【熱いプレゼント 後編】

【熱いプレゼント 後編】

「コートを脱がないと。いくら気に入っているっていったって、さすがに店の中でコートを着ている人なんて誰もいないよ」
 その言葉に、亮太の手がおずおずと動く。
 亮太達がやってきたのは通い慣れた玩具の店ではあったけれど、店内にはこんな路地裏の地下の店に集まるとは思えぬほど、高価なスーツ姿の男達が10人ばかり集まっていた。客達の気品ある振る舞いは、彼らの素性を隠しようもない。
 いわゆるセレブと呼ばれる人たちだと判るのに、けれど、亮太が彼らに抱くのはどうしようもない悪寒だった。
 人の上に立つ者としての威厳だけならそうは思わなかっただろう。だが、亮太の一挙手一投足を追う彼らの瞳には、ちろちろと昏い欲望の炎が垣間見えるのだ。何より、こんな店にいる彼らの性癖がまともでないことは判りきっていた。
 実際、その中の何人の顔は、この店で見た覚えがあった。
「春樹……」
 コートの襟を止めていたベルトを外す手が声音以上に震えた。
 このコートを脱げば何が起こるか何も聞いていないけれど、想像ができてしまう。
 春樹は優しい。
 けれど、春樹は亮太の性癖を激しく誤解している。
「春樹……あ、あの……」
「どうしたの、亮太。皆せっかく亮太のために集まってくれているんだから、またせたら申し訳ないだろう?」
「でも……ここで…脱いだら……」
 春樹が望むのなら脱ぐしかない。けれど、さすがに……と、おずおずと口を挟む。
 亮太がいるのは、皆が席に着いている場所から50cmほど高いステージで、2m以上の奥行きも幅もある。
 ここでコートを脱げば、何もかもが皆の目に触れてしまう。
「あの……全部……見られ……」
「見られたいんだろう?」
 にっこりと笑みを浮かべて朗らかに言い放たれた言葉に、否定しかけた言葉が喉にひっかかって出なくなる。
「亮太はみんなに見られたいから、その格好をしてきたんだろう?」
 シャンパンを傾ける姿も優雅な春樹は、亮太から視線を外さない。
「俺も、贈ったプレゼントがどんなに亮太を素敵に飾ったか、見て貰いたいな?って思っているし」
 春樹が持つグラスが、意地悪く弧を描く彼の唇を巧みに隠しているのが、亮太には見えない。
「そうだね。春樹くんはセンスが良いから、どんな物を贈ったのかたいそう興味がある。どうだろう亮太くん。春樹くんが贈った物をぜひ我々にも見せて貰いたいのだが?」
「ふむ、私も見てみたいものだ」
 周囲から上がる声音は懇願でも、その視線が持つ威圧感に亮太は震えた。
 彼らもまた、主人と呼ばれる立場の者達で、気の弱い亮太が逆らえる術など持たない。
「ほら、皆様もそう言われていることだし、ね、脱いで」
 それに追随する春樹の言葉も、傍から見れば、命令、でしかないものだった。
「あ……は、い……」
 案の定、亮太は逆らえない。
 複数のまとわりつくような視線の中で、言われるままに首のベルトを外し、腰のベルトを外し。
 拘束が外れる度に、ちらちらと肌の色が見える。
 意識しなくても時間のかかる脱ぎ方は、さながらストリップのそれと大差ないことに、亮太は気づいていない。
 荒い呼吸音が聞こえるようになっていた。ぴちゃり、と舌なめずりする音も、ごくりと息を飲む音も、静かな部屋だからこそ響いていた。
 そんな彼らの前で、肩からコートがずり落ち、床に広がった黒衣の中に白い姿が浮かび上がる。
「おお──っ」
 さざめく声に、白い姿が一気に朱に染まり、小さく揺れた。
「あ、あ……見な──で……」
 羞恥に肌を染め上げた亮太は、必死で両手で股間や体を隠そうと身悶えた。
