【DO-JYO-JI】(7) 遊技の章2

【DO-JYO-JI】(7) 遊技の章2

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【DO-JYO-JI】 遊技の章2

 弥栄卓真と園田文昭は盟友であり、生々しい関係にはなり得ない。
 改めて実感した一夜が明けた朝、卓真は新居浜が相手のやけに艶かしい夢を見て、跳ね起きた。
 熱を孕んだ陰茎が暴発寸前なことに、頭を抱える。
 夢の中でも挿入までには至らなかったが、それでも夢だからこその願ってもないシチュエーション。
 あまりの生々しさに、顔が熱い。
 身体も熱くて、欲望の塊は一向に萎える気配が無い。
 しょうがないと自己放電したのだが、なんだかやけに情けない気分になった。それがまた、不愉快で。
 昨日より輪をかけて不機嫌なままに事務所に出向いたが、そんな卓真に、やはり新居浜は変わらなかった。
 そんな唐変木でしかない男なのに、昔より貪欲に新居浜が──新居浜だけが欲しいと願っている。
 だが新居浜は昔と変わらないから、余計に焦れてしまうのだ。
 だからこそ、訳も判らない怒りが込み上げる。
 昨日と同じで皆が避けている今の状況は、さすがに良くない、とは判っているが、理性だけでは押さえ切れない。
 新居浜が視界に入っている──その無表情さに苛つく。
 揚げ句昨日と同じく新居浜とやり合い、けれど今日は理性を総動員して何とか黙って帰ってきた。
 こんなことでやり合っても仕方ない。それよりは、やるべき事をしないと……。
 でないと、あまたの評価を自ら肯定してしまうことになる。
 我が儘なボスのお目付役。
 新居浜あっての弥栄組。
 他所から見た新居浜はそんな立場で、それは決して外れてはいない。
 だがそれでは駄目なのだ。
 疲れた……。
 誰の目もないから上半身すべてを脱ぎ去って、フローリングの上に直に寝っ転がった。
 こんな情けない姿を晒すことは、外では不可能だ。こんなにも覇気が無い姿も論外で。
 けれど時折こんなふうに力を抜きたくなることはあるというもの。
 冷たくて気持ち良い。
 はあ、と零す吐息が熱い。
 中井が帰って来たと夕刻には聞いていた。
 後でここに来させるとは言っていた。
 それが、待ち遠しい。



「鍵……」
 天井だけだった視界に、見慣れた若い男の顔が入って来た。
 顔が知らず緩む。
「持ってろ」
 指先に掴まれたカードキーに、しまうよう顎をしゃくった。
「でも」
「俺が呼んだらすぐ来い。居なくても中で待ってろ」
 その言葉に、中井が苦笑を浮かべ、手の中のカードキーを見つめた。
「でもさ……そうそう来れないと思うけどなあ。……あ、でも……卓真さんなら大丈夫かな。あいつの雇い主だもんな」
 小首を傾げる中井が前より艶かしく見える。
 少し疲れたような緩慢な動き。
 髪を掻き上げる仕草一つに、色気が増している。
「ずいぶんと可愛がられているようだな」
 上体を起こし、近い距離で中井を見つめた。
 シャツの襟刳りの下の朱色が、不愉快そうに横を向いたせいで良く見えた。
「やりまくられてましたよ、ええ……」
 はあぁ、と零すため息が艶っぽい。
「あいつ、絶倫なんてもんじゃないですよ。次の日は、動けないは、痛いは、怠いわ……。しかもペット扱い」
「ペット?」
 聞き馴れない単語に眉根を寄せると、中井が慌てたように口を噤んだ。
「おい、どうした?」
 中井の腕を掴み引っ張る。
 がくりと力無く膝をついた中井が、大袈裟なほどのため息を落とした。
「も……、なんか、もう……ちょっと疲れて」
 がくりと肩を落とした横顔は、頬がこけているような気がする。それに、目の下にはクマ。
「お前、大丈夫なのか?」
 卓真が見ていた中井はいつも元気だった。
 時折寂しげな表情を見せるが、それをこんなにも簡単にさらけ出しはしなかった。
 なのに今の中井は自分を取り繕うことができないようだ。
 これでは、その気にならない。
 今の中井は欲しいとは思わない。
 あいつがこんなふうにしたのか?
