本能にある抱卵蜂の認識回路を狂わせていた。
「どうだい、6匹もの女王様のお相手に選ばれた感想は?」
 同種の雄蜂ではなく、特別にしつらえられた実験体の身体を使うように。
「ひっんんんっ、あうっ」
 今、女王蜂の複眼には、S-098の尻穴が抱卵蜂の受卵器官にしか見えていない。しかも、彼女たちは一つしか無いその穴を、共有するべきものと認識していた。もとより、初期の巣作り中は同じ巣で育った仲間とともに動く種だ。その程度の改ざんは簡単に仕組むことができた。
 そんな女王蜂の身体も、研究員は少し手を入れていた。
 その成果である産卵管が、S-098の尻穴からずぷりと勢い余って飛び出したけれど、すぐまた肉の中に潜り込む。
 簡単に抜けないように細い先端から大きく膨れ、すぐに細くなった産卵管は、人のペニスをグロテスクに誇張したような形をしていた。
 それは、単なる研究員の趣味ではあったけれど、S-098はなかなか気に入ってくれたようだ。
 入り込む度にビクビクと大きく震えた身体が硬直し、艶めかしい嬌声がひっきりなしに届く。
 ぐちゅ、ぶちゅ
 と、濡れた音がスピーカー越しに聞こえる度に、より大きくなった甲高い嬌声が響き渡っていて、聞く者に悪い疼きをたっぷりとこみ上げさせていた。
 研究員も覚えず股間に手をやって、いきり立った逸物を擦り立ててしまっていた。
 その研究員は目視ではもちろんのこと、産卵中の様子がよく見えるようにと、カメラで録画しているいくつもの映像をたっぷりと大きな画面でも確認していた。逞しい逸物もどきをお持ちの女王様は、自らの産卵管をよりよい場所に卵が届くようにと何度も何度も抜き差しをし、そのたびにたくさんの卵を産み付けているようだった。
 そのたびに、S-098がその紅潮した身体を身体が悩ましげに揺らがせ、その股間でいきり勃つペニスから、透明な滴をタラタラと流し続けている。
「うんうん、女王様方の体液も美味しそうにケツから飲み干しちゃって。効くだろう、それ」
 たっぷりとS-098の体内に吸収されているだろうそれは、なかなかに良い効果のある性的興奮剤なのだ。
 慎ましい処女すら悦んで股を開く淫乱になり果てる媚薬は、この研究所では珍しくもなんとも無いが、あの女王蜂の体液によって恐怖に怯えていた瞳が快楽に溺れて完全に焦点を失っていた。
 さらに、じっと観察する研究員の目の前で、産卵管を銜えたS-098の尻穴からは溢れた白い粘液が糸を引いて幾筋も垂れていた。拡げた太股から下の五石木まで伝っているものもあり、後ろの柱との間も糸を引っ張っている。それは女王蜂が卵を産むときに分泌する体液の一つで、身体が大きくなった分分泌量も多くなっていて、意図せず、S-098を拘束する効果が出たようだ。
 あの体液は、抱卵蜂の中に入り込んだ後固化して蓋をし、時期がくるまで卵が受卵器官からこぼれ落ちるのを防ぐ役割がある。
 抱卵蜂の体内に入り込めば、受精が完了する頃に固まるそれは、どうやら外に零れたものはその場で固くなってしまうらしい。
「もしかすると、抱卵蜂は女王様のために無理矢理卵を含まされるのかも知れないなあ」
 その様子を眺めていた研究員がぽつりと思いついたままを呟いた。
