【Animal house】(2)

【Animal house】(2)

 大きなペニスを口の中で育てる。
 使い込まれたそれは、ウサギの口内で硬く太く、喉の奥まで犯していく。昔子供の頃、大人の男のグロテスクな持ち物と、自分のささやかな代物とを比べて、その差に驚いたことがあった。自分も大きくなれば、あんなに立派になるのだと思った。けれど、今、自分でもそれなりに大きくなったとおもったけれど、その大きさは使い込まれたリィの比ではない。
 白人のリィなのにウサギのモノよりどす黒く、大きさだけでない猛々しさを持っている。 
「んぐっ、ふぁっ、あぐっ」
 リィは動かない。いつだって動くのはウサギだ。自由に曲がらない腕でリィの大腿に触れて、固定された膝でも高さが合うように身体を傾けて。グチュグチュと音を立てながら、リィのペニスをしゃぶり、先端から滲む体液を啜り上げる。
「美味しいかい?」
 どんなに懸命にウサギが奉仕しても、悔しいほどにリィの声はいつだって平静だ。指が涎にまみれた喉を撫で上げ、耳朶を擽る。途端に甘酸っぱい疼きが表皮の下を駆けまくり、じっとしていられなくて身悶える。時折大きくびくびくと震えているのは、もう怯えているだけではない。
 一ヶ月の間、リィによって開発された性感帯は前立腺だけではなかった。
「ああ、美味しそうだね。そんなに嬉しそうに尻尾を振って」
 リィの前では何もかも隠せない。
 かけられた言葉にそっと見上げれば、薄く霞んで歪んだ視界の中で、リィが嗤っている。
 大きなペニスが敏感な口蓋を刺激し、苦しいはずの口淫ですら淫らな疼きをこみ上げさせた。そんなところまで感じるなど、昔には考えたことすらなかった。
 けれど、キスすらまともにしたことのない口の中を犯すペニスは、ぎっちりと口内を埋め尽くしているのにその僅かな動きで、ウサギの口内を犯すのだ。
 さらに、振動は弱まったけれどそれでも動くバイブを銜えたアナルは、その先を求めてひくひくと震えていた。そのせいで、尻尾が震えるのだ。
 リィは巧い。
 黒服達が、リィが相手に望むウサギは幸せだという。もっと酷い客もいるらしく、いつも怪我ばかりしているアニマルだっている。やり過ぎて死んだアニマルすらいると言われて、それよりかはマシかとは思えるのだけど。
 けれど、ウサギは恐かった。
 リィは恐い。暴力よりも、恐ろしい恐怖をリィは与えてくる。
「お前が喜んでくれると私も愉しいよ」
 まだ始まったばかりで、この先何をされるか判らない。けれど、この上機嫌なリィならばただ楽しんで終わるかも知れない。ウサギは微かな希望に縋って、必死になってリィに奉仕した。
 勝手に射精して、その罰だと尿道には太い棒が突き刺さっている。根元には射精防止のリングが嵌り、そのリングに棒の鎖がつながっているから、もう自分では外せない。細い金の鎖を止める鍵も、四肢の枷と同じく全てがリィが持っていた。
 もしそのままリィが鍵を持って帰っても、そのための経費を支払って貰えれば黒服達は何も言わない。排尿すら困難なウサギを放置して、たとえ死んでも構わないと黒服達に思わせるほどの金額を、リィはいつもポンと払う。
「もっと強く吸いなさい」
 言われて、追われるように音を立てて吸い付いた。
 フェラチオはおろか、喉の奥まで開いて受け容れる方法は、最初の時に徹底的に教えられたことだ。
 リィは、ウサギの狭い喉をたいそう気に入っていて、毎回必ずこれをさせる。
 初めての口淫の時は、嫌だと逆らって四肢を縛り上げられた。今のように枷をされていなかったから、思うさまに暴れられたのだが、リィは敏捷さでは負けないウサギの身体をなんなく押さえつけ、瞬く間に拘束したのだ。
 その後にペニスの代わりにゴム製の張り型を喉まで突っ込まれて、未だ硬いままのアナルを無理に犯されたのだ。生身を受け容れるのは初めての、指二本で悲鳴を上げるアナルにだ。