「千里は酷い奴か?」
 中井を捕まえたまま、きつく睨み上げる。
 嘘やごまかしは許さない。本当のことが知りたい。
 どうしても欲しいというから、やったのに。
 中井が望まないのであれば、返してもらう。それが、この先の計画に狂いが起きることであっても。
 ──この子を犠牲にしたくない。
 不意に沸き起こった感情に頷きかけてから、それをはっきりと自覚する。
 なんだこれは?
 自分で自分が信じられなくて、思わず額に片手を当ててみる。
 欲にまみれた下肢に沸いた熱が脳でも侵したか?
 違和感と一緒に訪れた感情は、けれど確かに自分の物だ。
 気怠げに視線を泳がす中井に視線を向ければ、浮かぶのは千里への怒り。
「中井、どうなんだ?」
 即答できないのだから、幸せとは言えない。
 嫌だと言えば、その時は……その時は……。
 一体、どうしようというんだ?
 愚にもつかぬ事を考えていることに気づき、苛つきが酷くなる。
 即答しない中井に怒りすら覚え、握り締めた拳が白く震えた。
 だが。
 その拳が上がる直前、中井が重い吐息を零した。
「酷いっていやあ酷い奴かも……蛇だし、生理的に受け付けないって言うか……なんかさ、ふだんの俺なら絶対に近づかない奴、かな?」
 碌でも無い批評だ。
 なのに、卓真の拳が緩んだのは、そう呟く中井の染まった頬のせいだ。
「でも、まあ……悪い奴では……ないことは確かで……」
 酷く曖昧な言葉は、はっきりとした返事ではなかったけれど。
 きつく眉根を寄せながら、口元には苦笑が浮かんでいる。
 相手を厭うてはいるけれど、完全な拒絶がそこにはない。
「すっげぇしつこくて、頭ん中まで性欲に侵されてんじゃねえかな、って思うけど」
 ふと、自分の事を言われているような気がして、そうでないと思い直す。
 そんな卓真の視線の先で、中井は自分の膝を抱え込んで俯いていた。
 その耳がやはり赤い。
「とにかく、やることばっか。本人だけでも絶倫で何回でも達けるくらいなのに、その上道具や薬まで使うんだ。一回相手をしたら、もう近付きたくない、もう二度としたくないって思う。あんまり楽しくやられて、あいつの玩具にでもなったような気にさせられる──けど」
 文句を言いながらも、中井の声音はどこか甘い。
「そうじゃない時は……なんか、その……至れり尽くせりで、こう……さ……」
 言い淀んで、ますます深く俯く。
 その姿は壮絶なまでの色気を放っていて。
 中井ではないみたいだった。
 ガキだ、と思っていたけれど。
 鞭の後の飴に餌付けされている姿は、まさしくガキには違いないけれど。
 手を伸ばし、中井の前髪を掻き上げる。
 その形の良い額までも、朱色に染まっていた。
「一度だけ確認してやる」
 これはもう、戻って来ない。
 すんなりと納得してしまった。
 それでも──。
「戻りたいか、千里の元に留まるか?」
「え、あ?」
 思わず、といった感で中井が顔を上げた。
 その頬に擦り寄り、熱い吐息を項に落とす。敏感な肌が、ざわりと粟立っていく。
「契約のことなど気にする必要は無い。帰って来い。帰って来たら俺の玩具にしてやる」
「あっ……」
 前より敏感なのか、面白いように反応する体に煽られた。
 それに嗅ぎ慣れた中井の匂いが、卓真を誘う。
「なあ、俺にしとけ」
 抱き締め、シャツの合間から手を差し入れようとして。
 その手が熱い手のひらに遮られた。
「俺、今日はもう良い……。しばらく離れるからって、朝まで散々……」
 くすりと笑う瞳の縁まで赤くなっている。
 その手が卓真の体を押しのけた。
「あいつ、蛇みたいであんま好きじゃない。できるなら逃げ出したいって思うのもほんと。けどさ今逃げ出したら、千里の奴、離れてしまう」
 薄く笑う中井の瞳が、伏せられた。惑うように、言葉を選ぶように、中井がぽつぽつと呟く。