 全裸──ではない。革の平たい紐が金属の輪で繋がり、体の上を走っている。もとより肌を隠す効果など無いそれは、あのパッケージで女性が身につけていた物だった。だが、実物はより淫らで卑猥に亮太の体を彩っていた。
 しかもそれは股間にも渡っていて、少し幅広の中央に開いた穴から、隆々と勃起したペニスが突き出していた。
「素晴らしい、完全に勃起しているではないか。あんなにもきつく拘束されているのに」
 それは誰の声なのか。
 熱の籠もった会場の、誰か一人の声のようにも聞こえたし、ざわめきであったかも知れない。
 実際、亮太のペニスは南京錠付きの何連にもなったベルトに拘束されているにも関わらず、てらてらとした粘液にまみれていた。
 しかも、今も赤く腫れた割れ目をぱくぱくと喘がせ、銀糸のように床まで糸を引いているのだ。
 その鈴口の狭間には、高貴な輝きを持つダイヤが埋め込まれるように飾られていた。
「ほお、大きなダイヤだ。あれはピアスですかね」
「ええ、裏側まで開けているんです。ああやって石を埋め込むと角が当たって気持ち良いらしくて。大きければ大きいほど涎を垂らして悦ぶほどで。欲しがるのでいろいろな石を揃えていますよ」
「しかし、あのような物までお強請りされては、大変でしょう?」
「いえいえ、亮太が欲しい物はなんだって揃えますよ」
 二本の手のひらでは隠しきれない体で身悶える亮太の眦からぽろりと涙が流れ落ちた。
 どうして春樹は……そんな事をいうのだろう?
 亮太が自らこんなこと強請る訳など無かった。いつだって春樹が用意して、亮太に取り付けるのだ。
「は、る……きぃ……」
 さすがにこんな場で……と、抗議の声を上げようとしたけれど、向けられた春樹の強い視線にびくりと体が硬直した。
「亮太、良かった。俺が選んだ物、良い物ばかりだって誉めて貰えてるよ」
 けれど、視線ほど言葉はきつくなく、むしろたいそう満足そうでほっと安堵した。
「春樹くんは亮太くんをずいぶんと気に入っているようだね」
「ええ、もちろん。そうでなかったら、亮太とずっと一緒にいたいって思わないですよ。亮太は素直で、俺のために何でもしてくれるんですよ。そんな亮太なのに、どうして離したいと思うんです?」
「ああ……春樹……」
 そうだ、素直に春樹に従わないと。
 春樹が望む事を叶えてあげていたら、きっと春樹は俺を手放さない。
「あ、亮太、その腰の鎖を解いてごらん」
 逆らわない。
 春樹のために、亮太の体は考えるより先に動いていた。
 腰に結わえられていた細い鎖を垂らした。飾りだったそれは意外に長く、四本の鎖が亮太の体から垂れ、観客席まで伸びていた。
「おや、これは?」
 一人の客の手が、届いた鎖を掴んでぐいっと引っ張った。
「ひっ、ひぐっ」
 とたんに走った股間の痛みに、背を仰け反らせて喘ぐ。
 鎖は亮太の体の各所に繋がっていて、今引っ張られたそれは、ペニスの根元を強く下方に引っ張る物だった。
 勃起したペニスを無理に引っ張られて、体が悲鳴を上げる。なのに硬直した体は、体内の玩具を締め付けて、中で暴れるそれが前立腺を強く刺激する。
「んっ……くぅ……、うっ」
 鈴口の狭い隙間から零れていた粘液が、亮太の体の動きに合わせて蜘蛛の糸ののように辺りに舞う。
「おやおや、よく見たらお尻にたいそう素敵な物を貰っているようだね。大腿までイヤらしい粘液が垂れてどろどろに蕩けているようだが」
「そういえば、彼は入ってきてすぐにステージに上がったよね。ということは、あんな格好で外を歩いてきたって? 私が飼っているメス犬は終始発情しているが、それでも出かける時はあんな太い物は使わないぞ」
「好きなんでよ、太いのも。この店で見かけてからずいぶんと気になっていたようでして。それに出かける時に挿れないと、いつ挿れるんです?」
