騎士様にお願い 3

騎士様にお願い 3

 夕食を持ってきたのは隊長だった。
 今日の夜は隊長だと聞いていたけれど食事を持ってきたのは初めてで、リィンはトレイを持ったその見慣れぬ姿に、虚ろな瞳を瞬かせた。
 少しの休憩時間でも横たえていた身体は動けるほどには回復していたけれど、男の気配がしたとたんに身体は熱くなり、怠さを持った疼きが指先まで走り、小さく呻く。
 落ち着いていたはずの陰茎がまた勃起して、枷の周りがじくじくと痛むのに、その痛みより上回る快感が下腹の奥で煮えたぎっている。
 知らず潤んだ視線の先で、リィンを狂わせる指がトレイを床に下ろした。
「あ、りがと、ございます」
 礼を言い、トレイに視線を向ければ、今宵のメニューは消化の良いスープにパンを浮かべた物と栄養価の高い果物だ。昼間のように遊ぶための食事でないことにホッとして、覚えず口元が綻んだ。
 それに、傍らにある薬包は先日からずっとあるもので、痛み止めと熱冷ましだと言っていた。
 それらは、度重なる陵辱と背中の刺青で発熱した身体を癒やす物で、塗り薬も別途処方されている。医療技術を持っているという騎士団員が処方したそれらは、彼曰く、自分たちも飲む薬で危険な物ではないらしい。それを疑う訳では無かったけれど、真実だという判断もできないリィンは、それでも怠い身体をなんとかしなければ、と、結局おとなしく処方された薬を飲んでいた。
 そうしなければ、一週間保たないかも知れない、と、早々に思ったからだ。
 実際薬は良く効いて、背の痛みも尻穴の疼きも治まるのは早く、最初以上に悪化することはなかった。
 ただ、人扱いされていないだけで、手を使わずにピチャピチャと四つん這いになってスープに飲むことも、諦めてしまえばすぐに慣れて、それほど時間も経たぬうちに飲み終わる。
 薬は隊長が手ずから飲ませてくれた。
 差し出されたカップの水を、こくりこくりと飲み干すと、溢れた水が喉を伝い、ピチャピチャと汚れた床で跳ねた。
 火照った身体に気持ち良い感触にぶるりと震え、濡れた口火音をぺろりと舐める。
 それがどんなに男の欲を誘うかリィンは知らないけれど。
 淫乱であることをこの身に強いた時から、知らず身についた所作の一つだった。
 さらに優しくされたことが嬉しくてと、素直に微笑み、知らず頭を隊長の元に擦り寄せる。
 そんなリィンの顎を捉え、上向かされた視線の先で、隊長は微かに笑みを浮かべながら口を開いた。
「今宵で最後となる」
 簡潔な言葉に、リィンは一瞬その意味が判らなかった。
「最後……?」
 戸惑い返す言葉に、うっすらと嗤い返される。
「約束の代償は、これで最後だということだ」
「約束……?」
 返されても判らず、呆けた頭で必死に考えるリィンに、隊長が言葉を継いだ。
「家族の安全のために、お前が約束したことだ。我らは明日朝、この地を立つ」
「え……」
「任命されていた仕事に片がついたからな。この地に留まる理由もない」
「あ……んっ」
 どさりと簡易のベッドに腰を下ろしてリィンの身体を引き寄せ、その勢いのままあぐらの上にのせられる。背後から拘束されるように包み込まれ、首の後ろに痛いほど吸い付かれて。
 最初の痛みに眉根を寄せていると、じわりと背筋に甘い疼きが走り、腰が揺れ初めた。