「俺も良いって言ったし」
「別に千里がいなくてもなんとかなる。お前が犠牲になる必要は無い」
「犠牲とかなんとか、考えていない。それに、絶倫でしつこくて変態なのは厄介だけど、それ以外ではまあ……そんなにきつくないし……」
 そんなことは園田は望んでいない。
 けれど、千里との契約を反故にしない──いや、反故にしたくないと思っている事を説明するのに、一番容易いのは園田なのだ。
 けれど、それは中井の本意ではない。だから、卓真に諭されても、頷けない。
 それが、中井の答えなのだ。
「判った。契約通り千里に付け」
 そう言う事が、中井にとって一番ためになるのだから。
 一抹の寂しさをねじ伏せて、口角を歪める。
 それに、千里は卓真の配下になるのだ。
「千里が俺のところにくる時は付いて来い。そうりゃ、組にも園田んとこにも顔を出せる。暇なら俺のところも来いよ。遊んでやるから」
「へへ、卓真さん、少しは強くなりました?」
 中井が笑って、指先をくいくいとゲームパッドをコントロールするように動かす。
 それが指す意味に気付いて、卓真も苦笑した。
「おお、少しは強くなったぜ」
 とは言ったものの、中井が千里に付くと聞いてから、一度も触っていない。
 やる気など一つも起きなかった。
 だが、中井の笑みを見て、やりたい、と思う。
 子供の時から、とんと興味を持たなかったゲームだが、中井が相手をしてくれるとやけに楽しい。
「今、やるか?」
「えっ、あるんですか、ここに?」
「おお、持ち歩いている」
 と言っても付き人の舎弟が持ち運ばせているのだけど。
 外すように言わなかったから、今でもあるはずだ。
 そう言った途端、中井の眉尻が情けなく下がったことすら、卓真の機嫌を上昇させた。



「なんで勝てねえんだろ?」
「んなこと言われても……」
 ぐたりと横たわる中井が、疲れた声を出す。
 あれから何度も対戦した。
 けれど勝てない。
 さすがに第一ステージくらいは何とかなったが、後が続かないのだ。
ちゃんと教えられた通り、アイテムも使って、ライン取りもきちんとしてるっていうのに。
 中井の教え方が下手だとは思えない。
 悔しいが、どうやら指の動きが追いついていない。自分は器用だと思っていたが、そうではなかったらしい。
 だが、ここで諦める気にはならなかった。
 命のやり取りの無い勝負など、楽しいものではないはずだったのに。
 中井と遊ぶのは、打算無く楽しいと言えた。
 勝ちたいと思うことも、どうしたら勝てるのか、と思うことも、ただ純粋に楽しめた。
 ああ、だからか。
 だからいつでも中井とは遊びたいと思えるんだ。
 けれど。
「疲れたな……」
「はぁ……」
 さすがに3時間ぶっ続けは疲れた。
 すでに日が変わっていて、指がつりそうだった。
 それでも、これは心地よい疲れだ。昨日は酒でも飲まないとやっていられなかったが、今日はそうでもない。
 床に寝っ転がって手足を伸ばすと、気持ち良くて身体が弛緩した。
 心地よい疲れが、穏やかな睡魔を呼び寄せる。
「ふぁぁ、眠い……」
「ですねぇ……。俺も、帰ろっかな」
 隣で、中井が背筋を延ばす。
 眠そうに目を擦り立ち上がろうとする中井の手を、卓真は掴んでいた。
 視線が絡む。
 ひどく寂しそうな瞳は、もう驚愕にかき消されていたけれど、卓真の目はごまかせない。
「何……?」
「泊まれ」
「え……でも」
 惑う視線が卓真と時計と、そして隣に続くドアを往復していた。
「かまわねえだろ、どうせ帰ったて誰もいねえぞ」
「……」
 てきめんに表情を消した中井の手を掴んだまま、身体を起こした。
「来いよ」
「えっと、さあ」
「別にとって食うつもりはないさ」
 ただ、この寂しがり屋を一人にする気になれなかった。
