人形遊び

人形遊び

ファンタジー 魔法の道具 支配 凌辱
古い人形に込められた力を使い、想い人を手に入れようとする男の一方的な話。



 古の魔法の道具だと見せられた人形は、古ぼけた男性型のビスクドールだった。
 魔法道具の収集家として名のしれている私だからこそ持ち込まれたであろうそれは、いかんせん傷みがあまりにも酷かった。
 金のはずの髪は薄汚れて赤茶けていたし、たいそう不揃いでみっともなかった。透明度のある白であるはずの陶器の肌はくすんだ灰色でヒビが走り、年老いた老人のシワにも見える。ガラスの瞳の薄い水色は元のままなのだろうが、左右の焦点がずれているようで奇妙な印象が先に立つ。
 何より、レースがふんだんに使われていたであろうドレススーツの傷みが酷く、灰色の染みが大きく広がっていて使い古された雑巾よりも汚れており、千切れ破れた隙間から肌が覗いていた。
 1メートル60センチほどの身長のその人形は、常ならばいくら魔法の道具とて触手が動くものでは無かったが。
 興味をそそられたのは、持ち込んだ男が言ったこの人形のいわれだ。
 古物商である彼とはもう長いつきあいで、だからこそ、私の趣味を良く知っていて。
 そんな彼が持ち込んだ人形を、かなりふっかけられた感は否めなかったけれど、結局私は買ってしまっていた。



 古にこの国に栄えた王国は、強力な魔法国家だった。今でも魔法は残っていて、魔法が使えるものは市井の魔法教会で犯罪者探しに協力したり、災害救援に出たりはしているが、今の彼らの力は当時の十分の1程度と言われている。
 同時に魔法道具を作り出せる技能者も減り、せいぜいが失せ物探しのまじない札か、占い玉のようなもの程度。
 幼い頃から多少の魔法が使えたからか、私にとり古の魔法のもたらした栄光は、どんな英雄談より心を震わせた。同時に、失われた様々な技術に心を痛めたものだった。
 長じて親の跡を継ぎ、その事業をさらに発展させた私が、幼い頃に憧れた魔法道具の収集を始めたのは、古の技術を解明したいからで、集めた品物はすべて研究所に回していた。
 が。
 今、古ぼけた人形が置かれているのは私の寝室のベッドの上だ。
 さすがに汚れていた服を剥いで瀟洒な礼服に着替えさせ、肌も磨き髪を整えた結果、ひび割れや瞳の位置はどうしようもなかったが、それでも美しい貴族の青年のような姿を取り戻した。
 青年とは言ったけれど、こうしてみると模されているのは微妙な年代だと判る。
 少し丸みを帯びた顔つきは少年、けれど見る角度によっては顎のあたりのシャープさは青年のようで。
 どこか色気を感じさせる容姿もあって、じっと眺めていると、知らず気分が高揚していた。
 美しくなった肌に触れると、手にしっとりと馴染み、吸いつくようにすら感じる。
 ほんの少しだけ緩んだ口元に誘われるように口づければ、冷たい中にも得も言われぬ心地よさを感じた。
 私はさらに高まる欲望にうっそうと笑みを浮かべ、この道具が私の手元の来たことに、普段は忘れている神という存在に深く感謝した。
 なぜならば、私には密かに恋い焦がれている相手がいるからだ。
 容姿に関しては十分なものを持っているし金もあるから、男女を問わず引く手あまたではあるのだが、この相手だけは靡いてくれる期待は薄い。それでも、過去幾度か誘ってみたのだが、食事すらつれなく断られてしまっていた。
 相手は私が手がける事業のライバル会社の、まだ30にも到っていない利かん気の強い青年社長。白金の緩く波打つ髪と薄水色の見目麗しい佳人なのだが、それを見事に裏切る気の強さと攻撃的なところが堪らなく私の好みに合致する。
 ああいう輩を、完膚なきまでに叩きのめし屈服させ、支配下に置きたいと──私の内なる欲望がずっと暴れてはいる。
 ああいう立場の人間を拉致監禁するわけにもいかず、どうしたものかずっと悩んでいたのだが。
 持つべきものは、私の好みを熟知した金儲けの亡者である古物商というわけだ。
 私はこの人形に奇跡的に付属していた古文書を読み解いたときの興奮そのままに、想い人の写真を人形の顔に貼り、収集に苦労した彼の髪を束ねた物を人形の髪の中に結びつけた。
 服を着せる前に、左胸には消えないように油性のペンを使って彼の生年月日を記し、羊皮紙へ所在地と名前を決められた紋様の中に書き込んだ。紋様自体は失せ物を捜す際に使われるものとよく似ていて、間違うようなものでは無かった。
 後は念のために四肢をベッドの天蓋の柱にしっかりと括り付けて。
 それら前準備を全てを終わらせて、後は私の魔法力をこの人形に注入するだけ。
 集中すれば翳した手のひらが熱くなり、人形が淡い光に包まれる。
 それはまさしく魔法道具である証で、私の期待と興奮は否が応でも高まったけれど、10分ばかりの照射はさすがに疲労を誘い息が乱れた。
 だが、その甲斐があって魔法道具たる人形は見事に発動していて。
 白い肌からひび割れが消え、皮下に流れる血の色を透けさせた健康的な肌の色となっている。ざんばら髪は肩に掛かるまでの長さに伸び、美しく艶やかなプラチナブロンドだ。今は閉じられたら目蓋の下の瞳も生気を取り戻しているのは想像に難くない。
 そっと手を伸ばし写真を外して頬に触れれば、疲れて冷えた指先を程よく暖めてくれた。その指が冷たかったのか、眠ったまま眉間にシワを寄せたその表情は、紛れもなく想い人のそれ。
 歓喜に満ちた心が急かされるように身体を動かして。
 柔らかな唇に口づける。
 触れる暖かな吐息の流れすら甘美に味わい、小さな頭を掻き抱く。
 夢にまで見た彼とのキス。
 触れるだけでは堪えられなくて、緩い唇の間に舌先を滑り込ませ、形のよい歯列を辿っていく。
 もっと触れたいと、身体の上にのしかかりぎゅっと強く抱きしめて足を絡ませて。
「んぁっ」
 圧迫感からか零れた吐息すら私の官能を呼び寄せる。何より喘いだことにより滑り込んだら舌先が味わう口腔の熱さに理性を持って行かれそうで。
「な、ぁに──っ!!」
 さすがに目覚めたらしい。驚愕に見開かれた瞳を覗き込み、私は心からの歓喜を隠しもせずに笑いかけた。
「ようやく手に入って、嬉しくてたまらないんだ、ビュセット」
 愛しい人は、何が起きたか判らないとばかりに硬直しているから、私は服の下に手を入れながら説明することにした。


