【檻の家 -絡まる輪-】(前編)

【檻の家 -絡まる輪-】(前編)

 敬一がこの家に来た歓迎会の日から二週間が経った。
 毎日のように嬲られ続けてきた身体を、今日は久しぶりに四人で弄ばれた。
 今日は珍しく制限無く射精できたけれど、その分後が辛かった。萎えたペニスが、抽挿により揺れて鈍く痛んでも、誰も止めてはくれなかったから。
 それがいつもより早く終わったと思ったら、今度はあっという間に拘束された。
 上体だけ起こされて、その先に見えた道具に、敬一の顔が大きく歪む。
 迫ってくるそれから避けようと腕を大きく振ろうとして、途端に首が絞まって息苦しさに喘いだ。
 後ろ手に縛られた縄のその先が、首にも巻かれているからだ。
「暴れると手元が狂っちゃうかもなぁ」
 愉しそうに笑む三枝に、そこかしこから苦笑が零れる。
「怖くないって」
 丹波の腕が、敬一の上体を抱え込む。たいした力は入っていないように見えるのに、それだけで身動ぎ一つできなくなった。
 大きく割り開かされた両足は膝で折り曲げられた状態で固定され、右足は鈴木が、左足は加藤が押さえつけている。
 もとより、四人からさんざん嬲られた後で足腰に力は入らない。
 それでも男達から逃げたいと、身体が無駄に足掻く。
「ふふ、良い格好だねぇ。おマンコがまだ足りないってひくひくと震えてる」
 指が、剥き出しになったアナルの縁に触れた。
 赤く腫れ上がり、完全に締まりきらないそこから、注ぎ込まれた精液がぷくりぷくりと噴き出している。
 それを掬われ、口の中に突っ込まれる。
「敬一君、ちゃんと締めなさい。床を汚すんじゃない」
 家事全般を行っている大家の加藤が、眉根を寄せて指摘する。
「後で掃除して貰うからね」
 その言葉に、アナルにきゅっと力が入った。
 もう感覚が無い。それでも、掃除する量が少しでも少なくなるようにと、意識して力を込める。
 その無駄な足掻きに気が付いて、三枝が愉しそうに肩を震わせた。
 その手が、冷たい脱脂綿を持って触れてくる。
 犯されている最中弄り倒された乳首は熟したように腫れているけれど、弄られすぎて今はもう感覚が鈍っていた。
 さんざん精液を吐き出した敬一のペニスは、三枝の手が触れても、亀頭から何から全て消毒液で拭われても、もうぴくりともしなかった。
 けれど、瞳に映るその光景だけで、敬一は痛みを味わうように顔をしかめた。
「や、やめて……さい……」
「大丈夫、俺、巧いから。痛みなんてないって」
 医者である三枝が慣れた手つきで拭き終わった脱脂綿をゴミ箱に放り込む。
「よし、消毒完了」
 代わりに手に取ったのは、先の鋭い注射針のような黒い針。
「や……だ……」
 普通の注射針の何倍も太いうえに鋭く尖った先端を向けられて、全身が激しく震える。
 蒼白になった身体を押さえつける三人の手に力が入る。
「どこから?」
「ん、まず乳首ね」
 三枝の身体が、敬一の大きく割り開かれた股間の間に入る。
 その傍らに置かれたトレイには、蛍光灯に照らされてきらびやかに輝くリングが複数入っていた。
「可愛くなるでしょうね」
 うっとりと鈴木が良いながら、敬一の耳朶をかぷりと噛んだ。
 そこは、いまだかつてピアス一つ飾られたことがないというのに。
「今よりもっと淫乱になるだろうよ」
 加藤が愉しそうに視線を走らせる横で、丹波が後から回した腕で、敬一の顎を掴んで下ろさせた。
「見ていろよ。おまえの身体をキレイに飾って貰う様子を。目を離すんじゃねえ」
 せめて、と、目を背けようとしたけれど、それも叶わず、敬一はもっとも乱暴な飼い主の言葉に従うしかなく。
 三枝によって掴まれた乳首に視線を落とす。
 ここに来る前に比べても大きくなったそこの根元に針が当たる。
「ひっ」
 目も眩む痛みが脳天を貫き、息を飲む音が遠く響いた。
 入って、出て。
 二回の激痛はあっという間に過ぎ去り、視界の中、鋭い金属が肌を貫いている。
 赤く色づいた粒の根元に突き刺さる黒。
「あっ、あっ……」
 悲鳴が声にならない。
「こっちもね」
 別の針が、片側に気を取られているうちに、もう片側の乳首の飾りとなっていた。痛みより何より、目の前の光景に衝撃を受けている間の事だった。
 三枝が言うとおりに巧いのかどうか、経験のない敬一には判らない。
 だが、傍らで加藤が「さすがだな。血もほとんど出ない」と感心しきりの様子で、鈴木もそれに頷いている。
 確かに、衝撃に比べて痛みが弱まるのが早い。
 けれど、痛いことには変わりない。