 温もりを散々与えられて身体は満足しても、心までは満足していないようだ。
 それに下手に温もりを知ってしまうと、今度はちょっとしたことで飢えを感じてしまう。
 気づいていなかった飢えを。
「本当に?」
「ああ」
 疑心に捕らわれた瞳に笑いかけ、有無を言わさずにベッドに放り込んだ。
 ベッドは広い。
 別に誰かとここで寝る訳ではないが、買う時につい大きなサイズを選んでしまった。
 その時に脳裏にあったのが、新居浜との行為だとはさすがに園田にも言えないが。
「広い……これだけ広かったら、新居浜さん相手でも大丈夫ですね──痛っ」
 どうでも良い時まで聡い反応をした中井の頭を叩き、隣に滑り込む。
「あ、俺風呂入ってねぇ」
「朝入れ、どうせ朝した後に入ってんだろうが。ほら寝ろ」
 揶揄まじりに軽く蹴飛ばして、掛け布団を頭から掛けた。残した仄かな明かりの室内灯が、盛り上がった山の影を濃くする。
 もごもごと山が動く様がおかしくて、卓真は苦笑を零した。
 けれど、その山が自分に向かっているのに気が付いて、横になろうとした動きが止まる。
「中井?」
 大腿に触れた手。
 盛り上がった布団の影から、体を起こした中井の苦笑がかいま見えた。
 纏い付く睡魔が消えていく。
「何だ? やられまくってんじゃなかったのか?」
「まあ……俺は良いんですけど」
 いくぶん躊躇いがちの言葉の割りには、手は迷い無く動く。
「卓真さん、溜まってるって……」
 園田にでも聞いて来たのか、何もかも知っているという視線を向けられて、ごまかす気も起きなかった。もとより相手は中井だ。
「ああ、もうこれ以上はないって言うくらいにな」
「ですよね、卓真さん、溜まると機嫌悪くなるから……」
 みんな大変みたいで。
 くすりと笑った拍子に、ベッドが揺れた。
「園田さんまで呼ばれたって聞きましたよ……」
 さすがにそんなことまで園田が言ったとは思えない。だが訝しげに眉根を寄せる間もなく、中井がネタをばらしてくれた。
「桂さんがね、俺が来てから落ち着いていた卓真さんの機嫌が、また荒れてきて困ってるって。それ聞いた後に、園田さんがカギくれて」
「ああ、桂さんか……」
 卓真が尊敬する数少ない男の一人だ。
 彼なら、園田の動向も卓真のことも良く知っているだろう。なにしろ、まだ二人が子供のころからこの世界にいて、園田が本格的に組に入った時には、遊びにいった卓真ともども、いろはから教え直してくれたのも彼だ。
 新居浜からの教えとはまた違う彼の教えも、この身には染み付いている。
『欲しいモノを諦めては駄目ですよ』
 その言葉をどんな真意で言ったのか、未だ判らない。
「それで、情けを掛けてくれるって?」
 嫌みの言葉を吐いたのは、中井の情けは嫌だ、と矜持の方が勝ったせいだ。今まではいつでも卓真が情けをかけていたのだから。
 だが中井は苦笑して、卓真の部屋着を寛げながら言った。
「俺でも役に立ってんだ、って思えるんだよね」
 ──これ、嫌いじゃ無いし。
 苦笑まじりの吐息に囁きが乗る
「んっ」
 中井の手が触れると、甘い疼きが背筋を駆け上がった。
「それにこれ、罰ゲームです。卓真さん、ゲーム負けっ放しだから、だから」
「う、くっ。ばか、野郎」
 我慢しろと口に含みながら言われて、ダイレクトな振動に息が跳ねる。ねとりと纏わり付く舌が、味わうように茎をなめ上げていく。
 その触感と刺激にざわざわと神経が波打って、快感が背筋を這い上がった。
 けれど。
 中井に翻弄されるのは癪だった。
 それに罰だと言われると、生来の負けん気が顔を出す。
 いくら卓真がその刺激を欲していたとしても。
 中井が前より巧くなっていたとしても、だ。
「うっ、くう……。てめえ、何巧くなって、やが……だ」
 奥歯を噛み締めながら、暴発を堪える。
「ん、あっれ……」
「ばかっ、喋んなっ」
