【俺たちの仕事】

【俺たちの仕事】


2. これは私の仕事ではない

 何者かの策略により非合法な奴隷に堕とされる前、私は王家とも近い縁戚関係のある公爵家の三男であった。
 王に次ぐ権力を持つ我が公爵家の力を私も潤沢に利用してきた私だったが、それも嫡男である兄上が後を継ぐまでだった。兄上は合理主義で役に立たない者は家から出す。私は三男でもあったせいで早々に要らないと言われていたし、あんな兄上の世話にもなりたくなかったから、早々に騎士団へと入隊した。家を出れば爵位もない平民になるが、騎士団で騎士爵をもらえば最低限貴族ではいられる。
 それに、貴族籍を抜けても公爵家の出であることは間違いなく、渡された財産も潤沢だ。そのおこぼれに預かろうと私におもねる者は多い。
 それに金さえあれば騎士爵からさらに上へと上がることなどたやすいこと。元公爵家の者という名も騎士団の中では有効に働き、私の邪魔をしそうな輩は入念に追い落としてきた。
 その内、いい家柄の女を見つけて入り婿になれば、後は安泰というわけだ。
 だというのに、今のこれは一体何なのか。
 気が付けば、俺は平民の下衆な男に世話されて、餌として魔物に与えられている始末。
 半年前、馴染みの後家の家で遊んだ帰りにいきなり私は捕らえられ、牢に入れられた。どっかの娘を強姦したのだと言うが、あの女は平民、酒場の酒汲み女なんかそういう目的でそこにいるもんだろう。むしろ私のような貴族の寵愛を受けたことに喜びこそすれ、恨むなんてお門違いもいいところだろう。
 それからなんだ、殺されかれた、なんだそれ。ああ、俺に逆らったやつか。平民のくせにたてついたバカ。それから……。
 はあ、横領? 収賄? 恐喝? なんだそれ。
 そんなもん、私の取り巻きだというやつらが勝手にやったことだろうが、公爵家の私がなぜ罪に問われるというのか。
 その時の私は、すぐに牢から出されると思っていた。
 いくら公爵家を出た三男とはいえ、世間体もあるから兄上が手を回すと思っていた。
 だが気が付けば、俺は闇市にいた。薄暗い中で顔もわからぬ連中が俺を見ていた。一糸まとわぬ姿で、片足を天井から伸びた枷につながれあげさせられて、もう一方は広げた状態でそちらも動かない。両手は後ろ手で、口を開けた状態で固定されて何も言えない。
 犯罪奴隷として、俺は闇市に出されていたのだ。
 何も言えないままに全部見られ、全部探られた。
 つり上がる値は私にとっては些細な金額、数回の賭け事で消えるようなそんな端金で俺は商会の奴隷に堕とされた。
 下腹に施された奴隷の紋。刺青と焼き印で重ね押しされた痛みはものすごかった。へらへら笑うボロを着た老けた見た目の男が、楽しそうに施したものだ。さすがに悲鳴を上げてしまった私を踏んで押さえて、焼き印の時はいつまでも押していた。その後は薬で癒やされたから回復は早かったが、肌にはくっきりと赤黒い痕が残っている。
 その上に今度は魔物の餌だという。
 迫る魔物の触手から必死に逃げようとした。枷にひっかかる足首がひどく痛む。私はなんとか逃れようと手足を動かしたが、重い鎖が邪魔をして少しも逃げることはできなかった。伸びる触手の狙いは俺の尻、そっから体内に入って魔力を吸うのだと知らされて、私は抗った。
 閉じたそこに生暖かい粘液まみれのそれが触れた瞬間、俺は叫んだ。さすがにあれを泰然自若と受け入れられるはずはないだろう。
 触れる肉ともなんとも言い難い柔らかさの生ぬるい物体。ぬるぬると肌の上を動くたびに背筋に強い怖気が走る。
 ぐにっ、ぐにゃっと肌にくい込む先端、柔らかいのに押されると感じる確かな芯の存在。
 気持ち悪くて、吐き気がする。
 イヤダイヤダイヤダ、クルナクルナクルナ、タスケロ、ニガセ、イレルナッ!!!
 だがどんなに侵入を遮ろうと尻に力を入れて閉じても、無駄だった。硬く閉じた場所をものともせずにこじ開け、無遠慮に入り込むモノ。

