【檻の家 -奴隷宣言】(3)

【檻の家 -奴隷宣言】(3)

 一つ、また一つとアナルの壁を押し広げ押し込められた球体の数はもう判らない。
 しかもそれだけではなくて、鈴木が奥の奥まで押し込むように己のペニスでアナルを押し開いた。
 熱いそれは、敬一の熱を上げながら、粘液を滲ませる肉筒に深く埋まっていく。しかも、いつもより深い。
「あ、あうっ……ぐっ……」
 腹に詰め込まれたいくつもの体が、中から腸壁を膨らませた。
 豚は仔を産む。その肉の増やすために、仔を産む。だから、お前もたくさん仔を産みなさい。
 そう言われて、けれどそれは比喩だと思ったけれど。
「もっと奥まで、たっぷり種づけしてあげますからね」
 何個入っているか判らぬ玉を、鈴木のペニスがさらに押し込んでいく。
「ひ、ぶっ、うっ──ひぁぁっ」
 封じられた言葉を使うこともできないままに、苦しさに喘ぎ、弾ける快感に身悶える。
 異物の入った肉筒の中で、空の時でも十分に満たすほどの鈴木のペニスが内壁をごりごりと擦り上げた。緩い抽挿の度にごろごろと中で玉が転がって、前立腺を圧迫する。その度に弾ける快感は異物の苦しさを凌駕して、堪えきれない衝動のままに無様に芝を掻きむしりながら這い蹲った。
 朦朧とした視界の中に自分が映る窓が見える。明るい中庭と違って部屋の照明は落とされていて、そのせいで大きなガラス窓が鏡となって敬一の姿を映していた。
「ブヒブヒ、もっと鳴きなさい。嬉しいんでしょう? だったら尻を振って」
 ペチンと軽く叩かれた尻を、言われるがままにゆらゆらと振る。そのせいで、ペニスが肉壁に押しつけられ、ぐいぐいとアナルを押し開かれて、ひいひいと喘いで鳴き喚いた。
「ぶひぃ、ぶひぃ……ひぃぃ──ぃぃ、あぅっ……ぶひ、ぃぃ、ひぃぃ」
 糸を引いた涎も、突っ伏した時に地面についた頬には芝の欠けらまで見えてしまう。
 裸の背中が汗ばみ紅潮して、薄桃色の豚のような色が鮮やかに映る。尻だけを高く掲げて這い蹲って、尻を犯されながら快感に咽び泣く姿は、ほんとうに豚のようだと思ってしまう。
 柔らかな芝生に幾筋もひっかき傷をつくり、ぐいぐいと押される度に頬や額を地面に擦りつけて、腕も足も淫液でぬかるんだ土にまみれながら、犯されている豚。
「ぶ……ひぃ……あうっ……ひあぁ──……あひっ、ぶひっ……ぎひ」
 押されて奥に押し込まれた玉が、亀頭を追うように追っかけて出てこようとする。ごろごろと転がる腹の異物も、今はもう快感の元でしかなかった。
「ふふ、そんなに締め付けて。欲しくて堪らないって感じですねえ。、あいかわらず貪欲なことだ」
 出ていきそうになるペニスを逃したくないとばかりに身体に力が入ったのを揶揄される。
 けれど、確かにその通りなのだ。
 淫らな身体は、高められた熱を解放したくて堪らない。けれど、そのためには、鈴木をまず満足させなければならなかった。
 なのに、今日の鈴木はたいそうゆっくりとした抽挿ばかりで、徹底的に前立腺を嬲るくせに、なかなか最初の射精を向かえない。一度では満足しないのに、これでは一体いつになるのか……。
「ひっ……おっ……ね……っ、ぶひっ……」
 強請りかけて、言葉を紡ごうとしたことに気が付いた。慌ててブヒブヒと鳴いて誤魔化して。
 封じられた言葉に唇を噛み締めて、鏡に映る鈴木を恨めしげに見やった。そんな敬一と鏡に映った鈴木の視線が交錯する。
「可愛いですよ、なんて可愛いメス豚のことか」
 笑っていた。
 口角を上げて、満足げに笑っている鈴木の手が、敬一の背に伸びる。
