【DO-JYO-JI】番外SS(千里と中井) 【久しぶりの時間】

【DO-JYO-JI】番外SS(千里と中井) 【久しぶりの時間】

隠れ鬼書庫の「鳴神」にあるDO-JYO-JIの千里と中井の番外編になります。
二人が一緒に暮らし始めてから、もう三年後。
すっかり生活に慣れてしまった中井のお話、ワンシーンです。




 いきなりのことだった。
 それこそ、いきなり目の前に現れた、としか言いようが無かった。
 中井が今日、普段買い物に使用しないエキチカに、足を向けたのは気まぐれで。
 なのに、予想を遙かに超えた相手に出逢ってしまったという状況に、呆然と立ち尽くす。
 なんでここに? とか、帰ってくるのって明日じゃ……? どうして、ここが? とか。
 いや、ちょっと待て……。今日は、その、日付間違えたわけじゃ無いよな? あれ……?
 予想外の出来事に、言葉が出ず、ぐるぐると頭の中で数多の疑問が湧きまくる。ついでに、うっとうしいほどに心臓の鼓動も大きくて、頭の中もぼおっと熱くなり、ついでに息苦しさすら覚えてしまった。
 マジで?
 本物……?
「ただいま」
 見間違いかと思ったが、けれど確かにその声も姿も、よく知った相手そのもので。
 あたふたと、人通りのたいそう多い地下街の柱の前で、中井は必死になって状況を理解しようとしたのだけど。
「はあぁ……」
 結局、諦めた。
 ついでに暴れる熱を大きなため息と共に吐き出して、考えてもしようが無いこと全てを放棄して。
 どうせ、その気で千里が動けば、中井に予測など不可能なのだと結論づける。
 実際、どう否定しようとしても敏腕弁護士と名高い千里勝文が、アメリカ帰りの疲れなどちらりとも見せずにそこにいるのは事実なのだから。
「ため息でお出迎えとは……。残念だねぇ」
 ニコリと口元だけが笑う、温度の低い笑みにはもう慣れていた。それに、この程度ならまだそれほど機嫌を損ねていないと判っているからだ。
「あまりに予想外だったんで……でもま、おかえり」
 そのせいか、大人げないという自覚はあるけれど、なんとなくふてくされた気分のままに横を向いて答えてしまう。
 実際、中井の機嫌は良くない。
「明日って言ってませんでした? ……帰るの」
「一日早く片がついてね。フライトを取り直して帰ってきた。この駅で会えて良かったよ」
 拗ねた中井の内心の動きなどお見通しだとばかり、千里の空気が少しだけ柔らかくなるのを、ちらりと横目で見やる。
 初めて会ったその日から、千里に勝てた試しなど無い中井の行動など一目瞭然なのだろう。そのくらい、一緒に暮らした三年間は十分濃く、長い。
 過去も今も簡単に読まれるほどに成長しない自分が情けないけれど、こればかりはどうあがいても千里に勝てないことも、判りきった事実だ。
 はああ、と大きなため息で葛藤など吐き尽くして、中井は千里に向き直った。
「明日昼に帰るって聞いていたから、何の準備もできていないっすよ」
 今日こんな場違いなところに来たのも、帰国する千里のために料理の材料や酒でも揃えようかと思っただけで、まだ何も買ってはいないのだ。せっかく明日は帰ると同時に次の日まで休みだからってことだから、いろいろと考えてはいたのだけど。
 なんとなく悔しくて、でもそんなことは言えなくて、ただただブツブツと口ごもる。
 けれど、ふっと柔らかな笑みを零した千里が、トンと軽く中井の腕に触れた。
「構いませんよ。私は中井君と一緒にいられればそれで良い」
「!」
 思いがけず優しく響いた声音に思わず千里の顔を凝視すれば、甘く、優しい瞳が、中井を見つめていた。
「えっ……と、あの?」
