良い子-悪い子 おまけ

良い子-悪い子 おまけ

–おまけ–

 【幸せ】

「テン、今日もすごいね、熱くてうねってるぜ」
「あ、んあぁぁ、リィドぉ——ああ、すごぉぉぃ、ひぃん、あひぃぃ——っ、あんんあっ、ああっ」
「ふふ、テンの中が激しく収縮して、俺のに食らいついて離れないな。女王様のテンがこんなにも淫靡に俺に抱かれている、なんて知ったら、テンの奴隷達に嫉妬されてしまうな」
「だ、だぁって、俺は、リイドのものだもんっ、リイドじゃない、と、ヨくなんないよぉぉ、ああ、奴隷た、ち虐めは、このため、の、スパイ、スだからっ、ああんっ」
 飢えたココが悶えながら眠る隣室で、ベッドに俯せになった世話係のテンは恋人兼上司のリイドに背後から貫かれた。
 忙しいリイドはなかなかここに来れないから、今日は久しぶりの逢瀬だ。
 会えない間は、リイドから引き離される原因となったメスザルに当たり散らして気を紛らわしていても、熱は溜まる一方だった。
 会えた途端に、餓えた身体が貪欲にリイドを求め、我慢できなくて。
 といっても、テンは全裸だが、リイドはスーツの上着を脱ぎもせず、ズボンの前からペニスを出しているだけで、ベルトも外していない。
 それでも、リイドのペニスで貫かれることしか頭にないテンは気にならない、というより気づいてすらいなかった。
 そのベッドサイドには、リイドがセックス前には必ずテンに飲ませる、名前にちなんで緑色をしたシートが落ちていて。その片隅に、Hの文字が小さく入っていた。
 テンは、ハイパーの存在を知らないから、それがグレード1の特に純度の低いモノだと思っているけれど。
「可愛いよ、テン。テンは俺のものだよね」
「あんっ、ひぁぁ、あ、そ……お……テンは、リイド、のもの、だよ」
「そうだね、テンは俺なしじゃもう生きていられないんだ。愛しているよ、テン」
 そう甘く囁くリイドだったけれど、そのテンの痴態を見つめる瞳はひどく冷たい物だった。
 もともと天才調教師の名を欲しいものにしていたのは、このリイドだ。そんなリイドがテンと出会ったのは5年前で、まだテンが高校生の時だった。
 その頃のテンは何もしらない、自分の身に起こった不幸に嘆き悲しむことしかできない子で、そんなテンを言葉巧みに誘い、その初めての身体を開かせ、ドラッグで狂わせるのは非常に簡単だった。
 最初からグレード・ハイパーを使われたテンは、その瞬間から、ドラッグに精神を冒されたのだ。
 知らず習慣化させられたドラッグの服薬とセックスは、テンにリイドに対する盲目的な崇拝心と絶対的な忠誠心に服従心とを無意識下に植え付けて。
 言われるがままに、リイドの恋人であると思わされながら、都合の良いメス奴隷にされ、リイドが望むままにその身体を使われて。調教師が天職だと教えられながら、組織に敵対するスパイを調教という名で殺す人殺しにさせられた。
 そんなことを、テンは知る由もない。
 テンは、リイドがいてくれれば良いのだ。
 だけど。
 メスザルの世話係を任命されてから、その幸せは破られた。
 触れるどころか、声すら聞けぬ日々。
 それもこれも、自分が人だと勘違いしているメスザルのせいなのだ。
 だから、あれにメスザルであると認識させれば、いつかはまたリイドと一緒に暮らせるんだ、と。
「リイドォ、リイド、おれ、がんばってるよねぇ、ああん、ん、ん、あのメスザル、すっかり、ドラッグにはまってさ、いっつも涙するほどに喜びながらコ腰振ってんの。だから、悪いメスザルだって……あひっ、ボス、馬鹿にしてたモンっ、あっ」
 今日、久しぶりに訪れたボスは、ご主人様に気付かず、カバーで届かぬアナルに隙間から指をいれようと必死になっていたココを見て。そして、粗相もしていたココを、はっきりと悪いメスザルだと言っていた。そんな悪いメスザルには罰を与えてくれ、って。
「何をするんだい?」
「あ、あのね、ぇぇっ、あんっ、警備、犬のっ、ぶっといチンポ持ってるシェパードが発情期、なのぉ……」
 それだけで、リイドにはすべてが判って。
「良い子だよ、さすが俺のテンだ」
「や、あぁ、ああぁ——んあっ」
「そうだ。いっそのこと、犬小屋の中に繋いだらどうだかなあ……」
「あはっ、それサイコー」
 嬉しげに、幸せそうに微笑むテンの指示で、明日からココの遊び場は、10頭を飼う大きな犬小屋の中に移るだろう。
 発情した雌犬のフェロモンを浴びたココの存在に、雄犬達は次々と発情期を迎えるに違いない。
 セックスの間に言われたら言葉は、睦言しかテンの心に刻まれない。それ以外の言葉は、すべて自分の中のものだと中毒者は信じているからだ。
「んふっ、にゃ、かぁ、ああっ、ひぃゅぅっ」
 身悶え、嬌声がひっきりなしに零れて。テンの限界が近い。
 そろそろ頃合いだとリイドはほくそ笑んで。
 服を汚さぬようにと、浅い抽挿で感じさせまくっていたのを、ちょっと強く前立腺を抉ってやる。
 途端に、ひどく敏感に餓えていたテンは簡単に絶頂を迎えて跳ねた。
 ドラッグの効果で、テンの絶頂は非常に早く、全身が痙攣してしまうほどに強い。
 実際、初めてから10分も経っていないが、ドラッグの効果とリイドの技で与えられた快感は、テンの身体の力を奪い、意識を薄れさせていた。
 その痙攣する身体を横目に、リイドは身体を起こし、体液に濡れたペニスを準備して置いた濡れタオルで綺麗にしてしまい込んだ。
 そのペニスは射精などしていなくてもすでに萎えているのに、眠りかけているテンはその様子にまったく気付いていなかった。
「テン、ボスに呼ばれているからちょっと行ってくるよ」
「ん……」
 その返事も無意識で。
 その口に滑り込まされた3Hと刻まれた錠剤を次々と、言われるがままに飲み込み続けたのも無意識で。
 今は幸せな夢を見ているテンも、次に目覚めたときにはドラッグの効果に狂いながら、この屋敷専用の屈強な兵達の性欲処理にその身を投げ出すだろう。一回の摂取量を超えて取らされる日々に、それでなくても過敏になっているテンの身体はセックスしていないといられないのだ。
 リイドに抱かれているという幻覚の中、飲んだ分のドラッグが抜けるまで。
 解けてもなお、うずく体をもてあまして、オスを漁るのだ。
 そしてまた、解けてしまえば、己のしでかした浅ましさを悔いて、より徹底してココの世話を行うようになる。
 それが最近の状況だと、テン用の薬を箱いっぱい預けている男から報告があがっている。
 何もかも順調だと、リイドは僅かに乱れていた服を戻すと振り向きもせずに部屋から出て、スーツから取り出した携帯で電話をかけた。
「こちらの首尾は順調です。 ええ、はい。世話係は何よりもアレが嫌いですからね。……ね、それより……今から……良いですか?」
 うっとりと囁きかける先から、了承の言葉が返ってきて。
「愛しています、ベイルーフ」
 その言葉が相手に伝わるのと同時に、同じ内容の言葉が返ってきた。

