良い子-1

良い子-1

「おいで」
 にこりと、柔和な笑みを見せながらの組織のボスである壮齢の男の言葉に、まだ若い、20才そこそこにしか見えない青年は、こくりと息を飲み。端正な顔が血の気を失い、怯えたように視線が惑っていた。
 ダークスーツを纏ったスリムな身体が明らかに震えているのを、男は見て取り。——おかしそうに笑う。
「来ないのかい?」
 来ないのなら、それはそれで。
 言外に込めたその意思を瞳に込めて、考えるように指先をあごに当てた。
 彼がそれほど愚かではないことは重々承知していて、煽るように視線を傍らの携帯電話に向ける。
 その動きがソファに深々と座った男の背後にある夜景を見通す窓に映っていた。
 最高層にあるこの階は、男にとっては己の地位を示すものであり。
 青年にとって、たった一つのドアを塞がれてしまった今は、牢獄のようなものだった。
 けれど、男が電話をかければそのドアは開くだろう。青年の望まぬ最悪の結末を伴って、だ。
 それを示す動きに、青年は逆らえない。
 震える足が、躊躇いがちに男へと向かう。
 細く長い足の歩幅は、本来ならもっと広いだろうけれど、今は幼子が歩いているようにひどく狭い。
 たかだか5メートルほどのその距離に、戸惑いあるくその動きは、時間ばかりがかかって。
「私は、そんなに気が長くないのだがね」
 笑って呟いた男の手が、携帯を握ったとたん。
 速まった足が、数歩で届く。
「良い子だ」
 くつくつと喉の奥で笑う男の視線が、下から煽るように青年を見つめる。
「そう……良い子の望みはいつだって叶えてあげるようにしているからね」
 少しだけ上げた指先をくいっと下ろす。
 その動きにつられたように息を吐いた青年が、かくりと膝を崩した。
 目の前で跪いて首を垂れる青年は、今や男の言いなりだった。指先一つでその意図を読み取るだけの賢さが、さらに彼を追い詰めていた。
「おまえの望みは、何だっけ?」
 指先が、クリームのように淡い金の髪をすくい上げ、もてあそぶ。指先に絡んだ金糸をくいっと引っ張れば、ぷつりと小気味よい感触とともに数本が引き抜かれた。
 きらきらと電灯の灯りにきらめくそれを持ち上げ、軽く口づける。
「…テリー、を……おと、うとを……助けて……くだ、さい……」
 震える声音も、ずいぶんと耳に良く馴染む。
 その声は、一体どんなふうに啼くのだろう。と、期待に高まる心境を押さえつけ、平静な顔を見せるのは男にとってはもう癖のようなものだ。
「そうだったね。そう……良い子の願いをかなえるのは……とても簡単なことだ」
 よくある話だ。
 一等地にあった店の持ち主が何故か一家離散に追いやられて。
 運良く格安で手に入れた土地が、高額で取引されて組織を潤すことなど。
 ただ、その家族には男色を好む輩を相手にさせるのにたいそう適した少年がいて、ついでにいえば兄の方の容姿が、ボスの好みに合致していたというだけで。
 だから、兄が弟だけは救いたいとその身を差し出すことなど、ほんとうに良くあることなのだ。
「そうだね、あのハイスクールの寮に入ると良いだろう。お堅い学校だが……その分、寮のセキュリティーも強固だ。変な輩につきまとわり、乱暴されたりすることもないだろうしね」
 組織の手が、その経営者一族にまで及んでいるのは、誰にも知られていないけれど。
「費用の点は、気にしないで良いよ」
「……おねがい、します……」
 震える声で、その決意が窺える返答に、男は満足げに頷いた。
「良い子だね。そうだ、良い子には私自身で名前をつけることにしているんだよ。私は自分の傍に置く者は、全部自分の好みでそろえたいから」
 容姿、才能、服装ははもちろんのこと、名前だってそうだ。