「一ヶ月も、顔を合わせられなかった。生の声も聞けなかった。この肌の匂いを嗅げなかった。……そう、一ヶ月も……触れられなかった」
 ほんの少し距離が近づいて、記憶のある千里が好むオーデコロンの香りに体温が上がる。何より、囁かれた言葉の意味に、周りのざわめきが意識から消えていく。
 千里の吐く言葉は、誘いかけるように、懇願するかのように、甘く、静かに、小さく響くだけ。けれど、それと認識してしまえば、それらは中井に雁字搦めに絡みついて、毒のように身体の中を侵していく。
「寝ても覚めても、中井君のことを考えていた……。今どこにいるのか、何をしているのか。電話やメールだけでは物足りなかった。ビデオチャットも、あんなに可愛らしい姿を見ても……満足できるものではなかった」
「う……あ……」
 恥ずかしい姿をスクリーン越しに見せつけた時間を思い出す。
 言われるがままに、服を剥ぎ、身体を拓き、淫具で穴を犯して。声で責められ、昇りつめたその瞬間が過ぎても、確かに熱はずっと身体の中に残って、中井を苦しめた。
 あの苦しみを千里も味わってくれていたのなら……うれしい。
 知らずふわりと微笑んだ中井に、千里が笑みのままに足を進めた。
「一日でも早く、帰りたかった。この身体に、直接触れたかった……」
 一瞬近づいた声音が鼓膜を擽り、明らかな欲が脳髄まで一気に侵す。
「な……に……」
 千里の笑みを映した視界が目眩とともに狭まり、力の抜けた膝が崩れかけて、トンと背後の柱に身体を預けてしまう。
 なんだか頭の中がもやがかかったようになっている。喉が焼けて熱い。汗が噴き出し、身体がふわふわと浮かんでいるようだ。
「え……と」
「だから、もう待てないんだ」
 腕が掴まれた。
 力強い、中井を軽々と押さえつける手の指が二の腕に食い込んで痛みが走り、身体が引っ張られて、遅れて足が動き始める。
 千里からずれた視界に、明るい広告サインが入ってきて、不意に館内放送が脳まで届いて。
 ほんの少し晴れた意識が警告を発し、つられるようにここがエキチカだと思い出す。
 とたんに激しい羞恥を覚えたのは、自分が明らかに欲情していることに気がついたからだ。それが呼び水となって、失い欠けた理性を取り戻して。
 甘い毒をたっぷりと孕む千里の言葉に酔わされたのだと気付く前に、惑い無く先を進む千里が駅から離れていくのにも気がついた。
「あ、おいっ、どこへ?」
 待てない、と言いつつ、家への経路から離れる千里に、戸惑いも顕わに声をかければ、肩越しに振り返って、相変わらずの笑みのままに答えてくれる。
「もちろん、帰るよ」
「…………え、でも?」
「中井君に出会えたら、とにかく一刻も早く隅から隅まで虐めて味わい尽くしたいって思ったほどに、今はとっても飢えてるからね。電車なんかでゆっくり帰るなんてできないよ」
 にこりと笑う千里が向かったその先で。
「お疲れさまです」
 きっかりと腰を折った黒服が一人。3ナンバーの大きなベンツの横に立っている姿が妙に様になっている立派な体躯の男は、どこかで見た……なんて考えなくても覚えのある男だ。
 今は解散した弥栄組の最後の組長であった弥栄卓真(やさか たくま)の側近で、千里が顧問弁護士を務める会社で社長となった弥栄の専属秘書となった新居浜(にいはま)だった。紆余曲折はあったが、今は弥栄と新居浜は半同居生活をしている恋人同士になっている。
 けれど、その性格も態度も昔とたいして変わっていない。
「な、んで……」
 以前弥栄と仲が良すぎるほどに良かった中井を毛嫌いしている男がいることに、思わず指さし千里へと視線を向ければ、相変わらずの笑みを返される。
