【仔猫のミーヤ】

【仔猫のミーヤ】


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「おいで、ミーヤ」
 広い部屋の片隅から呼ぶ声は聞こえていたけれど、どうして良いか判らないミーヤはおずおずと顔を上げた。
「ミーヤ」
 再度呼ばれて、そろりとじゅうたんについた膝を動かした。
 ミーヤとなった光夜には、疑問を口に出せない。何かを問うこと自体が物理的に不可能だった。
 だから、動くしかない。
 広い部屋いっぱいに肌触りの良いじゅうたんが敷かれている。
 そこに置かれた数少ない家具の一つである長椅子で、コウシュが呼んでいた。
 実に一カ月振りの再会。
 競売に掛けられた、その日の内にミーヤは病院のようなところにいれられた。
 そのまま何かの処置をされて、ずっとベッドに縛り付けられていたのだ。
 一カ月間歩くことの叶わなかった足は、自分の体重を支えられない。 膝と手で這うように進むけれど、筋肉の落ちた体では、それもきつかった。
 それでも何とかコウシュの足元ににじり寄った。
 これで良いのか、と見上げれば、コウシュの口角が上がっていた。
 ああ、良いのか。
 ホッと俯く、と。
「嬉しいのかい?」
 掛けられた声に頭を上げて、首を傾げる。
 なぜ判るのか? と、不審に思ったのだ。
 けれど、はっと気づいた。
 背後に向けた視界に、毛に覆われたものがゆらりと蠢く。
 ミーヤの片手でかろうじて握れる大きさのそれは、その根元が彼の尾てい骨に繋がっていた。
「ミーヤはあまり鳴かない仔らしいけれど、尻尾はとっても雄弁だってね」
 手が伸びて、さわさわと指先で尻尾を撫でられる。
「ひ、ぁ」
 吐息が震える。
 びくびくと腰が動く。
「みゃっ、あっ」
 ペニスを微妙な触れ方にされているような、もどかしい疼きが背筋を駆け上がる。
 ペニスには何も触れていないのに。
 切なく眉根を寄せて、身悶える。
 そのたびに暴れる尻尾を、コウシュがさらに強く掴んだ。
「ひゅぎゅう……」
 堪えきれずに手が拳を作る。
 手のひらに汗が滲み、綴じられない口の端から涎が流れ落ちた。
「は、ひあっ」
 指が、先端を強く嬲り、脳天まで電流が走り抜けた。
 自分で自慰をするより激しい動きに、自分の身体が制御できない。
 ぺたりと尻をつけて座り込み、床についた腕を突っ張り、腰だけが上下に跳ねる。びくんびくんと跳ねる姿に、コウシュが笑みを深くした。
 コウシュの手が、指が。激しく動く。
 敏感な亀頭がこねくり回される感触。刺激が、下腹部を──いや、全身を走り回る。
「ふみゃあっ! あぁっ! みやあっ」
 声が堪えきれない。
「随分と敏感な尻尾だ。これは良い」
「はっ、み、みいっ、ふみっ」
 ぺろりと尻尾の先を舐められて、視界が白く弾ける。
 猫のような長い尻尾がつけられた。
 耳朶が獣のように尖らされた。
 声帯と発声に関わる脳の神経系が操作されて、猫のような鳴き声しか出せなくなった。
 それは、教えられた。
 けれど。
 けれど、こんなのは知らない。
 無意識のうちに勃起してだらだらと粘つく淫液を流すペニスに手を伸ばしていた。
 もっと快感を貪ろうと擦りたてる。
「ひみゃあ? ああ? にゃあ──?」
 いくら扱いても、そこから全く快感が生まれない。
 いや。
 扱いて尿道からぷくりと白濁まじりの淫液が出た時には、ぞわりと肌を快感が走った。だが、それだけだ。
「にゃああ──?」
 何で?
 何で感じない?
 はあはあと大きく喘ぎながら、涙を零しながらコウシュを見上げる。
 達きたいのに。
 自分の力では達けない。
 ぼやける視界の中で、コウシュが嗤っていた。
「良く鳴くじゃないか、可愛いものだ」
 ぐにゅっと手の中で弄ばれる尻尾。
 あれはペニスではないのに。
 似ても似つかない尻尾は、だけど堪らなく感じる。
 尻の付け根から先端まで、どこを触られても感じまくる。
 さんざん尻尾を弄られて。
 限界を越えたのは、いきなりだった。
「ひ、みやぁ──っ」
 尻を高く上げた獣の姿。
 股間から胸に向かって、ビュッビュッと噴き出す白い汚濁。
 高く響く鳴き声が、いつまでも続く。
「おやおや、下の躾をしないと駄目なのかい?」
 あからさまな揶揄の言葉にも反応できないほど、快感が長く続いていた。


