蟻地獄の甘い餌3

蟻地獄の甘い餌3

 いつもなら、これでもしばらく遊ぶのだけど、何しろやることはたっぷりある。
 本格的に遊ぶのはまた今度ということで、5分も経ったら排泄を促してやったのだけど。
「どうした、出ねえのか」
 突き出した尻の先に容器を置いてやっているというのに、いっかなひり出そうとしない。
 顔を覗き込めば真っ赤になっているし、さっきから腹はグルグルと鳴っているというのにだ。
 まあ、必死に堪えている姿もけっこう可愛く、おもしろく、どうせそのうち出さざるを得ないのだと、真っ赤なお尻を撫でてやっていたら、びくびくと震えたとたんに、ぷちゅっと滴が飛び出した。
 けれど、それが続かない。
「おい、出したいなら、さっさと出せや」
 軽く尻をはたいてやれば、また、ぷちゅり。同時に、苦しげに呻く声が漏れて、「止めてくれ」と初めて懇願するような言葉が聞こえてきた。
 その声に振り返れば、真っ赤な顔で涙目になったリアンが震える唇を動かしていて。
「と、トイレ……トイレに……」
 耳を寄せて聞いてやれば、そんなことをほざいていた。
「あー、無理だ」
「そ、そんなぁ……」
 情けない悲鳴が、グルグルという音に被さった。
「なんせ、この部屋には見たとおり、トイレがない」
 排泄処理はあんまり好きじゃないから叶えてやっても良いのだが、物理的に無理なのだと教えてやる。
「トイレは部屋の外にあって、てめぇを外に出すことはできない、というわけだ」
 その時のリアンの絶望に満ちた顔。
 堪らずにごくりと音を立てて息を飲んだその瞬間。
「ん、ああぁぁぁぁっ」
 ぶっぶっ、ぶちゅぅぅぅっ。
 堰を切ったように吹き出した汚物混じりの薬液が、激しく容器の底を叩き出したのだ。
「いや、あぁ、あ、あっ……」
 ぼろぼろと涙を流す男など、今まで可愛いなどとついぞ思ったことはなかったが、リアンのそれはひどく堪らなく、要は好みだったのだ。
 嗚咽を零し、腹痛に堪えて眉間を寄せて、羞恥に真っ赤に染まった顔なんて、もっともっと見ていたいと渇望ばかりが押し寄せる。
 いやいや、これはどうして、また後でしたい。
 と浮かんだ願望に、俺のやる気が俄然湧いてきた。
 何としてでもこいつを自分のものに。本部なんかに渡してなるものか、という思いが強くなり、未だ汚物をひり出すリアンを見下ろす視線が強くなる。
 俺がそんな固い決意に捕らわれているとも知らぬリアンが、ようやく最後に息んで、残渣をひり出す。
 そのまま肩で大きく息をしながら突っ伏しかけた背を叩き。
「OK、じゃ、もう1回」
 さすがにこれだけではきれいにならないと、新たなシリンジを持ち上げたとたん、ひいいっと悲鳴が迸る。
「い、いやっ。やめてっ、やめてくださ、いっ」
 涙目で身を捩り、逃れようとするけれど、聞いてやる道理はない。
 汚物の臭いが充満した部屋で、先より緩んだ尻穴にしっかりとシリンジの先を差し込んで。
 冷たい液を一気に押し込んでやれば、今度の決壊は、早かった。
 
 
 
 部屋の中から異臭が消えて一息吐いて、息も絶え絶えになって横たわっているリアンに近づけば、その動きを捕らえてぴくりと震えた身体は、全身冷や汗でびっしょりと濡れていた。
 低い温度の空気に冷やされて、少し鳥肌気味なのが見て取れたけれど、これから先の行為を思えば、このぐらいの室温がちょうど良い。
「さてと、次だ」
 声をかければ、小さく動いて、イヤだとばかりに首を振る。
 存外に浣腸に精神的ダメージを食らった今ならば、問いかければボロボロと喋るかもしれないけれど。
 どうせ吐いてもたいした内容でないと判っているから、先へと進むしかない。
