【お試し部屋のグイナ】後編

【お試し部屋のグイナ】後編

 この店が人気を博すもう一つの理由。
 それはやや高めではあるが貸出料を払えば、店内で品物が試せることだ。
 使うことで壊れてしまうものは無理だし、自らの身体を使う──いわゆる本番の行為もダメだが、薬や張り型などはまずどれでも試すことができる。
 それも他の店ではせいぜい良く似せた人形であるのだが、ここでは生身の人間なのだ。
 惜しむらくは、青年しかいない、というところだろうが。
 だが、その見目の良さは、女性しか性的興味が無いミズリーですら、十分愉しめるものだった。
 そのミズリーの手に握られた張り型がずるずると呆気なく入っていく。少し細みということもあるが、試す相手が十分に解れていることも理由にあった。
 だが、そのもの足りないであろう細さにもかかわらず、彼は驚くほどの反応を示した。
「あ、あぁぁ、やぁぁぁっ」
 全身がびくびくと震え、汗が滴となって飛び散った。
 時折びくんと大きく震えて、抜き差しならないほどにきゅうっと身体が硬くなる。
 四肢を鎖に固定されていなければ、ミズリーの身体を跳ね飛ばしていただろう。それほどまでの激しい反応を返した身体は、いつまでも震えている。
 同時に締まった尻穴から、たらりと鮮紅色の泡立った液体が垂れ落ちた。その先にあったのは、二つの輪で戒められた彼自身の陰茎だ。そこまで垂れ落ちた拍子に、さらに腰が激しく踊った。
 声のない嬌声が、しばし響く。
 その姿をたっぷりと堪能した後に、ガウスが青年の腕の鎖を掴みあげた。
「暴れては、お客様に迷惑ですよ」
 耳朶に直接吹き込むように、ささやきかけている。
「あっ、あ……やっ、だあ……ぁ」
「しっかりと試して頂きなさい」
 ガウスの言葉に、固く閉じられていた瞼がうっすらと開いた。その隙間から覗くのは、涙に濡れた薄青の瞳だ。
 薄い青は、悔しいかな、ミズリーの性奴より空に近い。
 吸い付くような白い肌も、細い銀糸のような癖のない髪も、彼が原初の民の純血の中でも特に生粋であることを示している。
 実際22歳のこの性奴は、貴族の中でも王族を親族に持つ限りなく純血に近いという。
 ガウスは先の戦の折りにたくさんの薬品を提供したのだが、彼はその見返りにこの性奴を特別に下賜されたのだ。
 それこそ、ラカンの貴族が受け取った性奴と遜色ない高級品であるそれに、同じように下賜された性奴を持つ同好の士達はどんなにガウスを羨んだことか。
 もっともミズリーの好みは女性であったから、羨んだとしてもそこまでだ。ミズリーは自分の性奴はたいそう気に入っていて、それこそどんなことをしてでも彼女を悦ばせてやりたいと思っている。
 だからこそ、こうやって店に足繁く寄っていた。
 その慈しむ表情を、ガウスも自分の性奴へ向けていた。
「お前の大好きなものばかり選んで頂いていますよ、愉しいでしょう?」
 淫乱で我慢の効かないけれどとても可愛い奴隷のために、ガウスは時折彼をここに連れてきて、店が開いている間中ここに繋いでいた。
 下賜された時は別の名を名乗っていたらしいが、今は『グイナ』と呼ばれている。
 ガウスの今日の成功を導いた恵みの木の名前だ。
「良いね、お前は。こんなにたくさんの大好きなものに囲まれて。ネグレードが知ればどんなに羨ましく思うことか」
「グイナの天職ですよ、ここは」
 高いお試し価格故に誰もが使うという訳ではないけれど、裕福なミズリーはいつも多種多様な品物をたっぷりと試す。
 すでに何度もグイナで試しているせいか、最近では彼が気に入りそうなものは熟知しているようだ。
 今日も、新製品の薬や張り型以外にも、乳首への責め具なども用意されていた。
 だが、やはり今日のメインは、新製品だ。