「起きなさい」
 声音に含まれた冷気を敏感に感じ取ってしまう。
 媚びる気は無い。けれど、コウシュのそれは身体にくすぶる熱が一気に小さくなるほどに冷たかった。
「……ふみゅうう」
 言葉よりも雄弁な尻尾が項垂れる。
 射精後の脱力感に襲われている身体を奮い立たせて、上体を起こしたけれど。
「ふゅぎゃっ」
「粗相したら自分で片付ける。さあ、やりなさい」
 きつい程に尻尾を掴まれていた。
 がくりと身体が崩れる。
 ぽろりと流れた頬がじゅうたんに押し付けられる。そのすぐ目の前に、たくさんの白濁が液溜りを作っていた。
「早くしなさい、仔猫ちゃん」
「みゃっ」
 何をどうやって……?
 暴れまわる快感が思考を邪魔する。
 唇が戦慄き、溢れた唾液が喉を汚した。
 体が熱い。
 達きたい。
 二度目の限界が近付き、激しく喘ぎいで身をくねらせるが、コウシュは冷たく言い放った。
「掃除が先」
 有無を言わせぬ声音と、冷ややかな表情。
 その手が振り上げられる。
 細い棒が閃いて。
「ふぎゃああっ」
 星が弾ける。
 快楽に敏感になっていた肌に、くっきりと赤い筋が浮かび上がった。
「言い付けを守れないならお仕置きだ」
「ひぎゃっ、みやああ──っ」
 何度も視界が弾ける。
 鋭い痛みが脊髄まで響く。
 5から6回は続いた打撃が、止んだのは唐突で。
「ミーヤ?」
 笑みを含んだ優しい声音が振ってくる。
 動かないと……。
 優しさゆえの恐怖が、ミーヤを突き動かす。
 逆らうとか、従うとか。
 なすがままにとか、なされるがままに、とか。
 真っ白になった頭は、何も考えられなくて。
 ぺろ。
 舌を伸ばして、白濁を掬い上げた。
 それを、口を閉じて奥に運ぶ。
 生臭い苦みのある味が、口内に広がった。
 じわりと涙が滲む。
 それでも、ミーヤは次を掬い上げて、ごくりと喉を動かした。
 白濁がねとりと口内に貼り付いて、気持ち悪い。
 えづきそうになりながら、それでもミーヤは必死になって舌と口、そして喉を動かした。
 だが、尻尾からは達けそうで達けない程度の刺激が続く。
 時折その刺激が強くなって息が詰まり、動きが止まった。
「あっ、はふっ」 
 涙目で見上げるミーヤに、コウシュが染み込み出した次の汚濁を指さす。
「早くしろ」
 そう言うなら邪魔しないで欲しい。
 訴える涙目の瞳を覗き込んでいるコウシュの笑みは酷薄さを増す。
 すうっと目の前に差し出された尻尾が、ぎゅうと握り締められる。
「ひみぃっ」
 食い込む指がもたらす痛み。けれどもう一方の手が、長い尻尾をゆっくりと撫で上げた。
「あ、は、みゃ──っ」
 がくがくと腰が揺れた。
 意識が尻尾に集中する。だらだらと溢れた淫液が、舐め取った跡を汚している。
「まだ残っている」
 振ってくる声がすべて。
 じゅうたんの起毛が舌に貼り付く異物感。
 吐き気を催す味と臭い。
 みいあもこの味を味わったのだろうか?
 ろくでもない食事の時があると、うつろに呟いていた記憶も甦る。
「うまいか?」
「ひっ、みゅ」
 強く指で摩られて勝手に零れた鳴き声に、コウシュが嗤う。
「うまいか、良かったな。これからはたっぷり貰えるぞ。飽きるほどにな」
 これは、まだ始まり。
 純血の忌み子なのに生かされて、生きてきて。
 みぃあに何もできなかった自分に与えられた罰。
 コウシュの性奴となった時に、どんな目に遭おうと──みぃあのような目に遭っても言われるがままにしようと思った。
 喘ぎながら、首を伸ばし、舌を伸ばす。
「明日、キバに会わせてやる。お前を犯したくてうずうずしている。壊されないようにするんだな」
 手に終えないほど元気な奴だ、と自慢げに笑って言うコウシュの言葉をうつろに聞く。
 涙と鼻水、そして涎でグチャグチャになった顔で、ミーヤは自ら溢れさせる淫液を、ひたすら舐め取り続けた。