 台車の引出を開けて、チューブがつながったそれを取り出して。
 一見ゴム製の空気注入ポンプのようなそんな形のそれは、けれど先端の太いゴムの塊は歪な凸凹があって、握った手から覗いた部分を視界に入れたリアンもその用途は思いつかないように、いぶかしげに眉根を寄せている。
 だが、それを持って近づけば、ずるずると不器用ながらもずり下がり、距離を置こうとしていた。
 もっとも、首の枷に付いた鎖は短く、逃げられるものではない。
「これが何か判るか?」
 手を広げて、直径が2センチばかりの棒状の塊を見せてやっても、すぐには思いつかないようだ。
「まあ、てめぇの貧相なチンポよりも小せぇからなあ」
 用途が判らねば怯えることもなく、ならば教えてやろうと崩れ落ちた尻の横に陣取って、潤滑剤を垂らした指で尻穴周辺をまさぐった。
「ひぃっ」
 とたんに跳ね起きかけた身体が、ガシャンと音を立てて突っ張った鎖に引っ張られ、その拍子に顔から床へと激突する。
「う、くう……」
「おいおい、自分で傷を増やしてどうするよ」
 幸いに自身の手の甲が間にあったようで、それほどひどい音はしなかったけれど、無様な姿に失笑が漏れる。
 ちょうどそのまま蹲ってしまったので、これ幸いに俺はさっさとさっきの浣腸で綻んだ穴に指を差し入れた。
「うっ」
 熱く、きつい締め付けを指に感じる。
 ガクガクと怯えたように震える腰を動かぬように押さえつけ、潤滑剤の助けを借りてずるりと根元まで差し入れた。拳の山が尻タブに触れると、逃げようとする動きが強くなる。
「止めろっ、うっ、くっ」
 絶え入るようなうめき声と、荒い吐息。先よりきつくなった締め付けを指に感じながら、数度抜き差しを繰り返し、次の指を沿わせて押し込んでいく。
 さすがに少しきつさが増して、けれど、難なく受け入れていく穴は、なかなか素性が良さそうだ。
 それに、この感じだと確かに処女だと、担当官の見立てが間違いなかったことに安堵した。
 こいつの処女は俺のモンで、と思うのは、男であれば当然の願望だし。
「い、イヤだ、それはっ、くそっ」
 呻きながらも悪態を付くリアンは、額を床に擦りつけるようにして、顔を隠している。けれどその垣間見える横顔から、必死に歯を食いしばっているのが判った。
 尻が、逃れようと蠢いて、けれど背後で抱えてる俺にしてみれば、淫らに誘われているようにしか見えない。
 真っ赤に腫れた尻タブが目の前にあって、なんだか美味そうだとついぺろりと舐めれば、ひいいいっと掠れた悲鳴が聞こえた。
 息んで指を吐き出そうとでもしているのか、呼吸しているように尻穴が蠢いていた。内部の肉も絡み付いていて、その感触に口内に唾液が溢れた。男の中の気持ちよさを知っている息子が、出番を寄越せと怒鳴っているのを我慢させて。
 初めてならば、受け入れがたいのは判ってはいるが、だからこそ煽られてしまう。まあだいたい、嫌なことをやらなければ拷問にはならなくて、何よりこれは男にとって屈辱の一言で。だからこそメニューから外せない。
「別に俺としては、解さずに犯してやってもいいんだが?」
 この前、それをやったらその日のうちに壊れてしまった奴がいたっけ。
 そんなことを嘯いてやれば、腰の動きがぴたりと止まって、見えなかった瞳が恐怖を湛えて、こちらに向いてきた。
「ま、まさか……、俺を?」
 視線が俺の顔と自分の尻と、そして、これみよがしに背中に乗せていたゴムの塊に向けられて。
 その形にようやく気が付いたのか、大きく瞠られた瞳にはっきりとした恐怖が浮かんだところで、俺はそのゴムの塊を取り上げた。その動きを、強張った表情のままに視線が追いかけてくる。