 まずはゆっくりと広げてやろうかと、細めのもので試しているのだが、これでも十分嬉しいらしい。
 射精を許されていない鈴口から、たらたらと涎が溢れ出している。、
 そんなグイナの様子にガウスは満足げに微笑んでいた。
 その耳に入る性奴の嗚咽混じりの懇願など、聞く耳を持っていない。
 もっとも、言葉より身体の方がこれだけ悦んでいたら、聞く必要もないだろう。
「い、いやっ……もっ、かゆっ……やめっ、痒いからっ……ああっ」
 それは、聞きようによっては制止の声だったけれど。
「痒いのは最初のうちだけだろう? あ、もしかしてまだ足りないからかな?」
 足りないといつまでもうずうずと痒いんだよね?。
 と、呟くガウスの手が、とろりと張り型に潤滑剤を付け足した。
「ひ、い──ちがっ、ああっ──」
「もっともっと掻き回した方が良いかなぁ」
 震える腰を押さえつけ、ぐいぐいと張り型を動かした。
 とたんに、甘い嬌声が響き渡る。
 びくんと一度震えた性奴の陰茎が、さらな充血して立ち上がる。
 ふるふると頭を横に振るグイナは、とても天の邪鬼だ。止めてといいながらも、張り型が持って行かれそうなほどに強い力で締め付ける。
 それをなんとか堪えて、再度突き上げれば、気持ち良さそうに鳴き声を上げた。
「か、かゆ……の……っ、あ、あぁぁんっ、あんっ、やあっ」
「おやおや、下のお口の涎が増えたよ。上のお口は嘘ばっかりなんだから」
「どうもリジンの民は恥ずかしがり屋のようだね。うちの子もそうなんだよ」
「なるほど。ならばもっと愉しませてやりらないと。さあ、ミズリー様、どうかたっぷりと悦ばせてやってください。そろそろ中はとろとろになっているはずですから」
「では、今度はもっと太いこれで……」
「い、いやぁぁっ」
 細い張り型を抜いて、今度はかなり太い張り型を一気に差し込んだ。
 持ちやすい形状の黒光りする取っ手は、グイナの樹液で何重にも塗りが入れられている。
 使えば使うほど手に馴染み、滑り止めの効果もある塗りだ。
 だが取っ手から先、体内に入り込む場所は、鮮紅色になっていた。しかも生木のような質感は、そこに塗りが入っていない事を表していた。
「不思議な感触だな。固いように見えて、意外に柔らかい。こしもあるようだな」
 軽く爪を立ててればほんの少しくぼむ程度の柔らかさだが、手を離すとすぐに元に戻る。
「特殊な環境下でグイナの幼木を育てると、成長が早すぎて芯が有るけれど周りが柔らかいという幹ができあがるのです。そうですね、この太さになるまで3年ほどかかりますが」
 5センチほどの直径に育った幹を切り、樹皮を取り除いて、半年をかけて乾燥して。
「彫り師は、もっとも腕の良い職人を使いました。エラの形もコブの大きさと並び方も全て計算尽くですから。それからでき上がった品物を、今度はグイナの濃縮果汁に一ヶ月間漬け込みました。そのため、鮮紅色しかありません」
「ほお、一ヶ月も。あのグイナの果汁をねぇ」
 性奴の体内をぐちゃぐちゃと激しく掻き混ぜながら、ミズリーが手元の張り型を見つめた。
「この潤滑剤もたっぷりと入っているんだろう?」
 新しい薬は、前より粘度の高い潤滑剤となっていた。
 しかも色が濃い。
「ひっ、か、かゆっぁぁっ、やめっ、許してっ──ああっ」
 嬌声を上げる性奴の腰の動きが、人間のものではない動きをしている。
「さようでございます。下手に垂れないようにしています。持ち手側に垂れてしまうと、手がかぶれてしまわれますから」
「確かに伝ってこないな。こいつの身体には流れ落ちているというのに」
「体温から離れると粘性が増すのですよ」
「だが、見ているだけでこちらまで痒みが増すような気がする」
 肩を竦めて、自分の手を見る。
 噂では、グイナの樹液や果汁に触れるとあっという間に肌がかぶれて、真っ赤に腫れ上がるという。
