【階段の先】-7

【階段の先】-7

7.

「好きだよ、愛してる」
 何度も何度も囁かれる言葉に甘く酔いしれる。
 これが撮影現場だと言うことを忘れているわけではない。これが非現実なんだっていうことも判っている。けれど、今だけはっていう気持ちが俺の中に強くあって、その言葉にのめり込む。
 口の中に潜り込む熱い舌が、俺のそれを引っ張り出す。
 俺も積極的に絡めて、与えられる刺激に疼く身体を擦り寄せた。
 本当は、最初に龍二さんに抱かれたかった。
 この世界に入らざるを得なくなった時、考えたのはそんなあり得ないこと。
 当時からに人気があった龍二さんと、セックスすらしたことのないペーペーが絡むような撮影なんて、あり得ないってこと。まして、俺の側の理由もあって、手っ取り早く出してもらえるためには、そんな要求なんて言えるわけもなかった。
『処女が始めてのセックスでのめり込んで、セックス中毒になるっていうのを撮るからね』
 って、事務所の社長に言われてすぐに、俺の撮影は行われて。
 そんな無茶をされたわけではないけれど、俺の最初の相手は撮影現場で始めて顔を合わせた俳優さんだった。もっとも、俺は龍二さんぐらいしか知らなかったんだけど。
 撮影のことはよく覚えていない。
 始めて貫かれた衝撃と、知らない男に犯される屈辱に、泣き喚いて終わった撮影で、これで売れないって言われたらどうしようっていう不安ばかりに襲われた。それでも編集が良かったのか、どうにかコンスタントに仕事がもらえて、借金も無事返済できているけれど。
 ただ、今でもずっと最初が龍二さんだったらなって、思っていた。
 始めて見たのは、ネットにあるエロ動画の販売サイトでこっそり購入したやつ。
 メインは受けのなんとかっていう子で、攻め役の龍二さんは声がメインであんまり入っていなかったけど。だけど、俺は彼が出ているところばっかり再生し続けていた。
 格好良くて、優しくて、力強くて、包容力があって。
 それから、龍二さんが出ている動画を探し出しては見ていた。
 ずっとずっと。
 親の仕事が立ちゆかなくなって、俺のところまで借金取りがやってくるようになるまでずっと。
「リュウ……『ジ』……さん」
 マイクに入らないように、小さく小さく、彼の名を呼ぶ。
 俺より大きな身体に包まれて、その熱に喘ぎ、込み上げる情欲にあえかな悲鳴を上げる。
 こんなの、こんな声が勝手に出るなんて、やっぱ龍二さんはすごい。
 前の撮影では、意識しないと出なかった声だ。けれど、今の俺はそんな自分が信じられないほどに、浅ましく身体が動いて求め続ける。
「いい子だ、イヤらしいほどに穴が蕩けてるよ、すごい、貪欲だな」
「んあっ、うっ、やあっ……言わないで……」
 くちゅっと尻の穴を掻き回されて、ビクンビクンと身体が跳ねる。
 今までそこだけで達ったことはないけれど、なんだか今日は龍二さんのその入り込んだ指だけで、全部を持って行かれそうな予感がしていた。
 チカチカと目の前が瞬く。
 快感が走るたびに、指の先までは痺れていくようで、じっとしていられない。
「おとなしそうな顔をして、ほんとにイヤらしい身体をしている。ずっと目をつけていた甲斐があったよ」
「え……ずっと、ずっと俺のことを?」
 そう言われるほど感じてるのは自分でも判っている。でもそれ以上に、龍二さんの言葉に煽られる。
「ほんとに、俺のこと、気にしてくれていた?」
「ああ、始めて見た時からずっと、きっとすばらしい身体をしているに違いないってな」
 いつもより低い、腰砕けになる魅惑の声音でそんなことを囁かれて、舞い上がった感情は、もう容易には落ちてこない。
「ん、いっ、イイっ、あんっ、もうっ、もぅ、いれてぇ、中、熱いっ、うっあぁ、あっ」
 先より敏感になった身体が、太いモノを求めている。
 その太いモノが太股に当たっていて。
 熱くて、硬くて、濡れているそれ。
 ずっとずっと欲しかった、始めてあの動画を見たときから、ずっと入れて欲しかった、龍二さんのペニス。
「お、願いっ、もうっ、もう入れてぇ、リュウ、さんのチンポっ、入れてぇぇっ」
 浅ましくて恥ずかしい。けれど、それ以上に欲しくて堪らない。