「あ、ああ――っ!!!」
 
 自身が上げた悲鳴が頭の中まで響く。びんと伸びた背筋が円弧を描いた。
 太いあれが、狭い私の中を広げていく。みしみしと肉を押し広げ、奥へと入り込む。
 裂けるかと思うほどに押し広げられ、肉の中を触手が埋め尽くしていく。悲鳴は長く続き、見開いた視界に入るのは貧相な壁ばかり。
 俺をここに連れてきたあの男は薄い幕の向こうでへらへら笑いながら俺を見ているだけだ。
 逃げようと手を前に出すが、足につながれた鎖のせいで動かない。腹が重い、苦しい。なのに、あれが俺の中の一点で蠢くたびに下腹が熱くなる。
 信じられない、なんで、なんでだ?
 痛みは確かにある、気が狂いそうに尻が痛む。
 なのに、張り詰めた股間の存在に私は気が付いた。身体の奥を何かが抉る。そのたびに込み上げる情欲が私を支配する。
 情けない声が漏れ、私のモノが浅ましく勃起する。
 身体が熱い、何かが私を支配する。
 裂けるような痛みなどもうない。
 ああなんだこれは……。愕然とする私をよそに襲う快楽は激しく、俺は全身を身もだえさせた。

「あ、ああ……、ふあぁぁ」

 意識が薄れ、暴れる気力がなくなっていく。
 これは変だ、ああくそ、魔物はその体液に効果がある場合がある、これは毒か。
 じわじわと染みこむ何かに俺の意識は次第に朦朧としてきた。だがぼおっとした頭は、腹の中を抉られるたびに正気に戻り、魔物に犯されていることを自覚する。
 身体の中を異物が這いずり回る。みちみちに広げ、粘液で溢れた中をずるずると激しく移動する。
 ぐりっと一点を抉られ、嬌声が迸った。
 なんだこれ、目の前が弾ける。こんな快楽、どんな女を抱いても、遊んでも、味わったことがない。
 なんで尻を抉られて、こんな快感が起きるんだ。
 絶頂感が際限なく押し寄せ、腰がカクカクと揺れる。
 ああ、出したい、達きたい。射精したい。
 押し込まれた異物は、私の中をたくみに蹂躙する。腹の中で抉られる快楽の泉のような場所。そこをでこぼこでごりごり擦られるともう何も射精だけしか考えられない。
 弾ける快感はたいそう強く、私は無様な嬌声が止まらなかった。
 魔物を討伐すべき騎士たる私が、魔物に犯されている。それすらも快楽への刺激になっていた。
 厭うているはずなのに、欲しいと願う。
 嫌なのに、これがいいと希う。
 はあはあと荒い吐息を繰り返し、込み上げる熱を逃そうとしても、それ以上の熱が溢れ出した。
 全身を這う触手がさらなる刺激を私に与える。
 裂けるような痛みなどもうなく、どこを触られてもただ快感ばかりだ。
 吸い付いた吸盤が乳嘴を引き延ばす。根元に走る鋭い痛みはすぐに先端を弾かれる刺激に立消えた。込み上げる快感に涎が溢れて、喉元を伝った。
 胸がまるで性器のように気持ちいい。
 性器、ああ俺の逸物すら触手に食われていた。先端をばっくりと開けて中の赤い肉が見える触手、それが俺の逸物を覆っている。ぐにぐにと動く中はやはりでこぼこと瘤があって、俺の逸物全体を強弱をつけて絞り込んでくる。
 くそっ、なんだよ、女の中よりよっぽどいい、こんな素晴らしいものがこの世にはあったのか。
 ああ、出すぞ、飲めよ、俺の精液を。
 誘われるままに吐き出した精液は全て触手の中だ。
 あはは、すごい、まだ終わらない。
 もう全身が性器のように感じる。
 もっと、もっとくれ、もっと私を嬲れ。
 助けてとなぜか私の口が零した。その言葉は一体誰に向けたものなのか、なんで口にしたのかわからない。
 ただ犯される。ただ貪られる。それがイイ。
 嬌声を上げながら私は魔物に犯された。
 気が狂うようなものすごい快感の中で、私はイキ狂った。


