【仔猫のミーヤ】

【仔猫のミーヤ】


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 際限のない欲をその身に蓄え、解放できなければ理性を失い獣と化すこともあるキバであったが、その欲を十分解放した後は意外にも優しかった。
 毎日何回もこの身に彼の精液を受け止めているうちに気が付いたことだ。
 最初のうちは傷を負い、何日も起きられなくて。
 そのせいでまたキバが欲情を溜めて、獣になって襲いかかってくる——を繰り返したけれど。
 ミーヤの身体が慣れるに従ってそれもなくなり、いつでもキバを受け入れられるようになった。
 そうなるとキバも満足できるのか、無茶はしない。
 ミーヤ自身が濡れて受け入れ易いのも、傷を作りにくくしている、とのことだ。
 キバにしてみれば原初の民にはかなり根深い恨みはある。時折過去を夢見て、そんな朝はすべての民を殺してしまいたい狂気に駆られる。
 だが、ミーヤは殺せない。
 心の最も深いところに残っている奴隷時代に助けられなかった忌み子が浮かんできて、手が止まってしまうのだ、と言う。
 その子の代わりに奴隷になっていた忌み子がいたら助けたかったから、だからもしそんな色味の子がいたら、もらってきて欲しいと、コウシュに頼んだのだと。
 だが、コウシュがミーヤを見つけた直後に、奴隷にされるのが王侯貴族だけと知って助ける気がなくなり、嬲り尽くしてやろうと考えを変えたのだ。
 忌み子ならば、貴族にはなり得ないはずだから。
 親がその権力と金で救ったのだろうと、そう思ったから、身体を改造することにした──と、自嘲を浮かべた表情で教えてくれた。
 そして、コウシュの方がよっぽどリジンの民に対して、怒っていると言うことも。