「会社のためにたっぷり仕事をしたからねぇ。これくらいしてもらったって良いよね」
 だったら園田(そのだ)さんを呼んでくれよ。
 内心で叫んでしまうほどに、中井の心の崇拝者たる園田であれば、どんな機嫌が悪くとも楽しく同乗できるのだけど。
 一番苦手な新居浜となると、それがたとえ単なる運転手であったとしても、躊躇ってしまう。
 けれど、千里に「早く」と促されてしまえば、抗うことなどできるはずもなく、乗り込むしかなかった。




 それでなくても無口な新居浜がそこにいるだけで、車の中の空気が重い。
「そんなに急いで帰んなくてもさあ……」
 吐息を零して、千里へとぼそぼそと呟いても、何が楽しいのか千里の機嫌はすこぶる良い。
 それどころか。
「言ったよね。早く触れたかったと」
 その言葉と共にするりと伸びてきた手がシャツの中に入り込んできた。
「ちょ、ちょっと!」
 肩に回された手が身動ぎすら封じ、目の前にきた千里の瞳が意味ありげに意図を伝えてくる。
 その予期せぬ行動に驚愕に見開いた瞳がじわりと朱を滲ませたけれど、視界の端に運転席の新居浜の後ろ姿があって、さあっと血の気が失せる感覚を覚えた。
 けれど同時に、下腹部からじわりと滲み上がる熱と疼きも自覚して、拒絶しようとする手に力が入らない。
「中井くん……」
 熱の籠もった吐息が唇に触れる。
「んくっ」
 シャツの上から入り込んだ手を押さえるけれど、慣れたそれは戸惑うこと無く胸まで潜り込んで。
「あっ……やっ……」
 ちりっとした痛みが走ると同時に、ぞわりとした疼きに口内に唾液が溢れた。
 身につけていたアクセサリーが微かな金属音を立てて、耳からも快感を感じて身体にまとわりついた。
「舌を出して」
 誘われるようにその言葉に従った舌に、千里のそれが絡みつき吸い上げられて、喉の奥から強くなる疼きに抗う力が抜けていく。
「もう、我慢できないんだ……」
 唾液が糸を引く距離で、千里が楽しげに囁く。
「電車の中で遊ぶのも面白いかと思ったけど、触るだけで済まないと思ったんでね」
 肩に回った手が中井の顎をとらえ、さらに深く舌が吸い上げられた。
 飢えた蛇が捕らえた獲物を喰らい尽くすまで離さないのは経験上判っているからこそ、虚ろに聞こえた言葉が示すのは真実だと気がついて小さく首を振る。つい逃げようとした身体はそんな暇も無くさらに深く絡め取られ、押さえつけられた。
「ん、んんっ」
 柔らかく沈むシートに押しつけられ、巧みな熱い舌に中井のそれも引きずり出され、痛みを覚えるほどに歯を立てられとたんに、体内奥深くにわだかまっていた熱が全身への奔流となった。
 わずかに残る意識が放つ抗議の声は千里の口内に吸い込まれ、巧みな愛撫に言葉どころか意識まで絡みとられて封じられた。
 もとより、中井の身体は千里の手によって徹底的に開発されている。
 慣れた手で服の上から撫でられただけでも痙攣するようにびくびくと震え、乗り上げた千里の足で押された股間がじわりと涎を溢れさせた。広い車内の後部座席は中井の身体が横倒しになれる広さがあって、けれど逃げられるほどには広くない。
 崩れた身体にさらに体重をかけられて、潤んだ視線の先で赤い舌が薄い唇を舐めるのを見て取ったとたんに、悪寒のような震えが背筋を這い上がった。
 ビリリと痺れるような感覚に、全身が茹だってしまう。
「せ、んり……さ……」
「ふふっ……良い顔だ……」
 飢えている、と千里は言った。
 生理的に溢れた涙で歪む視界に千里の端正な顔があるけれど。
 いつも冷静で落ち着いている表情を見せる彼が、今は明らかな飢えを隠そうともしていない。肌に触れる熱は紛れもなく、動きは性急ささえ見せて中井を欲していた。