 身体が揺れるのを感じる。
 船の中で、私は何度も正気に戻った。
 私は公爵家の三男で騎士爵を拝命した騎士だ、人から崇められる存在だ、民衆は俺にひれ伏す存在でしかない。
 何度それを頭の中で思い描き、口にしただろう。
 だが駄目だった。あれの前に繋がれて、触手に触れられるともう駄目だった。
 俺はイキ狂うだけの存在となる。
 逃れたいと切に願うのに逃れられない。あの魔物が私の中に入ってしまえば、私はもうただの餌だった。
 一雫でも飲み込めば処女も淫蕩な娼婦になるという非合法な媚薬の話は知っていた。禁制の品物で保持するだけで処分対象なそれの原料がこの魔物の粘液だということまでは知らなかった。
 その粘液を私は毎日のように飲まされている。一口飲めばもう意識は薄れる。快感に狂い出し、そればかりを求めてしまう。切れて正気に戻り、しばらくすると身体が疼く。粘液の効果がなくとも、身体が欲しがっている。
 何しろ、あれが与える快感はすさまじい。それはただの暗示ではなく、本当にものすごいイイのだと身体と精神がもう覚えていた。
 口の中にあの味が広がれば、喉が勝手に動く。飲んでしまう。飲んではダメだという理性はもうごく僅かで勝てるはずもなく。
 粘液の入り交じったそれを胃の腑に届けば、身体がさらに熱を帯びた。
 体内を焼く熱は全身を駆け巡り、私の下腹部に集まってくる。諾了のごとく暴れ回る熱と快感。噴き出したい衝動は止まらず、腰を激しく揺らす。
 もうどっちが腰を動かしているのかわからない、触手か私か、両方なのか。
 ただ気持ちいい、もっと欲しい、もう出したい、イキたい、イカせて。
 胸元を擦られた肌が震えた。ぞくぞくとした快感が背筋を這い上がる。
 理性的であれと意識していたはずなのに、この状況への怒りが薄れて朦朧としてくる。
 ああダメだ、思い出せ、私ははめられた、こんな犯罪に屈して堪るか。
 今までに起こったことを思い出し、なんとか自身の意識を食い止めようとはしたが粘液の効果は高い。
 荒い吐息が零れる。明るい室内が霞んで見える。朦朧とする世界で俺はただ快楽を与える何かに揺すられる。
 気持ちいい、もっと欲しい。ああダメだ、これ以上は狂う、私が私でなくなってしまう。
 確かにいたはずの世話役の男の姿をそれでも探した。助けろと声なき声で訴える。
 私の枷を外せ、私を放せ。
 けれども男の姿は見えず、身体を這う触手の吸盤の吸い付きに意識が取られる。くすぐったくて痛くて、甘い疼きを与えるその動きに、俺は呻いた。
 熱がさらに高まり、下腹がひどく重い。
 触手がどこかを突く。びくんと震えてから、乳嘴が吸盤に吸い付かれているのが目に入った。逸物よりも性器らしく淫らに膨らんだそれ。女のように大きいそれを、存外に器用な触手で弄られる。

「ああ、やめ……そこは、ひぐっ」

 白く爆ぜた視界に星がきらめく。ずんと重くなった会陰の奥、吐き出したい欲求に襲われて腰が蠢いた。
 出したい、ああ、イクっ。
 絶頂は呆気なく訪れ、強くのけ反り喉を晒した。その喉にすら触手が絡まり、見開いた視界に入るのはただ天井だけ。
 絶頂の余韻に脱力した身体は、それでも触手に支えられて四つん這いのままだった。
 無理だと叫びたいのに、触手は止まらない。
 さらに奥へと入り込む感触に私は懇願することしかできない。決して叶えられないのだとわかっていても止まらない。

「ひっもうっ、ああっ、いれないで、奥はっ、ひぐ」

 奥深く入り込むほどに身体から引きずり出される自身の魔力。尻を穿つ触手が前後に揺すられるたびに、目の前が何度も白く爆ぜる。何度も味わう絶頂がたまらない、だけどつらい。苦しい。
 肌に吸い付く吸盤の与える緩急のついた刺激。何より床にうつ伏せになった状態で四肢は鉄輪と鎖でつながれ、わずかにしか余裕がない上に耳障りな音を立てるばかり。ねっとりとした液体に濡れた全身が中をうがつ刺激に耐えきれずに跳ねる。

「あ、うぁぁぁっ」

 堪えたいと思っても堪えられない。私の中で暴れる何かはさらに激しく、中で抽挿を繰り返す。
 最初から受け入れられなかった。今でも受け入れられるものではない。だがそこに私の意思は考慮されるはずもなく、ただただ甘受することしかできない。
 できることと言ったらただ受け入れるだけ、魔力を吸われ、悲鳴を上げるだけ。激しい快楽の中で、吸い上げられる魔力の多さに意識が蕩けていく。
 触手に全身を絡まれていると、まるで自分自身が触手の一部になったようだった。
 口から尻まで貫かれている肉。
 腰が震えた。
 噴き出す何かが床を打つ。
 頭の中が真っ白になる。薄く色の染まった意識がさらに崩れ落ちていく。
 快楽ばかりが全身を支配する。痛みなんてない、吸われる違和感もない。
 ああ、気持ちいい、すごいイイ。
 もっと出したい、もっとイキたい。
 自分がそういうものだと思ったら、すごく楽だ。

「あはっ、すげっ、イイ、なあもっと、イカせて、もっと……やるよ、私の全部……だから……」

 すごい、私の力を全部やるから、だから。

「あははっ、はははっ、すご、ああっ、ひいっ、もっとくれよ、もっとイカせろ」

 ああ、楽だ。
 闇の中の熱がとても気持ちいい。