 その動きに気がついたのか、笑っている振動が伝わってくる。同時に大きな手が胸から腹を下りてきて、股間に埋もれる陰茎を引きずり出された。
 ぬちゃり、と粘着質な音が小さく鳴る。
 何も知らなかったこの身体は、もうすっかり男に犯される悦びを覚えていて、いつでも勃起してあっという間にしとどに先を濡らしてしまうのだ。
「まこと、淫乱になったな。ケツマンコもひくついて、早く淹れろと悶えておるわ」
 耳朶に噛みつき、揶揄されて。
「やっ……あぁ……」
 喘ぐ声音が甘いのを必死で抑えようとするけれど、予感に疼く下半身が誘うように揺らぐのは止められない。
「欲しいか?」
 耳元で囁かれた言葉に、無意識のうちに頷いて、股間を弄ぶ太い腕に縋り付き、手の甲から指を絡めて押さえつけた。
「あ、んぁぁ、そこぉぉっ、ああっ」
 一度零れ始めた嬌声はもう止まらなくて、もじもじと隊長の服越しに感じる太い塊を求めてしまう。
「ふふ、覚えているか?」
「あ、あっ、な、何っ」
「お前が最初に言った言葉だ。私に願って、自分のことをなんと言っていた?」
「あ、あれは……」
 覚えていないとは言えなかった。
 あの日、家族の身の安全を盾にされて強要された言葉は、からかいの種にもされて何度も言わされてきた。
「わ、私、は、お、おチンポ様大好きな、淫乱で……変態で……あん、ねぇ……マンコ、犯してぇ」
 言っているうちに、リィンの身体はますます紅潮して、うっとりと背後の隊長の顔を見上げてる。
 一度欲に囚われてしまえば、もう頭の中はそれだけになる。
 ここに閉じ込められて数日後には、そうしなければ狂気に落ちそうだと、己を守るために理性を手放すことを選んでしまい。それから、まるで染みついたくせのように、誰から抱きかかえられると条件反射的に理性が消えて、欲情を顕わにするようになったのだ。
 この言葉も、そんなスイッチの一つだ。
「犯されたい、か?」
 隊長の言葉に、コクコクとうなずいて、腰を浮かして擦りつける。
 騎士達の中で、もっとも大きくて太い陰茎がそこにある。
 期待に口の中に涎が溢れて口角から垂れ落ちて、赤黒く腫れ上がって勃起した乳首を淫らに濡らした。
 それを指先で押しつぶされたとたんにびくんと大きく仰け反り、つられて浮いた尻の下に手が入ってきて。
「そのまま待て」
 不自然な姿勢で苦しかったけれど、命令のままに中腰で堪える。
 ゴソゴソと衣擦れの音が鳴り、尻タブに熱い肉塊が触れて。
「あ、ぁぁっ……」
 じわりと鈴口から熱い滴が溢れる感触にすら、感じてしまう。
「よし、下ろせ」
「は、い……ああっ」
 手で軽く身体を支えられ、けれど尻の下にある逞しい杭に己自身の動きで身体を下ろす。
 慎ましやかなはずの尻穴は、度重なる陵辱でどんなに太い杭であっても、飲み込めるようになっていた。
 ブチュと、先端が埋まって、それだけで身震いするほどに感じて。
「ひ、あっ……ふとぉ……すごい……あはぁぁぁ」
 こみ上げる衝動に表情が笑み、弾ける快感に焦点が合わぬ瞳が虚ろに泳ぐ。
 ずるっ、にゅるっ
 この感触をもっと長く感じたい。けれど、突き上げる快感は支える太股から力を奪っていく。
「ひあっ!」
