【階段の先】-17

【階段の先】-17

17. Togo side

 龍二が奴隷を手に入れたいと、ずっと願っていたことは知っている。特に俺が知り合いから調教に依頼されたやつを専属奴隷にした時から、その想いはずっと大きくなっているようだ。
 それが煮詰まってきて、俺のところで愚痴を吐き出し、積もり積もった欲望を解消すること数回。それがだんだん激しくなっていくのに俺も面倒になってきて、手を貸すことにした。もっとも、あれ以上好き勝手されたら、俺の奴隷の身体が保たないと思ったこともあったのだが。
 まあこの世界に俺が引きずり込んだ自覚はある大切な弟分だから、協力するのはやぶさかではなかった。
 だから、こっそりと正樹の家の借金をこちらに集め、邪魔な輩が手を出せないようにし、これが所属する社長と打ち合わせて一芝居うってみた。と言っても、あの撮影は確かにモノホンのAVであって、早急に編集が行われた後は販売する運びになっているのは確かだ。と言っても、SMシーンをこれでもかと強調し、正樹が絡まぬ前後のストーリー展開を非道なものにしてあって、正樹演じたセイキは騙されて奴隷として売られて行きましたってのが結末だ。もともと裏ルートで流すやつで、それを考えれば甘い内容だとは思うが。
 それでも巧みな画像処理と演出で、すでに前評判は高いものになっている。
 そんなふうにいろいろと協力したこともあって、その骨折り分に、一度調教させろとは言っておいたのだが。
 あの純朴な田舎っぽい正樹が、こうも色っぽく化けるとは思ってもいなかった。
 俺は、大きく息を吐くと、手にした鞭を振り上げる。
 目の前には天井からX字になるように吊された正樹のしなやかに伸びた身体があった。
 その背には、俺が打った数本の痕だけでなく、いろいろな色合いを持つアザが残っていた。それは全て龍二が、与えた鞭やスパンキングの痕だ。あの太股に残る縄目は縛りの痕だろうし、内股に薄く残る赤みはロウ責めの痕だろう。
 一カ月強の間、この地下室で行われた調教の全てを把握していたわけではないが、それでも龍二がすることならば推測できる。
 そんな龍二に躾けられた身体は、まさに男の嗜虐の嗜好を掻き立てる、純粋さに妖艶さを兼ね備えた極上の奴隷へと変化していた。
 細い身体、薄い筋肉はひ弱な感じが強いけれど、その仕草、怯える表情、きめの細かな肌は虐めたいという欲望を掻き立てる。まして、逃げようと身を捩るその姿形のラインは、不思議と引きつけさせられた。なんというか、もっと汚したい気にさせるのだ。
 その滑らかな肌に浮く、龍二の調教の痕である白く浮いた線を狙い、慣れた握り心地の鞭を振るえば、特殊な嗜好を持つ男の欲を誘う悲鳴がほと走り、腰が淫らに誘い揺れ、狭間の穴から銜えた玩具が見え隠れした。ひくりひくりと震えるそれは、まるで本物を入れてくれとばかりに誘われているようだ。
 本人が意図しているわけでないその媚態は、これが持つ生来のものだが、それをこうも淫靡に引き出したのは龍二の賜だろう。
 だが、俺の奴隷のように強烈なやつを連続で与えて悦ぶのとは違い、龍二の言うとおり、ある程度の手加減は必要なのが惜しいところだ。
 そのうちに、身体が慣れていくこともあるかもしれないが、これはまだ成り立てだ。
 とは言っても、裂けた肌が血を流す程度の痛みには十分耐えうるから、楽しみが半減するほどではなかった。
「おいおい、もう尻穴がドロドロじゃねえか。こっちは何にもしてねえのに、よっぽどケツマンに入れた玩具が気に入ったと見える。さっきからヒックヒックと見え隠れさせて、俺を誘っているように見えるが?」
 俺は、ぺろりと乾いた唇を舌なめずりして、何かを言いかけるのを無視して震える背に鞭を振り下ろした。
「いっ、がぁ──っ!! い、いやぁ、痛ぁ、痛いぃぃ──っ」
 泣き喚く悲鳴に軽い興奮を味わいながら、誘う尻の動きに溢れる唾液を飲み込む。
「物欲しげにケツを振りたくってんじゃねえよっ」