 そのことに、中井も煽られる。
 今この場所のことが頭に過ぎったとしても、けれど完全に拒絶できないのは、別に千里にそう躾けられているからだけではなかった。
 欲しいのだ。
 千里が飢えている以上に、中井の飢えも激しいのだ。
 エキチカで、甘い言葉だけで理性を飛ばしかけたほどに。
 キス一つで、不満も逆らう気力も矜持も何もかも吹っ飛んで、続く濃厚なキスと千里の熱と匂いに酔いしれる。
 きっと、今宵はむちゃくちゃに抱かれるのだろうと、僅かに残った理性で予想はできたけれど。
 きっと全てが終わった後にはこの身体はひどいことになっていると判っていても。
 それでも良いのだと思っているのだから、もうどうしようもない。
 知らず、けれどどこか期待を孕んで開いた足の間に、千里の身体が入り込む。
 膨れ上がった股間に千里のそれが押しつけられて、互いが腰を激しく押し付け合い、全身で快感を貪り合った。
「中井君……あなたも連れて行けば良かった、と何度思ったことか。淫乱で、マゾで……。いつだって浅ましい声で強請る姿を想像するのは容易かったが、やっぱり直接その声を聞けないというのは面白くなかったよ。ええ、家とは違うホテルという場所で緊縛したら、どんなに羞恥に震えて怯えてくれるだろうか、と、そんなことばかりずっと想像して……」
 どこか冷酷ささえ滲ませる声音で揶揄されても、何より冷たさの中にある熱こそが千里の本音なのだということをもう知っていた。
 一ヶ月の海外出張は、内容は知らなくてもとても重要な仕事で、中井がついて行けないのは当たり前のことだったから、中井だって行くつもりは毛頭無かった。
 けれど、頭では理解していて、感情でも付いていかない方が良いと判っていても。
 離れる間のために、出発の直前まで意識が飛ぶほどにこの身体を太い千里の肉で穿たれ、溢れるほどに注がれて、数多の約束とともに残されることを受け入れて、なお。
 そうでもしないと飢えるだろうと、一緒に暮らし始めてからの三年の間に自覚していたのだけど、それでも足りなかった。
 そして、千里も足りなかったのだろう。
「俺……ちゃんと、待ってた…ぜ…」
「ええ、約束を守ってくれてたよね。だから……成功裏で終わったよ。これで当分足を運ぶ必要はないはずだ」
 一日一度以上のメールと電話、写真を撮り、玩具で遊ぶ様も動画に撮って送っていた。
 ビデオチャットで模擬セックスをして、命令されるがままに玩具で遊んだことも報告している。
 本当は、そんなことしない、と逆らってやろうと思うことも多々あったけれど、実際にはその全てに従っていた。
 中井は千里に逆らえない。
 逆らってはいけないと植え付けられたモノは、もう中井の根幹の部分にまで根を伸ばして、決して抜けるものではない。
 何より、中井自身もそれで良いのだと、抜くことをすでに放棄しているのも事実だった。
「んあっ……ダメだ……うわっ……」
 素肌に触れる冷たい手のひらに、身体の熱が冷めるどころか煽られる。ずっと触れて欲しかったと、飢えはさらに増して、感じる快感に髪を振り乱し、伸ばした手で引き寄せようと弱々しく肩を掴む。
 乳首を飾るピアスを軽く爪弾かれるだけで、腰がガクガクと揺れた。
 あられもなく開いた股間の布は、もうはっきりと染みを作っている。
「中井君、浮気はしていないよね?」
「し、してないっ、んぁ……そこっ、ダメっ、もう、イクっ」
「おやおや、まだ乳首を虐めているだけなのに、ダメだよ、勝手に言ったらお仕置きだよ」
 その言葉に、ぞくりと背筋が泡立ち、全身がガクガクとに震える。