 ずっと撮影してきたせいで口に馴染んだ下品な名称も、それで龍二さんを煽ることができるなら、躊躇いはなかった。
「太くて、熱くて……おっきな、龍二さんのチンポが……欲しい、です……」
 足を広げて、龍二さんの腰を挟み、引き寄せる。
 俺のラバーパンツの編み上げの紐越しに触れるそれに、グイグイと腰を押しつけた。
 俺のペニスの先に濡れた龍二二さんの下腹が無茶苦茶滑ってる。
 締め付けられてなかったら、きっと暴発しまくりだったろう俺のペニスも痛いほどに張り詰めていて、今触れられたら、きっと呆気なく出してしまっていただろうけれど。
 辛い締め付けも、今はありがたいって思っていた。
 だって、そんなに簡単に達ったら、もったいない。
「良いのか、俺のはかなり太いぞ、もっと慣らさないと切れてしまう」
「んっ、やっ、イイっ、お願いっ、もう入れてぇ、我慢、我慢なんてできないっ、欲しいっ」
 太いのは知ってる。大きくて、硬くて。
 事務所の他の子が『すごかった』なんて言ってるのを聞いて、羨ましかったから。
「入れて、お願いっ」
 もう我慢できないから。
 腕を伸ばして短くて硬い黒髪を抱いて、囁く。
「無茶苦茶にしてくれて良いから、お願いリュウ『ジ』さん……」
「ああ、そんなに言うならくれてやるよ、俺を、もう嫌だっても止められないからな、『正樹』」
 こっそりと囁かれた名に、歓喜する。
 膝裏が抱え上げられるのを、自身でも力を入れて腰を上げた。
 いつの間にか締めていた紐を解いていたのか、たらりとぶら下がったそれが尻タブを擽り、生身の熱が剥き出しの尻の狭間に触れていた。すぐに滑った先端が、ぐぐっと力を持って押し込まれてくる。
「ん、くっ、ああぁ──っ」
 ぐちゅっと最初は僅かな広がりだった。
 だがすぐに、ぐぐぐっと広げられていく。
 指で解されてはいたけれど、それよりもっと大きく広げられていく圧迫感と引きつるような痛みに、「ひっ」と小さく呻いた。
 知らず強張る身体を、宥めるように頬を大きな手のひらが触れる。
 喘ぐ口を塞がれて、呼気ごと奪われると同時に、ぐぐっと身体の奥へと侵入を果たすものが、まるで大きな杭で貫かれるような錯覚すら感じた。
「んっ、うっ、うっ」
 塞がれているせいで、悲鳴すら龍二さんに奪われていた。
 思った以上の圧迫感は、それだけ彼のものが大きいってことなんだろうけれど。
 うれしいのに辛い。だけど、きついんだけど、堪らなく良くて、うれしくて堪らない。
 ぐっぐっと奥へと侵入を果たす明らかな異物が愛おしくて、もっと欲しかった。
 こんな欲情がどこから溢れる来るのか判らないけど、止まらないのだ。
「すごっ、あっ、あっ……」
 逞しい身体が迫り、大きな胸に包み込まれる快感は、今まで感じたことはなかった。
「すご……い」
 半ば放心状態で呟けば、その胸がクックッと揺れ動く。
「俺のものをずっぽりと銜え込んで、中へ引きずり込みやがる。なんて淫乱な身体だ」
 揶揄されて、羞恥が増すけれど、撫でてくれる穏やかな手の動きに癒やされる。
「欲しいか?」
「……欲しい、です……」
 問われて答えるそれは本心からだった。
 こくりと小さく頷き返す俺に、至近距離で男らしい顔が笑みを浮かべる。少しいたずらっぽいそれに胸が高鳴る。
 だけど、龍二さんはすぐには動いてくれなくて。
「淫乱らしくバックで犯してやるよ? 『背中が辛いだろう』」
 巧みに続けられた内緒話に、一瞬なんのことか判らなかったけれど。
「さっさと身体を起こせ」
「んあっ」
 繋ったまま背に手を入れられて、ずりっと中が捻れるような感触に、堪らず悲鳴を上げたけれど、同時にようやく気が付いた。
 ピリピリとした背中の痛みが、少しひどくなっていることに。
「鞭の痕が真っ赤になってるなあ、四つん這いになるとよく判る」
 少し抜けかけていた龍二さんのモノが、押し込むようにされるとともに背中を押され、慌てて両手をついて四つん這いになる。
「んぐっ」
 勢いよく入り込んだそれに小さく呻き、背中にのし掛かる重みに耐える。
 さっきとは違うところを抉られたようで、そのまま腕から力が抜けそうになったけれど。