 ひくひくと喘ぎ、涙をこぼす敬一の様子などお構いなしに、目の前で取り付けるピアスの話になっていた。
「乳首のピアスは、これね」
「わお、太くねぇ?」
 バーベルの太さを見て取った言葉だったが、丹波はそれほどに驚いていないようで、にたりと笑みを浮かべた。
「ん? そうでも無いよ」
 ニードルを押し出して、今度はそのピアス本体が突き刺さる。
 軟膏に濡れたステンレスが、黒の代わりとなる様を、敬一は見続けるしかなかった。
 涙が両目から溢れても、その禍々しい光景からは逃れられない。
 三枝が何かする度に、傷がズキズキと鈍く痛む。それがこの光景が現実なのだと知らしめる。
「敬一君は結構痛みに強いからなあ」
 加藤の言葉に、皆が頷く。
 否定できないその言葉に、敬一は小さく喉を鳴らした。
 いっそのこと痛みに気を失ってしまいたかった。そうすれば、この先の光景など見ずに済むのに。
 飼い主達の言葉に逆らうことなど許されないけれど、せめてこの光景を見ないでするならば……。
 けれど、敬一の淡い期待など、誰も叶えてくれない。
 バーベルが取り付けられ、飾りとなるリングが固定される。
 リングの中央を左右に棒が貫くようなピアスだ。 
「ある程度定着したら……このリングにいろいろな飾りを付けてあげるよ」
「い、ひっ……」
 まだ鈍く痛みの残る乳首にかちりと嵌める衝撃が響く。
 ぽとりと涙が顎を伝って、胸元に落ちた。それを三枝が舐め取る。
「嬉しいかい? 他にもいろいろ用意しているからな。この……」
 指が、乳輪を押さえる。
「ピアスの根元につけるものがあるんだ。乳輪を飾って、穴から乳首だけが飛び出るようにするんだよ。敬一がつけるときっとひどくイヤらしく見えるよ」
 耳元で甲高い音が響く。
 口笛を鳴らした丹波が、瞳にはっきりと欲を浮かべて覗き込む。
「今、つけられねぇのかよ」
「キレイに開けたから治りは早いと思うけど、最初が肝心だからなあ。本来二ヶ月は差し替えちゃダメだし、完全に定着させようと思うと、半年以上はかかるし」
「えー」
 抗議の声に、一瞬医者の顔に戻った三枝の顔が、冷たい笑みを浮かべた。
「俺が付け替えるなら、問題ないよ」
 乳輪を押さえ、痛みにひりつく乳首を括りだしながら、嗤う。
「すぐ、キレイに飾って上げるさ、ここもね……」
 皆の視線が、三枝の手に沿っていっせいに下に降りた。
 完全に萎えた淡い色合いの敬一のペニスが、三枝の手のひらに載っている。
「ひ、い、いや……そこは……許して……」
 押さえつけられた身体を捩って、三枝の手から逃れようとするけれど。
「けーいちちゃん……暴れんなよ」
 ドスの効いた声音に、ひくりと動きが止まる。
「そうそう、違う場所に開けたら、横から小便が出るかもよ」
 親指がするすると陰茎の横を擦り上げる。その傍らにまで来た先より太い針が、鈍く光っていた。
「い、いや……だ……、や、やめて……」
 身体が小刻みに震える。全身から血の気が引いていた。
 持ち上げられたペニスの裏筋に針が近づく。
 脅されただけでなく、動けなくなっていた。
 硬直した身体に、男達の舌が這う。
 加藤の手が伸びてきて、ペニスの根元を支えた。


「あ、あぁぁぁぁぁ────っ」
 ぷつり
 針が遠慮もなく刺さっていく。
 痛みを感じるより先に、敬一は叫んでいた。
 硬直した身体は、微動だにしない。ただ、痛み以上の衝撃を全身で感じながら、闇雲に叫んでいた。
「ふふ、狙い違わず、だね。今度もキレイに空いた」
 三枝が得意そうに呟き、すぐさま針の尻をリングで押し込んでいく。
 黒い針の代わりに入り込んだリングは、直径が3mm近くある。
 鈴口を押し開いて入り込んだリングは、亀頭の裏で出てきて反対側と対面し、そこで固定された。
 固定するのは、丸いボール状のもの。
「これも後から変えて上げるよ。鈴口を塞いで刺激し続けてくれるようなヤツに」
 最初だから、と言いつつも、それは遠い先ではないのだと、痛みより大きな衝撃に放心している敬一に教えていく。
 そして、これがまだ終わりでないことも。
「ごめんね、俺たち、ゆっくり待てなくってさ」
 詫びの言葉は、笑みとももに伝えられた。
 新たな針が、今度は亀頭の裏に突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁ──っ!!」
 意識など無いように放心した瞳。けれど、喉だけが断末魔のような悲鳴を上げる。
 いっそのこと狂いたいのに。