 棒状の、けれど三角形っぽい先端から四分の一ほど中側で、大きくなってエラを作り、いったん細くなった棒。俺はそのゴムの三角の、たとえるなら毒蛇の頭のような形状のそれを、すでに十分滑った場所に触れさせた。
 びくんっと大きく揺れた身体が、前へと逃げようとする。
 抱えている腰が暴れる。
 そんな必死の足掻きは、俺にとってはなんてこと無いもので、先ほどの余韻でぱくついている穴を狙うことなど簡単だ。
「まあ、こんなもん、クソより細いしぃ」
 何かを叫ぼうとするようにリアンが大きく口を開く。けれどそれより先に、ゴムを一気に押し込んだ。
「ひぃ──っ」
 空気が抜けるような悲鳴だった。
 こんなもん、たいした容量でもないけれど、外から押し入ったその分以上に空気を吐き出している。
 親父の良いなりの坊やが目指したところはこういうことだって言うのに、知識も経験もなく飛び込んで、よくもまあ今まで無事だったと呆れ果ててしまうけれど。
 こればっかりは役得だと、ちらりとビデオカメラがある辺りを窺いながら、チューブが尻から出てきている姿が入るようにその腰を抱え込んで固定した。
 そのチューブの先には小さなゴム球がついていて、それをゆっくりと押しつぶすとゴムの中に空気が送られていく仕組みになっている。
「……なっ、あっ、ふ、ふくらん……でるっ、いやっ、あ、駄目ぇっ」
 ゆっくりとゆっくりと、尻穴のしわが伸びていく様子を確認しながらゴム球を押せば、先ほど入れた塊が徐々に膨らんでいった。
 いわゆるバルーンと言われる膨張型の張り型は、てっとり早い拡張には欠かせない。
 さっきはすぐに判らなかった形も、今抜けば男のペニスの形だとはっきり判るだろう。ついでに言えば少々誇張気味で、最大サイズにすると、この拠点の誰の者よりもでかくてえらが張った巨根となるのだ。
「さ、あ、て……どこまで、膨らませようかなあっ」
 ついついリズムを付けて口にしてしまうのは、基本的にこの作業が大好きだから、に、他ならない。まして、相手はお気に入りのリアンとなると、演技とか役割とか、この後のこととか忘れてしまいそうなほどに楽しさばかりが先にくる。
 まだ三センチ弱、指三本にも満たない太さが馴染めば、すぐに四センチ弱。
「い、や……も、裂け、ぐ」
 さすがに初めてにはきついサイズだが。
「何言ってる、さすがその身体で男を誑し込もうってしただけあるぜぇ、うまそうに咥えてるじゃねぇか」
 それに通常の性行為よりは性急ではあったが、この状況の場合の俺的にはたいそうゆっくりと広げてやっているのだ。
 その上でもう少し。
 ついでにもっともっと膨張させ続けたらそのうち腕も入るようになるんだが……なんて、考えてしまったとたん、目の前が一瞬白く眩んだ。
 堪らず腰が砕けそうになるのを、かろうじて堪え、浮かんだ、あまりにもリアルだった妄想を隅に追いやった。
 ああいつかは、いつかはそんなこともしてやりたい。
 どうしようもない俺の趣味を、たっぷりとこれの身に味あわせたい。
 それでもどうしようもなく浮かんでくる欲望に、危うく口の端から涎が零れそうになり、ジュルリと啜る。
「ああ、もうっ」
 我慢を強いられる苛立ちと、そんな己への呆れと、吐いてしまった悪態に、唸っていたリアンが一瞬息を止め、窺うようにこちらを見つめてくる。
 そのどこか縋るような視線にすら誘われる。
 おかげさまで、スラックスの下で俺の息子ははちきれんかったばかりになっていた。
 
 
 
 欲への衝動は激しくて、かあっと身体が熱くなる。知らず手が股間へと向かい、ベルトのバックルを掴み。
 これの尻穴に俺のいきり立ったチンポを突っ込みてぇっ!!
