勝手に達った罰として、シイコの身体に鞭を打つ。
襲う鞭から逃れようとするけれど、それが本気で無いのはモロバレだ。
「綺麗だぜ、シイコ」
月光を浴びた白い肌に、幾筋もの赤い筋。
振り上げた鞭が当たって舞い散る桜の花びらがまとわりつき、まるで花模様の薄衣を纏っているようだ。
「あ、は……すごぉぃ……俺、なんか……くるっちゃいそう」
見上げた満開の桜を視界に入れながら、うっとりと呟く。
「シイコ?」
いつも淫乱で快楽に狂いやすいシイコだけど、いつもよりさらにその傾向が強いようだ。
「桜に酔ったか?」
髪に隠れたうなじを探り、汗ばんだそれを舐め上げて問えば。
「うん……そうみたい……」
欲情に潤んだ瞳が桜色に染まって、俺を誘う。
「ねぇ、もっと……もっと狂いたい」
「ああ、狂わせてやる。このまま夜が明けるまで、な」
俺も酔っているのだろう。
「あ、あぁぁっ」
背後から抱きしめ、桜の幹に押しつけながら、挿入すれば、歓喜の声が迸る。
右足を抱え上げ、桜を抱え込むようにさせて、身体を持ち上げ気味にすれば、下がった尻がより深く俺を銜え込んだ。
「ふ、かぁ……っ、あっ、きつぅっ、あはぁぁっ」
逃げ場の無い身体をがつがつと貪り、快感に仰け反る首筋に噛みついて歯形を残す。
グチャグチャと溢れ出る粘液が尻タブを汚し、太股を使って地面まで流れていた。
「お前のきたねぇ汁でも桜の養分になるかな?」
「俺の? 俺のが桜に? あ、ああっ、すっごぉい!」
何を言っても、何をしても、シイコにとっては嬉しいのだと、ぬかるんだ地面に新たな体液を零す。
「ぎぃ、ぁぁぁっ! いやあっ」
対面でした悲鳴に幹の向こうを覗き込めば、庭岩に仰向けに乗せられたテルが、ケツマンコが真上になるように括られていた。庭石は身体半分が乗るくらいの表面が平らな御影石で、まるで供物を乗せる祭壇みたいな形をしているのだが、その上で、でんぐり返しに括られているのだ。
そんな不自然な姿勢で、ずっぽりと銜え込むのは、例の双頭のぐねぐねスネークちゃん。
片方はけっこう奥までテルの穴ん中で、もう一方はと言えば桜の枝に紐で括られていて。長い余った紐の反対側は、テルのチンポの目元に括られていた。
「す、ごいっ、なんかっ、テルの穴、から、蛇が天に昇ってる」
俺に犯されながらも、その光景に見入るシイコの瞳に嗜虐の色が篭もるのを感じながら、俺も嗤いながら見つめる。
「ほら、見てみろよ」
涼しい顔をした店長が口角を上げ、かちりとスイッチを入れた。
途端に蛇が暴れ出し、テルの身体がこれでもかってくらい暴れ出した。
「ああっ、ひあっ、やあっ、きつっ、あぁぁ、イクぅ、くううぅぅぅっ」
びくんと震えたチンポが、どくっどくっとザーメンを噴き出しても、蛇は止まらない。
しかも、蛇が暴れてテルが暴れれば、桜の枝もゆさゆさと揺さぶられて、たくさんの花びらが舞い落ちた。
「きれっ、テルってば、すっごい、きれいっ」
あのシイコが自分の快感も忘れて魅入るほどに、その光景はキレイの一言に尽きて、俺も堪らず魅入ってしまう。
「ひっ、あうっ、やあっ」
また達って。
ギシギシと揺れる枝が、桜を零す。
「外しっ、て、たすけ、あうっ、くうっ……またっ、やだ、またぁぁ」
繰り返す射精に薄いザーメンを散らし、止まらない脈動にまた震え。
必死に店長に助けを請うテルの視線に、店長が嗤う。
ああ、店長もタガが外れている。
そう判断したのは間違いないだろう。
ここは桜の妖気が充ち満ちていて、俺たちは、それに酔っていて。
荷物から薬の瓶を取り出した店長が、フタを外し、細くて長いノズルを取り付けた後、スネークちゃんの隙間からずぶずぶとそれを突き刺して、ぐちゅぅっと全部押し出した。
「て、てんちょ……それ、ぜんぶってのは……」
それは俺もそんなに量使うのが躊躇う、とっても痒くなる薬だ。