 これから俺の中にいる龍二さんを喜ばせることができるんだって思ったら、頑張って身体を支えた。
「俺のモノだとその身体に刻んでやるよ」
「ああ、来て……」
 込み上げる激情に堪らず呻いて、自ら尻を押しつけて。
 いよいよ動いてくれるんだっていう期待に、うっとりとしていたら。
「良い格好だな」
 不意に聞こえた冬吾さんの声に、ぎくりと全身が震えてしまった。
 その拍子に、ぎゅうっと龍二さんのものを締め付けてしまったのか、腰にかかっていた指がぐいっと食い込んだ。
 だけど、俺はそれどころではなかった。
「な、に……」
 後ろばかり気にしていたら、いつの間にか目の前に冬吾さんが立っていて、しかも、冬吾さんの股間ではずらしたビキニから逞しいペニスが俺に向かって伸びていたのだ。
 ヌラヌラと濡れた先端は大きく、エラがひどく張っている。
 龍二さんのモノと遜色ないほどに大きなそれは、使い込まれているのか色素が沈着していて、グロテスクだと思えたほどだった。
 それこそ、実業家然とした姿からは想像が付かない代物で、だけど今の格好に似合ったもので。
 ぞくぞくと、明らかな恐怖感に背筋が震えてしまうそれが、目の前数センチのところに迫ってきて、思わず仰け反ろうとしたのだけども。
「さっきご褒美あげたんだから、御礼をもらっても良いと思うんだよ」
「お、れ、い……って……ぐあっ」
 なんのことだと理解するより先に、驚いて緩んでいた口に、冬吾さんのペニスが入り込んでくる。
 口を閉じる暇なんてなかった。
 閉じかけた歯で擦る痛みなんて気にもしないのだろう、体重をかけて押し込まれて、無理矢理こじ開けられるしかなくて、さらに喉の奥まで犯される。
「ご、ぉ……おっ」
 喉奥を刺激されて嘔吐いてしまいそうになって、慌てて後ずさろうとしたけれど、背後では龍二さんが俺の腰を押さえ込んでいて下がりようがなかった。さらに頭も冬吾さんががっしりと掴んで押さえて、逃がさないとばかりに固定されてしまう。
「おやおや、きちんと開けて待っていられないなんて、これは余分にご奉仕してもらわないと駄目だな。ほんとにたくさん躾が必要な子だな」
「これから躾けるんだから、しょうがないだろう、文句言うなら止めるか?」
「冗談、これはこれで楽しいしね」
「んーぐぅ、あー、やあー」
 離して欲しくて喚いているのに、俺の前後で二人人は楽しそうに会話するばかり。
 そのうちに、龍二さんが動き出して、すぐに冬吾さんも動き出して。
「うーっ、あっ、ぶぉー、ごぉ……」
 後ろから押しつけられるたびに、冬吾さんのものをより深く銜えさせられる。
 それから逃れようとしたら、龍二さんのペニスが奥深くを抉る。同じような太さのそれに、前から後ろまで一本の杭に貫かれたような苦しみに、堪らず喚く。
 けれど、二人はそんな俺を無視して、互いにリズム良く動くのだ。
「あぁぁ、がぁっ、あっ」
 敏感な口内を、溢れてきた淫汁が満たしていく。押されてぐらぐらと揺れる尻が、張り詰めたペニスで掻き回される。
 慣れた仕草で龍二さんが狙うのは俺の前立腺だ。こんな撮影の中でも、さすがにそこをそんなに激しく抉られては、弾ける快感に意識が白く掠れていく。
 過去の撮影で教え込まれたその存在で、俺は感じることはできる。できるけれど、そこだけで達くほどにはなっていなかった。けれど、龍二さんに抉られて、今までのは何だったんだろうかって思うくらいに、全身でよがりまくりたいほどに善い。
 だけど、快感にのめり込む前に、喉の奥の刺激に意識を取られてしまう。
 呼吸すらままならない状態に苦しくて、逃れたいと暴れるけれどしっかりと固定されているうえに、そんな俺の抗いを封じ込めるかのように前立腺からすさまじい快感が押し寄せる。その上、時に敏感な上あごをエラで擦られて、ひくんと身体が震えるほどに感じてしまうことがあった。
 苦しいのに、堪らなく善くて。
 苦しいのは嫌だから、快感に縋り付く。
 たまに、なんでこうなっているんだろうって、思わないでもないけれど。
「んぐぉ、おっ、あっ」
 前から後ろまで一本の棒で貫かれて揺すられているように、前後で穿たれ続けているというのに、与えられているのが快感ばかりになっていっているみたいだ。
