良い子-3

良い子-3

 ココは良い子で、男はたいそう気にいっていた。
 男は自宅にいる時だけで無く、組織のビルに仕事に行くときでもココを伴い、食事すら取る時間が無いほどに忙しく接することができない時でも、電話やメールでココを構うのは忘れなかった。
 ココは衣服などない方がいちばん美しいと男は思っているから、美しい身体を飾るのは選りすぐりのアクセサリーばかり。
 派手さはないが、その分ココの高貴さを際立たせるつくりで、男も一番のお気に入りだ。
 小さな粒だった乳首は、毎日徹底的にかわいがって熟させた後に細い三日月を思わせる軸で貫き、いくつものダイヤを飾った銀細工の花びらを幾重にも飾らせた。
 首には髪と同じ色の金細工で装飾された柔らかな首輪を嵌めて、手首と足首もおそろいの細工のアンクレットとブレスレット。
 すらりとした陰茎にもお揃いの輪が嵌まり、反り返った鬼頭を貫くバーベルまで鎖で繋がっている。
 これは、いくら罰を与えても我慢できずにすぐ射精してしまうほどに淫乱なココのための射精抑制ベルトだ。勝手に外せないようにしっかりとした鍵付きであるのは当然のことで。
 陰嚢まで固定するそれは、射精時の動きを妨げ、狭めた射精管が流れをせき止める。
 最近はドライで絶頂を迎えることが多いが、射精することも好きなココに我慢を覚えさせるのにも必須のものとなっていた。
 加えて、最近では尿道拡張用のプジーが常時はめられている。
 さらに尻タブに隠れるように目立たぬアナルプラグは、どちらかというと自慰防止のためのものが付けられていた。
 こちらは陰茎の輪に固定された丈夫な金属の薄い板が会陰を通ってプラグまで伸びて押さえつけていて、ベルトを止める同じ鍵が無いとその板は外れないようになっている。
 男がいるときは外されているが、そうで無いときは必ずされているそれの鍵を持つのは、男と側近のベイルーフ、そして、自宅の執事の三人だけ。ベイルーフと執事は、洗浄の時間や排泄が必要なとき、そして主人の命の時だけ外してくれるだけで、それ以外では決して鍵を出しやしない。
 今や、アナルへの刺激無くしては射精できないほどに調教されたココにとって、それは念入りに射精を封じられたのと同等だった。
 だが、それを諾として受け入れているのは、勝手に射精して男の不興を買う恐れを避けるためだった。
 そんなことになれば、自分の未来はもとより、弟の未来すら奪われてしまう。そんな夢のような未来に縋ることはかすかな希望でしか無かったけれど、それでも名すら奪われたココにとっての唯一の拠り所であった。
 そんな絶望に彩られたココは、男の嗜虐性をたいそう満足させた。
 仕事のある日でも、ボス専用の部屋の隣室に入れるとすぐに衣服は剥ぎ取り、嬉々としてオモチャを与え、それで遊ばせた。
 従順なココは、言われるがままに自分を苛むだけのオモチャで遊ぶ。
 百戦錬磨の男の手によりすっかり淫乱になりはてた身体にとって、今や腕並みに太いオモチャでも快感しか感じない。
「あん、んんっ、許して……もう……達きた……ああっ」
 隣室を隔てるドアから漏れ聞こえる喘ぎ声は止まることは無く、特に男とベイルーフしかいない時などは完全に開放されているからまる聞こえだ。
 ココが悶える姿は、執務室の男が座る椅子からだけは見えるようになっていて、疲れた頭を癒やしてくれるようになっていた。
 世知辛い仕事を相手にしているときは、この後ココをどう可愛がるかを考えることが、良い気分転換になり、仕事にも張りが出る。
 もっともそれは、ココの身体が与えたオモチャに慣れてしまっているときとか、どうしようも無いときだけで。
 快感をため込んだココがやっと許された射精で絶頂を味わう時の締め付けは素晴らしいものだと男が言うから、その快感を与えてくれているだけなのだ。
 けれど、仕事が忙しい時には下手をするとそのままココだけは自宅に帰し、男は何日も帰れないことがある。
 ココはもちろんのこと、それはそれで男自身も欲求不満が溜まってしまう。
 だからこそ、数ヶ月に一度くらいは一番ゆっくり遊べるこの別荘に行くことにしていた。
 そこは、ココのために建てた山間のログハウスで、ココが何をしても遊べるようにいろいろな設備が整っていて、男はその時ばかりは仕事のことなど考えずに、ゆっくりとココの身体を思うがままに弄ぶことができたのだった。