『しょうがないね、我が侭な子は。私は性欲が有り余っているから、お尻だけで受け容れるのは大変だよ』
 そんな言葉をかけられながら、叫べない悲鳴で張り型を震わせながら、快感の一つも与えられないままに犯された。
 リィは言葉通りに絶倫だった。その上、体力もあって、暴れるウサギを捕らえた後も大して息を荒げていなかった。
 しかも、犯している間中その面にひややかな笑みすら浮かべて苦しむウサギを楽しみながら、遠慮呵責無く初めてのアナルを蹂躙したのだ。
 数度の射精の後、ようやくペニスを抜かれたアナルは切れ、下半身は血まみれになっていて酷い有様だった。そのうえ、赤く腫れたアナルは軽く触れられるだけで激痛が走った。それでも、もう終わったのだと酸欠で苦しい脳でぼんやりと考えたのだけど、再び指が入ってきて……。
 生身のペニスの代わりに挿れられたバイブ機能付きの淫具で一晩中前立腺を嬲られたのだった。
 あれで、調教中もなんとか保っていた牙をへし折られたと言っても過言ではないだろう。
 そして、今も。
「あっ、ひぁぁぁぁっ!!」
「集中しないと、マックスで動かし続けるよ」
 そんな気は無かったけれど、意識が削がれていたウサギの尻で快感が爆ぜた。尻尾がブルブルと激しく震えて尻を叩き、その振動のすさまじさを外からも伝える。
「あひっ、す、ませ……っ」
 悲鳴と共に外れかけたペニスを銜え直し、グジュグジュと溶けかけたアイスをしゃぶるように吸い付く。
 それでもバイブは止まらなくて、意識が持って行かれるような快感が駆け巡って止まらない。油断すればそのまま崩れていきそうな四肢を獣の体勢のまま保持して、涙目で許しを乞うことしかできない。
「ウサギ、可愛いウサギ。瞳をうるうると潤ませて、ああ、なんて可愛いんだろう」
 その言葉を、優しい笑顔と仕草で向けられるのなら、そのペットは幸せだろう。
 実際、ほんの少しバイブの震動が弱まったことにはほっとしたけれど。
 けれど。
「んっ、ぐぅぅっ」
 いきなり激しくなった抽挿に塞がった気道が痙攣する。
 グン勢いよく喉の奥に押しつけられ、直後放たれた精液は独特の臭いで鼻腔をくすぐり、震える喉の奥から食道へと直接流れ落ちた。それでも、濃厚なそれは、粘膜に絡みつきゆっくりとしか流れない。
 熱いペニスが僅かに引かれて軽く往復する。朦朧としながらも教えられた通りに口をすぼめ、舌を絡めてペニスを扱いた。僅かにできた空間が、絞り出された精液に満たされる。それをゴクゴクと飲み干して、決して零さないようにした。
「美味しいかい?」
 最中にも問われた言葉を再度かけられ、抜き去っていく肉棒に安堵しながら、こくりと頷いた。
 ゼイゼイと肩で息をすると喉の奥がひりひりと傷む。激しい呼吸のせいもあるが、喉の奥を使われたせいもあった。自然歪む口元のすぐ前に、抜かれたペニスが差し出される。自分の唾液と、まだ滲む体液のねっとりとした汚れにまみれたそれを認めて、ウサギはそっと舌先を差し出した。
 ペロペロと仔犬のようにそれを舐めて、垂れる汚れを全て受け止める。
「ほんとうに大好きだね」
 大嫌いなモノでも、客が大好きと言えば大好き。自分の意志など脳の片隅に追いやって、頷くしかない。
「はい、大好きです」
 全てに肯定することが、リィに対して取るべき態度。
 見るのも嫌な禍々しいペニスに、吸い付き、舐め取り、無邪気に擦り寄る。それがアニマルペットの取るべき仕草で、拒絶は許されない。
 だから、好きだという態度を取るために、ぺちゃぺちゃと音を立てて、溢れる体液を美味しそうに飲み干して見せなければならなかった。
 そう、本物の動物とここでのアニマルとの大きな違いは、拒絶を許されないことだ。理性のない動物とは違うあからさまな差は、アニマルと言いながらそれが理性ある存在だと言うことを認めている証拠なのに、動物ですら行う拒絶という行為を、理性故に捨てさせるのだ。