「ひあっ、あうっ!!」
「どしたよ、気持ちよいんだろ? おまえは鞭が好きな淫乱だって、龍二のやつが言ってたが、あれは嘘だったってことかよ、なあ」
 跳ね返り、ふわりと浮いた鞭先を引き寄せるように、白に幾筋もの赤い線が入った尻の肉に手の中の鞭を叩き付けた。
 弾ける音に、ぎゅっと引き締まった肉が、狭間を隠す。
 手のひらに伝わる感触は非常に心地よく、女とは違う固い尻でも、俺にはちょうど良い。
 というか、ぶよぶよの尻など萎えるだけだ。
「悦んでなら、それらしく喘げよ、ほら、ケツのが出てきてるぜぇ、もっと深く銜えろよっ、淫乱が」
 腕は後ろに大きく引いた状態で鞭先だけで尻穴近くを打つ。
 鋭く弾いた先で、濃い赤が火花のように一閃を描いた。そのとたん、震えた身体がびくとり硬直する。中のそれをきつく締め付けたのか、天を仰いだ身体が不意にカクンと崩れ、身体が落ちる。
 さっきから何度も何度も繰り返されるそれに、あれだけ萎えていた正樹のペニスが涎を垂らすほどに勃起していることは知っていた。
 だが。
「この程度の鞭で姿勢を崩すなんて、龍二の奴隷とは言えないなあ。ただのメス犬として、その辺のハッテン場で公衆便所にして飼ってもらえばいいんじゃないか、なあ龍二」
 ソファで手持ち無沙汰のように琥珀色の酒を口に含んでいる龍二の視線は、さっきからずっとひどく鋭い。
 だが、俺の言葉に、フンと鼻を鳴らしただけで、何も言わない。
 ただ、イライラと膝先を指先で叩いてるだけだ。
 本当は自分でやりたいんだろうけれど、約束だからじっとしているだけなのだ。そんな姿の龍二も物珍しく、ついついからかってしまう。
「しっかし、この奴隷ときたら、挨拶もままならないし、こりゃ、相当なお仕置きが必要だな」
 様子見に触れた背中がびくりと硬直する。
 汗と血が混じり、濡れた背は冷たく、けれど鞭の痕は熱い。
 きめ細かな肌ではあっても、こうも打たれてはその触感はざらざらとしているが、怯えの伝わるその背の、今度はどこに打ってやろうかと探るのは楽しいものだ。
「ああ、床がヌルヌルじゃないか、こんなにも濡らすのは、色狂いの娼婦よりも激しいよな。ああ、売女らしく潤滑剤なんていらない身体になってるってことか」
 あちらこちらに触れながら正樹の前へと移動して、鞭の先で勃起ペニスを高く支えてやった。
 その先端でたらっと流れる粘液が、茎を伝わり、陰毛を濡らして、内股へと滴り落ちた。その白い肌が厭らしい液体に汚れる様に、ぞくりと肌が粟立つ。
 なんの変哲もない青年が、この手で淫らに妖艶な淫花となって開花する。
 痛みに彩られた身体がメスの色香を持って浅ましく喘ぎ、常識であれば決して人には見せぬ淫らな表情で昇天する様を見せつけて、この手の中に落ちていくその全ての過程が楽しくて仕方がない。
 それは龍二とて同様で、だからこそ、これに惚れてしまったのだろう。
 その手の内にとらえ、人としての尊厳を奪い、被虐の楽しさを教え込み、主人の言葉を最上のものとしてそれ以外の思考を停止させる。
 それを受け入れられる素材を見つけるのは困難だが、それでも引き寄せられるように出会うことはある。
 俺にとってのあいつのように、龍二にとってはこの正樹だ。
 互いの好みは細かなところでは違うから取り合うことはないけれど、基本的に嗜虐の趣味は変わりなく、容姿の好みから外れてはいても、やるとなれば徹底的に虐め抜きたいのは変わらない。それに、淫蕩に誘ってくるこのこぼれ落ちるような淫靡さは、俺の好みでもあるところだ。
 特に白く、弱いそこ。
「お漏らしする悪い子に与えるのは、そこが一番効くんだよな。みんな泣き喚いて許しを乞うて……。だが、一番効き目が悪いのもここなんだ。どんなに叱って打っても、悪いことをやめないんだよ」
 過去の調教相手のその時の姿を思い出していると、知らず口元が綻んで、笑みが深くなる。
「さあ、足を広げろ」
 鞭の腹で、内股の間を交互に軽く叩く。