 背後から突き上げられ、ミーヤの身体が反り返った。
「あ、みゃはああんっ、あうん──」
 初めて受け入れてからもう三ヶ月。
 ミーヤのアナルはどんな時でも、キバの剛直を受け入れる。
 いっぱいに満たされて、尻尾を銜えてもらって歯で甘噛みされるのが大好きになった。
 長時間太いペニスで内壁を抉られて、溢れるほどに精液を注がれるのも、苦しいけれど好き。
「ミーヤ、出すぞ」
「ふみゃあぁ──」
 言葉とともにたっぷりと吐き出され、甘い嬌声が続く。
 そのままぐたりと力が抜けたミーヤの身体を、キバが片手で難無く支えた。
「すっかり射精無しに達くようになったな。穴の具合も満点だ。な、ミーヤ」
 朦朧とした意識の中、キバの優しい声音が届く。
 欲を放出した直後のキバは、優しい。そして、ちょっぴり意地悪で。
 悪戯のように軽い口付けを尻尾に落とされ、それだけで敏感な身体が勝手に痙攣した。
 何度も絶頂は味わっているが、まだ射精は許してもらっていない。
 熱の醒めない潤んだ瞳でキバを見上げると、ニヤリと口角が上がった。
 何か意図を持った表情に、ミーヤはきゅっと拳を握って身体を竦める。
「みあ……」
 問いかけるような鳴き声に、キバが笑みを深くした。その手が伸びる。
 鍵が外れる音がして、強く戒められたペニスが解放された。その拍子に尿管に溜まっていたミーヤの白濁がとろりと流れ出す。
 だがそれは、陰嚢の中で煮えたぎっているたくさんの精液のほんのわずか。
 尻尾をほんの一撫でしてもらえれば、一気に放出できるだろう。
 その快感を期待して、腰が踊る。 
 動くたびにアナルからキバの白濁が溢れた。下肢を伝い、ポタポタと床を汚す。
 キバの射精は何回でも続く。ミーヤの中が一杯になるほどに出して出しまくる。それでも、彼のペニスは元気だ。
「締まりがねえなぁ。おい」
「ふみゃ?」
「汚れている。掃除だ」
 首を巡らせば、腰の下からその周囲へとてんてんと液溜まりができている。
「早くしろ」
「みゃ」
 この部屋の掃除は届く範囲であれば全てミーヤの役目だ。特に床はいつもきれいにしろ、と言われていた。
 もう何度もしてきた行為だ。
 すっかり慣れた味のそれを、舌で掬い上げる。
 いくつかの汚れを掬い上げ、次に移ろうとした時。
「ああ、だが先にこっちだ。もよおした」
 首根っこを掴まれ引き寄せられ、構える間もなく突き入れられた。
「ふみゃああ」
 ぞくりと粟立つ快感と同時に、奥深くに迸る熱い液。
「ふゅっ、ぎゅううう」
 それでなくてもいっぱい貰っていた精液と混ざりあい、腹が重くなる。
「ふ、うう」
 鈍い痛みが強くなってきた。いろんなことに慣れたけれど、これはまだ慣れない。
 それに、勢いの良い放尿は激しく腸内をかき混ぜて、腸の活動を活発化させる。その後に待っている痛みを想像して、ミーヤは怯えた表情で背後のキバを見上げた。
 体格の良いキバの尿の量はとにかく多い。
「ふう」
 ようやく放尿が終わったキバが、ずるりとペニスを引き出した。その拍子に注がれた液体が零れそうになって、慌ててアナルに力を込める。
 零したことがコウシュにバレたら、お仕置きと称して折檻されてしまう。
 ミーヤにとって、キバよりコウシュの方がよっぽど怖い存在なのだ。
「さっさと片付けて来い」
 揶揄を含んだ命令に、ミーヤは急いでその場を離れた。
 腱を切られた足首はちっとも動かない。すっかり丈夫になった膝と手で懸命にトイレへと向かう。 時折、ぷすっと空気が抜け、たらりと汚液が流れ落ちる。その度に慌てて締めて、を、何度も繰り返した。
 ゴロゴロと腹が鳴る。
 精液と汚液を注がれた腸は、アナルまでいっぱいになっている。ちょっとでも息めば、勢いよく噴出するだろう。
 前に失敗した時には、空になってしまった腹に尿を二人分注がれた。しかも、決して抜けないようにと、キバのペニスより太い栓を奥深くまで押し込まれたあげくにベルトで固定されたのだ。自分の力ではどう足掻いても抜けない状態で、苦しさに鳴き喚いて無視され、嘔吐を繰り返したあげくに失神した。
 その直後、背に振り下ろされた鞭の痛みに覚醒したミーヤの尻から、栓が勢いよく抜かれる。
 あっけない決壊に、糞便混じりの液体が辺りに飛び散った。
『締まりが無い』
 尿を吹き出す尻にコウシュが嗤いながら、鞭を振るう。
 その後、散りまくった汚物を、ミーヤは素手で掃除させられた。
『今度こぼしたら舌で舐め取らせるよ』
 冷酷な命令は、いつもコウシュから。
 キバはそんなコウシュに甘いから、命令撤回に関しては頼りにならないのだ。


「みゅぐぅ、ふぎゃ……」
 はあはあと苦しさに喘ぎながら、なんとかトイレが見えるところまで辿りついた。
 だが、あと少しでドアに手が届くという時に。
「ミーヤ、どうしたんだい?」
 笑みを含む声音に、身体がびくりと硬直した。
 今もっとも会いたくない相手。けれど逃げ出すこともできなくて。
 おずおずと見上げた先で、緑の瞳が冷たく笑んでいた。
 コウシュは怖い。特にキバがミーヤを使った後は特に危険だ。
 どうやらキバが予想以上にミーヤを気に入っているのが、気に入らないらしい。
 キバがミーヤを使って余るほどの欲を解消するから、コウシュを抱いても理性が吹っ飛ぶことはないらしいのに。ミーヤがいないと元のキバになって、蜜月を過ごすことすら無理だと判っているのに、時々子供じみた独占欲で当たってくるから、油断できない。
「暇なら俺と遊ばないかい?」
「みゅ、みゃーーや」
 そんな場合でないから、と必死で首を振る。
 だが、それが聞き入られたことは無い。
「ん、何しようかな」
 楽しそうに言うコウシュの瞳に、昏い炎が揺らぐ。
 最初の時はキバの方が怖かった。だが今では、コウシュの方がずっと怖い。
 逃れようと後ずさったミーヤだったが、コウシュの手は惑う事なくミーヤを掴んだ。
 ミーヤの、もっとも鋭敏な尻尾を。
「ひみゅ──ぅ」
 甲高い悲鳴。
 尻尾への刺激は身体から力が抜ける。
 ぴゅう────っ。
 笛のような音が響いた。
 放物線を描いた後、ビチャビチャと床を叩く音が響く。
「あっ、みゃああ──」
 四肢がピンと突っ張っていた。
 激しい快感に、小刻みに全身が震える。
 びくびく震えるペニスが、大量の精液をだらだらといつまでも吐き出していた。