 自然界でもあのように溢れた液が身体を巣に固定させているはず、と思うからこその思いつきは、あながち外れでもないかもしれない。
 蜂だから種の保存として本能として受けいれているのかもしれないが、これが人の営みでおきるという仮定であれば。
 あれではまるで、身体を拘束して逃れられぬようにしたまま、犯し、卵を受け入れさせ、時期が来たら排出させるためだけの個体ということになる。
 実際抱卵蜂という個体は、他の個体とは違い羽根を失い、いつも膨らみきった腹で巣から出ることもなく、胎内で卵を育てている。
 生まれた幼虫が出てくるときは、産卵管を受け入れる程度でしか無い穴を押し広げるように管の1.5倍は太い幼虫が這い出す苦しみに、何度も何度も痙攣しているかのように身体を震わせて、全てを産み落とした後はぴくりとも動かないほどに弱り切っているのだ。けれど、次の日にはまた産卵管を受け入れ、産み落とすことを何度も何度も繰り返し。
 さらに、新女王蜂だけは胎内で羽化まで育て上げ、その巨大な身体が生まれる際にはほとんどの場合死んでしまうことが多いという。
 確かにその役目は重要ではあるけれど。
 間違ってもそんな役目は負いたくないな、と研究員は独りごちていた。
「そういや、高齢の抱卵蜂は足が無くなっている物も多いって報告もあったなあ」
 使わない──使えぬ四肢は不要な代物となり、胴体と頭だけで生かされ続ける生活なんて、楽しくも何ともないだろう。
 新たな女王蜂に抱えられ、膨れ始めた腹を揺らしながらヒイヒイと喘ぐS-098の姿を見やり、その四肢を失った身体を想像して肩を竦める。
「ま、ああ悦んでるんなら、それはそれでイイのかも知れないねぇ。なんせ餌は口元まで持ってきてくれるし、排泄物は出てくる前に吸い取ってくれるし」
 女王蜂への餌は自動給餌機が世話をするが、その栄養化の高い蜜を女王蜂がS-098のに口移しで与えていたのは先ほど確認できた。
 精液を撒き散らす合間の排尿時には、手の空いた女王蜂が直接吸い取っていたし、自然界と同様なら排泄物は全て世話係が対応するだろう。今は女王蜂がしているが、そのうちに労働蜂がその任を担うことになる。
「6匹の女王様に上げ膳下げ膳してもらって、童貞君も解消──ってああ、童貞はそのまんまか。まあ処女喪失できたし、性欲もたっぷり解消してもらえて、よかったねぇ。この観察映像も金持ちの変態息子が悦ぶ代物になりそうで、研究所にはたっぷりと礼金が手に入るし、実験も良い成果も出そうだし……ああ、どこもかしこも万々歳ってか」
 くすくすと嗤いながら、研究員はぱたりと記録していたメモパッドを閉じて立ちあがった。
 もうしばらくは、この繰り返しでしかないことは容易に想像できていて、カメラとマイクがきちんと動いているのを確かめて、施設内へと戻っていく。
「次は幼虫が生まれる頃に見に来るよ」
 それまでに何かトラブルがあれば、コンピューターが知らせくれるし。
 その呟きは、マイクを通してS-098の耳元まで届いていたはずだけれど、当の本人はとりわけ太い産卵管を持つ5匹目の女王蜂に貫かれた刺激に、激しい絶頂感に襲われていて。
「はひっぃぃぃ────っ、イィ、ああ、そこぉぉっ、ああぁ──っ!!」
 意味の成さぬ絶叫を繰り返しているばかりだった。