かぶれるから、後々フォローが大切なそれを、スネークちゃんで満たされた腸内にそんなに注いでは、奥の奥までかぶれて大変なことになる。
けれど、俺の言葉など無視して、店長は今度はビールを取り出して、桜に背を預け腰を下ろした。
「やっ、かゆっ、やあ、かゆいぃぃぃ——っ、おね、がいっ、しますっ、助けってぇぇ」
テルが必死になって店長を見つめて叫ぶ。
だが、店長がその言葉が聞こえないようにビールを飲み、花見でもしているように、テルの様子を眺めていて。
痒みの中でも元気なスネークちゃんの動きに達きまくるテルが白目を剥いて意識を飛ばした。
そんなテルに店長は、イヤらしい身体だと、真っ赤なロウソクを取り出して、乳首に、チンポに、そしてアナルまで、ボタボタとロウを落とした。
その途端、悲鳴を上げて跳ね起きたテルは、また尻の痒みと快感で腰を振って。
気絶しては、たたき起こされて、快感にまた気絶する。
月に晒され白く浮かびあがり、ところどころを毒々しい赤色に染めたテルは、繰り返される調教に、次第に意味の無い言葉で狂ったように喚き続けながら、腰だけで歓喜の舞を舞い続けた。
白々とした夜明けは、疲れ切った身体には眩しすぎた。
春とは言え、まだ裸で外にいるのは寒いだろうと、途中から用意されたガス式の篝火が役目を終えたとばかり消えて。
一晩中遊んでいたに違いないのに艶々のお肌のお客様が、喜色満面で俺たちの元にやってきた。
「昨夜からずいぶんと楽しませて頂きました。このように愉しかったのは久しぶり」
ほんとうに愉しかったと心からの賛辞を繰り返され、俺は頭を掻きながら、こちらこそ、と礼を言った。
楽しんだっていえば、俺たちもだ。
桜の下でぐちゃどろになって犯されたいというシイコの要望は叶えられ、俺たちも、獣のように快楽を貪った。
そう簡単に打ち止めにならない自慢の玉も、さすがに空っぽになっていて、なんだか腰が軽いような気がする。
そんな俺のザーメンをたっぷりその身に受けたシイコは、全身どろどろのまんま地面に転がっているし、穴にはまだオモチャが刺さり、乳首はテルのピアスに繋がる鎖が繋がったまんまだ。
最後の頃に綱引きをさせた名残のそれは、結局痛みに負けたテルの負けで終わって。
罰として、テルはオモチャと店長のチンポの二輪差しを受けて、乳首で繋がったまんまのシイコは、彼らが動くたんびに乳首を刺激されてきゃあきゃあと喜んでいた。
そのシイコのオモチャ入りの穴に、入れてと強請るから俺のを入れたから、今のシイコの尻穴は、ぱっくりと開いていてオモチャを入れてんのに、ザーメンが溢れている。
いや、桜って怖いな。
いつもは外で興奮しててもここまでやらねえのに。
はっきり言って、店長はかんぺき壊れていたような気がする。
その店長も、あの台座に寝っ転がって、ぐうすう高いびきだ。
これはみんな風邪引きそうだな、と、服を着ててもぶるりと身を震わせるけれど、後悔なんて露とも感じなかった。
けど。
「この屋敷は昔政務のお偉方相手の娼館でしてね。屋敷の各所にその名残があるからこそ、ここを購入したんですよ。当時の記録も残っておりまして。どの部屋が何に使われたか、どんな道具があって、何に使用したか、判っています。昨夜は、陽介くんをそのうちの一つに連れ込んで、いろいろと試してみたんですが、素晴らしいですねぇ、電気的なモノなどないのに、いろいろなカラクリに陽介くんは良い声で鳴いてくれましたよ」
なんとまあ……。
昔ながらの風情がある建物だとは思ったが、そんないわく付きのモノだったとは。
ちょっと見てみたいかも——と好奇心丸出しで屋敷を眺めていたら。
「この桜の下も折檻場所の一つらしく。というより、脱走や客に危害を加えた最低の娼婦や男娼の折檻のためらしくて、ここで何人もの娼婦や男娼が死んだらしいです」
「はあ……?」
何だそれは?
死んだって。
死んだ……ってえぇぇっ!!