 魔法道具の人形は、本来傀儡(くぐつ)の術のための媒体として造られたものだ。
 人形に人の魂を封じ込め、配下として使う。人のように食事も排泄も必要ない、胸の奥の魔法石に蓄えられた魔法力が動力源のそれは、感情を持ち得ないものも多く、主の言われたままに動く。暗殺用途に送り込まれることも多かったらしい。
 外見は封じ込めた人に酷似しているから、死にかけた家族を人形に移すという時もあったようで、この人形はそれの派生品だった。
「や、やめっ! くそっ」
 汚い言葉で罵声を浴びせる人形は、今や彼そのものだ。
 わざと乱暴に引き裂いた服の間の肌には、自分でも呆れるほどの赤い鬱血の痕があって。
 ずっとかわいがってあげた一対の乳首はどちらも赤黒く腫れ上がり、唾液に濡れて卑猥に震えていた。それにチュッとキスを落とし、手にしたクリップをパチリと填める。
「アギィッ!」
 跳ね上がりバウンドして落ちた身体が小刻みに震えている。
 その心地よい悲鳴もまた、愛おしい彼の声。
 これもそれも、この素晴らしいこの人形のおかげだ。
 その昔、片思いの苦しさに狂気に陥った魔法道具師が作った人形がこれ。
 相手の魂を強制的に呼び出し、人形に封じ込めて。あたかもそこにその人そのものが現れたように、人形を人の姿に変化させた。
 もとから人の姿を取らせるための人形だ。
 それをさらに精巧にして、鈍くなるはずの感覚までをも再現させたのは、これを作った魔法道具師がそれだけ優秀だったからだろう。否──狂気は人が無意識に自制していたところまで解放してしまうことがある。
 子文書によると、封じ込められた魂は何度も肉体に戻っては、また呼び戻され、そのうち人形から離れられなくなって魔法道具師の元で暮らすことになったという。
 その魔法道具師にとり夢にまで見た生活だろうから、なんとも幸せなことだったろう。叶わぬ夢を見続けることは辛く苦しいことだから、余計にそう思う。
「素敵だよ、ビュセット」
「ひっ、いぎっい……そこ、はっ」
 指を絡めたペニスはさっきからドクドクと脈打つのが判るほど猛り切っていた。
 それをすっと指先で撫でるだけで、ビクビクと痙攣し、あの生意気な顔を悲痛に歪め、涙と唾液でグチャグチャにして悲鳴を上げる。
 もうこれは人形ではない。
 愛しい彼がこの手の中にあって、私の欲望がどうして止められようか。
 滑らかな触り心地の良い皮膚を指先で撫で上げ、先端のぱくつく口へと小指の先をぎゅっと沈ませた、と。
「ひぃっ、ひくっ、はなへぇっ、あぅっ!!」
 ビクンッと激しく痙攣した身体が硬直する。
 見開かれた瞳が私を見ていないのを残念に思いつつ、けれど、浮かび上がった腰の、震えたそれから噴き出す白い飛沫の見事さの方が素晴らしい。
「良い子だ、私の指が気に入ったようだね」
「ひっ……いっ……な、んで……」
 指に絡まる白い液を彼の口元にぽたりと垂らし、誉めてあげたというのに、怯えた小鳥のように震えてガクガクと首を横にふって否定する。
 この身体は人形だと教えてあげたけれど、どうしても信じられないのだろう。
 私も実際使ってみて、ここまで精巧なものだとは思わなかった。
 口の中に広がる味も、粘りも、滑りも。
 人と僅かな差も感じられない。
「これはぜひとも味わいたくなったよ」
 ここを──と尻の狭間に指をやれば。
「や、やめろっ、そこはっ!!」
 激しい抗いに、ロープを止めていた天蓋の柱が大きく揺れる。
「やれやれ、自分のベッドで天蓋に押しつぶされるのは御免被りたいことだ」
 溜息を吐いたけれど、まだまだ愉しみたいこともあって。
 最後まで使わずにおこうかと思ったけれど、これはこれで愉しめるかも、と。
「自分で足を抱えて、淫乱な穴を差し出しなさい」
 力を込めて、語りかける。
「なっ──い、ぎ……な、なんでっ、なんで俺がっ、あっ」
 拒絶しようと抗ったのも僅かな間だった。