「おやおや、可愛い子だが、淫乱さではうちのメス犬以上ということか」
 その言葉に、亮太の頬に涙が流れ落ちる。
 欲のこもった視線が肌を刺す。
 くいくいと引っ張られる鎖からの刺激も相まって、羞恥心は亮太の心を真っ赤に染め上げていく。
 上気した肌は、薄く汗で濡れ、蒸気となって卑猥な匂いを撒き散らしていた。
 居心地悪さに足をよろつかせた拍子に、たらりと流れる液体が肌を粟立たせる。
 ここに来るまでにさんざん欲情していた体だ。不躾な視線にすら感じて、僅かに冷えたはずの体が熱く燃え上がる。
 このままでは、もっとみっともない姿を晒しそうで、縋るように春樹を見つめても、微笑みを返されただけだった。
「けなされてうれし涙を流している、どうやらマゾっ気は相当なものだな」
「そう、亮太は苛められるのが大好きなんですよ、な、亮太は好きだよね?」
 ステージ下からの問いに、亮太は顔を歪ませながら小さく頷いた。
 見られるのはイヤだけど、苛められるのもイヤだけど。
「……はい……好き、です」
 春樹の言葉に頷いた。
「ふふ、なんともまあ躾の行き届いたペットだ。ここまで躾けるのは大変だったでしょう?」
「躾などしていませんよ。もともとひどく淫乱だっただけです。俺は、亮太が好きなことを自由にさせただけで……。あの格好も亮太が好きでしているんですから」
「おやおや、それは。にしても……お強請りも好きそうだし、可愛い子ではあるけれど、飼うにはなかなか大変そうですなあ?」
 身につけているたくさんの淫具は、値の張る物なのが一目瞭然だった。鈴口のダイヤ程ではないが、数が多ければそれはそれで金がかかる。
「まあ、確かに。けれど、欲しがられるとつい。何しろ、こういった玩具が大好きなんですよ。この店にも毎週通って、いろいろな品物を手に入れて悦んでいるんですから……」
 くすりと小さく噴き出して、言葉を続けている春樹は、ひどく愉しそうだ。
「亮太ってば、ほんとに玩具で遊ぶのが好きでいっぱい買って、いっぱい身につけて遊ぶくせに、我慢するのが大好きなんですよ。もう気を失うほど我慢して我慢して、たっぷりと快感を味わって、狂いまくるのが大好き。その姿がとっても可愛くてね。で、俺も、そんな亮太を見るのが大好きですから、好きなように買わせるんですよ」
「ほお……それはまた」
「気を失うまで我慢するのが、ねぇ……」
 春樹の言葉を聞いた客達の目が、昏い欲望に澱んでいく。
 口元に浮かぶ喜色は、決して好意的な物ではなくて。
「あ、やあ……は、春樹ぃ……」
 男達の欲望に、声が掠れる。
 男達の向ける瞳に、激しい悪寒がした。
 彼らは危険だ。春樹の兄達のように、人を這い蹲らせ、壊すのが大好きな輩ばかり。
 大好きな兄は、もう笑いかけてはくれない。
 優しかった父親は、もう自分を見てくれない。
 二人をそんなふうにしたあの人たちと同じ、怖い人たちと同じ……。
「や……だ……。見な、で……。来ない、で……」
 あの人達に比べれば、春樹ははるかに優しい。
 ちゃり、と鎖が引っ張られる度に小さな音をたてた。
 右へ左へ、体の負荷を少しでも軽くしたいと鎖に引っ張られる。
 けれど、陰嚢の根元はきつく締まり、張り型は小刻みに前後し、腰がゆらゆらと踊ってしまう。
「ゆ、許し……、やあ、引っ張らない、で……」
 許しを請うて、涙を流しながら懇願するけれど、愉しげに口元を歪ませた男達は、よりいっそう激しく鎖を引っ張った。
「亮太、ほら、亮太の貪欲なお尻を皆に見せてあげていいから」
「え……あ」
「ねえ、皆退屈するからさ……そうだ、手伝ってもらったら、ほら、亮太の手だけじゃ、全部いっぺんに動かせないだろ?」