あまりの事に声が出ない。
「桜に括り付けて、鞭打ち、ロウソク、緊縛、吊し、と、ありとあらゆる責め苦で、息も絶え絶えになるまで痛めつけ、一晩生き抜いたら許されたと言われています。まあ、死なせたらもったいないので、そこまでは数は少ないようですが。何しろ、その手の専門の調教師がいたということで、彼の手にかかればどんな反抗的なモノも泣き喚いて許しを請うしか無かったということですから」
「はあ……」
でも死んだ人間もいるってことで……ここでっ。
「桜の木の下には死体があるってよく言われますが、ここでは実話なんですよ。死んだ娼婦や男娼が何人も埋められているって話で、だからこそ、ここの桜はこんなにも妖艶な色合いなんだそうです」
叫びたいのに、強張った口からは間の抜けた返事しか出てこない。
なのにお客様は愉しげに続ける。
「ほら、そこの台は」
と言って指し示したのは、店長が寝ている御影石で。
「特にきついお仕置き用に設置されて。例えば、ダルマのように身動きできない状況にして、下働きの屈強な男達に犯し続けさせるとか。とろろ芋を突き刺して、そのまま一晩放置とか」
「……」
どこかで似たような光景を見た記憶が……とってもあったりして。
「その頃の調教師の一人が病に倒れて亡くなる寸前に、いつまでも調教風景を見たいからとここが見れるところに埋めてくれと言ったそうですよ。ほら、その御影石は彼の墓も兼ねていて、前は普通の木の台だったんですが、その時に据え直されたってことです。自分の上で責め尽くしている気分になれると、彼自身の遺言で。それ以来、必ずあの石の上で、最後の責め苦が行われたと」
「………………」
ぞくぞくと背筋に厭な悪寒が走り、全身を冷たい汗が噴き出していた。
「昨夜からの光景を、私もカメラを通して部屋で見させて頂いていましたが」
いや、それは知っていましたが。あからさまに設置してあるカメラは、最初から目に入っていたけれど。
いや、それよりもなんでその話を最初に教えてくれなかったのか。たぶん店長も知らないその話を聞いていたら、きっと俺たちは来なかった。
こいつは、知っていたら来ないと判っていたから、俺たちに話をせずにいて。
今、それを聞いた俺の反応をたいそう面白がっているのだ。
「記録でしか知ることのできなかったあの頃が、映像として甦ったようだと思いましたよ」
しっかりと手を握られて、ぜひまた来てくださいと言われても。
俺は。
「はい、まあ、その……たぶん……」
と、蒼白な顔で、曖昧な言葉しか出なくて。かと言って、もしかしても嘘の話を信じた風には見られたくないと、必死で矜持を保って。
それでも、客の手が離れると、風邪引くからっと断って、慌てて店長を叩き起こした。
幸いに、起こした店長はちゃんと店長で良かったけど。
客と離れた僅かの間に慌てて聞いた話を店長に話した途端、店長は黙りこくってしまった。
その沈黙が怖いんですけど……。
そして、しばらくして開けた口から聞こえた言葉は。
「俺……実は途中からまるで夢の中にいるような感じで。実際、記憶もところどころ……ないようなんだよ、これが。そりゃ、マズイだろって思ったこともあるのに、止まらなくて……。なあ、そん時の俺って、俺だったか?」
という、恐ろしい証言だった。
結局、俺たちは、お客様への挨拶もそこそこに、手元に起きたがるズタボロになった陽介を引き取って、同様に目を覚まさないシイコとテルを担いで車に乗せて、道交法無視したスピードで店に帰った。
いや、実は帰り際のお客様からのたいそうしつこい、陽介を置いていけっていう要望に、マジで陽介を売ってでも、さっさと帰りたかったんだが。
まあ、人身売買だけは手を染めないってことで、その話を断った。
「ねえねえ、また行きたいよね、あの桜んところ」
帰って二週間ほどして、いきなりシイコがそんなことを言いだしたとき、思いっきり飲んでたビールを噴き出しそうになった。
「凄かったよねえ、あの桜」
確かに凄かったけど。
そういや、シイコはあの時、ただ快楽に浸っていたんだっけ。
テルなんて、店長にさんざん責められて、あの時の話をするだけでも蒼白になって許しを請うのに。まあ、テルの場合はあれ以来、桜を見るとあの時の快感を思い出して欲情してしまうようになったのが相当ショックだったんだろうけど。
だからと言って、一歩間違えれば俺とシイコがあんな目に遭っていた場所に、もう一度行く気にはとうていなれない。
霊なんてもん信じてはいないけど……。いや、だいたい、そんなもんがいるばすもない……けど。
「他のところなら良いがあそこは駄目だ。また行ったら今度こそ陽介は帰ってこれねえぜ。いくら何でも、人一人行方不明ってなったら、一番親しいお前が疑われるし、それに陽介があんな目に遭うようなところに行けるわけないだろう?」
たとえどんなに可愛くお強請りされても、俺自身、あそこには二度と絶対行かないっと固く心に決めたから、未だに後遺症に苦しむ陽介をダシにして、シイコを説得する。
よりによって、陽介は、あの日まだ施していなかったチンポピアスをされていて、ふっといそれを無理矢理挿された結果化膿して、いまだに医師の手当てが必要な状態だったのだ。
俺たちと同好の医者が知り合いにいるから助かったが、下手な病院に行っていたら警察沙汰になっていたところだ。
それはシイコも判っていたし、自分でするつもりだったのに、と怒っていたから、その話を出せば納得してくれた。
「ん……、そうだね。それになんか、テンチョもテルも二度と行きたくないって言っているし、まあしょうがないかぁ」
快感大好きな淫乱シイコであっても、正しい判断はできる。
これが単なる淫乱バカだったから、俺もここまで嵌まりやしない。
「代わりに他のところに連れて行ってやるよ。夏になったらキャンプなんかどうだ?」
別の提案に、途端に機嫌が良くなって。
「行きたい、キャンプなんて学校以外で初めてだ」
忙しい父親と二人っきりの家庭で育ったシイコは、長期の休みも家か近場でしか遊んでいなかったらしい。だからこそ、この手の提案にはたいそう喜んで、さらに淫猥な楽しみ方を探ることも面白いらしくて。
「テントの中とかでもしてみたいなあ」
「判った判った」
まあ、あんないわく付きのところが何カ所もあるわけないし。
「ちゃんと調べといて、たっぷりセックスできるところを探しておいてやるよ」
それでも、今度はきっちり下調べはしておこうと、俺はひくつく頬をなんとか堪えて、シイコに胸を張って言ってやった。
【了】