 柱から切り落としたロープの端が垂れ下がるそれぞれの手が、同じ状態の足を掴んで拡げ、持ち上げていく。
「この身体は傀儡の人形。ならば主の言葉は絶対」
 教えてあげるとその瞳が驚愕に開かれ、震え、新たな涙を溢れさせて。
「も、無理……だ……たのむっ、頼むからっ」
 普段は高慢な彼も、こうなれば大人しいもので。そうなると愛おしさも倍増だ。
「可愛いよ、可愛い君に、私の溢れんばかりの愛をあげよう」
「い、いやだっ、頼むっ、もう、帰してくれっ」
 男2人の体重など堪えぬはずのベッドではあるが、さすがにビュセットが暴れたせいでしょうしょうガタが来たようだ。ぎしっと鳴った柱の音に、苦笑を浮かべ。
「今度はもっと丈夫にせねば、な。こうやって大人しく従わせるのも良いが、私としては、やはり暴れる君を押さえつけて犯す方が愉しいと思うんだ。だから暴れても壊れない丈夫な寝具が必要だと、ねぇ、君もそう思わないかい?」
「なっ……」
 ひっくり返ったカエルのように、弱いところを剥き出しにした愛おしい人は、私の言葉にさらに怯えている。
「でも、今日は仕方が無いよね。君はまだこれから味わう素晴らしい快感を知らないから、どうしても怖がってしまうのも判らないでもないから」
 割り開かれた股間に身体を入れ、私の自慢の逸物でその滑らかな太股の肌を味わう。
「これはまた、なんとしっとりとした肌触りなのだろう。この先がとても楽しみだよ」
 キレイな形の穴が、ひくひくと震えていた。
 動けなくても、その周りの筋肉がぎゅっと引き締まっているのが判る。
 つんつんと先端で突いても、何の侵入も許さないとばかりに硬い。
「おやおや、せっかく好物をあげようというのに、いらないのかい、残念だねえ」
 肩を竦めて離れると、あからさまにほっとする。
 けれど。
「でも、私はやっぱり君の中で達きたいんだ。熱く火照った肉の甘露を味わいたくてしょうがないんだよ」
 にこりと微笑んだ私に向けられた、歪んだ恐怖の表情は欲望を燃え立たせる良きスパイスだ。
「力を緩めなさい」
 たった一言で綻ぶ媚肉の空間は。
「ぎあっ、いああぁぁぁ──っ」
 堪らないほどの甘露の渦の中。
「ああ、いいよ、なんて良いんだ。熱くてうねって、けれどしっとり絡みついて……」
「い、やだぁぁっ、入れんなっ、あっ、ひぃぃっ!!」
「ふふっ、本当なら切れているんだろうけどね」
 私のペニスはサイズも長さも規格外品だ。初めてこれを味わう穴は、たいてい裂けてしまうのだが。
「人形の身体で良かったね」
 そのための人形だからか、切れることなく私の巨根をしっかりと飲み込んでくれた。
 もっとも、味わう刺激も快感はそのままだ。
「ひっ……ぎっ……ひっ……」
 息も絶え絶えに舌を口の端から垂らしたビュセットの瞳は霞がかかったように握り、その声は意味をなしていない。
 愛おしい君を思いっきり犯せるのだと思うと、しょうしょうがっついてしまったかも知れない、と反省するほどに、私は一気にこの長い巨根を押し込んでしまったようだ。
 だが、ヒイヒイと呻いてはいるが、ビュセットのペニスはますます猛り切っている。
 多少は苦しいようだが、快感もしっかりと味わってくれているらしい。
「ふふ……一度これで快感を味わうと、他ではもう足りなくなるらしいよ」
 そこまで行き着く前に、たいてい逃げてしまうけれど。快楽に溺れた者逹は、今は皆私が経営する売春宿にいる。
 その月一番の売上を出した者に褒美としてこれを与えると言ってやれば、嬉々として働いているくらいだ。
「や……めっ……」
 ふるふると何度も首を横に振ってはいるが、入れられただけで快感を感じている状態では、説得力も何もない。
「さあ、たっぷりとこの世の果てに飛ぶほどの快感を味合わせてあげよう」
 にこりと安心させるように微笑み、強張っているのか少し硬い身体を抱き寄せて。
「良い子には、たっぷりと種づけしてあげるからね、良い声で鳴きなさい」
「だ、だ、め──ひぃぃぃぃぃぃぃっっっ!!」