 
 初めて出会った年の一年後、同じ月、同じ日、同じ場所の事務所の執務室で。
 ボスの命令のままに、初めての行為を見られながら繋がった日は忘れられない。
 ベイルーフがリイドに、リイドがベイルーフに。
 慣れない二人は痛みと流血沙汰ばかりで、まともに射精すらできなかったけれど。
 それでもボスはたいそう気に入ってくれて。
 その日、祝いだとボスから名付けられた名前は、二人にとって大事な記念品だ。
 そんな大事な品の前では、親がつけた名前など塵芥のようなもので、すぐに忘れてしまったほどだ。 
 そんな二人だからこそ、ボスがくれた名前を簡単に捨てたココを、許すことはできなかった。
 だからこそココのメスザル化計画は、徹底的に念入りに緻密に計画され、それを確実に、より以上の効果を与えることができる手駒を選んだ。
 ドラッグ漬けのアレは、こういう時にはたいそう便利で。
 けれど、アレとの行為はリイドにとり自慰ですらない。ここ数年、アレの身体で射精などしたことがなど無くて。
 リイドにとって、幸せなその時は、ボスに従うこととと恋人との逢瀬の時だけ。
 そこには、ドラッグなど必要なく、ドラッグの効果より、はるかに強いものがあった。
 
 
【了】