 身動ぎ一つしない身体が自分のものではないような感覚に襲われながら、精神がなすすべもなくこの光景を見ている。
 亀頭より内側の周りに、先よりさらに太い4mm近い径のリングが取り付けられていた。
 裏筋に開けられた穴を貫く、これもまたピアスだけれど、コックリングが亀頭の根元に付けられているように見えるそれ。
「こっちのプリンスアルバートが尿道を刺激して、このフレナムプールが亀頭を刺激するんだ。そのせいで、亀頭が大きくなって敏感になったという人もいるらしいよ。敬一もそうなると良いね」
 細かな説明は右から左に抜けていく。
 ひくひくと痙攣している身体をぐたりと皆に預けた敬一の瞳は、焦点が合っていない。
「ちょっと最初からこれはキツイかも知れないから、しばらくは毎日俺が様子を見るからね。できれば、勃起もしないように」
 そう言いながら付けられたのは、勃起を阻害するタイプのペニスバンドだ。
「えっ、じゃあ、遊んじゃダメなのか?」
「ひぐっ」
 後から伸びた指が、腫れ上がったアナルに突き刺さる。
 ぐりぐりと掻き回されるたびに、体内に残っている精液がぐちゃぐちゃと淫らな音をたてながら溢れ出てくる。それが、床にできていた白い液溜まりにポタポタと落ちていった。
「別にかまわないよ。勃起させなきゃ良いんだから」
 ぴんと弾かれた陰茎の根元。
 勃起しようとしても、バンドによって強制的に下に向けられたそれは、かなりの痛みが伴う。
 痛みには強くても、それで快感を得ることのない敬一は、その痛みに負けて勃起などできやしない。
 だから気にする必要など無い、という三枝の言葉に、「なるほど」と、丹波が嗤う。
 明日は週に一度の敬一の休みの日だけれど。
 あさっては三枝。次は加藤、そして丹波。鈴木も愉しそうに嗤っている。
「毎日きちんと洗浄して上げますね」
 甘噛みしていた耳朶をぺろりと舐める。穴一つない耳朶に歯の痕が薄く残っている。
「さて、片づけ、片づけ」
 掃除をしなければと、加藤が辺りを見渡した。
 その言葉が合図のように、敬一の身体が離される。縄の拘束も取られた身体が、汚れた床に崩れ落ちた。
 ひくひくとアナルが痙攣して、たらりと太ももに新たな白濁が流れ落ちる。
「敬一君、いつものように床掃除を頼むよ」
 今度は肩がひくりと震える。
 胸と股間を庇うように身体を丸めていた敬一の身体が、のろのとろ起きあがる。
 腕や太ももに鮮やかに残る縄の痕を晒しながら、四つん這いになり、ぺちゃ、と赤い舌が床に触れた。絡まる白い粘液が、唇を汚す。
 それは、四人にとってはもう見慣れた光景だったけれど。
「なんか俺、も一回突っ込みたいかも」
 ごくりと鳴った喉の音に、敬一が顔を上げるより先に、丹波がのしかかっていた。
「ひっ! 止めっ、ぁや、やぁぁぁっ!」
 さんざん敬一を犯したはずの丹波のペニスが、再び硬く勃起していた。
 三枝によってピアスを付ける作業に興奮してしまっていたのだ。
 さらに、見た目にも敬一がひどくイヤらしく誘っているようにしか見えなかった。
 汗に濡れた肌より強く胸のピアスが妖しく輝いている。ひくんと震えたペニスの、つけられたばかりの傷から体液が滲み出ていく。そこのピアスが、丹波を誘う。
 人並み以上の精力を持つ丹波は、目の前のごちそうを我慢などしない。
「まったく丹波くんは獣なんだから」
「無茶しないでくださいね」
「掃除、おまえもしろよ」
 三人の声だけが降り注ぎ、それぞれの扉がパタパタと閉じていく。
「あ、痛っ、ああっ──やぁ」
 叫び続ける敬一の声は丹波を煽るだけだ。
 四人の中で一番太いペニスが、呆気ないほど簡単に敬一の中に埋まる。
 初めて男を受け入れてから二週間も経っていないが、敬一の身体は柔軟に男を受け入れるようになっていた。
 うまそうに極太のペニスをしゃぶる穴は、女性器と遜色なく丹波を悦ばせる。
 今日は四人で遊ぶ日で、さらにピアスを付けるからと早めに終わった遊技に、やりたい盛りの丹波は、実を言うと今ひとつもの足りなかったのだ。
 時計を見上げた丹波が、にやりと嗤う。
 時計の針が、遊技可能な時間の終了を告げるのは、まだずいぶん先のことだった。


注)(敬一の飼い主である時間について)
  1)1日は、朝から次の日の朝まで。
  2)平日は、大学に行く時間まで。
  3)大学休日は、朝9時以降で次の人が呼びに来るまで。
  4)(敬一の)休日と定めている日は、朝9時から。
  (スケジュール作成担当:鈴木)