 私は、腰の強さだけは自信があって。
 その抽挿の早さも、たいていの者が驚いてしまうほどで。



「ひぐっ……も……いっあぁぃ……おなひゃ……あひっ……」


 抜かずの10発という最高記録が出せたのも、きっと私たちの相性がたいそう良いということの証。



「ゴポゴポいっへぇるぅ……えへへ……あひぃ……」



 溢れるほどに注ぎ込んだ私の精液が零れないように、しっかりと付属の栓を押し込むと、さすがの私も疲れてしまった。それでも、と、ビュセットへと歩み寄る。
 その彼は視点の定まらぬ瞳を泳がせて、あへあへと喘いで、自分のペニスを扱いているばかりだったが。
 ビュセットの胸に手を当てて、中の残った魔法力を吸い出すと。
 瞬く間に元の人形の姿に戻って、そこにあるのは虚ろな物体に成り果てた。
 いや、元と違うのは、私の愛がこの中にたっぷりと詰まってることだろう。
 注いだ愛が多いだけ、魔法力が少なくてもこの人形は取り込んだ魂を長く留め置くことができるのだから。
 さらに一度繋がった人形と人は、今度は前準備などなくても、その名で呼び出すだけで封じることができるのだ。
 今は無機質な人形だが、この身体全てに私の愛が浸透すれば人形と魂は一体化する。
 その素晴らしい未来は限りなく近いだろう。
 それに。
 この魔法道具の効果はもう一つあって。
 魂を失った肉体もまた、人形の支配者に従属するようになるらしい。失ったものを取り戻そうとするらしい。
 人形に魂が宿り完全に支配できる人となり、肉体は生きている人形として隷属させられるのだ。
 人の肉でできた人形と人になった人形と。
 二つとも私のものにする愉しい遊戯を想像して、私は、近年あげたことの無かった大きな笑い声を出したのだった。
 

【了】