 こうやって、浅ましく求めさせて、相手が望むがままに振る舞って。
「そう、イヤらしいね。こんなモノが好きだなんて。可愛い子兎のくせに、とんだ淫乱だ。そんな悪い子には、罰を与えないと」
 好きであれ、と言いながら、それは悪いことだと繰り返される。
「あ……ご、ごめんなさい……、ああっ……」
 がしっと結わえた髪を掴まれて、冷たい床に押し倒される。
 ふらふらと揺れる丸い尻尾が、リィの目の前に晒されて、それにリィの革靴の底が押しつけられた。
「ひ、ひぃぃぃっ」
 ふさふさの毛の中の丸い玉が、ぐりぐりとアナルに食い込んでいく。
 ぎっしりと中身を埋め尽くした張り型のせいで、もう中に入れるのはきつい。なのに、押し込まれていくそれに、這い蹲ったままのウサギの悲痛な悲鳴を上げた。
「た、も、もう、はいら……ひぁぁ」
 ズリズリと逃げようとする身体は、首輪に付けられた鎖で引き戻される。抗う手足は、もともとまともには動かない。
「尻尾は普通中には入らないだろう? まあ、よっぽど淫乱な兎ならば、神がそういうふうに作ったかもしれないけどね、試してみるかい?」
 本来ならば入らないと言われて、けれど神の作った兎でないウサギは嫌々と首を振る。
『兎が二本足で歩くのはおかしいよね。神は、兎は四つ足であれ、とそうしたんだからだからさ、だから四つ足になるようにしてあげるよ』
 そう言われて付けられた関節を固定する枷は、もう一ヶ月外されていない。関節が固まって動かなくなるだろう、と言われた時には外したくて皮膚が傷だらけになるほどに頑張ったけれど、硬い金属と皮でできたそれは、結局外すことなどできなかった。
 その上、また兎と違うと思われたら、再び同じようにしようとするかもしれない。
「ひぃ、いぁぁぁっ」
 硬い革靴の底が、尻タブに触れる。
 慎ましやかに閉じていたアナルに、尻尾が食い込んでいくのは見えないけれど、それでも確かにアナルのシワが伸びて異物が入っていくのが判る。
 張り型だけでもいっぱいだった腹に、さらに入っていくせいで中から突き上げられているようだ。
 苦しさに呻いて、嫌々と何度も首をふるけれど、足の力は弱まらなくて。
「おやおや入っていってしまう。淫乱な子兎は、尻尾でも遊べるようになっているんだね」
 何をしても、何を応えても、結局はリィの思うがままになっていく。
「あ、あ……ゆ……して……ひぐっ……マスター、もう……」
 半ば以上入ってしまったのだろう。尻尾の毛が、尻タブの狭間の奥深くに感じる。
「許して? 何を?」
 何を、と言われても、何と応えて良いか判らない。
 ただ、強請るように背後のリィを見上げて、言葉を紡ぐ。
「何でもしますから……、許して」
 明快な答えなど返せるはずもなく、ただ、許して、と繰り返す。
「許して、と言われてもねぇ……。淫乱な子兎の何を許せば良いのやら」
「許して……もう……挿れないで……」
 まだここに慣れないウサギは、こんな時どう返して良いか判らない。
 犯され、意識を失うまで、ただ陵辱される存在でしか無いから、そんなことは誰も教えてくれなかった。
「そう、挿れたくないって?」
 その言葉とともに靴底が離れた。それにほっと息を吐く間も無く、また髪を引っ張られる。
 ぐいっと引きずり上げられ、身体の向きを変えられて、近づいた顔が鼻先で嗤う。
「おいで、淫乱で可愛いウサギ。お前の望み通り私からは挿れないであげよう。だから、お前から挿れなさい。私が満足するまで、お前が腰を振って、跳ねて、踊って。そう、今夜は踊り狂いなさい。私が満足するまでね」
 何を。
 と、問うより先に、全てを理解したウサギの顔から音を立てて血の気が失せた。


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