 言い換えれば、ボスが名付け親となった者は、ボスのお気に入りだと、それだけで周知徹底される。そのお気に入りに手を出せばどんなことになるか、過去いくつもの事例があり、そしてその結末はその業界ではたいそう有名であって。
 側近の数人、愛人の一人、そしてペットであっても。
 今では、誰も手を出さない。
 身体にびったりとフィットした、男と同じブランドは、青年の身体にもよく合っている。
 髪型も、ここに連れてくる前にボスの好みにカットさせた。
 その間に、男の自慢の側近は、ボスの性格を事細かに青年に伝えているだろう。
 気に入らなくなれば、それの未来すらなくなるということを。良い子でなくなれば、願いはその瞬間、破られる。
 だからこそ怯え、だからこそ、必死に従おうとする。
 その心境が手に取るように判ってしまうことも、また愉しい。
「うん、決めた。おまえの名前は、ココだ」
「え……」
 思わず跳ね上がった顔の、見開いた瞳に手のひらをかざす。
「気に入らないかな?」
「あ、……いえ……ありがとうございます」
 ココはメス猫によくつけられる名前で、女名だ。実際男の愛人が昔飼っていたメス猫もココだった。
 青年の髪と薄い青の瞳が、その猫の美しい毛並みと気の強そうだった瞳を連想させたのだが、思いついたらもうその名が気に入ってしまったのだ。
 猫に似た美しい毛並みが乱れ、夜空に遠くまで響く鳴き声のように、感極まった時に放たれる声はたいそう美しいだろう。
 月夜が似合う透き通るような瞳が美しく泣き濡れる様はどんなものだろう。
 いや、何よりも。
 今は服に包まれたその身体が余分な脂肪など無く、瑞々しい肌を持つことを、先の調査で知っているからこそ、そのしなやかな身体が跳ねる様を想像しただけで、機嫌はますます良くなって。
「ココ、おまえに服は必要ない。全部脱ぎなさい」
 にこにこと満足げに頷きながら言い放った言葉に、青年——ココが大きく目を見開く。次いで、その表情が歪んでいく。
 その、絶望へと至る過程はあまりにもはかなげで美しく。
 なぜその変化が取れるようにカメラに向けていなかったのか、と、後から確認した映像を見ながら、後々まで後悔するはめになったのだった。


「舐めなさい」
 どんな言葉にもココは逆らわない。
 戸惑い、躊躇い、嫌悪の表情を浮かべ、悪寒に総毛立っていても。
 明らかな拒絶が垣間見えても、それをねじ伏せてココは従う。
 衣服を取り払って露わになった肌は、最近の心労からか少しざらついてはいるが、元の素質が良いからすぐに瑞々しさを取り戻すだろう。手を床について、四つん這いになった姿の背から尻にかけての滑らかな曲線はひどくなまめかしく、男の視線を引きつけた。
 その白い肌に、いくつもの淫靡な痕を残したいと、むしゃぶりつきたい欲求が男を駆り立てる。
 ためらい動く手の動きにつられて肩胛骨がぐりっと盛り上がっていて、その盛り上がりに噛みつきたいと口内に涎がじゅるりとこみ上げた。
 頭が持ち上げられ、恐怖に満ちた表情が垣間見える。
 小さく開かれた唇の隙間から舌先が覗き、前立ての隙間から取り出してやった萎えたペニス近づいた顔が歪み、強ばっていても。それでも嫌だと言わないココに、嗜虐心に火が点いていた。
 それが大きく燃え立つ前に押さえつけているのは、簡単に壊してしまう方が面白くないからだ。
 ただ、宥めるように頭頂部に手を当てて。けれど、とっさに後退しようとした動きは封止して。
 諦めたように小さく零れた吐息が先端をくすぐり、その感触にざわりと全身の肌が妙なる快感に総毛立つ。
 知らず熱の籠もった吐息を吐き出して、嗤った。
 ココの肌もまた総毛立っているけれど、その肌は冷たく冷え切っている。表面上の反応は一緒でも、その心境は正反対だというのも面白い。