 最後は崩れ落ちるように自重で奥まで飲み込んで、奇声を上げながらぺたりと尻を付いていた。
「美味いか?」
 問われて即座に頷いて。
「おいし……です……」
 うっとりと言葉にする。
「なら、しっかりと味あわせてやろう。至高の快楽を」
 身体を前へ押されて、背後からのしかかられながらの言葉の意味を理解することはできなかった。
 何より、そんな事を考えるより先に、大きな隊長の身体が背にのしかかり、深く穿たれた陰茎が激しく胎内を擦り上げてきたのだ。
「あっ、ひぁぁっ、あっ、あっ、あうっ、あぁぁっ!」
 もっとも太いそれが、前立腺の横の壁を抉るように擦り上げる。
 そのたびに目も眩むほどの絶頂に襲われ、引っ切りなしに嬌声が溢れ、揺れる身体に合わせてパチパチと腹を打つ陰茎が射精とも呼べぬ量の精液をいつまでも散らした。
 隊長のペニスは、それだけでリィンを狂わせる凶器だ。特に体格も良く、力も強い隊長にかかれば、リィンの身体など子供のそれと大差ない。片手で腕の中に抱え込み、己が腰を振ると同時にその身体を自分の下腹部に強く押しつける。
「ひぁぁっ、ぎぁっ、がっ、あ゛っ!!」
 陰嚢までもが入り込もうとするほどに強く押しつけられ、白目をむいたリィンが悲鳴のような嬌声を上げ続ける。ぶらぶらと揺れる足はすでに力などなく、全てなされるがままだ。
「どうした? イクならイクと言えっ」
 それでも、隊長の言葉に、リィンが反応する。
「い、イく、ぅっ! イクっ! い、クゥっ!」
「はははっ、イイなっ、ほんとうに遊び甲斐があるぞ、お前はっ」
 愉しげに高らかに笑いながら、リィンの陰茎に課せられた枷に隊長の手が伸びる。
「淫乱なお前に、褒美をやろう」
「ん、あ、あぁぁぁ────っっっ……」
 ひときわ甲高い嬌声が、狭い物置に響き渡った。
 枷が外れた直後、反り返り、顔が天井に向くほどに上向いたリィンは、目玉が零れ落ちそうになるほど見開いて、口を大きく開いて舌をはみ出させていた。
 ガクガクと壊れたゼンマイ仕掛けの玩具のごとく、その身体が揺れている。
 突き出された股間の、赤黒く変色するほどに勃起したリィンの陰茎から、ドロッ、ドロッと粘度の高い精液が、恐ろしく多量に噴き出していた。
 プルプルと粘りのあるそれは、床どころか離れた壁にまで飛んでいる。
「ふふ、最高の締め付けだ」
 硬直した身体に強く腰を押しつけたまま、ぶるりと一度震えた隊長が満足げに腰を揺らす。
 ブチュブチュと隙間から泡だった白濁が溢れ、白い足を伝っていった。
「乾いた絶頂もやみつきになるというが、溜めきっての射精も、色狂いには最高の褒美だというが……気に入ってもらえたようだな」
 笑みを深めた隊長の言葉も、リィンの耳には入っていない。
 ようやく硬直がとれて四肢は力無く垂れてしまったけれど、腕の中で抱えられたまま、リィンの身体は未だに小刻みに痙攣し、その瞳は呆けて焦点が合わず。
 そして。
「イ、イぃ……あはぁ、すごぉ、はは、すご、ぃのぉ。もっ、ぉ……おか、してぇ、もっと深くぅ……もっとぉ……」
 いつまでも、隊長が衝動のままに再度抽挿を始めても。
 揺さぶられるままに零れる嬌声の合間もずっと、リィンは虚ろに笑いながら男を求める言葉を呟き続けていたのだった。