「この背中のこの色がね、とても似ていると思っていたけれど。……やっぱり敬一くんは良い奴隷ですね。何をさせても、素晴らしい」
 うっとりと指先で背筋をなぞる。
「ひっ、あうっ」
 性感帯でもある腰の窪みに、肩胛骨の背骨寄り。暴れ、よりいっそう敏感に調教された身体をよく知る鈴木の指先が、いたずらに敬一を苦しめる。
「いやぁぁ……ぁっ、はううっ」
 顔に泥が付く。剥がれた芝生の下の土は敬一の零した体液でしっとりと湿り、泥となっていく。それが身体を汚す。
 口の中にも少し入ったのか、じゃりっとした舌触りがした。
「あうっ……ぅぅっ! びぁ!」
 ここの天井は吹き抜けで、声が漏れるのを完全には防がない。
 けれど、淫らな声が止められない。
「ああ、うるさいと近所迷惑かも……。それにまだ公園にも人がいますし」
「えっ……うっ……ごめっ、ふ……ぶっ」
 髪を掴まれ顔を上げさせられ、指さされて部屋のガラスに映った自分を見せられる。
 否──敬一の姿ではなく、鈴木が指し示したのは、さらにその向こう。
「あ……」
 中庭と外庭に面した部屋。
 中庭の照明で、中庭側は鏡状態だけど。
「ああ、夜のジョギングでもしているのでしょうかねぇ」
 背後から揺すられ、ぶれる視界にも、外庭の向こうが自分の姿と重なって見えた。
 塀の上に、確かに見える数人の黒い人影が。
 暗い部屋は、遮る役目を持っていない。
「い、嫌っ!!」
 グチャグチャと抜き刺される淫猥な音をかき消す悲鳴は、鈴木には聞こえているはずなのに。
 一定のリズムで動き続けながら、クツクツと嗤う。
「ああ、別にこっちを見ている訳ではないと思いますよ。塀は高いし、植木もあるし」
 それでも、背の高い人ならば、覗き込むことはできるだろう。植木だって、まばらにしか植えられていないから、隙間はたくさんあって。
 硬直して嫌々と首を振る敬一の顔を上げさせたまま、鈴木がずんっと深くペニスを沈み込ませる。
「あぎっ!!」
「でも、敬一くんがあまり声を上げたら聞こえてこっちを覗くかも知れませんねえ。まあ見られても可愛いメス豚が中庭で飼われているんだろうなあって思うくらいでしょうけど」
 そんな筈などなかった。
 涙で歪む視界の中で、黒い影がこっちを向いたような気がした。
 淫らな身体を──男に犯されて悦ぶ身体を、見られているような……。
「い、やっ……許して、許してくださっ……電気を、電気を消して! お願いっ、お願いっしますっ」
 無理に顔を向ければ、掴まれた髪に頭皮が傷んだ。けれど、見られるかも知れない恐怖に、背後の鈴木に縋り付く。ちゅぽっと間抜けな音を立ててペニスが抜けて、たらりと泡立った粘液が大腿を流れ落ちた。ずるりと膝が滑るのを踏ん張って膝立ちになり、鈴木の服に手をかける。
「い、イヤだっ、見られるのはっ、嫌っ」
 激しい羞恥に脳が沸騰しそうだ。何も考えられなくて、ただ、鈴木に縋る。
 人の視線が痛い。まとわりつくそれに、狂いそうになる。
 全裸の敬一に対して、鈴木は股間を緩めた以外はしっかりと服を着込んでいて、その白いシャツに手の平の土汚れが移った。
 それを見る鈴木の瞳が冷たくなるのも気付かない。
「見られていませんよ」
 鈴木の言葉が信じられなくて、今、この瞬間にも裸体を見られているような気がして、敬一は自らの身体を隠すように鈴木に縋り付いて、必死に懇願を繰り返した。
 見られたくない。
 ただ、それだけだった。


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