「あ……」
 春樹が嗤っている。
「その尻の玩具、動かして貰いなよ。おっぱいももっと揺らして、ベルの音を鳴らして……。ああ、亮太の体の中にあるボールの数の当てっこもしようね。当てた人には、亮太のボディマッサージのプレゼントをするといいよ……」
 ぺたりと座り込んだ尻の狭間で、ぶるぶると震え出す淫具に、喉を晒して喘ぐ。
「や、だ……許し……てよ、春樹ぃ……。ねえ……」
「何で? だって、亮太好きでしょう?」
「や……あぁ……ひくっ……やだ……」
 さすがに怖くて悲しくて、嗚咽が喉を鳴らした。
 あの人たちのところでは、春樹がいつも守ってくれていたけれど。今日は、助けてくれない。
 春樹が遠い。
 手を伸ばしても、捕まえてくれない。
 やだ……。
 恐怖が体を付き動かして、ステージからずり落ちるように這いずった──と。
「なんで? 亮太はもう帰るの? だったら、高藤の家に行こうか? 父さん達がたくさんのお客様呼んで、パーティするんだって。でもさあ、接客の人手が足りないって困っていたから、亮太が手伝ってあげてよ」
「ひっ」
「50人ばかりのお客様。真木さんや義兄さんだけじゃ足りないんだって。俺はこっちのパーティに参加するから行けないって言っといたから、亮太だけ行って」
「い、ひっ……あっ」
 ガクガクと体が恐怖に震えた。
 高藤家のパーティ、しかも父と兄が接待するパーティなど、参加するどころか見たくもなかった。
 あれは恐ろしい。
 どうしてあんなことをされ続けて、二人は生きていられるのか判らない。
 前に垣間見たパーティの風景を思い出して、亮太はガクガクと頭を振った。
 歯の根が合わない恐怖に、何も言えない。
「や、やだ……ここでいい……、ここが……」
「でも、イヤなんだろう、亮太」
「い、イヤじゃない……。ここがいい。春樹が良いっ」
 息せき切って春樹に縋るように言えば、彼の瞳の剣呑な炎がふっと消えた。
 代わりに浮かんだのは、亮太が大好きな笑顔で。
「ん、俺も亮太と一緒が良いや」
 心底嬉しそうな言葉に、亮太も何度も頷き返した。
「それにさ、俺からのプレゼントも悦んで貰えて嬉しいよ。そんな亮太に、皆からもプレゼントがあるんだって、良かったね」
 いつの間にかステージに上がった男達が、じりっと亮太に躙り寄る。その手には、いろいろな淫具があった。
 ここは大人の玩具の店。
 一見会員制スナックであるこの店の本業は、地下二階のフロアにある。
 ごくごく普通の淫具類はもちろんのこと、非合法なセックスドラッグはもちろん、人の体には無理ではないかと思うほどの巨大な淫具も揃っている。
 人身売買すら行うここは、専用の調教を受けた大型犬をも斡旋しているのでも有名だ。
 そんな店で、男達が選んだプレゼントは、巨大だったり歪だったり効果が激しすぎたりで、そう簡単には使えそうにないものばかりだ。
 金に飽かして人を物として扱う男達の欲望は、果てがない。そんな男達を満足とせる品揃えのこの店の品物は、効果が抜群の物ばかりだ。
「い、いや……春樹ぃ……助けて」
 ここが良いと言ったものの、躙り寄る男達の姿に気がついて、亮太は慌てて逃げようとした。だが、いつの間にか鎖がステージの床のフックに止められていて、逃れられない。
 ならば、と、泣き喚いて春樹に助けを請うけれど、彼は相変わらず愉しそうに亮太を見つめている。
「うん、いきなりみんなが迫ってきたから怖いかも知れないけど、みんな亮太が好きなイヤらしいこといっぱいしてくれるんだよ。ほんと、狂うほどいっぱいね」
 その手の中で弄ばれているのは南京錠の鍵だ。