 と思ったその瞬間。
『さっさと吊して、可愛い顔とチンポが見れるようにしろよ、このバカ』
 見事なタイミングで入ってきたゴルドンのだみ声に、正気に戻った。というより、萎えた。
『とりあえず、吊せ。鏡に晒せ、いつものようにな』
 良くも悪くもツーカーの悪友の言葉に、返したい悪態をかろうじて飲み込んで。
 数度小さく呼吸を繰り返し、気分を落ち着かせて。堪らない衝動はなんとか抑え込んで、もう一度吐息を吐いた。
 幸いにしてリアンはそれどころではないようで、しっかりと目を瞑って、額を床に押しつけて堪えている。
 その間に、と、鎖に繋げていた手の鎖を引き上半身を引き上げ、両手首の鎖を絡ませて一本にした。
 ちらりと窺う視線には笑みだけを返し、そのまま首も含めて床から鎖を全て外した。
 手練れであれ警戒すべき状態だが、尻の張り型だけでヒイヒイ言ってるこれは、逃げようという動きすらなく、難なく手首からの鎖を肩甲骨の下辺りで一つに束ね、それを腰に引っかけていたフックに付け替える。腰を外してしまえば、尻がぺたりと床に落ちたが、今度は上半身がゆらゆらと吊られている状態だ。
 ついでに首の鎖も長さを調節して、外れないようにとしっかりと結わえ付ければ完成だ。
 「なぜ?」と問いかけるような視線は無視し、離れて作動させたのは天井の滑車だ。ガラガラと低い音を立てて上がっていく鎖に、細身の身体が引きずり上げられていく。
「う、あ……」
 揺れながら、手首と首に掛かる自重に戸惑い、慌てて足を引き起こし立ち上がった。背中で吊されているから、どうしても腰を突き出すようになり、斜めに伸びた首への鎖がピンと張る。
 少し青ざめているのは、首が絞まる感覚のせいだ。もっとも、余裕があるからいくら上昇しても呼吸や血流を遮るものではない。
 それよりも吊る高さが問題で、ある程度上がったら微調整して、リアンが背を反らして直立したときに膝がやや曲がる程度の高さにした。
 もう少し高めたいが、吊るという行為は時間の加減が難しい。
「どうだ、また吊られた気分は?」
「くっ、最悪」
「そうか、結構似合ってるぜ」
 一歩下がってその背後から観察すれば、突き出し気味の尻からチューブを垂らしている無様な格好に、クツクツと喉の奥から嗤いが込み上げる。
 俺の視線がどこに向かっているのが気付いたのか、かあっと身体までもが赤く染まる様子もじっくりと見て取って。
「美味そうだなあ。あのままあそこにいたら、これよりもっとうまいもん、たっぷりと喰らっていたんだろう? 惜しかったな」
 まあそんなことになっていたら、本部にいる捕虜全部、この俺さまがたっぷりと尋問してやるのに。
 などど不快な妄想に浸っていたら。
「はっ、あんたほどの変態ばっかいるわけないだろうがっ!!」
 吐き捨てるような言葉が、いきなり飛んできた。
 真っ赤な頬に、怒りに満ちた瞳、それはさっきまでヒイヒイ呻いていた奴とは思えないほどきつい視線で睨め付けてくる。
 ずっと何も喋らないとだんまりを決め込んでいたから、悲鳴か弱々しい静止ぐらいしか聞けていなかったのだけど、どうやら何かの一線を越えてしまったのか。
 まあ、それが、これの無駄に高いプライドのせいなのは明白だ。
「ほお、俺が変態? だったらてめぇは何なんだぁ? 人前でマッパになって、鞭叩かれてひいひい悦んで、クソひり出して、張り型で穴ぁ膨らまされながら腰振って……」
「だ、黙れっ、全部あんたが無理矢理やったんじゃないかっ!!」
 もう切れているのだろう、聞き分けのないガキのように反論する。確かにそれは正解だが、だからと言って、それがこの場で正しい事だとは限らない。
「ほお」
 リアンの言葉に目を眇めて、声音を低くする。
「だったら、これは何だ?」
 台車の上に置いておいた俺の鞭を、右手で掴んで突き出した。その先は、腰紐から伸びた紐で支えられていたリアンのペニスだ。
「てめぇのチンポ様は、むっちむちに膨らんでいるようだが?」