「あなた方の疑いは晴れた」
 あの朝、剣を向けたあの日のように食堂に集められた五人を前にして、騎士団の小隊長は言い放った。
 一週間ぶりの再会に、けれど、騎士たちに囲まれた状態で緊張したままに互いの無事を喜んでいたのも束の間、五人に一枚の紙が手渡されてのことだ。
 その内容を読み解いた兄が、表情を強ばらせ、狼狽えたままに隊長を見つめ、言い募る。
「こんな、嘘です。事実無根です」
 震える声に、隊長が頷き返し、淡々と状況の説明が続けた。
 そんな中、拘束中に風邪をこじらせたとされているリィンは外れた布張りの椅子に深く身体を預けていた。
 その内容は、明け方起こされたときにすでに知らされていたので、改めて驚く内容ではなかった。それよりも、昨夜意識を失ってから一体何があったのか、と思うほどに、身体が怠く重い。
 零した吐息も思いの外熱く、けれど、体熱は平熱のそれで異常は無いという見立てだった。
 ただ、身体の奥が熱い。
 ひさしぶりの衣服が陰茎を擦るのも、腫れた乳首を撫でるのも、涎が溢れるほどに疼いて堪らない。
 そんなリィンの様子をよそに、隊長は淡々と説明をしていた。
 曰わく、国家犯罪人として手配されている重罪人を匿っているという連絡があり、その真偽を確かめるために五人を閉じ込め捜査していたのだが、虚偽の報告であったという結論に達したという。
「この館を含めての探索、虚偽であるという裏付け調査なども含めて、我らに許された期間は短く、その間に判明しなければそなた達を全員王都に犯罪者として連れて行かねばならぬところだった。そのため、余計な隠し立てができぬように、有無を言わせぬままに拘束させてもらったことは申し訳無く思っている。」
 詫びの言葉は簡潔で、けれど、王家の正式な捜査令状を見せられては、地方の統治者ごときには何も言えなかった。
 結局、兄が「疑いが晴れて良かったです」と頷いて終わったのは、中央ともめたくはなかったという思いが強いせいだ。
 それに、他の家族が異を唱えることなどできるはずもない。
 実のところ、一週間閉じこめられていた割には、リィンを除く4人は皆顔色は悪くなかった。さすがに心労はあるようだが、執事が兄をいたわり、召使いが妹の世話を何くれとしてくれている様子は、前よりもっと関係性が良くなっているようなのだ。
 そんな姿を見て、リィンは彼らが約束を守ってくれたのだ、と、内心で深く安堵した。
 一週間、身体を休める間も無く、卑猥なことばかりさせられてきたけれど、それだけの見返りがあったということで。
 おかしな体調と久しぶりの服に違和感を必死で我慢しながらも、気力を振り絞って皆と同じ笑顔を向けた。
 これからすぐに彼らは中央に帰る。
 そうすれば、また、前と同じような日々が戻ってくるのだ。
 ようやく終わる。
 ようやく、あんな淫乱と化して男を強請る日々は、終わる……。
 ……終わる……。
 そこまで考えついたとき、不意にリィンの身体の奥に、激しい疼きを感じた。それは甘いと言うより、荒ぶる衝動のような激しさで、地中から不意に噴き出してきたようにリィンの中に溢れかえった。
 イヤだ。
 震える唇が、音の無い言葉を紡ぐ。
 いますぐに服を剥ぎ取りたいほどの衝動に、手が震える。
「どうした?」
 傍らに控えていた騎士の一人が、口角を上げながら聞いてきた。
 それには首を横に振って返したけれど。
 震えは腕から身体にまで至っていて。
 両腕を胸の前で掻き抱き、零れる悲鳴を飲み込んだ。
 イヤだ、終わるのはイヤだ。
 慟哭のように溢れた言葉が頭の中を支配する。
「リィン?」
 兄が、リィンの異変に気がついて慌てて駆け寄ってきた。
「風邪が悪化したのか? もう休んだ方が良い」
「あ、んっ……」 
 触れるその手の感触に、ぞくりと全身が総毛立ち、浅ましく鳴った言葉を慌てて飲み込む。
「リィン?」
「あ……だ、じょーぶ……」
 その手から逃れるように、椅子の背もたれに深く身体を預けて、縮こまる。
 あれは兄の手だというのに。