「ん?」
 ピチャピチャと濡れた音。
 時折啜り上げられて、その刺激に息が止まった。
 足先が、びくびくと痙攣する。
 堪らない。
 中井の口は、気持ち良すぎる。
 呆気なく矜持が負けるのが判って、歯噛みまでしたけれど。
「な、中井……」
 堪らずに中井の頭髪を鷲掴みにして引っ張った。
 頭を引き寄せて、咽喉深くまで犯す。
「あっ、くそっ」
 苦しげに呻く中井が濡れた瞳で見上げる。
 えづく拍子に、喉が締まった。
「くっぅ──」
 衝撃が全身を襲った。
 待ち望んでいた解放に、身体が歓喜する。
 何度も何度も陰茎の先が開くのが自分でも判り、その度に感じる妙なる快感に、意識まで飛びそうになった。

 


 長い放出すべてを飲み込んだ中井が、とろんと淀んだ瞳を向ける。
 欲情しているようで、だがいつもとは違う態度を晒している。
「したいのか?」
 問えば首を横に振って、ベッドに沈み込んだ。
「したくない……です」
 何度か咳き込む顔に触れれば、上気した肌がしっとりと汗ばんで気持ち良い。
 卓真は後始末をさっさと済ませて、水を持って来た。
 それを中井に手渡しながら、横に潜り込む。ごくりと動く中井の喉に、知らず苦笑が浮かんだ。
 たぶん、中井の口は誰よりも気持ち良い。少なくとも、今まで遊んだ誰にも、我慢できなくて出したことなどなかった。
 それは、中井が特別に巧い訳ではない。
 その理由など検討もつかないが、中井だから、と思うと納得してしまった。
 手を伸ばし、その身体を背後から抱き締める。
 トクトクと少し早い鼓動が伝わって来た。
「すっきりした……」
 穏やかな音色と甘ったるい匂い。
 たった一度の射精で、あれだけ凝り固まっていたものが消えてしまった。
「中井……」
「はあ」
 随分と眠そうな気配が伝わってくる。
 そういえば朝までやっていたと言っていた。今はもう深夜2時も近い。
 やるだけしたら気力が萎えたのか、睡魔に捕らわれた中井の吐息が規則正しくなっていた。
 きっと、このためにここに来たのだろう。
 中井は与えられたことは返そうとするから。
「律義で、難儀で……ばかで、聡くて……甘えん坊だから……」
 どこまでもほっとしてしまう。
 心和むお気に入りを抱き締めている時の睡魔は、こんなにも気持ち良いのだと初めて知った。
 新居浜と寝たとして、こんな気分になれるのだろうか?
 どうだかな?
 と、苦笑してしまう。
 だいたい自分がこんな風に甘えている姿すら想像できない。
 何もかも支配したい新居浜に、こんな風に甘えることはできない。
 なら、自分は一体新居浜にどんな姿でいたいのだろう?
「……だが、これは……」
 ふと、胸の内に強い違和感を感じた。
 中井に感じるいとおしさ。そんなものを新居浜から欲しいとは思わない。
 卓真は、新居浜を支配したいから、その身体が欲しくて、欲情する。
 身も心も自分のものにしたいがために。
 そこにこんな甘さなどない。
 考えて見れば、あの新居浜を抱きたい、という欲求ばかりが先に来ていて、後の関係を考えたことがなかったような気がする。
 抱く以外は、今までと一緒の新居浜を想像していた。
「園田は盟友なんだよな……。んで、新居浜は盟友っていうより……」
 部下、なんて言葉で片付けたくない。恋人、なんて甘い言葉でも無い。
 いつでも隣で卓真に付き従って欲しい。
 離れる事など許さない。許したくない。
「欲しいんだよ、新居浜、お前が」
 肌に伝わる中井の温もりに、弱音が口を衝いて出る。
 新居浜ではないと判っているから、だからこそ、零れた弱音。
「新居浜、お前は俺から離れねえよな」
 ただ、願う。
「俺にくれ、お前の一生を」
 常に隣にいてもらえるよう、卓真自身も強くなる。
 ピラミッドの頂点に立ってやる。

【了】