 その濃縮液なのだ、ここにあるのは。
 そのかぶれを恐れて誰も使おうとしなかったグイナの果実を、体力増強効果もある強壮薬として売り出したのがこのガウスだった。
 貧しい民の出であったガウスは、彼のように貧しくてお菓子など買えない子供達の間に伝わるグイナにかぶれない方法を知っていたのだ。その方法を使って研究に研究を重ねた結果、今や壮年以降なら誰でも手にしたことのあるこのグイナミンという薬を完成させた。その上、果実そのものをジャムにして、お菓子のように食べられるようにもしたのだ。また、その痒みの原因でもあった樹液が耐水性のある塗りに向いていると気がついて、専門の塗り工房を作り上げ、そちらでも大々的に売り出しかなりの利益を生み出している。
 そのグイナに、強い精力増進効果と媚薬の効果があると判ったのは、それから10年ほど経ってから。
 その頃に、この店ができあがった。
 ガウスにしてみれば、グイナさまさまなのだ。
 だが、それでも今まではかなり薄めた抽出液で、さらに痒み成分も極力減らしたものしか出してはいなかった。
 それなのに、これは原液に近いどころか濃縮されているという。
 ガウス自身は、ずっとグイナに触れ続けてきたせいか、かぶれることなどないから大丈夫なのだろうけれど。
「気のせいでございますよ。もし痒くなったとしても、今回特別に調合した清浄剤も準備しております。すぐに痒みは引くようになっています」
 その言葉が聞こえたのか、性奴が泣き濡れた瞳を大きく開いて、ガウスを縋るように見つめた。
「そ、それ、ぬ、塗って……、か、かゆいっの──っ、助けて……」
 切ないまでの懇願を繰り返す性奴の腰は、だが、止まることはない。
 抽挿を繰り返していた張り型を持って行かれそうな勢いで、腰を動かしいている。
 はああっ、と嬌声と懇願の合間に感極まったようなため息が零れ、だが、すぐに良いところを擦り付けようとするように腰が動き始める。
「ほんとうに好きなのだな。こんなにも自分で動いて。ほら、ここか? こっちが良いか?」
 いろいろな場所の肉壁を擦るように動かしてやる。
 そうすることで、張り型に染みこんだ薬品が、体温で気化して粘膜に広がっていくのだ。
 いつまでもいつまでも。
 毎日、一日中使っても一年は保つ、とガウスは言い切った。
「あはぁぁ、か、ゆっ、……はぁっ、ああっ、痒い……ああ、塗って、助けてぇ……ああっ」
 性奴の視線が、清浄剤の小瓶に向かっていた。
 ぽろりと流れる涙は、空から落ちる清純な雨水のようだ。
 それをガウスの肉太の指が掬い上げた。
「おやおや、薬がまだ足りないのですね。この子にはさんざん試作品を試したから、少し効きが甘いようですねぇ」
 そう言いながらガウスが取り上げたのは、別の鮮紅色の瓶だ。
「い、いやっ、ちがっ──ひぁぁっ」
「ほお、では張り型に薬を塗り直そうか」
「あ、あぁぁぁっ」
 ぶちゅぶちゅっと肉壁がコブをひっかけるのに構わず、張り型を引っ張り出そうとしたけれど。
「いえいえ、こちらをお使いください。その方が早いでしょう」
 取り出したのは、さらに小さな瓶だった。
 フタを開ければ、スポイトが付いている。
「あ、そ、それ……ひっぃ、いいぃぃっ、いやっ、ああっ、ひくっ」
「この子用に調合した濃縮果汁ですからお売りはできませんが」
 にこりと嗤い、スポイトにたっぷりと吸い込ませる。
「やめっ、──ああっ、いやぁ」
「何が違うんだい?」
 彼の手が性奴の胸元に近づくのを興味津々に眺めながら問いかける。手は、激しく性奴の肉壺を掻き混ぜ続けたままだ。
 青ざめて、どう見ても恐怖に引きつっている性奴にうっとりと微笑みかけるガウスが、一瞬だけ鮮紅色を灯りに翳して見入った。
 どう見ても、限界に近い性奴に、さらに与える薬とはいったい何だろう?