「でも、亮太のお尻は俺の物だから、そこは玩具以外挿れさせないから。それにさ、淫乱な亮太はこのくらいいっつもしていることだし、平気だよね。皆からのプレゼント貰ったら、最後に俺にもプレゼントちょうだいね」
 春樹へのプレゼント……。
 その言葉に、男達の腕の中に閉じこめられた亮太の顔がひくりと上がる。
 春樹へのプレゼントは、あのマンションに隠している。何にしようかいっぱい迷って、けれど、ようやく見つけた春樹によく似合うコート。
 貰ったコートよりは質は落ちるけれど、それでも今の亮太では限界のプレゼント。
「あ……」
 帰ったら……。
 と言おうとして。
「はぐぅぅっ」
 開けた口の中にどす黒い肉が埋め込まれた。
「ぐぁ、あっ」
 喉の奥まで一気に貫かれて、息をするのもままならない。
 乳首に回ってきた手は、ピンで刺されたベルを容赦なく引っ張って、鮮血がたらりと流れ出した。
「亮太の中でいっぱい達きたいんだ」
 くぐもった悲鳴の中で、春樹は酔うたように呟く。
「熱く熟れた亮太の中、大好き。亮太、我慢している時って、とっても熱くなるんだよね。その中で達かせてよ。ほんとに……いっぱい、俺の中が空になるまで」
「あ、んがぁぁっ!!」
 亮太のひくひくと震える股間のペニスは、限界まで張り詰めていて、ベルトの隙間から肉がはみ出している。鈴口はぱくぱくと喘いで、白濁混じりの粘液がたらたらと溢れていた。
 その瞳が虚ろに、さまよう。
 たくさんの手でバイブ機能の淫具が全身に押しつけられて、どこもかしこも感じていた。
 ぐいぐいと尻の淫具が動かされて、中の玉が動き回る。
 乳首だけでも達けるほど敏感なのに、それが伸びきるほどに引っ張られて、口も脇も膝裏まで使って、男達のペニスを扱かれた。
「誰が……次はっ」
 はあはあと喘ぐ声が木霊する。
「あ、ああぁっ!……は、ひぃぃっ」
 口は性具となり、全身があっという間に白く濡れそぼる。
「可愛い亮太」
 聞こえるのは、春樹の声だけど。快感は全身を駆け巡って、指一本自由にさせない。
「愉しみに待っているよ、亮太が俺を達かせてくれるの」
 ひくひくと震えるペニスが激しく扱かれて。
「やぁぁぁっ、きっ、つっぅぅっ! ……やめっ」
 達けない苦しみに、意識が弾ける。
 けれど、その激しさ故に意識は保ったまま、次の快楽に責め苛まれて続けて。
「あはぁ──っ、うっくぅぅ、やあ──はる、春樹ぃ、た、たす……やだぁっ、はるきぃ!」
 甲高く上がった悲鳴は、けれど、誰一人応える物はいなかった。



 クリスマスの夜は長い。
 煌びやかなイルミネーションの中に帰って行く客達は、欲望を解放しきれなかった態度を露わに、名残惜しげだ。
 人がいなくなって静かになった冷たい床に、小刻みに痙攣し続ける体が横たわっていた。
 10人の客達に思うように遊ばれた亮太の股間では、血管を浮き立たせ赤黒く勃起したペニスが、どくどくと脈打っている。
 結局外されることのなかった拘束具は、南京錠に至るまで白い汚濁で汚れていた。
 もっともそれはペニスだけでなくて、口の端から特に濃い白色がねっとりと流れ落ちているし、いたるところの肌も粘液にまみれていた。
 そんな中、乳首だけが真っ赤に腫れ上がり、その周辺は赤黒い液体が乾いて貼り付いている。
 その体に近づく人影が、そっと力無い足を担ぎ上げて。
「もらうよ、プレゼント」
「……っ」
 ためらいもなく一気に突き入れられた衝撃に、閉じていた両眼が大きく見開かれる。
 もう声もない。
 触れただけでにちゃにちゃと音をたてるほどに白濁まみれの穴を、脈打つ肉棒が抜き出されては一気に入り込む。
 その激しい抽挿は、相手の都合などお構いなしの激しい物で、亮太はがくがくと人形のように揺れるだけだ。