 じりじりと広がる正樹は言葉の意味を理解できていないのか、ひどく不安そうだが、その表情もまた楽しい。
「しっかりと勃起させとくんだ。逞しい雄イヌに犯されてメスイキしているときでも想像してるんだな」
 ちょっとした親心みたいなもので忠告してやったのに、それすらも理解していないのか、きょろきょろと俺と龍二を見やっているのを放っといて、少しだけ正樹から離れると、鞭先で数度床を叩いた。
 パンッ、パンッと弾ける音に、正樹の喉が鋭く鳴った。
 青ざめた肌が、恐怖に震え、強張った頬が意味もなくひくつく。
 縋るように俺を見るそれに、わざと酷薄な笑みを見せつけ、この鞭が与える痛みを思い出させるように、再度床を打ってから。
「いい色にしてやるよ」
 床で跳ね返ったそれを軽く手首を捻って小さな動きで繰り出した。
「──っ! いあぁぁっ!!」
 ヒュッと擦過音のような悲鳴の後、空気を振るわす絶叫が室内に響き渡る。
 飛び跳ねるように上へと上がった身体は、床の鎖に引っ張られ、勢いよく落ちる。
 今度は天井の鎖が大きな音を立てて引っ張られた。
 そのままブラブラと揺れる身体の股間近くの内股は、柔らかい故に、皮膚が裂けたようだ。
 右にくっきりと残った痕からじわりと噴き出した血の塊が、足の筋を辿り爪先へと流れ落ちていく。
 その溢れる元は、重みで垂れたペニスの先端からほんの一センチも離れていない。きっと敏感な先端は、空気の揺れをはっきりと味わったことだろう。
 ヒクヒクと鈴口が振るえ、尿道から絞り出すように今までは違う粘液をだらりと吐き出していた。
 激痛の記憶と恐怖にひくりひくりと震えるペニスは、けれどそれでも萎えることはなく、いったん玉となった粘液は太股にかかって、流れた血と混じり合った。その様子を、呆然と見開いた正樹の瞳が追っていた。正確には、その血に混じって落ちていく、その白く濁った粘液を、だ。
 勢いのない僅かな量ではあったけれど。
「へえ、これはまた……、俺も久しぶりに見たなあ、鞭打たれてザーメン噴き出すほどのマゾやろうってのは。聞いてはいたが、これはすごいや」
 ちらりと龍二に視線を向ければ、先よりもさらに不機嫌面を隠しもしない龍二が見て取れた。
 そんな龍二の姿に俺は嗤い、正樹に話しかける。
「ほら、ご主人さまが怒っているぜ。主人以外に鞭打たれて、浅ましく射精したって。しかも、まだ勃起してるって? 淫乱にもほどがあるなあ、どっかの色狂いの売女ですら、鞭で打たれながら達きゃしねえし。しかも、おまえまだ射精の許可ももらってないっていうのよ。いくら淫乱マゾ奴隷としても、奴隷としては失格だ」
 正樹の視界に鞭先を入れ、龍二を指し示す。ただそれだけで、正樹はよろめきながらも自身の足で立ち上がった。
「……も、うしわけ、ありません……ご主人さま。も、うしわけ……ませっ、お、俺、は……勝手に……あ、ぁ、ご、主人、さま……どうか、悪いメス奴隷にお仕置きをお願い、いたします……」
 震える足は生まれたての子鹿のごとく震え、今にも崩れ落ちそうだ。何より内股の鞭が相当効いているのだろう。
 それでも健気に謝罪を紡ぎ罰を望む姿は、あの健気で元気が良い普通の子だった正樹とは思えない。この一カ月でしっかりと調教できているなと、優秀な弟弟子に俺は結構満足していた。
 まあそれでも、後ろでギリギリと今にも俺から鞭を奪いそうなほどな苛つきを堪えている龍二に変わる気なんか毛頭ない。
「どうか……どうか……ご主人さま……」
 僅かな射精ではその陰嚢はまだまだ重そうだ。それに萎えてはいない先っぽから垂れ流している液はまだ白く濁っていて、床に向かって細い糸を作っていた。
 最初は萎えていたそれが、戯れに耳朶に噛みついたときから、勃起するようになったそのきっかけが何かは判らないが、龍二が自慢してたように、こいつは鞭で打たれて勃起し射精までする変態だ。