 『参考レポート No.S-098-656 黒茶蜂の生態研究報告』

  ・女王蜂は、10年程度の寿命を持ち、10匹程度の雄である抱卵蜂、多数の無性である兵隊蜂や労働蜂でコロニーをつくる。
  ・もっとも巨大な女王蜂で、体長20cm、小さい労働蜂で10cm程度である。
  ・巣離れ前に新女王蜂はその体内に数十個受精卵を蓄える。卵は前女王の抱卵蜂により受精が行われている。女王蜂が受精卵を体内に蓄えるのはその時だけである。
  ・新女王蜂は自らのコロニーができあがる前は、同じ巣の出身である女王蜂達と群れて行動する。
  ・雄種である抱卵蜂は、巣離れした女王蜂が最初に産む卵から十数匹生まれ、女王蜂と同等の寿命を持つ。その役割から羽根は退化し飛ぶことはなく、腹部ばかりが大きくて動く姿を見ることは無い。
    途中、抱卵蜂が死に絶えることがあった場合その巣は全滅する。そのため外敵に襲われたときは、女王蜂ですら抱卵蜂を守るために戦う。
  ・抱卵蜂は、女王蜂が産んだ未受精卵を胎内の受卵器官に受け入れて受精し、1週間程度後に幼虫として産み落とす。労働蜂がいない間は、女王蜂達が協力して抱卵蜂と幼虫を守り、育てる。この時期が黒茶蜂のもっとも危険な時期である。
  ・抱卵蜂から産み落とされた幼虫は、2週間程度労働蜂によって育成され、1週間のさなぎ期間を経て成体となる。3年ほど経った後に始まる新女王蜂のための産卵以外は、基本的に繁殖能力の無い労働蜂と兵隊蜂のみが生まれる。
  ・新女王蜂の卵は、他の個体の2倍の大きさがあり、通常1年に一度、抱卵蜂一匹のみに複数個産み付けられる。通常5-6個体と言われている。
  ・新女王蜂の幼虫は他の労働蜂などとは違い抱卵蜂の体内で育ち、さなぎから羽化する成虫時に胎外に出てくる。5-6年経った抱卵蜂はすでに活力が衰え始めているので、その産みの苦しみに堪えきれず絶命する場合が多い。
  ・労働蜂の寿命は数ヶ月程度で、集めた樹液や花蜜に混ざった蜂の分泌物が、人間の細胞を活性化させ、老廃物を排出する美容効果に非情に優れた効果がある。
  ・兵隊蜂の寿命は6ヶ月程度で、女王蜂と抱卵蜂、そして巣を守る。その体内に多量に含む蜂毒を精製した薬は、精子の増産を助ける効果があり、また勃起不全の治療薬としても最適である。
  ・卵を排出する際に女王蜂が出す体液は、ほ乳類には全身の神経を敏感にする効果がある強力な性欲増強剤となる。
  ・孵化した幼虫が分泌する液は、身体を麻痺させて動けなくする神経毒と多幸感をもたらす幻惑剤が混ざっており、抱卵蜂を酩酊状態にして出てくるのを助けているとの報告がある。
 以上。




『三年後』

「ほんとに手足がなくなっちゃったよ」
 研究員は呆れたように今はもう床に這って身悶えているS-098を見やっていた。
 壊死とも噛みきられたともなんとも言えぬ状況下ではあったらしいが、それでも今やだるまのように頭部と胴体だけとなったS-098は俯せになってその尻穴に産卵管を受けいれて悦んでいた。
 初めて女王蜂の産卵管を受け入れてから3年ほど経っていたが、どうやら黒茶蜂には離婚とか飽きるとかいう概念は全く無い。
 虫だから当たり前と言えば当たり前だけど。
 研究員は、ポリポリと頭を掻きながら、目の前のそれを観察する。
「そういや、そろそろ新しい女王蜂の卵の時期だよなあ−。どうしようかなぁ」
 時期的にいっせいに産卵時期を迎えるだろう6匹の女王蜂達に全部産み付けられたら、たぶん──ではなく、絶対に壊れて使い物にならなくなるのは目に見えていた。一匹分だけならなんとか腹の中で育てても産み落とせそうなサイズなのは判ってはいたのだけど。
 さすがに、まだ壊すのは早すぎて、もったいない。
 ならば。
「よし、抱卵蜂を増やそう」
 女王蜂一匹に抱卵蜂一匹。
 女王蜂の本能を少し弄る必要があるが、三年の間に新たなデータを取得できていて、実現不可能ではなかった。
 それに。
「抱卵蜂の候補は、ちょうどS-098の弟3人が手に入っているし。残り二人は、別件で似たようなのを確保して置いたし」
 嬉々として呟きながら、手元のメモパッドを操作して新たな実験計画書を作り上げる。
 同時に、同じスポンサーから得ている兄弟の様子を確認し、全部で5体の実験体の同様の身体改造を申請する。
 それには結構な経費がかかることは予想できたけれど、この実験は大成功という成果を上げ続けているので、上司の覚えは非常に良く、許可は得られやすい。
 それに、女王様にいたぶられる様が面白いと絶大な人気を誇るシリーズに新たに追加できるし。
「女王蜂が死ぬまでがんばってくれよ」
 女王蜂が死ねば、コロニーは滅びる。
 その時、人の身で抱卵蜂となった彼は、一体どんなことになるのやら。
 ふっとそんな事を考えたけれど、まだずいぶんと先のことだと、研究員は意識の隅に追いやって。
 新しい実験の準備のために、愉しそうに施設内へと戻っていった。


【了】