 ただ、深く穿たれる度に、ひゅ──ぅと長い吐息が零れていた。
 その掠れた吐息は、今にも途切れてしまいそうに弱々しい。瞳は虚ろに彷徨い、焦点は合っていなかった。
「んっ……ああぁ……」
 春樹が感極まった喘ぎ声を上げて射精した。
 ドクドクと腰を震えさせ、爪が食い込むほど足を掴んで引き寄せては、搾り取るように力を込めて、欲望を注ぎ込む。
 熱い迸りを受けた亮太の瞳から、つうっと涙が流れ落ちた。
 ぽたっと床を濡らし、力無く投げ出された体から垂れた液体と混じる。
「亮太……可愛いよ」
 嬉しそうな春樹は、何度も玩具で貫かれて抉られて腫れきったアナルを堪能した。
 熱くて熱くて、熟れた肉にぎゅうっと締め付けられる感触は最高だ。
 亮太は何も感じていないのは知っている。
 固い玩具でさんざん嬲られた肉壁は、腫れ上がり、その狭い洞をさらに狭くしていた。その腫れた肉が春樹を熱く柔らかく締め付けて、妙なる快感をもたらすのだ。
 もっとも、それが治まるには医師の治療を受けてさえ数日を要し、それまでは亮太を苦しめる。
 排泄にすら苦労し、前立腺は腫れ上がった肉壁に押さえつけられて、疼き続ける。
 もっとも、今は刺激され続けて、痛みすら感じないほどに麻痺しきっているけれど。
 そんなになるまで男達が亮太を陵辱したのは、玩具しか使えなかったからだ。口腔や体だけではやはり思うように欲を解放できず、彼らの嗜虐心途絶えることがなかった。それに、玩具は決して硬度を失わない。さらにこの店の玩具は突起が鋭く、振動が激しい物も多かった。そんな機械に嬲られれば、どんな男でも刺激と痛みと快感によがり狂う。
 それを、ここに来る前に挿入された時から、どんどん太く激しい玩具に変えられながら三時間強に渡って続けられたのだ。
 そうなれば腫れ上がるのは経験上知っていた春樹だったが、一人でやり続けるのは大変なので、今日は知り合いに手伝って貰ったのだ。
 案の定腫れ上がった肉壁の久しぶりの味わいに、春樹は飽くことなく亮太の体を犯し続けた。
 正常位に飽きたら、亮太の体をひっくり返して後背位で尻だけ掲げて抉るように貫いた。
 ぐちゅぐちゅと多量の精液が泡立ちながら噴き出してくる。
「ああ、熱くて気持ち良いぃ」
 ぐいっと下腹部が尻に触れるまで押し込んで、ぐりぐりと内壁を掻き回す。
「おやおや」
 背後からした呆れた物言いにも意に介さない。
「ちょっとやり過ぎじゃないですか? それ、このままでは壊れます」
 その言葉に、ようやく春樹は動きを止めて、背後の男を振り返った。
「壊すな」
 冷たい命令に、男が苦笑する。
「はいはい、もちろん壊しません。そんな恐ろしいこと……」
 不意に漂った緊迫感に肩を竦めて、男はいまだ春樹と繋がったままの亮太の傍らに腰を下ろした。
「ふ?ん……大きな怪我はなさそうですが……。まあ、かなり負担はかかっているでしょうねぇ、心臓と……」
 心に。
 口にはしなかった言葉を飲み込むだけの防衛本能は持っている高藤家の主治医も勤める男は、ちらりと亮太のペニスに目をやった。
「ただ……できれば一回達かせてください。病室で夢精されても面倒だし」
「ああ、最後にな」
 素っ気なく言い放つ春樹は、再び腰を動かし始めた。
 この様子では、まだまだ終わりやしないだろう。
 最後の最後、もう意識など完全になく、体力すら無い状態での射精など、解放感など皆無でしかないだろうに。
 ちらりと思った考えも、けれど、あっという間に頭から掻き消えて。
 まあ、壊すことはないだろう。
などと考えながら。
「それでは、終わった声をかけてくださいね」
 どこか得体の知れない笑みを浮かべながら呟いて、男はそっと邪魔にならない背後に移動した。

【了】