 もうこうなると、普通のセックスでは満足できないだろうし、そのうちに痛みが全て快感になっていって、下手すれば殴られても切られても勃起するようになる。そんなことが質の悪い女衒を生業にするようなごろつきにバレたら、これは心そのものを壊されるような行為の果てに、死ぬまでに数多の男どもの相手をさせられて、壊されていくだろう。まあ、そこまで行かなくても淫乱マゾ奴隷の行く末は、飼われるか、遊ばれるか、売られるか、だ。
 借金返済を迫っていたあの質の悪い輩も、実のところそれを狙って、龍二のいるあの会社を紹介したのだろうから。
 表向けの甘いAVなんか隠れ蓑に過ぎないあそこは、裏ルート用の撮影こそが真骨頂であって、あの社長の手によって闇に堕とされ売られた者も幾人か知っている。
 どちらにせよ、たとえ龍二に捕まらなくても、これの未来はなかったようなものだ。
 ならば、龍二に飼われることがこれにとって最善だろう。
「あーあ、龍二のやつ、ずいぶんと怒っているなあ。それもこれも、おまえが勝手に射精するような淫乱だからだろう、なあ?」
「あ……ご、めんなさ……ぃ、ごめんなさぁぃ……」
 ヒクヒクとしゃくりをあげて泣き出した正樹の肩を抱き、止まって乾きだした耳朶の血の塊を舌で舐め取る。
「そういうところは可愛いけどな。だが、あいつの奴隷にするにはまだほど遠い。極上品だと皆から褒められるような奴隷でないと俺は認めないぜ。そういう奴隷は、チンポを突っ込まれなくても、主人の姿を見ただけでザーメンを噴くんだ。だが他の男にケツを掘られても、鞭で打たれても、フェラをされても、決して達かない。達けるはずがないんだよ、真にあれに飼われたかったら、主人以外に決してなびいてはいけないし、他の男には萎えるほどにならないと。だから、こんな姿を晒したおまえは、まだまだクソ奴隷でしかないってことだ」
 特定の主人がいない限り、奴隷に良い未来はあり得ない。
 俺があれを専属にするのに骨折ったのも、あのままあのクソ兄貴に飼われていたら、とことん地獄に落ちるしかないって判っていたからだ。せっかく俺好みに可愛く開花されたマゾを、どこぞの変態ジジイどもの慰み者にしていたずらに壊すのは、俺の美意識には相容れなかった。
 そして龍二は、俺があれを気に入ってる以上に、これを気に入っている。
 だからこそ、ここまで奴隷化できているのだろうけれど、龍二から射精の許可が出ていないうえに、俺の鞭で射精するのは厳罰ものだ。
「いいよ、今の俺は機嫌が良い。あんな機嫌の悪い龍二よりも、この俺がおまえが欲しがるだけ罰を与えてやろう。可愛い弟弟子の奴隷のために、大判振る舞いだ」
 その言葉に、正樹の身体が大きく震えたことに、俺の嗜虐心はますます強くなって。
「ちゃんと気を失わない程度には加減してやるよ」
 できるかどうかは別にして。
 再度舌なめずりする俺の姿を、怯えた瞳が涙を零しながら見つめているのに、誘われるように俺は次の一打を放ち。
 肩口から右の胸を通って腰へと濃い赤で彩られた身体は、俺にとっては甘くて堪らない悲鳴を上げて暴れて出した。
 骨が折れると長くは遊べないから、その寸前には加減はしているが、背中よりはるかに響く衝撃に、正樹は狂ったように叫び続けている。
 それを封じ込めるように、下腹近くをなぞれば、跳ねたペニスが赤い線を纏う。
 先よりひどい断末魔のような悲鳴が地下室を振るわせて、逃げるようにぐるりと回転しかけた身体を逆方向から鞭を叩き付けることで停止させた。
 もっとも、X字の身体は固定されているようなもので、逃れるとしても身体の一部が捻られるだけ。
 覗いた可愛い尻肉が、赤く腫れる姿がみたいと、細かく左右に振るって覗いた尻タブを染め上げる。
「厭らしい尻だ。そんなに男を誘って、チンポを銜えたくて堪らないのか?」
 喉の奥で笑いながらの揶揄は、もう届いていないのか。
 ヒイヒイ喚くだけで反応は薄い。
 腕に絡まるように残る痕はすでに色を変えていて、白い肌に鮮やかな青黒さを見せていた。