 男の今宵の時間は新しく手に入れたこの子のために取っていたから、待つ時間も楽しめる。
 急かすこと無くじっと待っていると、とうとう諦めたようにココの顔が動いて。
 ちろ……。
 滑った舌先は冷え切っていた。
 だが、だからこそ、ぞわりと激しい快感が背筋を駆け上がる。
 とたんに、むくむくと建ちあがった
 触れただけですぐに離れたそれ。
 思い切ったはずなのに、二度目が続けられない苦痛に満ちた表情を堪能するのは、噴き出したいほどに愉快だ。
 深い笑みに彩られた表情を、ココは知るよしも無く、ただ視線をペニスに固定して、全身を硬直させている。
「ああ、堪え性のないペニスで申し訳ないね」
 隠し通せるはずもないのが、男という種の性欲だ。
 押さえつけてはいたけれど、触覚と視覚、それに想像まで加わっては、その欲を押さえきれるものではない。まして、男の性欲は人並み以上であって、しかもお気に入りとなりそうなココが示した可愛い反応に、彼のペニスが反応しないわけがないのだ。
「自慢でもないが……、私のこれはたいそう大きいらしいね。これを一度受け入れると、他のモノでは物足りなくなると皆が喜んでくれるんだよ。ココもきっとこれが大のお気に入りになるだろうね」
 くすくすと零れる笑みに重なる声音はひどく優しい。
 けれど、それを凌駕するほどに禍々しさをもっているのが彼のペニスだった。
 それは、人並みはあるはずのココのペニスがささやかに見えるほどに太く、長い。壮年であればそれほどでないはずの角度も、筋肉質な腹を打つほどに反り返っていて、へそまで軽く届くほどだ。加えて男のそれはひどく固かった。
 混じっている東洋の血がなした固さは、その太さと相まって、過去まだ下っ端だったころに裏切り者の制裁に使われたことがあって。
 慣らしもせずにぶち込めば、たいていアナルを壊してしまうのだ。
 カチカチと小さな音が鳴り響く。
 小刻みに震える唇に、そっと触れてもそれは止まらない。
 蒼白な面持ちでじっとペニスを見つめるココは、もう男の声すら届いていないのだろう。
「ココ……ココ!」
 ペシッと軽くその頬を張って、正気を戻させる。
「ココ、さっきも言ったけれど、私はあまり気が長くないんだよ」
 ちらりと携帯に視線をやるのを、ココが呆然と見上げているのを確認しながら言い放った。


 ぐちゅ、ぶちゅ、じゅる……。
「そうだよ……しっかりと濡らさないと、ね」
 大きく開かれた口に歪に膨らむ頬を指先でなぞる。
 太さもあるが長さもあるそれをすべて銜えることは無理で、ココは何度も出し入れを繰り返し、根元の陰毛が茂ったところまで舌先で舐め上げては、また先端を銜えていた。
 歯をあてられたら痛いのだと、教え込むために尻をプラスチックのサシで何度も叩いていたから、もう両方ともに赤く腫れているほどだけど。
 さすがに今は歯をあてることは無くなった。
 躾は最初が肝心だと、そこだけは手を抜くことはなかったからだが。
 涙に濡れた頬から、あごから、床に滴った液体が大きく広がっていた。もう何十分も四つん這いの姿勢をとり続けているからか、腕ががくがくと痙攣していてたいそう辛そうだ。
「まあ、最初だからねえ」
 躾が肝心とはいえ、それでも甘くなるのは最初だからか。
 たいそう保ちの良い男のペニスを射精させるのは、玄人でも大変なのだから、素人同然のココであればそう簡単なモノでは無い。
「おいで」
 あごを指先で掴み、口からペニスを取り出して。
 力無く開きっぱなしの口からだらりと舌先が伸びて、涎がみっともなく滴っていた。
 ぜいぜいと荒い吐息を吐き出して、あごを引かれるままにゆらりと膝立ちになる。