 柄の先の曲げた部分で持ち上げながら奥から先端へと擦り、最後にピンと跳ね上げたら、パシッと軽く腹を打って戻ってきて、また紐で支えられて、しばらく揺れる。
 ネット状に包まれたそれは、その細い紐がきつく食い込み、合間から肉が盛り上がっていた。血管の浮いたそのサイズは、最初の頃より大きいのは確かだ。
「な、なんでっ、嘘だっ、嘘だ嘘だ嘘だっ」
 指摘されるまで気がつかなかったのだろう、見下ろした己の異変に、リアンが茫然自失で「嘘だ」と繰り返す。
 だが、いくら本人が否定しようとも、現実は変わらない。
「もう1回言ってやるよ、てめぇは、マッパで鞭打たれて、浣腸されて、張り型で悦ぶ変態なんだよっ」
 実際は、張り型に設置してある凸凹が微妙に前立腺を刺激しているからなのだけど。
 異物の違和感に気を取られていて、己の性感帯を襲うそれに気が付いていないだけなのだ。
 これもまあ、これが男と遊んでいるような奴なら、すぐに気が付いただろうけれど、まあ何もしらない身体では気付きようもないだろう。
「なあ、俺が変態なら、おまえはど変態の淫乱野郎ってことだなあ」
「ち、違うっ」
 俯いて、見たくもないとばかりに目を瞑っていたけれど、その言葉に反応した。
 けれど、今にも泣きそうな顔をしているリアンの言葉は弱い。
「違わねえよ。だったら、自分で確かめな」
 マゾであろうとなかろうと、性感帯を刺激されれば勃起してしまう男の性なんてものは、こっちは十二分に研究し尽くしている。
 過去にそれを口にしたら、趣味と実益のためと、誰かがほざいた言葉がふっと脳裏に過ぎったが。
「てめぇが鞭で勃起する変態だってことをなっ」
 まとめて持っていた鞭を右手の上で軽く跳ねさせ、柄だけを握る。そのまま腕を振り上げて、肩から背中へと巻き込むように打った。
「っ、うあぁぁぁっ!」
 いきなりの鞭打ちに、リアンが喉を晒して悲鳴を上げる。
 絡みついた鞭は、軽く手首を返して戻し、今度は左から右へとなぎ払う。
「ひぃぃっ!!」
 痛みに身体を捻り、その拍子にぐるりと身体が回転する。先とは違い背中一点が吊しているから、回転しやすいのだ。
 それを狙った鞭打ちで、ちょうど尻がこちらに向いたのを狙って、痛みに息んだ拍子にわずかに張り型の尻が出てきたところに叩き付ける。
「ひぐっ!!」
 尻タブに遮られ、張り型への衝撃そのものは強くない。だが、この絶妙な力加減こそが必要なのだ。
 さらに同じ場所を狙って、もう一閃。
 左よりはるかにコントロールが利く右手は、わずかな狙いも外さない。
 出てきていた張り型が奥へと飲み込まれる。痛みにきゅうっと引き締まった尻タブに、その肉穴もまた引き絞られたはずで。
 だが、狙った効果は抜群で、リアンがあからさまに全身を上気させていく。
 何より、鏡には、全く萎えた様子も見せない勃起が写り込んでいるのだ。
「おいっ、鏡を見ろっ! てめぇの浅ましい勃起チンポを見ろっ」
 痛みよりも快感を自覚させるために、亀甲縛りの紐の位置も計算に入れて打ち続ける。
 パシッ、ピシッ。
 落ち着けば、最初よりよっぽど弱い音だと判るだろうけれど。
「んあぁ、あぁっ、いやっ、んくうっ」
 己の変化に戸惑い、受け入れられないリアンは気付かない。
 完勃ちとまではいかないが、それでも膨らみ、大きくなったリアンのペニスはたいそう苦しそうだ。
 まだ若々しい、姿形も良いリアンのそんな姿に、俺自身もせっかく抑えた欲情が込み上げて堪らない。
 じゅるっと何度涎を飲み込んだことか。
 さっきなど罵倒しようとして唾以上に零しかけて、言葉と共に飲み込むはめになってしまったほどだ。
 だがそれ以上に、イヤフォンの向こうから、野郎の荒い吐息が聞こえるのが邪魔でしようがない。と言ってもそれは悪い意味ではなく、皆に見させているという昂揚感は実のところ俺の淫欲をしっかりと後押ししているのも事実だ。