 長く続いた射精の快感に、意識が白く掠れる。
 けれど。
「悪い仔だ。こんなに漏らして。今度粗相をしたらどうするか言ってあるよね」
 冷たい言葉が、薄れかけた意識が呼び戻された。
 ぐいっと腰を上げさせられた、と同時に弾けた音と脳天に響く痛みが走る。
「みぎゅうっ、ひみゃああ」
 音が鳴るたびに、痛みに翻弄され泣き叫ぶ。起こされた腰が汚液の中に崩れ落ちた。けれど、コウシュの執拗な折檻は止まる事なく、続けられる。
「早く片付けろ」
「みあああっ」
 叫ぶ度に白い尻たぶに赤い筋が増えた。
 いくつもの筋が複雑に絡み合う。
 悪い仔はお尻をぶたないと──と嗤うコウシュの鞭が、何度もミーヤの尻で弾ける。
 しかも、掃除をせっつかれて、ミーヤは必死になって舌を伸ばした。
 たっぷりと出された精液も混じった汚液には、便まで混じっている。
 饐えた臭いと独特のえぐみに吐き気が込み上げたが、それでも嬉々として鞭を奮うコウシュから逃れるには、舐め取るしかなかった。
 けれど、コウシュの手は止まらない。
「ひぃみやぁぁぁ──」
 繰り返される鋭い痛みに迸った悲鳴に、せっかく口に運んだ汚液がボタボタと溢れ落ちた。
 身体が跳ねるたびに、滴が跳ね、辺り一面に飛び散る。
「早くっ!」
「みぃっ──、みいいいいいっ」
 コウシュの気が済むまで続く折檻の終わりは、いつも読めない。
 ただ。
「賑やかだと思ったら、こんなところでお仕置きされてんのか?」
 キバののほほんとした声音に、場の雰囲気が一気に和らいだ。
「コウシュ、忙しいのか?」
「いや、もう良い」
 声音から険が取れ、甘えが籠った。
 折檻の内容撤回には頼りにならないキバだけど、コウシュの折檻を短くできるのは彼だけだ。
「ああ、やろうぜ」
 キバがコウシュの背に手を押して促しながら、背後のミーヤを振り返った。
 悪戯っぽく笑う瞳を、めんどうそうな声音がごまかす。
「くせぇ、さっさと雑巾持ってきて片付けろ」
 落とされた命令は、ミーヤにはとても楽なもの。
 こくりと頷いたミーヤを残して、二人は仲良く出て行った。


 二人で出て行った日は、もう戻ってこない。
「みゃあ」
 閉ざされたドアを見つめて、ミーヤは小さな声で鳴いた。
 一人でいるのが嫌いなわけではない。
 今までもずっと一人でいたから。
 けれど、今は光夜であった頃の自分とは違う。
 人の温もりと、人と触れあう愉しさを知ってしまった。
 際限ないキバの性欲と意地悪さに翻弄されてはいるけれど。コウシュの八つ当たりも困った物だけど。
 それでも、彼らはミーヤをかまってくれる。
 コウシュだって日がな一日機嫌が悪い訳じゃない。キバと一晩を過ごした朝は、いつもとても機嫌がよい。
 そんな二人と遊ぶのはとても愉しくて。
 だからか、一人の今は少し寂しい。
「ん、みゅ」
 痛む尻に顔を顰めつつも、うう、と猫が伸びをするように背を伸ばした。
 不愉快な臭いをたてる汚物の掃除を済ませて、今日はもう寝よう。明日になれば、またあのドアからキバが来てくれる。
 機嫌の良い時のコウシュがくれる餌は、本当に美味しい物ばかり。
 寝てしまえば、明日なんてすぐにくる。
 ──ごめんね、みぃあ。僕、まだそっちには行けそうにないや。
 だって知らなかったことを知ってしまったから。
 
 キバのために、コウシュのために。
 彼らがミーヤを欲している限り、ミーヤには生きる意味があるから。
 人のために生きることは嬉しいから。

 雑巾を取りに不自然な四つ足で這いずるミーヤの後方で、ぴんと伸びた尻尾が楽しげに揺れていた。
 
【了】