 この身体は浅ましく欲情している。強く引き寄せた足の間で、瞬く間に勃起した陰茎の先端からすでに濡れていることに気がついてしまっていた。
 尻穴が、ひくついている。
「大丈夫ですか?」
 慣れぬ敬語を使う騎士が、リィンを抱き寄せるのに逆らいたいのに逆らえない。
 いますぐに縋り付き、その股間に顔を埋めたいと願う自分に吐き気がすると同時に、甘く酔いしれる。
「だ、い、じょぶ、だから……」
 ぎゅっとその手を掴み、嗅いだ匂いで彼が副隊長だと気がついた。
「困りましたね。我々のせいで、こんなにも弱らせてしまった」
「薬を処方しましょうか」
「そうだね、頼む」
 しばらくして用意されたいつもの薬をごくりと飲み干して、冷たい水に少しだけ身体が治まる。
 それでも、傍らの男達の気配に、意識がすぐに持っていかれそうだった。
 どうしてこんなにも……。
 泣きたいくらいに情けなく、けれど、同時にこんな身体で放って置かれたくない切に願う。
「リィン?」
「兄様……」
 心配そうに覗き込む兄と妹の顔よりも、その後ろにいる騎士達に縋り付きたくて。
 伸ばせない手がもどかしくて堪らない。
「兄、上……」
 言葉は兄に向けて、けれど、視線は後ろの隊長に向けて。
 半ば無意識に囁いていた。
「私は……みなさん……に着いていきたい」
 途切れ途切れの言葉は、けれど兄達にはきちんと届いたようで、驚愕に目を見開き固まっている。
「行きたい……中央に……」
 咄嗟に思いついた言い訳は、なぜだかすらすらと口から吐いて出たモノだった。
「みんなより先に……事の次第を教えて貰って……。いろんな事情を聞いてました……。そして……もっと中央で、勉強したいっと……思って。お願いしてて……」
 どうか……連れて行って。
 視線で、隊長に訴える。
 薬を飲むときに支えてくれたままの副隊長の腕に縋り。
 調子を見るためにかがみ込んで足下にいる医療担当の騎士に足を擦り寄せて。
「行きたい、んです……。それをずっと考えていたら……なんか、ここ数日眠れなくて……風邪ひいてしまって……。今ももう、いてもたってもいられなくて」
 近づいてきた調理が得意な騎士が渡してくれたカップを取ると同時に、その手に指を絡める。
 そして。
 背後から近づいてきた、あの──最初にリィンに言葉と演技を教え込んだ騎士が耳に囁く言葉を、口にする。
「それに、二度とこんなことがないように、中央で私自身、申し立てをしたい……んです。兄上がどんなにきちんとこの地を治めているか、王家の洞をきちんと奉っているか、この口で説明して、認めて貰いたいのです」
 疼いた身体がこのときばかりは凪いで、しっかりと兄に視線を合わせることができた。
「どうか、兄様」
「それは……確かに……そうだが。それは、我々の一存では決められないが……」
 兄が狼狽えリィンと隊長を交互に見やるが。
「我々は構わぬ。もとより、虚偽であったことは我々の調査でも明らかではあるが、リィン殿が中央に赴いて自ら潔白を証明されれば、それだけ心証が良くなることだろう。それに、実は我々もいくらかリィン殿に途中から協力していただき、たいへん助かった礼もしたかったしな。もし中央で勉強がしたいというのであれば、悦んで協力できよう」
 きっぱりと言い切った隊長の言葉に、兄もまだ幾分躊躇いは残っていたけれど、結局頷いてくれた。
「もとからお前は機転が利いて勉強熱心だった。こんな田舎で埋もれさせるのは惜しいと思っていたからな。お前がどうしても行きたいといい、隊長殿が快く受けてくださるというのであれば、何も問題などないだろう」
 その言葉に、身の奥底から歓喜の渦がわき上がる。
「……兄上……ありがとうございます。はい、私、リィンはどんなに厳しくともみなさんの言いつけを守り、きちんと勉強し続けます。今まで以上に、ずっと」
 簡易になれど深い感謝を述べて、そして自分の決意を宣言する。
 以前ならばずっと兄を支えてこの地で生きていくつもりだったけれど、今はもう、どうしてもこの地では生きていけないことが判ってしまったから。
 大切な家族よりも、どうしても欲しい物ができてしまったから。

