【檻の家 -絡まる輪-】(後編)

【檻の家 -絡まる輪-】(後編)

 勃起できないようにペニスを戒められた以外は、いつもの同じ日々が続く。
 けれど、いつもと違うそれが敬一には辛い。
「お、おねが……外してぇ、これ、外して──ぇ」
 背後からのしかかる鈴木を仰ぎ見て、涙ながらに懇願する。
「ダメですよ、治りが遅くなりますから」
 欲情にまみれた声音は、笑みすら含んでいて。けれど、敬一の懇願を一刀のもとに切り捨てる。
 熱く熟れた肉壺を太く猛った肉棒で擦り上げながら、胸で輝くステンレスのリングをそっと触れてくるのだ。
「キレイですよ。だからもっと飾り立てたいんです」
 熱の籠もった告白が耳朶に落とされて、噛みつかれる。伝わるのは痛みのはずなのに、ずくりと芯まで響くのは紛れもなく快感だ。
「あ、あっ……やぁっ」 
 掠れた声で喘ぎ、小さく首を横に振る。
 それが辛い。
 込み上げる快感は全て、股間で痛みに変わってしまうから。
「凄いね、今日は良く締まります。そんなにイイですか?」
 良いわけがない。
 全身に快感が走るたびに勃起を阻まれたペニスが痛み、堪らずに緊張した身体が鈴木のペニスを締め付けてしまう。
 そうなれば、さらに快感が沸き起こり、また敬一を苦しめる。
 ピアスをされてから六日目だ。
 ピアスを付けた直後から丹波にさんざん犯されて、一日間を置いた後に三枝、加藤、そして再び丹波に、今日の鈴木。
 若干回数はいつもより短いが、それでもたっぷりと犯され続けた。
 その後に、洗浄だと言われて石けんでまんべんなく洗われるのだ。ピアスしたところだけでなく、敬一の全身全てを、素手で。
 触れるか触れないかの距離を、石けんを付けた手が滑っていく。性感帯だとばれた場所は、特に念入りに。
 ピアスをしたところは、薬用石けんを泡立てて、徹底的に洗われた。
 乳首もペニスも、痛みなど一瞬のことで、ただひたすら堪えられずに泣き叫ぶほどの快感ばかりが与えられた。
 ピアスされたところは触らなければもう痛まない。じくじくとした体液が滲むことはあるけれど、確実に量は減っている。
 それよりも、そこにピアスがあるということが、敬一をおとしめる。
 乳首のピアスは服と擦れ、動くたびに腫れ上がった乳首を刺激した。
 亀頭を貫くプリンスアルバートははもちろんのこと、根元にあるフレネルループは、敏感な亀頭を括りだし、無視することができない異物感と同時に快感をも与えてくるのだ。
 何をしていなくてもペニスが疼いて、三枝がこの場所を選んだ理由が理解したくなくても判ってしまう。
 ピアスを付けた次の日、痛みとも快感とも付かぬ刺激に一晩中襲われて、眠ることすら難しかった。
 だが日がな一日欲情している状態だというのに、解放は叶わない。解放を許されないままに、次の飼い主に渡されて、さらなる欲を注がれる。
 そんな日々が六日続き、敬一の身体はもう限界だった。
「お、おねがぁ……あっ、ああぁ、ゆる、てぇ」
 甘え、強請る敬一の身体がびくびくと震える。
「可愛いですね。ずいぶんと淫乱になって」
 うっとりと囁く鈴木の言葉に、さらに強請るように腰をすり寄せる。
 気が狂いそうだ。
 こんな浅ましい身体になった己が悔しくて、激しい羞恥が押し寄せて来るというのに、身体は堪えられないと勝手に動く。
「あ、もう……おねが……ぁぁぁ」
 アナルを抉られて、快感に目の前が眩む。
 目眩がするほどの快楽に酔いしれたいのに、けれど沸き立つ痛みに邪魔される。
 ペニスの根元は痛いのに、亀頭は触れられてもいないのに快感ばかりが込み上げた。
「可愛いですね。はやく定着してくれればよいのですが」
 最初は定着などとんでもない、と思っていたけれど、この苦しみから解放されるのなら早く馴染んで欲しい。
「昨日、カタログを見させて貰いましたが、素敵なモノがいろいろあったんです。敬一くんは、メタルな感じって好きですか?」
 グチュグチュと音をたてながら、鈴木の赤黒いペニスが埋まっていく。
 胎内から直に伝わる振動と自分の喘ぎ声に邪魔されて、鈴木の言葉がうまく聞こえない。
「三枝さんのお友達がね、オーダーメイドで作って頂けると言われているので、私たちでいろいろと考えたんですよ」
 遠く聞こえる言葉と共に、鈴木のペニスが矛先を前立腺に向けてくる。じわじわと、不意に違うところを突き上げながら、それでも確実に抉り上げる。
 その動きをリアルに感じ、怯える敬一の痙攣する身体をベッドに押しつけて、愉しそうに言葉を落としてくる。
「今でもとっても気持ち良いと思いますが、敬一君がもっと気持ち良くなるようにしてあげますね」
「ひ、ひくっん──っ、やあっ」
 少し狙いが外れている、と感じた直後、快感が爆発する。
 抉るように亀頭が前立腺を擦り上げ、最奥まで一気に突き抜けていったのだ。
「あ──っ、ぁぁぁぁ──っ」
 射精衝動に襲われながらも動きを阻害されて達けないペニスを掴んで、敬一が泣き叫ぶ。
 快感に打ち震え、紅潮して淫猥な色気を垂れ流しながら、切ない悲鳴を上げ続けた。