 ココを手に入れたから実に5年の月日が経っていたのだと、久しぶりに確認して驚いた。
「ひっ、うっ、くっ……っ」
 別荘に連れてきて、イヌのようにウッドデッキの柵に繋いでアナルに尻尾付のバイブを埋め込んで遊ばせていたときのことだ。
 くんくんと鼻を鳴らして尻尾を振る姿が可愛らしく、さっきから何度も強度を変化させて悶える姿を愉しんでいたのだけれど。
「ベイルーフ、今日で5年なのだな、この子を手に入れてから」
「さようでございます」
 別荘といえど、組織のボスともなるとなかなか一人きりでは出かけられない。
 どこへにも付いてくる側近のベイルーフに護衛の部下達がそこかしこに存在する中で、男は悠然とデッキチェアに座り、かしこまって応えてきたベイルーフを見上げた。
「私にしては、長く飼っていると思うが、どうだ?」
「そうですね、確かに5年というのは長うございます。先だっての奴隷は、たしか一年も保ちませんでした」
 同じように淡い髪色の、まだ青年と言うには華奢な体つきの者で。
「ああ、あれは、あっというまに淫乱の男狂いになったので、確かどっかに売り飛ばしたような」
 すでに過去の者が記憶の片隅に残っていた方が珍しく、苦笑交じりに呟いた。
「はい、リイドの店でマゾ奴隷役として一番人気を誇っているそうでございますよ。稼ぎ頭ということで、リイドから良い調教をしてくれたボスにお礼の品が届いていたではありませんか」
「あ、ああ、あれか。だから覚えていたのか」
 新しい奴隷に、と、送られた品は前立腺と乳首とペニスの同時責めができるバイブセットで。
 勝手に射精したり、自慰をするなどをしたココへの罰として、それを付けて一晩放置するとたいそう効くので今でも重宝している品だ。
「これは、あれとは違って狂わぬな」
 毎日のように快楽漬けにしていても、その目には必ず理性が宿っている。
 快楽が欲しいから従うのでは無く、約束を守って貰うために従っているのだ。
「面白い子だ。こんな面白く、私を愉しませてくれる良い子は今までいなかったな」
 ぽつりと呟いた男は、顎に手をやり考え込む振りをして。
 黙って続きを待つベイルーフを、ふっと見上げた。
「この子にプレゼントをやりたいと思うが、何が良いかな?」
 愛人ですら贈り物をしない男にしては珍しい言葉に、ベイルーフが虚を突かれたように一瞬呆けた。
「贈り物……ですか……」
 それでも、すぐに理性を取り戻し、男の望む答えを導き出す。
「ココにとって、もっとも喜ぶものというのであれば……弟の盤石たる将来でしょうか」
 ベイルーフが返したのは、物では無く。
 だが、その意図を読んだ応えは男の意に沿った物で、満足げな頷きで返された。
「なるほど……そう来たか」
 ベイルーフならば当然導き出せるだろう。
 そのために、ココはボスに従っており、その存在をなくせば、ココはココでなくなるのは明白だ。
 ならば、ココがもっとも喜ぶ贈り物は、不安でしか無い弟の将来。
「だが、弟の将来を確約すれば、ココがここにいる理由はなくなる」
 まだ飽きなど来ない。
 まだ、飽きるほどに遊んでいない。
 こういう奴隷は、もっといろんな遊びをしてみたいのだから。
「ココ、おいで」
 ヒイヒイとマックスになったバイブで悶えるココを呼べば、腰が立たなくなったのか、這いずるように近づいてきた。
「舐めなさい」
 何を、と言わなくても良い。
 ココが舐めるべきものは、目の前にあった。
 白い前歯が覗きファスナーを下ろし、鼻先で引きずり出した陰茎がその可憐な口の中に消えていく。
 ムグムグと頬張り、育て、巨大なそれを味わう仕草はたいそう慣れていて、もう躊躇うことなどしない。
 絶望は隠しきれないけれど。
 嘆いても仕方がないことだと、ココは5年の間に学んでいた。
「おまえは良い子だ」
 いったん弱めていた強度をまた強め、その瞬間止まりかけた口技を、頬を叩いて再開させて。
「ベイルーフ、良い物を用意してくれ」
「かしこまりました、ボス」
 男が自ら名前を付けたお気に入りの側近は、自信に満ちた返答を一礼とともに返した。