 結局、リィンが街を出るためには復調も見極めて三日は必要と言うことで、すぐに戻る必要がある隊長が二人を共に引き連れて先に出発し、三日後に副隊長と医療担当の騎士二人とともに出立することになった。
 分かれてしまったが故に、荷物の再区分けに取りかかる皆の代わりに、隊長自らがリィンを彼の自室へと運んでいった。もっとも、隊長ならば一人で運べるのが大きな理由であったけれど。
 けれど、隊長自身が運んだのはある目的があったからだ。
 ベッドに寝かせた隊長はリィンの下肢を軽々と剥き出しにし、ポケットから例の枷を取り出して、ニヤリと嗤いかけてきた。
「中央の我々の館に着くまで、禁欲していろ。今までのように緩くはない。一滴残らずこの玉袋ん中にたっぷりと溜め込んでこい」
「あ、は、い……んっ」
 触られるだけで勃起しようとする陰茎を握り締め、陰嚢の根元を細紐で縛りつけてから枷をもかけられる。
 前より圧迫感の強いその刺激に、けれど、リィンはそんな刺激にもたまらないと、こみ上げる甘い疼きに先端を濡らしていた。
「あいつらにたっぷり可愛がられながら、10日はかかる道のりを愉しんでこい。ちゃんと我慢して辿り着けたら褒美だ。昨夜のあの解放感を再度味あわせてやろう」
 その言葉に、脳裏にじわりとその時の衝撃が甦ってきた。
 それは、あまりのことに失神したせいで記憶の奥底に埋もれていたけれど、けれど、確かに身体が覚えていたことで。
 あの素晴らしい衝動と天国に上り詰めたような快感の渦を思い出してしまうと、何故忘れていたのかと後悔ばかりが沸いてくる。
 そして、身体が覚えていたからこそ、彼らと離れることにあれだけの恐怖が湧き起こったことも理解した。
「まも、ります……。ちゃんと……我慢して……みなさんのところに、行きますから、だから……」
 あれを味わえるなら、どんなことでも堪えてみせる。
「あちらではいろんなことをこの身に教えやろう。泣いても、嫌がっても、だ。そうして欲しいと言ったのはお前の方だ、そうだろう?」
「はい、淫乱なリィンは、みなさんのおチンポ様をいっぱいおしゃぶりしたい。いっぱいみなさんによろこんでもらいたいから、ケツマンコいっぱいつかってください。だから、何でも、教えてください」
「良い子だ」
「んあっ」
 褒め言葉と共に、隊長の大きな口内にすっぽりと陰茎を吸い込まれた。
「ん、あっ、やぁ、はっ」
 それだけで噴き上げそうになるくらいなのに、きっちりと締めつけられた紐は陰嚢の動きを妨げ、細くなった管の動きすら妨げてしまう。
 閉じたまぶたの裏が幾度も白く瞬き、がくんがくんとベッドがきしむほどに身体が跳ねる。
「イィ、イクゥっ、いく、イクっ!!」
 巧みな口淫が、リィンをいとも簡単に絶頂に追い上げる。幾度も幾度も。
「隊長ぉ、そろそろ出発の時間ですよ」
 呼びに来た副隊長がやってくるまで、長い間味わっていたそれが口からぽろりと飛び出てきたときには、勃起したそれはふやけたように皮膚を膨らませて、湯気を立てていたほどだ。
「おやおや、しっかり締め付けて。10日は長いですよ。天候によったら最長15日はかかるかも知れませんが」
 くすくす笑う副隊長に、隊長は肩を竦めて言い放った。
「俺を虜にしやがったんだ。こんなので音を上げてちゃ、ぶっ壊れるだけだぜ」
「ええ、ええ、あなたにしてはたいそう気に入っていると思いましたけど、まさか連れ帰るために色狂いにしたとは思いませんでしたよ。まあ、私的には役得ですけどねぇ。この肌に、もっともっと色が刺せるんですから」
「ついでに、たっぷりと騎士団の仕事を躾けておいてくれ。真面目な話、事務仕事が溜まってしょうがなかったしな。それと、淫乱な下っ端の心得って奴もな」
「了解です。ええ、中央に帰るまでには、そのあたりもきちんと躾けておきます。もちろん、可愛い穴が狭まらないように、そちらの躾けも完璧に。ふふ、どうかお任せください」
 頷く副隊長の肩を叩き出て行く隊長の背後では、勃起し先走りの液を流し続けるリィンが、何も知らずに深い眠りについていた。