「ふふ、可愛いですね、ほんとに」
 空達きを繰り返し、鈴木の腕の中で無意識に暴れる身体を押さえつけて、容赦ない抽挿を繰り返しながら、うっとりと言葉を落とす。
「こんなに可愛くなるなんて、嬉しい誤算でした」
 最初の見た時よりはるかに可愛く化けた青年に、鈴木が嬉しそうに微笑む。
「そうそう、一通り楽しんだので、明日にはこれを外して上げますからね」
 指が、締め付けられて変色したペニスに絡んだ。その拍子にぴくぴくと震えたペニスを愛おしそうに撫で上げる。
「みんな、とても愉しめたと悦んでいました。甘えて強請る敬一君はほんとうに可愛いですから、ほんとうにこれを付けて良かったですよ。もっともっとそんな姿を見せてくださいね」
 このペニスバンドは実はつける必要など無かったのだけど。自ら懇願する姿を見たいがために付けてみたのだが、その目論見は大成功だった。
 この様子ならば、淫乱な身体に仕立て上げることは容易いだろう。
 誰もが変態と目を瞠るような淫乱な身体に。
 けれど。
 と、鈴木はほくそ笑みながら、暴れたあげくに意識を飛ばしてしまった身体への抽挿を繰り返す。
「狂わしませんよ。絶対に」
 初めて会った時の、困惑しながらもこちらの挨拶に浮かべたはにかむような笑顔。
 辛い境遇を思い出して、堪らずに出たであろう涙。
 それでも、将来を諦めていない青年の、常識を弁えた姿。
 そんな敬一だからこそ気に入ったのだから。
 だからこそ、どんなに男無しではいられない身体になったとしても、人としての常識を忘れさせないつもりなのだ。
「明日は、大学に行って……帰ってきたら外して上げますから」
 明日は、敬一のお休みなのだ。
 洗浄はするけれど、アナルに触れないようにすることは、暗黙の了解となっている。
 何しろ、みんな楽しみなのだから。
 溜まりに溜まった欲望を、この子は一人でどうやって解放しようとするだろうか、と。
 明日は、ドアは開きっぱなしにさせて。
 家にいる限り、大広間にいるようにし向けて。
 ああ、衣服はつけないようにさせて。
 鈴木の人より優れた知能を持つ脳が、敬一がもっとも可愛く見えるだろう状況を想定し、そのための準備を考える。
 不動産関係の営業である鈴木にとって、この不景気は確かに頭の痛い問題ではあるけれど、その苦労も敬一で遊べるなら、乗り越えられる程度のものだった。
 
【了】