 ミズリーもまた期待に満ちた視線を送る。
「これは、加熱していないのですよ。加熱すると痒みをもたらす成分が少しずつ飛んでいきます。その分、他の効果も弱まるのですが……。お売りする薬も、適度な加熱をしております」
 加熱すると痒みが消える話は聞いたことがあった。
 だから時間をかけて加熱して作ったジャムを食べても痒くならないのだ。
「加熱していない……ということは?」
「しかも、採取してから一週間。常ならば、一番かぶれやすいので誰も触りません」
「ほ、お?」
「だが、これが一番効果があって……。だからこうして毎日塗ってやっているのですよ」
 ぽとり。
 血のような紅い滴が赤く色づいた粒の上で弾けた。
「ひっ、ひぃぃぃぃっ!」
 耳をつんざくような悲鳴だった。
「こちらも」
 そして、もう一滴。
「ひ、ひあぁぁぁっ!!」
 びくん、びくんっと大きく身体が揺れる。
 その拍子に、赤い滴が四方八方に飛び散った。
 それが落ちた白い肌が一瞬にして赤い花びらを浮かび上がらせる。
 さらに瓶を置いたガウスの太い指が、薬液を塗り込めるように乳首を摘み擦り上げていた。
「ひぁぁぁっ、あぁぁぁぁ──っ」
 歪にゆがみ、つぶされそうになるほどにこねくり回された二つの乳首が、みるみるうちに真っ赤に腫れ上がっていった。
「ああぁぁぁ──、あぁぁぁ──」
 性奴の美しい声音の嬌声が止まらない。
 腰が何度も天を突き上げる。その中心で、彼の陰茎は限界まで張り詰めて、そそりかえっていた。
「毎日こうやって塗り込めていると、可愛い乳首がどんどん大きくなっていくのですよ。色もね、こんなにもグイナの実の色に同じになってきて」
「そういえば、男にしては大きな乳首だと思っていたが」
 ぷくりと膨らんだ乳首は、今では成人男子の小指の先ほどもある。
 それは確かに、鮮紅色の丸いグイナの実そっくりであった。
「ひああぁっ──っ、ああぁぁっ」
「こうしてやると、とても気持ち良いらしくて、ずっとずっと突き上げているのですよ」
 がくがくと動く腰の上で、硬度を保った陰茎が何度も何度も腹を打っては立ち上がっていた。
 その先端から、だらだらと粘りけのある液体が流れ落ち、陰茎を濡らし、太ももまで垂れ落ちている。
「乳首で絶頂を迎えたか?」
「ええ、この子はこうしてやるのが一番好きなんですよ。もちろん、尻穴いっぱいにグイナの実を含むのも好きですし。たっぷりと実を詰め込んだ壺に、陰茎を突っ込んで遊ぶのも大好きなんですよ。ただ、普通の性奴でそこまで行うと、病院送りになりますから……。ですので、効果を低減させたものと、清浄剤をご用意しました。実は、この清浄剤をご用意するのに時間がかかった、というのがなかなかお出しできなかった原因でして」
 目の前に掲げられた濃緑色の小瓶。
「張り型と潤滑剤でたっぷりと悦ばせた後のお楽しみの前に、必ずこれをご自身のものに塗ってください。それから中に挿入されますと、適度に腫れ上がって熱を持った極上の肉壺を愉しむことができますから」
「ほお……」
 ミズリーの喉がごくりと鳴った。
 彼の下半身は、さっきから完全に勃起している。
 下衣の前がべたべたとしているのは気のせいではないだろう。
 どくどくと胸が高鳴り、今すぐにでも吐き出したい欲求に襲われている。
 だが、ここで欲を吐き出すことはできないのだ。
「いかがされますか?」
 目の前に差し出されたのは、張り型と鮮紅色と濃緑色の小瓶のセット。
 その向こうで瞳を虚ろに見開いた性奴グイナがびくびくと痙攣していた。
 固く戒められた陰茎から流れるのは、僅かに白濁した淫液のみ。
 尻穴や乳首、肌のあちこちを鮮紅色に染めて悶え狂う彼の姿を息を飲みながら見つめ、再びガウスの手元へと視線を落とした。
 あそこまでの効果は無いにしても。
 ネグレードの肌もまたあんなふうに綺麗に色づくだろう。
 彼女の二つの肉壺は、今よりもっと熟して男を迎えてくれるだろう。
 そうだ、今すぐにでもあの可憐な容姿の中に潜む淫らな肉壺を犯したい。
 踊り狂う身体を鮮紅色の液と白い汚濁で彩って……。
「……もらおう」
「まいどありがとうございます」
 にこりと微笑むガウスの告げた非常に高い値段などまったく気にならないままに、ミズリーはたっぷりと膨らんだ財布を取り出したのだった。

【了】