「ちん、チンポぉぉ、ああ、もっとぉぉぉっ」
 開放された窓から、心地よい夜風が舞い込んでいた。
 そんな中、ココは熱を孕み汗ばんだ身体を激しく揺らし、尻を叩く音に狂ったように嬌声を上げている。
 静かな山間の山々に木霊するほどに大きな声を上げるココの、その背後を陣取るのは、男の立派な体格だ。
 5年が経ち壮年も後期に入ってはいるけれど、その性欲は尽きることなく変わらずココを責め立てる。
 あの日、あの夜と同じように、夜更けから明け方にかけて休む間もなく責め続ける体力も変わりない。否——あの頃よりますます精力的になったと評判にすらなっているのだ。
「も、ゆる……っ、てっ、あひっ、ザーメン、じるう……出ますぅぅっ」
 ただあの時とは違うのは、最初っから感じまくっているココにとり、その長時間にいたる性交は地獄のような苦しみすら味わう代物になっていることだった。
 何せ、今日は一度も解放を許されいない。
 戒めとなっているペニスバンドはもちろんのこと、一年ほど前から施されている尿道拡張用のブジーも刺さったままで固定されている。これは、亀頭を横に貫くリングで固定されていて、排尿もできる穴付の優れものなのだが、射精するにはその穴は細すぎるのだ。実際排尿も、ひどく時間をかけてちろちろとしか出すことはできない。
 けれど、ドライでの絶頂だけでは、どこか物足りなさをココは覚えていた。それは、男が施した調教の賜だろう。
 滅多に与えられぬ、限界まで快感を溜め込んでの射精からくる快感ばかりを与えられた結果、ココの身体は前立腺だけのドライな絶頂では満足できない身体になっているのだ。
 だが、その快感に慣れてくると、今度はもっと激しい快感が欲しくなる。
 人の身体は同じ刺激を繰り返していると慣れてしまうので、もっと激しい刺激が欲しくなる。
 その結果、最近ではアナルを激しく穿たれながら、段付ブジーを勢いよく引き抜かれながらの射精しなければ満足できなくなっているのだ。
 その身体は、見る者がいれば、なんと淫らな身体だと蔑むだろう。
 アナルは男の太い腕によるフィストを受け入れて、拳で抽挿されて感じまくる。
 もう長い間まともな排便はしておらず、浣腸でしか出すことはできず、そんなときにでも勃起して、戒めていなければ射精してしまう始末だ。
 広がった尿道は、10mmの歪なブジーを受け入れる。その穴は、排尿にすら感じてしまうほどにバイブで躾けられていた。
 時折与えられた違法な特製ホルモン剤は睾丸に効き、多量の精液を生産し、射精での快感をさらに高めている。
 乳首は女のように膨れ上がり、貫かれたピアスは一つの乳首に4本。周囲に広がる太いサーキュラー(扇)型のリングは乳首を歪に歪め、花心のように見せていた。
 それでも、その身体は男を愉しませる。
 熱くぬかるむ肉壷は、決して緩んではいなし、人前に出した時は羞恥に頬を染める純情さも変わらない。
 言葉でなじれば辛そうに顔を歪め、昼間のようにイヌのように扱えば、一筋の涙すら流す。
 身体は慣れても。
 従うために精神をねじ伏せることに慣れても。
 その本質は未だに変わらない。
「言っている、だろう? 願いは明確に、はっきりとっ」
 ぺしぺしとその弾力のある尻タブを叩き、足りない言葉を促してやれば、ココは解放されたかのように嬌声を上げる。
「ああ、淫乱ココのっ、イヤらしい穴に、マンコにぶっといの、ぶっといチンポ、くださ——っ、ひぁぁっ、ザーメン、噴き上げたいのぉっ、もっとお、突いてっ、出させてっ、これ、外してぇぇ」
 許してやれば、卑猥な言葉を繰り返す。
 涙をポロポロ流しながら、縋り、ねだることを繰り返す。
 その愛らしさに、男はいつもやられてしまう。
「良い子だ、ココ」
 とたんに、ココがへらっと笑った。
 それはココですら覚えていない、まったくの無意識の笑みだったが、それが出るようになったのは、いつからか男は覚えていない。
 その言葉を言われると、ココが嬉しそうに笑う。
 それを見たいと思うようになったのはいつからだったか。
 その笑みを見せた直後に、射精をさせると、これがまた信じられないほどに気持ちよいと気づいてから、男は必ずその言葉を解放させる前に言うようになった。
 信じられないほどに淫乱な身体と純情で従順な淫らな、都合のよい奴隷。
「ひぃぃっ! 出るぅぅっ、チンポ汁ぅぅぅっ、ああぁぁっ!!」
「うぅっ」
 射精の瞬間の締め付けに持っていかれる。
 絞り出すような動きに、溜まりにたまった精液が、引きずり出される。
 小さくうなり、押しつけた腰をぎゅっと掴む。
 堪らず固く目を瞑り、射精を伴う激しい快感の余韻に浸って。
 それでも止まらない中の動きに、またムクムクと勃起に血が集まっていく。
 なんて、止められない身体だ。
 これこそ、男に犯されるための身体。
 それは、どんなヤクよりも強い常習性を持って男を捕らえる。
「良い子だ、ココ」
 無意識のうちに呟いたとたんに、またきゅっと包んだ肉が引き絞られた。


続く