 やっかいな俺の性癖は、人に見られていると知るとやたらに盛り上がってしまうのだ。そのせいで、振られたこともあるが、最中はほんとうに最高で。
 ああ、駄目だ。
 我慢も限界があって、しかもそろそろ、その我慢をする正当な理由もなくなってきている。
 特にこうやって鞭を振るっていたら、さっきのように際限なくなってしまいそうで。
「そろそろ名前ぐらい言ったらどうだ?」
 タイミングを計るように、というよりむしろ理性をつなぎ止めるために、俺は鞭を振るう手を止めた。
 鞭の衝撃から逃げようとしたせいで、ゆらゆらと揺れているリアンはゼイゼイと呼吸も荒く、俺が何を言ったのか聞こえていないようだ。その身体には、新しくできた鮮やかな朱色の線が、すでに色が変わりかけた上に淫らな紋様を描いていた。
 あの真っ赤な尻も、少しどす黒くなってきている。
 その尻に手のひらを添えたとたん、びくんっとひどく大きく震えて、うつぶせていた顔が上がる。
「な、ま、え、言ってみろ」
 もうすでにバレていると判っているそれを促す。けれど、返ってきたのは唇を噛みしめた表情だけ。
 ほんとうに無駄な足掻きをして、俺の性欲を煽ってくれてどうしようって言うんだ。
 堪らずに肩越しに回した手でその顎を捕らえ、引き寄せる。
「ほら、言ってみろ。言えたら、少しは優しくしてやるぜ。初めてを頂くんだからなあ」
 その言葉の意味に、さすがに気が付いたのか目の前で大きくその目が見開かれた。
 その瞳に俺が多きく写っている満足感にほくそ笑み、掴んだままに親指で唇をなぞる。
 前歯が食い込み、色の変わった唇がたいそう美味そうに見えて、引き寄せ、逃げる身体を押さえつけ、喰らう。固く閉じられたそれは、もう何度か噛みしめていたのか傷ができていて、ほんのり血の味がした。その味に、ぞくりと下半身が疼き、ざわっと肌が総毛立つ。
「うっ、くっ……んっ」
 溢れる唾液が互いの顎を伝っていく。指に力を込めて顎骨を押さえつけ無理矢理に開かせて、引きこもる薄い肉を引きずり出そうと舌を入れ、探れば、奥の方で縮こまってるそれを見つけた時。
「くっ!!」
 唾液で滑った手が滑ったと感じたその瞬間、素早く舌を引っ込めたが、その先端に鋭い痛みが走った。
 口内にじわりと滲む血の味に、吐き出した唾は赤い。
 幸いに噛み切られるまではいかなかったが、それでも痛みからして結構深いだろう。
 その痛みに、何より血の味に、俺の奥底にある獣が顔を出してくる。
「おいおい、俺を怒らせようっていうのか?」
 顎に垂れた唾液を手の甲で拭い、振り払う。さすがに本心から睨み付けてはみたものの、リアンもそれ以上に強い眼差しで返してきた。
「お、おまえなんかにっ! おまえなんかにやられるぐらいだったら、あいつらにやられたほうがマシだっ、この裏切り者がっ!!」
 それは俺にとって、何よりの侮蔑の言葉だった。それこそ、ぐさりと胸に突き刺さるほどに。けれどそれは、俺を意気消沈させるものではなく、怒りを煽るものだった。
「はあ? あんな仲間を見捨てるようなろくでもない奴らに俺が負けるってぇっ!」
 何よりも、俺が厭うのは仲間を見捨てること。
 やむなく、でも何でもなくて、まだ手があるうちに見捨てることこそが、俺がもっとも忌み嫌う者だ。
 そんな輩より下だと言われて、どうして我慢などできようか。
「はっ、あんなゲス野郎どもが良いって言うのかよ、せっかくこの俺が優しくしてやろうかって言ってのによっ」
 怒りにまかせて後ろ手で台車の横腹を拳で殴る。
 激しい音を立てて、倒れたそれかの引出が開いて、中からいろいろな道具が飛び散り転がっていった。
 その中の一つが目に入って、拾い上げながらリアンに近づく。
「だったら、奴らに成り代わってやろうか。なって……あいつらがおまえに望んだであろうことを、ここで再現してやるよ」
 あんな胸くそ悪い奴らが頭の中で何を考えていたか。