 いっそのこと、四肢の骨を折ってやろうか、そうすればもっと良い悲鳴が聞けるかもしれないとも思ったけれど。
 どうせなら、もう少し遊びたいと、背へと回った。
 その背に流れる血はもう止まっていたようで、存外に傷が浅かったことを知る。
 せっかくだから、俺が調教した記念もこの肌に残したい。
 深く抉るように、いつまでも残る傷をここへ。
 龍二が残した傷跡に、俺の痕が残ることを想像して、ぞくりと股間から背筋に得も言われぬ興奮が駆け上がった。
 さっきから窮屈さを訴えているペニスは、もうきっとびしょびしょに漏らしたように濡れている。もう今すぐにでもそれを解放して、あれの中に突っ込んで、思うが様に蹂躙したい。
 この家の一階のリビングで、玩具を突っ込んだままに待機させている奴隷の姿を思い浮かべながら、ぺろりと唇を舐めた。浮かぶ笑みは、お気に入りの奴隷の痴態を思い出したからだ。何にでも従順で逆らうことをしないあれが、唯一逆らうほどに嫌がる尿道弄りをしながら、こちらが精根尽き果てるまで侵し続けるのは、極上の快楽をもたらしてくれる。
 そこに至るまでに我慢することなど、あの極上の料理をさらに高めるスパイスでしかない。しかも、こちらが時間をかければかけるほど、快楽の泉を突き上げる特性バイブに犯され続けるあれば、見事なまでに熟れ果てて、すっかりとできあがっているだろう。
「そんなはしたないケツに、俺のはやらない。やるのは、これだけだ、よっ」
「ぎっ──っ!! あぁぁーっ、がっ、あっ!」
 腕の筋肉に力を込めて叩き付け、跳ね返ったそれを操って、再度渾身の力を込めて叩き付ける。
 弾けたのは皮膚だけなのか、肉までなのか、そんなものを気にすることもなく、第二打を放ち、溢れた血が飛沫となって飛んできた。
 正樹の上がった体温に血の臭いが濃くなって、それに淫靡な匂いが絡まり、俺たちを覆っていく。
「また、射精しやがったか」
 叩けば叩くほど、一度箍が外れた身体は、呆気なく射精する。
 喉が嗄れるほどの悲鳴を上げながら、苦痛に意識を飛ばしかけているというのに、そこだけはまるで別の生き物であるかのように快楽の証を噴き上げていた。
「おい、龍二、この駄作をほんとに披露するつもりかよ」
 形の良い、虐めがいのあるサイズのペニスから垂れ落ちるザーメンを指先で拭い、見せつけるように舐め取れば、こちらを睨む龍二の視線がさらに強くなった。
 元から知ってはいたがあいつの独占欲はかなりのものだ。他人に晒して使わせて楽しむ俺とは違い、あれが俺にこうやってさせているのも珍しい行為だ。そんな龍二だから、今にも飛びかかってきそうに歯ぎしりをしながら待っている。
 まあ、それを知ってからかうのも楽しいが、そろそろ我慢の限界なのも見て取れていた。それに、俺もそろそろ俺自身を解放したい気にもなっていて。
「こんな状態で俺がやり続けたら、俺色に染まっちまうからな。もっ一回躾け治せ」
 パンと軽く手のひらで打った鞭をそのまま龍二へと差し出す。
 まだ遠い位置にいるあいつに届くはずもないそれが、不意に手から奪われた。
 頬を嬲る空気に僅かに後ずさり、龍二の手から伸びて舞う鞭と壁を叩き床にとぐろを巻いて落ちた俺の鞭を視界の片隅で確認する。
 どうやら、相当に煮詰まっているようで、これ以上刺激するとこっちが調教されちまいそうな恐怖が心地よく背筋を這い上がった。
 そんな危機感を楽しみながら、俺は肩を竦めて正樹から離れた。
「あー、疲れた。おまえの駄作の相手は疲れる。後は勝手にしろよ」
 肺に残る熱い空気を吐き出して、盛り上がった欲を押さえつける。
 うなり声を上げる肉食獣の餌になるつもりなど毛頭なく、俺はそのままスタスタと地下室から出る扉へと向かって。
 開ける前にちらりと背後を振り返れば、憤怒の形相をした龍二が愛用の鞭を手に、ドスドスと足音も荒く正樹に近づいていく。
「殺すなよ」
 あながちあり得ない未来でないなと苦笑しながらも、俺はそのまま部屋を出ていった。