 どこか呆然としたココと視線を至近距離で合わせ、その瞳から脳裏にまで刻みつけるように囁きかける。
「ココ、私が欲しいものが判るかい?」
「……う……」
 その言葉に、瞳がゆらりと力無く揺らぐ。
 ついで視線がすっと下に降りて。
 それは、まさに正確な答えをココが把握している証拠だった。
 怯えたように震えたそれが、また元に戻ってくるのを待ってから、男は言葉を継いだ。
「だったら、ココ?」
 にこりと安心させるように笑いかける。
「ココは私にどうして欲しいかな? それくらいは希望を聞いてあげられるよ」
 ぱちくりと瞬くその表情が見せた疑問に対する答えは簡潔だ。
「処女喪失は痛みぱかりが良いか、快感込みが良いか……、ココはどっちが好みかな?」
 言葉ともに腰を突き出し、手を添えて前に向けたペニスで、ココのペニスを突く。
 その萎びたココのものと比べても何倍も大きな凶器を、ココはまたしたも見てしまい。
「あ、……やっ……」
 がくがくと震えだして逃げようと後退した身体を捕らえて。
「さあ、選ばせてあげよう。ココはどちらが好きなのか?」
 痛みで快感を味わう質では無いことは、先ほどのスパンキングで判っていた。まして、この恐怖に震えて萎えさせたペニスを見れば、一目瞭然だろう。
 それほど待つことも無く、ココが反応した。
「お、お願い、しますっ、快感を、快感をくださいっ」
 もう避けられない運命ならば、人は少しでも楽な方を選ぶ。
 当然のココの回答に、男は頷き。
「だったらどうすれば良いと思う?」
 促すのは、ココへの新たな強要。
「ココが望むことをしてあげよう。でも時間がかかるようなら、私は我慢できなくて暴発してしまうかもしれないね」
 ココの献身的なフェラと可愛い反応に、すでに先走りさえ滲み出ている状況だ。
 ぬるりとした先端を、薄く平たい腹に擦りつけて、その滑らかな感触を愉しむ。
「まあ、暴発したとしても、もともと一回で満足する質では無いから、何度でも愉しませてあげられるけれど。でも、そんな恥ずかしい真似をご主人様にさせるような子は悪い子だよねぇ?」
 悪い子。
 そこを特に強調してやれば、ココがぎゅっと口元に力を込めた。
 男が欲するのは良い子だけ。
 お気に入りで無ければ、ココの本当の願いは叶わない。
「どうか……お願いします……。わ、私のお、お尻の……穴を広げて……」
 あごから手を離したとたんに崩れ落ちる身体。
 それがぺたりと背後に手をついて、ゆるゆると、時間をかけて股を開く。
「広げて……痛くないようにして……くださ……」
 羞恥に全身を真っ赤に染めて、開いた股間の奥で見え隠れする淡い色に染まった場所。
 処女であるそこは、指一本ですら受け入れたことなどないだろう。
 固く閉じたその場所に、男の凶器を痛み無く受け入れることなどとうてい無理なはずだったけれど。
「良い子のココにもっと上手なおねだりの仕方を教えてあげよう」
 舌なめずりをしながらの言葉に、ココはもう逆らえない。
 恐怖と絶対的な服従——人を扱うことにおいて百戦錬磨の男の手の上にのせられたココは、従うことしか出来ない。
「こ、ココの、マンコ……を、ぐちゃぐちゃになるまで、弄って広げて、くださ……い」
 言われた通りの言葉と、示された通りの態度で。
 床に背をつけて足をM字で開脚し、尻タブを両手で掴んで、隠れたそこを男の目にさらして。
 何度も何度も訴える。
「ご、主人様……の指とオモチャで、いっぱい……広げて……」
 羞恥に彩られた肌は美しく、切実なる訴えはあまりにも淫靡で。
「それから、ど、どうか、コ、コのマンコがチンポ、大好きになるまでっ、く、ださっい……ご主人様のっ、チンポをっ」
 舌っ足らずの懇願でも、ついつい許してしまったのは、仕方の無いことだった。


続く