 差し出された極上の獲物にどんなことをしようとしていたのか。
 今頭の中に過ぎったさまざまは、己基準の憶測に過ぎないと理解していても、絶対にそうだとしか思えない。
「う、うるさいっ、この、裏切り者、おまえなんか、おまえなんかにっ!! 優しいのも何もかも嘘だったくせにっ!」
 ぶるぶると首を横に振って、どんな言葉も耳にしないリアンが、何かを言っている。
 叫んではいるのだけど、とりとめもなく繰り返される言葉が、耳を素通りしていく。
「結局っ、結局──っ、ひぎぃぃっ!!」
 指で摘まんでいたクリップを、パチンと弾くように離してやれば、ガシャンと吊した鎖が激しい音を立てた。悲鳴は短く、代わりに涙が溢れ落ちクリップを濡らす。
「あいつらはな、こうやって乳首を大きく育てたかっただろうなあ」
 摘まんで、捻って、虐くり倒して。
「乳首を徹底的に調教したら、ここだけで達けるようになるんだぜ」
 小さな乳首にぶら下がる歯の付いたクリップは、拷問用のバネが強いやつだ。敏感な乳首だと相当な痛みをもたらすそれを指先でピンと弾いてやれば、痛みに声なき悲鳴が迸る。
「ついでにこうやって……」
 その根元に鎖付き分銅を一つ追加して、高い位置から離してやれば、もう声すら出さずに硬直していた。
「付けっぱなしにしていたら、ぶらぶら揺れて、放っといても刺激しまくってくれるのさ」
 赤く充血しだしたそこに、ふうっと強く息を吹きかけるだけで、ビクビクッと全身が痙攣する。もっともそれだけで揺れる分銅に、ますます身体は硬直して、一瞬でも動きたくないと思っているのはバレバレだ。
 けれど、自身が動かずにいようと思っても。
「ああいう奴らは悲鳴を聞くのが大好きなんだ。だからたいていの処女は、そのまんま突っ込まれるってわけで」
 背後に周り、抱きしめるようにクリップが付いた側の乳首の周りを揉んでやる。
「ひぎっ、いっ、うっ」
 そのたびに、涙が溢れ、食いしばった歯の隙間から息が零れていた。
 一点に集中する痛みは結構きつく、俺が背後でしていることにも気付かない。それを幸いに、チューブを手に絡めて、何度か引っ張ってみて。
 しっかりと膨らんだ張り型をしっかりと咥えた肛門は、そろそろ馴染んできているのだろう。最初の時のようなきつさは感じられない。
 だったら、と俺は、カメラの目線を塞がぬ位置に移動してから、それを一気に引き抜いた。
「んあっ」
 ずぽっと、滑ったままに張り型が飛び出し、チューブを握った部分を支点にして大きく弧を描く。そのちょうど良いタイミングで手を離せば、狙い違わずカメラの近くの壁にぶち当たった。
 うまく編集すれば、リアン自身が息んで尻から吹き飛ばしたようにできるだろう。
「な、あっ……ぁっ」
 もっとも今のリアンは大きなものを一気に排泄した感触に、得も言われぬ感覚を味わったようで、呆然と仰け反っている。そのままがくりと崩れそうになった身体を抱きしめて、ほんの少し持ち上げて。
 手早く降ろしたジッパーの隙間から待ってましたとばかりに飛び出してきた、ペニスの上にずどんと降ろす。
「ひっ、やあぁぁぁぁっっっっ!!!」
 さっきまで開いていた穴は、準備万端の剛直を遮ることなどできなかった。
 何が起こったか判らぬままの衝撃に、リアンが今までにない悲鳴を上げる。硬直した身体は拒絶すら見せず、しっかりと深いところまでペニスを迎え入れた。
 狭い、けれど十分に広げておいた肉穴は、予想以上に心地よい。
 熱く滑り、乱暴な侵入者への攻撃のように蠢いている。
 だらりと垂れた肢体が、するりとスラックス越しに大腿に触れて、それを生で感じたいと切に願った。
「判るか?」
 あまりの至福感に声がくぐもる。その声音出、真正面を見据えたままのリアンに、耳たぶに噛みつきながら囁いた。
「こうやって、あいつらはてめぇの処女穴に入り込みたくってウズウズしてたんだよ。だから、足手まといになるはずのてめぇを連れて逃げた。せっかくのモリエール家からの貢ぎ物、捨てるには惜しいと思ってなあ」