【了】

設定集もどき

隊長
 騎士団の中でも随一の体格と腕力を持つ。武器は騎士団では珍しく両刃の大剣で、その割りには俊敏さでもひけをとらない。その体格に見合った陰茎と並々ならぬ精力は娼婦泣かせと言われていて、専用に躾た娼婦を一人囲うべきかと思っていたようだが、最近辺境の任務から返ってきてからは、娼館に顔を出すことは無くなったという。

副隊長
 隊長よりは背丈も横幅も劣るが、背は高い方。隊長が苦手とする事務仕事を嫌々ながらも一手に引き受ける彼はストレスが溜まりやすい。密かな趣味として刺青士としても活躍できるほどの腕前がある。その腕をなかなか披露することができなかったが、最近素晴らしい素材を手に入れたらしく、あまり素材探しに出歩かなくなったらしい。

調理担当
 小柄ですばしっこく、この騎士団の中ではもっとも若い。
 巧みな造形でパンやウィンナー、にんじんや大根などの細工物を得意としていて最近ますますその腕に磨きがかかっている。また、その造形力を生かした彫刻に最近凝り出したとの情報がある。

医療担当
 特に薬の知識に長けていて、怪我や発熱など症状に会わせて絶妙に効く薬を作る腕を持っている。媚薬のたぐいのようなものにも知識があるらしく、密かに求めてくる賓客も多い。
 後方任務に就くことが多いが、頭の回転が速く、勘も良いため、諜報担当と一緒に行動することが多い。一見優男にみえ女子供の受けは良いが、鬼畜なサドやろうだというのは、同僚の弁。

諜報担当
 口八丁・手八丁で巧みにその場を支配し、味方の良いように持っていく優れた策士家である。詐欺師の才があると言ったのは副隊長。基本的に、実際の任務より先に動いて情報を得たり、秘かに策をしかけたりする。
 隊長の願望、副隊長のストレスを何とかしたいと常々口にしていた。
 先日の辺境の作戦の際には、10日以上も先に動いて、かなりの画策をしていたらしい。

当主
 若くして当主の座に着いたが、おとなしい性格で生真面目。習い事として剣の技は得ているが、しょせんは実践向きではない。もめ事を嫌うので、言い含められて流されやすいところがあり。
 リィンが中央に出た後は、執事を補佐に付けて公私ともに頼りにしている。


 おとなしく控えめ。適齢期だが、田舎故に相手が見つかっていない。積極的に中央の社交界に出て行く気概はなく、田舎で静かに暮らしたいと思っている。

執事
 当主の代替わりと共に、老齢だった前執事の後を継いだ。当主より若干年上で、何事にも積極的。当主に覇気が足りないと常々思っているが、彼が気に入っている。
 本人曰く、当主が結婚するまではと見合いを断り続けている。ただ最近、中央と頻繁に手紙のやり取りをしていたが、あれは恋文で無いかと配達人が噂していた。
 また、時折誰かの姿をじっと見つめている……と召使いが呟いていたという話もあり。

召使い
 ずいぶん前から一人で館のたいていのことはこなせる働き者の万能召使い。五人の中で一番の年上で、妹も慕っている。
 男やもめで時折娼館に行っているが、お気に入りは大人しい若い娘とのこと。どうやら思い人がいるらしいが、かたくなに話そうとはしない。執事と仲がよく、よく相談事をしている模様。

リィン
 真面目な文官で筋力は今ひとつの青年。家族思いだが、兄と比べても華奢で精神も若干ひ弱。女性には気後れしがちで、この年になっても不慣れで浮いた噂がない。
 実はやや乙女思考的なところがあるという報告をした者がいたらしい。
 中央に来たとき旅慣れぬ身体故か心神喪失で担ぎ込まれたが、全員の献身的介護で回復。
 隊舎では事務・雑務処理担当。
 個室を与えられているが、不在がち。
 時折、昼日中に物置や厩舎などでさぼっているのが見つかり、隊長にお仕置きをされることも多々あり。