 そうなってくると、射精したくて堪らなくなる。
 初めて、アナルだけで達くのかもしれない。
 昂ぶっていく身体に、熱が渦を巻いて下腹部に集まっていく。息苦しさに喘ぎつつも、意識が掻き回されているところに引き寄せられていく。だって、今俺を犯してくれているのって、龍二さんだから。
 ああ、達きたい。
 気持ち、いい……。
「んあ、いあぁぁ、あーっ、ぁぁっ」
 募る射精感に腰を振りたくる。けれど、俺のペニスは貞操帯の機能も持つラバーパンツに包まれて、射精は叶わない。最初のころに着けられたそれは、未だに俺のペニスをしっかりと締め付けていて、吐き出したい熱がどんどんと集めているのに、解放をさせてくれなかったのだ。
「うーいっ、うーっいさぁ(龍二さんっ)」
 背後の龍二さんに呼びかけようにも口は塞がれているし、頭を固定されているから、振り返ることすらできない。ならば冬吾さんを上目遣いに見上げても、彼は笑って俺を見下ろしてばかりだった。 
 その表情に、彼が判っていて、外すつもりなどないのだと気が付いてしまう。
 さあっと目の前が暗くなる絶望感が押し寄せたけれども、それも一瞬だ。募る射精感は、できないとなるとよけいに激しくなる。
「んーあおぉっ、おーぁ」
 さっきより激しく叫ぶ俺に、けれど、龍二さんはまだ気が付いてくれなかった。
「良いのか、もっと欲しいのか? ほらっ、この淫乱、たっぷりと喰らいやがれ」
 なんて、さらに激しく俺の前立腺を突きまくる。
「あー、おーぉぉっ、あおっごほぉっ」
 よりによって。
 いつもはそこまで感じないアナルが、もう、暴風雨の中で翻弄されているみたいに、意識があちらこちらへと振り回される。
 達きたいっ、出したいっ、やめてっ、もっと。
 止めて欲しいのに、外して欲しいのに、走り抜ける快感を止めて欲しくなくて。
 ギリギリまで引いて抜け落ちそうなそれが惜しくて、ぎゅうっと締め付けてしまう。そのきつい中をごりごりと擦り入り込むのが良くて、良くて、堪らなく良くて。
 すごくて……。
「うあーっ、あーっあっぁぁ!!」
「ほらっ、飲めよっ」
「こっちもだっ」
 不意に、後の圧力が強くなった。
 窒息してしまいそうなほどに冬吾さんの下腹が押しつけられて、喉の深くまでペニスに占拠される。喉奥に流れる熱い飛沫を認識するよりも早く、尻タブがひしゃげるほどに押しつけられ、信じられないほどに奥深くを強く抉られたそこが、激しい蠕動運動とともに中のそれを締め付けた。
 そのままじわりと何かが満たされる感触が、広がったとたん。
 目の前が弾けた。
「あーっ、あっ、あっ!!」
 パアンッと何かが爆発したような、全身を揺さぶるほどの衝動が、身の内から湧き起こる。口内を占拠するペニスより大きく口が開いて、訳も判らず叫び声を上げる。付いた四肢は自分の物でないように突っ張って、制御できない。
 音も消えた。
 視界は、何も見えないほどに白い。
 感じるのは身体の中にある、二本の肉の棒。
 熱くて、硬くて、力強くて、太い。
 グリグリと俺の全てを犯すそれが、小刻みに震えるたびに、何かが中に入ってくる。それが俺の全てを支配するように、全てを白く塗りつぶしていって。
「あ……あ……ぁ」
 ふうっと力が抜けていく。
 高い位置から一気に落とされたように、浮遊感が襲う。
「ドライでイったか、すごい……蕩けきった顔だ……」
 どこからかともなく、くぐもった声が届く。
 水の中でかろうじて聞こえていような、そんな声は誰のものか判らない。だけど、ずいぶんと楽しそうだった。
「フェラされて……快感は……れていた様子だな。……としてはなかなか良い素質がありそうだ」
「ああ、俺が惚れ込んだ……。しかも……きなかったんだが」
「今も勃……おまえが言っていたとおりに……して……するにふさわしいだろうね」
「ああ、俺が……もう俺は、こいつを絶対俺のものにする、絶対に」
 続いた会話は、もうなんて言っているのか頭は理解してくれないけれど。それでもひどく楽しそうで、喜びに満ちてるようで、なんだかこちらまでうれしくなってきて、俺は訳も判らず多幸感に包まれたまま、一直線に白い闇へと落ちていった。