「……ちが……」
 かろうじて、そう呟いたリアンが、けれどすぐに目を伏せてくっと喉の奥を鳴らした。
 俯むいて、垂れた前髪に両目が隠れている。
 それが惜しくて、顔が見たくて、ずんと腰をついてやれば、びくんっと顔が跳ね上がった。
「違わねえよ」
 引いて、突いて。
「んっ、ぐっ」
 そのたびに馴染んでいく肉の穴が、育ちきった俺のペニスに絡みつき、引き絞る。
 受けた衝撃は思った以上のようで、逃げようにもすでに四肢に力が入らないのか、なかされるがままだ。
 ただ、突き上げるたびに、押し出されるように声が漏れる。
「拡張せずに突っ込んで、裂けたら裂けたでそれで愉しむんだ。ああいう奴らは限度ってもんをしらねえからなあ、てめぇの身体のことなんか無視して、突きまくるんだ」
 教えてやった後、ぐんぐんと強く突いてから、問いかける。
「そんなふうにされたいってわけだろ? 腹ん中、破るぐらいに突きまくられて、性具として扱われて。モリエールに売られた貢ぎ物の末路、どれもが地獄の果てを見て死んじまったって噂だぜ。何せ、貢がれた時点で死人扱いだったって話だからなあ」
 多少誇張はしているが、それでも完全に嘘ではないと踏んでいる。火のないところに煙は立たないってやつだ。
「俺は……俺は……」
「知らないって言わせねえぜ、何よりあんたはあのモリエールの息子なんだからなあ」
 知っているからこそ、あの場所で俺にあんな愚痴を零したのだろうから。
 違う違うと何度も首を振る。
「違う? 違わねえだろ? こうやって、てめぇは残りの一生をこうやって尻穴で奉仕する運命だったんだよっ」
 それを判らせるために、否──はっきりと判らせたくて。
 俺は、後ろから何度も突き上げる。
 ヒイヒイと、慣れぬ身体にはきつい突き上げに、リアンの肢体には力が入っていない。
 突き上げれば身体が揺れて、乳首の分銅が激しく触れる。
 食い込んだクリップの歯は傷を作り、血を滲ませていく。
「ああ、貢ぎ物に選ばれただけあって、なかなか名器じゃねえか。これだったら、あのろくでもねえ連中も骨抜きになって、てめぇの親父の良いなりになっていたところだろなあ」
「い、ちがっ、あぁっ、うっ、あっ」
 リアンを責め立てるつもりの言葉ではあったが、けれど、少なくとも名器という言葉は真実だ。
 今まで数多の男を、合意にせよ無理矢理にせよ犯してきたが、その中の誰よりもしっくりと馴染んでくるのだ。
 突けば柔らかく受け止め、引けば絡みつき締め付ける。
 まるで熟練の娼婦のごとき技に、百戦錬磨じゃないだろうかと疑いたくなる。
 だが、未だ犯された衝撃から立ち直れていないリアンの瞳は信じたくなかった真実を突きつけられて、絶望に満ちたままだ。
 時折うわごとのように「違う」と呟き、けれど俺に突かれるがまま。
 巧みに前立腺を狙っているせいか、股間のそれは完全に勃起していて、感じていることも教えてくれる。
 その妙なる身体と絶望に満ちた表情と、流れる涙が、俺を高みへと引きずり上げる。
 すぐに手放すのが惜しいなんて、最近ではなかった欲望に、けれど身体の我慢は限界だ。
 何より、ここに至るまでの間にさんざん我慢させてきた欲望は、もう吐き出す気まんまんで。
 ぎりぎりまで引き抜き、
「やるよ、たっぷりと。淫乱の大好物をなっ」
 その言葉が終わるか終わらぬうちに、一気に突き上げる。
「んあぁぁぁぁ──っ」
 揺れた身体から涙と汗が飛び散った。
 汗に張り付いていた髪が宙を舞い、仰け反った身体の重みがかかるのを、全身で支えて。
 どくりどくりと欲望を吐き出すペニスを、まるで搾り取ろうかというように、リアンの肉が絡みついて。
「うっ、くっ……」
 鼓膜をくすぐるあえかな悲鳴の心地よさと射精の余韻に浸るまでもなく。
 新たに込み上げてきた情欲は激しく、腰がさらなる高みを求めて勝手に動き始めたのはすぐだった。