「ぁ、ぁ……あぁ……」
 半ば白目を剥き、だらりと口角から舌が零れた。
 言葉だけで、絶頂を迎えた身体は、もう制御などできるものではなかった。
 じわりと広がっていく股間の染みに、布越しでも気付いた千里が口角を上げた。
「おやおや、言ったそばから」
 くすくすと楽しげに笑う千里が、ゆっくりと身体を起こした。
「帰ったらお仕置きだね。中井君、お仕置きされるのが大好きだもんねぇ」
 ねっとりと絡みつくように視線を這わせてから、千里は中井の身体を抱き起こした。
「……中井くんのために……特別の部屋で、たっぷりお仕置きしてあげるよ」
「や……ゆるし……て……」
 尽きぬ責めが堪らなくて、啜り泣くように力の入らない声音で懇願したその時。
「着きました」
 押し殺したような、けれどはっきりとした声音が前方から響いた。
 



 一瞬、何が起きたか判らなかったせいで中井の頭の中が空白になり。けれど次の瞬間、状況を把握して全身が一気に真っ赤に染まる。
「う、あ……あのっ、そのっ……あぅっ……」
 それは、欲に茹だった紅潮よりさらに激しく、全身から厭な汗が噴き出るほどで。まともに言葉を発することなどできないままにガクガクと機械仕掛けのように視線を声の主へと向けた。
 いつの間にか停められた車の運転席で、意識から消えていた新居浜が憮然とした様子で前方を見据えている。
 一体どのくらい悶えていたというのか、頭の中に道中の記憶はピンク色のそれしかない。
 シートに横たわったままに硬直した中井を横目に、身体を起こした千里が薄く笑い、ちらりと新居浜の方を見やった。
「ごくろうさま。後は自分で運ぶから、弥栄氏のところに行っていただいて結構ですよ」
 意味ありげな、どこか嘲笑がまざる声音に違和感を感じ、中井の目が千里へと、ついで新居浜へと向いた。
「ひっ」
 その横顔に浮かぶ確かな怒りと、瞳の奥に浮かぶ熱に喉の奥が小さく鳴る。
 その拍子に硬直も解けて、慌てて身体を起こしてドアの外へと転げ出た。股間の布が張り付いて気持ち悪いけれど、そんなことを言ってられない。
 新居浜と弥栄はお互いが攻撃的で、どっちも攻め気質で、しかもそれぞれにサドっ気があるという話もあって。
 朝方にどちらかアザを作っていたら、やった日だとか、どっちが負けたとか……。
 そんな新居浜を煽って、どうするつもりなのか。
 絶対に何か企んだのだと、千里の性格を知り尽くしている中井には判ってしまったけれど、だからと言って、何か言えるものでもない。
「さあ、早く部屋に行って楽しい続きをしようね」
 ドアが閉まったとたんに車が急発進して去っていくのを呆然と見送りながら、嬉々とした千里に引きずられていく。
「あ、の……なんで、あんな……」
 それでも好奇心が勝って、恐る恐る問えば、にっこりと深い笑みで返される。
「私から一ヶ月も中井君を引き離したんですからねぇ……ちょっしたお返しくらい良いと思うでしょ?」
 小さな呟きが聞こえた時、中井は開きかけた口を閉じた。
 あの様子で部屋に帰った新居浜が、どんな行動を取るかなんて、想像に難くない。
 今は何も言うまい、と考える程度には、中井にも知恵はついていたけれど。
「さあ、一ヶ月分愉しみましょう」
 どちらにしてもやることはこっちも一緒なんだろうなあ、と想像して。
 けれど、あっちとは違うのは、少なくとも中井はこれを受け入れてしまってるということだ。
 そんなことを自覚できるほどにはもう慣れてしまった状態は、けれどもう決して不快な物ではなくて。
 部屋に辿り着くより先に中井の身体は再び熱く疼きだしていた。

【了】